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関所


 広場の中央を囲むようにして、人垣が出来ていた。一本の柱に縛り上げられた若
い男が、野次馬達から蔑みの視線を向けられる。かけられた高札に、彼が関所破り
である事が記されてあった。
「ふっ、無様な」
 知り合いの醜態に出会して、アデスは皮肉気に口を歪めた。
 男の名は、リチャード・ライカールト。押しも押されぬローダンの貴族にして、
王立神学校一年生の首席だ。五つも歳の違うアデスとは、それほど親しい訳では無
いものの。首席と次席なのだから、知らない顔では無かった。
 裸で晒されるリチャードの股間を、両脇から官使が長い器具で嫐る。先端に取り
付けられた柔らかい物体が、様々に形を変えてまとわりついた。
「うくっ……」
 彼がイきそうになったのを見て、官使が器具を離す。彼の陰茎が切なそうに喘ぎ、
劣らずの有様でリチャードが懇願するのだが。両脇に立つ官使は視線も向けず、直
立不動でそれを無視した。
 両手両足を荒縄に拘束され、自分で慰める事も出来ない。快楽を求めて藻掻くリ
チャードに、周囲の囁き声が浴びせられた。
「こんな場所で晒し者になって、あんなに興奮してるわよ」
「厭ねえ。ライカールト家の名が泣くんじゃ無いかしら」
「リチャードには幻滅したわ。公衆の面前で辱めを受け、余計に興奮するような変
態だったなんて。見てよ、また大きくさせてる。あれじゃ、罰どころか御褒美じゃ
ない」
「きっと、こうなりたくて、初めから失敗するつもりで関所破りしたのよ」
 ひそひそと、中には声高に嘲る人々の声。それを聞くうち、リチャードの顔がだ
んだんと伏せられていった。目尻には涙も混じり、肩が震え出す。
 やがて、顔を大きく上げたリチャードが叫んだ。
「いいっ! もっと、もっと俺を蔑んでくれえっ!」
 周囲の噂は、確かなものだったらしい。だが正解したというのに、野次馬達は顔
を引きつらせて一歩退がる。周りが全部引いた為、自然とアデスが前に出る事にな
ってしまった。
 王立神学校一年生、首席と次席の視線が交わる。その間にも、リチャードが萎え
かけると官使が股間に器具を伸ばし、イきかけると引いていた。
「そこにいるのは、アデスじゃないか! 見ろ、俺の情けない姿を。君を抑えて首
席に立っていた男の、こんな末路を。だが、少しでも哀れに思うなら、俺の願いを
聞いてくれないか」
 彼は苦しい息の下から、必死でアデスに縋った。
「頼むから、俺を罵倒してくれっ!」
 涙と先走りを垂れ流しながら、リチャードが懇願する。そんな彼を冷たく見返し
て、アデスは口の片方を吊り上げた。
「ふっ、誰が貴様の頼みなど聞くか」
「ああっ! いいっ!」
 アデスの友情に感動したらしく、リチャードは大きく身悶えした。
 なぜか気分を害した様子で、アデルは荷物を背負い直して顔を巡らす。彼の視線
の先は、高い山脈の峰。そこには、リチャードが避けようとした関所があった。
 歩き出そうとした彼の足が、その場で止まる。
 頭の後ろに、金属の冷たい感触。ぴたりと突きつけられた銃口を感じ、アデルは
小さく舌を打った。人が集まった中に、一人だけぽつんと離れて立っていれば、目
立って当たり前なのだ。
「やけに大きな荷物ねえ、アデル。あんた、そんな格好で何処へ行くつもり?」
「愚問だな、イヒカ。関所を越えて、ソン=スの地に決まっている」
「正直に言えば良いってもんじゃ無いでしょうが!」
