性闘士 第七章
俺はエマに勝利し、階段を上った先にある広間に出た。
ほぼ同時に二階から続く三つの階段のうちの一つから、アオイが現れる。
ここの広間の先には廊下があり、その先には領主がいるのだろう、床には上質なカーペットがひいてある。
今は領主よりも先にマイを助けに行くべきだ。
この5ヶ月間一緒に過ごして、俺はマイの弱音を一度も聞いたことがなかった。
その彼女があそこまで心を折られるなんて。
すぐにでも助けに行きたいが、そうもいかないだろう。
マイが進んだルートから続く階段を守っている二体の淫魔。
実力はエマ程ではないが、中級程度だ。
そもそもこの配置は不自然だ。
領主の間へ向かう敵を阻むのではなく、二階へ後戻りさせないように立ちはだかっている。
俺はアオイに念話を送り軽く状況を伝えると、不穏なものを感じながら淫魔との戦闘をはじめた。
結果は俺たちの勝利だった。
先に仕留めたアオイが加わり、二対一で終わらせた。
とはいえ敵は中級程度、支給された精力と魔力の回復を促すドリンクがなければ危なかった。
本当は領主戦に備えた物だったんだが。
「コウさん、急ぎましょう。」
淫核を吸収し終えたアオイに続き、俺たちは階段を降りた。
二階にある小部屋で、二人の女性が交わっている。
ヴェーラはマイの両膝の裏を掴み持ち上げ、M字を象らせ下から突き上げている。
マイを囲むように中級淫魔がたかっており、両の乳首とクリトリスをつまみ、アナルに尻尾を押しこみ、体中を舐めまわしている。
マイの下腹部は妊婦のように膨らんでいる。
秘部からは精液を、口からは唾液を垂らし、瞳には光が宿っておらずどこか遠くを見つめている。
「ふふ、もうあの娘たち負けちゃったみたいね。
あなたの仲間が二人向かって来てるわよ?」
意地悪くヴェーラが声をかけるも、強すぎる快感に既に自我を失い、ただ快楽を享受するのみとなったマイに反応は見られない。
しばらくして、三階からコウとアオイが降りてきた。
俺は部屋に入るなり絶望した。
中級程度の量産型がざっと10体程度おり、マイの体をなぶっている。
そしてマイを持ち上げ、背後から腰を突き上げている淫魔は非量産型だ。
マイの身体は様々な液体で濡れ、目の焦点が定まっていないことからも激しい陵辱を受けた後であることは一目瞭然だ。
マイの方はかなりまずい状況だがそれはこっちも同じだ。
こんな状況では万が一にも勝ち目はない。
「貴方たち、悪いけどこの娘はいただいていくわね。
この城は好きにしてもらって構わないわ。」
俺とアオイが何の行動も起こせず逡巡している間に、淫魔はそう宣言した。
城の所有権はこの淫魔にあるようだ、つまりこいつが領主か。
領主が手をかざすと、この場にいる皆の足元に魔法陣が浮かびあがる。
咄嗟に避けねばと思ったが間に合わず、俺とアオイは指一本動かせなくなる。
「私の目的は手は果たした訳だし、そろそろいくわね。
またどこかで逢えたら相手してあげるわ。」
そう言うと、淫魔たちの足元の魔法陣が光りどこかへ転送された。
後には呆然と立ち尽くす俺とアオイだけが残された。
俺は何もできずに仲間を易々と連れ去られてしまった。
一番許せないのは己の無力さではなく、自分の身が助かり安心している俺自身だ。
マイは数少ない魔力を持つ人間だ、殺されはしないだろう。
俺はもっと強くなり必ずマイを救い出す事を決意した。
その後パラパラと淫魔に勝利を収めたものが集まってきた。
この戦いから帰還を果たしたのは俺とアオイを含め10名程度。
残る約30名は残らず淫魔に連れていかれた。
コウたちは城に掲げられている淫魔の旗を焼き、傷ついた体で帰還した。
俺は本部へ戻るなり、魔術で転送したエマの元へ向かった。
彼女には隷従の首輪をかけたから、俺の命令に逆らえない。
打算で生かした訳ではないが、情報を引き出さねば。
「あら、コウ様。
案外早く終わったんですね。」
エマは俺を見つけると檻の中で鎖に繋がれたままそう言い、含みを持った笑みを浮かべる。
