5199

切り札


 アールは脂汗を流し続けていた。顔面を紅潮させ、脇の下でシャツが張り付く。
必死に食いしばろうとする口は、溢れる熱い息に閉じきれないでいた。
「そうそう、頑張って」
 彼の上では、少し年上の女生徒が制服姿で腰をくねらせていた。アールに言葉を
発する余裕は無いらしく、返答は荒い鼻息だけだった。
 石造りの四角い部屋には、そこかしこで同じような光景が見られた。男子生徒十
数名の上に、女生徒達が跨って腰を振る。男子は責められる一方を強いられ、それ
ぞれが歯を食いしばって耐えていた。
 室内を見回しながら手元のボードに書き込んでいた教師が、時計を見て彼らに告
げる。
「第一段階は良し。次段階に移れ」
 それを聞いても、男子生徒の殆どは何の行動にも移れなかった。数名は、上にな
った女生徒達の着衣を乱しながら、服の中へと手を入れていく。しかし力不足なの
か、女生徒の優位を覆せる者は一人もいない。
 アールの焦点が合わない目を見て、上の女生徒は諦めた顔になった。最早、彼に
何が出来る状態でも無さそうだ。短い溜息と共に、最後の攻勢に出ようとした彼女
の目が驚きに開かれた。
 奮えながらも、アールの手が彼女のシャツのボタンをまさぐる。何度か外そうと
試みるのだが、ボタンを外す力さえ今のアールには無かった。
 どうにもならない事を悟って、身を乗り出していたアールは思い切り上半身の力
を抜いた。上になった女生徒が心配するほど、かなり派手な音が鳴る。後頭部を強
く打ったアールは、快楽以外のもので頭をくらくらさせながら再び身を起こした。
 今度は初めからボタンを無視し、服の上から女生徒の胸に触れる。柔らかさを確
かめるように、表面をそっと撫でていく。
「くうっ……はあん」
 一触れだけで声を上げさせられ、女生徒が顔を赤らめた。
 アールは今にもイきそうな顔をしながらも、必死に気持ちよくさせようとする。
それを見るうち、彼女は内面の色々な部分を刺激され、彼の首に両腕を巻き付けた。
「気持ち良いよ、アール君」
 ゆっくりと隙間を無くすように合わせた口で、アールの熱い息を呑んでいく。そ
して彼の切羽詰まった表情を無視すると、舌を差し入れた。逃げようとしたが逃げ
場など無く、絡んだ舌同士が唾液を伝え合いながら密着する。彼女が喉を鳴らしな
がら唾液を飲む音を聞いたのが、アールの限界だった。
 どくっ、どくどくどくっ
 膣内で弾けたアールを感じて、女生徒が嬉しそうに身震いする。溢れない為に、
射出口から奥へと注げるように位置を合わせた。
 彼女が胸を押しつけると、アールの手は自分の体との間に挟まれる。脱力しきっ
ているにも関わらず、その指は女生徒の乳首を探った。
 服の上からのもどかしい刺激で、余計に我慢しきれなくなったのだろう。しっか
り抱きつきながら、激しく腰を振って膣全体でアールを味わっていく。再度の射精
を浴びつつも、彼女の動きは止まらない。離れないように吸い付く口の間から、大
きな水音と粘液が溢れた。
「クリス」
 声が掛けられたのだが、彼女には届いていない。すぐそこに見える絶頂へ向けて、
どんどんと昇っていった。
「おい、クリス!」
 いつの間にか傍に来た教師が、彼女の肩を掴んで揺さぶる。その刺激も快楽に加
え、クリスはアールに抱きついたまま一心に動き続けた。高まるアールの射精感へ
合わせ、クリスも昇り詰める。
 再三のアールの精液を膣内で浴びながら、甲高い声と共にクリスは顎を仰け反ら
せた。荒い息と共に体重を預けるクリスを、アールは何も言わずに受け止めた。
「クリスティーナ・ツィンマー!」
 教師の怒鳴り声がフルネームを呼ぶのに気付いて、彼女は顔を向ける。ただ、頬
をアールに擦り付ける様子から、離れる気は少しも無いようだ。ぼんやりと見返し
てくる彼女を見て、教師は苛立たしげな息を吐いた。
「貴様ですら、そのザマか……これはもう、アール自身の為にも退学を考えさせる
べきかもしれんな」
 アール、という名がぼんやりしたクリスの頭に入ってきた。同時に、たっぷりと
注がれた体内の精を思い出し、うっとりとした顔になる。子宮の中で存在感を味わ
えるほど、大量に注ぎ込まれているのだから。
 と、そこまで思ったところでクリスの背筋に冷たいものが奔った。
「アール君!」
 一気に冷静に返った彼女が見たのは、完全に気を失っているアール。聞こえてき
たのは、教師の深い溜め息だった。

 淫魔という者がいる。ほとんどが美しい女の姿をした魔で、男の精を喰らって永
劫の刻を生きる。イかされた男は生命力までも全て絞り取られ、イかされた女は淫
魔と化す。
 欲求に従い生きる淫魔達との共存は難しいが、討伐もまた難しい。剣も魔法も通
