2832

封淫記 1-1

『封淫記』
第一章 一話「目覚めは仄かに憧れた人の手の中で」
 〜アリッサ・リッサ(クリムゾンネイル)〜


 ブロック・ザ・ロバート及び、管理局 東大陸支部の男性職員の葬儀が終わった。
管理局は男は全員死亡。女は皆、淫魔化されたのかその場から消えていた。数名い
た能力者も多勢に無勢、敗北したようだった。
3日後、回復したロックは母と共に町長に呼び出された。ナギは葬儀の後すぐに、
淫魔を追うために町を離れた。ナギは父の葬儀の最中も一度も涙を流すことはなか
った。
 町長からロックは父が自分に伝えようとしていたことを聞いた。だが、もう遅い。
父から受け継ぐべき物は敵に奪われてしまったのだから。今更、継承の『証』を集
めに行っても遅いのだ。ロックは項垂れた。しかし、エリナは毅然とした態度で息
子に言った。
「ロック、お前は旅立たねばいけません。ロバートの遺志を継ぐためにも」
「でも・・・」
「奪われた『欠片』はお前が『証』を得て継承を済ませばお前の中に戻ります。た
だし他の聖人の魂が奪われる前に。大げさにではなく、お前に世界の命運がかかっ
ています」
いつも優しい母の厳しい口調が、この話の真実性と重みを物語っていた。ロックは
臆した。彼とて世界を救えといわれて、出来ることなら救いたい。だが、昨日まで
ただの少年だった彼にこの事実は重すぎた。
「…危険がないとは言わんが、それほど危険と言うわけでもないぞ」
「淫魔は、まだあなたが『欠片』を取り戻せると言うことは知りません。道中、目
立たずはぐれ淫魔に出会うことがなければたいした危険はないはずです」
町長の言葉そして母の目から期待と、それ以上の自分への愛情をロックは感じた。
二人ともロック一人で旅立たせたくなどないのだ。ロックは決意した。
「わかった。母さん、長、俺行くよ」
本当は怖かった。だが母の愛情と、父の復讐心が彼を動かした。今ほど自分が能力
者だったらいいと感じたことはない。姉のような力があれば、もう少し気楽にこの
使命を受けることが出来ただろう。
「よし、では来なさい」
ロックの腹が決まったのを見て町長は立ち上がる。そして自分の部屋の本棚の『真
実への道』と言う題名の本を手に取り逆さまにして元に戻した。すると、本棚が動
き出し、地下へと続く階段が現れた。町長に促され、ロックは階段を下りる。暫く
行くと、小さな部屋に出た。石碑のような物以外、何もない。
「ロック、手を・・・」
町長はロックの手を石碑に触れさせる。すると、ロックの足元に魔方陣が浮かび上
がり、ロックの体に染み込んでいく。少しの間ロックの体はぼんやりと光っていた
が、それも消えた。
「これで一つ目の『証』がお前に刻まれた、後は他の3つの大陸の聖人を尋ねてこ
れと同じ事をすれば良い」
ロックは自分の体をジロジロと見回した。何も変わったところがないので本当に
『証』を手に入れられたのか不安になったのだ。
「大丈夫ですよ、あなたのお父さんも最初の儀式の時そうでしたよ」
エリナが優しく微笑む。辛さを隠して無理に笑顔をつくっているのがロックにはわ
かった。再び、ロックに決意が宿る。
「まずは、北の大陸に渡るポートキーを目指しなさい。隣町のロングフットに住
む、ルナル家を尋ねなさい。案内してくれるだろう」
『ルナル』と言う名を聞きロックは顔を上げる。彼の許婚の名が『ルナル・ナル』だ。
「久しぶりにナルちゃんに会えるわね?」
母の声にロックは少し胸が高鳴るのを感じた。不安なまま旅に出るよりずっといい、
ロックは思った。
 その日の夕刻、母に見送られながらひっそりとロックは旅立った。


