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封淫記

『封淫記』
第一章 零話「始まりは、驚くほど唐突に」

 暗い部屋、とても豪華なつくりの部屋だ。大きなシャンデリアがあるが、
電気は灯っていない。外界から差し込む薄明かりがぼんやりと一つの影を
浮かび上がらせていた。外は酷い嵐のようだ。吹き荒ぶ風と激しい雨音が、
分厚い窓越しに部屋の中まで響いている。その為、部屋の中の音は非常に
聞き取りにくい。だが良く耳を済ませてみると、荒々しい男の吐息と嘲る
様に囁く女の声と、そしてクチュクチュという猥らな水音が聞こえる。

「ふふふ、もう少しだ…あと一息でお前の全部と『中のモノ』を搾りとれるよ?」
「ぐぅぅ…や…め…」

一つの影に見えたのは、重なり合った男と女だった。男の胸に女の大きな胸
が重なり本来は美の極みとも言えるだろう二つの芳醇な果実の形を歪ませて
いた。下腹部では男のモノが女の中にすっぽりと納まり縦横無尽にしゃぶら
れている。蜜音の正体はこれに間違いなさそうだ。

「あなたで一人目よ…そしてあなたを皮切りにあと三人…『聖者の魂』を全
て解き放てば…くふふふ!」
「…!!それは、させるか!!」
「だめよ。だってあなたはもう私の『能力』に犯されてるんだもの。でも良
かったわ〜、あなたが『能力者』じゃなくて。聖者の末裔って言うくらいだ
から一応それなりの覚悟をしてきたんだけどね・・・さ、これから忙しくな
るからもうイッて貰うね?」
「ま、待っ・・・て・・・!!・・・っっ!!!!」

男の静止も虚しく、男の全てが女に吸い取られていく。女は然程、動いたよ<brうでもなければ、強く締め付けたようでもない。にもかかわらず、男の表情
は快楽に狂い女の思う様に精を吐き出している・・・

「はい、おしまい・・・全部吸い取っちゃたよ?」

絶命した男の顔を女が優しく一撫でし、軽いキスをした。

『ガチャリ』

「父さん、話ってな・・・!?」

無機質な金属音をたてて扉が開かれ、少年が入ってきた。少年は最初は暗闇
に目が慣れなかったためか呆然としていたが、中の様子を認識し驚愕した。
父親が、死んでいる。それも女に、飛び切り妖艶な女に抱かれて死んでいる
のだ。驚かないわけがない。

「っ……?」

人は本当に驚いたとき声も出ないのだと、その少年を見ていると良くわかる。
そんな少年に女は冷ややかに言った。<br「あら?息子さん?…残念だけどあなたのお父さん、天国にイッちゃったわよ?」

「…な…どう、どう言う事だ!」
「鈍いわねぇ…こう言う事よ」

未だ理解を得られない少年に女は、自らの秘所を指で開き、そこから滴り落ちる白
濁液を指で掬って舐めて見せる。少年はその行動に思わず腰を引いた。

「見える?あなたのお父さんのい・の・ち。全部私が搾り取っちゃたわ」

少年の股間が熱くなる。少年は自分に嫌悪感を抱いた。このような状況にありながら
女に反応する自分が心底嫌でならなかった。だが無理もないのだ。その女は普通では
ないし、ましてや人間ですらない。

「あら?こんなのでアソコ大きくしちゃってるの?可愛いわねぇ…ちょっと
遊んであげようか?」

女がゆっくりと近づいてくる。だが少年は一歩も動けない・・・




 はるか昔、大きな戦争があった。人間と淫魔の世界の主導権を得んが為の
戦いだ。人間は淫魔に精を吸い取られれば死に(女は淫魔にされる)淫魔は
人間にイカされれば死ぬ。実にわかりやすく、淫らで不毛な戦いは、双方に
いる『能力者』と呼ばれる文字通り普通ではない力を操る者たちを中心に、
何十年、何百年と続いた。
 だが、その戦いも終止符を打たれる時が来た。人間側の四人の能力者に、
一人の淫魔が協力し、四人の体の中に淫魔の首領であり、力の源である
『ヨミ』と言う女帝を封印することに成功したのだ。これにより、淫魔側は
統率力を失い、自壊する形となり人間側は勝利を収めた。
 それから長いこと人間たちの栄華が続いた。無論、淫魔達もいなくなった
わけではない。大きな戦争がなくなっただけで、各地に散らばり潜み、旅の
人間が襲われることなど良くあることだった。だが、勢力的に見ると人間は
淫魔を圧倒し、世界は人間の物となっていた。

