迷迭香

僕はダンピールとして産まれた。


今日という日まで、普通の人間と変わらぬ生活を送ってきた。

この世に生を受けて20年目…流行り病で多くの人間が死んだ。

そして僕もまた、命を失った。

僕の家は裕福なほうだったが、僕の葬式はひっそりと執り行われた。

神父と喪服を着た数人の大人たちが、僕の棺に向かって黙祷を捧げている。

すすり泣きが聞こえる。

神父が何か言葉を口にした後、一人の婦人が僕の棺に歩み寄った。

彼女は棺の前に屈むと、周りの人には聞こえないような小さな声で、僕に何か囁いた。

立ち上がると、彼女は棺の上に何かを投げ落とした。


小さな花がついた小枝。


それが放つ香りは、棺の中の僕にも届いた。

海のしずく…ローズマリーの小枝。

花言葉は追憶…思い出…。


もう少しだけこの香りに包まれて眠ろう。

太陽が眠り、闇が世界を包み込む夜が来るまで…。


一応コメント:
吸血鬼が主人公の話を作ったことがあったので、そのプロローグとして書いてみました。
迷迭香=ローズマリーは教会で香として焚いたり、棺のうえに投げ落としたりした…ってのが
本に載ってたので。
ちなみにダンピールってのは吸血鬼と人間のハーフで、死ぬと吸血鬼になるって言われてます。

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