<淫魔チャイルド>【9日目】
淫界への帰還まで、残り48時間。
次々と友達を失う中で、この過酷な試練にもようやく終わりが見えてきたと思える頃かもしれない。
だが満足に腹いっぱい食べることのできない日が続いた上に、七日目の日没前にハンターと戦った以降、一日半を丸々絶食している二人の体調は今や悲惨な状態だった。
「リリー、おはよ……」
「うん。お姉ちゃん、おはよう……」
どう控えめに見ても、二人の調子は良好には見えない。肉体的にも精神的にも疲労の色が濃く滲み出ていて顔色も真っ青だ。
しかも問題はそれだけではない。
時折目が霞む上に、手足には痺れも出ている。それに加え周囲の危険に対する反応も、極端に鈍くなってしまっている。
運動の苦手なリリーは元々ムリとしても、俊敏なベルでさえも、今では走って獲物を追いかける事さえ出来るか怪しかった。
「リリー、今日こそはぜったい人間狩るよ。もう危ないとかなんとかいってる場合じゃない。精液とんないと、ボクもリリーもうえ死にだもん!」
おー! と勇ましく右手を上げる姉に合わせるように、おずおずとリリーも小さく腕を上げる。
体力の消耗を最大限抑える為に、遠出もせず街道一本に二人は狙いを定めた。
だがこの日。
人通りの多い街道をくまなく見て回っても、二人が狙えそうな獲物はさっぱり通らなかった。たまに人が通りかかっても、がっしりとした頑丈な馬車に乗ってさっさと通り過ぎていくか、ハンターの護衛付きか、どちらかばかり。
駆け出しハンター程度ならば、数が自分達を上回らない限り、二人だけでも恐らく勝てただろう。だがそれは万全な状態ならばの話。今の状況では勝負にならないのは明白だ。
そうこう手をこまねいている内に、陽は真ん中を登り、ゆっくりと地面に向けて傾き始める。
「…………」
「お姉ちゃん、あんまり気をはってたら疲れちゃうよ。すこし休んでも……」
「うん。リリーはここで座ってて。ボクはもうちょっと向こうみてくる」
終始目を光らせている姉の体力をリリーが気遣って声をかけるが、ベルは顔も向けずに立ち上がり歩こうとする。
その目はまるで手負いの獣のように鋭く、普段の陽気なお気楽さは完全に消えうせていた。
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<選択肢>
1.虎穴にいらずんば虎子を得ず。街に入って直接狩る!
→2.無茶できる体力はない。焦る気持ちを抑えてここで待つ
3.ここはムリ。別の山に入って集落を狙おう
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「まって、お姉ちゃんっ」
だが、はやる気持ちを抑えきれず歩き出そうとしたベルの手を、リリーが握って押し留める。
「私もお姉ちゃんも、むりできる力はもうないよ。ね、ちょっとだけ休もう……。それにお姉ちゃんだけ動いてたら、私も休んでいられないもん」
「あ……。ごめんリリー」
臆病で引っ込み思案で万事消極的なリリー。けれどそんな妹にも妙に頑固な所がある。それを忘れてうっかりリリーだけ休んでくれと言った事を、ベルは後悔した。こんな言い方では、リリーの性格を考えれば黙って待っている訳がないのだから。
そんな当たり前の事すら気にかける余裕がなくなっている自分にも今更ながらに気がつく。
「はー。やっぱ、きんちょうしてるとダメだ。少し力ぬかないとだね」
ベルはそう言うが、実は神経が張り詰めているだけが理由ではない。本人に自覚はないものの既に思考力さえ落ち始めているのだ。
けれどその時、リリーがある事にピンと来た。
「あっ……そうだお姉ちゃん。お腹すいたのをちょっとだけ向こうに、あっちいけ〜ってできるかも」
「え! そんないい方法あるの!?」
空腹感はとうの昔に限度を超えている。少しでも紛らわす手段があるならばと、ベルは一も二もなくリリーに飛びついた。
……が。
「いや、あのさリリー。そりゃ意味あるのは分かるんだけど……むなしくない?」
「うん……でも私は、やれる事はぜんぶやった方がいいとおもう」
大きな汗を浮かべるベルに、珍しくはっきりとリリーは頷く。
リリーの提案は、なんと『服を食べよう』であった。
淫界の衣服は、着る淫魔に合わせて淫気を練りこんで作られている。その淫気を吸収して飢えを少しでも凌ごうというのだろう。
