性闘士 第三章
ルミとの試合を勝利で収め、控え室へ帰る道すがら、自らの力ではこれ以上歩けず、体力の回復を待ち壁に持たれて座るコウがいた。
「精力を失いすぎたな。」
閑散とした通路に、コウの声が虚しく響く。
それにしても彼女は強かった。
意表をついてなんとか勝てたが、到底俺の力が及ぶ相手ではなかった。
自らの幸運に安堵し、ため息をつく。
そこに、先ほどまで肌を合わせていたルミが現れる。
「あれれ、お兄ちゃん、そんなとこで座って何してるの?」
「見ての通り、瞑想中だよ。
気が散る。」
しっしっと、右手を払う。
「ふーん、そうは見えないけどっ
じゃあルミも瞑想しよっと」
淫魔には本能に従順で楽観的なのが多いと聞くが、こいつも間違いなくその部類だな。
可愛らしくぴょんと、コウの横に座ると、ルミは質問した。
「唐突な質問だけど、お兄ちゃん、何者?」
ルミの顔を見てみると、真面目な表情をしている。
ということは、気付かれたかな。
渾身の魔力を使ったからなのか、中級程度はみんなそうなのか、とにかく言い逃れはできないだろう。
「俺は淫魔と人間のハーフなんだ。
といっても俺を産んで直に死んだらしいから、確かめる術はないんだけどな。」
ある程度予測がついていたのか、ルミは大して驚くそぶりを見せない。
「驚かないんだな。
俺と同じ境遇のやつもちらほらいるって事か。」
「そんな事ないよ!!
文献ではルミたち淫魔も子を宿す事ができるって見たことあるけど、方法も解明できてないし、お兄ちゃんすっごい希少なんだよ!!」
ルミは身を乗り出して興奮気味に言う。
「そ、そうなのか。
じゃあなんで驚かなかったんだ?」
「んーと、お兄ちゃん精液の味が以上に美味しかったし、最後に魔力使ったでしょ?
だからもしかしてーって思ったの!」
なるほどな。
淫魔と話しをする機会なんて、そうある機会でもないし、色々聞いてみるか。
「お前たち淫魔は魔力を察知できるのか?」
「んー、個体差はあるけどね、ルミは鈍い方だよ?
あんな強い魔力使ったら、ばれるに決まってるよ
あ、でも魔力を感じるには触れてないといけないんだよ!
だから観客にはバレてないと思うなー♪」
俺が望む以上の情報をくれるとは。
こいつはなんて扱いやすいんだ。
「だからね、お兄ちゃんが人間と淫魔のハーフで、とっても美味しい精液を提供してくれるんだって知ってるのはルミだけだよ♪」
そうきたか。
自力で歩けるだけの体力が戻った時点でさっさと帰ればよかったな。
「分かった、何が望みだ?」
「んふふ、物分りのいい人は好きだな、ルミは。
ルミが望む時にちょっとだけ精を提供してくれればいいだけだよ♪」
前言撤回。
こいつはなかなかにしたたかな女だった。
「分かったよ。
その条件のむから。
頼むから口外してくれるなよ?」
「おっけーおっけー
ルミは約束は絶対破らないよ」
ーーー本当だろうな。
コウは多額のファイトマネーと要らぬ縁を手に、孤児街へ帰ってきた。
ーーー確か今日はトウカの診断の日だったな。
直で向かうか。
俺は進路を家から孤児街のサキュバスの住処へ変更し、歩みを進める。
しばらくして、この孤児街には相応しくない、大きな研究所へ着く。
呼び鈴を鳴らしても返事がないので、勝手に上がる。
この孤児街のサキュバスは、魔の物だというのに、科学に魅入られたとかで、魔術と科学を併用して色々な研究をしているんだとか。
トウカの命を救うなんて言うから、てっきり医者なのだろうと思っていたから、俺は後になって彼女に猛抗議したのだ。
研究者のモルモットにでもする気かと。
だが、およそ人語とは思えないような難しい説明が長々と30分ほど続けられた。
殆ど分からなかったが、要約するとこれは医術の域ではどうしようもなく、私の専門分野だという事らしいのだ。
孤児街のサキュバスは、やはり最深部にいた。
「おい、いい加減呼び鈴に気づけよ。」
何やら難しそうな書類を読んでいたサキュバスの頭部を軽く小突き、言う。
「いだっ……あ、コウちゃんいらっしゃーい。
というか、私を”おい”とか”お前”とか呼ぶのやめてよね。」
「お前がいつまで経っても名前教えないからだろ。」
いつもの事だが、ちゃん付けにイラっとし、つい核心をつく。
「だーから、私は自分の名前忘れちゃったって言ってるじゃんか!
研究の毎日だったからねぇ」
サキュバスは、わざとらしく遠い目をして言った。
そんなわけあるか、と突っ込んでやりたいところだが、我慢する。
彼女も、名を晒せない訳があるのかもしれない。
どんな事情があろうと、トウカの命の恩人である彼女のつく下手な嘘に目をつぶると決めているのだ。
「まあそれは置いておいて。
ほら、今回の報奨金。
次はいつくらいになりそうだ?」
「あ、そうだったね、ご苦労様!
んー、今使ってる薬も効きが悪くなってきたし1ヶ月後くらいになるかなー。」
トウカに効き目のある薬は高価なものが多いらしいのだ。
俺は絶対的に彼女を信用している訳ではない。
俺たちの生活が安定した時に、腕利きと評判の医者に診せに行ったのだが、原因が分からない。
異常が見つからないと言ったのだ。
トウカを治す事ができるのは多分このサキュバスくらいなのだろうと、その時思い知った。
であれば、俺はどんな条件だろうとそれに従うしかない。
「分かった、一ヶ月後だな。
じゃあ、し明後日にまた来るよ。」
トウカの診断は、三日おきに行われる。
それに毎回付き添ってくる事、それが彼女と結んだ条件の一つである。
「ちょーっと、コウちゃん?
私との契約忘れちゃったの?」
そしてその都度精を提供する事。
それも条件の内だった。
「いやいや、俺今日試合だったんだって
もう精も魂も尽き果ててる。」
場の空気で流してしまおうと思ったのだが、彼女もそう甘くはないようだ。
「大丈夫だよー。
ちょうど昨日、新しい強力な精力剤作ったんだ♪
トウカちゃんも帰ったし、兄のメンツとか気にしなくていいよ」
いつも彼女が俺の精を採取する時は、彼女が作った怪しげな道具を使う。
つまり俺を実験台にしているのだ。
俺はため息をつくと、衣服を全て脱いだ。
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