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傾国媚談6

 たいまつがはじけ、火が消えた。オネロスとウェヌスの戦いに見入っていたため、誰も
たいまつに新しい薪をくべようとしなかったためだろう。だが、満月の輝く月夜だったた
め、さほど神殿内は暗くならなかった。
 月明かりで薄青く照らしだされた床に、オネロスは呆然とすわっていた。もはや、立つ
体力すら残されてはいなかった。ウェヌスはそんなオネロスを見ながら、ゆっくりと立ち
上がり、言った。
「オネロス……次が、最後の戦いだ。勝てとは、言わぬ。四人のアマゾネスを相手にして
弱り切った体で、あの方に勝てるわけがない」
 くるりと後ろをむき、鉦の近くにいるアマゾネスに合図をしながら、続ける。
「だが、己が名に恥じぬ戦いをしてこい。それは、お前のためだけではない。われら四人
の名誉のためでもある……弱い男に負ける、というのは最大の恥辱なのだからな」
 鉦の音で、石畳がふるえる。
 その反響がおさまるまで待ち、ウェヌスは口を開いた。
「最後の戦士、そして勇敢なるアマゾネスの王、ヒッポリュテ。オネロスとともに、名誉
と死力をつくされよ」
 ぴん、と空気が張りつめた。それまで奥に控えていた女が、ゆったりとした足取りで
オネロスの前へ歩みでる。

「……オネロス」
 凛、とした声。ヒッポリュテのものだ。オネロスは声につられるように、顔を上げ、彼
女を見た。
 その瞬間、ぞわり、と総毛だった。興奮と恐怖が全身を支配し、知らず知らずのうちに、
がくがくと手足が震えていた。戦いの前にもその姿を目にしたが、間近でみるのとは大違
いだった。彼我の実力差を、体が感じているのだ。
 緩やかにウェーブのかかった見事な金髪と、毛穴が見えないほどきめの細かい純白の肌
が、背後の満月の光を乱反射して、きらきらと輝いている。その姿は、情熱的な愛と肉体
的な美を司る、女神アルテミスそのものであった。
「立ちあがりなさい」
 ヒッポリュテの命令は、脳髄に直接つき刺さるかのように鋭かった。動かなかったはず
の体が、無意識のうちに直立姿勢をつくっていた。
「そう、いい子。そのまま、私のおっぱいを舐めて。優しくね……」
 餌をまえにした犬のように、唾がわきだし、口からたれそうになる。必死で嚥下しつつ、
ヘレのよりもさらに妖艶で、それでいて気品のある白い双球に舌をはわせた。
「はあ、はあ」
「うふふ、息が荒いわよ」
 いつの間にか、わざとらしいほど呼吸が激しくなっていた。動悸はかつてないほどはや
くなり、酸欠で頭がぼうっとしてくる。オネロスはこの感覚に覚えがあった。
(初めてのセックスのときも、こんなだったな)
 無我夢中で、美しい豊乳をわがものにしようとしゃぶり、吸いあげる。その手つきは、
いつしか激しく乱暴なものになっていた。
「あん。そんなにがっつかなくてもいいのよ、逃げやしないから」