 これは、そんな時代の話。一人の少年が、大人になり妻を娶る。それだけの
話だ。後はただのおまけに過ぎない。
 その少年、この物語の主人公であるブロック・ザ・ロックは来年二十歳にな
る何の特徴もない人間である。父と母と姉の四人で東の大陸一の都市『トレ
ースバニア』に暮らしている。母は昔腕利きの能力者で、姉も現在世界で1、
2を争うほどの能力者であり、父は能力者ではないがこの大陸の『管理局』
の所長であり、聖人の末裔としてのお役目を担っている人物だ。
 彼が産まれた時は、周りも神童の誕生に期待したが、今では彼を特別視する
者はいない。人柄からか、周囲から家庭のことでいじめを受けるようなことも
なかった。将来は聖人の末裔として父の後を継ぐことになるのだろう、だが今
は、ロックはそんなことを考えたこともなかった。

「ロックは遅いな…今日も遊びに出ているのか?」
「ええ、夕飯までには帰ると言っていましたよ?」

父、ブロック・ザ・ロバートは家で息子の帰りを焦れながら待っていた。母
であるエリナが機嫌を宥める様に答えるがあまり効果があったようには見え
ない。

「父さんがそんなにイライラするのって…仕事の話?なんなら私が聞こうか?」

両親のいる部屋に風呂上りの娘、ロックの姉であるナギが入ってきた。風呂上
りなのか腰に布を巻いただけでその豊満な美しすぎる胸を惜しげもなく晒して
いる。そんな羞恥心を微塵も見せない娘に父は思わず目を背けた。

「ナギ、早く服を着なさい?お父さんが恥ずかしがってるわ?」

母が娘を諌めるが、良く見るとエリナ自身も下着にエプロン姿と中々刺激的な
格好だ。どうやら、羞恥心がないのではなくこの母娘はわざと自分の体を晒し
ているようだ。ゴホンとロバートが咳払いするとナギはただの布切れにしか見
えないような、隠さなければいけない所が何とか隠れるだけの異様に露出度の
高い衣服を身につける。

「いや、お前に頼むわけにはいかんのだ…これは『お役目』に関わる事だから
な」

ロバートの言葉に、今までの和やかな雰囲気は一転して張り詰めた空気へと変
わる。

「まだ二十歳にもならないのに…そんなに急ぐ必要があるのですか?」
「うむ、最近『やつら』の動きが活発になっていると各地から報告がある。
『やつら』が組織化するとなると継承の儀式は早い方がいい。ロックの若さが
やつらの目を欺くことだろう…しかし、残念だ…ナギが男なら良かったのに…
よりによって『能力』のないロックが長男として産まれてくるとは…」

ロバートとエリナの表情は、紛れもなく子を案ずる親のそれだった。

「そう?私はあの子、きっと大物になると思うけどなぁ」

ナギの言葉に、暗くなった空気は少しだけ緩和された。その隙を逃さんと言わ
んばかりに、ロバートは立ち上がる。

「さて、少し出てくるよ」
「あら、あなた夕食は?」
「仕事があるのでな、帰ってから食べるよ。ロックが帰ったら私のところまで
来るように言ってくれ」

ロバートはコートを着込むと足早に家を出て行く。彼の仕事場である『管理局』
はこの世界の淫魔に関連する事件の全てを担当する、いわば現場で働く能力者を
組織する元締めのようなものだ。この管理局は世界四大大陸に一つずつあり、
その長は全て聖人の末裔が勤めるものと決まっている。と言うのも、そもそも
この管理局は聖人達が自分たちを守るために創った組織なのだ。聖人の体内に
封印された(どういう理屈なのかは昔のことでわからないが)ヨミはあくまで
『封印された』だけで『滅んだ』わけではない。淫魔の手により、聖人(その
血を引く者の長男)がイカし殺され、精液の最後の一滴に宿ると言う『ヨミの
欠片』が全て淫魔の手に落ちた時、ヨミは復活すると言われているのだ。
昔の伝説じみた話を信じるのもどうかとも思うが、実際能力を持つ淫魔達は
聖人の末裔を狙って幾度も襲ってきているのだから信用する以外にない。しか
し今までは淫魔の襲撃と言っても個人レベルのもので、それぞれの大陸の能力
者達が殲滅、もしくは撃退して来ていた。だが、最近になって各地の町や街道、
人間の拠点となる場所が能力者に率いられた、複数の淫魔に襲われているのだ。
これを淫魔に『新たな統率者』が誕生したと見て、最近管理局は対応に追われ
ているのだ。

