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ギロチン少女マジカル☆ギヨたん その2

 街灯の明かりがまったく届かない路地裏は、天に輝く月明かりすら差し込まない。
 それでも、夜目に慣れていた三人の目は、至近距離なら少女の姿を捉えるのに支障はなかった。顔と白いフリルだけが闇の中に浮いているように見えるのを小柄な男は不気味と思い一歩退いたが、他のふたりは完全に火がついていた。興奮したふたりは、目的以外の感覚が完全に鈍化していて、気付かない。広場で公開処刑に熱狂していたときのように、ふたりは高ぶっていた。
「へへっ、怖くて声も出せないってか。出しても誰も来ないだろうがな。お前が今も着てる服がオレたちの犠牲の下で作られてることの傲慢さの報いってやつを、たっぷり躯で教えてやるよ」
 よく見ると、少女の服は所々はだけていた。脱がせ方など判らず、元より破くつもりだった大男は思いきり引くだけで上半身のドレスが脱げたことに驚く。まさか、もう既に誰かの手で汚されていたのだろうか。あり得ないことではない。むしろ、こんな少女が歩き回っていれば、当然といえた。
 誰の手にも触れていない果実を貪る――その想像に胸を躍らせていただけに、別の男によって弄ばれた後というのは酷く落胆した。それでも、少女は魅力的だった。止める理由はない。
 暗い路地裏で露出された胸は、予想通り薄かった。ふっくらと膨らんだ胸は発酵を始めたばかりのパン生地のようで、柔らかいが膨らみはたいしたことはない。けれど乳首の淡い色も、肌の白さも、男慣れした娼婦とは比べものにもならない背徳感を抱かせた。
 大男は少女の黒髪の上から頭を掴んで、ぐいっと自分の股間へと顔を近づけさせた。下着ごとズボンを降ろすと、刺激臭を放ちながらもぱんぱんに膨らんだ肉棒が少女の頬を叩いた。
 その肉棒は、大男の体格と合ってふつうの男のものとは一回り以上も大きかった。女性の手首くらいの太さはある。それはもう性器というより、女性にしてみれば凶器だった。
「ここのところ風呂なんて入ってねえからな……まずはお前の口で綺麗にしろ」
 少女は黙って、大男の陰茎を見つめていた。大男が自慢する一物に度肝を抜かれたのか、それとも、なにをすればいいのか理解していないのか。
 大男は焦れて、少女のぷにぷにと柔らかい唇を親指でこじ開けて、無理矢理陰茎を突き入れた。上顎の凹凸を亀頭がなぞり、裏筋をなぞる舌を押しのけながら喉の奥を突くと少女が初めて呻き声を上げた。口が裂けそうなほど大きなものを銜えさせられた少女は今にも顎が外れてしまいそうで、目を大きく見開いた。
「うっ……っっっ……」
 少女の反応に気をよくして、大男は少女の黒髪を掴んで無理矢理引くと、腰を思い切り少女の美貌に叩きつける。
「ふっ!?」
 悲鳴を喉の奥で上げる少女に、大男は嗜虐心を煽られた。陰茎は、少女の口の中で今も大きさを増していた。
「ほら、綺麗にしねえか!」
 大男は何度も少女の顔に腰を振った。
 真っ赤に膨れあがった亀頭が少女の涎を絡みとって、じゅっじゅっと上顎にこすりつけられる。何層にも重なった垢が少女の口を汚し、赤々とした舌は大男の裏筋を強制的に舐め上げさせられる。
「んんっ! じゅ……ふう……んぐっ、んんんっ」
 少女の口の中は一言でいってしまえば、これまで大男が相手にしてきた娼婦など比ではないほどにいやらしく、心地よく、刺激的にペニスを舐めあげた。
 幼気な、そして憎き貴族の娘であるからだけではない。この少女の口は、まさしく大男の精液を搾り取るために作り上げられた産物のようにペニスに纏わり付いていた。
 大男はいつの間にか息を荒くしていた。快感が腹部にこみ上げてくる。
 もう我慢できなかった。
 少女の頭を両手で掴み、ぐっと腰を奥まで押しつける。喉の奥の奥へと思い切り突き入れ、少女が反射的に大男のペニスに歯を立てるが、唇に親指をねじ込んでそれを押しとどめた。
「ぐ……出るぞォ!」
 猛獣のように咆えて、大男はペニスから精液を噴出した。
 どくんっ、どくどくっ、どくんっっ!
