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助けたお姫様は

「ガアアアーーーッ!!!」
 城の外にまで響き渡っているのではないかと思われるほどの絶叫。
 恐ろしい断末魔の叫びは、しかし、それが人々を苦しめてきた魔王のものだと知れれば希望をもたらす呼び声
ともなろう。
「……はあ、はあ…………やった、やったぞ!」
 既に息絶えた魔王の巨体を見下ろし、ラルフは快哉を叫んだ。
 身体中、至る所に生傷ができ、もはや剣を握ることさえ辛いほどに疲労困憊の態であるが、こうして自らの手
で念願を遂げた喜びに心は沸き立っていた。
 王国の第一王位継承者にして、世界を救った英雄。
 後世の人々はラルフへの賛辞を惜しむまい。
 しかしながら、彼にはどうでもよいことだ。
 剣も鎧も放り捨て、魔王の玉座をすり抜けて行く先は、鉄格子の牢獄である。
「姫!」
「ラ、ラルフ!」
 翡翠色の目に一杯の涙を浮かべ、その美貌をくしゃくしゃにしながら迎えてくれた想い人の姿に、ラルフはこ
れまでの労苦が報われるのを感じた。
 魔王の首からもぎ取った鍵を差し込み、牢の扉を開くと、互いにもう我慢できなかった。
 彼女が縋るように抱きつけば、ラルフもその腰に腕を回してぎゅっと力を込めた。
 公女エリス。ラルフの許嫁。しかし、魔王の侵略を受けてさらわれ、今まで虜囚の身となっていたのだ。二年
ぶりの再会に、二人は言葉もなく、ただただ抱き合っていた。
 何も変わっていない。
 優しいところ。泣き虫なところ。透き通るように色の白い秀麗な顔立ちはほんのり紅が差している。美しい金
髪も変わらないどころか、艶を増してより一層鮮やかになっているようだ。
「…………やっと、会えた」
 ようやく、ラルフは言葉を紡ぐ。
「待たせてごめん。辛かっただろう?」
「ううん」
 エリスは泣きはらした目を赤くしながら、首を振った。
「ラルフはきっと助けに来てくれると信じてたから。それに、これのおかげかな」
 胸元から取り出したのは銀の十字架だった。邪なものを近づけない聖なる祈りが込められている。
 さらわれる前、ラルフがプレゼントしたものだ。
「よかった。……本当に、無事でよかった」
 もう一度抱きしめ合い、二人はどちらからともなく唇を重ねた。
 薄桃色の唇は柔らかかった。
 腕一杯に体温を感じ、粘膜でその甘さ柔らかさを感じて、ラルフはこれが夢でないことを確かめた。
(………………あれ?)
 安堵したせいだろうか。
 疲労が一遍に覆いかぶさってきて、身体がだるく、瞼が重くなってくる。
「ラルフ、大丈夫?」
「ちょっと、さすがに疲れたのかな。脚がへばっちゃって」
「少し休みましょう。城を出るのはそれからでもいいでしょ」
「そうだね。こんなところはすぐにでもお暇したいけど」

19 名前:助けたお姫様は……(2)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:23:10 ID:k06HdtYE
(え…………あ、あれ?)
 いつの間にか、ラルフは仰向けに寝かされていた。
 目に映るのは石の天井。後頭部には柔らかい感触。
「え?」
「あ、目が覚めたんだ、ラルフ」
 エリスが見下ろしてくる。金髪が揺れる。楽しそうな笑顔。
 思考がまとまらない。
「ええと…………」
「おぼえてない? 急に倒れちゃったんだよ。よほど疲れていたのね」
 そうだったろうか。
 何か違和感がある。
 あ。
 ようやく現状を認識して、ラルフは顔が熱くなった。
「ひざ、まくら……?」
「うん。気持ちよく眠れるかな、と思って」
 くすっと、悪戯っぽく微笑むエリス。
 妙に艶めいた表情。エリスはこんなふうに笑う娘だっただろうか。
 久しぶりのせいか、ひとつひとつの仕草に記憶と齟齬をおぼえる。
 いや、二年も経てば、少しくらいの変化は当然だ。ラルフも変わったし、エリスだって変わったのだ。
「ねえ、ラルフ」
「なに?」
「シよう」
「…………え?」
 そんな違和感を吹き飛ばすような言葉が、エリスの唇からもれる。
「私、ラルフとシたいな。ラルフは嫌?」
「え、ええと…………」
 何をするのかわからないような歳ではない。けれど、彼女は自分からそんなことを言うタイプでは……。
「ここでしなくても……」
「私、不安だったの」
 ラルフの言葉を遮り、エリスは続ける。
「ずっと、不安だった。きっと来てくれるって信じていたけど、不安で仕方なかった。ラルフが危ない目に遭っ
ているんじゃないかって。こうして会えたのはすごく嬉しい。でも、なんだか幸せすぎて怖くて。感じたいの。
これが夢じゃないって。ラルフを、身体で感じたいの……」
 そこまで言われて、拒絶できるほどラルフも冷静ではなかった。彼もまだ若い男だ。長旅で溜まっていたもの
が、むくむくと頭をもたげてくる。

