『封淫記』
第一章 二話「約束の言葉を」
〜ルナル・ナル『バッド・トリップ』〜
〜リアス・シリア『タイム・パラダイム』〜
あれはいつの頃だろう。記憶の片隅で、少女は笑っている。初めて会う、自分の
将来のお嫁さん。二人は直ぐに打ち解けたお互いの話をし、秘密を話し、病弱な少
女の白い手を取って遊んだ。一夏の間だけの淡い思い出・・・忘却の深遠に沈んだ
その記憶は、いつしか薄れ只の憧憬になっていた。
少年と少女は指を切り約束を交わす。
「約束だよ・・・」
東の果ての町「ロングフット」、ルナル家が代々領主を務める小さな町だ。この町
で、最近不思議な事件が起こっている。事件は殺人事件なのだが、何が不思議かと
言うと被害者が『子供の頃の姿』で走っている所を見かけた者がいたのだ。その時
は他人の空似だろうと、あまり意識しなかったのだが被害者がいなくなった事で、
その時のことを思い出したというのだ。被害者の男は絶頂の果てに死んでいるのが
見つかった。淫魔に襲われた者の特徴的な症状だ。だが、何故男は『子供の時の姿』
していたのか・・・その謎は解けぬまま被害者は増え続けている・・・
その為、ロングフットの住人は夜間の外出を控え、町は夕方にもなると静まり返
る。ロックが町に着いたのはそんな頃だった。
「ナルの家は・・・」
ロックは目的の家であるルナル家を探す。目線を動かしていくと、町の隅に一際大
きな屋根を見つける。
「懐かしいな」
その昔、一夏の間この町で過ごした事があるのだ。ロックはその変わらぬ町並みを
ぼんやりと記憶していた。・・・婚約者であるナルと会うのもそれ以来だ。胸が高
鳴るのが自分でも分かる。使命を帯びているのに不謹慎だとは思うのだが、どうな
るものでもなかった。ナルはロックより2歳年下だ。今年で17歳になる。能力者と
して目覚めたのだが、生まれつき心臓を病んでいて激しい運動が出来ないため『ハ
ンター』(淫魔と戦う能力者。能力を持たず淫魔と戦う者は『闘士』と呼ばれる)
になるのを断念したと聞いた。
「ロック殿・・・で御座いますね?」
初老の老人が近づいてくる。表情から親しみと懐かしさを見て取れる。
「あ、ルドルフさん!?」
好々爺の名はルドルフ・レッグベルト。ルナル家の執事をしている。あの夏、ロッ
クは彼に非常に世話になったものだ。
「お懐かしゅう御座います。大きくなられた・・・さ、旦那様とお嬢様がお待ちで
御座います」
「え?」
「母上様から連絡を受けています、何でも旅の途中だとか・・・少しはこちらに滞
在出来るので?」
どうやら母が事前に念話(魔力を使った電話のようなもの)で連絡を入れていてく
れたようだ。勿論、旅の目的は秘密だがロックは母の気遣いに心が温まるのを感じ
た。
ルナル家の大きな扉がゆっくりと開かれる。玄関でまるで熊のような大男が手を
振っている。ルナル家の当主、ルナル・ビッグ・タムだ。昔はルドルフと共に、最
強の『闘士』と呼ばれた猛者だ。
「でかくなった!でかくなったな、ロック!!」
タムは自分の半分の大きさもないロックを巨大な手でバシバシ叩く。思わず息が詰
まるが、タムは気にする様子もない。
「おじさん、お久しぶりです!」
「何言っとる!『義父さん』と呼ばんか!ほれ、早くナルに会いに行ってやれ。お
前が来るのを誰よりも楽しみに待っておった」
ロックは挨拶もそこそこにルドルフに荷物を預け、かすかな記憶を頼りにナルの部
屋へと向かう。何を言おうか考え付く間もなく、ロックは扉を開いてしまう。
「・・・ロック様。お会いしとう御座いました・・・」
「あ、や、やあナル・・・元気だった?」
豪華な作りのベッドの中で上半身だけ起こし、ナルは潤んだ目でロックを見つめる。
記憶よりもずっと色白だ。ロックは頭の整理もつかないままナルの側に座る。
「久しぶりだね・・・」
「ええ・・・」
「体、平気かい?」
「ええ・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
ナルはじっとロックを見つめるだけだ。沈黙が流れる。ロックはその沈黙に押しつ
ぶされそうになる。もっと言いたいことがあったはずなのだが、出てこない。口を
パクパクさせるだけだ。
「あ、僕荷物見てくるね・・・」
「あっ・・・」
ついにロックは部屋を飛び出してしまう。ナルが悲しそうな目を向けたがロックは
