●2002年4月号報告書●


共存を呼びかける台風氏に冷ややかな眼差しを向けるナイブズ。
「気付けヴァッシュ、この現実そのものがゆがみきっているんだ。俺はそれをただす。
不完全な者たちは互いに殺しあうだろう、それならば所詮やつらもその程度の種だということだ」
なんとなく、聖書の中の神が人に与える「試み」が意識されているのかなぁと思うことしばし。
(聖書の中での試みは人間の種としての強さを測るものではなくて、神への信仰心を試すものだったはずだから、同じとはいえないかもしれないけど、なんとなくニュアンスが)

一方、地上には憲兵軍の屍が累々と折り重なる只中に佇む「ダブルファング」の姿がありました。
その姿を眺めながら牧師がポツリと呟きます。
「えらい変わり様やな・・・泣き虫リヴィオ・・・」
「あなたの姿だって孤児院の皆がみたら己が眼を疑うでしょう」

このやりとり、何気ないんだけどツボにはまりました。
大男で強面、冷酷無情とも思える怪力の持ち主「ダブルファング」も牧師にとっては「泣き虫リヴィオ」なんだなぁと。
予想に違わず彼は牧師と同じ孤児院の出身者でした。しかも牧師に対して敬語つかってるとこみると年下です。他人行儀なのはワザとっぽいです。
彼も牧師のこと「ニコ兄」って呼んでたんかしらん・・・。
この2人の会話から垣間見えるのは、彼等のいた教会の優しく平和な空気。
孤児であった彼等にとってそこは故郷でもあり「家」でもあり、生活を共にしてきた仲間は家族のような存在だったんじゃないかと思うのです。
きっとお互いにこんなところで会いたくはなかっただろうなぁ。

「仮初めであっても故郷は大事か!!・・・感謝して貰わぬとな」
じい様に言われ、間髪いれずに「黙れ!」と叫ぶ牧師。
「やはりそれか、貴様の反逆の理由・・・"あの場所"がワシの手の内にある事、よほど我慢ならなかったようだな。」

表向きは教会の慈善事業としての孤児院。
裏に回れば教会の裏組織への人材登用の前線基地。(・・・ああ、やっぱり(T_T)こんな予想ばかり当たっても嬉しくないです…)
しかもじい様の口ぶりからみるに、そのことによってそこに暮らす彼らは保護されていたみたいです。
ただし孤児院で直接孤児たちの面倒を見ている人間にはそのことは知らされていない。
その方が都合がいいこともあると、うそぶくじい様。
牧師が教団の裏組織に反旗を翻すまでのプロセスを思うと、哀しくもなるし切なくもなります。
裏事情を知った牧師はきっと孤児院で面倒をみてくれたおばさんたちのことも、疑いたくはなくても疑ってしまう瞬間があったと思うし。
それを考えると「その部分では救いがあったね」と単純には言えないような気がして。
(もちろん逆だったら救いがなさすぎですが)

じい様の発言は結果として牧師の怒りを煽ることになります。
「この・・・・外道が!」
言って、パニッシャーをじい様向けて構えようとした牧師の前にリヴィオが立ちはだかります。
完全に頭に血が上ってる牧師は実力行使でリヴィオをどかせようとして、逆にじい様のお供の皆様に取り押さえられてしまいます。
血の気が多いようにみえて、普段滅多なことでは感情を行動に直結させることはしない牧師。
(台風氏が相方だとドタバタしてること多いけど、感情にまかせての行動はほとんどないんだよね。)
それだけ我慢ならなかったってことでしょうか。
やはりあの場所は彼にとって他の何にも替え難く特別な所なんですね。
「・・・・・・俺は、常に監視されているんです」
誰からとか、何のためにとか、肝心な部分は言ってくれませんが、どことなく哀しそうなどことなくあきらめているような呟きがリヴィオの口から洩れます。