じない相手である彼らは、性技にてイかせる以外に斃す術が無かった。
 それも、全存在が『相手を気持ち良くさせる事』に特化している者達を相手に。
 淫魔の侵攻を受けたカルシュナット大陸では、東海岸の諸国が同盟を組んでこれ
に対した。性技に長け、意志の強い者。後に淫魔ハンターと呼ばれる者達によって、
侵攻を食い止める事に成功した。だが、補給が無ければ戦線は維持出来ない。
 そこで、淫魔ハンターを鍛え上げる為に、大陸全域からの志願者を集めた訓練所
が作られた。七年後に組織改編されたのが、アールも在籍する現在のカルシュナッ
ト淫魔ハンター養成学校、通称『学園』である。
 膠着状態が十年以上続いた事で、民は疲れ切っていた。決定的な打開策が求めら
れて久しいが、今のところは現状維持が人間の限界であった。

 吹き込んだ風によって、厚手のカーテンが揺れる。白い色なのだが、野暮ったい
印象の代物だった。
 厳しい寒さが続くものの、日の出ている間は暖かい事も多い。その為か開け放た
れた窓によって、カーテンは揺らされ続けていた。生活感のある人々の声が、やや
隔離された室内に遠く響く。
 考査の補習へと向かう生徒達、物売りの声、大声で笑い合う子供達。
 頭の上で寄せては返すカーテンを払い、アールは己の手をじっと見つめた。それ
から険しい顔で、揉み込む形に指を絞る。
「起きていたか」
「今さっきですけどね」
 かけられた優しい声音に答えて、アールは上半身を起こした。眩んだ頭を抑えて、
背を窓へともたれさせる。落ち着いた彼に、見慣れた光景が映った。
 薬の並んだ薬品棚、白い清潔なシーツの張られた複数のベッド、事務用の机。身
体測定の各種道具が脇に置かれていたりもするが、医務室らしくない物は何も無か
った。
「枕元の薬を飲んでおくと良い。すぐに起きられるようになる」
 白衣を着た男に素直に従って、アールはコップを手に取った。中の液体を飲み干
しながら、何かの書類を検討する校医を眺める。
 ウェスト博士は少なくとも外見上は三十前後の、若い医師だ。アールも彼の年齢
は知らない。癖のない金髪が垂れる上品な童顔は、博士が小柄な事もあって実際よ
り若く見える可能性も高い。
 ただ、アールも付き合いが長いだけに、博士を見た通りには考えていなかった。
 眼鏡の奥の淡い青は、時折冷酷な本性を垣間見せる。若い頃には相当な無茶をし
たと聞いたが、その内容をアールが知りたいと思った事は一度も無い。それでも何
度か、血で染まった白衣が捨ててあるのを見ていた。
「クリス相手にこれだけ保った、か。並みの淫魔ハンター程度には引き上げられた
ようだな」
「しかし、舌を絡められた時、いつもより感じてしまいました」
「だろうな、感覚の配分を変化させているに過ぎない物なのだから。陰茎への刺激
を鈍磨させた分、体内器官が敏感になったわけだ」
 クリスの名前を聞いて受けたショックを、アールは押さえ込んだ。
 今年の夏に卒業する上級生の中で、首席候補の筆頭がクリスだった。下学年の補
習授業に、彼女レベルの者が協力するのは異例だ。担当教師の強い要望に応えたの
だが、その目論見はアールの自信と共に打ち砕かれた。
 アールも進級しているだけあって、決して無能なわけでは無い。現に性技に関し
ては、学園でもトップクラスの実力を持っていた。
 問題は、耐久力である。
 責めは強いのだが、責められると非常に弱かった。普通の性活を送る分には何の
問題も無いものの、淫魔ハンターとしては致命的ともいえる程に。イかずにイかせ
る、それが出来ない者の末路は決まり切っていた。
「色々と試してはみたが、この方向は袋小路らしいな」
「すみません」
「君が謝る事では無い。忘れたのかね、これは対等な取引なのだよ」
 相手を気持ち良くさせればさせた分だけ、その求めも強大になる。剣術と違って、
性技では責められるほどに責めの威力が増す事も良くある事だ。
 アールは努力家だったのが祟って、責めのテクニックの向上が早過ぎた。交われ
ば、自分が高めた相手によって求め尽くされる。教師達が気付いた頃には、耐久力
を鍛えられない悪循環へと陥ってしまっていた。
 そして入学以来、幾度も医務室に運ばれ続け。校医のウェスト博士と親しくなっ
た結果、利害の一致した二人は取引を行った。
 つまり、人体実験をする方とされる方という関係に。
「そこでだ。私は、発想の転換をしてみた」
「発想の転換、ですか?」
「くっくっく……試薬は既に完成している。もっと動物実験を重ねて副作用を除く
必要はあるが、楽しみにしていたまえ」
 博士は人格はともかく、その能力を疑われた事は無い。ただ、色々な黒い噂が囁
かれるせいで、被験者の確保に困っていた。無鉄砲ながら不屈の意志を持つアール