気づくことが出来なかった。ため息をついて自分の部屋へ、トボトボと歩くロック
に、背後から声が掛けられた。
「お困りですかな?」
「ルドルフさん・・・」
「お嬢様は、あの夏ロック様がご実家に帰られてからというもの、毎日のように
あなたの話をしていたのですよ」
ロックはショックを受けた。自分は母に言われるまですっかりナルの事を忘れてい
たと言うのに・・・
「お嬢様にとってあの夏の思い出だけが楽しい思い出なのかもしれませんな…あの
後、病状も悪化して外にも出れなくなり毎日をこの屋敷で過ごされて…私たち従者
もお嬢様の為に力を尽くしましたが、心からお嬢様がお笑いになられるのはあなた
の話をした時だけでした…お嬢様にとってあなたは憧れであり、思い出であり、未
来であり、たった一人の友人であり…たった一人の愛する夫となるべき人なのです
よ」
ますます心が痛んだ。広いとは言え、この屋敷の中でナルは毎日ロックのことを、
想っていたのだろう。そんなロックの表情を見ながらルドルフは続ける。
「・・・戸惑っているのも無理はないでしょう。お互い何年も会っていないのだ。
それにあなたはお嬢様のことをそれほど考えてはいなかったのではないですかな?
…それでもいいのです。あなたは若い男なのだ、それも無理はない。でも、今は。
今はお嬢様と共にいてあげて下さい。好意を持って接するだけで十分ですよ、お嬢
様はあなたの事を誰よりも愛しているのですから」
ルドルフはロックの肩を優しく叩く。そこには執事でなく、一人の男としての先輩
がいた。
「お嬢様を悲しませるような事だけは許しませんぞ・・・?」
いや、執事もちゃんといた。
その夜、大人の男の助言を得て力を取り戻したロックは決意を新たにナルの部屋
へと入っていく。もう一度ちゃんと話をしたい。
「ナル、入っていいかい?」
「ええ・・・どうぞ」
ナルは先ほどと同じように半身だけ起こしてロックを迎え入れる。その目は、相変
わらず熱を帯て潤んでいる。
「何をしてたの…って寝てたんだよね…何考えてたの?」
「ロック様のことを考えておりました」
話題作りのために振った会話でいきなり重い言葉を返されたのでロックは少し照れ
る。だが、ナルは構う様子もない。
「ずぅっとです。ロック様が帰られてから今日まで毎日…寝る前にロック様を思っ
ていました。日課、なんです」
「そ、そう」
「ロック様は、私(『わたくし』と読んでくれ)の事を考えていてくれましたか?」
「それは・・・」
一瞬嘘をついてでも肯定しようかと思った。だが、ナルの真剣な、直向な愛情を前
にロックにはそれが出来なかった。悲しんでいるかと思いきや、意外にもナルは笑
っていた。
「困らせてしまいましたね、いいんです。ロック様くらいの年頃の殿方のお気持ち
はルド(ルドルフの愛称)から良く聞いております故」
(ルドルフさん・・・重ね重ねありがとう・・・)
「ではもう一つお聞かせください、ロック様は現在ご交際中の婦女子はおられます
か・・・?」
「いや、それはいないよ(っていうか今まで誰とも付き合ったことないし…)」
ロックの答えにナルは安堵の溜息をつく。もしロックに恋人がいたら彼女はこの場
でショック死してしまったのではなかろうか。
「良かった…あの頃のロック様とお変わりなくて…」
「そうかな?」
「あ、少し変わったとすれば…どこかお強くなられたような…もしかして能力者に
目覚められましたか?」
「い、いやぁそんなことないよ」
今度は思わず嘘をついてしまった。だが彼女を傷つけるような嘘ではないのだ。別
に構わないだろう。
「そう言えば、ナルは能力に目覚めたんだよね?どんな能力なの?」
「それは追々・・・ロック様、もう少し近くによってください」
ナルは自分の布団を軽く叩いてロックにそこに座るよう合図する。ロックは言われ
るがままにそこに座った。すると、ナルはロックの肩に頭を乗せて(軽いものだが)
すがって来る。甘い香水の匂いが心地よい。暫く、お互いそのまま動けずにいた。
しかし、ロックにもさっきのような焦りはない。
「幸せです…とても。ロック様・・・」
呼びかけられ、振り向いてみるとナルは目を閉じて唇を近づけてくる。まさか、こ
れは、いや、紛れもなく、キス…『接吻』を求められているのだ。産まれてこの方、
女性にここまで迫られたことはなかった(淫魔は別)ロックは高鳴る鼓動を抑えら
れない。
(行くのか!?行けるのか!??)