 頭に血の昇ったオネロスには、その言葉は届かない。気のすむまで乳房をなぶったあと、
腹、へそ、ふとももと順に舌をすべらせ、やがて亀裂までたどりつく。
 気がつけば、ペニスはこれ以上ないぐらい固くはりつめていた。
「あっ、あん、気持ちいい……さすがに上手いのね」
 我慢などせず、素直に感じているようだ。うっすらと濡れたヴァギナからは、むせかえ
るような雌の香りが発散していた。オネロスは視覚で、味覚で、嗅覚で、ヒッポリュテを
感じ、どんどん高ぶっていく。ペニスにふれられてもないのに、先端からは我慢汁があふ
れ、ヒッポリュテの足のつけ根を濡らしていた。
「もういいわ、オネロス。横になって」
 挿入する気だろう。ヒッポリュテの術中にはまれば負ける、それはオネロスにもわかっ
ていた。わかっていたが、どうしても逆らう気にはなれなかった。甘美な命令に従い、冷
たい石畳の上に身を横たえる。
 オネロスの股間をまたぐように馬乗りになり、いきりたったペニスを優しく握る。オネ
ロスはその感触に思わず声をもらした。柔らかく、甘く、そしてかすかに冷たい、ヒッポ
リュテの手。
「今からいれるわよ、よく見て……あなたのモノが、私のなかに入るところを」
 快楽をもとめて震えるペニスが、ヒッポリュテのなかにゆっくりと埋没していく。先端
に伝わるなま暖かさと、戦慄、そして締め付け。あまりの快感に、一瞬、意識が飛びそう
になる。歯を食いしばり、気をたしかに保つ。
「苦しそう……いえ、気持ちいいのね。でも、入れただけでそうなら、動くとどうなるの
かしら」
 じっとしていても、無数の襞がペニスにからみつき、射精させようと律動している。ア
マゾネスの王だけあって、ヴァギナも特別製のようだった。
「がんばって耐えてね。あなたが倒してきた四人のアマゾネスに恥じないよう、私を楽し
ませるのよ」
 ゆっくりと、麦をひく臼のように、腰をまわしはじめた。襞がねじれ、複雑な動きでペ
ニスを翻弄する。それだけではない。膣内のざらざらになっている部分がちょうど亀頭に
あたり、痛みにちかいぐらいの絶妙な快感となってオネロスの精神をさいなむ。

「うっ、あああっ、はあ……」
「大丈夫? でも、まだまだ激しくなるわよ?」
 すらりとした体躯をしならせ、今度は上下運動をはじめた。締め付けのきつい、極上の
ヴァギナが徹底的にペニスをすりたて快感を引き出す。
 視界が白みはじめ、いつしかヒッポリュテの豊かな臀部をかかえていた。意識が暗闇に
おちないよう、ヒッポリュテにすがりつくような格好だった。端からみれば、熟練の娼婦
が童貞の少年に性の手ほどきをしているように見えたかもしれない。
「ん、あん、んん……私も、あはっ、気持ちよくなってきたわ」
 だんだんと激しくなってくるヒッポリュテの責め。ねっとりとぬめる愛液も、その運動
を手助けした。膣壁の摩擦運動だけでなく、気圧の差によってか、ペニスが奥へ奥へと吸
い込まれていくような感触さえあった。
 オネロスの意識は、快楽の大海に浮かぶ板きれのようなものだった。溺れないよう、息
継ぎをするので精一杯。反撃のことなど、もはや思考から消え失せていた。
「うっ、ん、うふふ、じゃあ、そろそろ本格的に気持ちよくさせてね」
 快楽に耐えるために張りつめた意識が、揺さぶられた。処女のなかにつっこんでいるよ
うな締め付けが、ペニス全体を絞り上げてくる。襞の一本一本が意志を持っているかのよ
うにペニスの敏感な部分に侵入し、いたぶりあげてきた。
「うっ、うぐっ」
 意識が飛ばないように、首をふり、耐える。血がにじむまで、唇を噛みしめる。しかし、
まったく効果はあがらなかった。
「うああああっっ……くっ」
 ひときわ強い締め付けがペニスを襲うと、あっけなく暴発した。精液か、あるいは血が
先端から迸る感覚とともに、オネロスは気を失った。完膚無きまでの敗北だった。