 撃鉄を引き起こした音にも、アデルの仏頂面は変わらなかった。
「……なら、どうしろと?」
 不服そうな声に、銃口を突きつけていた少女の怒りが増す。
 歳の頃は、アデスと同じくらいだろうか。茶色の長い髪をした、勝ち気そうな顔
立ちの少女なのだが。今は凛々しさよりも禍々しさの方が濃く、アデスの雰囲気に
通じるものがあった。
 似合いのカップルが、いちゃいちゃしてるからだろう。周囲の人垣は二人の邪魔
をしないように、彼らから離れていく。
「あ、見つけました! ハンナさん、こっちです」
 声に続き、群衆を抜けて金髪の少女が飛び出す。華奢に見えるが、片手に大振り
の剣を抜き身で担いでいた。彼女と別の方角からも、赤毛の少女が現れる。こちら
は何も持っておらず、アデスへとにこやかな微笑を送った。
「三人とも妊娠させたと分かったら、すぐに逃げようとするだなんて。アデスさん、
思ったより良い根性をしてますのね」
 ゆっくりと歩く赤毛の手に、魔力の収斂を示す光が集まり出した。
「下らん。ちゃんと、説明しただろうが」
「世界を平和にしてくる、なんて一言で出て行かれて納得出来るかあっ!」
 叫ぶなり、沸点を超えた茶髪の少女が引き金を引いた。弾丸の飛び出す勢いに、
彼女の両腕どころか両足まで浮き上がる。至近距離から直撃を受けたアデスは、面
白い格好で前に飛ばされた。
 そこへ、走り込んできた金髪の少女が、全身を使って大剣を振り回す。
「酷いですよ、アデスさん!」
 風を斬る音と共に、アデスの体が横殴りにされる。彼は飛ばされた後、顔や背中
といった、普通は使わないような場所で跳ねていった。
「全くですね」
 待ち構えていた赤毛の少女が、微笑と共に右手を差し出した。アデスを歓迎する
かのように、彼の周囲で大きな爆発が起こる。石畳の上、広場の木々、建物の硝子。
辺りにあった物へと、その衝撃がびりびりと伝わった。
 ただ、歓迎の気持ちが強過ぎたのだろう。アデスは爆風に吹き上げられて、天高
く飛んでいってしまった。
「ったく、逃げられた!」
 悔しそうに叫びながら、茶髪の少女が銃を撃つ。だが、距離がある為に、簡単に
当たるものでも無い。十数発のうち、三分の二は外してしまった。
 弾倉を空にしても引き金を引く彼女の肩へ、赤毛の少女が手を置いた。
「安心なさい。どうせ、今のアデスさんに関所は越えられませんわ」
「でも、関所破りなんか考えたりしたら……」

 茶髪の少女は、厭そうな顔でリチャードに目をやる。悍しい物体がよがり狂う様
に、ちらりと見ただけですぐに視線を切った。
「大丈夫ですよ。アデスさんって、ああ見えて曲がった事が嫌いですから。卑怯な
真似をするなら、堂々とするはずです」
 金髪の少女が剣をしまいながら言うのに合わせ、茶髪の少女も銃を収めた。
「それもそっか」

 ローダンとソン=スは、峻厳な山脈によって間を隔てられている。ごつごつとし
た岩肌は、かつては物好きな登山者の挑戦の場でしか無く。ローダンの地は、自由
な通行を制限された不便な場所、というだけに過ぎなかった。
 だが、今はその山脈がソン=スからの侵攻を食い止めていた。
 アデスは空気の薄さに気付いて、荷物を解く。中から引っ張り出した携帯酸素ボ
ンベを吸いながら、現在位置を確認した。周囲に植物が余り見えなくなり、代わり
に花崗岩が上下に続く風景となっている。
 まだ半分と知っても、特に表情は変化せず。変わらぬ仏頂面で、再び淡々と登り
始めた。

 かつて、二百年近く続いた戦争があった。