20 名前:助けたお姫様は……(3)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:23:52 ID:k06HdtYE
「い、いいの?」
「ラルフが良いのなら」
「あ、ああ」
 できるだけ力強く、ラルフは頷く。
「ラルフは寝ていて。私が、シてあげるから」
 ゆっくり立ち上がり、エリスはラルフの足元の方へ回った。
「脱がす、ね」
 白く細い指がベルトを外し、ズボンを降ろす。
「わ…………」
 驚きのような感嘆のようなため息が洩れた。
 下着を突き上げて、引き裂かんばかりに隆起する男根。
「そ、そんなに見ないでくれよ」
「ごめん。……ふふ」
 はにかみ、照れ笑うエリスは可愛かった。
 彼女とこういうことをするのは、ラルフにとっても夢にまで見たことだ。想像するだけで股間に血が集まって
くる。
 下着まで脱がされてしまうと、エリスの可憐さと相まって、男根はよりグロテスクに見えた。
「触る、ね」
 いちいち確認するエリスからは緊張感が伝わってくる。
「あぁ…………」
 そっと触れた手は柔らかく、ひんやりしていた。
 すぐに両手で包みこまれると、それだけで絶頂してしまいそうなほどに気持ちいい。知らず知らず、ラルフは
うっとり呆けた表情になっていた。
 彼の様子に自信をもったのか、エリスはゆっくりと手を動かし始める。
「びくん、びくんって、震えてるよ。ふふ、気持ちいいんだ」
「あ、……ああぁ…………」
 自分でやるのとはまるで違う、少女の柔らかい手のひら。
「場所によっても感じ方が違うみたいだね。どこが気持ちいいの?」
「…………あ、ああっ……はあ、あぁ……」
「答えられないんだ。ふふふ、こうやってぇ、速く擦るとどうなるのぉ?」
「あああっ、そ、それはっ」
「ふうん、このカサみたいになってるところがイイみたいだね。ここばっかり扱いてみようか」
 エリスの声に、揶揄するような響きが混じる。
 清楚な姫の淫靡な変化に、ラルフはこみ上げた。
「あ、ああっ、イ、イクッ!!」

21 名前:助けたお姫様は……(4)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:24:57 ID:k06HdtYE
 ぜえぜえとラルフは荒い息を吐く。
 溜まっていたのは事実だが、疲労した身体でこれほど射精して、体力が根こそぎ持って行かれたような気がす
る。
「気持ちよかったぁ? ラ・ル・フ」
「う、うん……」
 頬を赤らめ、目に不思議な輝きを宿して、エリスはさっきまでとまるで雰囲気が違った。
 こぼれた精液を指ですくい、くんくんと匂いを嗅いで、
「そ、そんなこと……」
 姫のすることじゃない、と思うのだが、その淫らな光景に何も言えなくなってしまう。
 ぺろっと舌で舐めてみて、エリスは眉を寄せた。
「苦い……」
「そんな、汚いよ。舐めるなんて」
「苦かったけど、汚くなんかないよ。ラルフのだもの。ラルフの匂い、ラルフの味……」
 うっとりした笑顔を浮かべられて、ラルフの方が恥ずかしくなってしまう。
 エリスは真っ白なドレスを着ていた。牢に入れられても、姫として扱われていたのだろう。その純白のドレス
にも精液が飛んでいる。
「続き、シようか」
 ドレスのスカートに手を差し入れ、しばらくごそごそやると、ヒラヒラのついた白い布が抜き取られた。
 白い、下着。
 エリスの。
 それだけでラルフは下着を目で追ってしまい、男根は再び隆起する。
「動かないで、ラルフ。私がシてあげるから……」
「で、でも…………」
 ラルフにとっても初めての行為だ。しかし、男がリードしなければという意識をどうしても感じる。
「いいの。ラルフは私を助けてくれたんだもの。今度は私がラルフを気持ちよくしてあげたいの。ね?」
「あ、ああ。わかったよ」
 幼子をあやすような笑みを浮かべ、エリスはラルフの下腹に跨った。
 下から見上げる彼女はよりエロティックで、凄艶な美しさがあった。
「挿入れるよ、ラルフ」
 ゆっくり腰が下りてくる。白いスカートに包まれて彼女の陰部は見えないが、それが却って想像を掻き立てた。
「ん、んんっ、入って、くるっ」
「う、ああああっ」
 少し苦しそうな顔をして、エリスはラルフのものを呑み込んだ。
「あ、ああ……おっきい……ラルフの、きもちいいよ……」
「俺も、気持ちいい……エ、エリス、痛くないか……」
「痛くないよ。ラルフのが私の中に入って、すごく、びくんびくん、て、ふるえてる……」
 僅かな性知識で、初めての女性は血が出たり痛かったりすると聞いていたのだが、エリスは蕩けるような笑顔
で緩やかに腰を動かしている。
 まさに、ラルフを呑み込み、咀嚼し、味わうように。
 彼女の膣内は暖かく、きつ過ぎず緩過ぎず男根を締め上げて、絡みついて、さっきの手淫とも比較できないほ
どの快楽を与えてきた。