自問するが答えは出てこず行動に移せない。そんなロックの様子を薄目を開けて察
知したナルは自ら行動を起こした。そのまま体重をロックの体に預け、押し倒し唇
を奪う。何といっても何年もの間、ロックとこんなことやあんなことをすることを
妄想し続けていたナルだ。このくらいの状況は予測済みである。(予断だが、ナル
の能力の覚醒はルドルフの秘蔵本コレクションを盗み見した事が切欠らしい)
舌をロックの口内に深く差し入れ唾液を流し込む。そのまま、ロックの舌に舌を
絡ませ自らの口内に誘い込み、優しく前歯で甘噛みをする。ナルはキス攻撃に早く
も呆然となってしまったロックの顔に優しくペッティングを繰り返す。
(あれ・・・?)
突然、ロックの頭を眠気にも似たボンヤリトした感覚が襲う。だが、それは一瞬の
ことですぐに意識ははっきりとしていた。いつの間にか、ナルもロックも服を脱い
でいる。
「ロック様…見てください。私の体、どこか変じゃないですか?」
「綺麗だ…」
ロックは心底そう思った。考えてみれば、人間では初めて目にする異性の裸姿なの
である。止めようもない興奮がロックの股間部に血液を流し込む。
「まあロック様、私で興奮なさって下さってるんですね?嬉しい…」
その様子を見たナルは頬を赤く染める。
「もっと近くで良く見せてください…」
ナルはロックの股間部に顔を寄せると、怒張したペニスを愛しげに見つめる。まさ
にそれは、恋する乙女の表情だ。
「こんなに立派で大きくて…素敵…(さらに予断だがロックのペニスは常人の1 5
倍位ある)」
ナルの暖かく湿った吐息がロックのペニスを擽る。ペニスはビクッと跳ね上がり、
ナルに興奮を伝えた。
「あらロック様?私に見られて感じていらっしゃるのですか?…それとも本当は、
もうイキそうなんじゃありませんか?」
ナルが意地悪く微笑む。その顔には何か確信めいたものがあった。ロックはそれ
が何か分からず否定する。
「そんなことは・・・」
「いえ、ロック様はもう漏らしちゃいますよ?」
ナルがロックの否定を遮り、言った瞬間。『ドクドクッ』とロックのペニスから
精液が溢れ出す。突然襲い掛かった絶頂感に思わずロックは背を仰け反らせてし
まう。感じてはいたが絶頂にはまだまだ遠かったはずなのに・・・
「ほら、イッちゃいました。私の言ったとおりでしょう?ロック様のことなら、
私なんでもわかるんですよ?まだまだ出来ますでしょ?」
ナルは今度は尻餅をついた様な感じで倒れているロックの股の間に入り込み、右
手でペニスの竿を優しく掴む。だが、扱こうとはしない。その代わりに開いた左
手を玉袋に添えると、下から撫で回すように刺激を始める。
「どうですか?本で読んだのですよ、殿方は竿だけじゃなくこちらでも感じるっ
て…どうですかロック様、気持ちいいですか?」
「うぅ…いぃ…」
竿を扱かれるのとはまた違ったくすぐったいような感じだ。ナルの掌に転がされ
る度に、精液がどんどんと蓄積されていくような気がする。
「ほ〜らほら、どんどんお汁が溢れて来ますよ?またイクんですか?タマタマだ
けしか触られてないのに?二回目なのに?こんなに早く?ロック様のオチンチン
は節操のないオチンチンですね?」
ロックは今度はそう簡単にイクまいと尻に力を込めた。それ以前に、さすがに竿
を扱かれなければ射精までには至らないだろう。しかし…
「我慢してますね?偉いですね…でもロック様はイッちゃうんですよ」
「あぁっ?嘘っ!?」
ナルがニコリと微笑んだ瞬間、再びロックのペニスがドロリと精液を吐き出して
しまった。
「な、何で…?」
「気にしないで、もっと私を感じてください」
