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淫魔チャイルド【5日目】

 4日目は結局それ以降大した獲物も見つからず。ハンターとの遭遇で肝を冷やした事もあってか、子供達は日没後しばらくして早々に人間探しを諦めた。
「もうおそいわね。きょうは……無理しないでやめときましょうか」
「そだね。一日ぐらいたべなくても、なんとでもなるし」
 カリンの提案にメルルとリーフが無言で頷き、ベルも賛成する。
 結局あれから一日中、メルルはずっとリーフの手を繋いだままだった。
「私も……その方がいいな」
 恐らく誰も言わなければ自分が言おうと思っていたのだろう。六人の中でも特に慎重(臆病とも言うが)なリリーは、顔を明るくして大きく頷いた。
「なんにもわるいことしてないのに、ごはんぬきになったの初めてだよぉ……はぅー」
 シュガーも大きな腹の虫を鳴らし悲しげだったが、殊更に反対はしない。シュガーのツインテールが寂しげにぷらぷらと風で揺れていた。
 子供達の反応を一つとっても、ハンターとの出会いが六人にとってどれほど強烈だったか、容易に知れようと言うものだ。
「ねえ、みんなで丸くなって寝ましょうよ。ちょっと今日はさむいもの」
「あれっ? おねーちゃんそんなにさむい〜?」
「……あのね。こういう時は『うんそうだね』って言っておきなさい、シュガー」
 季節的には全く寒い季節ではない……というより、淫魔の場合は全裸で年中いる者も全く珍しくないのだ。余程の低温でなければ、寒さなど全く苦にもならない。
 それでも敢えてカリンがこんな事を言ったのは、改めて振り返っても背筋が薄ら寒くなる程、危険な目にあったからだろう。
「私も……本当はまだ、ドキドキしてるよ……。みんなだいじょうぶで、良かった……」
 噛みしめるようにリリーは呟くと、ベルの背中にそっとしがみつく。
「そだね、そうしよっ。ただボクは寝ぞう良くないから、そこんとこだけよろしく〜」
 反対する子は誰もおらず、そうして少々騒がしくしながらも、やがて六人はぴったりとくっつくように、寄り添って眠りについた。
 やがて完全に夜の帳が落ちた、草木も眠る真夜中。
「…………」
 折り重なって熟睡する友達の中から、ゆっくりとリーフは起き上がった。だが寝苦しくて目が醒めてしまった、という感じではない。
「ねむれないの、リーフ……?」
「姉さん」
 リーフが起きるのを待っていたように、メルルも体を起こす。
「みんなを起こしちゃうとまずいから。ちょっとだけ離れよ、リーフ」
 妹の手を引いてメルルはそっと皆から距離を取った。
 掌から伝わる体温を互いに感じながら、少しの間、無言で歩く二人。
 この姉妹の間に言葉はいらない。意識せずとも近くにいるだけで、ある程度の意思疎通が可能だ。
 だがこうして体の一部を触れ合った状態ならば、互いに何を考えているか、まるで心を共有しているように明瞭に伝ってくる。 
『怖いよ姉さん……もう人間の世界なんか嫌……! 帰りたい、帰りたい……お母さん、お母さん、お母さん……!』
 傍から見れば、いつもより少々浮かない顔をしている程度にしか見えないだろう。
 だがメルルには、リーフが抱える恐怖心が、まるで嵐のように吹きつけられてくる。
 誰にも言わず抱えこみ続ければ、確実にパンクするのが容易に想像できるほど、それは強烈な物だった。
『死にたくない、死にたくないよ姉さん……リーフ、死にたくないよぉ……』
 淫界の同年代の子供の中でも、リーフは抜群に頭が切れる。その為、リーフは何年も前から、10日間の人間界行きの危険性を誰よりも強く理解していた。
【全身性感の特異体質持ちである自分が、こんな過酷な試練に生きて帰れる訳がない】
 だからリーフは、恐らく自分が消滅するだろう事も覚悟していた。
 そう。覚悟していた、はずだった――
 
 けれど実際に危機に直面し、10歳の少女の悲壮な覚悟はガラス細工のように、脆くも砕け散った。
 今ここにいるのは、知的で冷静なパーティーの知恵袋でも、優秀な魔女でもない。イく事に脅えきり姉に寄り添う、幼い淫魔がいるだけだ。
「リーフ」
 そんな妹の気持ちを、ぎゅっと瞳を閉じて受け止めていたメルルが、そっと声をかける。
「ごめ、ん……姉さん」
「いいのリーフ。お姉ちゃんは、お姉ちゃんだけはリーフのこと、全部わかってる……」
 メルルが優しく背中に手を伸ばし、リーフをそっと抱き寄せると、リーフはメルルの胸に顔を埋めて泣いた。
「……えっ、うっ、うっ……」
 妹の静かな嗚咽を聞きながら、メルルの真紅の瞳からも涙が頬を伝って零れる。
『ね……リーフ。リーフもほんとうはシュガーちゃんのこと、すきだよね?』
 口には出さずメルルは心で妹に語りかける。
『シュガーだけじゃない……。ベルも、リリーも、カリンも……みんな大好き。大好きだよ。大切な友達だもの……』
 数年前までは、リーフは今ほど無表情ではなかった。
 双子なだけあって顔の作りはそっくりであるが、朗らかに笑った時の顔は、母親でさえメルルかリーフか見分けがつかないほどだったのだ。
 だがいつしか笑顔どころか、リーフは殆ど感情を表に出さなくなってしまった。
 しかしリーフは決して、無感情な子ではない。
 それどころか本当は人一倍、友達の事が大好きで、一人でいる事が寂しくて、そしていつも皆の事を心配していた。
 けれどリーフは今まで決して、それをメルル以外の誰にも伝えた事はなかった。
『でもねリーフ。お姉ちゃん以外は、ちゃんと声にだしていわないとリーフがどう思ってるか、わかってくれないよ?』
『でも……仲良くなったら……仲良くなっちゃったら……』
 自分が消えた後、みんなが引き摺って落ち込んだり悲しむのを考えたら、辛い――
「本当にリーフはみんなのことが大好きなんだなぁ。私とは……大違いだね」
 そっと呟き自嘲するように笑うと、メルルはリーフを抱く手に力を込める。
「私はね、みんなのことなんて本当はどうでも良いの。みんな消えちゃってもかまわない! リーフだけ、リーフだけ無事でいてくれたら……」
 それは偽らざるメルルの本心。出発前から必死に考えないようにしていた、メルルの本音が遂に爆発した。
『リーフがいない世界なんてかんがえられない! だいすき、愛してるよリーフ……ずっとずっと、お姉ちゃんのそばにいて……!』
 メルルの真紅の瞳が、まるで炎のように激しく燃えあがる。それはリーフに対する、狂気の色さえ含まれた強烈な愛情だった。
『姉さん……』
『リーフおねがい、私をひとりにしないで……!!』
 夜闇の中でいつまでも泣く二人。
 空に瞬く星々だけが、無言で双子を見つめていた。 
 
<淫魔チャイルド>【5日目】

 十日間の人間界暮らしも、今日で折り返しを迎えた事になる。
 だがこの日の寝起きは、あまり良いものではなかった。
「ふに……わ! ベルがもうおきてるっ!? お、おはよー」
「あ〜、まあね。ボクだってそういうこともあるよ……。シュガーこそどしたの?」
 明け方。空腹で目が覚めたシュガーがもぞもぞと起きだすと、寝ぼすけの代名詞と言えるはずのベルが既に一番はやく起きていた。
 二人揃って顔を見合わせてから、口を開く。
『おなかすいたら眠れなかった』
 シュガーとベルの口から出てきた言葉は、まるで申し合わせたように綺麗に被った。ついでに腹の虫の音も揃って重なる。
 食べ盛りの子供にとって、やはり食事抜きは相当きつかったのだろう。二人がそんな話をしていると程なく、リリーも起き出して来る。
「ふぁあぁ……おはよぅみんな……え? ……えっ!? お、お姉ちゃんどうしたの、もしかして……どこかいたいの……!」
 少し気だるそうに瞼をこすっていたリリーだったが、自分よりも早起きの姉の姿を見て一気に眠気が飛んだのだろう。はっきり分かるほどうろたえる。
「どっこもいたくないし元気だよ! リリーはボクをなんだとおもってんのさ」 
「ご、ごめんお姉ちゃん……。ただ私お姉ちゃんの早おきって、ほとんど見たことなかったから……」
 妹から返ってきた率直な感想に、ベルは思わず天を見上げる。
 快晴が続いていたこれまでと異なり、この日の空模様は黒く大きな雲が一杯にたれこめていた。
 だが別にベルに限らず、この日の目覚めは全体的に早く。
「あれ、私たちがさいごなの? みんな早いね」
 寝つくのが遅かったリーフとメルルが最後に起き出してくるが、それでも時間的にはいつもよりも数十分は早かった。
「……雨が降らないと良いけど」
「たしかにあやしい天気だけど、なんでボクをみて言うかな!?」
 ベルと空模様を交互に眺め、ポツリとリーフが呟く。
「まあ、べつに雨がふっても、わたしたちは困らないけれどね」
「でもカリン。雨が降れば出歩く人間の数は確実に減る。二日も食事抜きはまずい」
「うん。実はわたしも、けっこう辛くって」
 小さく舌を出しながら、カリンも苦笑いを浮かべる。
 剣や魔法などの物理攻撃に対し淫魔は無敵を誇るが、淫魔にとってハンター以上に厄介な最大の敵は空腹である。空腹状態が続けば淫気は確実に失われていく。
 始めの内は気だるさを感じる程度だが、次第に快感に対する抵抗力の減少、そして判断能力や性技の低下などを招き、最終的には動く力もなくなり餓死・消滅する。
 大淫魔クラスまで成長すれば一週間ぐらいの絶食も耐えられるが、淫気の薄い子供では三日も精液を採らないと簡単に餓死してしまう。
 そう。十日という日数は子供達にとって決して短くも、楽でもないのである。
 これからが辛いのにと……シロップが言ったのは、餓死の危険を良く知っているからなのだ。
「みんな調子わるかったりはしないわよね?」
 念のためカリンが全員を見回すが、すぐに全員が首を横に振る。
 一昨日お腹が膨れるほど精液を採ったおかげだろう。軽く見た感じでは、空腹感以外特にこれと言った影響も出ていないようだった。
「じゃあ、あんまりお腹すきすぎて本能だけでうごいちゃうまえに、今日どうするか決めましょう。どこがいいかな?」
「おねーちゃーん。すぐたべれるなら、あたしどこでもいいよ〜」
 流石に今日ばかりは王都進撃を主張することもなく、全員の心の声を代弁するような反応がシュガーが来る。
 だが、それを聞いて一瞬カリンの顔色が曇った。
「えっと……道で待つのは、もう私はやめたほうが良いとおもうな……」
「そ、そうだね。あんなとんでもない人間が、いつもいるとは思わないけど……」
 心底懲りたのだろう。手を組んで不安げに指を擦るリリーの言葉には、メルルを始め皆が大きく頷く。
「となると〜、うーん。あんまりやれる事はないなぁ。今日も街にこっそり入ってみる?」
「あたらしい人間がたくさん来る所だから、えもの探しにはこまらないわよね」
 それに初日のように、そうそう襲い易い獲物が歩いてる訳もない。渋い顔をしながらルートインの港町へ向かう事をベルが提案した。
「ただハンターの巣がすぐ側にあるのは、あまりぞっとしなくて」
 額に指を当てながら、利点と危険を天秤にかけカリンが考え始めた時。
「同じ場所に繰り返し行くより、別の場所に足を向けた方が良いと思う」
 リーフが口を挟み、新たな選択肢を出した。
「べつのとこ……なんてあったっけ?」
 お腹と小さなお尻を交互にさすっていたシュガーが、顔をあげてリーフを見やると、リーフは軽く頷いた。
「丘を越えて北に進めば、山で暮らしてる人間達の集落がある。カリン、地図」
「ああ、そういえばあったわね。ここかしら?」
 懐から出発前に渡された地図と、商人から失敬した地図を取り出し、両方を見比べながら現在位置を確認する。
 今いる場所からは、子供達の足でも三時間程度歩けば着きそうな距離だ。
 だがふとメルルがもう一つの事を思い出した。
「あ……そうだ。山にいくなら、大淫魔さまにあいさつできるかな? たしか山の近くにいるんだよね?」
「ほんとうだ、あるある〜。そだっ。ねぇおねえちゃん、みんなで大淫魔さまのとこにあそびにいったら、あまってる人間くれないかなぁ?」
 山間の洞窟の場所が記してある地点を指差しながら、実に虫の良い期待をするシュガーの言葉にカリンは呆れた。
「いくらなんでも無理でしょシュガー。おいしい精液いっぱいどぴゅどぴゅしてくれる人間、シュガーだったら会ったこともない子供に『はいどうぞ』ってあげる?」
「あ、そっか。あはははは、ぜったいあげな〜い」
 自分に当てはめてみて、期待するだけ無駄なのを実感したのだろう。からからとシュガーは朗らかに笑って即答した。
「でもこまってる子供に『かってにしなさい』って冷たいおとなも、あんまりいないと私は思うんだ。ちょっとぐらいなら私たちの狩り、手伝ってもらえないかな?」
 そうして今日の方針を色々と話し合う子供たち。