は、博士にとって願っても無い実験体であった。アールも自分の欠点を克服する為
なら、危険は覚悟の上だった。
 そのアールにして、暗黒のオーラを滲ませる笑い声には唾を呑まされた。
 医務室の異様な雰囲気を打ち破るように、激しいノックの音がした。アールは救
いの主を見るように、続いて開かれた扉を見る。
「大変です! 淫魔が、学園に直接攻めて来ました」
 だが応じたのは、救い主などでは無かった。

 学園に侵攻した淫魔は、ヤりたい放題を尽くしていた。男子生徒を前後から挟み
込んで、耳に息を吹きかける者。一人を押し倒し、指でも何でも膣に入れば何でも
くわえ込む者。老教師を数十年ぶりに滾らせ、音を立てて吸い上げながら袋を手で
弄る者。あまつさえ、女生徒と女陰を重ねて、近くの男子生徒に好きな方へ突っ込
むよう迫る者までいた。
「ちっ……くしょう!」
 唇を噛んだアールの腕を掴んで、医務室へ呼びに来た男子生徒が走り出す。
 彼の先導に従って、アールと博士は階段を駆け上がる。周囲は気温を無視したか
のような熱気に満ち、彼らの額を汗が伝い落ちた。
 淫魔ハンターを目指す優秀な若者達とはいえ、未だ候補に過ぎない。百戦錬磨の
淫魔達に、彼らが敵う余地はどこにも無かった。一方的にイかせられる者達によっ
て、脳髄を刺すような性臭が充満している。
「どこへ向かっているのかね?」
「屋上です。他の先生方や、無事な生徒も皆向かってます。非常階段から一度外へ
脱出し、態勢を立て直さないと」
「それしか無いだろうな」
 呟く博士に頷き返そうとした男子生徒は、柔らかい壁へ追突した。側頭部を覆う
感触に、恐る恐る視線を上げる。
「もう、せっかちさん」
 うふっ、と笑う淫魔を見て彼の顔から血の気が引く。いや、既に心を囚らえられ
たのか、血が顔に集まる。だが、足を止めたアールに気付いて、男子生徒は両腕で
淫魔にしがみついた。
「俺に構わず、先に行けえ!」
「あら。男らしい人って好きよ、わたし」
 口元を綻ばせた淫魔が、美しい顔を男子生徒へと近づける。快感に悶える声を背
に、アールは屋上へと駆け続けた。
 周囲の防衛拠点を堕とされたという話は聞かない。ならばこれは、奇襲なのだ。
そうであるなら、後に学園の奪還へ向かう淫魔ハンター達の負担を減らす為にも、
一人でも多く逃げ延びるべきだった。
 それに、アールは大した時間稼ぎも出来ない事を自覚していた。淫魔に力をつけ
させるだけなら、逃げた方がまだ名誉挽回の機会も残される。
「……くそっ!」
「堪えたまえ。君では、無駄にイくだけだ」
「分かってます」
 博士に答えた声は、ひどく嗄れていた。
 握り拳を大気へぶつけるようにして、アールが階段を駆け上る。学者肌の博士は
疲労に息を上げながら、口の引き結ばれた横顔を見て笑みを浮かべた。この不屈の
闘志こそが、彼の新たな研究の実験材料として最適なのだ。
 現在の状況も忘れて一人含み笑う博士は、アールが開け放った扉の先を見た。足
の止まったアールの肩越しに、屋上の様子を覗く。
 十数名ほどの女生徒を率い、クリスが淫魔達と向かい合っていた。その数、ざっ
と数十。非常階段を遮る位置に浮いて、赤毛の淫魔が不敵に笑う。胸元の大きく開
いた服からは、乳と脇腹の白さが良く見えた。
 対峙するだけで勃ってしまいそうな肉感的な体に、アールはやや前屈みになる。
赤毛の淫魔が彼らに気付いて目を細めると、彼は更に歩き難そうになった。
「答えなさい! 人間の領域に、ここまで深く入り込んで拠点を維持出来るとは思
っていないでしょう。学園の壊滅を狙うには、部隊の規模が小さ過ぎる。お前達の
目的は何?」
 クリスの詰問は淫魔の気分を害したが、それへの答えは淫魔の利益に適っている
ようだった。
 逃げ損ねたのはクリス達だけらしく、周りに倒れている者はいない。アール達を
途中まで案内した男子生徒の言が確かなら、多くの学生や教師は既に逃げ延びたは
ずだ。その包囲の甘さは、壊滅作戦では無い事を窺わせた。
「えっらそうな小娘ねえ。少しは、年上に対する敬意ってものを示せないのかしら」
 淫魔はクリスを睨み付けた後、入ってきた男二人を観察しながら言った。
「ま、いいわ。あんた達、ウェストって医者を知ってるわね。ここの校医の。そい
つを引き渡したら、見逃してあげても良いわよ」
「誰が、淫魔の言う事なんか……」
「ウェストは私だが?」
 後ろの二人に気付いていなかったのか、クリスが驚いて振り返る。落ち着いた穏
やかな足取りで進む博士の隣を、ズボンに片手を突っ込んだアールが進んだ。
 やや無理な力で陰茎を横へ向け、アールはなんとか走れるようにしていた。状況
次第で、すぐ次の行動へ移れるように。緊迫する彼と対照的な博士は、標本観察を
するような目のままで続けた。