ナルはロックの疑問を再び唇で塞いでしまう。またもロックの頭にあの霞のよう
な感覚が襲い、一瞬で消え去る。
「ロック様の…しゃぶらせて頂いても構いませんか?」
ナルがロックの股の間から目を潤ませて懇願する。ロックは黙って頷いた。良く
考えてみれば別に淫魔としてるのではないのだ。イクのを我慢する必要はない。
(早すぎるのは問題だけど)それにいずれ夫婦になる者同士がしているのだ、人
道的にも問題はないはず…とロックは自分を肯定する。ロックだって若い男だ。
こんな、可愛い女の子が自分に無償の愛を注いでくれて体まで許してくれると言
ているのだ。この状況を望まないはずがない。
「あむぅ…じゅぱちゅっ…くちゃ…ちゅぷ…ひもひいいへふは?(気持ちいいで
すか)」
しゃぶられたまま喋られると、堪らなくむず痒い。だが、それがまた堪らなく気
持ちよくロックはまた、黙って頷いた。それを見たナルは嬉しそうに目を細め、
今度は強く、激しく、勢いをつけてロックのペニスをしゃぶり始める。粘着質な
音が室内中に響き、その卑猥な音がロックを更に高ぶらせる。
「ほっひも・・・(こっちも)」
ナルはディープスロートを続けたまま、再びロックの玉袋を弄り始める。ナルの
二点責めにロックは一気に射精へと追い込まれる。
「ナルッ…もう、出ちゃうっ…ゆっくり…!」
この後の事も考えると、(ロックも最後までしたいのだ)既に二度もイッてるの
だからここで射精するのは避けたい。本番に備えるため、ロックはナルの頭を掴
み、フェラを静止しようとした。
「ふぁはふひほふひほはふぃはひんへふは?ほっほふぁんほふひほひふっへふひ
はひふぁはひほふひほはふんふぇふふぇ!?(私の口犯したいんですか?もっと
乱暴に腰振って無理矢理私の口を犯すんですね!?)」
ナルは何を言っているかまったくわからない。だが、ロックの頭にはナルの声が
明瞭に響いた。するとロックはナルの頭を掴んだまま、乱暴に腰を振り始めてし
まう。既に限界まで高ぶっていた肉棒に、自ら更なる快感を与えてしまう、否、
与えさせられている。一見ロックがナルを無理矢理犯しているように見えるが、
精神的な面ではその真反対であった。
「うぁぁっ!!こ、腰が…勝手に…!!止まらないぃぃぃ!!!!!」
ロックはナルの口内に激しく精液を放つ。ナルはそれを、喉の苦しさに涙を浮か
べながらも一滴も零すことなく飲み込んだ。少しむせながらも、平然としている
ナルを見てロックはおかしなことに気づいた。ナルは重い病気のはずだ。いくら
なんでもこんな激しい動きが出来るはずはない。
「ナル、おま・・・」
ロックは心配し、立ち上がろうとしたがナルに肩を押さえられ阻止される。
「ロック様…ロック様のこれ…食べちゃいますね?」
ナルは自らの手で秘所を開くとロックの上に跨り、腰を下ろしていく。ゆっくり
と距離が縮まり、ロックがナルに飲み込まれる…寸前で景色がグニャアと歪み、
ロックの意識が遠のく…
気がつくと、ロックはナルの膝に寝かされていた。
「気がつかれましたか?やっぱり、『本番の体験』は無理でした…」
ロックはナルの言葉の意味が分からない。
「これが、私の『能力』なんです」
頬を赤らめながら、ナルが説明した内容はこうだ。ナルの能力『バッド・トリッ
プ』はキスを介して相手に流し込んだ唾液に能力が込められており、唾液を体内
に吸収してしまうとその相手は『ナルの妄想』をそのまま共有体験する幻覚を見
せられる。勿論、幻覚なので実際はイッてもいないし体力もそのままだ。実際の
『戦闘』では何の役にも立たないと思いきや、やり方によれば相手を廃人に追い