 
 夜も更けてきた。ロングフットまではまだ丸一日かかるので、ロックは野宿すること
にした。どこか、夜風を凌げそうなところは・・・と探していると前方に薄い明かりが
見えた。どうも、焚き火のようだ。トレースバニア〜ロングフット間は街道と呼べるよ
うな物は整備されていないが、行きかう旅人は多い。ポートを利用し北大陸へ渡るため
だったり、トレースバニアに出稼ぎに来たりとまぁ、理由は様々だ。
 ロックは嬉しくなった。今夜はあそこに寄せてもらおう、目立つなとは言われたが、
顔も名も知らぬ旅人同士なら構うまい、そう思いロックは足早に目前の灯火へと急いだ。
「やぁ、あなたも旅の方ですか?」
ロックが声を掛ける前に、焚き火に薪をくべていた若い男が気がつき声をかけた。
「はい、今晩一緒に火に当たらせて貰って構いませんか?」
「勿論ですとも。あぁ、よかった。いやね、僕も心細かったんですよ。この大陸は安全
な方だとは言え、はぐれ淫魔が襲って来ないとも限らないでしょ?でも二人なら何とか
なるかもしれませんからね」
ロックの頼みを男は快諾すると、手元に置いてあったティーポットから熱いスープをコ
ップに注ぐと差し出した。
「どうぞ、同じ旅人同士話でもしましょう」

ロックと男は、お互いの旅について話した。ロックが今日旅を始めたばかりだというと、
男は旅の注意や秘訣を面白おかしく教えてくれた。そして、自分はトレースバニアに行
って商売をするつもりだなどと、二人は遅くまで話し合った。
「だから、僕は姉さんに言ったんですよ。『食事の度に死にそうになるのはいやだなぁ』
って・・・ふぁ・・・」
「そろそろ寝ましょう。念のため、交代で。まずは私が起きてますから…三時間後に起
こす、それでいいですか?」
「・・・すいません、それじゃお願いします」
夜遅いのに慣れない旅が重なりロックはかなり疲れていたので、言葉に甘えることにした。
マントで身を包んだまま寝袋へと潜り込む。優しい暖かさが、ロックをすぐに眠りへと誘
った。

遠くで声が聞こえるような気がする・・・
『私も火に当たって良いでしょうか?』
『ええ、勿論ですよ。でも念のため…あなた人間ですよね?』
『同じ旅人仲間ですよ。角も、羽もないでしょう?』
『そうですね、すみません。何せ物騒な世の中ですから、あなたのような美しい方を見る
とつい疑ってしまう』
『あら、お上手ですね…』
あぁ、また誰か旅の人が来たんだな…と虚ろな頭で考えながら、ロックは再び眠りへと落
ちていく。眼前まで迫った危機に気づくこともなく。旅慣れた者だったら、来訪者の顔を
確認しただろう。だが、旅の初心者のロックは危機感を抱くこともなく、その為本来なら
ば気づくことの出来た危機を見逃してしまった。

『美味しいですわ…最後の一滴まで射精してくださいね?クスクスクス…』
『がぁぁっ!騙したな…お前…やはり淫…魔…!!!』
『失礼ですねぇ、嘘はついてませんよ?旅人だし、角も、羽もありません』
『ぐぁっ…!!ふぅぁあああっ!!!』