 がくがくと腰が震えるほどの快感が大男の下腹部を走り抜けた。
 何度も震えながら、数週間にわたって発散していなかった精液が少女の細い喉に直接流し込まれる。
「あ……うううう……っ、んー! んー!」
 小刻みに震える大男のペニスのように少女の躯も驚きでまた震えた。大男から逃れようとするが、少女の腕力では屈強な躯を一ミリたりとも押しかえすことができない。
「ああ、ぐう……全部飲み干せ! でなけりゃ喉に詰まって死んじまうぞ?」
 にたりと笑って、大男はまだわずかに射精しながら脈動するペニスで少女の喉を擦った。
「んん……ん、んん……んくっ、んくっ……」
 何度も少女の小さな喉が上下する。それでも、ゲルのように粘性の高い大男のはき出した精液を喉の奥に出されたのでは少女には飲み下せなかった。
 大男は少女が窒息しそうになる寸前で陰茎を抜くと、少女は咳き込みながら自分のドレスの上に精液をはき出した。
「けほっ、けほっ!」
 どろりとした白濁が少女の口から流れて黒いドレスを白く彩る。少女を犯した実感が大男を高ぶらせた。
「兄貴、早すぎですよ。こんな餓鬼に」
「うるせえ、お前もやってみろ……こいつは魔性だぜ……」
 大男のペニスは少女の口に精液を流し込んだばかりにもかかわらず、涎と精液で濡れた赤黒い姿で天を指していた。
 元より、一発程度で満足するような男ではなかったが――全然、収まらないのは初めてだった。
 大男は路地裏に座り込むと、咳き込む少女の腰を掴んで自分の下半身の上までもってきた。咳き込み、まだ虚ろな目の少女のスカートを掴み、はぎ取る。ボタンでも千切れたのか、スカートはあっさりと脱げ、まだ毛も生えていない無垢な下半身を獣の前に晒させた。
「おお……」
 思わず声を洩らす。つるりとした卵のような下半身と、小さな突起に、亀裂から覗くわずかな赤み。
 大男は生唾を飲んでいた。これは、熟れた女の性器よりも、ずっと淫蕩だ。
 ペニスははち切れんばかりに大きくなっている。大男は少女の腰を掴んで浮き上がらせると、屹立したペニスに宛がった。
 入り口に亀頭を押しつける。どう見ても少女の躯に入る大きさではない。けれど大男は躊躇せずに力を込めた。ずるりと、亀頭が小さな穴に力尽くでねじ込まれた。
「あ――!?」
 びくんっ、と一際大きく少女の躯が跳ねた。亀頭が入っただけだというのに、それでも小柄な少女の躯には大きすぎた。
「まだ頭が入っただけだぞ? たっぷり味わえ……!」
 大男はその反応に気をよくして――一息に少女の躯をペニスに打ち下ろした。
 ずんっ、と少女は下半身を貫いた槍の衝撃で、ずっと胡乱だった目を見開く。少女の腹部は見ただけで判るくらい、大男のペニスが存在を主張していた。
「おお……っ」
 大男はペニスを締め付ける膣の快感に声を洩らす。
 膣は大男の一物を押しつぶそうとするほどに密着し、挿入の際にそのひだで亀頭をなで上げた。予想外に愛液でたっぷりと濡れた少女の未熟な性器は、それだけで大男を絶頂させるところだった。
 ぐっぐっ、と動かさなくても何度も膣が収縮し、ペニスを刺激する。それだけで大男は亀頭で押し込んでいる子宮に精液をぶちまけてしまいそうになる。
「ぐっ、そんなみっともない真似してたまるか!」
 大男が少女の腰を掴んで浮かせると、また玩具みたいに腰へと落とす。少女の体重を乗せたピストンがまた少女の子宮を突き上げた。
「うあっ! ……あああっ」
「見た目と違って煩く鳴くじゃねえか、そんなにオレのが良いか、おい!」