俺が生きて帰ってきたことに対する動揺は見られない。
「今からいくつか質問に答えてもらう。」
俺はエマの言葉を無視し、一方的に言い放った。
「ええ、構いませんよ。
どうぞご質問なさってください。」
打算でエマを生かした訳ではないが、不自然なことが多い。
情報を引き出さねば。
「では一つ目の質問だ。
お前は心を読むことはできないな。」
この質問に焦った表情を浮かべ、何か葛藤したかの様な素振りを見せた後、エマはyesと答えた。
恐らく隷従の首輪の強制力に抗っているんだろう。
「次の質問だ。
お前たちは、今日俺たちによって襲撃があることを事前に知っていたな?」
エマはこの質問により一層強く葛藤した後、yesと答えた。
ここからが問題だ。
もしかしたらレジスタンス内部にスパイがいる可能性がある。
「次の質問だ。
お前たちの狙いはマイを連れ去ることだったのか?」
あの城での布陣は不自然だった。
マイたちC班は一人残らず連れ去られてしまった。
それに、マイが闘っていたのが領主一人ならまだしも、量産型があんなにもいた。
敵の狙いが俺の質問通りだったと過程すると辻褄が合う。
「それが一番の狙いではありませんが、概ね正解です。」
他にどんな目論見があったのかと少し考えてみたが、浮かびはしなかった。
エマに拒むことはできないのだ、分からないことは全て聞き出せばいい。
「では最後の質問だ。
お前たちの一番の狙いとはなんだ?
それからお前たちに情報を流した者は誰なんだ?」
この質問には当然ではあるが、一番の葛藤を見せた。
核心に触れる部分だからな。
レジスタンス内部に裏切り者がいるとは考えたくないが、確立としては高いだろう。
そして長い葛藤が終わると、エマは口を開いた。
「その二つの質問には答えられません。」
毅然とした態度でそう言うと、エマはにっこりと笑った。
隷従の首輪は全ての行動や言動を強制できる訳ではないのか。
この大事な情報を得られず、俺は大きく落胆した。
とにかくここまでの情報だけでも団長に伝えなくては。
俺はエマにまた来ると伝え、団長室へ向かった。
コツコツと靴音が響き、段々と遠ざかっていく。
檻には一人残されたエマが佇んでおり、独りごちていた。
「この状況もメア様の意志ですからね、私はメイドとしてあの方に従うだけです。」
団長室に入る。
相変わらずのアンバランスな風体が俺を出迎えた。
いつもとは違い、団長は作業をせずうなだれている。
「コウか、ご苦労じゃったの。
マイや皆のことは聞いておるよ。」
アオイ辺りが報告したのだろう、団長にいつもの元気はない。
こちらの被害は大きいが、俺たちは大きな功績を残したんだ。
本当は喜ぶべきなんだろうが俺含め皆そうはできなかった。
「そのことではなく隷従の首輪について質問があります。」
俺はエマとのやりとりを漏れることなく伝え、内通者がいる可能性が高いことを示唆した。
本当は誰が裏切り者か分からない今、己の力だけで探っていくのがベストなのだろう。
だが団長だけは信用できる。
それは人柄なんて不確かなものではなく、この淫魔が内通者であるはずがないという確信を持ってのことだ。
この淫魔は非量産型だ、その中でも上位に位置する団長は顔が利き、俺たちに情報をリークすることができるのだ。
それだけ大きな力を持っている団長がこんな回りくどい方法を用いる訳がない。
それをせずとも俺たちを捕らえることなど容易いのだから。
「ふむ、そういうことか。
隷従の首輪はお主ら不殺の意志を掲げる者の為に作った訳じゃが、対象が命を賭してでも拒む命令は強制できんのじゃ。
そんなことを強要したら後で自殺でもされかねんからの。
まあ領主のヴェーラが口を割らせないように、何らかの魔術を施している可能性もあるがの。」
そういうことだったのか。
自主的な忠誠心からか、それとも魔術による干渉かは分からないが、とにかくエマから自白させるのは無理ということか。
「分かりました、ありがとうございます。
内通者がいる可能性があるのでくれぐれもお気をつけを。」