 オネロスが目を覚ましたのは、広く荘重なつくりの部屋の、柔らかい寝具のうえだった。
石畳で五戦もこなしたのに、不思議と体は痛んでいなかった。
「オネロス! 目覚めたか……良かった」
 いつか聞いた声、そう、これはアタランテだ。初戦の相手であり、オネロスを壮絶な手
コキとフェラチオのテクニックでへろへろになるまで抜いた、絶倫のアマゾネスである。
その彼女が、オネロスの寝具に駆け寄ったかとおもうと、飛びついてきた。
「三日三晩、死んだように眠ってたから、みな、死んだと思って心配してたんだぞ」
 顔をぺろぺろとなめ回しかねない勢いで、頬をすりつけてくる。その身振りから、オネ
ロスに並ならぬ好意をもっていることがうかがえた。
 その騒ぎを聞きつけてか、どやどやと人が入ってきた。褐色の肌の、きわめて豊満な体
をもつ女二人、アーニャとヘレ。戦いの時には、二人の合わせ技であるパイズリで精力を
搾り取られたうえ、ヘレの人間離れした名器で脱水症状寸前まで追い込まれた。よく生き
ていたものだ、とオネロスは思う。が、今の二人には当時のような殺気は感じられず、自
慢の巨乳をたゆませながら、寝台の上のオネロスに体をすり寄せてきた。オネロスは、押
しつけられるメロンのように大きな乳房のぷにぷにとした感触で、下半身に血が集まって
いくのを感じた。
「あれだけ五人で搾ったというのに、さもしいな、オネロス」
 いつの間にか寝具のそばに立っていたウェヌスが、いきり立った股間を見て指摘した。
「まったく、仕様のない……」
 ぱっとシーツをめくると、ウェヌスはなんのためらいもなくオネロスのペニスを口にふ
くんだ。寝ている間に精液がたまったペニスが、ウェヌスの舌技に耐えられるわけがなく、
あっという間に暴発してしまう。ウェヌスはまるで蜂蜜入りワインを飲むように、ごくご
くと精液を胃袋におさめてしまった。
「あーっ、ずっこい」
 ヘレは抗議の声をあげるやいなや、抜きたてのペニスをウェヌスから奪うと、尿道口に
残った精液を強引に吸い出しはじめた。イったばかりで敏感になっているところを刺激さ
れ、オネロスは悶えた。
 さらにアーニャも参戦しようとしたところで、三人の動きが止まった。

「はいはい、そこまで。アルテミス様への供物をつまみぐいしちゃだめ」
 抜群の美貌の持ち主、アマゾネスの王ヒッポリュテが、部屋に入ってきたのだった。寝
台の前に立ち、悠然とオネロスを見下ろす。
「気分はどう? オネロス」
「悪くない。……あんたの部下にいきなり搾られたのを別にすれば」
「そう、良かった。供物であるあなたになにかあったら、大変だもの」
 供物。その言葉で、思い出した。五人のアマゾネスを満足させるまえに気を失えば、オ
ネロスの命はアルテミスの供物となる。それが、あの戦いのルールだった。そして、オネ
ロスは四人を倒したものの、ヒッポリュテの圧倒的な名器と実力差のまえに敗れてしまっ
たのだった。
「……仕方が、ないな。アマゾネス討伐の下命を受けてから、死ぬ覚悟はできている」
 ヒッポリュテの目をじっと見据えた。死を前にしているからこそ、目をそらせば負けの
ような気がしたからである。
 だが、当のヒッポリュテはきょとんとした目でオネロスを見たあと、ぷっと吹き出して、
言った。
「なにを勘違いしているの? いえ、まあ、あながち勘違いとは言えないけれど」
「勘違い?」
「そう。戦いに負けたから、あなたの命は女神アルテミスのもの。もう故郷には帰れない
し、勇者としての人生は終わりよ。これからずっと、『アルテミスの子どもたち』をつく
るために働くの」
 ヒッポリュテはその端正な顔を近づけ、
「つまり、こういうこと」
 オネロスの唇をついばみ、舌を差しいれて濃厚な口づけをした。
「あーっ、ヒッポリュテ様ずるい。つまみ食いするなって言ったじゃん」
 四人のアマゾネスが口々に不平を訴える。
 それから、ヒッポリュテはオネロスに説明した。強い戦士がアマゾネスの王国に侵入し
てきたときは、彼をとらえ、生殖能力を試験したうえで、合格すれば王や司祭、戦士長の
子どもをつくるための種馬にし、不合格であれば首を落としてアルテミスの神殿に供える、
というアマゾネスの伝統について。