そこで、考えられた一つの案がブロック家の『代替わり』である。継承の儀式
と言われるそれは、聖人の長が、己の長男(何故か、聖人の末裔には必ず男の
子を一人授かる)に『ヨミの欠片』を受け渡すと言う儀式である。儀式をする
ことで取り立てて、外見に変化が生じるわけでもないので秘密裏にこの儀式を
行うことが出来れば、淫魔達に『ヨミの欠片』が移動した事を気づかれずに済
むという訳だ。まさか、淫魔達も若輩者であるロックに聖人と言う大役を任せ
ているとは思わないはずだ…というのが管理局の考えだ。たまたま、継承の儀
式を行える年齢、二十歳以上の人物が現在はロックしかいなかった為、ロック
がこれを行うことになった。

 となるとロックは継承の儀式を受けなければならないわけだが、これが一筋
縄ではいかないのだ。四大大陸全てを回り、それぞれの聖人の家系に伝わる
『証』をその身に宿さなければならない。『証』は聖人の末裔の血に反応し受
け継がれる、魔術的な要素の強い物なので簡単に継承することは出来ないのだ。
現在は『ポート』と呼ばれる転移装置が大陸の数箇所に設けられているとは言え、
やはり移動だけでも1年近くの歳月を要すると思われる。そこで二十歳になり
継承権を得る前に、『証』を集めて来るようロバートはロックに命じようと言
うわけだ。
 目立つわけにもいかないので、町長と、管理局でもトップの人間しかその事
実は知らない。表向きは、成人になる前の自分探しの旅とでも言ったところだ
ろうか。

「ただいま、あぁ、今日はナギ姉も帰ってたんだ?」

ロックが家に帰ると、珍しく普段は任務で家にいない姉が食卓について手を振
っていた。母はせっせと食事の準備を進めている。もうすぐにでも夕食が出来
るとこだろう。しかし、いつもの事ながらこの二人の容姿には慣れない。ロッ
クには彼女はいない。同じ大陸の離れた町に許婚がいるのだが、子供の頃に会
ったきり、暫くあっていない。風の便りでは能力者として覚醒したらしい。

 そんな理由でロックは今まで同年代の女子とあまり接したことがなかった。
勿論、童貞である。いずれ淫魔から身を守らねばならぬ身なのでちょっとした
快感に対する訓練は受けていたが(口には出せないような訓練を)やはり、
ロックは同年代の男よりも少し快感に強い純情な少年に過ぎなかった。

「さ、食べるわよ。ロックも席に着きなさい」

母がメインの肉料理が乗った大皿を食卓に乗せ席に着き、ロックもそれに従う。
いつも通りの家族のささやかな夕食が始まる。姉が任務の話をし、ロックがそ
れに感心し、母が昔の仕事についていた頃の思い出を語る…いつも通りの食卓
だ。幸せな食卓だ。ただ、いつもと違ったのは食事の終わりに母が、

「食べ終わって少ししたら、父さんの所に行きなさい」

と言ったことだ。何か真剣だったし、父はあまりロックを仕事場に近づけよう
としない。ロックは少し不思議に思った。だが、言われるままに歯磨きを済ま
すと再び家を出ようとした。

「ロック、頑張りなさい」

ナギが扉に手をかけたロックに声を掛ける。いつもの姉より、数段艶やかな微
笑みにロックは少し戸惑いながら頷いて外に出た。

 少し肌寒くなってきた。もうすぐ秋も終わりに近づき、冬がやってくる。ロッ
クは月が見下ろす暗闇の中、管理局へと走った。



 ロックが管理局へ向かう数時間前、トレースバニア入り口の関所に一人の女が
やってきた。異様な色気を身に纏ったその女を能力者が見たら気づいただろう。
この女は『普通ではない』と。だが、関所を守る守人は普通の男であり、ただ見
とれるだけだった。その淫魔に、能力を使う淫魔、上級淫魔レイ・レイシアに見
とれているだけだった。
 淫魔の中には人間とほとんど同じ姿をしている者がいる。そうなると、常人で
はそれが敵であることを見抜くことは出来ない。しかし、それを危惧して数少な
い能力者をたかが関所の守衛に置くことも出来ない…発見しだい対応する他ない
のである。

「ちょっと、お兄さん。道を聞きたいんだけど?」

見とれていた女に声をかけられた守衛は喜んで女を守衛室に通した。少しして女は
守衛室から出てくる。口の端についた、白い液体をペロリとなめるとレイシアは少
し先に見える建物を見て言った。