「こちらは、淫魔などに用は無いがな」
「しらばっくれるんじゃないよ! あんたが攫った淫魔を、取り返しに来た。大人
しく返せば、天国を見せてあげないでも無いよ」
「淫魔ごときが?」
 口に出すだけでなく、冷笑も加えて博士は答えた。
 博士が淫魔に決してイかされない理由を知るのは、この場ではアールだけだった。
少しづつ距離を取った彼は、目標地を定めてからクリスに目配せを送る。彼女の心
配そうな顔を、力強い視線で押し込めた。やがて、周囲を素早く見回したクリスが、
迷いを張り付かせつつ頷き返した。
「素直に返す気は無いようだね」
「無い物は返せないだろ」
 ふっふっふと笑う博士を見て、アールを含めた生徒数名はその意味を正確に理解
した。今回の元凶が明らかになったのだが、直接博士にぶつける命知らずがいる筈
も無い。その哀れな淫魔や、他の実験体の二の舞は誰もが御免だった。
 とはいえ、そんな事情を知らない淫魔は挑発されたと受け取ったらしい。目尻を
吊り上げた赤毛の淫魔が、博士を指差して命じた。
「お願いだから返させて下さい、と言うまで徹底的にヤってやりな!」
 頷きに続いて妖しく笑いながら、数名の淫魔達が博士へと羽ばたいていく。その
瞬間を見逃さずに走ったアールは、両手を広げて非常階段の前に立ちはだかる。彼
の脇を抜けながら、クリスが声をかけた。
「すぐに、応援を呼んでくるから。それまで、なんとか持ち堪えて。絶対に諦め
ちゃ駄目だよ、約束したからね」
 振り向かずに頷いて、アールは両足に力を込めた。女生徒達が階段を駆け下りる
足音に、急いでくれと心の中で念じながら。
 赤毛の淫魔はアールを眺めて、小首を傾げる。彼の必死な様子など、まるで意に
介していないようだ。じりっ、じりっと後退るアールの顔の両側に、淫魔がそれぞ
れ笑みを近づけた。
 アールは、博士を見捨てて自分も非常階段へ飛ぼうとしていた。だが、背後から
細い腕が首に巻き付くのを感じ、逃げられない事を悟った。
「ね〜え? この子、喰べちゃって良い?」
 じゅるっと涎を啜りながら、アールの耳元で声がした。彼の背筋をぞくぞくとし
た快感が這い上がり、押しつけられた胸の辺りで熱くなる。気管が掠れた音を立て
たが、赤毛の淫魔は背を向けながら首を振った。
「まだよ。もう少し、我慢してな」
「なんでよ〜」
「校医とはいえ、ウェストも学園の教師だろ。もし奴が強敵なら、その坊やが人質
になるじゃないか」
「あ、はいはい〜。じゃあ、人質が舌噛んで自殺しちゃったりしないように、あた
しが口を押さえてま〜す」
 アールの右側に浮いていた淫魔が、元気良く手を挙げると口を合わせた。がっし
りと両手で押さえられた彼の頭は、全く動かせなくなる。にちゃにちゃという舌が
絡み合う音に、抜け駆けを咎める淫魔達の声が被った。
 背後の騒ぎに肩を竦めながら、赤毛の淫魔はウェスト博士を睨み付けた。
 博士の周りには、複数の淫魔が蠢いていた。両腕で頭を抱え込んだ淫魔は、音を
立てながら美味しそうに彼の唾液を吸う。背に張り付いた淫魔が、はだけさせた胸
を押し潰して息を荒げる。足は二体の淫魔達がそれぞれ剥き出しの胸と股間を擦り
付け、二体で股間を舐め続ける。
 博士も抵抗や責めをしているらしいが、淫魔達にはまるで通じていない。時間の
問題だと思った赤毛は、一点を見て驚愕に目を見開いた。
 だらんと垂れた博士の陰茎。二体の淫魔に舐められているというのに、全く変化
が無い。外気の寒さから熱い口で遮断され、縮み上がっていないだけ。そういった、
生理的変化以外は何も起きていなかった。
「無駄さ」
 後ろから聞こえた男の声に、赤毛はゆっくりと振り返った。
 首に淫魔の腕を巻き付け、アールが赤毛を見ていた。軽くイったせいか、彼の正
面に抱きつく淫魔は小刻みな痙攣を続ける。両腕をそれぞれ拘束する淫魔達も、股
間の刺激に荒い息で涎を垂らす。背中から抱きつく淫魔は、靴を脱いだアールの足
を挟んだまま熱い息を吐いた。
「博士の趣味は特殊だからね。淫魔では、絶対に勃たせられないよ」
「絶対に?」
 少し考えながら、赤毛はただの餌としか見ていなかったアールへの認識を改めた。
学園の生徒というのは、伊達では無いらしい。
「あんたも、ここの学生なら知ってんだろ。一口に淫魔といっても、様々な種類が
いる。天使や悪魔、アンドロイドや気体に液体。勿論、男色好きな男淫魔も当然ね。
淫魔という種族は、雄の快楽を満たす為に進化し続けてきたんだ。欠けているもの
なんか、何があるっていうのさ」
 言い切った後になって、赤毛の淫魔も気が付いた。淫魔では決して満たす事の出
来ない、ある種の狂った性癖の事を。
「……まさか」
「だから言っただろう。淫魔ごときに、私はイかせられないと」