とは言ったものの現状手の打ちようはない訳だが。
俺のこの言葉に団長はお主もの、と返し手をヒラヒラと振った。
俺は団長室を後にし、再びエマの元へ向かった。
「コウ様、何度いらっしゃっても私は話しませんよ。」
鎖に繋がれたままのエマが、檻の向こうで無愛想に言った。
俺は檻の錠を開けて中に入る。
「もうそれはいい。
命令ではなくエマに頼みがあるんだ。」
俺には床にふせている妹がいること。
今はいつ敵が攻めてくるかも分からない危険な状態であるため、レジスタンス本部をあまり離れられない状態のため妹につきっきりという訳にはいかないことを話した。
「そうだったんですか。
つまり一流のメイドである私に、その妹さんの面倒をみて欲しいということですか。」
そう言うとエマはいたずらを思いついた子供のような表情を浮かべた。
話が早くて助かるが、頭が回りすぎるのも困りものだ。
「コウ様はさっき、命令ではなく頼みだとおっしゃいましたね。
それでしたらこの首輪を外してください。
この首輪がついていては拒否ができませんから。」
そう言うと、エマは顔を上げて鎖に繋がれた首輪を突き出してきた。
エマの言葉は筋が通っているし、彼女との信頼関係を築くには受け入れるしかない。
俺は少しの間逡巡してから、首輪を外した。
自分を縛っていた物からやっと解放されたエマは、立ち上がってじっくりと体を伸ばした後、俺に抱きつき貪るような口づけを交わしてきた。
「くちゅっ…ちゅっ……ふふ、随分お疲れだったようですね。
キスだけで力が入らなくなっちゃいましたね。」
エマは既に硬くなっている俺のモノを服の上から撫でさすりながら、不敵な笑みを浮かべた。
「コウ様は本当に扱い易いですね。
そんな風ではこの先危険ですよ?」
エマは俺から体を離し、衣服を整えながらそう言った。
「俺はエマを信用していただけだよ。
やる気なら魔術で逃げることだってできるだろ?」
俺は強がってそう言った。
このエマの行動には相当焦ったし、最悪の状況も考えてしまった。
「ふふ、確かにそうですね。
時が来るまでは貴方に従ってあげます。
あまり私を信用しすぎちゃダメですよ。」
再び首輪をつけ、その時というのはなんなのかと問い質してみるも、これも彼女の強い信念に阻まれ聞き出すことはできなかった。
俺はその後、エマを他の者に危害を加えさせないという条件付けで彼女を引き取ることになり、家に連れて行った。
首輪は装着させた者の命令しかきかないから俺が引き取るしかないのだが。
「それでは私は少しこの辺りで時間を潰していますので、妹さんとの話がついたら呼んでください。」
俺の家が大分近づいてきたところで
、エマが足を止めた。
「こんなに遅い時間だ、もう妹は寝てると思うぞ。
それに呼ぶったって連絡手段がないじゃないか。」
そう言って俺はエマに足を進めるよう促した。
(連絡手段ならこれがありますよ。
では話がつきましたら呼んで下さい。)
エマは念話でそう答えると、来た道を戻って行った。
今日会ったばかりの淫魔に、俺はもう心を開いてしまったのだ。
明確にいつからかは分からないが、俺は自分の変化に驚いていた。
家につき、ドアを静かに開ける。
俺は確認の意を込めて小さな声でただいまと口にした。
ドアを開ける音を聞きつけ、トウカはパタパタと足音をたてながら出迎えてくれた。
「おかえりなさいお兄さま!
遅いじゃないですか、すごく心配しました。」
こんなに遅くまで起きていては体に障るぞとしかるつもりだったのだが、瞳に涙を浮かべて抱きつく様を見て、俺は何も言えなくなってしまった。
「悪かったな、トウカ。
とにかくここで立ち話もなんだ、中へ通してくれないか?」
トウカの実の父であるナオさんの死が、ここまで彼女を過敏に反応させているのだろう。
俺は優しくトウカの頭を撫でた。
トウカをやっとなだめ終え、俺たちは居間で向き合った。
さて、どう切り出したものか。
トウカの精神は弱い方に部類されるだろう。
ここは遠回しに言うべきだと思うが、どうしようか?
