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夏期講習会A

特別補習はやはり彼女たち3人だけを対象にして実施することは無理であった。だが、塾長も状況を
理解し、全3年生を対象に募り、自由出席とすることで誰であっても任意で受講できるとこととした。
勿論、特別に授業料を取るわけではないから、講師のまさひろはボランティアみたいなもので、通常の
授業に加えての補習だから、体力も一段と必要だ。授業するには講師側も予習がいる。まさひろは、
疲労を覚悟し、懸命に教えることを考えていた。
蓋を開けてみると、出席者は例の3人組以外は数人であった。無理も無い。現状の授業だけで
精一杯の生徒がよりレベルアップしたものを学習しても意味が無いわけだから。更に3日もすると
予測していたことではあったが、授業に出て来るのは美香、唯、瑞希の3名だけとなっていた。まあ、
まさひろにとっては、その方がレベルが一緒なので授業はし易いから、却ってホッとしていた。

彼女達は普段とは打って変わって真面目に勉強し始めていた。やはり、レベルを上げたせいか、真剣
に取り組んでいる。講師をしていれば良くわかるのが、生徒の理解力だ。この3人のはもともと賢いので
あろうか、教えることをスポンジのように全部、吸収していった。時に、まさひろが折角、苦労して作成
した問題も易々と解いてしまうこともあった。
(もう少し、レベルを上げないと・・・。)
まさひろはそう思い、より一層、補習の内容を深く真剣に吟味するようになっていた。

夏休みも終盤となった頃、まさひろは相当、疲労が溜まっている状態になっていた。ある日、疲労の
せいか、帰宅するとバッタリと眠ってしまい、気が付くと朝になっていた。しまった!と思うが時既に
遅し、急いで塾へ向かった。通常は、必ず、前日に翌日の授業の予習をするのであるが、この日は
何もせず、教壇に立つことになった。その日、一般の授業は無難にこなす事が出来たが、夕方の
居残り特別補習の方が問題であった。かなりレベルを上げているだけに、それなりに講師としても予習
しないと上手に教えられない。困って迷っているところに、例の3人が顔を出した。
「ねえ。先生。早く、やろうよ。」
それを聞いて、周りの講師たちから、冷やかしの声を掛けられる。
「先生。早く行ってあげないと。あの子達に慕われるなんて、余程、授業が上手なんですね。」
斎藤が人の気も知らずに話し掛けてくる。まさひろは止むを得ず、塾内の書籍棚にある「某有名私立」
の問題集を適当に抜いて必要部数をコピーし、教室へ向かった。

教壇に立つと、疲労の蓄積からかかなり腰が痛かった。脚もガクガクし立っているのがつらいので、
取敢えず、コピーした問題を3人に配布し、一番前の席の椅子に腰掛けた。
「まず、自分の力でやってみて。」
まさひろは疲労で少し休みたい為、まずこのように指示した。中身を確認する気力も無いので、3人の
方を見ながら、ボッーとしていた。その時に気付いたが、3人とも夏休みなのに制服だった。
「あれ?今日は学校だったの?夏休みなのに。」
「今日はね、進路相談会だったんだよね。親連れての。だから、ガッコ行ってそのまま来たんだ。」
普段は、比較的言葉少ない瑞希がそう答えた。
まさひろは、少々、彼女達の制服に戸惑った。今にもパンツが見えんばかりの短いスカートに紺色の
ハイソックス。脚は中学生なりの肉付きだが、白くて長い。彼女達はその長い脚を問題を解きながら、
右足、左足と交互に組替えている。時折、パンツが見えそうになる時があり、つい目を奪われそう
になる。リーダー格の美香は、靴を脱いで脚を組み、何かを書く度に足指をクネクネと動かしている。
制服など普段から見慣れており、何も感じないのだが、不思議とこの時は男の性をそそられていた。
次の瞬間だった。唯が、
「先生。終わったよ。結構、楽勝かもしれない。」
まさひろは、ハッと我に返った。(いかん、いかん。いくら疲れているとはいえ、何を見ているんだ。)
「じゃあ、始めよう。」
まさひろは重い腰を持ち上げると、教壇に立った。そしておもむろに黒板に向かって、問題を説明しよう
とした。が、問題を見た瞬間、まさひろは当惑した。かなりの難問である。それまで全く見ていないの
だから、講師と言えども無理は無い。ちょっとの間、考え込んだ。だが、全く回答が頭に浮んで来ない。
(どうしたことか・・・。いくら有名私立の問題とは言え、中学生の問題だからな。)まさひろは止むを
得ず、回答を見て説明をしようと、手元の書類から探したが、うっかりしていた。急いでいた為に、
回答を持ってくるのを忘れていた。

3人は非常に賢いので、まさひろの異変をしっかりと感じていた。
「先生。答えはあ〜?早くしてよ〜。」
「まさか、わからないんじゃない?」
からかいにも冷やかしにも似た感じで、3人がそう言葉を浴びせる。調子付く3人は、
「それでも講師なの?なんか、がっかり〜。」
「私なんか、楽勝でできたのにね〜。」
と、以前の普段の授業のようにしゃべり始めた。ずっと素直だった彼女達はあっという間に戻っている。
ただでさえ疲れているまさひろは怒り始めていた。(俺はこいつらの為に、補習までして頑張っている
のに。こんなことで色々と喧しく言われて・・・。)
もはや、まさひろの頭の中では問題を解く余裕はなく、血が上り始めていた。黒板に向かっているが、
背後から耳に彼女達の罵声のような声が嫌でも入ってくる。答えを取りに行けば良いのだが、今、
ここを外すと何を言われるか、わからない。まさひろは、適当に解説して答えを黒板に書いた。そして、
回答を取りに戻った。彼女達は大笑いでまさひろの姿を見ていた。だが、戻って来て、唖然とした。
まさひろの回答は、まるで出鱈目で、彼女達3人は見事に正解していたのだ。
「先生。馬鹿じゃないの?こんな問題、間違えるなんて。」
とリーダー格の美香が勝ち誇ったように言った。他の2名からも罵声を浴びせられる。流石に恥かし
かった。まさひろは暫く、彼女たちに背を向け、無言のまま黒板の方を向いていた。
だが、次の瞬間、鈍い音がしたかと思うと、腸が上がっていく感じがし、顔から血の気が引いた。
「何とか言えよ。こら。」
美香がまさひろの股間を思いっきり蹴り上げていたのだ。まさひろは何が起きたかわからないまま、
教壇にうずくまった。
「ううう・・・。」
声にならないほどの激痛であった。息も出来ず、腸が痛い。続いて、美香はまさひろの顔にローファー
乗せた。
「お前、前からむかついてたんだよね。馬鹿のくせに偉そうにしてるから。」
「さっき、ジロジロと見てただろう。私のこの脚を。おい。」
他の2名がそれを聞いて大笑いしている声が遠くに聞こえる。美香は、脚に力を込めて、グリグリと
爪先を動かした。
「ぐふうわあ・・・。」
まさひろは今度は顔の痛みに絶叫した。こいつら、ぶん殴ってやる、と心で思っても、急所蹴りが
効いて体が動かない。そう思っていると、美香の鋭い蹴りがまさひろの後頭部に入り、その勢いで、
まさひろは、黒板の下のコンクリートに頭を打ったかと思うと、下半身に生暖かいものを感じながら、
気を失った。そう、まさひろは、急所蹴りと頭を打った衝撃で失禁してしまったのだ。
「情けない奴だね。ションベン漏らしてるよ。ハハハハ。」
美香たちは、大声で笑った。

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