性闘士 第十二章
コウたちが拠点としている街よりも更に中心地から遠く離れた場所に、寂れた街がある。
精の質を重要視する淫魔たちは滅多に立ち寄らないので被害は少ないが、生活は酷く困窮している。
そんな街を拠点とするレジスタンスがあった。
「よう、爺さん。
リゼが見当たらねえけど、どこ行ったんだ?」
甲冑を身につけたガタイのいい男が、白ヒゲを蓄えた老人に尋ねた。
「ああ、なんといったか……お友達と連絡がつかんで様子を見に行くと聞かなんでなあ。」
呑気な様子の老人に、ガタイのいい男が詰め寄る。
「おいおい、それで行かせちまったのか?」
「うむ、リゼなら何処へ行っても心配はなかろうて。」
老人は立派な白ヒゲを手櫛で整える。
「あいつの実力は知ってるけどよ、何も危険を冒してまで行くこたぁねえだろ。」
「それほど大事な友達ということじゃろうなぁ。
確か名前は……メイちゃんといったかのう。」
「マイちゃんだろ、しっかりしてくれよ。」
「おお…そうじゃった、そうじゃった。
マイちゃんのおかげであの子はよう笑うようになったわい。
それにのう、可愛い孫には旅をさせよと言うじゃろ。」
「勝手に造語作ってんじゃねえよ。
まあリゼが負けるようなことはねぇだろうな。
心配があるとすれば、俺たちの方だ。」
このレジスタンスはまだ設立から日が浅く、まだ力を蓄えている段階で、一度も作戦を実行していないのだ。
団員の中には戦闘経験者が少数ながらいるものの、大半が素人だ。
危機的状況におかれ心配と言いつつも本気ではなく、こんな辺鄙な街に淫魔が来るはずがないとたかをくくり、男は豪快に笑った。
ガタイの良い男がひとしきり笑い、腰を下ろした時だった。
慌てふためいた様子で、外から団員が駆け込んできた。
「て、敵襲だ、淫魔が来たぞ!」
突然の出来事に団員たちは慌てふためき、ザワザワと騒ぎ出した。
先ほどまでのんびりとしていた老人の様子が一転する。
「狼狽えるでない!!
お主、敵は何体おったかの?」
「非量産型3体を筆頭に、量産型が30体ほど…だと思います。」
「うむ、まともにやりあっては勝ちの目はないのう。
非量産型を仕留め、敵の戦意を削ぐ。
お主たちの出番じゃ、しっかり頼んだぞい。」
老人はガタイの良い男の肩に手をかけた。
彼の的確かつ素早い判断に団員たちは平静を取り戻し、活が入る。
魔力はないが肉体を武器とする戦闘部隊が、家屋の出入り口付近に張り付き、その時を待った。
ぎい、という木材が軋む音と共に、勢い良く扉が開け放たれた。
「か、覚悟おぉぉーっ!」
戦闘部隊たちが、三人掛かりで勢い良く切りかかる。
彼らが振るった剣の切先は淫魔に届くことはなく、見えない何かにぶつかって弾き返された。
「ぷっ……おいおい、聞いたか?」
「クスクス……笑っちゃかわいそうだって。ぷぷっ…きっと必死だったんだよ」
「あらあら、躾のなってない豚さんがこんなにもいるなんて。」
三体の非量産型淫魔が、ゴミでも見るような蔑んだ目で戦闘部隊を見下ろす。
不測の事態に、団員たちは身動き一つとることができない。
そんな中、一番大人しそうな淫魔が口を開いた。
「まあ礼儀だし一応名乗っておくね……次女のユイです。」
ユイと名乗った淫魔は短い自己紹介を済ませた。
髪はきれいな黒髪を背中の中ほどまで伸ばしており、大人しそうな外見をしている。その風貌はいかにも文学少女といった感じだ。
彼女の胸部には殆ど起伏が見られないが、それを補って余りあるほどに所作の一つ一つがやたら艶かしい。
「三女のサキだ……っとにシケたとこだなぁ。
ウチらん家のトイレの方がいくらかマシってもんだぜ。」
人間でいうと10代後半相当の容姿をした淫魔が、不機嫌そうに悪態をついた。
肩で切りそろえられた黒髪と健康的な美脚は、見る者に活発そうな印象を与える。
そして表情や発言、振る舞いから、男勝りな加虐性の強さが滲み出ている。
「長女のマイカよ、よろしくねぇ。
それにしても使い物にならなさそうな子たちばかりねー……この場で吸い殺してしまいましょうか。」
最後の淫魔は軽く挨拶を済ませ、ぐるりと周りを見渡す。
次いで物憂げにため息をつき、残酷な提案をした。
マイカと名乗った淫魔は、人間の年齢でいうと20代前半程度の容姿と、完成されたグラマーな肢体を備えている。
その中でも一際目を引くのは、乳房だ。
彼女の動きに合わせて揺れるそれはFカップは堅く、ボンテージの服の下で窮屈そうにしている。
ほどよい肉付きの肢体は、見るからに柔らかく心地良い触感をしていそうだ。
彼女のたれ目気味な瞳とおっとりとした口調から、皆一様に温厚そうな印象を受けた。
そんな彼女の口から物騒な言葉が飛び出し、団員たちは皆自分の耳を疑った。
「ちょっとちょっとマイカ姉、昨日みたく全員腑抜けにさせないでくれよ?
張り合いがなくてつまんなかったぜ。」
マイカの吸い殺すという発言を聞いたサキが焦りを見せ、牽制をした。
不穏な発言が飛び交い、団員たちを支配する恐怖心の割合が増していく。
「あら、それなら淫気は抑えておかなくちゃねぇ。
ではそろそろいただきましょうか。」
マイカは柔らかな笑みを浮かべ、足元に転がっているガタイの良い男のイチモツを、服の上から優しく踏みつけた。
そのままゆっくりとした動きで、巧みに足を前後させていく。
淫魔からすればほんの前戯にすぎない行動だが、淫魔との交わりを経験したことのない男を絶頂に導くには十分すぎる刺激だった。
「あっ、あぁっ…うあぁぁぁっ」
静まり返っていた室内に、男の情けない声が響いた。
「もう、こんなに早くイッちゃダメじゃなぁい。
オパンツに染みてもったいないでしょう?」
マイカがいやらしく唇を歪めて言葉を発し、やっと団員たちは何が起こったのか理解する。
一瞬の静寂の後、蜂の巣をつついたような喧騒が訪れた。
この母屋の出入り口は一つしかなく、そこには淫魔が立ち塞がっている。
敵襲に備えて窓一つない造りにしていたのが仇となり、団員たちはどうしようもなく立ち尽くすしかなかった。
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