 大男は少女の躯をくるりと半回転させると、地面に四つん這いにさせた。そのままバックで少女のお尻に腰を叩きつける。ピストンする度に、赤い血が流れた。それは破瓜の血なのか、それともあまりに大きい陰茎故に性器が裂けたのか。
 亀頭はぐちゅっ、ぐちゅっと膣内を何度も突いて竿は少女の柔肉が丹念になで上げる。大男は全財産を払っても買えないような高級な布のように白くなめらかな少女の背中に涎を垂らす。そして乱暴され赤くなっている少女のふっくらとしたお尻に腰を叩きつけた。
 そのたびに少女の性器は年らしからぬいやらしいぐちゃぐちゃとした音を立てて、男のペニスに蹂躙される。
「ああっ、あ……ああっ……!」
「おおおおおお、おおおおおお!」
 大男は咆えて、ぱんっぱんっぱんっと叩き込む。
 もう再度の射精感を押しとどめることは出来なかった。
 腰を引く――亀頭のエラをずりゅずりゅっと膣が舐めて、大男は達した。少女の腰を指が食い込むほど掴んで腰を押し込んだ。
 ――びゅっ、びゅる――っ! 
 肉棒が爆発して、そんな音が少女の肉越しに聞こえてきそうな勢いで精液を吐きだした。躯の中身ごと総て捻り出そうな射精感が大男を襲った。
 がっちりと大男の汚い剛直を銜え込んだ小さな性器から、精液が勢いよく噴き出した。少女の痩躯には大男の欲望はあまりにも大きく暴力的すぎた。
「あ、はあ……っ、んあ……」
 ぐったりと上半身を地面に横たえて、少女は未発達な胸を上下させていた。
 大男は乱暴に陵辱された少女よりも疲労していた。睾丸から精液を吸い出されただけではなく、体力まで少女の中に放出してしまったような錯覚すらした。これまで何人かも覚えていない量の女と寝てきた大男であったが、この少女の性器の快楽はそれらとは桁違いだった。
 しかも、大男の肉棒はまだおさまらず、ぱんぱんに腫れ上がっている。鋭敏になった神経をひくひくと圧迫する少女の性器のせいで萎えることさえできない。
「な、なんて名器だ……」
 赤くなった少女の丸々としたお尻と接合部をマジマジと見る。未成熟な、けれど男の味を知って女にさせられた少女の躯は、再び大男の性欲に火をつけた。
 ゆっくりと腰を引き、大男は思いきり腰を突き出す。
「ひゃっ」
 大男の手では片手で持ち上げられそうなほど小さな躯に暴力を叩きつける。陰部から泡立った精液と愛液が掻き出され、少女の躯は意志とは裏腹に大男のペニスを受け入れさせられていた。
 三回戦に突入した大男を見て、眉無しの男は笑った。
「大げさだなァ、兄貴は。そんなにきつめが好きなんすかィ? こういう小綺麗な子供よりも、胸のでかい女の方がこっちとしては好みなんすがね……お?」
 眉無しが片方の眉を持ち上げる。よろよろと上半身を起こした少女が、バックから突かれながらも眉無しの下腹部に顔を寄せていたのだ。
 にやりと眉無しは笑って、ズボン越しにはち切れんばかりになっているペニス突き出すと、少女はたどたどしい手つきで眉無しのズボンを脱がせた。
「なんだ、そんなに気持ちいい理由がわかりましたぜ。こいつ、見かけと違ってこういうことに手慣れてやがるんだ。それとも、夜の礼儀ってのを教え込まれたのかな?」
 少女はふわふわとした手でペニスを握ると、亀頭をぺろりと撫でた。ぴくっと反応するペニスを見つめて、少女は目を細める。
 つい先程まで軽口を叩いていた眉無しは背筋にぞくりと走るものを感じた。とても少女がするような目ではなかった。あまり色気があって――自分の欲望を総て見透かされているような錯覚を抱かせる。
「あむ……」