 全身に淫魔をまとわりつかせつつ、博士が赤毛の後ろから声をかけた。ずるずる
と、非常にゆっくりな速度で近付いてくる。
「死体愛好家か!」
「イったら消え去る淫魔に、死体は残らない。私にとって何の価値も無い種族だ、
君らは」
 笑みを浮かべる博士を見て、赤毛はぞぞっと鳥肌を立てた。
 近付かれる分だけ後退しかけた彼女は、人質の存在を思い出した。ねっとりとし
た目つきでアールの視線を絡み取りながら、自分の唇をいやらしく舐め上げる。濡
れて光る唇が、肉感的に男を誘った。
「それなら、こっちの坊やを責めるだけさ。何十という淫魔を相手にすれば、イき
尽くすしか無いからね。ウェスト、こいつを死なせたく無けりゃ、大人しくあたし
らの仲間を返しな」
「アールの死体か、見てみたいものだな」
 くっくっくと笑う博士を見て、赤毛だけでなくアールも全身の毛を逆立てた。
「冗談だ。優れた実験体に、そう簡単に死なれては困る。そこで、だ。取引といか
ないか?」
「取引だって?」
 話し難いとばかりに、博士がまとわりつく淫魔達を目で示す。赤毛が頷いて指示
を出すと、淫魔達は徒労感を滲ませながら博士から離れた。
「簡単な事だ。お前達淫魔が、そこのアールをイかせ尽くしたら、私も言う事を聞
く。アールが勝てば、我々を解放する。それでどうだ?」
 思わず叫びそうになったのを、アールはなんとか飲み込んだ。
 油断した淫魔達を責めきれたから、一時的に優位を保つ事は出来た。だが、彼は
とっくに限界いっぱいまで追い詰められていた。ズボンの中では、溢れた先走りが
パンツを冷たくしている。直接刺激が与えられれば、すぐにも陰茎は我慢を放棄す
るだろう。
 といっても、彼らに他の手があるわけでも無い。淫魔に全く感じないといっても、
博士も人だ。攫われて閉じこめられれば、飢えで苦しむ。そして、アールだけが逃
がして貰えるはずも無かった。
「いいわ。その話、乗ってやろうじゃない」
 アールの実力を上の方へ大きく読み誤った赤毛が、闘志を燃やして答えた。

 すぐに挑もうとする淫魔達を待たせ、博士がアールの耳元へ顔を寄せる。近付く
と、発汗と体温の上昇が感じられ、長くは保ちそうに無いのが分かった。
「さっき言っていた試薬がある。どうするかね?」
 眼鏡の奥から覗く淡い青が、アールに決断を迫っていた。
 自分の行く末にすら、さして興味の無さそうな博士ではあったが。己の研究の達
成にだけは、ぎらつくような欲望を持っている。今も、湖水のように冷たい瞳の奥
で、それが燃えるのが見えた。
「お願いします」
「ほう、効果も副作用も聞かないのか……くっくっく、面白い」
 やっぱり止めます、とアールが口を開きかけたのだが、少し遅かった。静脈に突
き立てられた注射針から、薬液が注入される。
 アールの顔は嫌そうに歪み、無色透明な液体を眺めた。彼の経験上、博士の薬に
関しては怪しいほど毒々しい色の方が、まだましだと分かっていた。つまり、最大
級に危険極まり無い代物が注がれたのだろう。
 注射器を引き抜いた博士は、悪魔的な笑みを浮かべながら赤毛の淫魔へと振り返
った。
「待たせたな」
「何したか知んないけど、淫魔をなめてると喘ぐ事になるわよ」
 入れ替わりに近付く赤毛の淫魔は、それでも警戒していた。四人の淫魔を手玉に
取れる相手、そう思っているのだから当然だろう。挑発するように上目遣いで迫り
ながらも、慎重にアールの様子を窺っていた。
「あ〜、もう駄目え。あたし我慢出来ない〜」
 首にもたれていた淫魔が、アールの股間へと蹲った。赤毛が止める間も無く、そ
の淫魔は反り返る陰茎を引っ張り出した。
 嬉しそうな声を上げた淫魔は、赤く膨らんだ先端へ口付ける。ひくつくそこは、
更なる刺激を求めているようだ。ぎゅっと目を瞑るアールが、我慢し切れずに息の
塊を吐き出した。
「なんだ、びびらせんじゃないわよ。淫魔ハンター候補といっても、あくまで候補
って事ね。安心しなさい。あたし達が、すっごく気持ち良くしてあげるから」
 目を開けたアールが、笑みを浮かべる。股間に屈んだ淫魔の口に包まれた快楽に、
赤く歪んでいるものの。それは、己が義務を果たした男の顔だった。
「余裕ぶってるつもり? これからあんたは、イってイってイきまくるのよ。止め
て欲しいなんて頭から消えちゃって、イかせて欲しいと懇願するだけになるまでね。
最高の快楽というものを、たっぷり教えてあげるわ」
「別、に構わない、さ」
 アールの物は、股間の淫魔に喉奥まで包み込まれる。暖かい口の中で、舌がぬら
ぬらと形を確かめるように動いた。漏れる先走りを喉を鳴らして飲んだ淫魔は、愛
しげに目を伏せて口をすぼめる。
 彼の手を股間に挟んだまま、両側から二人の淫魔も奉仕に加わる。互いがキスを