 勿論、そういった戦争は、常に軍勢同士の戦闘が行われている訳では無い。小競
り合いを繰り返し、時には数年の中断を挟む。そして、その間に発達した移動手段
と情報通信技術が、戦火を世界中に広げた。
 戦争終結をもたらしたのは、英雄の力でも権力者の協議でも無かった。
 攻撃への耐性をつける魔法等が、数代に渡って使われ続けた挙げ句。街一つを吹
き飛ばす爆弾でも、傷つかない者達が世界中で生まれてきたのだ。
 やがて世界にそういった者達しかいなくなると、自然と戦火は収まっていった。
銃で撃とうが、剣で斬ろうが、魔法で吹き飛ばそうが無傷の者同士。戦争は徒労の
代名詞となり、訪れた終結を誰もが喜んだ。
 それが、終末の始まりになるとは知らずに。

 途中の休憩小屋で一泊し、翌日の昼過ぎになってアデスは峰へと登り着いた。見
回すと、すぐに大きな建物が目に入る。岸壁をくり抜いて作られた、強固な要塞。
ソン=スからの侵入と、関所破りへの警戒の為、昼夜を問わない厳重な監視が行わ
れているはずだ。
 アデスは迷わず、その関所へと向かって歩き出した。片方にローダンの盆地から
海へ続く風景、片方にソン=スの広大な平原を見下ろしながら。

 初めは、些細な事のはずだった。
 男が先にイった精で孕むと、女が産まれ。女が先にイってから孕むと、男が産ま
れる。そして一人孕ませる度に、男は一日に射精出来る量が増えるようになった。
 新聞の社会欄の隅に、真偽不明として小さな記事になる程度の事だ。
 しかしそのうち、男の精を喰らわねば生きられない女が産まれた。精を受けなけ
れば次第に狂っていき、一定期間以上、精を浴びなければ死に至る。だが、浴び続
ける限りは若さを保ち続ける上に、その女達は誰もが美しかった。
 深刻な害が出るまでは、様子見で良い。為政者達の判断は、取り返しがつかなく
なった後で誤りだと知れた。
 男の精を得る為に特化し、世代を重ねていく女達。淫らで美しい彼女達を先にイ
かせられる男など、ほとんど存在しなかった。結果、すぐに男女比は1対9となり、
更に事態は悪化の一途を辿る。
 この頃、別の世界への行き方が発見され、それは福音だと思われた。だが、別世
界でイった女は、その世界に存在する力を失って消え去り、戻ってしまう。精に飢
えて死に絶える事は避けられそうなものの、根本的な解決には結びつかなかった。
 男児と女児の出産率は、反対方向へ急なカーブを描いた。
 そのうち、限界を超えて射精を続け、死ぬ男まで出始めた。男達は辺境へ逃げ込
み、その奪い合いが各地に紛争を起こす。武器でも魔法でも斃せない相手に、唯一
有効となった手段――セックスを使って。
 女同士でイかせ合い、少ない男を取り合う。あらゆる場所に愛液が、涙が、涎が、
精液が、破瓜の血が流され、戦の匂いが戦地に染み込む。
 そして、世界は崩壊した。

「あなた何者? ここへ何しに来たの?」
 関所の門前へやって来たアデスに、どこからか声が掛けられる。アデスがスピー
カーを探して周囲を見回すと、カメラとインターフォンを見つけた。
「偉そうな奴だな、貴様。他人に名を尋ねるなら、先に名乗ったらどうだ」
「……どっちが偉そうなのよ」
 門脇のインターフォンから、疲れたような溜め息が洩れた。顎を反らせたアデス
が、カメラを見下しながら促す。
 ややあって、渋々といった調子の声が返ってきた。
「ここの番人の一人、ミナエラよ。あなたの名前と、目的を言いなさい」
「アデスだ、関所を通りに来た」
「止めておきなさい。その歳で、聖職者でも無い者が、簡単に通れる場所じゃない