22 名前:助けたお姫様は……(5)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:26:04 ID:k06HdtYE
 くちゅくちゅと水音が響く。
 別の生き物のように中が蠢き、ラルフは口をぱくぱくさせて喘ぐことしかできない。
「ねえ、ラルフ」
「…………あ、ああ、はあ、んあああ……」
「私、貴方のことが好き。許嫁とかじゃなくて、貴方を私のものにしたいの。貴方は、私のこと、好き?」
 上半身で覆いかぶさり、目を覗き込むようにして。
「……はあ、あ、……俺も、好きだ。エリスのことが好きだっ……」
「愛してる?」
「ああっ、お、俺は、君を愛してるっ!」
「私のものになってくれる?」
「なるよっ、君のものになる…………」
 瞬間、ぎゅっと締めつけられて、ラルフは果てた。
 どくどくと血が吹き出るように射精が続く。止まらない。ただただ快楽を感じて、全てを委ねて、精液を吐き
出し続ける。膣内が溢れてしまうのではと思うほど。
 同時に、何かが失われた。
 さっきの射精とは違う。脱力感というより、力や命の根源が奪い去られたような、恐ろしい、危うい、喪失感。
なのに、あまりに気持ち良かった。
 射精はまだ続いている。快感も、何かを失う感覚も。
「ああ、あ、あ、ああぁ……」
 喉は枯れて、口の中がからからで、身体中から血を抜き取られているようにひび割れていく。
「ふふふ…………」
 異常な射精が終わる。
 目の前がちかちか明滅して、頭の中がずきずき重く、胸がばくばくと異様な早さで脈打っている。
 何かがおかしい。
 なのに、何がおかしいのかわからない。
「エ、リス……」
 まだ跨っている少女。白い肌に玉の汗を浮かべ、どころかドレスにも浸み込んで透けさせて、ひどくいやらし
かった。頬を上気させながら、艶めかしい笑顔。
(なんだか、俺の知っているエリスじゃないみたいだ……)
 ろくに考えもせず心中に呟いた後、ラルフは愕然とした。
 まさか。

23 名前:助けたお姫様は……(6)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:26:59 ID:k06HdtYE
 根拠はない。しかし、頭を離れない違和感。
「おまえ……エリスじゃない、な……?」
 『エリス』は少し驚いた顔をし、そして、見たこともないような邪悪な笑みを浮かべた。
「あは、あはははは!」
「なっ……」
「今更? あはっ、はは、やっと気づいたんだ、お間抜けな王子様♪」
「き、貴様……」
「あははは! ちょっと、お腹苦しい……って、これは貴方のおちんちんか」
 涙が浮くほど笑い転げる『エリス』。もはや姿が同じだけの別人だ。
「何者だ! 本当のエリスはどこにいる!?」
「さっきまでヒィヒィ喘いでた男がそんなふうに睨んでも怖くないよ、ラルフ」
 にやりと口元を歪め、
「本当の二年ぶりの再会、たっぷり楽しんでね♪」
 ぱちん、と指を鳴らした。
 その瞬間、石造りの壁が透けて、一人の少女が映し出される。
「エリス!」
 間違えようもない。
 いくらかやつれ、まったく変わっていないわけではないが、本当のエリスがすこにいた。
 呆然とした表情で。
「まさか…………」
 最悪の想像が頭をよぎる。
 今までのことが全て見られていたとしたら。
「あははっ、そう、その顔よ。せっかくこんなに手の込んだことしたんだもの。不発だったらつまらないわ。魔
王を倒した英雄様が最後の最後で罠にかかって絶望する。最高でしょう」
「そ、そんな……」
「貴方の考えてる通り。牢から助け出してくれたところから、ずうっとあの子は見てたのよ。どんな気持ちだっ
たかしら。最愛の人がころりと騙されて、目の前で偽物といちゃいちゃキスなんかして、挙句の果てにセックス
しちゃうんだもの。悲しみのあまり、心が壊れてしまってるかもね」
「くっ…………」
「向こうの声は聴こえないけど、こっちの声は届いてるの。貴方の情熱的な告白も聴こえちゃってるんじゃない
かしら」
「エリス、エリスッ!!」
 しかし、彼女の表情は動かない。
 ガラス玉のような目で、ぼんやりこちらを見ているだけだ。