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<選択肢>
 1.ハンターに気をつけつつルートインの港町で人間釣りに行く
→2.杣人や狩人が居を構える山間の集落へ向かう
 3.ダメ元で洞窟までお邪魔して、大淫魔に助力を頼んでみる
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「でもやっぱり、ボクたちのご飯はボクたちでなんとかしようよ。もともと、その為にここにきてるんだしさ」
「本当にどうしようもなくなったら、たよっても良いかもしれないけど。今ならぜったい『自分たちでがんばりなさい』って、わたしも言われると思うわ」
 メルルの提案に、ベルとカリンが首を横に振る。
 自分の力で生き抜けというのが、人間界行きの目的である。自負心の強いベルや、貴族としての誇りを持つカリンが難色を示すのも無理はない。
 だがメルルはふと、二人の言葉に妙な強情さがあるような気がした。
「それは、そうなんだけど……。でもダメでもともとで行ってみない?」
「ねえお姉ちゃん、私もメルルちゃんの言うの……良いと思うんだけど……」
「ダメだよリリー。みんなお腹すいてるんだし、今日はより道しないでいこっ」
 出来ることなら少しでも安全な方法を、という考えがあるのだろう。
 メルルの意見にはリリーも賛成したいそぶりを見せる。だが、妹には甘いベルがいつになく、ぴしゃりと拒否した。
「で、でもすぐだと思うけどな? そんなに時間もかからないし」
 普段から周囲との協調を大事にするメルルである。普段ならばとうに諦めている所だが、それでもメルルはなおも食い下がった。
「悪いけど姉さん……今日はよした方が良いと思う」
「……えっ。どうしてリーフ!?」
 だがリーフからも反対意見が飛び出し、メルルは狼狽した。
 そんなメルルを見つめながら、小さくリーフは首を振る。
「もし協力してくれるなら良いけれど、駄目だった場合は無駄に遠回りする事になる。今日は人間探しに少しでも時間を使った方が良い。それに」
 チラッと横目で、リーフはシュガーに視線をやった。
「思った以上にシュガーが辛そう」
「え? あ、あたしならまだまだだいじょぶだいじょぶ!」
 唐突に話を自分に振られてシュガーは驚くが、すぐに両手を上げ下げしたり飛び跳ねたりして、全員に元気さをアピールする。
 そんなシュガーの頭を、カリンが軽くポコッと叩いた。
「気づいてくれてるなら嬉しいわ。うちの妹は大したことないときはギャンギャンさわぐくせに、ほんとうに辛いときはいわないから」
「あーあ、やっぱりね。ボクもおかしいと思ったんだ……」
 目を伏せてカリンは嘆息し、ベルも肩を竦める。
 図星を刺されシュガーは眉根を寄せて下を向いた。
「うー。なんでわかったの〜」
「ボクはなんとなくね。今日のシュガーってば、やたらと素直だったからさ」
 苦笑し頬をかくベルとは対照的に、カリンははっきりと、不機嫌さを露にしていた。
「あたりまえでしょ、わたしはシュガーのことなら一目でわかります! 起きてからひとことも、おなかすいた〜って泣きごと言わないんだもの、もうっ!!」
 眉を吊り上げてカリンが妹を叱りつける。
 二人がメルルの意見を拒絶した一番の理由はこれだった。
 シュガーは子供達の中でもさらに年齢が一つ小さい9歳だ。空腹への耐性が一番低い。シュガーの為にも、余計な寄り道は避けたかったのだ。
「でもシュガーと親しいベルはともかく、リーフが分かってくれてるとは、わたしも思わなかったわ」
「……。全員の体調は、気になる」
 照れたのか、顔を僅かに赤く染めながら小声で呟くと、リーフは改めてメルルの方を向いた。
「姉さん。気持ちは嬉しいけど……」
 メルルの提案の真意が、快感への耐性が著しく低い、自分の身を気遣って出たものである事などリーフも承知している。
 だが駄目元の行動で時間を空費して、万が一今日も精を絞り取れなければ、明日の体調が今よりも酷いことになるのは明白だ。
「……う……うん。そうだね、ごめん気がつかなくて」
『他のみんなのことなんて――』
 そんなメルルの心の声は、どこか悲しげなリーフの瞳に見据えられ、ぎゅっと押し込まれ奥底へと消えていった。
「あとは、こないだ行った街か山おくまで行くか。どっちかだけど、どうしよ?」
「それだとやっぱり、山じゃないかしら? もう少し時間あけたいし……それに、ほら」
 カリンはメルルの方を見やると、軽くウインクする。
「山からなら大淫魔さまのいる洞窟もちかいわ。あすになったら、いってみましょ」
 メルルの気持ちも汲んだ上で、その先までカリンは考えていた。
 リリーもどこかホッとしたように頷き、周囲に和やかな空気が流れる。
「それじゃ行き先もきまったし、しゅっぱーつ!」
 今日の方針も決まり、時間が惜しいとばかりに、小さな握りこぶしを空に突き上げながら威勢良くベルが先頭に立って歩き始める。
 山道は進む毎に少しづつ勾配がきつくなっていったが、疲れ知らずの子供たちは苦もなくすいすいと登っていく。
「お、お姉ちゃん、まってぇ……」
 ……まあ中には例外もいるのだが。
 木々の間を抜け、草むらを踏み越え中腹に差し掛かった頃、か細い声をあげたリリーの呼びかけに、ベルは軽く空を仰いだ。
「あちゃあ……。ごめんカリン先頭おねがい、ボクはリリーにつきそってるよ」
「リリーは運動とかにがてだものね、もう少しゆっくりいきましょう。ねえリーフ、雨ふるかどうか分かりそう?」
「少し日が出てきた。雲も西から東に流れて行ってる。このままなら多分……今日は降らないと思う」
 空模様をリーフに尋ねると、思ったより良い返事が返って来た事もあり、一行は歩く速度をグッと落とす。
「シュガー、本当にだいじょうぶ? 辛いならお姉ちゃん、おぶってあげるわよ」
「だいじょうぶっ!!」
 普段は黙れと言っても喋ってるシュガーが、真剣な表情で押し黙り登っているのを気にしてか、不安に思ったカリンが声をかけたが、シュガーは間髪を置かずに即答した。
 だが直後に腹の虫が情けない悲鳴をあげる。
「う〜。しゃべったらおなかすくよぉ」
「いつになく静かだとおもったら、そういうことね。リーフみたいに黙ってるんだもの」
「……別に黙ってる訳じゃない。必要のない時にあまり喋らないだけ……」
 気を緩ませて笑うカリンに、リーフが小さく抗議する。
 だが突然シュガーが顔を上げた。
「おねーちゃん、みんな! むこう、なんかはしってったよっ!」
 左の茂みの奥を指差すシュガー。
「はぁ、はぁ……ご、ごめんねみんな、遅くなって……?」 
 少し遅れてリリーとベルが追いついて来るが、すぐ張り詰めた空気に気がついた。
 荒い呼吸を整えながら、リリーも妙な雰囲気に首を傾げる。
「見まちがえじゃない、シュガー? お姉ちゃんにはなにも見えなかったけど……」
「ううん、ぜったいなんかいるよ!」
 シュガーが指し示す遠くに皆が視線を向ける。すると、茂みから小さな兎が飛び出し、一目散に駆け出して行くのが見えた。
「なーんだシュガー、うさぎだようさぎ。ボク達のごはんじゃな……ん!?」
 お肉に用はないとばかりに、ベルは手をひらひらと振るが、直後に全員が目を見張った。
 兎が飛び出した先を、何かが高速で通り過ぎて行ったのが見えたのだ。そして『それ』は立ち木を抉るように勢い良く突き刺さる。
「あれは……弓、矢?」
 目を細めて瞳をこらし、リーフがその正体を識別しようと試みるより早く、シュガーは大きく頷いた。
「うん、それだよそれっ。……ってことは人間がいるってことだよね、すぐそばに!」
 普段から外で飛び跳ねて遊ぶシュガーは、誰よりも目が良い。
 しかも空腹感も相まってか、獲物を狙う肉食動物にも似た野性的な集中力が、遠くを飛んでいく矢の存在を気がつかせたのだろう。
「どうやらシュガーの言うとおりみたいね。ハンターはハンターでも、ただの狩人さんなら怖くないわ。みんなでおいしくいただいちゃいましょう」
 猟師とハンターでは危険度は雲泥の差だ。
 カリンに同意するように、遠巻きに様子を伺う子供達。
「でも捕まえられるかな……狩人さんなら足とか、とってもはやそう……」
 運動がまるでダメなリリーが心配そうにしているが、それにはメルルが自信満々な笑みを浮かべ、大きく首を横に振った。
「だいじょうぶリリーちゃん、私たちにはリーフがいるもの。ね、リーフ?」
「確かに一度補足できれば、後は追跡魔法で場所が分かるから見失う事はない……けど」
 リリーの次に運動神経の鈍いリーフが、難しい顔をする。場所が分かっても追いつけなければ話にならない。
「へっへーん。ボクとシュガーで挟みうちだね、シュガーおくれるなよ〜♪」
「だれにいってるのさ。ベルこそ、ころんだりしないでね!」
 だがリーフやリリーの心配をよそに、飛んだり跳ねたりが大の得意なコンビは、どうやって逃げ道を塞ぐかを既に考えていた。
「だれにでも向き不向きはあるけれど、みんなでこうやって助けあえれば安心かしら。ただ無茶だけはしないでね」
「はーいおねーちゃん、ベルはあたしがちゃんと見てるねっ」 
「シュガー、わたしはあなたに言ったんだけど……」
 嘆息するカリンを尻目に、俄然乗り気なシュガー。
 その内に魔法をかけ終わったリーフが、右側を指差して小さく呟く。
「……場所が分かった。人間が二人、四百メートル先の右奥の木々の茂みで止まってる」
「ありがとリーフっ。さぁいくぞシュガー!」
「りょうかーい!」
 一直線に駆け出す二人。
「大丈夫かしら……」
「きっと心配ないよ。お姉ちゃんもシュガーちゃんも、鬼ごっこの鬼、すごくすっごく強いんだよ」
 不安げなカリンに対し、リリーは珍しく自信ありげに頷いた。
 カリンは別にリーフのようにインドア派ではないが、貴族の嗜みとして子供っぽくわーわー走り回るような遊びは大してやらないから知らないのだろう。
 けれど同世代の子供の間で鬼ごっこをする時、ベルとシュガーが組んで鬼をやるのは強すぎて禁止になっているぐらいだ。
 それどころかシュガーに至っては、単独ですら鬼をやらせて貰えない事の方が多い。
「気にしなくて良いカリン。ベルとシュガーで逃げられるようなら、どうせ他の誰がやっても失敗する」
 全員の長所と短所を把握しているリーフは、事もなげにそう言った。

