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激闘! クリスマスファック! 《後篇》

「ああっ、先輩! すごい、すごいです!」
 去年の春。先輩に“初めて”を奪ってもらったあの日、僕はわけも分からぬまま、言われるままに腰を振っていた。
 フェラチオと手コキで十分に昂ぶらされての挿入で、入れた瞬間に暴発してもおかしくはない状況。しかし、そこは先輩が射精までの呼吸を完全に調節してくれていたので、次の一波までのわずかな時間、僕はすでに射精していてもおかしくない快感を味わいながらも、幸福なピストンをすることができた。
 先輩の下からせり上がるようにして、かるく湾曲している肉の道は、深く挿入するだけでも、ペニスの裏が強烈に圧迫される。大きく行き来させれば、亀頭が上の壁に押し付けられ、柔らかい襞溝の海を進まされた。
 下から僕の首に手を回し正常位で繋がった先輩は、励ますような視線を向けながら頭を撫でてくれる。
 やがて訪れる解放の瞬間。
 これ以上の快感や、これ以上の衝撃を味わったとしても、一生忘れることのできない僕という人間の根幹を成す体験。
 そのせいか、何度先輩と肌を重ねようとも、他の女子ファッカーとの実戦を経験しようとも、先輩との正常位に僕は弱いままだった。

 ほぼ1年ぶりの先輩へのインサート。警戒してしすぎることはない。僕は側位を選んだ。


***


 左足を跨がれ、右足を抱きかかえられた今の松葉くずしの姿勢では、貴明くんにピストンの主導権を完全に握られてしまう。前後、上下、左右、球形の立体的な律動が可能な相手に対し、足を捕まえられた私の方は奥行き方向の運動を著しく制限されてしまうためだ。
 しかし、そんな有利な状況にあっても、貴明くんは勝負を急がなかった。大きな出し入れを避け、まるで子宮口と鈴口で口づけを交わしているかのような優しさで私の奥を突いてくる。
 慎重すぎるように見えて、実のところこの責め方は私にとってあまり望ましくない。
 激しくピストンしてくれれば、それに合わせて腰をグラインドさせカウンターを浴びせることもできるし、あるいは体勢を入れ替える隙ができるかもしれない。
逆にここまでじっくり来られると、私の方から打てる手はほとんどないのだ。
 そして次の一手――今この瞬間、瞬間を使って、貴明くんが練り上げた渾身の一手が、彼のタイミングで放たれるのだ。
 これまでのところ、貴明くんのバトルファックは私の知るものとは大分違っている。
それだけに不気味な次の一手。わたしはそれに耐えるための覚悟を決める。


***


 今の僕はどんな膣であっても、入れているだけでイクようなことだけは無い。たとえそれが思い入れの強い先輩の膣であってもだ。
 しかし、そうは言ってもこの温度、ぬめり、圧迫感が天上の心地であることに変わりはない。ましてやすべすべで抱き心地の良い太股を思いっきり抱きしめていると、何もかも忘れて腰を思いっきり動かしたい衝動に駆られてしまう。
 その衝動を抑え、先輩の膣に長居する行為は正直苦しい。
 それでも僕がこの緩い子宮口責めを続けた。同じピッチ、同じストローク、同じ強さ、しかし角度だけは微妙に変えて、最終的に亀頭が当たる場所をずらしていく。
 1mm刻みの方眼に地図を描くように、それこそ測量をするような緻密さで先輩の形を感じていく。
 徐々に脳裏に完成していく先輩の肉体の宝の地図。
(どこかに絶対にあるはずだ、あのポイントが)


***


 神経の通った細やかな、しかし単調な律動が何十往復と続き、なかなか次の一手が放たれない。どうにも貴明くんの狙いをはかりかねる。と考えていると、ある場所に彼の穂先がぶつかってきた。
 じん、と奥底が痺れる感覚。
 パッ、と脳裏に閃く去年の光景。
(まさか、見つけられた!?)
 反射的に硬直しようとする体の芯の筋肉。それが体の表面に緊張となって現れそうになるのを、意志の力を総動員して押さえこむ。
 意図的に手足をリラックス。不自然にならないようにアソコだけは締めてあげる。
 貴明くんは同じストロークで腰を引き、1mm右にずれたポイントを突いてきた。
(大丈夫、隠しきった……)
 動揺したせいかあまりに愚かな油断。
 思わず漏らしたわずかな吐息。そのかすかな安堵をあざ笑うかのように、舞い戻ってきた貴明くんの亀頭がさっきのポイントを再び叩いた。
「ンンッ……」
 今度は完全に反応してしまった。