24 名前:助けたお姫様は……(7)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:28:55 ID:k06HdtYE
 『エリス』だった女は男根を抜いて立ち上がると、
 ばさあっ
 と、大きな漆黒の翼を広げてみせた。
「ま、魔物だったのか……」
「ええ。男の子の大好きなサキュバス♪ 貴方の精液、とっても美味しかったわ。それに……」
 最後まで聞かず、ラルフは起き上がって拳を叩き込む。
 が。
「ぐああっ」
 あっさりいなされ、どころか、抑え込まれてしまう。
 サキュバスは決して強い魔物ではない。その特性上、力は弱く、素手でも倒せるはずだった。
「貴方の力も、美味しかったわよ」
 くすくすと笑いながら、耳元で舐めるようにささやく。
「そんな……」
「レベルドレイン。知ってるわよね。体力や魔力を奪うドレインは経験してるでしょうけど、私たちは力の根源
から吸収することができるの」
 つまり、これまでの戦いで得たラルフの力はサキュバスのものになったということ。
 ラルフは力を込めて抜け出そうとしたが、サキュバスはぎちぎちと締め上げて身動きを許さない。
「今の貴方は、そうね、一年前に火吹きドラゴンと戦った頃くらいかしら。魔王を倒した貴方なら、私なんてど
うってこともなかったのにね」
 悔しい? なんて、嘲られても、ラルフにはもう手も足も出なかった。
「う、うるさい! その顔をやめろ! エリスを汚すんじゃねえ!」
 黒い翼こそ生やしているが、サキュバスはエリスの姿のままだった。恋人の身体でいいように弄ばれて、その
顔で嘲笑されて、ラルフにはなによりの屈辱だった。
「汚す、って、汚したのは貴方じゃない。疑いもせずにあっさり騙されて。男なんて、同じ顔してさえすれば誰
でもいいのよね。むしろ、お姫様じゃしてくれないようなことができて幸せかしら」
「だ、黙れぇ!」
 怒りのあまり無茶苦茶に暴れても、サキュバスの拘束を振り解くことはできない。
 女悪魔の甘ったるい吐息に毒されて、徐々に力が抜けていくばかりだ。

25 名前:助けたお姫様は……(8)[sage] 投稿日:2010/06/19(土) 01:30:17 ID:k06HdtYE
「そろそろ大人しくしなさい。魔王様を倒した貴方の力、全て奪ってあげるんだから。貴方は魔王を倒した同じ
日に、新しい魔王を生む手助けをしてしまうの。素敵でしょう?」
「そんな……やめ、やめてくれえ!」
 今までの自分の戦いが無に帰されてしまう。
 サキュバスの残酷な罠は白い双房となってラルフを包み込む。
「ふふ、ほらぁ、エリスちゃんに貴方が情けなくイッちゃうところ、見せつけてあげましょう」
「あああっ、あ、あ、ああああっ」
 豊満な乳房が男根を挟みこみ、こねまわし、射精へと導いていく。
 力を込めて引きはがそうとするも、柔肉が擦り上げるだけでへなへなと萎えてしまう。
 エリスが見ている。
 それに、このままでは自分の力が根こそぎ奪い取られてしまう。
 しかし、ラルフは快感に抗えず仰け反り喘ぐばかりだった。
「ラ・ル・フ♪ 『エリス』に精液たくさんかけてぇ」
「あああああっ」


 勇者は倒れ、新しい魔王の下、世界は再び暗黒の時代を迎えた。

  完

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