 少女が口を開けて、眉無しの赤い肉の塊を口に含んだ。ちろちろと口の中で尿道を舐めると、眉無しは反射的に腰が引けた。けれども、少女は腰が下がった分だけ身を乗り出して、そのペニスを離さなかった。
「うおおおっ」
 大男のペニスを精液まみれの下半身で銜えたまま、少女は銜えた陰茎を根本まで簡単に食べてしまった。頬をすぼめて、口の中の柔らかい肉で茎を締め付けて、舌で亀頭の下の裏筋を丹念に舐めあげた。
 ぐちゅ、ぐちゅっ、じゅるっと、下品な音を隠しもしない。上品な姿と裏腹の淫靡な振る舞いに男の中で急速に射精の欲求が高まっていく。
「お、おい、ちょっと待て。やめろっ」
「ん……んんっ……ふ……っ」
 少女は聞こえていないのか、無視しているのか。銜えたペニスは離さない。むしろより一層激しくフェラの勢いを高める。じゅ、じゅじゅじゅ、と高まるテンポに、男は意識を奪われた。止めようなどという考えが吹き飛んだ。
 混みあがる快感に、男は下腹部をみっともなく突き出して――
 びゅくっ、びゅくっ!
 陸に打ち上げられた魚のように背筋を振るわせて、男は溜め込んだ白く濃厚な精液を少女の口内に洩らした。
「……んくっ」
 さっき大男の精液を飲み下すことができなかったのが嘘のように、少女は新たな精液を唾液で攪拌すると総て喉に流し込んだ。
 ペニスに纏わり付いた精液一滴惜しむように吸い付いて、眉無しに追い打ちの快感を与えながら、少女は男の陰茎を悩ましげな吐息と共に離れた。
 亀頭と唇の間に出来た唾液の糸を指で払うと、口元についた精液を拭って舌で舐めとる。
「お、おおおおおおっ」
 大男が三度目の絶頂を迎えていた。陶然としただらしない顔で、大男は自分より一回りも二回りも小さい、子猫のような少女の性器に欲望を流し込む。いいや、吸い取られている。
 犬のように男たちに犯されている体勢でありながら、少女はいつの間にか男たちを手玉にとっていた。
 少女と、唯一この狂乱に参加していなかった三人目の男の目があう。少女の目は、やはり表情を写していない。性の興奮に身を焦がしているわけでもなかった。けれど、そこには憎しみの感情が見え隠れし――それは普通とは違う妖しい煌めきとなって、男たちの目を釘付けにして離さない。
 矮躯の男はまだなにもされていない状態でありながら、あることをこの場の誰よりも強く理解していた。
 路地裏の暗がりに転がった、人の躯を見つけてしまったから。それは水分を抜き取られたように渇いていて、惨めに下腹部をさらけ出して死んでいる誰かの死体。
 そうして、ああ、あれが自分の末路なのだと思った。恐怖におののいても、逃げることも声をあげることさえ、できない。
 何故なら。本来ならば少女を犯すなどと考えられないこの男でさえ、あの少女のアンバランスな魅力に、既に虜になってしまっていた。香るほどの死の臭い。それは男たちの頭を胡乱にして――。
 大男が仰向けになり、少女が大きな躯に跨る。大男に頭を掴まれればたちまち握り潰されそうなほどの体格差がありながら、もう大男は肉食の野生動物に馬乗りにされたようなものだった。
 眉無しが少女のお尻を掴み、親指をねじ込んでアナルを押し広げる。そこに吸い込まれるように、いきり立った肉棒を挿入した。
 また狂乱が再開する。
 肉がぶつかり合い、淫らな水が音を立てる。
 ここは狩猟現場。けれど、最初に獲物だったはずの存在に、獣は無惨に貪られる。そんな凄惨な、夜の食人祭だった――。

 そこには乾涸らびた何かだけが残り。
 そうして誰もいなくなった。



 白目を剥いて動かなくなった巨漢の男を一瞥すると、少女は靴下だけになった足で立ち上がった。