込む(何せ、幻覚内ではナルの思ったようになるのだから)ことも出来る危険な
能力だ。
「じゃあ、俺は幻覚を見てたのか…」
あのリアルな感覚が幻覚だなどと言われて信じられる物ではないが、実際に射精
した様子はないのだから信じる他はない。本番が出来なかったのはナルに本番の
知識がなく、妄想できなかった為だろう。
「ええ、実際には私出来ないから…嘘でもロック様としたかったんです…ごめん
なさい。病気が治るまで、我慢してくださいね?」
寂しげな顔をして謝るナルを見て、ロックは心底この娘が愛しいと感じた。出来
ることなら今ここで抱いてやりたい。だがそれは無理だ…
「そうだ!」
ロックは勢い良く立ち上がる。ロックは思った。自分の能力なら、ナルの体を動
かすことなく感じさせることが出来る。ロックは自分の妙案をナルに聞かせた。
喜んでくれるに違いない、ロックはそう思ったがナルは顔を強張らせた。
「どうしたの?ナル…?」
「ロック様…能力者に…なられていたのですか?」
「あ、あぁつい此間だけど…」
「でも先程は『そんなことはない』と仰られていた…」
「あ、あれは…!」
ロックは息を呑んだ。ナルの目に大粒の涙が光っている。今にも零れ落ちそうな
その涙を隠すように顔を背けると、ナルは叩きつけるようにロックに言った。
「出て行ってください!」
訳も分からないまま部屋を追い出されたロックは、夜の町に出ていた。静かな
夜だ、人っ子一人いない。一体何故ナルは突然あれほど怒ったのだろうか。能力
を隠していたことがそれほど気に障ったのだろうか…夜風で頭を冷やしてみたと
ころで真実はまるで分かってこない。
(折角いい雰囲気だったのにな…)
ロックは肩を落としながら、町の暗がりへと入っていく。周りに人はいないが、
家からは光が漏れている。ロックは本当の意味で一人になりたかった。
「む?ふ〜ん、未だに夜に出歩く男がいるとはな。部屋に押し入る手間が省けた
な…あの無防備な感じ、旅人か?まぁ、いいや。頂くとしよう」
町の裏路地を行くロックを、上から見つめる者があった。自分の体ほどもある翼
で浮かんでいるその者こそ、このロングフットの連続殺人事件の犯人であり、上
級淫魔でもあるリアス・シリアだ。シリアは急降下し、音も無くロックの背後に
降り立ちロックを抱きしめた。
「ふふ、坊や。お姉さんとイイことしないか?」
「なっ!淫魔!?」
ロックは驚き、シリアを振りほどこうとするが凄い力で抱きしめられて身動きが
出来ない。男と女なのにこれ程、力の差があるものだろうか?良く見ると、シリ
アはロックより頭2つ程背が高い。ロックもそこそこ背の高いほうではあるが、
この女はとてつもない長身だ。しかし、相手が強力の持ち主であったとしても、
このまま黙って犯されるわけには行かない。ロックは『グッドフィンガー』を発
動すべく左手に意識を集中した。がしかし、左手に力が宿ることは無い。
「の、能力が!?」
思わず驚きを言葉にしたロックに、シリアは言う。
「ん?『あんたも』能力者だったのかい?でも『5〜6年位前』のあんたは違う
みたいだな?気づかないかい、自分の体を良く見てごらん?」
シリアに言われ、ロックは自分の体をマジマジと見つめた。服が体に合っていな
い。ブカブカだ。体自体がいつもよりかなり小さい…ロックは気がついた。シリ
アが巨大なのではない。自分の体が縮んでいるのだ。力の差もその為だ。
「理解したか?あんたはまさしく『坊や』に戻っちまったのさ、私の『タイム・
パラダイム』の力でね。抱きしめてた時間にも寄るが…あんたは大体一時間くら
いはそのままさね」
