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兇女


 明かりのない建物を忍び歩く。俺はレオン。表向きは探偵業、実際は「何でも屋」だ。
仕事は家出調査から要人暗殺まで。ま、そこまで大それた仕事はしない――というか、
まわってこないんだが。業界じゃ2流扱いだが、その辺は値段にも反映してる。安くて
安心、ご用命はウェイトリー探偵事務所まで。
 それはともかく、あるマフィアの内情を調査する依頼をうけた俺は当の組織の事務所
の一つを探索中。警備員や構成員も居るが、俺にとっては大した障害ではない。だが、
俺が求める資料は今のところ影も形もない。
(‥‥ここはハズレ、か‥‥?)
 内心に呟く俺。
「動くな」
「――なっ‥‥!?」
 背後からの突然の声と同時に、首筋に尖った物が当てられる感触。
「動けばあなたの咽を掻き切る。いやならその銃を捨てなさい」
 声の主は女だった。蒼白い月明かりがその顔を逆光に照らす。後から抱きつくように
腕を絡めてくるが、その手には長く鋭い爪が生えた籠手がはめられていた。
「怖いね‥‥その物騒な爪をどけてくれないか。そうでないと君の顔がよく見えない」
「ふふ、さっさと言うとおりになさい‥‥。そうでないと永久に私の顔を見られなくなるわよ」
「‥‥ちっ」
 俺は武器を持つ手の力を抜く。
――ガシャン。
「ものわかりが良いのね‥‥。そうでなくちゃ、ね!」
 どんっ。
 首筋に鈍痛を感じると同時に、俺は意識を手放した。