大きな叫び声にロックの目が覚める。しかし、寝ぼけた頭は正確に情報を伝えてこない。
「おしまいですか…まぁ、常人なら2〜3回ってとこですものね。仕方ないですね、次は…
あら?…ロック君?」
名前を呼ばれた事で一気に眠気は覚める。そして、目の前の女性が誰なのか認識した。
「アリッサさん?なんで…ここに?…」
管理局で受付嬢をやっていたアリッサ・リッサだ。父を尋ねる度に、ロックは彼女にお世
話になった。丁寧な物腰と、優しい笑顔にロックは昔から仄かな憧れを抱いていた。しか
し、何故今彼女がここにいるのだろうか・・・管理局は襲われたはずだ。
「あ、あぁ!無事だったんですね?アリッサさん!」
走り寄ろうとしたロックの目に、アリッサの足元に転がっている男の姿が飛び込んでくる。
体中に赤い斑点のような跡がある。あれは一体何だ?ロックは考えようとしたが、男の顔
を見て思考が停止する。あの時の、父と同じ顔をしている。死んでいる。快楽に自ら全て
を捧げてしまった、屈辱を受け入れてしまった顔だ。
『管理局、東大陸支部職員は全員死亡・・・』
ロックの頭に葬儀の時の声が木霊し、足が止まる。(淫魔化された女性も死亡扱いとなる)
「どうしたんですか、ロック君?」
アリッサが近づいてくる。ロックの体は自然と後ずさる。
「アリッサさん、淫…魔に…!」
「あら、わかっちゃいました?クスクスクス…」
アリッサの笑い声がロックの頭に響きnる。眩暈がした。吐き気もだ。信頼していた者が、
人ではないものへ、自分を殺そうとするものへと変わる。理解は出来ても、受け入れられ
る事ではなかった。
「ロック君?怖がらないで…とても気持ち良いんですよ?」
「う、うわっ…」
先ほどまで自分が使っていた寝袋を踏んで滑り、ロックは尻餅をつく。アリッサはそれを
見て、あの優しい笑顔を浮かべた。
 ロックが体制を立て直すまもなくアリッサはロックの肩を押し倒し、唇を奪う。甘い女
性の香りがロックの鼻腔をくすぐる。
「相変わらずおっちょこちょいですね、ロック君は」
アリッサの手がロックの服を脱がしていく。上半身を脱がされたところでロックはハッと
なりズボンを守ろうとする。
「ぼんやりしちゃって、もしかしてファーストキスだったんですか?」
「・・・・・・」
「そうなんですね?うふふ、ロック君の初めて奪っちゃった…後でこっちの初めても頂き
ますからね」
目でロックが必死に押さえる股間部を合図してアリッサは微笑む。もはやさっきまでの優
しい微笑ではない。淫らな考えに満ちた邪な微笑だった。
「必死にズボン押さえちゃって…無駄ですよ?もし私から逃げようと思うなら、全身を隠
さなきゃね…」
 逃げなければいけない。今の自分が出来ることはズボンを守りながら逃げることしかな
い。だが立ち上がるためにはズボンから手を離さなければいけない、かと言ってこのまま
でいるわけにもいかない。ロックは悩んだ。その間、ほんの数秒だろう。
 だが、戦いでの迷いは一瞬と言えど命取りになるのだ。その一瞬の間に、アリッサの手
が素早く動く。次の瞬間、ロックの乳首に普段なら気づかないほど小さな痛みが、痛みと
も呼べないようなわずかな刺激が走った。何故かそれが妙に気になったロックは、アリッ
サに注意を払いつつ目をやった。胸にはアリッサの右手が置かれている。しかしロックの
目はそのさらに一点、強烈な違和感を放つ部分へと向けられた。右手の人差し指の先端、
長く尖った爪・・・そこだけが、真っ赤に染まっている。まるで血で染めたように赤い。
ロックが感じた僅かな痛みは、その爪が乳首をかすめたためだった。爪の跡がかすかに、
赤い線となっている。
「クス…気になりますか?私のこの爪…もっと早くに気づいていれば助かったかも知れま
せんね?……私も目覚めたんですよ、能力者に」
能力者…人間と淫魔の中でも一部の限られた人間にしか現れない存在。アリッサは人間の
時、管理局で働いてはいたが事務仕事のみを行う普通の人間だった。それが・・・
「淫魔になることで覚醒することもあるんですねえ?でもこの力のお陰で、私淫魔としてやって
いけそうですよ」
能力者には2種類のタイプがいる。ロックの姉のナギのような生まれつきの能力者と、ア
リッサのような何らかの事件を切欠に『成長』して能力に目覚めるタイプだ。
「私の能力、『クリムゾンネイル』は…今から体で説明してあげますね?」
ズボンを押さえ逃げあぐねているロックに対し、アリッサは下半身を無視し、倒れた
ロックの腰に馬乗りになる。ある程度自由を奪ったのを確認すると、舌をロックに見せつけるように出し、
先ほどの爪の跡…ロックの右乳首に這わせた。
「がぁっ!はっ…はぁぁっ!??」
舐められるのを見ていたのだから覚悟はしていた。覚悟があるのとないのでは、受けてし
まう快感に恐ろしいまでの差がある。言うなれば、覚悟さえあればどんな快感でもそれな
りに軽減出来る。だがこれは違う、覚悟などその舌で舐めとってやると言わんばかりの恐ろし
い程の快感がロックの乳首を襲う。まるでペニスをじかに触られているような、いや、そ
れ以上の快感だった。
「気持ちいいですか?じゃあ、こっちは?」
チクリ・・・今度は首筋に痛みが走る。アリッサの赤い爪が首筋に小さな傷をつけていく。
そして、間髪いれず生暖かく、濡れた舌が首筋を不規則に舐めまわす。
「ひぁぁっ!!ふぅあっぅぅっ!!!!」
もはや言葉にもならない。アリッサはロックの顔を左手で抱きかかえ、自分の顔を近づけ
ていく。
「もっと見せてください、ロック君のよがり狂ってる顔…可愛いわぁ…触られてもいない
のに私のお尻の下でオチンチン、ビクビクッてしてますよ?」
「かはっ、はぁっ、はぁっ・・・」
一時的に快感が止まり、ロックは荒々しく息をつく。冗談ではない。このままじゃ、直接
ペニスに触れられてもいないのにイッてしまいそうだ。これが、能力者…ロックはここに
来て初めて普通の人間と『そうでない者』の力の差を知って歴然とした。
(どうする、どうする、どうするどうする!?)
焦って考えるが、快感で鈍った頭は一向にいい打開案を与えてくれない。焦燥感に駆られ
るロックにアリッサは精神的に追い討ちを掛けた。
「ロック君のその顔、『オチンチンに触れられてもいないのにもうイッちゃいそう
だよぉ〜』って焦ってるんですね…わかってますよ?」
唇と唇とが触れ合うまでにお互いの顔が近づく。恥ずかしさと悔しさとでロックは目を逸
らしてしまう。アリッサはその隙を逃さない。クリムゾンネイルの能力に犯された乳首を
間髪いれず捻りあげる。
「あっ!はぁっ!!アリッサ…さ…ん!も、もうっ…!!」
「イクんですか?オチンチンに触っても貰えないまま女の子みたいにオッパイだけでイッ
ちゃうんですか!?それでも男の子ですか?」
「…乳首…触らな…いで…!」
思わずロックは快感に戦慄く体を捩じりズボンから手を離し乳首を弄くりまわすアリッサ
の手を掴もうとする。
「ダメですよ!ロック君はこのまま私にオッパイを虐められてなす術もなくイカされちゃ
うんですから!ほら!イク?ほらほら!イクの?イッちゃうの?…おイキなさい!!」
ロックの手がアリッサの手に到達しようとする直前、アリッサは左手で支えていたロック
の顔を自分の胸へと抱きかかえる。目標を見失った手は空をかきむしる様に動き、ロックは
ついにペニスを触れられることもないまま、アリッサの乳首責めに果ててしまった。
「〜〜〜〜〜ッッッッ!!!!!!!!」
アリッサの胸に強く抱かれ、声を出すことも許されないままロックは下着を汚していく。
ズボンにジワッと染みが広がっていく様子をアリッサはウットリと眺めている。
「あらあら…パンツが汚れてしまいましたね?それじゃ、ヌギヌギしましょうね?」
一度イカされ、生命力(精力)をゴッソリと奪われてしまったロックは抵抗することが出
来ない。悔しそうに歯噛みしながらアリッサのなすがままになっている。
「私のこの爪…クリムゾンネイルに刺された箇所は何処も彼処もオチンチン以上の性感帯
になっちゃうのですよ、その身で感じたから良くわかるでしょう?」
アリッサが赤い爪をぺロリと舐める。ロックの前に殺された旅人の体にあった無数の赤い
傷跡はこの能力によるものだったのだ。
「さぁ、ロック君。後何回出来るかわからないけど…いっぱいイッてみましょうね?」
「アリッ…サさん…もう、許して…」
ロックの懇願に、アリッサは一瞬意外そうな顔をして次の瞬間弾かれた様に笑い出した。
「クスクスクス…ロック君、まさか私だから許してもらえると思ってました?クスクス…そ
うですね、確かに私ロック君のこと結構好きでしたからねぇ…」
笑うアリッサの表情からは何を考えているのかわからない。ロックは祈った。彼女の心に少
しでも人間らしさが残っていることを・・・しかし。
「私が好きだったのは、家族の中で一人だけ落ちこぼれてる惨めなロック君の姿なんですよ?
前からずうっと思ってたんですよ・・・そんなロック君を無理矢理犯してやりたいって!!」
「・・・嘘だ・・・」
ロックの体から力が抜ける。絶望が体中に広がって力を奪っていく。
「そうだ、やっぱり今はロック君の童貞を貰ってあげるのやめました。今から死ぬまでオチン
チンに触れることなく搾り取ってあげます。ロック君は童貞のまま死ぬんですよ?童貞はロッ
ク君が死んでからちゃんと貰ってあげますからね、フフフ…」
アリッサの赤い爪がロックに近づいていく。
「まずは耳、次は唇、お尻、足、手・・・いつまで生きていられるかしらねぇ?」