「チェックメイト。奇襲は速さが肝心だからね、ふふ」

レイシアが背後の暗闇に手を上げて合図をする。するとそこから数十人の淫魔が飛
び出し、町へと入っていく。

「さぁ、みんなパーティーの時間よ?みんな吸い尽くしてやりなさい…」

レイシア自身も町に入ると他の淫魔と同じように真っ直ぐに一つの建物を目指す。
管理局 東大陸支部へ、人間の社会を守る砦へと・・・



 ロックが管理局へ入ると、そこは酷く静まり返っていた。ロックが来るといつも
笑顔で迎えてくれる受付嬢のアリッサさんもいない。誰もいない。人がいない以外
はいつも通りだが、何か不気味な気配を漂わせていた。
 ロックは少し躊躇したが、仕方なく最上階にある父の職場へと向かう。ロックが
乗ったエレベーターが閉まる直前、ロックからは影になって見えない辺りから女性
の叫び声、いや喘ぎ声が聞こえた気がしたが閉じられた扉で確認することは出来な
かった。

 『ガチャリ』

「父さん、話ってな・・・!?」

無機質な金属音をたてて扉が開かれ、ロックは部屋へ入る。最初は暗闇に目が慣れ
なかったため呆然としていたが、中の様子を認識し驚愕した。父親が、死んでいる。
それも女に、飛び切り妖艶な女に抱かれて死んでいるのだ。驚かないわけがない。

「っ……?」

人は本当に驚いたとき声も出ないのだと、ロックは頭の隅で思った。そんなロック
に女は冷ややかに言った。

「あら?息子さん?…残念だけどあなたのお父さん、天国にイッちゃったわよ?」
「…な…どう、どう言う事だ!」
「鈍いわねぇ…こう言う事よ」

未だ理解を得られないロックに女は、自らの秘所を指で開き、そこから滴り落ちる
白濁液を指で掬って舐めて見せる。ロックはその行動に思わず腰を引いた。

「見える?あなたのお父さんのい・の・ち。全部私が搾り取っちゃたわ」

股間が熱くなる。ロックは自分に嫌悪感を抱いた。このような状況にありながら女
に反応する自分が心底嫌でならなかった。だが無理もないのだ。その女は普通では
ないし、ましてや人間ですらない。常人であるロックでも分かった。こいつが、話
に聞いていた淫魔。聖人である父の魂を奪うために父を殺した…憎しみで胸がカッ
と熱くなるのを感じた。だが、女の魅力は胸以上にロックの股間を熱くしていた。

「あら?こんなのでアソコ大きくしちゃってるの?可愛いわねぇ…ちょっと遊んで
あげようか?」

女がゆっくりと近づいてくる。だがロックは一歩も動けない・・・

 動けないロックの前に女は笑みを浮かべながら立つ。どこか、さっき見た姉の笑み
に似ているとロックは思った。混乱と、恐怖と、怒りと、興奮がロックの中で複雑に
入り混じっていた。ロックより少し背の高い女は動けないロックをジロジロと見回す。

「あら?あなた童貞なのね?若々しくて新鮮な匂い…『ヨミ様の体』を抱えてなかっ
たら筆下ろしと行きたかったんだけど…残念ね。ヨミ様に不純物が混ざるといけない
から、これで我慢してね?」

女は熱く硬くなったペニスを服の上から掴み、擦りあげる。

「あぁっ…!」

恐れていた、そしてどこかで期待していたその感触にロックは腰を更に落とした。立っ
ていられない。思わず女にすがり付いてしまう。

「可愛いわね…でもつまらないわ。さっさとイッちゃいなさい。ズボンの中を精液で
グショグショに汚すのよ?情けないわねぇ?」

女が一際強くペニスを扱き上げると、ロックは微塵も我慢することが出来ないまま精液
を噴出してしまった。女はそんなロックを突き飛ばすと隠していたのであろう羽を広げ、
部屋の窓へと向かう。

「はっ…はぁっ…ま…て…」

 ロックは静まらない息を必死で収めようとしながら女に向かって手を伸ばす。ロックが
出来たのはただそれだけだった。

「急いでるから生かしておいてあげる、私の名はレイシアよ。復讐したいのなら覚えて
おきなさい。坊やの名前は…いいわ、次に会った時坊やが男になってたら覚えてあげる」

窓から見える月に向かって女は飛び去っていく。その影に続くように同じような影がいく
つも現れる。影は月を覆い隠し、少年の心に絶望を与え消えていった。

                       封淫記 第一章 零話 完













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