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光の宗教と闇の宗教 5

5.1

「わり。おめら、死んじったみてだ」

 黒踏宗の少年闘士の二人、煉藤餓鬼丸(れんどうがきまる)と陣都雄大(じんとゆうだい)は、彼らの目の前に長老を見た。

「……あ? おう、おやじ。ここはどこじゃ。あいつら、どうなった」
「…………」

 わめく餓鬼丸を尻目に、雄大は己の寝間着をまくり上げてみた。傷一つ無い。確か女共を逃がすためにドアを押さえていた時に、しこたま銃弾をもらったハズだが。……女達は無事に逃げられたろうか。

「死んだばっかのおめらの魂だげ裏っ側にちょろまかすんで精一杯だぁた。でもよ、俺ぁ死ぬのも初めてだじ人の魂移してやんのも初めてだじよ。なーんも解んね! まぁ頑張れぇな」
 かかかと笑い、長老の姿は立ち消えた。

 身の回りを見る。石でできた階段だった。上にも、下にも、限りは見えずに伸び続けている。右手は崖だ。これまた落ちた先はまったく見えない。左手のみ長大な岩肌の斜面だった。ごつごつと荒い自然の岩が乱雑に入りくんでいる。歩けそうな地形ではない。周囲の微妙な薄暗さも手伝って、なんだかとても居心地悪い。

「……おう、雄大。これ、ここ、一体、なんじゃと思う?」
「さぁな。見覚えのない場所だし、寺の中で鉄砲で撃たれた覚えしかねぇが……」
「まさか、でもわいら死んどらんし、でもこいつぁ」
「うーん。そうだなぁ。まぁ、でも」

 ふと雄大は、先ほどの長老の仕草を大げさに真似て
「なーんも、わがんね!」
とおどけてみたが……餓鬼丸は上手く笑えなかった。


5.2

「松浦先生ー」
「ん」

 光翼教会の事務担当である松浦牧師は今日付けの書類の束を脇にどかして、会計ボランティア役、若い女信徒の顔を見る。

「これ青年部棟の食材費なんですけど」
「あーそれね。誰かがまた犬か猫でも拾ったんじゃないのかなって僕も思ったんだけど」
「だったら玉ネギとかまで増えてるのおかしくないですか? それになんか量も猫にしては異様に多いし……」
「だよねぇ。ひょっとしたら最悪の場合」

「誰かが外部の人間をグループ単位でかくまっていたり、して」
 ははっと笑ってみたが、女の子は怯えて笑わなかった。



5.3

 二人の歩みはぎくしゃくしている。

「…………」
「…………」

 きっかけは雄大の一言だった。しばらくの混乱から回復しかけ、自分たちが現世で死んだ事実も受け入れた。そしてこれからの行動を決めようというときの開口一番がまずかった。

「俺は登ってみるからお前は降りろ」

「……ん。よく解らんのじゃけ」
「この階段さ。逆でも良いぞ。俺が下りでお前が登りって事になる」
「いや、そやない。そやなくって」
 餓鬼丸は額を押さえた。
「危険は分けよう。どっちに行けば良いのかまったくもって解らない。ならば二人で別の道を歩き続けて、生き残った方が生き残るべきだ。肝心な事は引き返さない事。道を分けた意味がなくなるからな。ずぅっと登り続けるか、ずぅっと下り続けるかのどっちかだ。出口があったら大声でもう1人を呼んでみるが、まぁ多分声は届かないだろう」

 ……二人はいささかの口論をし、結局は同じ方向に行くことになった。お前がどっちに行こうと俺も同じ方に行く……餓鬼丸が雄大に猛然と反対したのは随分久しぶりの事だった。

 雄大は崖の方と階段の下の方に小石を投げ落とし、反響音が一切聞こえなかったので上へ進路を取るつもりだと言い、静かに階段を上り始めた。餓鬼丸も黙って上方を見つめ、雄大の後ろに付き従った。