の。どうせ無駄なんだから、出直して来なさい」
「ヤる前から怯えるとは貴様、雑魚だな。貴様では話にならん、責任者を出せ」
 それが合い言葉だったのか、要塞の扉が開いた。
「……入りなさい、身の程を教えてあげるわ」
 何かを必死で抑えているような、硬い声が流れてくる。促されるままに入ろうと
して、不意にアデスが足を止めた。
「一つだけ言っておく。命令口調は止めろ、耳障りだ」
 関所内へ入ったアデスを追うように、スピーカーから異様な笑い声が聞こえてき
た。

 館内放送の案内に従って、アデスは関所の中を歩いていった。しっかりした空調
は、快適な空間を作り出している。人のいる気配はするものの、アデスは誰も見か
けなかった。
 入り口から導いて来た声が、終点を告げる。
 そのまま足を進めたアデスの前で、自動ドアが進路を開けた。部屋の中では、肩
口へ金髪を垂らした女が、両腕を組んで待ち構えていた。アデスは平然と彼女の前
に立ち、睨みつける。女の方も、一歩も退かない構えらしい。
 アデスの顔の造りそのものは、優男のものだ。だが、黒髪の下にある黒い目が傲
岸不遜な光を放ち、浮かぶ表情は仏頂面。皮肉気に歪んだ唇から、人を馬鹿にした
ような笑い声を洩らす。顔の造形と受ける印象には、かなり大きな開きがあった。
「何か言ったらどうだ。さては貴様、さっきの雑魚だな」
「雑魚はやめなさい。ミナエラよ、アデス君」
 ミナエラが年上ぶって見せるのだが、アデスは見透かしたような笑みで返す。そ
んな態度に、彼女の神経は逆撫でられた。
 この部屋には大きなベッド以外に、浴室とトイレが設置されてある。通関審査に
使う部屋で、ミナエラ達の仕事部屋の一つなのだが。今まで、これほど人を馬鹿に
した人間が来た事は無かった。
「まあ良い、ミナエラ。さっさと審査をヤれ」
 言って服を脱ごうとする彼を、ミナエラが慌てて押し止めた。首を傾げるアデス
へ、溜め息混じりに告げた。
「先に、口答での審査があるの」
「下らん。単に聞くだけならば、他の部屋でやれば良い。わざわざベッドのある部
屋へ案内したんだ、どうせヤる事は一つだろう。貴様を先にイかせれば合格、僕が
先にイけば失格。違うか?」
 確かにその通りなのだが、物と業務には順序というものがあった。
「素直に答えなければ、失格にしますよ」
「ふっ、貴様には官権横暴という言葉を贈ってやろう」
 ミナエラの差し出したパイプ椅子を広げて、アデスは腰を下ろした。ただ座って
いるだけなのに、他人を馬鹿にしているようだ。見下すような眼差しが、その主な
原因だろう。
 沸き上がる苛立ちを抑えつつ、ミナエラはクリップボードを構える。ボールペン
を出しながら、用紙とアデスを交互に見た。
「ではこれより、通関審査を始めます。まず、あなたは何の目的でソン=スへ行こ
うとしているのですか?」
「世界平和だ」
「具体的に」
「そうだな……外世界全ての女に僕の男児を孕ませる、というのでどうだ?」
「却下。何十億人いると思ってるの」
 言われて、それもそうだとアデスは頷いた。意外な素直さに、ミナエラはボール
ペンを失格の位置から外す。数十億の女全てを孕ませる、等と言おうものなら、そ
の時点で失格にするつもりだったのだが。
 ちょっと感心している彼女へ、アデスはしばらく考えてから言った。
「方法は分からんが、それを探す事も含めてだな。どちらにしろ、座視は許されん。
そう遠くない内に、ソン=スから攻め込まれるはずだ」
「分かるの?」