ロックは少し安堵した。一瞬、もうずっとこのままなのではないかと思ったから
だ。そんなロックの心境を察してか、シリアは続けた。
「安心するのは大間違いさ。そんな性的にもっとも無防備な体で私から生き延び
られるとでも思ってるのかね、この坊やは?」
言われてみてハッとする。能力が使えないだけではない。ロックは13、4歳の
時の自分を思い浮かべた。まだ精通が始まったばかりで皮も剥けず、快感に対す
る耐性も乏しく、それでいて女性への興味だけはどこまでも強かったあの時代…
あんな時の体で、女に触られたりしたら…増してやそれが淫魔だったりしたら。
ロックの顔が恐怖に引きつる。
「そうだよ、お前はオナニーも覚えたて程度の体で私に犯されるのさ。どうだ、
最高だろ?」
シリアは羽交い絞めを解いて、ロックの体を地面に叩きつける。力の無い体は無
様に地面に投げ出されてしまう。すぐに立ち上がろうとするロックに、シリアは
服を脱ぎ捨て女性の象徴である大きな胸を抱え上げ見せ付けた。ロックはその行
動に釘付けになってしまう。動悸が激しくなり、自分が興奮しているのが嫌でも
分かる。さっきまでのロックなら、裸を見せられたくらいではここまでは興奮し
ないだろう。しかし、子供に戻された今はそれすらも激しすぎる刺激となってい
た。記憶や経験を奪われている訳ではないのだから、大丈夫なはずだと思うかも
知れない。だが、そこが『能力』の恐ろしさなのである。例えば『AがBになる』
と言った能力の場合、相手の状態などまるで関係が無く『AはBになる』のであ
る。シリアの『タイム・パラダイム』場合、『抱きしめた相手は性的に無防備だ
った頃に戻る』と言う能力で、相手がそれまでどのような経験を積んでいようが
まるで関係なく心も無防備な状態へと戻せるのだ。(『精神力が上回っている場
合』など、能力自体に規制があるものもある)
(くそっ!どうして…こんなことくらいで興奮するなんて…)
そんな能力のことなど良く分からないロックは無駄だとも分からず、自分の中に
生まれたどうしようもなく若々しい興奮を押さえようと必死だ。シリアはロック
を嘲笑うように艶かしい動きを続ける。その動きは、段々と過激さを増していく。
胸を揺さぶるだけだったのが、乳首をこねくり回すようになり、腰の辺りを蠢い
ていた手は下着を取り去りゆっくりと黒い茂みへと降りていく。
「はぁっぁんっ…ふぅ…ん…」
最終的には喘ぎ声を上げながらソフトな自慰行為へと移行した。ロックは立ち上
がることも出来ず限界まで膨れ上がった股間を押さえるだけだ。
「ふふっ…あふ…自分でするの…も、いいねぇ…坊や、あんたもどうだい?苦し
そうじゃないか」
シリアはロックの前に腰を下ろすとオナニーを続けながら、足先を伸ばしズボン
の上からロックのペニスを刺激する。すると、ズボンの上からでも分かるほどに
我慢汁が染みとなって広がっていく。足だけの刺激なのに、涎を垂らしてしまう
程気持いい。ロックは意識せず、自ら腰を前へ突き出しシリアの足に擦りつけて
しまう。それを見たシリアはスッと足を引いた。そして、黙って自慰行為に耽る。
「あっ……」
意識が混濁するほどに快楽に酔っていたロックは突然の『おあずけ』に切ない声
を上げてしまう。だが、シリアはそれでも何もしてくれない。耐えられなくなっ
たロックはついにシリアをおかずにオナニーを始めてしまった。シリアはそれを
見て勝利の笑みを浮かべ『とどめ』を刺しにかかった。
「あぁっ…ふぁっ、イイっ!気持いい!もうイッちゃいそう。手の動きも、もっ
と速くして…あふぁっ!!ダメっ、ダメェ!飛んじゃい…そぉ!」