******

「にいちゃん当たった、当たったよ!」
 矢に射抜かれて息絶えた兎に駆け寄っていくのは、猟師……と言ってもまだ、十二、三程度の少年と、十歳程度の子供が二人だけだった。
「は〜、やっと仕留めたよ。弓の無駄遣いってまーた親父に怒られるなぁ。でもルーシェも狙えるようになったじゃんか」
「うん。でもクルト兄ちゃんみたいに、うごく的にはまだ、ぜんぜん当たんないよ……」
「俺だって五年かかったぞ。筋は俺よりルーシェのが良いんだから、頑張れ……よっと」
 狩りも終わり弛緩した空気が漂う中、兄弟の微笑ましい会話が弾む。
 だが狩った兎の耳を掴んで持ち上げた時。
「みーつけたっ! わーい、おいしそう〜!!」
 茂みを抜け、飛び出して来たのはシュガーだった。
 可愛らしい声と幼い容姿に一瞬、少年たちは呆気に取られる。
 だが股間がむず痒くなるような刺激と、全裸の姿にすぐ気がつく。
「……! い、淫魔だ!!」
 獲物を放り捨てると弟の手を引き、迷う事なく一目散に逃げ出そうとする兄。
 けれどその前に立ちはだかるように、回りこんでいたベルが姿を表す。
「ありゃりゃ、子供だったんだ。でもおなにーはしたことあるでしょ。ね、ボクのここにいれてみない?」
 指で秘部を大きく広げて見せる。愛液で湿った幼いあそこは、幼女の物とは思えないほど淫靡だった。
「く、来るなよっ! それ以上近づいたらう、撃つぞ!」
「へっへーん。うてるもんならうってもいいよ。そーれっ、とつげき〜!」
 全く怖がる素振りも見せず駆け寄ろうとするシュガーに対し、つがえた矢を反射的に少年は射た。
 まだ一人前ではないが、それでも猟師の子供なだけはあるのだろう。風を切って一直線に飛んで行った矢は、狙い違わず全裸のシュガーの薄い平坦な胸板を貫いた。
「あぅ!」
「ちょっ、シュガー!?」
 人間であれば確実に、心臓を射抜かれ即死だ。
 ベルも思わず声をかける。するとシュガーは頬をパンパンに膨らませ、乱暴に刺さった矢を引き抜き真ん中からへし折った。
「ぶ〜! こんなのぜんぜんきかないけど、それでもあたしたちだって、ちびっとはいたいんだぞっ! ばかぁ!」
 胸に開いた穴も僅か数秒で塞がり、いきり立つシュガーの全く無事な姿を見て、はっきり顔を青ざめる少年たち。
「だ、ダメだ逃げるぞルーシェ!」
「に……にいちゃん、怖いよにいちゃん……!」
 だが獲物が駆け出そうとした時、ベルとシュガーは目で合図を送る。
 シュガーが前方に立ちはだかって距離を詰めながら、ベルがすっと左に抜ける道を通せんぼするように塞いだ。
「こわくないよ、いっぱい気もちよくしてあげるからっ♪」
「くそっ、こっちだ!」
 右手は崖。後ろの茂みを突き抜ける以外に道はないと判断したのか、真後ろへと駆け出す兄弟。だがこの時、彼らは大きな誤りをおかしていた。
 空いている逃げ道に向かうのではなく、立ち塞がるシュガーやベルを体当たりしてでも突き飛ばすべきだったのだ。
 だが淫魔には触れただけで魅了されると里で教えこまれた知識や、矢を受けても物ともしない姿から、兄弟にはとてつもない脅威に見えてしまったのだろう。
(まだ幼く淫気も弱い子淫魔では、突き飛ばす際に触れる程度ならば魅了されず普通に走り抜ける事ぐらいは出来たに違いない。物理攻撃など淫魔はまるで出来ないのだから)
「シュガー!」
「いわれなくてもわかってるー! ベルこそちょっとおそいっ!」
 その兄弟の後ろを、つかず離れずの距離で追い続けるベルとシュガー。
 時折二人は、指や視線で合図をするように速度を上げ下げして牽制する動きをしながら、獲物が急な方向転換をして枝道に入ったりしないよう、逃げる先を誘導していく。