するかのように、舌を伸ばして奪い合う。アールの手に花芯を弄られると、お返し
のように吸い付く。根元と先端、袋を別々の口が包んで舐め回していった。
 最早、時間の問題だろう。だというのに、どこか余裕があるのが気に入らず、赤
毛は鋭い目を見せた。
「何だっていうのよ」
「俺じゃ、時間、稼ぎにしかならない。自分、で分かってる。それ……はっ、出来
たから、満足してイけるんだ」
 頭の両側を後ろの淫魔の乳に挟まれながら、アールの目が真っ直ぐに射る。心の
琴線を撫でられた赤毛だったが、彼女は根っからの攻めだった。どきどきしながら
も、小悪魔的な笑みでアールの額に額をつける。
 間近で見つめ合うと、相手の息遣いの全てが伝わってくる。溢れた唾液で濡れる
アールの唇をじっと見ながら、赤毛が言った。
「それは良かったわね。きっと、彼女達も喜んでくれるわよ」
 舌を絡め取りながら、赤毛が目で一方を示す。ぼんやりと向けながら、それが非
常階段の方だという事にアールは気付いた。瞬間、溶けかけていた頭に冷たい錐が
差し込まれる。
 さっき逃げた筈のクリス達が、非常階段から屋上に戻ってきた。白い肌を朱に染
めて、熱いのか上着の前をはだけて乳房を外気に晒している。とろんとした瞳は焦
点が合わずにいたものの、ある者を見つけて視線が集まった。
 男、だ。
 精液を吐き出す男性器を持つ者、それへと群がってくる。譫言のように彼の名前
を呼ぶが、それは見慣れた彼女達の姿では無い。
「……嫌、だ。嫌だ、いやだ!」
「いいわぁ……あたし、君みたいに意志の強い子が絶望するのって好きよ。ぞくぞ
くしちゃう。心配しなくても、あの娘達にも、たっぷり注がせてあげるからね」
「先輩! クリス先輩!」
 アールが身を乗り出すのを、赤毛の乳が優しく受け止める。激昂したアールは、
近付く彼女達の名前を一人づつ必死に呼び掛ける。だが、
「アール君……嬉しいな、そんなに私に注ぎたいんだ」
「うわあぁぁぁあああ!」
 身を捩って周りの淫魔を離そうとするが、彼女達は巧みに体を蠢かせて力を逸ら
す。少しだけ冷静さを取り戻したアールは、イかせて退かそうと肉壺へ指を突っ込
んだ。第二関節で折り曲げ、敏感な部分を探り当てる。
 かえって嬉しそうに、両手に絡んだ膣は指を呑み込んでいく。焦るアールが集中
を高めていった時、唇が柔らかく塞がれた。
「お待たせ」
 軽く口を離してそれだけ言うと、クリスが両腕で頭を抱き寄せる。押しつけられ
る舌が、密着する面積を少しでも増やそうとまとわりついた。
 他の女生徒達も、ある者は胸を、ある者は陰唇をアールの体に擦り付ける。彼の
全身は、淫魔化した女生徒と淫魔によって、冬の外気から完全に遮られた。柔らか
く甘い匂いのする肌達が、アールとの接触を少しでも多くしようと求めていく。
 二つの口に別々に包まれた袋の皺が、一つ一つ舌先で辿られる。入れ替わり続け
ながら三つの口が群がる陰茎は、圧力が消えれば腹に張り付きそうだ。
「……っ」
 クリスの目を見ながら、アールが何か声を洩らす。微笑み返されて哀しみの過ぎ
った瞳が、強く閉ざされた。両耳の穴に潜り込んだ舌が立てる音が、熱くアールの
脳を侵す。
 彼の方から入れたはずの指も、きつく絞られて最早抜く事すら許されない。そし
て、どれがきっかけになったか分からない快楽の中で、アールは達した。
 どくっ、どくどくどくどくっ
 激しい射精を受け止めた淫魔の一人が、うっとりと飲み込んで顔を離す。吹き出
す白濁液を、近くにいた者達が奪い合うように口で顔で受け止めた。
 女の顔についた白濁液を、他の者が舐め取っていく。キスを続けるクリスは片手
を伸ばし、陰茎に残る精液を絞り出しては、それを膣に擦り付けた。収縮する女陰
が、啜るように蠢く。
 赤毛の淫魔は、他の女の顔についたものを舐め取る。喉越しを味わうように目を
細めてから、博士の方を振り返った。
「あたし達の勝ちのようね」
「さて、どうかな」
「強がったところで、結果は何も変わんないわよ」
 淫魔にイかせられた者は、その後ずっとイかせられ続けたいと願う。淫魔が止め
ないのもあるのだが、限界を超えて出し続け、やがて死に至る。一度イってしまえ
ば、淫魔とのセックス以外の刺激など、無いも同然になってしまうのだ。
 だから、どれだけ体力や精力が余っていようと、何の意味も持たない。だという
のに、ウェスト博士は常通りの優しい声音でこう言った。
「さっき射った薬によって、アールは日に何十、気力さえ保てば百を超える射精も
可能になった」
「だから何さ。そんなの、あたしらが喜ぶだけじゃないの」
 アールの射精を口で受け止めた淫魔が、膣口に先を合わせて自ら埋めていく。全