***


「ンンッ……」
 先輩が鼻にかかった甘い声を漏らした。
 内奥に落ち込んでいく子宮へ続く穴、そこからやや後ろにずれたところにある、唯一点のスイートスポット。先輩の体内に刻まれた、古傷ともいうべき弱みを僕が正確に貫いたのだ。
「ここ、ここなんですね、先輩。去年の……あの時、先輩は、ここを責められていたんだ!」
 僕は一気にピッチを上げる。
 先輩の頤が跳ね上がり、全身に力がこもった。
「んふうっ、くぅ……、はあっ、んっ、た、貴明くん、まさか観客席から見て気付いたの?」
「いいえ、あの時の僕では気付けませんでした。でも、成長が僕に気付かせたんです。あの時先輩の膣内で起きていたことを!」
 先輩との間でのみ通じる会話。たとえ声が観客席に届いていたとしても、彼らには意味が分からないだろう。
 あの時――去年の関東大会で応援席に座っていた僕と同じように。


***


(まさか、貴明くんが“帝王”と同じピストンを使えるなんて!?)
 私は貴明くんのピストンを受けながら戦慄していた。
「くっ、ふっ、んあっ」
 狭い範囲を執拗に狙うピストン。亀頭がぶつかる度に甘い記憶がフラッシュバックする。
 “帝王”こと山本天膳。すでに卒業した彼と対戦したのは、去年の関東大会決勝の一度きりだった。
その一度で深く刻まれた甘い傷跡。それが今、貴明くんに責められているポイントだ。
“帝王”に同じポイントを責め続けられた私は、試合に敗れただけでなく、単純なポルチオ性感とは違った新たな性感スポットを開発さてしまったのだ。
しかし、そこを貴明くんがついてくるとは思わなかった。
まずは“帝王”に匹敵するテクニックがあったことへの意外性。
そしてなにより、きっと彼は私達の勝負の中に、私達の間に、他者の匂いを持ち込むことを嫌うのではないか、そう心のどこかで思っていたのだ。


***


「んうっ、あっ、あくぅっ……んはあっ!」
 面白いように悶える先輩。僕は“帝王”の残した足跡を容赦なく責め立てる。
「はっ、はっ、はっ、先輩、気持ちいいんですね! たっぷり突いてあげますよ!」
 擦り切れるほどビデオを見て探し出した弱点。だが、先輩と楽しいセックスをしていたころの僕では、きっと見つけることすらできなかった。
 でも新しい学校の仲間、地区予選で抱いてきた娘達、彼女達とのバトルファックが僕を変えた。そして僕の中に彼女達の存在が息づいているのと同じように、先輩の中にもバトルファックの系譜が刻まれているのだ。そこを責めるのに、寸毫の躊躇もあろうはずがない!
 僕は汗ばみ始めた先輩の太股を抱えなおし、腰を叩きつけた。


***


「くっ、はあっ!」
 意志がこめられた、いい一突きだった。
 貴明くんの思いが胎奥を貫いて脳天へと突き抜ける。
 ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。
 その一撃を契機に貴明くんの腰使いがより早く、複雑に変化した。
 スイートスポットを叩いた亀頭はそのまま引き返すのではなく、もう一押し押し込んでくるようになった。スイートスポットに一度引っかかった穂先が、一瞬のタメを作ってから子宮口の盛り上がりを撫で滑る。腰を引きざまくるりと腰を回して宥めつつ、一気に突きこまれるスイートスポットへの一撃。
「くふううぅんっ、ああっ、はあうっ!」
 潤みを増した私の膣内はいいように捏ねまわされ、突き回されるようになった。襞壁が耕すように捲り返され、最奥が強く押し込まれる。
 腰を逃がそうにも脚を引きこまれて逃げられない。
 貴明くんの巧みなピストンを無防備な下半身に受け、燃え上がるような官能が渦巻く中、私は自分の甘さを噛みしめていた。ここにきて初めて、今バトルファックをしている相手が、可愛い後輩ではなく、立派な一個の男子ファッカーだと実感したのだ。
「あっ、あんっ、あっ、あくぅん」
 私の知らない腰使いが私を抉る。
 今思えば試合が始まった瞬間に気づかなければならかった。私は可愛い後輩にコーチをしているような気でいたのだ。そんな心持で向かい合っていい相手ではなかったというのに。
 パン、パン、パン。
 私の慢心を罰するかのような貴明くんの鉄槌が、素早く三回打ち付けられた。
「んんんううぅぅ!」
 一つ大きな波がやってきた。
 マットに爪を立てて堪える。その間もピストンは続き、余韻も消えぬまま第二波の予感が押し寄せてきた。
 イキたい!
 精神から切り離されたところで、肉体と本能が悲鳴のような欲求を叫びだす。
 第二波、第三波、貴明くんの腰は休まない。
 波のピークに合わせてグリグリと亀頭を押し付けるグラインド。イカせにくる動き。
 イキたい! イキたい! イキたい!
 全身の細胞という細胞から滲みだす欲求。
 骨盤の底にわだかまった絶頂の気配を解き放ち、全身を震わせて昇りつめたい。
 逞しく成長した貴明くんに突き回されて、イカされてしまいたい。
 それは間違いなく私の本心。女の性だった。