「私との戦いで気絶していたら、首を落とす予定だった」
 アタランテはそう言い、
「でも、さすがにお前みたいなやつはアマゾネス史上はじめてだ。アマゾネス相手に二人
抜きしたら、絶倫と言って間違いない。ヒッポリュテ様のお父上ですら、三人抜きだ。そ
れを、まさか四人平らげたうえに、ヒッポリュテ様すら貫くとは……」
「さすがに、あの時はあわてたわ。子作りのためにつかまえた男にまんまと逃げおおせら
れるなんて、前代未聞ですもの」
 ヒッポリュテはそう続け、いたずらっぽく微笑みながら、
「かろうじて勝ったけど、あと少し粘られていたら、私もイってたんだからね」
 オネロスはここまで聞いて、ひとまず安堵した。国に帰ることができなくなったとはい
え、ひとまず殺されることはなさそうだ、と。
「だがな、オネロス」
 そんなオネロスの気持ちを知ってか知らずか、アタランテが真剣な顔でしゃべりはじめ
た。
「命の危険がないなどと思ったのなら、大間違いだぞ。今日からずっと永遠に、われら五
人に子種を注ぎ込んでもらう。五人が孕んだら、ほかのアマゾネスと子どもを作らねばな
らないし、子どもが無事生まれたら、そのアマゾネスと二人目、三人目を作ってもらう。
途中で音をあげたり、役立たずになったら、即刻首をはねる。それがアマゾネスの掟だ」
 ヒッポリュテもアタランテの言葉に続けて、
「そうよ。今日はさっそくアタランテと、明日はアーニャ、明後日はヘレと、その次の日
はウェヌスとで、最後は……うふふ、わたしとよ」
「や、休みは……」
 悲痛な面持ちのオネロスにヒッポリュテは一言、
「そんなもの、ないわ」


 後の神話は語る。
 勇敢な五人のアマゾネスは英雄ヘラクレスを退け、トロイア戦争ではギリシア都市連合
に味方し、ヒッポリュテの子らがその勝利に大きく貢献した。サラミスの戦いでも同様に
して、都市国家アテナイと力をあわせてペルシャと戦い、アレクサンドロスの大遠征とと
もに神話の時代が終わりを告げるまで、カッパドキアやレスボス島などにまたがる巨大な
領域国家として繁栄し続けた。
 ギリシア人を憎んでいたアマゾネスたちが、なぜギリシア諸都市と手を結ぶようになっ
たのかは、今をもって謎である。
 だが、終生、女王ヒッポリュテのそばにありつづけ、アマゾネスの貴人たちと無数の子
どもをもうけたといわれる、アマゾネス王国唯一の男性貴族(一説にはギリシアの小王国
の出身といわれる)が、その謎をとく鍵をにぎっているのかもしれない。



 この物語はフィクションのフィクションです。実際のギリシア神話に登場する女神や民
族とはあんまり関係ありません。
長らくのご愛読、ありがとうございました。
以上で「傾国媚談」の連載を終わります。
あとちょっと作品がたまったら、BFの個人ページをつくる予定なので、
不備、不都合な点を改訂して、そこに再録します。
ひとつ現在でもわかっている訂正部分として、
アマゾネスの信仰する女神の名前を「ヴィーナス」とした部分がありますが、
それは「アルテミス」の間違いです。

次回作はばりばりファンタジーをファンタジーを書きます。
同じ世界観で展開される、短めのお話をいくつも書く、という形式を想定しています。
なにかシチュエーションなどでリクエストがあれば、応えられる限りで応えたいと思いますので、
どうぞ遠慮なくお書きください。

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