そしてナイブズの計画が実行に移される時がきました。
彼の考えた、人間が人間同士で潰しあい滅ぼしあう人類粛清計画。
それは各地に散らばるプラントを強制的に回収することでした。
衛星を破壊されまともな通信手段もない状態でプラントを奪われた人々は飢えと乾きの中でわずかに 残った水や食料を巡って諍いを起こし殺し合い、そうして一時を生き延びたものも、襲いくる砂漠の 星の熱と乾きの上で為す術もなく干からびていく―――――
この乾いた星の上で生きる人々が、いかにプラントに頼りきっていたかということが浮き彫りになっていくこの展開。
あまりの辛辣さに思わず唸ってしまいました。

う〜ん、これは予想できなかった。しかも恐ろしく暗示的。
この展開について「この星の人々はプラントを奪われたら全部ダメになるくらいプラントにのみ頼り切っていたのか。
プラントに変わる何かを自分たちの手で作ろうとはしなかったのか」という疑問を投げかけている方がいました。
そこまで人は愚かではないだろうと。
多分、私が思うにそうやって努力している人もいるはずだと思うのです。
井戸を掘ったり畑を耕したり、木の苗を植えたり、はたまた新しい装置を開発したりと・・・。
ただ、目の前にプログラム次第で何でも生み出してくれる魔法のような装置があるというのに、 出る望みがあるのかないのか分からない水を求めて井戸を掘る人間がどれだけいるか、という ことだと思うのです。
ましてやこの星の上に放り出された当初、そんなあてどないものに時間を費やすだけの余裕を人々は持ち合わせては いなかったはず。とりあえず今日を生きるための水、明日を乗り切るための食料を手にいれることが先決だったのでは ないでしょうか。
プラントはそういった要求を満たすのにはうってつけの存在なわけです。
井戸を掘る労も、畑を耕す労もなくして確実に水と食料を手に入れる手段を予め手にしていたところに、この星に たどりついた人々の幸運があったとも言えますが、裏を返せばそれは自己開発の機会を狭めることにもなったんかなぁ って思ったりして。

便利さや快適さに慣れてしまうと人はいつしかそれが当たり前と思うようになる。
それは携帯電話やパソコンなんかと同じ感覚かもしれないなぁと。
いつか「死」んでしまうことが分かっているにも関わらず、便利で都合がいいからとプラントに頼りきって社会を 成り立たせていたこの星の人々は、枯渇する資源を知りつつ、なかなか生き方を変えられない私達の姿の投影といえるのかも。

「方舟」が各地を回り、プラントを回収していくさまは実に淡々と描かれています。
一体世界がどうなってしまっているのか。どれくらいの人々が今生き残っているのかについては一切触れず、 断片的な事実の羅列といった感じで、今まで物語全体を俯瞰して事態を把握していた私達読者を、 物語の世界の一住人の視点のレベルに引き込んでいるように思われます。

1人座し、物思わしげな牧師。咥えていた煙草をフイに何か突き上げてきた衝動を堪えるかのようにキツく噛み締め、 噛み切られた煙草の先端が床へとこぼれ落ちていきます。

吹き荒れる粛清の嵐の激しさとは対象的に次第に静まっていく世界。
全てが元あるところへ還るように、この渇いた星は人間が辿り着く前の姿へと確実に近づいていきます。
そして計画の発動から7ヶ月後――――――
人気のない砂漠をトマに乗って渡っていく人影が二つ。
その人影はやがてある場所へと辿りつきます。
出迎えたのは台風氏の故郷SHIPの住人であるルイーダさん。
「お帰りなさい。よくぞ無事でいてくれましたね。お二人とも」
そう言われて目深にかぶったフードを脱いだのは、保険屋コンビのメリルとミリィでした。
台風氏と別れてからその動向はナゾに包まれたままだった二人の再登場。
変わらず囚われの身である台風氏や自由に動けない牧師の変わりに、彼女たちが何をなすのか。
期待と不安を胸に次号へと続くのであります。



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