――でも。


***


 胸元から首筋にかけて、桜色に染まった先輩の肌に薄く汗の粒が浮く。
 もともと匂い立つようだった甘い体臭が、噎せ返るほどに強く立ちこめる。
 結合部で鳴る水音。鼻に抜ける嬌声。
 頤を反らし、髪を振り乱して咽びなく先輩は、完全に僕を受け入れ、今まさに昇りつめようとしているように見えた。
(イける! 完全に“逝き体”だ!)
 膣の締まるリズムと体の緊張から、先輩の絶頂の波を計り、止めをさすつもりで腰を突き出す。
――だが先輩はイかない。
 ならば第二波、そして第三波。
――それでも……。
(イかない!?)
 いつイってもおかしくない。むしろイかない方がおかしい感じ方。――なのに先輩はイかない。
(――ッ!?)
 絡みつくような視線。
ハッとして顔を上げると先輩と目が合った。
 快感で緩んだ口元に浮かぶ微笑。眉根を寄せ苦しみながら、隠しきれない喜色が瞳に宿る。
泣きながらほほ笑むような、妖しく美しい複雑な表情。
(これがバトルファッカーの貌……)
 先輩の顔は震えがくるほど綺麗だった。


***


 気持ちよくてたまらない。
 イキたくてたまらない。
 相手だって最高に魅力的な相手だ。
 女としての私も、先輩としての私も、貴明くんのファックの前に屈服している。
 なのに私はイカない。
 イキたくないと、最後に残った私の中の私――バトルファッカーとしての私が声高に叫ぶのだ。
 闘いを求めるバトルファッカーの性が、安逸な幸悦を拒むのだ。
 セックスの、バトルファックの高みに至る道を求めて、抗わずには、闘わずにはいられない!
(責任を取ってもらうわよ、貴明くん。この貌を引き出した責任を。どこまでも付き合ってもらうわ!)


***


 空気が変わった瞬間、股下に不意打ちが仕掛けられた。
 跨いでいた先輩の左足が浮きあがり、すべすべの内腿で袋の部分を持ち上げてきたのだ。
「くっ……」
 テクニックとしてはそれほど珍しくはないが、タイミングが絶妙だった。前懸かりになっていた隙をつかれ、思わず腰を浮かせてしまう。
 同時に挿入していた肉棒が捩れる感触。先輩が柔軟性を生かして、無理やり正対気味に体を捻ってきたのだ。
 側位に持ち込んだ時同様、僕は先輩の足を抱えうつ伏せに向ける力を加えた。
――その瞬間、先輩の全身のバネが弾けた。
 僕が加えた力を利用するようにして、先輩は捻っていた体を一気に引きもどし、うつ伏せになると、僕が腰を浮かせたためにできた空隙を使って左足を曲げ、片足上げ型のバックスタイルを取った。
 両手と片膝、マットに力をかけやすくなった先輩の体が前に逃げる。
 逃がしてなるものか。
 僕は不安定な体勢から思わず腰で追ってしまった。
「ぐああっ!」
 カウンター気味に腰に押し付けられた極上のクッション。子宮口に押しつぶされる亀頭。
 ヒップスプリング。
 跳ねあがった先輩のお尻に押され、僕の腰が後ろに流れる。
「くううううぅぅっ」
 背筋に全力を込めても、膝をつき、それより後ろに腰がある体勢では、お尻を浮かせていることができない。
「くはっ!」
「んふううぅうぅ!」
 尻もちをついた衝撃が結合部に伝わり二人して声が漏れた。
 しかし先輩は動きを止めない。汗ばんだ先輩の脚が僕の腕からスルリと逃げ出した。
(やばい、逃げられる――っくあっ!?)
 全ての拘束から解き放たれた先輩の腰が持ち上がり、――まっすぐ落ちてきた。