「愚問だな、少し歴史を学べば当然の理だ。精に狂った者のいないローダンですら、
男女比は三対七だ。精に狂った者のいる地の男女比を考えれば、次に来るのは何か。
そんなもの、考えるまでも無い」
 その分析の正しさに、ミナエラは頷きで返す。防衛線にいる彼女は、おおよそ五
年、早ければ三年で侵攻が始まると読んでいた。
「聖職者には伝えられる事ですが、ソン=スで行ってもらうのは聖杯の破壊です。
そうすれば精に狂う者――我々は淫魔と呼んでいますが――その発生を、止める事
が出来ます」
 頷いたアデスへ、ミナエラは次の質問を行った。
「では、ソン=スの地で淫魔に出会った場合、まずあなたはどうしますか?」
「逃げ隠れするに決まっているだろう。目的が聖杯とやらの破壊ならば、連中に男
を孕ませる事などは二の次だ」
「いいでしょう、口答審査は合格です。それでは、実技審査に移ります」
 宣言したミナエラは、ベッドへ移動して服を脱ぎ始めた。アデスの視線を感じな
がら、ゆっくりと扇情的な動作で衣を脱いでいく。
 態度がどうあれ、まだ少年なのだ。近付いてくるアデスに、苦笑を漏らしながら
ミナエラは可愛気を感じた。顔は可愛いのだから、徹底的に気持ち良くさせて崇拝
させれば、一緒にいても腹が立たなくなるだろうと。
「……しかし、なあ」
 だが、降ってきたのは失望した声だった。
「何よ」
「ふっ、芸の無い奴だと思っただけだ。門番というから、こちらの想像を裏切る何
かがあると思ったのだがな。ロリのテクニシャンや初心な年増などは、貴様には無
理として。僕の頭よりデカイ胸くらい、あっても良いだろう」
「うるさいわね!」
 内容と態度、どちらが刺激したのかは分からないが。ミナエラはアデスの襟首を
掴むと、ぐいっと引き寄せた。
 口をぴったりと合わせて、舌を舐め上げる。目を閉じたミナエラは、アデスの微
細な反応も逃さずに快感を引き出した。良さそうなところを徹底的に責め、あるい
は敢えて避ける。
 絡み返すアデスの舌の熱っぽさに、その顔を見てやろうとミナエラが目を開けた。
 しかし、そこにあったのは変わらぬ不遜な眼差しだった。
 アデスは自分の服を脱いだ後、ミナエラの衣服を剥いでいく。その手つきに乱れ
は無く、ミナエラは怒り心頭に達しながらアデスの股間へ手を伸ばした。
「あら、もうこんなにしちゃって。やせ我慢してたのね?」
「芸が無いとは言ったが、悪いとは言っていないはずだ」
 アデスは耳元でそう囁いて、ミナエラを抱き寄せた。彼女の形の良い胸を体で押
し潰しながら、尻を揉み始める。まだ少年のアデスが持つ男らしさに、ミナエラの
芯が熱を持った。
 頬を擦り寄せながら、アデスの手が内股を撫でる。責められるばかりでなく、ミ
ナエラの手も彼の陰茎を強弱をつけて握り込んだ。
 竿を片手で持って擦りながら、もう片方の手で袋を弄っていく。抱き寄せられた
不自由な格好でも、その両手は自在な動きを見せる。先端で淫唇をなぞらせ、アデ
スに形を覚えさせようとしているようだった。
「流石に、憎まれ口も出ないようね。可愛いわよ」
 ミナエラが微笑んでキスをする。離した時に見えたアデスは、当惑顔をしていた。
「僕がいつ、憎まれ口なんて叩いた?」
「私の事、雑魚って言ったじゃない」
「雑魚を雑魚と言って、何が悪い」
「……それなら、雑魚かどうか確かめるのね」
 陰茎の先を女陰に押し当てて、淫唇でくわえ込む。ミナエラの片手が激しく幹を
上下し、もう片方の手が睾丸を弄ぶ。