 しかし何より、この少年たちが致命的に間違ったのは。
『こんな幼い子供が自分達を狙った方向へ誘いこめる』はずがないと、無意識のうちに思ってしまった事だった。

 流石に普段から山歩きに慣れている少年達の方にスピードでは分があるのか、徐々に差が開きだし、逃げ切れると思わせた時。
「残念。ここは終点」
「わぁ、すごいね。リリーが言ったとおりだわ、本当につれて来ちゃった」
「うんっ。…………あっ、でも……まだ子供だよ……」
 待ってましたとばかりに、残りの四人が姿を現す。
「うわぁあああああ!!」
 逃げる足が止まったその時、シュガーが躊躇いなく真後ろから少年達にタックルを仕掛けて押し倒す。
「さっ、ぬいでぬいで〜」
「はな、せ……っ!」
「ちぅ……ちゅっ、ん……んっ、んっ」
 六人の中では一番淫気の小さいシュガーだが、精通したばかりで性行為経験のない子供など淫魔のキスの前には一たまりもない。
 舌を入れるまでもなかった。肌と唇の触れあいだけで全身が熱病にかかったように火照り、ペニスはズボンの上から天を突いていた。
「いっただっきまーす!」
「もうシュガー、一人で勝手にえっちするのやめなさ……って、全然聞いてないわね……好きにして良いわよ」
 幸せ一杯の顔で勃起したペニスを頬張るシュガーを嗜めようとするカリンだったが、空腹度数がピークに達したシュガーには、何を言っても無駄である。
 危険なしと判断したのか、カリンはそれ以上何も言わず大きく息を吐く。
「はぁ、はぁ……あーつかれた〜。あれ、どしたのカリン変な顔して」
「別に大したことじゃないわ。ただちょっと……わたしも知らないこんなシュガーの特技があったのが分かって、ね」
「?」
 なんとも微妙な表情をカリンは浮かべていた。妹の能力を必要以上に軽く見ていた事に、少々自己嫌悪でもしているのだろうか。
 ベルでさえ息を切らせているのに、シュガーは全くなんの疲れも見せていない。シュガーの運動能力の高さがいかに図抜けているか分かる。
「にいちゃん、にいちゃーん!」
「あはっ、おちんちんぴくぴくしてる。でもちっちゃくてもおいしい〜」
 今まさに輪姦されようとしている中、下の弟が必死に兄を呼びかけていたが、その声も空しくシュガーの責めでかき消された。
「や、やめて、いじらないでぇ……ああぅ……あぁー!」
 先走りと唾液でぬるぬるになったペニスを、シュガーはまるでおもちゃを弄るように玉袋を優しく揉み、指先で尿道孔を刺激する。
 痛みと快感の入り混じった悲痛な叫び声をあげ、まだ小さな少年のペニスは淫気によって無理矢理、シュガーの顔に大人と変わらない量の精液をぶちまけていた。
「くそ……大勢でよってたかって、卑怯だぞ……!」
「そうかしら? あなたたちもうさぎに同じことをしていたじゃない。負けたらごはんになるんでしょう?」
 倒れて動けなくなった子供達を見下ろすように、鋭い視線をカリンは向ける。
 猟師が兎を狩るのも、淫魔が人間を狩るのも全く同じことなのだ。そう、少なくとも淫魔の側から見れば。
「でもわたしたちは矢なんか使わないわ。だいじょうぶ、気持ちよくイけるわよ」
 濡れそぼった秘部を指で押し開きながら、弟の方の小さなペニスに、カリンはゆっくりと腰を降ろす。
「やめて、やめてよぉおおお……!」
 動くどころか、秘肉がペニスを締めあげる必要さえなかった。カリンの膣に先っぽが入っただけで少年は射精していた。
「うわー、はっやーい」
「……もう。なかに全部すっぽりはいるまでぐらい我慢してくれればいいのに」
 シュガーが囃し立て、カリンも苦笑する。
 きゅっきゅっと秘肉の擦りたてる淫靡な音を立て、優しく抽挿する度に一往復も保たず少年はカリンの中に精を注ぎ込み続けた。
「に、にいちゃん、止まらない、とまらないよ……」
「弟をはなせよっ! オレは好きにしていいから弟は……あ、ぅ」
 弟の命が目の前で削られていくのに激昂した兄の叫びは、途中で強引に遮られた。
「元気のいい子はボクもすきだよ〜。がんばれがんばれ」
 ベルは優しく足の裏を擦りつけ、普段以上にゆっくりと刺激する。
 まるでどこまで我慢できるか図るように、適度にペニスに快感を練りこみながら、亀頭が膨らんできたタイミングを見計らってベルは足をどけた。
「あ、あ、あぁ……」
 先ほどまでの威勢は跡形もなく吹き飛び、少年は身悶えしていた。
「どーしたの、ちょっとこすってあげただけなのに。あれ〜、もしかしてもうイっちゃうんだ。ボクの足にたえられたら、見逃してあげても良いんだけどなぁ」
「ほ……本当、か……?」
 目の前に垂れたか細い光明に少年の目に光が戻る。
 見逃すという単語を聞いて、近くにいたリーフは露骨に顔をしかめたが、ベルは大きく頷いた。
「うんっ。【たえられたら】ね? そうだなぁ、10数える間だけでいいよ。じゃあひと〜つ」
 カウントをしながら、ベルはペニスを踏みつける強さにはっきりと強弱をつけ始めた。
 爪の先で優しく尿道道を引っかきながら、ぎゅうぎゅうに押し付けたかと思うと、親指でなぞるように擦り出す。
「はい、ふた〜っつ」「む、無理に決まってるだろこんなのぉ! あああ、足でぐにぐに踏まれてんのに、踏まれて……で、でる、るぅ……!」
 最初から逃がすつもりなど毛頭ない以上、10まで持たせるつもりなどある筈もなく。
 少年の我慢はスペルマと共に、ベルの足だけでなくお腹の辺りまで飛び散った。
「はいバトンタッチ、メルルとリーフつぎ良いよー」
「うん。リーフ一杯しごいてあげて。私はこの子のお尻におもちゃいれてあげるから」
 メルルはどこか楽しげにいそいそと淫具を取り出し、アナル用のローターを奥へと押しこむと、すぐに全身が激しく痙攣を始めた。
「あ……あぐ、ああ……やめ、やめえぇえぇ……」
 淫界製の淫具は、使っている淫魔の淫気で動く。それはつまり、振動や刺激以外に、メルルの淫気を体内に流しこまれているのと同じなのだ。
 メルルは魔法使いとしては四流以下だが、代わりに淫具全ての扱いに長けている。性行為の経験もない少年が土台耐えられる訳がない。
「ねえリーフ、どんな感じかな?」
「姉さん犯りすぎ……。こんなに腫れ上がってたらしごく必要なんか無い」
 これでは手コキどころか指先が触れただけで絶頂すると判断したリーフは、そっと口中に少年のペニスを含んだ。
「いく、いく、いくぅ……」
 ねっとりとした淫魔特有の生暖かい口腔の中で前後に軽く揺すっただけで、リーフの口に精液が迸る。
「……んっ! けほ、けほ……」
「いっぱい出たね。あれリーフ? どうしたの?」
「むせただけ……」
 変な所に入ったのか、綺麗な顔を精液で汚しながらリーフは眉根を寄せていた。
「ごめん、つい手加減しないでやっちゃった。おちんちん、すっかりよごれちゃったね。私がきれいにしてあげる」
 棹を掴み、精液と唾液でべとべとになった少年の股間をメルルは丁寧に舐めていく。
「や、め……いらな……ぁー!」
 しかし快感を全身に練りこまれた状態で股間を舐められて、綺麗になる筈もない。いや、やがては綺麗になるだろうが、それは少年達の命が尽き果てた時だ。
「…………」
 だがそんな中、リリーだけが暗い顔で輪姦の輪にも加わらず、遠巻きに様子を見ていた。
「あーもう、リリーってばまたそんな隅っこにいる! ほら、こっちおいでよリリー。みんなお腹すいてんだから、早く来ないとなくなっちゃうぞ!!」
「あ、あのね、お姉ちゃん……私は、その……」
「しのごの言ってないでさっさと来るの!」
 妹がいない事に気がついたベルが、呆れ顔で側まで寄って強くリリーの手を引っ張り引きずって行こうとする。
「おかぁさん、おかーさ、ん……」
 丁度その時。下の少年の口から掠れた声が漏れた。

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<選択肢>
 1.子供であってもトドメを刺すのが当然
→2.可哀相だから見逃してあげたい
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「ね、ねえみんな!!」

 幼い顔を涙と涎でぐしょぐしょにし、朦朧とし始める意識の中で繰り返し母親を呼ぶ男の子の姿を見て、とうとうリリーが声をあげた。
「わぁあ、びっくりした! どうしたのさリリー、そんなでっかい声だして」
 声の小さい普段のリリーからは想像できないほど大声で呼びかけられ、隣にいたベルは飛び上がるほど驚き、他の全員も思わず手や責めが止まる。
 リリーが声を張り上げるなど、誰も聞いた事がなかったからだ。
「お姉ちゃん……みんな……かわいそうだよ……。た、助けてあげようよ……!」
 淫魔にとって、人間は単なる餌に過ぎない。
 けれど自分と大して変わらない、年端もいかない子供が母親に助けを乞う姿は、心根の優しいリリーには耐えられなかったのだろう。
 だがすぐにシュガーが猛然と反対した。
「えええええ、うそだー!? あたしぜったいやだからねリリー! まだちっちゃいけど、こんなにおいしいのにっ」
 目の回るような空腹感こそ収まったが、もっと食べたいシュガーにとって、リリーの提案を拒否するのは当然すぎる程に当然だった。
「わたしも反対だわ、リリー。淫魔が人間を見逃すなんて、あっちゃいけないことよ」
 そしてカリンもシュガーとは違う理由で強く反対する。
 淫魔が精を絞りとって殺さず人間を見逃した……という事は実は稀な話ではない。と言うよりも、かなり頻繁に起きている。
『殺すのが可哀相になった』
『可愛いからまた相手をしてあげようと思った』
『その人間に惚れてしまった』
 ……など、理由は多岐に及ぶ。
 だが。
「学校でおそわったじゃないのリリー。人間は逃がしたらロクなことがない、って」
 カリンにぴしゃりと言い切られリリーは俯く。
 現在どこの淫界であれ、性交に関して子供に真っ先に教えることは『人間は呪縛させたら、必ず一滴残らず射精させてトドメを刺しなさい』である。
 人間と淫女王の長女が結ばれた……などという、極めて稀有な例もあるが、殆どの場合、淫魔と人間との逢瀬で待ってるのは悲惨な運命であるからだ。
 逃がしてあげたにも関わらず、ハンター協会に報告されて追跡を受けて死んだ。
 手玉に取っていたはずが、こちらの性感帯を責められイってしまった。
 惚れた人間と一緒に同棲生活を始めたものの、ハンターに淫気を嗅ぎ付けられて滅ぼされた。などはまだ、可愛いレベルだ。
 酷い場合では、逃がした人間が淫魔に強い怒りを抱いて超一流ハンターまで成長してしまい、挙句の果てに淫界ごと滅亡させられたケースまで存在する。
 人間を逃がすなど、淫魔にとっては百害あって一利なし。
 子供は誰もが皆、耳にタコができるほどそう聞いて育っていくのだ。
「でも、でも、私あの子みてたら……胸のあたりがぎゅーって……くるしくなって……」
 だが理屈では理解していても、感情はどうにもならなかった。
 母親や姉にべったりのリリーの場合は特に、自分とダブって見えてしまった事もあるのかもしれない。
 縋るように全員を見るリリーに、ベルは心底困り果てた表情をした。
「あ、あのさリリー。リリーのきもちは、ボクだってわかるよ? でもだからって助けてあげよう、ってのは違うんじゃない……かな……?」
「……お姉ちゃん」
「うわーん! そんな目でボクを見ないでよ、リリー!」
 瞳に涙を溜めて、蚊の鳴くようなか細い声をあげるリリーの様子に、ベルは両手を万歳して皆を見回した。
 心中では当然ベルも大反対だが、妹に駄目だとはっきり言い切るのは辛かったらしい。
「でもリリーちゃん……私も良くないと思う。だって、ここで逃がしてあげたとして、帰ってから私たちのことを言われたらこまるもの」
「い、いわないよぉ……!」
「オレ達を助けてくれたら絶対に大人にはなにも言わない、約束するっ!」
 メルルの台詞に被せるように、文字通り必死な兄弟の叫びが森中に響く。 
 幼い狩人の兄弟の命運を決める天秤が、微妙なバランスの中で揺れ動いていたその時。

「論外」

 炎のような紅い瞳と真逆な、凍りつくほど冷たい声色で。
 それまで黙っていたリーフが、リリーに向けてはっきりと言い放った。
「……リーフ、ちゃん……?」
「少しでも多くの精液が欲しい時に、逃がすなんて冗談じゃない。そもそも、生かして帰せば絶対に皆の事をばらすに決まってる。絶対に殺すべき」
「あ、あのさリーフ。怒りたくなるのはボクもわかるけど、もうちょっとやさし」
「前々から思ってたけれど、ベルは妹に甘すぎる」
「はぅっ」
 妹を慮って少しやんわり言うように頼もうとしたベルだったが、キッと眉を吊り上げリーフに睨みつけられると、黙らざるを得なかった。
「だ、だけど言わないって言ってるよ……。私は、信じてあげたいよ……」
「馬鹿っ!」
 そんな中、なおも食い下がろうとするリリーだったが、リーフから怒鳴られ、リリーはびくっと縮こまった。
「人間がそんな約束を守る訳ない! もし仮に守ったとしても、これだけ射精させて衰弱してたら、淫魔に襲われた事なんか一目で分かる!!」
 泣き出しそうなリリーの様子にも構わず、リーフは容赦なく正論を浴びせる。
「そうなれば絶対に山狩りをされる。数が集まれば只の人間でも十分危ない。皆の身を危険に晒す事になるのに、本気で言ってるのリリー!?」
「あ、ぅ、あぅうう……! うぁあーん……」
 烈火の如く責められ、とうとう堪えきれずに、リリーはしゃくりあげて泣き出してしまった。
「リリー、泣かないでよぉ……」
「みんなのことがリーフは心配なの……。かわいそうとは思うけど、まちがった事リーフは言ってないよね? 気持ちよくいかせてあげようよ」
 泣き出すリリーを抱きとめながらも、流石に賛成できないのかベルは額に巨大な汗を浮かべていたし、メルルも沈痛な面持ちで大きく頷いている。
「ねーみんな。いつまでだまってみてるの〜?」
 いらない所でお預けを食らったシュガーは、不満げに自分の指を咥えていた。