***


 一度抜いて仕切り直し。そんな無粋な考えは全く浮かばなかった。
 こんなに熱くなったピストンを止めるなんてできるわけがない!
 私は貴明くんの股の間に残っていた左足を抜き、彼の体を跨ぎ直す。
 貴明くんは膝を曲げて尻もちをつき、上半身を中途半端に起こしている。背中を見せて彼の腰に跨る私は、ガニ股の少し恥ずかしい姿勢。
(さあ、どうくるの?)
 背面座位か背面騎乗位か。選択権を貴明くんに預ける。
(早く決めないとイかせちゃうわよ)
 私は自由に動かせるようになった腰を振り、決断を迫った。


***


「くっ……はあっ!」
 鮮やかに上位を取られたショックに打ちひしがれる僕を、激しいスウィングが襲った。
 肉茎の付け根に心地よい重みをかけながら、きつく食い締めた肉棒を捏ねあげるように腰を擦りつけてくる先輩。
 とにかくこの中途半端な姿勢はまずい。
 ピストン重視なら体を倒して体を安定させ、背面騎乗位で下から突き上げる。
 愛撫重視なら体を起して背面座位に持ち込み、おっぱいに手を伸ばす。
 僕は一瞬迷った後、背面座位を選んだ。まずは先輩に傾いた流れを押し留めるためだ。
 腹筋を使って体を起こすと、やや前傾していた先輩が後ろに体を預けてきた。
 ポスッ。
(くおおおおぉぉぉっ)
 贅肉のない華奢な背中がすっぽりと懐に収まる。あまりにずるいタイミング。言いようのない愛おしさがこみ上げてきてしまう。
 それを知ってか知らずか、先輩は僕の腕の中で奔放に跳ねまわる。
 なんとか胸に回した手の中で、先端を固く尖らせた膨らみが無邪気に弾む。こちらが責めるはずが、逆に掌の性感を刺激されてしまうありさまだ。
「気持ちいい……、貴明くんも気持ちいいでしょう? ねえ、ほら、貴方の弱いところたっぷり擦ってあげてるよ、ほら! ああっ、最高っ!」
 大きく淫猥にくねり、上下する先輩の腰。先輩は自分が感じてしまうのも構わず、Gスポットのザラツキまで使って僕の裏スジを責めてきた。
「だ、だめだっ!」
 僕は腕の中で跳ねまわる先輩を御しきれなくなり、急遽、背面騎乗位の体勢に切り替えた。
「くはああっ!」
 体を倒した瞬間、一突きする暇もないまま、竿が捩れた。先輩が繋がったまま向きを変え、騎乗位に移行したのだ。
「はあっ、はふぅ、いいわぁ、貴明くん。行くわよ、受け止めて、私の全力のバトルファックっ!」
 感極まったように天を仰ぎ、髪に梳き入れた手で頭を抱えながら首を振りたくる先輩。そして始まる嵐のようなピストン、スウィング、グラインド!
(イかされる!)
 もはや堪えようのない奔流が付け根にまで達していた。


***


 長い闘いだった。
 私の体はさっきから絶頂の手前で、ずっと寸止めされているような状態だけど、もうイク気は無かった。
 対する貴明くんに抵抗する力はない。それは彼を組み敷いている私が一番よくわかる。
 あとは彼がどれだけ私の責めに耐えられるか。それだけ――それだけのはずだったのに


***


 僕の中になぜそんな力が残っていたのか、最初はどうしてもわからなかった。
 組み敷かれたまま、あとはイクだけだったはずの僕は、無意識のうちに起き上がり先輩の唇を奪っていた。


***


「んむうぅぅ」
 このタイミングでキス!?
 思わぬ反撃に頭の中が真っ白になる。


***


 キスをしてからは体が勝手に動いた。
目を丸くしている先輩の膝の下に手を回し、抱き上げるようにして押し倒す。
 なんのことはない。
 この瞬間僕を突き動かしたのは――先輩への憧。
 ずいぶん回り道をして、結局はこの体位に行きついた。
 先輩はキスの衝撃から立ち直ると、僕の腰に脚を絡め、首を優しくかき抱くようにして抱きついてきた。


***


「……一歩、届きませんでした」
 唇を離した貴明くんが耳元でポツリと漏らした。
 本当に一歩、紙一重の差だった。
 もし、キスのあと貴明くんが間髪いれずに責めていたら……。