 ミナエラの尻を掴むアデスの手に、力が加わった。膣内に入り込もうとしている
ようだが、彼女の腰が動いて挿れさせない。先走りの滲み出した先端が膨らみ、ミ
ナエラの淫唇を押し広げた。
「ほら、イきたいならイっちゃいなさい」
 首筋に吹きかけられる荒い息に、彼女は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「先にイくわけにはいかない、僕はこの関所を通るのだから」
「実力不足の人を、通すわけにはいかないの。君一人が死んだり家畜になるだけ
じゃ、済まないのよ。弱い男が向こうへ行ったら、ますます女ばかりが増えてしま
うでしょ」
「くっ……貴様に言われるまでも無い」
 アデスは両手を彼女の尻と腿につけ、固定しているようだった。だが、その位置
では挿入を止められはしない。イく時には深く繋がり、ミナエラの膣内へ盛大に注
ぐ事になるだろう。
 少しだけ腰を落としたミナエラに、アデスの先端部が包み込まれる。陰茎を擦る
彼女の手には、その鼓動が伝わっていた。
「我慢しなくて良いのよ? 好きなだけイって、好きなだけ出しなさい。全部、膣
内で出させてあげるから」
「……何を言っている、そんな事をしたら」
「そう、女の子を孕んじゃうわね」
 更に少しだけミナエラが陰茎を呑み込んだ。膣口の中に突き刺さっている様子が、
二人の間で扇情的に晒される。必死に腰を進めようとするアデスを、彼女は膝をつ
っかえにして押し止めた。
「男の子を孕ませるには、女を先にイかせなければならい。けれど、ここの門番だ
けは違うの。我慢せずに、先にイって良いのよ」
 ミナエラは彼の胸板に乳首を触れさせながら、体を擦り上げた。尖ったその感触
がなぞると、アデスの鼻から息が漏れる。
 それを近くで聞きながら、ミナエラは彼の耳へと囁いた。
「男をイかせる審査は、女の仕事だからね。産むなら跡継ぎに出来る、女の子の方
が良いの。分かった? 分かったなら、これから膣内に挿れてあげるから。たっぷ
り注いで、私に女の子を孕ませなさい」
「命令口調、は止め、ろと言ったはずだ」
「すぐに、そんな事言えなくなるわよ。関所越えどころか、家へ帰るのも忘れて、
私を妊娠させる事だけに没頭しちゃうかもね」
 今だ不遜な輝きを保つアデスの目を、ミナエラは面白がるように見た。その目が、
この後どう変わるのか愉しみだと、口元に妖しい笑みが浮かぶ。
 膝の支えを外したミナエラは、アデスの陰茎を奥へと呑み込んでいった。
 絶頂の近さを、繰り返す脈動が伝える。途中で抜かせないよう、ミナエラが両足
を絡めた。両手も抱きつこうとしたのだが、アデスに押さえ付けられた。離れる気
かと足に力を込めた彼女へ、彼は勢い良く突き入れる。
 繋がりきったところで、アデスはほっとしたような溜め息を吐いた。
「なあに? そんなに、挿れたかったの?」
「ああ。手淫は殆ど経験が無かったから、危なくイくところだった」
「我慢しなくて良いのよ。思う存分、吐き出しなさい」
「命令口調は止めろと言ったはずだ」
 そう言って、アデスが注挿を開始した。
「……え? あっ、ええっ? や、やだ、ちょっと」
 内壁を擦りながら引いたアデスが、一点で止まった。その部分を陰茎で押し上げ
るようにしながら、時に大きく、時に小刻みに円を描いていく。
 一気に快感を高めさせられたミナエラは、逃れようとする。しかし、それに合わ
せてアデスの腰が追いかける。ひたすら一点を突かれるうち、ミナエラの口から甘
い声が溢れ出した。