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<選択肢>
 1.リーフの主張に従う
→2.折衷案を考えてみる
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 リーフの主張は、一部の隙もない正論だった。
 だが理詰めで全ての物事が片付く訳ではない。
「リーフの言うのは、わたしももっともだと思うんだけれど……」
 ちらっと人間の兄弟に視線をやると、ため息混じりにカリンは呟いた。
 年齢が自分達と同程度じゃなければ。
 いや、せめて兄弟でさえなければリリーもこれほど強く主張などしなかっただろう。
 だがこの兄弟は自分達とあまりに重なる所が多すぎた。
「…………」
 脅える弟の手をぎゅっと握りしめ、兄の方は黙って事の成り行きを見る。
 普段から動物と命のやり取りをしている兄は、本能的に分かったのだろう。完全に命を握られている今、余計な口を挟むのは命取りになると。
 助けるつもりなど無かったカリンも、そんな兄の無言の必死さを見て思う所があったのか、投げやり気味に首を横に振った。
「あぁもう、頭がいたくなりそう……しょうがないわね、たすけてあげる?」
「カリン!」
 だが即座にリーフが、カリンに向けて眉を吊り上げて怒鳴った。
「リーフがなにを言いたいかは、わたしもよくわかってます。このままただ帰してあげるなんて言うつもりはないわ」
 一度そこで言葉を区切って、皆を見やる。
「みんなお腹すいてるんだもの。吸いころしまではしないけど、まったく動けなくなるまでは飲んじゃいましょう? そして、そのまま置いていくの」
「な〜るほど。つまり自分でたすけを呼んだりできないようにするのか」
 いち早くベルがカリンの言いたい事に気がつくと、カリンは苦笑いしながら頷いた。
「そう。そこから先は、この子たちの運。力つきて死んじゃうか、動物にたべられちゃうか、もしかしたら助けてもらえるか。わたしたちは知らないよ、ってことね」
 面倒だとは思うけど、と最後にカリンは付け加える。
「でもカリンちゃん。もしたすかって、里でみんなの事をはなしたらまずいよ」
 山狩りの危険をメルルが指すと、カリンは軽く肩を竦めた。
「そこが一番問題なんだけど……でもそんなすぐには助けてなんかもらえないでしょうし。だから遅くても明日の昼すぎには山からおりちゃいましょう。山狩りと言ったって、こんな所にハンターがいるはずもないもの。淫気をたどられることもないわ」
「そ、それはそうかもしれないけど……」
 横目でメルルはリーフを見やる。
 リーフはカリンの話を聞きながら、何度も大きくかぶりを振っていた。
「無意味! 0に出来る危険を、1だけ残して放置する意味が全然理解できない! そんな無駄なことすべきじゃない!!」
「ええ、リーフの言うことは正しいわ。わたしも本当はそうおもうんだけど……ね。ただリリーの性格だったら、ひきずってしまうでしょう、ベル?」
「そりゃもう。ボクがほしょうするよ……」
 しゃくりあげるリリーの背中を優しくポンポンと叩きながら、ベルはどこか疲れたように頷いた。 
 カリンも殺した方が良いと本当は思っている。しかしリリーは確かに色々と甘いが、淫気と技術の高さはカリンも認める所だった。
 人間界にいる間ずっと、六人は運命共同体なのだ。この件でリリーがショックを受けて萎縮し、責めに影響が出てしまうのだけはカリンは避けたかった。
「それに、あんまり寝ざめが良くなさそうなのはわたしも同じだもの。みんなの気持ちを考えたらきっと、このぐらいが良いのかもしれないわ」
「え〜。さいごにでるせーえきがあたしすきなのに。それにぴくぴくしながらうごかなくなるのみるの、だいすき♪」
「ひぅっ……」
 後ろにいる人間の弟が、シュガーのあどけない笑みを見て体をがたがた震わせる。
 淫魔にとってはごく普通の反応だが(リリーが異常なのだ)今だけ自重しなさい、とカリンは軽くシュガーの額を小突いた。
「リリー。カリンの話きいてた? どんなもんかな、これがギリギリだと思うけど」
「えっく……う、うん……みんな、ごめんね……」
 これ以上はリリーも無理なのは分かっているのだろう。無茶を言って全員を困らせてしまった事を詫びるリリーに対して、皆の反応はさまざまだった。
「いいよいいよ。リリーらしくてさ。だからいつまでも泣いてないで」
「ええ、ベルの言うとおりよ。変にひきずらないで、明るくいきましょう」
 妹に甘いベルは言うに及ばす。カリンも心中では十中八九、助けが来る前にこの兄弟は死ぬだろうと踏んでいるのもあり、リリーへの反応は穏やかだ。
「ぶーぶー! でも……ま、いっかぁ。はやくつづきしよつづきっ」
 シュガーは不満たらたらではあったが、ギリギリまで吸えるならまあいいや、という考えに落ちついたのか、ぶーたれながらも同意した。
「私は、ぜったいに良くないとおもう……ちゃんと最後まですっちゃおうよ……」
 そんな中でメルルは顔をしかめ抵抗するそぶりを見せる。それでも強く言い出せないのは、リーフが全体から孤立するのを心配しているからだった。 
 だがリーフは無言で、メルルの肩に手を置く。
 リーフの長い赤髪が、どこか寂しげに風に揺れていた。
「……分かった……皆がそう言うなら」
 まるで憑き物が落ちたようにリーフの表情からは、すっと表情が消えた。
「ご、ごっ、ごめんなさい、リーフちゃん……」
「リリー。一度決まったならもう謝らないで。これは団体行動で決めた事。提案した責任と覚悟さえ持っていれば良い」
「う、うん……」
 リーフの言葉に気圧されるように、リリーは頷く。
「それじゃいただきまーす♪」
 だがそんな深刻な空気を吹き飛ばすように、シュガーはむしゃぶりついていた。
「んぶ、んむっ。おいしい、おいしいよぉ、もっとちょうだい」
 幸せ一杯の顔で精液を舐めとるシュガーの様子に、全員が苦笑する。悩みなどと無縁なシュガーの姿は、正しく淫魔だった。

 それから数十分後。
「あ、あぐ、あ……」
「…………」
 空寸前まで絞り出し、虫の息の子供二人をその場に放置して六人はその場を離れた。

「シュガー、お腹の方はどう?」
「ん〜。はんぶんちょっとかなぁ。やっぱりぜんぶのみたかったよぉ」
「やめなさいシュガー、はしたない……」
 空腹感は消えたが、獲物が子供なせいか量が少なめだった事もあり、丸裸のシュガーは少々不満げに、幼い子供特有のぽっこりしたお腹を手でペチペチ叩く。
 カリンが軽く嗜めるが、その内に狸よろしくポコポコ音を立てて遊び始めた為、程なくシュガーの頭上にカリンのゲンコツが落ちた。
「でもこれからどうしよう? もうちょっと人間さがしができれば良いけれど……でもそうそう上手くはみつからないよね。あんまり無茶してイっちゃえば元も子もないし」
 リーフの様子を心配そうに見つめていたメルルが、不意に皆に話をふった。
「そーだなぁ。ボクはもう今日はやめても良いとおもうよ。こんな山の中じゃ、暗くなったら人間なんかみつかりっこないもん」
 既に陽は八割がた地平線の彼方に沈んでいる。
 ベルの言う通り、恐らくあと一時間もすれば狩りは不可能になるだろう。
「ええ、わたしも賛成。今日は山で寝て……明日になったら予定どおり大淫魔さまのところに行きましょう。そしてそのまま山をおりてしまう、でいいわよね」
 意見を纏めたカリンが一応確認するが、特に誰からの異論もなく、今日はどこで寝ようかと子供達は楽しげに話し始める。
 弛緩した雰囲気が一行に漂っていたそんな折、それは唐突にやってきた。
「私はもし雨がふってもだいじょうぶな穴があればうれし……あ、っ」
 淫魔には獲物を探す上で特異な力がある。
 並の人間を見つける場合は気配や視覚、聴覚などの五感に嫌でも頼らなければならないが、遥かに精の濃厚なハンターなどは、淫気と本能でその接近を知る事が出来る。
 二日目と同様この日も、最初に気がついたのは一行で最も淫気の高いリリーだった。
「ん、どうかしたリリー? ……っとぉ、ちょいストップ。みんな気づいた?」
「ええ、わたしも分かったわ。それも一人じゃないわね」
 やがて少し遅れてカリンとベルも気がつく。
 気配は遠い。姿形もまだ見えない。
 だが淫魔としての本能が、ハンターが近くにいる事を強烈に知らせている。
「ほんとだ。おねえちゃん、おいしそうなにおいがするよ〜!」
 犬よろしく鼻をひくつかせて、シュガーが顔をほころばせた。危険度としては、そのあどけなく幼い笑みとは裏腹に、犬と言うより狼と呼んだ方が正しいのだが。
「でもあんまり強そうじゃないよね。このぐらいなら私たちでも何とかなりそう」
 けれど子供達の反応には余裕があった。一行の中では慎重なメルルの言葉からも、どこか楽観的な響きがある。二日目に出くわしたハンターと比べれば、その力は天と地なのが明確に感じられたからだろう。
 しかも見晴らしの良い街道と異なり、山道は木々や岩などの遮蔽物に加えて道の崖下など死角も多く、不意打ちをかけるのには絶好の場所だ。
「おねーちゃん、いこ、いこっ♪♪」
「落ちつきなさいシュガー。……けれどこれ、見のがす手はないわよねみんな?」
 待ちきれないとばかりにくいくいと腕を引っぱるシュガーを横目に見つつ、カリンはどうするか尋ねた。
 だがサファイアのような輝きを放つカリンの紺碧の瞳は、子供の外見に不釣合いなほど艶のある笑みを浮かべており、見送るつもりなど毛頭ない事を雄弁に語っていた。
「にひひ、じょうだんポイだねカリン! この程度の気配ならきっと駆け出しハンターたちだもん、みんなでまわしてやっちゃおやっちゃお!」 
「さっきの男の子たちじゃ、私も少なかったな。これから本当の晩ごはんにしようよ」
 聞くまでもないとばかりに、ベルもメルルも一も二もなく同意する。
 リリーは、答えるのが恥ずかしかったのか少しもじもじしていたが。
『く〜』
「ありゃ、今のリリーのおなかの音?」
「…………うん」
 やがてリリーも小さく、だがはっきりと頷いた。
 食べ盛りの子供達にとって、手頃に狩れそうな最高の餌がうろついているのだ。
 まして中途半端に食べ残した後なせいか、子供達の体はほんのり火照りピンク色に上気立っている。どうするかなど、聞くまでもなかった。
 だがそんな中で。
「…………」
 リーフだけが、他の五人と全く異なり唇を噛みしめ、杖にしがみつくようにして立っている。今にも倒れそうなほどリーフの顔からは血の気が引いていた。
「……!? リーフ、どうしたの?」
 妹の異変に気がついたメルルが、妹を抱き抱えた直後、リーフの心がそのままメルルの頭に流れ込んで来た。
『なんでこんな辺鄙な山奥にハンターが集団で来てるの? 協会がある訳でもないのに、ハンターが複数うろつくなんて普通じゃない。まさか……さっきの子供がもう見つかって、それで皆の事が!? 違う、万が一もし仮にそうだとしても全然時間が合わない……』
 自分達が置かれている状況を理解しようと、必死になって思考を巡らせるリーフ。
 だがリーフが幾ら考えたところで答えなど出てくる訳がない。
 ハンターが数人いるという事実以外は何も分からない現時点では、判断材料が致命的に足りないのだ。
「落ちついてリーフ、心配なのは分かるよ」
「……うん……姉さん」
 あやすように優しく背中をさすって、メルルは妹を落ち着かせる。
「えーっとさ。ボクらは行く気まんまんなんだけど、リーフはどうすんの、かな?」
「…………ぅ」
 どうすれば良いか、方針が定まらないのだろう。
 目前の事象だけを見れば、最高の夕食が近くにいるのだから。
 眉根を寄せてリーフは小さく呻いた。