***


 クッとせり上がる先輩の腰。
「ああっ……、先輩、イキますっ!!」
 僕は先輩の奥に敗北の証を吐きだした。


***


 万感のこもった射精。
 ビュクッ、ビュクッ、ビュクッ、と熱い飛沫が私の中に注がれる。
 長い、長い射精。闘いの余韻に浸るように貴明くんは緩々と腰を揺らしながら、射精を続けた。
 おそらく彼にとっての今日の闘いは、私にとってのそれよりもずっと長く、重いものだったのだ。
 その闘いの価値を、最後のキス、あのキスが全てを物語っている。
 私には予測も回避も対応もできなかったキス。あの一瞬、私のバトルファックは彼のバトルファックに完全に飲み込まれていた。
 彼の世界が、私の高みよりも深かったのだ。
 しかし、その深みゆえに、彼は敗れた。
 長い闘いの末に私に勝り、そして疲れ果てて敗れた。
 ならば今はゆっくり休ませてあげよう。彼のバトルファックはまだ続くのだから。

 私は貴明くんの顔を胸元に抱きながら、満ち足りた気持ちで試合終了のコールを聞いていた。


******


――そして紡がれる闘いの系譜――

「頑張ったわね」
 放心する僕の鼻の頭に優しいキス。
「やっぱり、先輩には敵わなかったみたいですね」
 言って、先輩に手を引かれながら僕は立ちあがった。
「あ、あのっ、これ、どうぞ!」
 駆け寄ってきたタオルガールの女の子が僕達にタオルを渡してくれた。
 たぶん地元の中等部の子だろう。学校指定の赤いジャージにおさげの、クリクリとした目が可愛らしい女の子だ。
「ああ、ありがとう」
「ありがたく頂くわ」
 僕達が礼を言い、体を拭いていると女の子はモジモジしながら言葉をかけてきた。
「せ、先輩のバトルファックすごかったです! 私、今日、タオルガールとして近くにいられて、すごい幸せでした!!」
 たぶん先輩のファンなんだろう。僕は気を利かせて席を外すことにした。
「ふふ、どこへ行くの?」
 腕を絡めてきた先輩が耳元で囁いた。
「えっ、どこへって……」
 先輩は僕を女の子の方へ向かせると、背中を押してきた。
「彼女、貴方のファンよ」
「えっ?」
 思いがけない言葉と背中を押されたせいで、一歩二歩とたたらを踏んでしまう。
「じゃあね、ちゃんと相手してあげなきゃ、だめよ」
 それだけ言うと、先輩はバスタオルを体に巻きながら、制服の入った脱衣籠を抱えて控室に引き揚げてしまった。
 スクエアの上に残されたタオルガールの女の子と僕は、二人して顔を赤くしたまま俯いてしまった。
(ど、どど、どうしよう)
 僕の方から何か言ってあげないといけないのは分かっていても、なにぶんファンの扱いなんか分からない。
「ふ、拭いてくれるかい?」
 追いつめられてとんでもないことを口走ってしまった。
「は、はい!」
 君も断らなきゃ。……あっ、でも、そこ……上手いし……ああ、気持ちいい……。


***


「ふふふ、いったい、何をやっているのかしら」
 スクエアの上の二人の様子に思わず笑みがこぼれた。
(でも、あの子侮れないわね……)
 タオルガールの子は、貴明くんは気付いていなかったけど、確か今年の全中クイーンだったはずだ。本来、そう簡単に顔を赤らめたりする子じゃない。
 それが貴明くんの前では恋する乙女のようになってしまうのは、きっと私が感じたのと同じものを、貴明くんのバトルファックに感じたのだろう。
 その結果、来年進学する彼女がいったいどの学校を選ぶのか。貴明くんと同じ学校か、それとも違う学校か。どちらにしても来年の二人は注目の的だろう。
「あ〜あ、もう一歳若かったらなぁ」
 今年で卒業するのがもったいなくなる。
 でも、惜しむことなんてないのかもしれない。
 私のバトルファックの道はまだまだ続いていて、それは貴明くんや“帝王”、彼女の道とも繋がっているはずなのだから!
なんとかクリスマスには間に合いました。
期限を区切ったので、ちょっと書き急いだ感がありますが、
書きたかったことは大体書けたと思います。

バトルファックの”バトル”に重きを置いて、
できるだけ真面目に競技風景を描いて、青春物の要素も持たせてみました。
こういう舞台設定が大好きだからです。

視点を入れ替えまくるやり方も、そんなに問題無かったようなので続けてみました。
バトルの緊迫感のようなものが出せていれば幸いです。

前篇にご感想をお寄せいただいた御三方(12月22日現在)誠にありがとうございます。
臨場感やバトル風景の部分に反応していただけて、非常にうれしかったです。


ご意見、ご感想等ございましたら、お気軽にお寄せください。

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