 *  *  *  *  * 

 気が付くと俺はホテルの一室のような部屋にいた。頭がずきずきと痛む。身体をよじ
るが、動かない。手足と首が鎖でベッドにつながれているようだ。‥‥服はすべてはぎ
取られている。‥‥拘束はいいとして、なぜ裸‥‥?
「お目覚めかしら? 探偵さん。‥‥正確に『何でも屋』のレオンさん、と呼んだ方がいい?」
 聞き覚えのある、やや低めのあでやかな女の声。顔をそちらへ向けると、一糸まとわ
ぬ美女が俺を見下ろしていた。年齢は20代の後半だろうか。嘘のように白い肌に長く
つややかな黒髪が映える。美しい、だが鋭く冷たい目。紅く形の良い、残虐さを湛えた
唇。見事な曲線を描く肢体。そしてしなやかなその右手には、見覚えのある籠手。
「‥‥おはよう、女王様。と言いたいところだが、この鎖を外してくれないか?
俺はこういう趣味はないんだ」
「んふふ。そう、それは残念ね。だけどあなたの趣味はどうでもいい‥‥私の趣味だから」
 そういうと彼女はベッドの上に上がり、俺の身体に覆い被さった。豊かな乳房が俺の
胸板に押しつけられ、なめらかな肌がすり寄る。そのまま彼女は鋼の爪を俺の首筋に当て、
舌先を耳に差し込みながら囁いた。
「ねぇ、どうして欲しい? 抱きたい? 抱かれたい? 殺したい? 殺されたい‥‥?」
 くっくっ、と含み笑いが漏れる。
「いつもだったら迷わず『抱きたい』って答えるんだけどね。
悪いが今日は気が乗らない。とりあえず鎖を外してくれないか?」
「‥‥あなたの都合なんかどうでもいいって言ったでしょ?」
「ぐっ!」
 首筋に刃先が食い込む。そこから生暖かい液体が流れ出すのが分かる。
「悪いけど、気絶してる間に自白剤を使わせてもらったの。私が欲しい情報はもう全部聞いた。
――分かる? もうあなたは私のオモチャでしかない。逃がすか、殺すか、
このままずうっとオモチャにするか‥‥決めるのは私。んっふふふふふ‥‥」
 血の代わりにタールが流れているかのような笑い声。
「ねぇ、勝負しましょう? もしあなたが私に勝てたら逃がしてあげる。
負けたら‥‥そうね、生きたままバラバラに引き裂いてあげる。
脈打つ心臓を引きずり出して、あなたの目の前で握りつぶしてあげるわ。
ふふふ、ステキでしょう? ああ、想像するだけでゾクゾクする‥‥あなたもそうでしょう‥‥?」
 鋭く美しい瞳が、官能と狂気がない交ぜになって熱を帯びる。その陶然とした表情に
背筋が凍る。だが、チャンスはチャンスだ。
「――な、何の勝負だ?」
「決まってるじゃない‥‥セックスで、よ。
でも『先にイったら負け』なんてルールじゃ、あなた勝ち目はないし‥‥そうね、
5回イく前に私をイかせてくれたらあなたの勝ち、ってことにしてあげるわ。
いいわよねぇ? ‥‥ま、イヤだと言っても聞かないけどね」
「‥‥ルールはともかく、俺は縛られたままか?」
「あら、それもそうね。しかたないわ、手足だけは自由にしてあげる。
ふふふ、変な気を起こさないでね? たとえ私を殺しても、首の鎖は外せないんだから。
――鍵は別の部屋にあるのよ。まぁ、あなたに殺せる相手じゃないけどね、私は」
 そう言って不敵な笑みを浮かべると、彼女は俺の鎖を外しはじめる。どうやら首の鎖
だけはかなり長めになっているらしく、少なくともベッドの上では自由に動けそうだった。
 かすかに希望が持てる状況で、俺はどう振る舞うべきか思いを巡らす。さっきの口ぶ
りだと、この女を片づけても自力では脱出できない。‥‥まぁ俺は丸裸で彼女は武器を
持っている以上、勝ち目は無さそう――いや、そうでもないか。腕の自由さえ奪えばこ
の女を殺れる。鎖は‥‥籠手を上手く使えば切れる箇所があるかも知れない。少なくと
も、イカレた女の慈悲に期待するよりは可能性がありそうだ。
 足の鎖を外した彼女は、腕の鎖を外すために俺の上半身へと這い上がってきた。顔を
向かい合わせ、びちゃり、と下品な音を立てて唇を舐めて見せる女。
「くっくっ‥‥ねぇ、変なこと考えてるでしょう? 私を殺して何とかして逃げよう、とか‥‥。
あはははは! むだよ、む・だ。体術でも負けてあげるつもりはないし、籠手だって
その鎖の範囲外に外しておくもの。
いい? もう一度言っておくわ。あなたは私との勝負を受けるしかないの」