シリアの動きが激しくなる。相変わらずロックを挑発するように動きながら、自
らの動きを口に出していく。それを聞いたロックはまるで操られるように自らも
小さなペニスを動かす手を速めていく。『感情転移』と言うやつだ。視認してい
る映像にのめり込み、まるでその映像の主が自分自身であるかのように誤認して
しまう…まさに今のロックの状況がそれだ。『シリアの言葉に合わせた動き』を
取っているのである。知らず知らずのうちにロックはシリアに操られているよう
なものだ。
「あぁっ…もうダメ、ホントにもうダメっ!イッちゃう、イッちゃうぅ!こんな
にしたら…あぁっ…うぅん…おかしく…変になっちゃうよぉ!」
ロックはもう限界寸前で、シリアがイクと同時に果てる準備は万全だ。それを確
信したシリアはついに『とどめ』を刺した。
「イッちゃう…イッちゃうの?イクの?イッちゃいそうなの!?」
突如疑問形にすることで『シリアが行っていたオナニー』が『ロックのオナニー』
に摩り替わる。これにより、『一緒にイク』行為だったのが、『イクのを見られ
る』行為へと変化した。ロックは罠に誘い込まれたことに気がついたがもう遅い。
今までシリアに誘導されていた流れを変えることが出来ないまま、限界に張り詰
めたペニスは最後のとどめをなすすべなく受け入れるしかない。
「ほら、ほら、ほらっ、ほらほらっ!イッちゃう、イッちゃうっ!?ほぉーら、
ほぉ〜ら!熱くなってるよ!?我慢してみなよ、そしたら許してあげるから。
でもお前は我慢できない…気持いいもんね?我慢なんて無理だよね、いいよ…イッ
ても…ほら、射精しろよ!!」
「あぐっ…イッ、イキたくな…イッちゃ…ダメだぁっ…」
言葉では否定するが、限界の更に限界まで責められ、最後の最後で甘く優しい言
葉を吐かれ、その誘惑にロックは耐えられない。ついにシリアの言葉責めに屈服
した。
「あぁっ、も、もうっ…!!!」
「イクの?イクんだね!?じゃあ『イキます』って言いながらイクんだよ!?私
の目を見て…見るの…見なさい!!」
強い語気にビクリと体を震わせて、ロックはシリアの目を見てしまう。シリアは
ロックの心に絶対の敗北感を与えようというのだ。
「見たね…いい?お前は、私に無理矢理オナニーさせられイカされた。よぉく覚え
ときなさい、あの世に行っても私の事を思い出せるようにね…良し、イキな…」
「あっ・ああっ・・・イ、イキますぅぅぅぅっ!!!」
ロックはシリアに翻弄させられたまま自らの精神を決壊させる。最後の一擦り、ロ
ックはまるでシリアに直接イカされてるような感覚を味わった。目の前にいるシリ
アに向かって少年ロックのペニスから生暖かい白濁が放たれる。最初のもっとも量
が多く濃い粘液の塊がシリアが突き出した長い舌に飛び出し、それに続いて飛沫と
なった細かい精の粒が髪に、頬に、鼻に、瞼に、体に、辺り中に噴出した。
「美味しい精液ねぇ…あらあら、一回で意識までイッちゃったのね?」
ロックは余りの快感に耐え切れず、気絶してしまう。だが、淫魔に犯されてしまっ
た精神はペニスをギンギンに勃たせていた。シリアは意識を失ったロックに跨ると
いきり立ったペニスを手で支えながら馬乗りになる。
「あんだけ出せば…あと一搾りで死んじゃうだろうけど、気絶してるならいいわよ
ね?」
シリアの腰がゆっくりと降りて行き、秘所がゆっくりといやらしい口を開き、その
入り口がロックの先端を舐め回すように動く。意思のないロックのペニスは本能で
その中に入ろうとビクビクと跳ね回る。
「『坊や』の童貞…食べちゃうからな?もしかしたら2回目の童貞喪失かもな!?