 不和に満ちた空気の中で、二人は一言も口を開かなかった。




5.4


 抜き足、差し足、忍び足。今日も今日とて食堂室への道のりは遠く。

「ミカエルは私を飢え死にさせるつもりなんだわ!」

「もしもしー。そちらミカエル定食センターですかー。あたしにデリシャスでゴージャスな夕ご飯をご馳走願いまーす」


 歌うような声が頭の中で再生される。黒鶴はいっとうワガママになった。しかしワガママを言うときは、まだ良い方だ。気分が沈潜している時は一番ひどい。この世の終わりのような顔をしているなと思ったら急にスイッチが切り変わったように暴れだし、全身の筋肉をフルに使って周囲の物体を破壊する。気に入りの文庫本も見る影もない。静かにさせようと押さえ込むので精一杯だが、こんな端整な女体のどこから湧くのか、猛牛のごとき怪力だ。

「にしても、どうしてあんなに入るんだろう……」
 とは食事の量の事である。黒鶴は食べる。尋常じゃない量、胃に詰める。あの細い体のどこにそれほど容量があるのか解らない。
(暴れるパワーで全部消費されてるのかもしれないなぁ)
 ベッドの上での事もその勘定に入ってる。性と食。リミッターが壊れてる、というのが偽らざる感想だ。彼女はとても、旺盛だった。



「‥‥よし」
 気付けば外出用の登山リュックに食材を詰め終わっている。慣れたものだ。将来は腕利きの泥棒さんになれるのかもしれないな。ミカエルはそう思って自分がちょっぴり悲しくなった。

 しかしリュックの口を閉めて立ち上がろうとしたときに。


「だ〜れだっ」


「ひゃっ!」


 後ろから接触してきた影がある。食材のリュックがどこかに落とした。


「せーんぱいっ。何やってるんですかー?」
「おっ、わっ、鹿沼!?」
 抱きつかれてミカエルは焦る。
「もーやだなー。先輩と私の仲じゃないですかぁ。み・ず・こ、って呼んでくださいよー」

 そう言うと、しなだれかかってきた影はミカエルの顔中に口づけの雨を注ぐ。ミカエルは相手の体を押し返そうとするがどうにも押し負けた。


 鹿沼水子(かぬまみずこ)。二個年下の彼女は同年代の中では体格がぽっちゃりしていて、男として低身小柄のミカエルよりは体重がある。いろいろあって女達からの評判は良くない。

「せんぱぁい……あぁ、会いたかったよぉ……」
「ちょっと、やめろっ、鹿沼」
「せんぱぁい、せんぱぁい……」
「うっ」

 ちゅー、ちゅっちゅっと顔中にキスをまぶす彼女は真剣だ。何かにとりつかれているように。たぶん言葉をかけても聞こえない。しばらくは、なりゆきに任せる他に方法がない。

「ぷはぁっ、はぁ……」
 キスに飽きるまで、たっぷり30分ぐらいはかかったろうか。しかし、これでようやく落ち着いて話ができるとミカエルは思った。

「ふぅ……ふぅ……、なぁ鹿沼、」
「はふ……はぁっ……。それじゃあ先輩、えっちしましょっ!」
「なんでだよ!」
 寝間着のズボンをずり下ろそうとする彼女を必死にとめる。

「えー、だって先輩ぃ、最近全然会ってくれなかったぢゃないですかー」
「……別に会う理由もないじゃないか。それに僕には僕で事情があるしさ」
「まぁアイツのせいですよねー」
 アイツというのはこの場合、卯白さゆりの事をさす。イケイケタイプの水子がミカエルに粉をかけるのにも辛抱強く耐え続けてきた、ミカエルの性技パートナーであるさゆり。だったが、ある日とうとう堪忍袋の緒がぶち切れた。かなりの大喧嘩となり、さゆりが一個年上で、なにより彼の正式なパートナーという事もあって勝利を収め、水子はミカエルに会えなくなった。他の年長の女信徒達も水子に目を光らせている。