1.遠回しに話す
2.単刀直入に話す
<1.遠回しに話す>
トウカのことを考えるとこれが一番だろう。
あまりショックを受けさせる訳にもいかない。
俺は少し考えてから口を開いた。
「あー、トウカ。
俺は今試合に勝つための特訓で忙しいから、前よりもお前と過ごす時間が減ってしまったな。」
俺は軽く前置きをして、神妙な面持ちのトウカに言葉を続ける。
「それで、これからはもっと強い敵の相手をしてくことになるんだ。
だから今以上にトウカと一緒に居る時間は減ってしまうんだ。」
この辺りから、トウカの瞳に涙が浮かびはじめた。
俺は胸が苦しくなるが、言葉を続けなければと言い聞かせた。
「出来るだけトウカのそばにいるようにするけど、目が届かない間が長いと心配なんだ。
それで、だ。
俺がお前の近くにいれない間面倒を見てくれる、信用できる人を見つけてきた。」
下手なことはしないと思うが、エマには念を入れて首輪の強制力を使う。
俺にとって一番大事な人を預けるのだ、これくらいしなくては。
言葉を続けようとするも、トウカに遮られる。
「イヤです。
お兄さまが私の治療費の為に試合をしてくれているのは分かっています。
でもお兄さまに捨てられるくらいなら死んだ方がましです。」
トウカの瞳からは既に大粒の涙が流れている。
彼女が俺に反抗したことなんて記憶の限りではない。
そのことに俺は驚いていた。
「お兄さま、試合なんてしなくていいからずっと私の側に居てください。
私は、トウカはそれでもお荷物ですか?」
トウカはすがるような目で俺を見上げる。
俺の言葉を履き違えてトウカは動揺してしまっている。
俺はトウカを強く抱きしめ、言葉を続けた。
「俺がトウカを捨てる訳ないだろ。
これはお前の為なんだ、分かってくれ。」
俺はトウカを抱きしめたまま、背中を撫でて宥めた。
大分落ち着いてきたところで、彼女を離した。
「ぐすっ……取り乱してすみませんでした。
お兄さま、トウカのお願いを一つ聞いてくれませんか?」
涙を拭きながらトウカはそう切り出した。
月明かりに照らされた彼女はいつにも増して綺麗に見えた。
俺は我に返り、ややあって何かと尋ねた。
「お兄さま、トウカのことを抱いてください。
言葉だけでは不安なんです。」
抱きしめてだったら躊躇なく受け入れただろう。
だがこの願いは受け入れない。
そう随分前から決めているのだ。
実はこの申し入れは、はじめてではないのだ。
3年程前からだろうか、トウカは俺を兄としてではなく一人の男として見るようになった。
かくいう俺も一人の女としてトウカを愛している。
淫魔が統治するこの時代、餌である人間を増やすために近親相姦などは許されている。
ましてや俺とトウカは血が繋がっていないのだ、尚更拒む必要はないだろう。
問題はトウカが病を患っていること。
彼女の体に障るのも怖いが、それよりも人との関わりが少ないことが問題だ。
世の中には俺よりもいい奴は巨万といる、それをトウカは知らないのだ。
俺にとっては喜ばしいことだが、一時の感情でトウカを後悔させたくはない。
だから、俺はトウカには全快して外の世界を見て欲しい。
いろんな人と関わりを持ち、素敵な人を見つけて欲しい。
その上で俺を選んでくれるなら、喜んで受け入れよう。
「トウカ、前にも言ったが俺はお前を愛している。
だがお前のその気持ちは本物かどうか分からないだろ?
それまではお前を抱くことはできない。」
俺は拒絶の意思が伝わるように最後の言葉を強調した。
心が痛むが、堪える。
「トウカはお兄さまを世界で一番愛しています。
お願いです、トウカを抱いてください。」
こんなに聞き分けがないことがなかったため、宥め方が分からない。
俺はトウカの勢いに押され、せめてキスだけでもという言葉に妥協した。
嬉々としてトウカは俺に抱きつくと、唇を合わせるだけの初々しいキスを交わした。
「お兄さま、困らせてしまってすみません。
ところでトウカのお世話をしてくださるのはどんな方なんですか?」
やっと聞き分けてくれたトウカに待っているよう言って、エマを迎えにいった。
「随分と待たせてしまって悪かったな。」
見知らぬ土地で長い間待たせてしまったことを謝り、俺は言葉を続けた。
「エマを信用してない訳ではないんだが、いくつか条件をつけていいか?」
俺はエマの了承を得てから、条件を告げた。
・トウカに不安を与えぬため、俺がレジスタンスの一員であることは伏せる
・トウカに危害を加えないことはもちろん、加えようとする輩から守ること
以上の条件を首輪の強制力でのませた。
強引ではあったが、エマは快く受け入れてくれた。
「ええ、かしこまりました。
コウ様がここまで念を入れるとはよっぽど大事な方なんですね。」
この言葉にあえて返すことはせず、俺たちは家へ帰った。
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