「ふっ、僕とした事が。ここまで追い詰められてしまっては、あれをやるしか無さ
そうだな」
 彼女の漏らした愛液が、勢いを増してアデスの陰茎を伝う。膣口から尻へと垂れ
ていく液体の感触に、ミナエラの思考が淀んでいく。
 しかし、門番としてのプライドからか、彼女は踏み止まった。
 アデスの注挿を受け続ければ、すぐにもイってしまう。そこで再び手淫をしよう
とするのだが、彼女の両手はアデスに拘束されていた。力が入らない事もあり、抜
け出せそうに無かった。
 諦めてミナエラが快楽に屈しかけると、その手が自由になる。困惑して目を開い
た彼女は、アデスの真摯な眼差しを見た。
「あ、え……?」
「ミナエラ」
 優しく囁いたアデスが、彼女の両頬を挟んで口付けた。混乱するミナエラに、ア
デスが柔らかく微笑みかける。
 さっきまでの不敵な面構えが嘘のように、普通の表情をしていた。顔の造形通り
の、純真で優しそうな雰囲気に、ミナエラは背筋をぞくぞくとさせた。半開きにな
った口から、意味を成さない言葉と涎が流れる。
「そんなに気持ち良いんだね?」
 アデスの囁き声は、ミナエラの意志もプライドも、何もかもを溶かしていった。
最後に彼女へ残されたのは、彼の陰茎が奥まで収まっていない不満だけ。
「お願い、奥まできてっ!」
「それなら、ミナエラがイく時の顔を見せて。その可愛い表情を見ながら、奥まで
挿れて、たっぷり注いであげるよ」
 大きく頷いたミナエラは、与えられる快楽へ嬉しそうに身を任せた。
 膣壁を擦りながら、アデスは陰核をつまみ上げる。もう片方の手はミナエラの口
に入れ、彼女は苦しい息で懸命にしゃぶろうとした。だが、その口は開かれ、大き
な喘ぎ声を上げた。
「イく、イっちゃうっ!」
「我慢しなくて良いよ」
 アデスが髪を撫でたのを限界に、ミナエラが背筋を弓なりに反らす。膣内から吹
き出した淫液が、アデスの股間へ飛び散っていった。
 潮を吹く彼女の中に、アデスは躊躇無く挿し入れた。絶頂の間に加えられた快感
に、ミナエラは口から意味を成さない言葉を洩らす。必死にしがみつく彼女に繋が
りきったのが、アデスの限界だった。
 どくっ、どくどくっ
「ひゃ、ひゃああぁああんっ!」
 膣奥に精液を浴び、イったばかりのミナエラが再び仰け反った。絡めた腕と脚が、
アデスを深く密着させる。子宮に流し込まれる精液を、彼女は小刻みに痙攣しなが
ら味わっていた。

 画面には、無数の女に嫐られる男の姿が映っている。一昨年まで、聖職者の通関
に審査は無かった。彼はその、審査を免除された聖職者の一人である。
 だが、そこにいるのは使命感を持つ何者かなどでは無く。孕ませるのが女児にな
ろうが射精したい、という性欲に狂った男でしか無かった。顔や陰茎、両手両足に
陰嚢は言うまでもなく、背中や肘や膝にも女が群がっている。
「あれ、よ」
 気怠い空気を残しながら、ミナエラが画面を指差した。その先を辿ったアデスは、
元聖職者に口づけしている女を見た。
「あの女が口移しに飲ませてる物。聖液という液体を造っているのが、聖杯と呼ば
れる何かよ。薬の製造場所の名前か、原材料かは分からないけれど。あれを飲んだ
男は、栄養さえあれば一日中射精する家畜となるわ」
「それだけでは、害が良くわからん。まさか貴様、あの家畜が人権を無視されてる
と言いたいのか?」
 馬鹿にしきったアデスが、鼻で笑う。
 その傲岸不遜な顔を見上げながら、ミナエラはむにむにと口元を動かした。彼女
が思わず頬をつつくと、彼の仏頂面はますます酷くなった。