「ほーんと、寂しかったんですよぅ」
 しくしくと泣き真似をすると
「おいっ……」
 ミカエルはとっさに同情心から相手の両肩に手を伸ばしてしまうが
「あはっ」
 その手をぱしっと逆手にとられて、二人は床に寝転んだ。

「ねぇ先輩、エッチしよ。エッチ〜!」
「おい、こら」

 ごろごろもぞもぞ。水子は自分の柔らかなボディをミカエルの体にすりつけた。黒鶴……とさゆりの顔が頭に浮かぶ。ここでこの後輩を相手にしっぽりエッチなぞしようものなら後でどうなる事か解らない。ゆえに抵抗は本気で必死だ。

 しかし、
「てい〜すとっ、でり〜しゃーす」がぶがぶがぶっ。「いぎっ〜〜〜〜!」
 ミカエルのタンクトップに頭部を突っ込んだ鹿沼が彼の乳首をキツめに噛みしめた。ミカエルの動きはしばらく痺れ、その隙に衣服が乱暴に剥がされていく。

「せーんぱいの体、スリムでかっこい〜」
 二人の脱げた衣を下敷きにし、彼女が上から覆い被さって動きを封じた。そのほっぺたに頬ずりをする。

「ねぇ、せんぱい?」
 耳に口を近づけると、ごにょごにょと囁きかけてくる。股の裏側から器用に手を差し入れて、男の肉柱を袋ごともみしだくのも抜け目ない。
「あたし、先輩の子種、欲し〜なぁ」
「ん……」
「だってもしあたしが妊娠すればあたしも先輩のパートナーとして、あの女と対等の立場になれるじゃないですかぁ」
「ぅっ、」
「そしたらあんな地味な女、さっさと蹴落としてあたしが先輩を独り占めできちゃう」
「そんな事……ダメだ」
「ダメじゃないですよ〜。ダメっていっても抜いちゃうもん。ささ、せんぱい、あんまり暴れないでくださいね」

 ひときわ強く股間を握り、水子の動作は激化した。



 濃厚なフェロモンの香りにミカエルは酔った。耳穴に舌を差し込まれたり耳たぶを両唇でしごかれるたびに、笑いたくなるような快感の波がミカエルの性感を押し開く。彼女の胴体を押しのけようとして回した両手、その指の一本一本がモチの肌に深く沈んだ。今までに体を重ねたどの女ともタイプが違う、柔肉の重みが新鮮だ。

 ふるっふるのボディが熱を帯びてのしかかる。灼けたチーズがドラム缶から彼の体に流れ落ちてくるような。

 押せども押せども跳ね返される魔性のチーズに絡みつかれて、ミカエルの肉茎はみるみる育てあげられてゆく。甘美な肉の牢獄の中で、彼の血潮が出口を求めて先端の方へと押し寄せてきた。体の奥が爆発しそうで無性に切ない。もはや、我慢の限界だった。

「んっ、……んん」
「せんぱいっ……! やっと、その気に……、うれしい!!」

 まとわりつく重たい柔肉を、ミカエル少年が貪った。彼女の内面は体表よりも熱かった。焼け付くような粘膜が彼の男槍を入り口でぴったり包み込んでシェイクする。水子の肩口に浮かぶ玉の汗をミカエルの舌が舐めとった。全身に押し寄せる弾力感が心の底から気持ちよく、ミカエルの意識は肉に埋もれた。加速していく快楽の荒波の中で、彼の理性は獣になった。

「せんぱいっ! もっと! もっとあたしを貪って! 体の奥まであたしを食べて!」
「ダメだ! 出る! みずこ!」
「せんぱい! 出して!」
「ぐぁああああ! みずこ! みずこ! みずこぉぉぉおおおお!」
「せんぱい! せんぱい! せんぱい! せんぱいぃいい!!」