ははっ、贅沢な奴だよ!!(いいえ、一度目death)…そうだな、こっちの『初めて』
も奪っておくか」
腰を下ろす前に、シリアはロックの顔を引き寄せてその唇も奪う。だがその途端、
一瞬眩暈が襲った。ロックの唇に付着していたナルの唾液によるものだ。勿論只の
能力の残滓なのでそれ以上の効果は無い。だが、その一瞬。シリアの背後、それも
吐息がかかるほど近い真後ろから尋常ならざる『殺気』が放たれる。シリアは突然
の事にロックを捨てて飛びのいた。
「貴様・・・誰だ!?」
シリアは眼前に立つ男に問いかける。綺麗に整ったスーツに身を包み、半分以上白
髪が混じったこれまた整えられた髪…初老と言っても差し支えないその男はロック
を庇う様にシリアとの間に立ち不敵に笑う。
「何、歯牙無い執事ですよ。ただの、ね」
その男、ルドルフ・レッグベルトは堂々とシリアの前に立ち塞がった。
「貴様も能力者か?」
「いえいえ、そんな大層な者では御座いません」
シリアは考えた。能力者でないというのは嘘ではないような気がする。だがこいつ
のこの余裕は一体なんなのか?精力が減退した年頃のこの男など一搾りしてやれば
簡単に殺すことが出来るはず…だが、何故か…何故だか分からないがこの男には勝
てる気がしない。本能が危険を訴えている。シリアは決断した。坊やの精を搾りき
れなかったのは口惜しいが『食事』には十分だった。ここは・・・
「ふん、命拾いしたな。じじい(こんな奴がいるのなら、別の町に行った方が無難
だな)」
翼を広げるとシリアは天空へと消える。彼女がロックと言う人物がどう言う『存在』
であるか知っていたら無理をしてでもロックを殺していくことを決断しただろう。
だが、彼女はたまたま『食事』をしていただけだったのであっさりと引き下がった。
「お嬢様のご命令通り探しに来て良かったですな…しかし、あれがこの町で起きて
いた事件の真犯人ですか。これで一安心、となればいいですな」
ルドルフは少年姿のロックを抱えあげると屋敷へと帰っていく。
「ロック殿、男子足る者もっともっと強くならねばなりませんぞ…今のあなたは、
まさにこの少年のお姿のまま…お嬢様を娶るならば真の男となって貰わねば困りま
すぞ?」
気絶したロックにルドルフは優しく声をかけた。
あれはいつの頃だろう。記憶の片隅で、少女は笑っている。初めて会う、自分の将
来のお嫁さん。一夏の間だけの淡い思い出・・・忘却の深遠に沈んだその記憶。
別れ際にナルが泣いているのを見てロックは言ったのだ。指を切り、ナルを抱き
しめながら。
(約束だよ。僕は絶対戻ってくる。嘘はつかない。これからも、ずっと僕はナルに
『嘘』はつかないよ)
少年の姿になったため思い出したのかそれはわからない。しかし、ロックははっ
きりとあの夏の思い出を色鮮やかに思い出した。
「思い出した・・・」
屋敷の一室でロックは目覚める。
「え?」
横にナルが座っている。自分の体も悪いのに、ずっと看病していてくれたのだろう。
「あの時した約束…嘘はつかないって…だから、怒ったのか…」
半身を起き上がらせたロックに、ナルはひしと抱きついた。
「御免なさい…私のせいでロック様を危険な目に合わせてしまって」
「いいんだ、俺の方こそごめん。約束、忘れてて」
ナルはブンブンと首を振る。
「ナル、本当のことを話すよ。俺は・・・」
ロックは旅の経緯や、能力に目覚めた時の事をナルに全て話した。ナルは黙って最後
まで聞くと、ロックに優しくキスをした。
「大丈夫、これはただのキスですよ」
「ナル・・・」
ロックもキスを返し、二人はそのまま朝まで寄り添いあって眠った。
数日後、ナルとルドルフはロックをポートキーまで見送った。ナルにとって実に数
年ぶりとなる外出だった。ロックが訪れている間ナルはとても調子が良かった。
「ロック殿、北の大陸は非常に寒いですから、ここから防寒具を装備していったほう
が良いですぞ。それと、これを…老人の要らぬ世話ですが私を立てると思って持って
行って下さい。道中の暇つぶしに良いでしょう。」
ロックはルドルフに手渡された袋の中を見る。そこには本が一冊入っていた。タイトル
に『女を喜ばせる為の○秘超絶テクニック集』とある。ロックはルドルフの気遣いに感
動を禁じえなかった。
「それではお気をつけて…絶対に私の元に戻ってきてください。」
「うん、約束する」
ロックはナルともう一度口付けを交わしポートキーへと入る。北の大陸への旅が始まろ
うとしていた。(童貞のままロックの旅は続くのだった)
第一章 二話「約束の言葉を」 完
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