無論大した量ではなく苦し紛れの一時凌ぎにしかならないが、リリーの言う通り、何もないよりはマシだ。
シャツにワンピース、スカートなど、着ている物全てを脱ぎ二人とも生まれたままの姿になると、匂いを嗅ぐように抱きしめ僅かな淫気を吸収していく。
「少しだけ、ホッとする……」
「そだね。ただボクもまさか服たべるなんて思わなかったけど……うー、おいしくない〜……」
無論美味である訳がない。本来食べる物ではないのだから当たり前だ。程なく二人の衣服は、淫気を吸われ存在を維持出来なくなり消え失せた。
「裸のままでいるのって、なんだかちょっと恥ずかしいな……」
全裸のリリーが、ほんのり顔を赤らめ幼い胸を肘で隠す。
「そう? ボクはすっぽんぽんで歩くのも、それはそれで楽しいよ。もちろんこんな状況じゃなきゃ、だけど」
淫魔らしからぬ妹の振る舞いには苦笑いだったが、笑えるぐらいの余裕が戻った事に、ベルは少なからずリリーに感謝する。
そんな時だった。
「っ! リリー、しずかに!」
ベルが気配に気がつき、小声で唇に指を押し当てる。獲物の気配だ。
「お姉ちゃん」
「ボクが前に出てひきつけるから、その間にリリーが後ろからおしたおして。もう人間のフリするのはムリだから、もんどうむようでいくよ!」
「…………うん!」
全裸の姿では一目で淫魔とばれる以上、不意打ちは不可能だ。簡単だが、分かりやすい作戦を立て、リリーに回りこむ道筋を簡単に指し示すと、ベルは妹から離れ獲物にギリギリまで見つからないように、街道のすぐ側まで進んでいく。
「ふぅやれやれ……馬車が壊れた時はどうなるかと思ったけれど……ようやく着きそうだな。淫魔に出会わなくて良かった……」
周囲をきょろきょろと見渡しながら、三十そこそこ程度に見える男が街道を不安げに歩いている。
性技に長けてそうには全く見えない、二人にとっては願ったりの明らかなカモだ。
気配を殺して草むらにうつ伏せで蹲るベルの姿にも気がつかず、男は足早で通り過ぎていこうとするその時を見計らい、ベルは一気に立ち上がり飛び出した。
「ねえおに〜ちゃん。ボクとえっちしようよっ!」
「のわぁあ、出たぁああああああ!!」
いきなり背後からベルに声をかけられ男は飛び上がって驚く。警戒されるのを全く無視して、淫魔であることを一切隠さない台詞と全裸の姿に、男は迷わず逃げ出そうとした……が。
「ご、ごめんなさいっ!」
逃げ道を塞ぐように少し遅れてリリーが男の前に飛び出してくる。
「え、え、え……」
この時点で男は、街道から外れてでも逃げ出すべきだっただろう。
だがいきなりの事態に、顔を真っ青にさせておろおろしている間に、ベルとリリーは問答無用で男に飛び掛って押し倒した。
「やめろ、離せ、やめてくれぇえ……!」
「いっただっきまーす。はむ」
するすると流れるような動作でズボンを脱がされ、あらわになったペニスにベルがむしゃぶりつく。
まだ幼くても淫魔のフェラチオは強烈だ。背筋をぬけていくような快感に追い討ちをかけるように、リリーも唇を重ねて自分の唾液を送り込んでいく。
普段であれば、これだけの責めを重ねれば、並みの人間は身動きも取れず快感に悶えるしか出来なかっただろう。
「こんの……どけぇえ!」
「うわっ!」
「きゃあ!」
しかしそれは体調が万全であればの話。今は二人とも淫気が大幅に落ちている。
男の渾身の突き飛ばしに、ベルとリリーの押さえ込み態勢が崩れた。
「いったぁ……こんのぉ、ちっちゃな女の子に手をあげる悪いおにいちゃんには、ボクのおまんこでおしおきだー!」
このままでは逃げられるかもしれない。そう思ったベルは、硬くそり立ったペニスに体を落とし馬乗りで挿入する。一度繋がってしまえば簡単には逃げられないからだ。
「うぁあ、締まる……ちんぽが、熱くて溶けそうだ……」
にゅるにゅると生暖かい膣の中へ、ゆっくりと呑みこまれていく男の一物は、今やベルの膣中ではちきれん程に膨張しているが、腰を動かすのが止められない。
射精すれば待っているのは死だけだと分かっているにも関わらず、とろとろの中をかき回したいという欲求で頭が支配されていく。
だが。
「な、なにこれ……んんー、んーっ! んはあーっ!」
ベルは大きな計算違いをしていた。
極度の空腹状態にある時、淫魔は本能的に精液を求めてより淫らになる分、体が勝手に快感を求めるせいで、大幅に感度が上がるのだ。