ドピュッ、ビュッピュ・・・
ロックのペニスから7度目の精液が迸る。体中をクリムゾンネイルによってつけられた小さな
傷が無数に覆っている。無視の息だとは言え、ロックは何とか生きていた。
「驚いたわ…絶倫って言ってもここまではないはずだけど…ロック君、無能だと思ってたけど
生命力だけは飛びぬけてたんですねぇ・・・」
アリッサの声から、素直にロックを褒めているのがわかる。実際、能力者でも5回も射精させ
られれば死んでしまうだろう。
「う〜ん、私の負けですね。オチンチン触らないって言ったけど…触っちゃいます!」
アリッサはそう言うと度重なる射精でドロドロになりながらも、まだまだ屹立するロックのペ
ニスを優しく掴む。そして、亀頭の先端にクリムゾンネイルを近づけていく。
「性感帯でない場所を無理やり性感帯にしちゃうクリムゾンネイルを元々性感帯だった場所に
刺したら…どうなると思います?」
アリッサは意地の悪い笑みを浮かべロックを見下ろす。だが、最早ロックからは返事は返って
こない。
「…一瞬で一気に全てを吐き出しちゃう程の快感が得られますよ…でももう何も分かりません
か…じゃあね、ロック君」
クリムゾンネイルがロックのペニスを捕らえ、さらにそのままペニスを掴み、一気に扱き出す。
ロックの体がビクビクとのけぞり亀頭が一瞬膨らんだと思った瞬間、まるで間欠泉が噴出すか
のようにロックの精液が噴射する。ビシャビシャと雨のように落ちてくる精液をアリッサは浴
びるようにして受け止める。