てが収まったところで、満足そうな息を吐き出した。
「今のアールの精は、非常に効果的な催淫剤になっている。肌に触れただけでも、
膣内に欲しくてたまらなくなるはずだ。口から飲んだ者は、その者と同じように、
絶対に挿入を止められない」
「うるさいわよ。そんなの、淫魔なんだから当たり前でしょ」
 現に、赤毛の淫魔もアールの精を膣内に欲しい気持ちが高まっていた。淫魔とし
ての自然な欲のはずだが、ウェストの優しい声音がひどく不安にさせる。
 アールも淫魔に犯された者として当然のように、跨る者を掴んで腰を振り始める。
と、それを見て赤毛の淫魔は息を呑んだ。アールは腰に捻りを加えながら、単調で
はない注挿を繰り返している。だが、そんな筈は無い。技巧を尽くしての責めなど、
淫魔で一度イった人間に出来る訳が無い。
 戦慄と情欲を抱え込んで、赤毛の淫魔が様子を見守る。クリスから口を離したア
ールが、息を吐きながら背筋を震わせた。
「ひゃぁんっ」
 跨っていた淫魔は、膣内で射精を浴びて大きな嬌声を上げた。翼を先までぴんと
伸ばして、アールの上に崩れ落ちる。それは赤毛の淫魔にとって、信じられない光
景だった。
 一度イったはずの男に、淫魔がイかされた。それも、並みの人間ほどの持続時間
しか無いような奴の、射精を浴びただけで。
「あり、得ない。あり得ないわよ、こんなの。どんなイカサマをしたっていうの!」
「……ようやく、俺にも分かった」
 女達を体中にまとわりつかせながら、アールがゆっくりと目を開ける。快楽に満
ちてはいるものの、その瞳は彼の強靱な意志を宿したままだ。
 それを見た赤毛の淫魔は、仲間が斃された直後だというのに胸を高鳴らせた。
「さっきの薬は、逆淫魔を作り出すものなんだ。そうですね、博士?」
「逆淫魔などという造語を、いきなり勝手に作られても、意味が分からない」
 ウェストの冷静な声に、アールは困ったような顔になる。どう言い換えようかと
悩む彼の腕の中で、繋がっていた淫魔が大きく身震いした。
 イった直後に消えないというのは、余り無い事だ。少し時間がかかったが、これ
も淫魔の宿命なのだろう。憎悪と好意、相反する感情に揺さぶられながら、赤毛の
淫魔は様子を見守った。
「あ、ええと、何て言ったら良いんだろう。つまり、淫魔の逆なんですよ。淫魔は
人間の女と交わって、淫魔化させる。今の俺が、淫魔と交わると……」
「そういう事だ」
 ずるっ、とアールと繋がっている淫魔の背中から翼がもげた。千切れたのでは無
い証拠に、出血も無く背中は滑らかな肌となっている。
 頭から角が落ち、尻から尻尾が落ちる。アールの上で喘いでいるのは最早、人間
の女にしか見えなかった。
「はぁっ……はぁっ……あれ? あたし、消えてない」
「消えはしない。せいぜい、妊娠するぐらいだ」
 博士の言葉に振り返りかけた彼女は、後ろから持ち上げられて床に落とされた。
その悲鳴を無視して、赤毛の淫魔がアールを呑み込んでいった。入り口と中ほどと
奥、膣内の三箇所が同時に蠢く。
 赤毛の淫魔に何か言いかけたアールだったが、その口をクリスに塞がれる。キス
を中断されて不機嫌そうな彼女は、誠意と共に舌を求めた。
「私は、以前から疑問だった。イかずに我慢しながら、相手をイかせ続けられる者。
そんな大遅漏など、滅多にいない上に普通の性活を送れないだろうと。人はしょせ
ん、イく時はイくのだ。ならば、それをこそ最大の武器にすべきではないかと」
 ウェスト博士が一人悦になって解説するのだが、聞いている者は誰もいなかった。
 射精を受ければイっても良い。産まれて初めてのイこうとするセックスに、赤毛
の淫魔は脳髄まで焼き尽くされていた。アールに与えられる快楽を、一切我慢せず
に全身でたっぷりと味わい続ける。
 クリスと密着する口の上で、アールの鼻息が切なげに漏れた。
「イ、イきたいっ? 我慢しないで、あたしの膣内に全部注いで! もっと子宮口
に押しつけて、たっぷり射精して……お願い、あたしを妊娠させてぇっ!」
 ぎゅっと抱きつかれたのを合図にしたように、アールは赤毛の膣内へと注ぎ込ん
だ。クリスに舌を舐め取られ、両手の指が別々の膣に吸われるのに合わせ、どくど
くと吐き出す。
 淫魔は男の精を喰うだけあって、セックスは日常だ。だが、赤毛はセックスでイ
ったのも、行為後の気怠い感覚を男の胸で味わうのも初めてだった。ひどく幸せな
気分は、妊娠を望んだからだろうかと下腹部を意識する。その彼女の背から、蝙蝠
に似た翼が落ちていった。
「次は、私だよ。この中で一番、アール君の精液を注がれたがってるのに、なんで
三番目かな」
「クリス先輩、今はそういう場合じゃ……」
「そういうもこういうも無いでしょ! ずっと心配させて、出てくる言葉がそれ?