もちろん、学校や親から教えられて知識として知ってはいた。だが、実際の感じ方はベルやリリーが想像していた遥か上だった。
「や、やめて、そんなにおちんちん、うごかさないでぇー! ボク、ボクいっちゃうよぉ……」
相手はハンターですらない普通の人間だ。しかも体勢は相手に不利な騎上位。本来なら勝負にもならないはずだ。
にも関わらず今、劣勢なのは明らかにベルの方だった。
「お姉ちゃん! お、お願いおにいちゃん、出し……ひぐっ!?」
姉のサポートに回り、男の唇や乳首を交互に吸っていたリリーも、クリトリスの先を歯先でかじられると、痛みと共に弾けるような快感が襲ってくる。
「あ、あふ、あは……おねえちゃ……」
あまりの威力に股を閉じて悶えのたうつリリー。こうなっては攻める所ではない。
このまま抜かずに挿入を続ければ、男の絶頂よりベルの消滅の方が早かっただろう。だが幸い、責めも膣の締め付けも緩んだせいか、正気を取り戻した男はベルの膣から肉棒を引き抜いた。
「はっはっはっ……じょ、冗談じゃねぇ。ガキ淫魔の餌になってたまるかぁ……!」
脱がされたズボンさえ拾わず、男は体を起こし脱兎の如く逃げ出す。
二人に追いかける余裕はなかった。
「…………ひっく、えっく、ふぇえええええ……」
「ボクも、泣きたい……」
快楽の波が引いた後、力が抜けたように倒れこみ泣き出すリリーを横目に、ベルも仰向けになったまま空ろな視線を、涙で滲む空へと向ける。
狩るには絶好の獲物だったはずだ。だが、今の二人では淫気で半魅了状態にすることもできなければ、挿入状態であっても単なる一般人すら射精させられない。
それどころか逃げ出されたら追いかけることさえ出来ない体たらく。
ここまで消耗する前に、行動しなければいけなかった。遅すぎたのだ。
「これからボクら……どうしたら良いんだろ……」
絶望的な呟きが零れて落ちる。
大丈夫、心配しなくていい、きっとなんとかできる。
これまでは無理矢理でもそう思えた。だが今はもう、気休めさえ口に出来ない。
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<選択肢>
1.まだ日没には少し時間がある。人間を探そう
2.もう限界。明日頑張る
→3.恥も外聞も捨てて、人間に精液下さいって頼むのはどうだろう
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「……お姉ちゃん」
「なにリリー」
「人間におねがいしてみるのって、どう、かな……。このままじゃお腹すいてたおれちゃうんです。ほんのちょっとで良いから、精液ください、って」
脱力して動かない姉の手を握り真剣な眼差しでリリーは提案したが、対象的にベルの目線はさらに遠くなる。
「もしここにリーフがいたら、ぜったい言うとおもうよ。『論外すぎて話にもならない』って」
「はぅ……」
殆どの人間にとって、淫魔とは害虫・天敵以外の何物でもない。
精を吸い、心を吸い、命を吸い、人を殺すのが淫魔だ。そんな淫魔が助けを乞うて、聞いてくれる人間などいるだろうか。
何度も泥棒に入られた家に行って、泥棒が『仕事が上手くいかなくて干上がりそうだから、お金を恵んで下さい』と頼むようなものだ。
まして淫魔の学校では、弱ったフリして襲うやり方まで教えてるぐらいである。上手く行く可能性は絶無と言って良かった。
「たぶん、さっさと逃げられるだけだろうね。悪けりゃ淫魔退治する大ちゃんすだ〜、って思われてボクもリリーもみんなのとこにいっちょくせん。それでもやる?」
「……」
無言で俯き涙を浮かべるリリーの頭に手をやり、ベルは優しく頭を撫でる。
「なんかボク今日はもうつかれちゃった。……リリーは、どう?」
「えっ、ううんっ。私はまだ平気だよ」
笑える心境では全くないが、リリーは努めて笑顔を作る。そんな妹をどこか眩しげにベルは見ていた。
「そっかー。やっぱボクよりリリーの方が、淫気つよいもんなぁ。ボクなんかもうへろへろ……。ねむくってしょうがないよ」
栄養不足の淫魔が体に変調を来たす時の症状は個々によって異なるが、この時ベルは全身の脱力に加え、激しい眠気も襲ってきていた。
このまま寝てはいけない。そうすれば明日は今日以上に、体調が悲惨な事になるのは分かりきっている。もしかすると目が覚めないかもしれない。
けれどベルは、もう自分たちでは人間を狩れないと判断していた。そして今のままでは二人とも転移まで保たず餓死するだろう事も。