真っ暗な闇がロックを包み込んでいた。不思議と恐怖はない。
(あれ…僕は…そうか、死んじゃったんだ。折角世界のために立ち上がったのに何も出来なか
った…せめて父さんの仇くらい討ちたかったな…でも無理か、昨日今日淫魔になった人でもあ
んなに強いんだもん…僕に勝てるわけないか…)
ロックは深いため息を吐く。何故か酷く落ち着いている。まるでここが心から安らげる場所で
あるかのようだ。
『その若さで、もう諦めとは…なんと情けない』
突如、空間に声が響いた。とても懐かしい声だ。初めてなのに、どこかで聞いたような気がす
る。
(だれ・・・?)
『お前は死んではいない。わらわの血がそう容易く途絶えるように出来ているはずはなかろう。
さっさと戻れ、起きればお前の血の中に潜む『力』の一端が目覚めているだろう。・・・しか
しお前は運が良いな。あのような雑魚能力者が相手であったからこそ一気に絶命せず、生きた
ままギリギリの所まで死に直面したことで能力に目覚めることが出来たのだから・・・』
(能力?僕が??どういうこと!?)
『いずれわかる。いずれ会える。わらわに会う時までには少しはマシな男になっておれよ?』
声はロックの問いに答えることなく一方的に会話を終わらせ消えていく。と同時に、ロックの
体が一気に熱くなる。血が沸騰するような感覚。まるで、この体に流れる眠っていた『血』が
起きたかのような…