 徐々に声のトーンが上がる。
「――ふ、ふふふふ‥‥もっと言うとね、ザーメンなんて一滴も出なくなるまで絞られて、
むなしく空撃ちを繰り返して、必死に許しを乞いながら泣き叫んで、それでも耐えられなくて、
イって、イって、イきまくって‥‥死ぬまで私に抱かれるしかないの。
そう、最後は無様にびくびくイきながら、私にめちゃくちゃに引き裂かれて、血を吐き
ながら死ぬのよ! あはっ‥‥私に挑んだ男、私を愛した男がみんなそうだったように、ね。
――ふふふ‥‥あははははははははは!!!」
 狂っていた。その目には血潮の沼のような淫欲が渦巻き、あふれかえっていた。もし
この女の口に鋭い牙が生えていても、俺は驚かない。だが、ともかく間を持たせて少し
でも情報を得ようと、らちもないことを聞く。
「な‥‥なぁ、あんたの名前を教えてくれないか?そうでないとヤりにくい‥‥」
「んっふふふ‥‥名前? そんなのどうでもいいじゃない‥‥まぁいいか。
今はラーナって呼ばれてる――はい、これで腕も解放したわ。さあ‥‥抱いて。ふふ‥‥」
 女は鎖を外すと、籠手を部屋の隅へと投げ捨てる。たしかに俺の手が届く距離では無
さそうだ。‥‥こうなっては覚悟を決めるしかない。ただ、この――血と精に飢え、
狂った女を相手に勝てるかどうか‥‥正直、自信はない。
「‥‥おびえてるの? かわいい‥‥。心配しなくても勃たせてあげる――あら? なぁんだ、
ガチガチじゃないの。くふふふ‥‥そう、頭は怖くても身体は期待してるのよね‥‥。
なら楽しませてあげるわ――死ぬほど、ね」
 情けないことだが、ラーナの言葉のとおりだった。俺のモノはとっくにそそり立ち、
浅ましくも女の身体を渇望している。そしてそこに突如快感が攻め寄せた!
「うあっ‥‥な、何を‥‥!」
「何って‥‥指で触ってるだけじゃない。ふふふ、まさかもうイきそうだとか?
弱すぎるわ、あなた」
 そう。ラーナは単に俺のモノに指を這わせただけだった。ひやりと冷たい指先が根元
からさすり上げ、鈴口を軽くつまみ、亀頭をやわらかくさすっただけだった。なのに、
それだけでもう我慢汁がにじむ。まったく力を入れない愛撫にさえ翻弄されかねないと
思った俺は、彼女の身体を引き寄せ、股間を指でなぞった。
 ぐちゅっ。
 湿った音。彼女のそこは、愛撫などとまったく関係なく、すでに溢れかえっていた。
予想外の感触に驚いてその陰裂を見ると、花びらはひくひくと蠢き、内側から熱い蜜が
ほとばしっている。女の香が鼻孔をくすぐり、俺をあざ笑うかのように誘う。
「ねえ、見てるだけで触ってくれないの? 感じさせてよ‥‥早く‥‥」
 女の挑発に、俺はその花の中心へと指を差し込んだ。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が響き、
俺の指を奥へと誘い込むようにその襞がざわめく。俺は何とかして前戯の段階で感じさ
せようと意識を自分の指先だけに集中させ、その肉の奥をかき回し、壁の内側をさまざ
まになぞる。
「あはっ‥‥ん‥‥ふふ、結構うまいじゃない‥‥。そう、そこよ‥‥もっとして‥‥」
Gスポットを探り当てた俺の攻めに、彼女は喘ぎを漏らす。その手の動きも緩慢になり、
俺の与える快感にのめり込んでいるのは明らかだった。――なんだ、これなら一気に
イかせてやれる――そう思った俺は、徹底的にGスポットを攻め倒し、同時に陰核を舌
で愛撫する。
「くはっ‥‥あはあ、そう、そこ、いいわ‥‥もっと! もっとよ‥‥!!」
 彼女の息が荒くなり、秘裂はますます熱くなり、蜜はとめどなく溢れ――
「はあん、いい、イきそう‥‥ああっ! あはぁ!!
――くふっ‥‥だめよ、イくのはあなただから!」
 高まりのさなか、突如そう言うと彼女は俺の亀頭に口づけし、尿道に熱い舌先を差し込んだ。
「ぐ、‥‥ぐああっ、な、なんだ、なにを――!」
 神経が焼き切れるような、激烈な刺激が俺の身体を焼く。
 ぶしゅっ!! どびゅうっ! どびゅっ、びゅっ‥‥!
 白い粘液質の噴水が上がる。そんな、一瞬で――!?
「あはっ、すごい勢いね‥‥たくさん出る‥‥。
熱い‥‥濃いわ、もっと出して、もっと飲ませて‥‥!」
 膝が、腰が、ガクガクと震える。俺の顔の近くにあった腰を引き、正面から見せつけ