--------------------------------------------------------------------------------
<選択肢>
→1.先手必勝、みんなで襲撃
 2.向こうの出方を見る為に待機
 3.ハンターにばれる前に、すぐ下山する
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 リーフが悩んでる間に、シュガーが元気に手をあげる。
「せんせーがいってた! えっちのきほんは、せんせーこうげき!」
「はいはい、シュガーの考えはいわれなくてもわかってます。……ん、でも今は本当に、それが一番良いかもしれないわ」
 少し考えて、カリンが珍しくシュガーの言葉に賛同する。
 時間が経てば経つほど空腹は増す。ハンターの精ならば一般の人間と違って味も濃さも絶品で、腹持ちも良い。
 無論代わりに危険は増えるが、駆け出しレベルのハンターならば子供たちであっても十分に勝てる目算はあった。
「で、でも危なくない、かな……」
「そりゃあね。絶対あんぜんなえっちなんかないよ、リリー。でも……だからこそドキドキして、とってもこうふんするのって、ボクだけじゃないでしょ?」
「ええ全然おかしくないわ。『その感覚が普通に楽しめるようになったら立派な大人よ』ってお母さまもおっしゃっていたもの」
 100%安全な狩りなどない。飢え死にしたくなければ、ある程度の危険とは折り合っていかなければならないのだ。
「…………」
 そんな中でリーフは一人、どうしたら良いか悩んでいた。
 だが、目に見える危険と見返りを天秤にかければ、見返りの方が多いのは明らかだ。
 煮え切らない態度のリーフに、シュガーがぷぅっと頬を膨らませる。
「ほらぁ、こないんならリーフだけおいてっちゃうぞ! さっきリーフがじぶんでいったじゃん! みんなおなかすいてるのに、ごはんみおくってどうすんのさ!!」
「……つっ!」
 そのシュガーの言い様には、冷静なリーフでさえ癇に障ったのだろう。
 顔を真っ赤にし、一緒にするなと怒鳴りかけた刹那、リーフの手をメルルが掴んだ。
「リーフ、だいじょうぶ。リーフには、お姉ちゃんがついてるもの」
『全部私にいって。私にぶつけてくれていいんだよ。リーフの気持ちは全部、ぜんぶ私が受けとめてあげるからっ』
 そんなメルルのストレートな想いが、逆にリーフの冷静さを取り戻させた。
「分かった。皆が言うのは間違っていないし、全員が賛成しているなら止めるのはお門違い。行くならすぐの方が良い」
「ぶーぶー。リーフののろま〜、さいしょからそーいえばいいのに。いたっ!」
「リーフは慎重に考えてくれてるの、そんな言い方ないでしょうシュガー! ごめんなさい、気を悪くしたならあやまるわ」
「……別に必要ない。判断が遅くて迷惑をかけたのは事実」
 シュガーの頭を殴りつけながら頭を下げるカリンに対し、どこか気まずそうにリーフはフイッと顔を背ける。だがこれで全員の考えは固まった。
 ハンターとの位置関係を軽く確認し、自分達の方が高所にいる事を知ると、六人はゆっくり山の斜面を下っていく。
 沈みかけた太陽の光が、子供達を鮮やかなオレンジ色に染めあげていた。
「うーん、なかなか見つからない……いた! あれだ!」
 先頭に立って降りていたベルがハンターの姿に気がつき手で合図を送ると、すぐに全員が寄って来る。
 そこにいたのは、見るからに熟練とは程遠そうな年若いハンター二人と、多少の場数は踏んでいそうな三十手前のハンターが一人の三人組。
「わぁ、おいしそ〜♪」
 瞳を輝かせながら生唾を飲みこむシュガーは無論のこと、他の皆も予想以上の大漁ぶりに顔をほころばせる。
「よかった。あまり多いと困ったけれど、三人ならわたしたちでも何とかなるわ」
「リリー、今回はちゅうちょしちゃダメだぞ! 余裕で勝てる相手じゃないんだから」
「う……うん。あの人間さんたち、私たちみたいな子供でも殺しちゃうんだよね。が……がんばる」
 襲撃前に気合を入れ直す四人。
 そんな中にあって未だリーフは浮かない表情をしていたが、真剣な面持ちでハンター達を見下ろす妹の尻を、メルルがぷにっと指で押した。
「ひゃうぅっ!? ……姉さん!」
「ごめんごめん。でも、そんな怖いかおしないでリーフ? リーフは後ろで魔法をつかってくれればいいもの。そうすれば、リーフは何にも危ないことはないよ、ね?」
 そう言ってメルルは優しく微笑む。
 緊張をほぐそうとしたメルルの真意が分かるだけに、リーフは『意図はともかく、もう少しやり様があると思う』と小さく零した。
 そうこうする内にも、ハンターは確実に近づいてくる。
「ちょうどわたしたちの数は向こうの倍ね。リーフはどう攻めたらいいと思うかしら?」
 のんびり全員で作戦を立てていられる時間はないと判断したカリンが、真っ先にリーフに尋ねる。
「こういう場合は二人一組でハンターを一人づつ射精させるのが基本。姉妹同士で連携を取るのが一番良いと思う。ただ、吸い尽くすのは後でも出来るから、射精させたらまだ戦ってる皆のサポートに回るのを忘れないで。……特にシュガー」
「むっかー! あたしだってそのぐらいわかってるよーっだ!」
 素早くリーフが立てた作戦は、数で優位に立っている場合の基本に忠実な物だった。
 わざわざ名指しで注意され、シュガーが頬をぱんぱんに膨らませた事を除けば、当然どこからも反論は出ない。
 そして、ハンター達の姿が肉眼でもはっきり見えるようになった時。
「よ〜っし、それじゃみんな行くよ!」
 ベルの掛け声と共に、まるでスイッチが切り替わるように、子供達のあどけない瞳は獲物を狙う猛獣のそれに変わった。
「ちょっと待って。作戦には続きがあるから」
 だが今にも突撃しそうな皆に、リーフはもう一つ付け加えた。
 
******

「いやー、山の中は空気も良いし景色も綺麗だし最高っすね〜先輩」
「そうだなぁ。これが仕事じゃなきゃもっと良かったんだけどな」
 恐らくハンター養成学校上がりなのだろう。まだ二十歳にも届いていなそうな、若い二人が談笑する中、先を歩いていた男が渋面で振り返る。
「二人とも注意力が散漫すぎる。もっと周囲に気を配るんだ」
「でもリーダー、大淫魔の洞窟ってまだ先ですよ? それに俺たちはどうせ露払いなんですし、そんな気張んなくても。どうせこんな山道の途中じゃ淫魔なんか出やしませんて」
「バカ、そんな言い方するな怒られるぞ……!」 
 どうも緊張感を持続させられない性分なのだろう。お気楽に話す長い茶髪ハンターに、隣にいたもう一人のバンダナを巻いたハンターが肩を突付いて嗜める。
 弛緩した空気に、どこか冴えない雰囲気を醸し出している顎鬚を生やしたリーダー格のハンターは眉根を寄せ、懐から煙草を取り出し火を付ける。
「まあ……君たちのような学校を出たばかりのハンターに、淫魔を甘く見るなと言っても仕方がないのは、私も分かってるよ……」
 怒鳴る訳でも、呆れたような突き放した言い方でもない。
 たなびいた煙草の煙がゆっくりと空に上り、消えていく。
「い、いえっ! 学校で僕らも淫魔の怖さは散々聞かされてます! すいませんでした、もっと注意します!! ほらお前も!」
 吸いかけの煙草を指で弾いて地面へ投げ捨て、頭を下げる若手ハンターを男は軽く手で制した。
「いや、いい。私も昔は『学校を優秀な成績で卒業した自分なら大丈夫』などと思ってたクチでね。言葉で幾ら言っても、本当の意味で理解はできないものさ」
 リーダーのハンターは、どこか悟ったように穏やかな物言いで語る。どこか自分にも言い聞かせるかのように。
「だが、これだけは覚えておいてくれ。淫魔を倒す必要はない。勇ましくある必要もない。初陣はただ生き残る事だけ考えるんだ、経験を積む為に」
『……は、はい』
 重みを感じる言葉に、駆け出し二人の声が重なった。
 縮こまる二人を見て男はふっと笑いかける。
「すまなかったな、先輩風を吹かせる気はなかったんだ。さあ先に行こう」
 弛んだ空気もかなり引き締まり、周囲を警戒しながらハンター達は先へ進む。
「うぉっ、まぶしっ!」
 だがすぐに、茶髪のハンターが声を上げた。
「ん……どうした?」
「いやーなははすんません、あっちこっち見てたら夕陽が目に」
「なにやってんだか。加減を知らないんだから全くもう」
 だが視線を外し再び歩き始めた直後。
「……!? 二人とも、後ろだ!」
 リーダーのハンターが何かに気がつき、振り返った時には先頭に立って切りこんでくるシュガーの姿がすぐ目の前に迫っていた。
「それ〜とつげきぃいいいい!」
 そしてすぐ後ろには、他の五人の姿もある。
「シュガー、前出すぎよ下がりなさい全くもう!」
「ボクらはあっちの大人しそうなハンターくん行くよリリー!」
「お姉ちゃんまってぇ……」
「リーダーを叩くのが一番良い。姉さんは、一番年配の男を狙って」
「うん、リーフ魔法おねがいねっ」
 完全に不意をついた格好になり、ハンターたちが迎え撃つよりも早く、子供達は一気に性交になだれこむ。