死んでいたはずのロックが急に立ち上がり、さすがにアリッサも驚きの色を隠せない。それに、
あれだけ搾り取ったのにまるで何事もなかったかのようにピンピンしている。
「なに・・・!?一体なにが!?」
ロック自身も呆然と、自分自身の体を見つめている。まるで、自分が自分でないとでも言わん
ばかりに。
「そうか・・・僕の力、僕の『能力』・・・こう言う力なのか・・・」
ロックは左手をまじまじと見つめている。そして、アリッサに向き直るとはっきりと言った。
「アリッサさん、淫魔になって人を殺してしまったあなたを放っておくことは出来ない。僕が…
あなたをイカします」
アリッサはさらに驚愕する。まるでさっきまでとは違う。自分の力で喘ぎ悶えていた少年が、
まるで一気に一人前の男になったかのようだ。
「何を言ってるの・・・あなたが、普通の人間のあなたが私にかなうはずないでしょう!!」
アリッサの語気が荒くなる。怒りと、動揺とで彼女は冷静さを失っていた。
「もう僕も普通の人間じゃない…あなたのお陰で力に目覚めることが出来た。死に直面した
ことが切欠で、僕は『成長』したらしい」
「…!!そ、それが本当だったとして何故体力まで回復しているの!?」
「僕が復活した理由…それは僕にもわからない…ただ、闇の中で声が聞こえた気がする…」
「意味の分からないことを…それにあなたが能力者になったと言ってもまだ五分と五分でしょ
!?またあなたをイカしてしまえばいいだけだわ!」
「いや、違う。あなたの能力の弱点はもう見切った。」
「さっきまでヒイヒイ泣いていた坊やが…!!『クリムゾンネイル!!』」
アリッサは引掻くようにロック目掛けて赤い爪を振り下ろす。その軌道をロックはギリギリで
見切るとアリッサの腕を取り、間接部分を軽く叩き強制的に肘を曲げさせると自分の胸に向け
られたアリッサの爪を一気に押し込んだ。アリッサの乳首に赤い小さな傷が出来る。
「し、しまっ…!!」
さらに足を取り、アリッサの体を地面に寝かすとその乳房を左手で覆った。すると、ロックの
掌がぼんやりと輝きだす。
「あはっあっ、何っこれぇ!!」
アリッサが嬌声を上げ、喘ぎだす。ロックはそのまま左手でアリッサの乳首を責める。
「説明は良く出来ないけど、僕の左手は『相手を感じさせる振動』のような物をつくる事が出
来るみたいだ。それに加えてあなた自身の能力…耐えられるものじゃないでしょう」
「あっ・・・ああっ・・・イ・・・イクぅぅぅぅ〜〜!!!!!!!!」
アリッサは絶叫し、限界まで仰け反るとクタリと倒れこむ。すると、アリッサの体が光に包ま
れ消えて行く。
「アリッサさん・・・」
ロックは遣り切れない気持ちで消えて行くアリッサを見ていた。淫魔がイクと言う事は、こう
言うことなのだ。分かってはいたが気持ちのいい物ではない。ましてや、彼女はついこの前ま
で知り合いで、仄かな憧れまで抱いていた相手だ。

 暫く放心していたロックだったが、立ち上がるとアリッサに殺された旅人に毛布(旅人自身
が持っていた奴)を被せ、祈りを捧げる。そして着替えを済ますと晴れない心のまま歩き出す
のだった。能力に目覚めた自分、突如元気になった体、そして闇の中の声。疑問は数えればキ
リがないが、今は前へ進もう。ロックは決めたのだった。夜が明け始めていた・・・

                              封淫記 第一章 一話 完

二話目…でも一話。分かりにくい…

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]