 罰として、ちゃんと孕むまで私の子宮に注ぎ続ける事」
「いや、だからそういう場合じゃ無……うわっ」
 淫魔ハンター養成機関の卒業生首席が確実視される膣内は、強力だった。つい数
時間前に気絶させられた、手加減の無い蠢きがアールを襲う。我慢しきれずに一度
吐き出したが、背筋を仰け反らせながらもクリスは動きを止めない。
 まとわりつく淫魔や女生徒達が、もどかしそうにクリスを退けようとする。だが、
アールに手足を絡みつかせたクリスは、満足するまで子宮で味わい続ける気らしい。
 方針転換した彼女達は、クリスの胸や陰核といった敏感な部分に触れて彼女を高
めていく。クリスが感じれば感じた分だけ、繋がっているアールも快楽が増してい
った。吐き出した精液が溢れ、周りの女達が結合部へ舌を這わせて喉を鳴らす。
「今のうちに、注意事項を伝えておこう」
 えらい光景に直面しているというのに、趣味が異なるウェスト博士は冷静そのも
のだった。
「さっき言っていた副作用だ。君は毎日、女の膣に注がなければならない。注がず
に一日経つと落ち着かなくなり、二日で穴があったら無理にでも入れたくなる。三
日過ぎれば発狂し、四日の間に一度も子宮へ浴びせねば死ぬ」
「……」
 優しい声音で容赦の無い事を言われて、アールの顔が強張った。それを見て、安
心させるように博士が告げた。
「もっともこれは、マウスの実験結果に過ぎない。もっと時間的余裕があるかもし
れないし……無いかもしれない。試してみるかね?」
 ぶんぶんと首を横に振るアールを、少し残念そうに博士は見た。
 体を擦り付けるように上下動するクリスのせいで、まともに喋れなかったのだが。
彼女の体を抱きしめて、なんとかその動きを止める。それからアールは、博士に向
かって声を絞り出した。
「解毒剤のようなも……のわっ! な、無いんっ、んんんっ」
 アールに抱きしめられた事で感情が昂ぶったのか、クリスが目を閉じて愛しそう
に抱き返す。それだけでなく、膣が搾り取るような収縮をし始めた。
 ただでさえ喋り辛くなったアールは、女生徒の一人に口を塞がれて全く話せなく
なってしまった。
「まだ試薬の段階だから、解毒剤なんて無い。作ってはみるつもりだが、あまり期
待しない事だな」
 もっとも、と言葉を切って博士が続ける。
「一度死んで、血液を全て取り替えれば、あるいは効果が消えるかもしれない。安
心したまえ、死者を蘇らせる事こそ、私の専門なのだからな。くっくっく……」
 哀願するように首を横へ振るアールが、見えているのかいないのか。背中を向け
た博士は実に楽しそうで、そのまま邪悪な笑みと共に去っていった。
「……あ、またイくんだねっ。いいよ、きて、沢山出して。今日の補習もね、アー
ル君が子宮に注いでくれるっていうから引き受けたんだよ。ね? 普段から君の子
供が欲しくてたまらない私の子宮に、いっぱい注いで孕ませて……お願い」
 最後に強く締め上げたクリスへ、アールは今日何度目になるか分からない射精を
行った。浴びせられる度に痙攣を繰り返すクリスが、ようやく満足したのか後ろへ
と倒れ込む。
 と思いきや、それは他の女によって引き抜かれただけであった。腹を括ったアー
ルは、まだ湯気の立つ陰茎を新たな膣へと突き入れた。
 周囲に群がる淫魔の数が増えたように思いながらも。

 数時間後。
 管区警備と同盟の淫魔ハンターが突入し、学園は奪還された。校内に転がった無
惨な屍は、丁重に葬られる事となった。
 淫魔全てを人間化させたアール、その経緯を知った同盟は新たな戦略を立てた。
ウェスト博士の薬の完成を急がせると共に、アールを中核とした対淫魔戦の新組織
を結成。こうして、人類は求めていた切り札を手に入れた。
 淫魔を狩る者では無く、倒す者。性技による調伏から、精による決定打を与え得
る者。人は、それを淫魔バスターと呼んだ。
 アールによる淫魔バスター増産の成果が出るのは、十数年の時を待たなければな
らない。淫魔ハンターや人間化淫魔、神職といった対魔戦の能力が高い者との間に、
順調な成果が産まれていた。
 とはいえ。対淫魔戦に持てる戦力を温存する余裕の無い同盟は、切り札たる彼を
投入せざるを得ない局面も多々あった。

 数年後、とある神殿内。
 あられも無い姿で横たわる女達がいた。全裸や半裸となった彼女達は、股間から
精を垂らしながら至福の睡眠に落ちている。それらをずっと辿っていくと、祭壇の
前で絡み合う三人の人影があった。
「えへへ。それじゃ、そろそろ挿れるね」
「ちょっとクリス、何言ってんのさ。あんたはもう、三人も産んでるだろ。ここは、
まだ二人しか産んでないあたしが優先されるべきじゃないか」
「何言ってるのよ。そんなの、そっちの問題じゃない。大体、元淫魔が何を偉そう
に」
 陰茎を両側から掴み、引き合いながらクリスと赤毛の女が睨み合う。揺れる四つ
の乳を眼前に、口喧嘩を聞かされていたアールは双方の手を振り払った。
「ああ、もう、うるさい。順番からいけば、次はクリスだろ」
「あっ……はぁんっ」
 股を割って挿入したアールは、唇を尖らせる赤毛の女へと顔を向けた。
「そんな顔しなくても、ちゃんとシてあげるから」
「……だから、アールって好き」
 抱擁と共にキスを交わす二人を見上げて、クリスが不満そうな顔になる。それを
感じ取ったのか、アールがすぐに彼女の敏感な部分を擦り上げた。雑念を白く埋め
尽くされて、クリスが歓喜の声を漏らす。
 いくら空いてるのが丁度この二人だったからとはいえ、任務に同行させるのは無
茶だったか。等と、アールは気付かれないように肩を落とした。




6スレに投稿された作品です。

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]