るようにして飛び散った精液を指先ですくい取り、口に運ぶ女。さらにまだ射精が続く
肉棒に舌を這わせ、凄まじい快感を持続させる。吹き上がる白濁液を飲み込み、浴び、
恍惚とした表情で嬌声を上げる。
――いったい、なにが、おきて、るん、だ‥‥!?
「うあ、やめろ、やめてくれ‥‥!」
「くふふ‥‥なによ、軽いフェラだけでイきまくっておいて『やめてくれ』?
少しは自分の立場をわきまえなさいよ。‥‥でもま、これじゃ勝負にさえならないわね」
 そう言うと俺のモノから手を離し、ラーナは俺を見下ろしながらさもバカにしたよう
に続ける。
「‥‥情けないあなたのためにルールを変えてあげる。
イきたくなったら何度でもイきなさい。私が1度でもイけば、そこであなたの勝ちにして
あげる。だけどそれまでにあなたが失神したら‥‥んふふふふ、言わなくてもわかるわよね‥‥?」
 精液にまみれた淫靡な顔が、どす黒い笑みで覆われる。
 彼女は俺にまたがり、萎えかけたモノを指先で軽くしごく。たちまちに剛直を取り戻
す俺の浅ましい肉棒。そしてそれを――蜜のしたたる秘所へと導く。
 ぐちゅり――ずぶぅっ!
「が、ぐああっ――!!」
 どぐどぐどぐっ‥‥!
 いきなり暴発する。股間から身体が吹き飛ぶような、耐え難い快楽が押し寄せ、俺を
奈落へ引きずり込もうとする。な、何なんだこの女‥‥!
「あ‥‥はぁん‥‥ふふふ、いい感じよ‥‥。大きさも硬さも悪くないわ‥‥さあ、もっと感じさせて。
イきまくりながらでいいから‥‥ふふ、あはははは!!」
 見せつけるように胸を揉みしだき、半開きの口から舌をのぞかせ、腰をくねらせる。
ぐちゅ、ぬちゅ、と緩やかに音がする。少しでも耐えようと淫猥な光景から目をそらし
たが、かえって鋭敏になった触覚、聴覚、嗅覚が俺を苦しめる。そんな俺をいたぶるよ
うに、ラーナはますます俺を挑発する。乳肉を胸板に押しつけ、全身で愛撫しながら耳
元で囁く。
「ねぇ‥‥やる気あるの? 耐えるだけじゃ絶対勝てないわよ‥‥。
それとも私に殺されたいの? それならそう言いなさい――じっくり殺してあげるから‥‥ふふ‥‥」
 この女の言うとおりだ。だが、勝てるのか? ――いや、見込みはゼロじゃない。さっ
きの愛撫への反応は演技とは思えない。――攻撃力は異様に強いが防御力は低い、とい
う可能性もある、か? ‥‥意識さえ保てば、ひょっとするかも――?
 何とか理性を奮い立たせ、反撃開始。女の腰を抱え、下から思い切り突き上げる。
「あ、あはぁっ!!」
「ひぐっ!!」
 ラーナが反応すると同時に俺はまた爆発する。だがもう躊躇していられない。腰も脚
も震えるが、ここで諦めるわけにはいかない。この女は狂ってる。負けたら絶対殺され
る。焼けつくような感覚を飲み込みながら、必死に腰を叩きつける。幸い、五感と肉棒
を過剰なまでに刺激する女のフェロモンと性感が、俺のモノを萎えさせない。
「はあっ、いい、いい‥‥! そこよ、もっと突いて、もっと‥‥く、ああっ!!」
 どくんっ、びくっ、びくっ
 モノが脈打つのも気にしない。連続して思い切り突き上げ、快感にバランスを崩した
ラーナを動かし体位を変える。四つんばいにさせ、後から。背後から胸を揉みながら、
動物のように腰を打ち付ける。
 パンッパンッ! パンパンパンパンッ‥‥肉がぶつかり合う音が響く。もう女の声さ
え聞こえない。訳が分からない。意識が吹き飛びそうになるのを必死でこらえる。もう
出すべきものを失い、空撃ちばかりを続けるペニスが痛い。
「あはっ、はあっ! いいわ、いい! ‥‥はぁっ、だめ、負けそう‥‥!
――いや、そんなのイヤよ‥‥ああぅ!! ‥‥あなた、を、‥‥引き裂くと‥‥あひっ!
‥‥決め、たん、だから‥‥!!」
 むりやりバックの体位から正常位へ変えさせるラーナ。俺は汗と精液でドロドロにな
った肉の双丘を揉み潰し、絶え間なく律動を続ける肉棒で子宮口を徹底的に突く。
「イけ、イってくれ!早くっ‥‥! ぐああ、あああ、ひぎっ!くそぉっ!」
 何とか勝利がわずかに見え始め、俺は必死に身体を動かす。筋肉が、神経が、脳が悲
鳴を上げる。死にそうに気持ちいい。下腹部の狂ったような痙攣が止まらない。
 それでも、それでも俺は‥‥!!