「ねえリリー。まだちょっと早いけど後は明日かんがえよっか。ほら、寝る子はそだつっていうし」
「……う……うん」
力なく笑う姉の姿に、リリーは酷く違和感を覚えた。さっきまでの切羽詰った雰囲気がベルから完全に消え失せている。
地平線が多少赤みがかってはいる物の、まだ陽はあるし、街道を通る人間や集落へと戻る人間を捕まえるには良い時間が残っているというのに。
「あ〜。もしかしてリリー『でもお姉ちゃんは寝ぼすけのわりに、あんまり育ってないよなぁ』とか思わなかった?」
「そ、そんなことないよぉ……」
そんな疑念を追いやるように、冗談を飛ばしうりうりとリリーの頬を押して遊んでいたが、リリーの表情が晴れないのを見てそっと指を離した。
「だいじょーぶ。リリーはボクがぜったい、ぜーったい守るから」
代わりにリリーを抱き寄せて唇を合わせる。それは強い想いの篭った、これまでのどんなキスよりも深くて熱い物だった。
「明日は朝はやーくに起きようよ。そして街や山奥にはいかないで、森に入ろう。さがせばぜったい木こりの人間がいるからさ」
ベルの言うとおり、確かに森に入れば木こりはいるだろう。
だが、一人で仕事をする木こりは淫魔に狙われやすい職業だ。その為に屈強で性行為にも長けた男が大半で、引退したハンターの就職先の一つにも数えられている位である。
少なくとも、正攻法では大幅に力の落ちている今の二人で倒せる相手ではない。
「それじゃお休み〜。……リリー。ボクね……リリーが、大好き」
目を閉じるベルの黒い大きな瞳から、一筋の涙が零れた。
体力的に限界だったのか、まるで電池が切れたようにベルは眠りこむ。
多分明日、ベルは相討ちになってでも人間を仕留めるつもりだろう。
絶頂さえ恐れないならば、耐久がどれほど落ちていようとも普段と変わらず……いや、普段以上の激しい責めさえ出来る。
それに体が精液を渇望している為に膣のしまりも強く、愛液の量も多い。今の状態を逆に利用する事さえ可能だろう。
だがそんな事をすれば破滅的な快感が待っている。確実に自分の命と引き換えだ。
けれどそうすれば自分が死んでも、妹は淫界に帰れる。
そうベルは思っていたのだ――
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だがベルにとって最大の誤算は、そういう感覚には鈍いと思っていたリリーが、ベルの態度から全てを見抜いたことだろう。
「良かった……お姉ちゃん、寝てくれた……」
それまで何でもないように元気に振る舞っていたリリーが、苦しみだす。
「うぅ……あたま、われそう……」
本当は今朝辺りから、とっくにリリーの体力も限界だった。
だが姉の前で苦しむ姿を見せれば、ベルは絶対に自分の為にどれほど無理をしてでも人間と戦うだろう。例え刺し違えてでも。
それが分かっていたから、リリーは必死に激しい頭痛や節々の痛み、吐き気に耐えていたのだ。
「うっ……うぇえええええ……あ、あぐ……」
やがてリリーは胸を抑えて蹲る。
固形物など食べなくても全く構わない淫魔には、吐く物などない。激しい嘔吐感から出てくるのは胃液だけだ。
それでもリリーは、血の混じった胃液を地面に吐き出す。まるで手負いの獣のように四つんばいになりながら、地面の草を握りしめリリーは何度も嘔吐した。
「……は、は、はっ……。もう私……むりだよ、これ以上ぜったいがまんできない……」
吐く胃液さえなくなり、ようやく治まったリリーの顔が絶望に染まる。
今日でさえギリギリの状態だったのだ。
明日もこの芝居を続けられはしない。姉の前で悶え苦しむ自分の姿を見せる事になる。 もしそうなればきっと……いや、ほぼ間違いなく自分の為になんとかしようとして、大切な姉が死ぬ。
「……もう嫌……。私のせいでみんなが消えるのは……死んじゃうのは……いや」
リリーにはベルの考えが分かりすぎるほど分かっていた。けれど唯一、確実にそれを止める方法がある。
「…………」
しばらくの間リリーは目を閉じ悩んでいたが、日が完全に沈む頃、リリーは決意した。
リリーを助ける為に、ベルが犠牲になるつもりだったとしても。
その前に自分が消えてしまえば――
「……んっ。……あ、あっ……!」
申し訳程度に足を開いて地面に座りこみ、リリーは股間へそっと指を這わせる。