「……最後の優しい顔、良かったのに」
「ふっ、これだから凡人は。美学というものを理解出来なくて困る」
 それよりも、と促されてミナエラが頷いた。
「聖液を飲んだ男に孕まされると、淫魔化の進んだ子供が産まるようなの。あれこ
そが前大戦最大の罪にして、呪いの根本だとも言えるわね」
「例の二百年戦争が、何か関係あるのか?」
「……元は、戦場で兵士が女をレイプする時に使った薬よ。男が飲めば射精の量が
増え、女が飲めば精液を注がれないと発狂してしまう。そういう代物だったらしい
わ」
 犯し易くなると好評だったようね、とミナエラが吐き捨てた。
 量産品が出て、質落ちの廉価版が生まれ、いい加減な合成薬が個人の手で作られ
る。そのどれか、あるいは全てが世界を滅ぼす元凶となったのだ。原因も結果も、
彼女の嫌悪感を煽るには充分だった。
 アデスの方に、特別な変化は無い。相変わらずの不敵な眼差しに、ミナエラは少
し改まって尋ねてみた。
「ところで、アデスはなんで旅立とうなんて思ったの?」
「ふっ、これでも僕は父親になる」
 アデスは、それで説明し終えたつもりのようだった。しかし、さっぱり理解して
いないミナエラを見て、面倒そうに付け加えた。
「子供達が暮らすなら平和な世界が良いと思うのは、親として当然だろう。その程
度の事も分からんのか、低能」
「最後のはともかく……あんたって、意外にちゃんとしてるのね」
 何か言いかけたアデスだったが、開いた扉に中断させられた。
 顔を向けた彼に、入ってきた三人の女が笑顔を返す。首を傾げるアデスへ、ミナ
エラが平然と告げた。
「次の実技試験は、あの三人が相手よ」
 言葉を無くしている彼を無視し、ミナエラは三人へアデスが手淫に弱い事を伝え
た。彼女達は服を脱ぎながら、舌なめずりして近付いてくる。アデスは唇の端から
冷笑を洩らし、ミナエラへと視線を移した。
 いつもの、見下すような目つきで。
「一つ言わせろ」
「汚い、なんて無しよ。言って無かっただけで、初めからそういう決まりなの。さ
っきの聖職者のせいで、少し厳しくなったけど。ま、ここの全員をイかせられる位
じゃないと、ソン=スなんか歩けないわよ」
 ミナエラの答えに、アデスは首を振る。取り付いた二人の女が両側から乳で挟む
せいで、振り難そうではあったが。
「一番手という事は貴様、やはり雑魚だったんだな」
 アデスがそう言ったのに対し、ミネエラが怒鳴ったのだが。三人の女が絡みつく
淫らな音に囲まれた彼に、それが聞こえたかどうかは分からなかった。

 結局、イってしまったアデスは、出直しを誓って関所を後にした。聖職者になる
道は厳しいが、ここを越えるにはその位の力は必要最低限だと。
 彼が聖職者となってソン=スに旅立つのは、まだ先の話。
 以下は全くの余談になるが。彼の戻って行く街、その広場では、柱に縛り付けら
れたリチャードの刑罰が続行中だった。関所の審査が厳しくなった結果、関所破り
も頻発しており、見せしめが必要なのだ。
 しかし、当局の思惑を裏切り、彼の周囲から人の姿は無くなっていた。おそらく、
涙まで流している彼への、せめてもの情けなのだろう。
「ああっ! 完全に放置されているっ!」
 刑罰の辛さに、リチャードは涎を垂らして悶えた。彼の下には、受け続けた刑罰
のせいで、白い体液が水溜まりを作るほどだった。
 不思議な話だが。以降、関所破りは殆ど無くなったらしい。


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