 超一流のハンターならばいざ知らず、単独での大淫魔退治もできないレベルのハンターでは、高所から一気に駆け降りて来る淫気を即座に感じることは難しい。
 しかもリーフはそれに加え、奇襲を確実に成功させる為に西日を背に突入する事をみんなに提案していたのだ。
 こうすれば感覚だけでなく視界まで遮る事が出来る。とても十歳の子供の判断力ではない。
 リーフの立てる作戦に、全員が全幅の信頼を置く理由がここにあった。
「嘘だろ、どこからこんな出てきたんだ!?」
「残念だけど現実だよん、ていっ!」
「わ、私達も、お腹すいてるの……ごめんなさい……んっ、ちゅっ……」
 唖然としているバンダナのハンターの足をベルがさっと払い、あっと言う間に押し倒すと、間髪入れずにリリーが口を塞ぐ。
「んん、んぐぅ……っ!」
 だが駆け出しとは言え、立派なハンター。
 優しく入りこんで来るリリーの舌を押し返し、服の中に腕を差しこんで小さな乳首を指の腹で撫でた。そして、左手でへその中に指先を入れ擦っていく。
「ふ……うん、あ、んっ……」
 予想外の場所を責められ、リリーの顔が赤く染まり矯正が漏れ出す。
 何も考えず強くつまみ上げるのではなく、弱い刺激を与えながら鍛えていないだろう場所を強く突付くのは、淫魔への責めのセオリーの一つだ。
 だがリリーは感じながらも体や顔を離さない。その理由は。
「おっちんち〜ん、出ておいでー。リリー、もし我慢できなくなったらいってよ! ん〜っ、んっ、んっ、んっ……」
 ズボンを引き剥がし、そり立ったペニスをベルが咥えこむとハンターの責めが止まった。喉奥へと突付かれるのにも構わず、飲みこむようにベルは棹を吸いあげる。
「ぷぁっ! くっそぉお……!」
 ベルの責めを止めるべく、下半身を丸出しにしているベルの尻の穴へと人差し指を差し込む。
「うぁん! やっぱハンターって、普通の人間とはちがうや……でも……ん〜っ」
「うぁあああああ……!」
 だがこの時、実戦経験のなさからかハンターは重大なミスを犯した。
 先にリリーを責め始めた以上は、イかせるまで何がなんでもリリーを責め続けるべきなのだ。
「はっ、はっ……お姉ちゃんありがとう。んっ、んっ……ちぅ……」
 しかし責める対象を変えたせいで、呼吸を落ち着けたリリーの激しく深いキス責めが戻ってくる。
『だ……ダメだ、このままじゃイく……』
 それに気がついた時はもう遅い。全身の力が抜けていき、快感に悶えるのを必死に堪える事しか出来なくなる。射精するのは時間の問題だった。
「このっ俺はロリコンじゃねぇぞ、ガキばっかで襲ってくんなー!」
「そんなのしらないもーんだ。みちみちのおまんこをくらえ〜」
 例によって全裸のシュガーが、茶髪のハンターを押し倒すと愛液で滴る秘所を顔に押し付ける。
「にひひ〜。どうおにーちゃんおいしー?」
 淫魔の愛液は全身を蕩けさせる媚薬だ。甘い味と香りが体内を蝕んでいく。
「うるせぇ、ハンターを舐めんな! 見たまんまのガキ淫魔なんざ、俺が滅ぼしてやるぜ……!」
 茶髪のハンターは滴る蜜をあえてそのまま受けとめ、それどころか中に舌を差しこんで膣を刺激する。
「んーっ……! あ、あっ、あっ……あふれちゃう、しげきつよすぎるよぉ……!」
 シュガーの矯正を無視して、ハンターはシュガーのクリトリスを歯で軽く噛んだ。
「やぁー! あーっ! イ、いっちゃう、いっちゃうぅ……」
 元々シュガーの性感への耐久力は大して高くない。一気に高められていき、絶頂へとかけあがっていく。
 だが駆けつけたカリンが、下からの責めを受けているシュガーを両手で迷わず突き飛ばした。
「ふにゃあ……おねーちゃん、いたい……」
「シュガーのばか! 二人一緒に行動するようにリーフが言ってたでしょう、何度いえば分かるのよ! しばらくそこで見てなさい、もう!」
 顔面から地面に突っ伏すシュガーへ怒鳴りつけた後、カリンは天を向いて脈打つハンターのペニスに、ゆっくりと腰を降ろした。
「どうかなハンターのお兄さん、わたしの中はきつい?」
 聞いてみるまでもない。カリンの幼い膣のしまりは抜群で、きゅうきゅうにペニスを締め付けて離さない。
『よし、かかったそのままこいっ……!』
 けれどもハンターには余裕があった。挿入に耐える事にかけては、在学中誰よりも強かった事への自負があったからだ。
 しかし僅か三こすりで、その余裕は粉々に砕け散る。
「なん、でっ……こんな気持ちいっ……!」
「気がつかないかな。シュガーのおつゆって甘くておいしかったでしょう?」
「あ……!」
 その理由に気がつき、ハンターの顔が引き攣る。理由は簡単だった、シュガーの愛液を飲みすぎたのだ。
 数分も立てば極度の快感状態からは抜け出せるが、それまでカリンが黙って待っていてくれる筈がない。
「や、やめてくれ、俺まだ死にたくねぇよぉ……!」
 勝ち目がなくなった事を知り、ハンターは恥も外聞もなく命乞いを始める。淫魔ハンターとしての高揚感や自負心も、死への恐怖感の前にはあっさり吹き飛んでしまった。
 もしこの時の相手がカリンではなく、リリーに対してならば、躊躇する隙をついて抜け出す事も出来たかもしれない。
「……ハンターの命ごいはとっても興奮するって、お母さまがいってたけれど……こんなに素敵なのね。ぞくぞくしちゃいそう……うふふ」
 だが恍惚としたカリンの瞳を見た瞬間、ハンターは自分の死を肌で理解した。
 
 しかし幾ら有利な状況にあっても、射精させるまでは戦いは終わらない。
「おじちゃん、頑張るなぁ……えいっ」
「…………!」
 自分の唾液と(※淫魔の唾液は催淫効果がある)ローションを混ぜた淫界特製のオナホールを懐から取り出し、メルルは絶妙なリズムで擦り上げる。
 だがリーダーのハンターはその間ひたすら無言で、自分から攻撃もしない。
「腕力に頼る者よ、その力を失い給え……性力に奢る者よ、その力を減じ給え……」
 後ろで支援に徹しているリーフから断続的にかけられる、脱力魔法や器用さを下げる魔法も、防御に専念しているせいか効果を生じる事はなく、決定打を与えられずにいた。
「……っ、っつ……!」
 けれども、ようやくリーフの魔法が聞いたのかそれまで中腰で耐えていたハンターが倒れる。
「リーフ、効いたみたい! こっちきて!!」
 ここぞとばかりに追い討ちをしようと、メルルはリーフを呼び寄せ、さらに同時に責めるべくアナル用のローターも取り出そうとした……だが。
「…………!? 姉さん違う、効いてない!」
「きゃあ!」
 ハンターはその僅かな隙を伺っていたのだ。弾かれたように跳ね起きると、そのままメルルに体当たりして突き飛ばす。
 しかしそのまま責めに転じる事はしなかった。
 尻もちをつくメルルをそのままに、リーフが杖を構えるよりも早く、そのまま一気に二人の間を駆け抜けていく。
「1対6じゃどうにもならん……二人とも、まだ無事か!?」
「うぁああああああ!」
 そのまま仲間のハンターを助けようと周囲に視線をやるが、まさに茶髪のハンターが絶叫と共にカリンの奥深くに精をぶちまけたのを目撃した。
 もう一人の仲間ハンターの状況は遠くてはっきりとは分からないが、助けに行く前に力尽きるか、逆に自分が取り囲まれると判断したのだろう。
「くそ、だめか……」
 諦めたように頭を大きく横に振り、周囲を見渡す。
 既に後ろからは、先ほど押しのけたメルルとリーフも迫って来ている。
 もはや味方を助け出す事が不可能な以上、この状況で考えるべき事は如何にして撤退するかしかない。
 だがその時、ハンターの黒い瞳はある物を捉えた。
「ふわぁ……」
 そう、今だ興奮状態のまま夢見心地で座り込んでいるシュガーの姿を。
「あぁ……いっぱい入ってくる、ハンターの精液ってとてもおいしい……」
 折悪しき事に、すぐ側にいたカリンはハンターから中出しされた直後で勝利の余韻に浸っており、シュガーへの注意がこの一瞬だけ飛んでしまっていた。
 そしてベルとリリーは、今だ裏側で別のハンターとの戦いの真っ最中。
 丁度五人ともフォローのできない、そんな最悪のタイミングを、ハンターは決して見逃さなかった。
「シュガー! カリン! ハンターが一人そっちに向かった、気をつけて!!」
 真っ直ぐシュガーへと駆け出すハンターの思惑に気がついたリーフが、あらん限りの大声で警告する。
「えっ? ……あっ!? シュガー、逃げなさい!!」
「ふぁ……ほぇ……?」
 カリンはすぐ我に返ったが、反応できずに座り込んだままのシュガーをハンターはそのまま押し倒す。
「あれれ、べつのハンターのおじちゃん……? え、ちょっと、なにするの……!?」
「悪いが子供でも容赦はしない。変に我慢しなければ、快感の中で消えていけるぞ」
 問いかけに対する答えの代わりにハンターは鮮やかなピンク色の突起を取り出すと、既に洪水状態のシュガーの膣を指で大きく広げると、『それ』を何のためらいもなく奥深くへと押しこんだ。
「や、やあー! やぁああーっ!!」
 陸に打ち上げられた魚のように、シュガーの体が何度も跳ねる。
「シュガー! このっ……妹からはなれなさい……!!」
 だが、妹を助けるべく全速力で突進してくるカリンを身を捩ってかわすと、そのままハンターはカリンに覆いかぶさる……のではなく。
「言われなくてもそうするよ。じゃあな」
 そのまま背を向けて逃げ出したのだ。
「なっ……」
「まさか仲間を置いて自分だけ逃げるつもり!?」
 絶望的な状況とは言え、まだ戦っている仲間がいるにも関わらず、何の迷いもなく見捨てる行動を取った事にカリンもリーフも面食らう。
「リーフ、パラライズかけて!」
 そんな中にあっても、一人冷静なメルルが妹に指示を出す。
 しかし、慌ててリーフが杖を構えた時にはハンターは崖の急な斜面を躊躇なく転がるように飛び降り、魔法の射程圏内から完全に抜け出していた。
 本来なら追いかけるべきだ。
「シュガー、シュガー!」
「お、おね……ん、んんーっ!」
 だが悶えているシュガーをそのままにして行ける筈がない。最初から年配のハンターはそのつもりだったのだろう。
「変に力まないで、シュガー! 深く息をすってはいて!」
「っふ、く、はっ、はっ……あああああ、だめ、むり、できないー!」
 なんとか落ちつかせるべく、カリンは妹の手を握り呼吸を整えさせようと試みる。
 しかしシュガーの息遣いは収まるどころか、荒くなる一方だった。
「つっ……これじゃあ抜かないとしょうがないわ。メルル、リーフ、妹を押さえていて」
 ある程度快感の波が引いてから抜くべきと考えていたカリンも、妹の様子が本気で危険と判断したのか、バイブを引き抜く事を決意する。
 そしてバイブの根元にカリンが指を伸ばそうとした時。
「待ってカリンちゃん! これへたに抜いちゃうと、その時にシュガーちゃんが!」
「えっ……!?」
 間一髪でメルルがカリンを止めた。
 膣奥に八割方が差しこまれているバイブの構造は、ちょっと見ただけでは分かり辛い。
 だが淫具の知識に誰より明るいメルルは、僅かに出ている部分を一目見ただけでその危険を見抜いた。
「見てここ、ゴムのでっぱりがあるよね。たぶんこれ奥までびっしりついてると思う。一気に引いちゃったら、シュガーちゃんじゃ耐えられないかもしれない」
 はっとなったカリンがバイブから手を離す。
 淫魔ハンターが使う道具は、材質から構造に至るまで淫魔を滅ぼすのが目的だ。
 その為、威力が強すぎて一般人にはとても使えないほど、強力にできている。
「ハンターは倒したのに、こんな……こんなおもちゃに苦労させられるなんて……」
「ぬ、ぬいて、おねえちゃん、はや、くぅ!」
 だが手をこまねいている間にもシュガーの体力は確実に削られていく。
 