「いい、すごくいい! 子宮が、からだが熱い! ああ、あああっ! すごい、すごすぎる!
くぅ、あ、ああっはぁっ!!」
 凄まじい勢いで肉襞がうねり、締まり、蜜があふれる。俺は全身が快感神経になった
ようにビリビリと震える。視界に火花が散る。ああ、身体が、心が、ラーナに、抱かれる、
溺れる、呑まれる‥‥ああ、とまらない、おれの、からだが、おれが、らーなに‥‥!!!
「ああっあああああっ!! いい、負けちゃう、っくぅ、いくぅーーーっ!!!!」
「う、うあ――ラーナ、ラーナ‥‥! ――ぐ、うああああああ!!!」
 二人は互いの身体にしがみつく。絶叫。

 *  *  *  *  * 

「かはっ‥‥あ、はあ‥‥はぁ、はぁ、はぁ‥‥はぁっ。ふふ‥‥くふふ‥‥負けちゃった‥‥」
 ベッドの上で絡み合う男女。女は男の頭を抱き寄せ、囁いた。
「ん‥‥はぁん‥‥あははっ、まだイってるの?」
 身体の中で脈打つものを感じながら、柔らかく笑う。だが、それに対する返事は――
「‥‥ラーナ‥‥ラーナ‥‥ああ、抱いてくれ‥‥もっと‥‥」
 男の目はもはや何も映していない。ただビクビクと身体を震わせ、うわごとを口にす
るだけ。
「くっくっ‥‥何よ、せっかく勝ったのに壊れちゃったの?
‥‥ははっ、あはははははっ!! ふん、つまらない‥‥くだらない男。
それならぐちゃぐちゃにつぶしてあげれば良かった‥‥。
ふふっ、でもなかなか良かったわ。――じゃ、約束どおりこれであなたは『自由』よ。
く、くっくっ――あははっ――あっははははははははははは!!!」
 哄笑が響いた。汗と精液にまみれた、狂女の笑いが。

 *  *  *  *  * 

「そういや、あの男はどうなったんだ? 事務所荒らしだかなんだかの‥‥」
「ああ、レオンとか言う野郎か? さあ‥‥ラーナさんに預けられた、ってことらしいが」
「そりゃ気の毒に。‥‥あの人の『お楽しみ』のあとは後始末が大変なんだよな‥‥。
この間も新入りがゲロ吐いてたぜ」
 肩をすくめる二人の男。人相も物腰も明らかに堅気ではない。
「おい、そいつの話だが‥‥解放されたぞ」
「ハァ?」
「おいおい、バカ言うな。あの人が逃がすはずないだろうが」
 通りがかった男の言葉にあきれる二人。
「いや、本当だ。――まぁ、アレを『生きてる』って言えりゃあ、な‥‥」

 *  *  *  *  * 

‥‥ラーナ‥‥ラーナ‥‥どこにいるんだ‥‥抱いてくれ‥‥殺してくれ‥‥
 頭の中に響き続ける哄笑と、淫らな幻影に浮かされるその男の姿をその後見た者は
――結局、いなかったという。


(終)
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