 重みの乗った水音が、腰のリズムに合わせて響く。
 二人の気持ちが融け合って一つになって、今まさに絶頂が弾け飛ぼうとするとこだった。




「何やってんだクソマンコ」
「え」


 上になった水子の頭部に、銀色の直方体がめり込んだ。


 腰をふっていたミカエルはしばらく惰性で動作をして精を出したが、水子の方は動きを止めた。


 業務用の電子レンジ。共同使用のオーブントースタ。はては大人数用の大きな炊飯ガマまでが飛んできて体に刺さる。が、それらの物体は彼女の体表に波紋を立ててめり込んだ後、ゆるやかに反対側まで滑っていって地に落ちた。


「誰、あんた」


 水子が眉をひそめて邪険に言う。冷めた彼女と対照的に、射精を終えてぐったりしてしまったミカエルの体が突然、串を刺された伊勢エビのごとくに固まった。

 顔色を失い、新たな業務用レンジを片手につかんだ黒衣の女性。まごう方なき黒鶴だ。


 水子の方には攻撃が通じないと察した黒鶴は、ミカエルの方に狙いを変えた。大きく見開かれた真っ黒な両眼。内側の方が「ハ」の字に歪んだ敵意の眉毛。ヤクザ者でも滅多にこのような表情は作るまい。

 無骨な四角の銀色の箱がミカエルの頭部めがけて光る尾を引く。水子はおもわず男をかばった。流動と化した彼女の体が飛来物の射線を曲げる。ミカエルは慌てて立ち上がろうとしてなんどかコケた。


「なんなの、こんなときに」

「どけよクソ」

 黒鶴の右手が食事用ナイフをひっつかむと流れるように左を伸ばす。手はそのまま水子の裸体を貫いて向こう側のミカエルの首根を捕まえた。

「死ね」


 ミカエルはとっさに腕ごとナイフを止めた。これは危ないとみた水子も体の液状化を解いて女のナイフの食い止めにかかる。

 しかし二人がかりでも刃は止まらず、のど元めがけてじりじりと死が近づいてくる。



「誰か! 誰かあ!!!」


 水子は叫ぶ。なりふり構っていたら殺される。体の芯からそう思われた。



5.5


 当直当番、警護役。大人の男七人がかりでようやくの事、不審な女の動きは止まった。

「こいつは確か黒踏だよ。この前の試合のときに見た」
 という大人の一人の証言により、黒鶴は監獄と尋問室の方へ運んでおこうという事になる。

 連れ去られる彼女にむけて思わず
「くろつる」
 と、声をかけてしまったのがマズかった。

 目を見開いた水子が警護のポケットからスペアの錠を取り出すと、ミカエルにも素早く手錠をかけた。ニンマリしながら大人を見渡す。
「ミカエル先輩もどうやら関係者のようですので、これは私が処置します」

 憧れの先輩を尋問室へと引っ張っていくための正当性を予期せず得られて、彼女の足取りは嬉々として軽やかだ。



 鹿沼水子。彼女は性拷問官ニキータ嬢付き、拷問役の一人であった。
 えーっと。

 無駄を省こうとしすぎると場面のジャンプ(?)が続いて読みにくくなるし、かといって逆に書き込みを沢山しても読むのがダルくなってしまうし。

 エロばっかで紙面を埋めても、なんか刺激が乏しくなる気がするし(←エロシーンばっかなのにお話もとっても刺激的な書き手さんもいらっしゃって、ああいう人達は本当にすごいと思う!)
 エロ少なかったらそもそもそれはエロ小説じゃなくてただの小説だろうし……。

(それを差し引いても今回はエロ微妙)

 ほんと、「普通に見える物」を「普通に書けてる」ような、他の皆様方は偉大であります。

 さて。コメントは匿名無言でメーター■5個のみであると、私は狂喜乱舞です。(もちろん強制とかは無いですが)
(宦L∀`)
 お世辞でも、サービス接待でも。おだてに乗せられてるうちに文章力とかが上達して、そのうちすっごい物が書けるようになっ……たら良いですね(w

 ではでは。

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