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<選択肢>

 1.今すぐ秘部に突き刺さっているバイブを抜く
→2.冷静にどうすべきかギリギリまで考える

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 どんなに幼くても淫魔であれば、秘所に異物を挿入するのは慣れっこだ。
 だから本来なら徐々に快感は引いていくはずなのだが、シュガーにそんな気配はまるでない。寧ろ悶えあえぐ様は鎮まるどころか、一秒ごとに確実に悪化していく。
「リーフ! 妹をしずめてあげられる魔法って、なにかないかしら!?」
「……ごめんカリン。沈静の魔法は……使えない」
 はやる気持ちを押さえカリンはリーフを頼ったが、顔を歪め首を横に振るしかできなかった。
 幼くして魔法の才能に開花したリーフ。だが自身の快感を抑える事がまるで出来ないせいか、快感を消す・抑える分野の魔法だけは絶望的に才能がないのだ。
「……メルル。わたしは淫具のことは、ほとんど知らないわ。だからあなたの考えをきかせて。どうしたらいいと思う……?」
 メルルの意見を仰ぎながらも、カリンの視線は妹から離れない。
「ふつうのバイブだったら無理にぬかないで、おさまるのを待ったほうがいいとおもう。でも……なんだかおかしいの。カリンちゃん、ちょっとまって」
 掛け値なしに友達の命の危機である。
 カリンに限らず平静を保つのが非常に困難な状況の中にあって、メルルは恐ろしいほど落ち着いていた。
 恐らくメルルはリーフ以外の誰の危機であっても冷静でいられるだろうから。
「めるる、たすけてぇ……」
 そっとメルルは、バイブの根元に軽く指を触れる。直後、露骨に眉をしかめた。
「うわ……外からはうごいてないように見えたけど……これ、先っちょが中で伸びたりちぢんだりして、シュガーちゃんのなか、かき回してる」
 つまり振動とピストン運動を両方加えているのだ。これではシュガーはたまったものではない。 
 全身性感のリーフは除外するとしても、パーティーで一番小さいシュガーは、ただでさえ我慢があまりきかないのだ。
「…………。どうやれば止まるの、メルル」
「でんちが切れるのを待つしかないよ。でも」
 メルルは首を横に振る。
 いつ動かなくなるのかなど、見ただけでは分かる筈もなかった。
「ひぁああ……い、あ、おく、おくにあた、って、こつこつってぇ……」
「シュガー! しっかりしてシュガー! あそこの力ぬいて楽にして!」
 妹の手を握りしめて、快感に流されないようカリンが必死に呼びかけるが、シュガーの握り返す力は徐々に弱まっていく。
「あついよ、おまんこぉ……あつくて、ぐしょぐひょで、きもひい……」
 呂律も回らなくなり、快感に呑みこまれていくシュガー。
 小さな乳首は痛そうなほど尖り、半開きにあいた口からは涎が垂れている。意識さえ、既に明確ではないだろう。
「……やっぱり抜かないとダメ。このままじゃシュガーちゃんが消えちゃう」
 メルルの判断は的確だった。シュガーの様子を見る限り、電池切れまで保ちそうにないのは明らかだ。このままでは、五分もしない内にシュガーは果てるだろう。
「カリンちゃん。私がぬいてあげていい、かな」
「待ってメルル!」
 だがシュガーのバイブに指を伸ばしかけたメルルの腕を、カリンが掴んだ。

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<選択肢> 

→1.カリンが引き抜く
 2.メルルに任せる
 3.電池が切れるのを祈る
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「わたしが抜くわ」
「えっ。でも」
 カリンちゃんより私のほうが上手くいく。 
 だが力の篭り汗ばんだカリンの手の熱や、血が出そうな程に下唇を噛みしめる様子。
 何よりも、自分がカリンの立場ならどうするだろうと思った時。
『リーフの命をほかの子にまかせるなんて、私ならぜったいしない』
 そう思ったメルルはそこから先の言葉を呑みこんだ。
 そしてそれは、カリンも同じだった。
 
 もしメルルに任せてシュガーが消えれば、わたしはきっとメルルを一生許せない――

「い、いくよぉ……きもひ、い……ひぅ、んぁああああああ……」
「シュガーうごかないで、いま抜いてあげるから!」
 だがいざ引き摺り出すとなった時、カリンは息を呑んだ。
 バイブの周囲にはびっしりとゴムの突起がついていたからだ。これでは、どれだけ気をつけても、引き抜く際に突起がシュガーのあそこを激しく擦りあげてしまう。
 絶頂寸前のシュガーに、そんな刺激が耐えられるかどうか。
 だがこのまま抜かないでいても、電池が切れるよりシュガーがイってしまう方が先なのは疑いようがない。
「…………」
 無言でそれを見下ろすカリンの手は震えていた。
「シュガー、体とおまんこの力ぬいて。そしてお姉ちゃんの手、にぎっていて……!」
「ひうぅ……あ、あう……! おもちゃきもちいいよぉ……!」
 喘ぎ声以外にまともな言葉も返せない状態の中、それでもシュガーはかろうじてカリンの手を握り返した。
 もうあまり時間はない。意を決してカリンがバイブの根元を掴み引き出そうとすると、じゅくっと淫靡な音を立てシュガーの愛液が垂れてくる。
 
 僅かな逡巡の後、カリンは意を決してシュガーに快感を送り続けているバイブを、勢い良く引き抜いた。
「〜〜〜〜〜〜!!」
 柔らかな粘膜や肉ひだをまくりあげ、シュガーから声なき悲鳴があがる。
 のけぞった体には玉のような汗が一杯吹き出していた。
「シュガー、シュガーっ!」
 つい先ほどまでシュガーの中に納まっていた、今だカリンの手の中で蠢くピンク色のバイブを投げ捨て、カリンはシュガーを抱き起こす。
「あは、ぁ」
 だが濁りきったシュガーの瞳は、もう何も映してはいなかった。
「……おね、ちゃん……あたしイっちゃった……」
 普段の元気の良い大声ではない。側にいるカリンだけが、かろうじて聞き取れるほどか細く、それでいて蕩けた声が漏れ出る。
 それはカリンを絶望の渦へ叩き込むには、十分すぎる言葉だった。
「……シュ……ガー」
「えへへ、とっても……きもち、よ、かっ……たぁ」
 それがシュガーの最後の言葉だった。

 パチン

 シャボン玉が割れるような小さな音を立て、カリンの腕の中にあったはずのシュガーの幼い体は消えさり。
『かつてシュガーだった』水滴で、カリンの体はぐっしょりと濡れていた。だがその水滴も五秒と保たずに気化し、蒸発してしまう。
 後には何も残らなかった。
 シュガーは消えた。
 死んだのだ。
「カリン! そっちのみんなはだいじょうぶ!?」
 その直後、ハンターを射精させたベルとリリーが急いで加勢する為に駆け寄って来る。だがすぐに異変に気がついた。
 駆け出しハンター達が痙攣し転がる側で、メルルが俯き、そしてカリンが放心したようにしゃがみこんでいる。
 いないのだ、シュガーがどこにも。
「はっ、はっ……。姉さん、向こうは終わった……っ」
 麻痺のかけすぎによる疲労から肩で息をしているリーフも、少し遅れてやってくるが、目前の光景に言葉を失った。
「ね、ねえカリン。シュガーは、シュガーはどこ……!」
 最悪の予想を頭から振り払うように、ベルはカリンに呼びかける。だがカリンは両膝をついてうな垂れるばかりで、何の返事も帰ってこない。
 やがてメルルが、カリンに代わって重い口を開く。
「みんな。シュガーちゃん、きえちゃった……」
 簡素だが、その言葉が全ての事実を物語っていた。
 太陽はすっかり地平線の彼方に沈もうとしている。
 子供達の試練はこの日、まだ半分を過ぎたばかりだった。

<6日目に続く>
 えー、凄まじく遅くなりました羽二重です(殆どの人は存在を忘れてると思いますががが)
「えっ? 今度こそエターなったんじゃないの?」と思った皆さん、マジごめんなさい(汗)淫魔チャイルド5日目のお届けにあがりました。
 コミケの部数が減って落ちこんだり新人賞の結果に凹んだり書いてる原稿が停電で飛んだりHDDが飛んだりやる気が減ったり、色々と原因はあるのですが……それはさておき(苦笑)
 既に全文章は完成しております。これから毎日1話づつのペースで完結まで更新して行きますので、長文ではありますが一人でも多くの方に目を通して頂けましたら幸いです。
 なお……5日目ラストの展開で、話の今後の方向性を予想した方々に作者から一言だけ。
「まず間違いなく、皆さんの想像の遥か斜め上を突き進んでると思うな……」と(ぉぃ)
 ではでは、お読み頂きありがとうございました。6日目でまたお会いしましょう。

※なお最後の選択肢ですが、実はシュガーの体力が成功失敗のフラグ要素として加わっていますので、この状況ではメルルが抜いても失敗しました(逃がした子供を吸い殺していて始めて、シュガー生存の可能性フラグが立つと思ってくれれば)
 そしてメルルで失敗した場合、パーティー内でカリンとメルルの関係が確実に崩壊しただろう事を……付け加えておきます(汗)

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