今度あなたに会えたなら、どんな顔をしたらいいのかと。
何を言ったらいいのかと。
ずっと考えていました。
差し伸べられたあなたの手を、あなたの謝罪を拒んだあの日から。
世界の秩序が崩壊して、色々なものが狂いはじめて。
あなたと共にいたあの頃よりも、世界は痛みと絶望の色を濃くしているのだけれど。
この様をあなたもどこかで見ていて心を痛めているのだろうと。
優しいあなたのことだから、きっとそうに違いない、なんて思いながら。
街を回れば、あなたの噂話はまだそこかしこに生きていて。
「赤いコートの死神を見た」
「災厄の影をみた」
「あれから碌なことがない」
・・・・・・・相変わらずな評価の方が多かったけど、それに紛れて別の声も聞こえました。
「思っていたより普通の人間だった」
「バカみたいなお人よしで」
「損な生き方してる奴だった」
ああ、あなたは変わらない人なのだと思わずにはいられなかった。
もしも再び会えたなら、私はどんな顔をすればいいのでしょう?
何を言えばいいのでしょう?
あなたに会いたい、と思う心に偽りはないけれど、同時に会うことを恐れてもいた。
あなたから感じた巨大な力を、思い出すと今でもまだ体が震えることがある。
そしてホンの一瞬閃いた考え。アナタと彼が共に倒れたとしたら――――――――と。
それで世界が救われるなら、と。本当にホンの一瞬だけなのだけれど。
卑怯な打算を抱いたことが後ろめたくて、あなたの顔をまともに見られる自信もなくて。
だからずっと怖かった。
私自身の臆病さが、あなたの傷を深くするかもしれない。
生きていて欲しくて、変わらずにいて欲しくて。
でも世界も自分も、もう昔のままには戻れないところまできてしまっていて。
今更、変わらない何かを求めるのは無理なのだろうということも分かっていたから。
でも。
視界をよぎった赤いコートがあなただと気づいたとき。
考えるよりも先に体が動いて、駆け出していた。
エレベーターを待つ間ももどかしく、SHIPの長い階段を3段飛ばしで駆け下りて。
所狭しと路上に溢れている人の波を掻き分けて。
息を切らして目の前に現れた私を見て、あなたは驚いたような顔をした。
それは。いつかみた景色。いつかみた光景。
ドタバタでゴチャゴチャのイザコザに巻き込まれて、追い立てられるように過ごしていたあの頃。
そんなに遠くはないはずなのに、もうはるか昔のような気がするあの日々が束の間かえってきたような。
多分それは錯覚で、変わらないものなど何もない。
だけどあなたがここにいるから。あまりにも変わらない姿で私の目の前に立っていたりするものだから。
私はあなたに会えたなら、何を言おうと思っていただろうか。どんな顔をしようと考えていたのだろうか。
そんなことも、もう、どうでも良くなってしまって。
グルグルと今まで考え続けていた複雑な想いは形をなさずに、ただ一つこみ上げてきた大きな感情に飲み込まれてしまう。
あなたに会えた。生きていてくれた。
ただ、それだけのことが、嬉しくて嬉しくてたまらない。
悔しいなぁ でも、もういまさら、つまらない意地なんて張れそうもない。
溢れた想いが形となって頬を伝う。
手のひらに落ちかかるその温度に、自分のなかにあったものが呼び起こされてゆく。
胸の奥でくすぶり続けていた熱。懐かしい温もりが冷たく乾いていた心の奥に静かに静かに満ちてきて。
あなたへと真っ直ぐにむかう疑いようのない感情が、今、自分が生きていることをこんなにもはっきりと思い出させてくれている。
逃れ逃れて辿り着いた地の果ての、人類の最後の砦となる街角で。
=END=
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