膣の淵をなぞりながら人差し指を一本差し込んだだけで、背中から頭へと突き抜けるような強い電流が走った。
「あはぁ……あ、あぁ……」
感度が上がっているのは百も承知だったが、軽い自慰にも関わらず強い快楽が大津波のように押し寄せてきた。じんじんと膣が、陰核が、幼い乳首やお尻が、体がうずく。
もっと激しく擦りたいという欲求が押し寄せてくる。
小さな吐息と共に、そっと頭から髪飾りを引き抜くと、濡れそぼった自分の膣へと滑り込ませた。
「ああ……気持ちいいよぉ……!」
膣奥に擦りつけるようにかき回す。だが自慰の道具として使うには細すぎるそれを程なく膣から引き抜くと、愛液で濡れた髪飾りをリリーはそっとベルの髪に刺した。
「……はぁ……はぁ……お姉、ちゃん」
髪飾りにこびりついた淫気が少しづつ、ベルの体に流れこんで行く。ベルの寝顔が僅かに緩んだのをリリーは満足げに見た。
リリーは自分の淫気を懸命に髪飾りへと染みこませていたのだ。量としてはほんの僅かかもしれないが、ベルが転移するまでの時間を数分、数十分でも稼げればという思いで。
「本当はお姉ちゃんが、私をイかせてくれれば良いんだけど……そんなことぜったい、してくれないよ、ね」
淫魔同士の性交であっても淫魔はイけば死ぬ。けれどその際に吸い取ろうという意志があれば、イかせた淫魔の持つ淫気を自分の物にも出来るのだ。
だがどう考えてもベルが同意する可能性が絶無な以上、間接的に微量の淫気を分け与えるぐらいしかやれる事はなかった。
「お姉ちゃん、大好き。……ごめんね」
最後に寝ているベルの頬に別れのキスをすると、リリーは立ち木の側から離れる。
本当は一人では心細かったが、万が一にもベルを起こしては全てが無意味になってしまうから。
棒のように重い足を数分ほど無理矢理動かしてから、リリーはゆっくり座りこむ。
「私が男の子たすけようなんて言わなかったら、こんな事にならなかったよね……。ごめんね、ごめんねみんな……ごめんね……」
それから未成熟な幼い乳首をゆっくりと押し込むように撫でながら指先で刺激していくリリー。
「はじめから、こうしてたら……みんなに迷惑、かからなかったのに……」
そして左手で、ぴったり閉じた割れ目の筋に指を這わせる。飢えたリリーの膣は、精液を求めるように刺激に反応し、すぐに愛液でとろとろに湿っていった。
「おまんこ、あ、あつい、よぉ……ふっ、くぅううん……」
どれほど大人しくて心優しくとも、リリーも淫魔である。
右手で胸を弄り回しながら、ゆっくり秘所を広げてフチや肉壁の外側をなぞり、引っかくように刺激していくと、ペニスを咥えこみたい秘部の衝動がまるで大津波のように押し寄せてくる。
その波を引かせることなく、逆に一気に自分へと引き込むように指を中に押し入れた。
「あぁ……とっても、とってもきもちいい……こんなにきもちいいの、はじめて……!」
切なげに喘ぎながら、リリーはそのまま二本、三本と指の本数を増やしていく。
段々と激しくなる指の動きと、それに伴って大きくなる淫靡な愛液の音をどこか遠くに聞きながら、駆けあがっていく快感と共に、リリーの意識は薄れていく。
そして爪先が陰核を軽く引っかくように擦った時。
「あ、あぅ、ひぁあああ……!」
全身が溶けるような快感が電流のように体を突き抜け、リリーの視界が白くなった。
頭から倒れこみそうになるのを開いた左手で抑え、四つんばいになりながら快楽に悶えるリリー。
もう止めろと言われても、指を止めることはできないだろう。
「きもひい、よ……」
どんくさくて。おくびょうで。足手まといでごめんなさい。
情けない私をずっと、いつもかばってくれたお姉ちゃん、ごめんなさい。
大好きなお母さん。帰れなくて、ごめんなさい。
そして私のせいで消えちゃった、大切なみんな、ほんとうに、ほんとうに……ごめんなさい……
生まれてきて。ごめんなさい――
「ひぁああ、んふ……くぅうん……ん、んーっ!」
まるで犬のように尻を高く上げて振り、激しく秘部とアナルに指を突き入れていたリリーが大きくのけぞり、ゆっくり倒れる。
その直後。
キン、と澄んだ音を立てて。
精緻なガラス細工を地面に落としたかのように、リリーの体は粉々に砕け、塵となって消えた。
中天に輝く月だけが、悲しくも可憐な百合の散る瞬間を見ていた。
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