 ぬぽっ、と音を立てて大男の一物が下半身から抜け落ちた。硬さを失っていても、そのペニスは平均的な男性が勃起したものと同じくらいの大きさがあった。
 ふらりと物言わぬ屍となった男から離れると、股と後ろの穴から白い液体が汚い路地裏の地面にシミを作った。
 どれほどの間、こうして男三人とまぐわっていたのか。躯に渇いた精液と汗、涎がこびり付いていて少女は不快だった。下着をはこうと思ったが、路地裏の隅にボロ切れとなって発見されたので諦めた。
 自分のブーツを見つけると、一緒に拾ったドレス――ゴシックロリータという衣装らしいことを少女は聞かされていた――ごと身に着ける。服が汚れることを気にはしなかった。どうせ、もらい物だ。
 合計四人にもなる男の亡骸を少女はもう一顧だにしなかった。平然と路地に出る。
 街灯の下に、人影があった。
 こんな夜更けにまた獲物が迷い出たかと少女は思ったが、胸を大きく開いた扇情的なローブを纏った女性を見て、すぐに怒りを鎮めた。
 その女性は娼婦と云われればそうだったが、大きな帽子と長いローブを身に纏った姿を一言で表すなら、魔女という言葉が一番よく似合った。
 魔女。――そう、まさしく、その魔女だ。
 腰まで届く銀の髪は、色が抜けたなんて間抜けな想像はさせない。銀塊を熱で溶かして細工したように美しい。ここが人通りの多い時間ならキラキラと光るその髪に手を伸ばそうとする者がほとんどであっただろう。目は切れ長で見つめられるだけで誘われているような色香があり、露わになった胸元は豊満。
 少女を言葉であらわすならば幼さと成長間近のアンバランスな肢体が背徳感を刺激する抗いがたい魅了の美であり、魔女は男ならば抱かずにはいられないと躍起にさせる女性的な魅力で溢れていた。
 大きな帽子を被った魔女が、少女に微笑んだ。
「どうだい、その躯の使い心地は。すこぶる良好だったろう。今の君にかかれば、男なんて猿と同じだよ。その気になれば躯ひとつでどんな権力者でも虜にできるだろうさ」
「興味ない」
 魔女のつかみ所のない物言いを、少女はばっさりと切って捨てた。刃物のような切れ味だった。
「男を籠絡して、混沌に落ちる様を眺めるのも遊びとしては楽しいものだと思うけどねえ。いやしかし、キミがそれほど美しくなるとは私としても予想外だったよ。純粋なモノほど、見た目に現れ易いということかな。キミほど美しく洗練されたモノは見たことがない」
 少女は魔女の会話に付き合うつもりはなかった。自分に躯を与えてくれたことには感謝しているが、わざわざ恩を返そうとは考えていない。何故なら魔女はおのれの娯楽のために少女を少女たらしめたのであり、そこに利害があるのなら、特別、少女から何か恩を抱く必要はないと思ったのだ。
「自分では判らないけど、その美しさがわたしの役に立つのなら――好都合だわ」
「へえ、本当にやるつもりなのかい。キミは」
 魔女は自分が少女と邂逅した日のことを脳裏で再生しながら、云った。
「あの処刑人の復讐を。――処刑道具であるギロチンのキミが」
 少女は黙っていたが、沈黙は即ち肯定だった。
 くくっ、と魔女は喉を鳴らして笑う。
「自分の手入れをしてくれていた処刑人が、自分を使って殺された。その復讐をしようとは畏れ入る。素敵に一途だ。しかしだね、私は判らないのだが、キミは誰に復讐をするつもりなのだね。さっきの男たちは処刑人の死に直接関わったようには見えなかったのだけど」
「復讐の相手? わかりきったことね」
 少女は憎悪を込めて、うそぶく。
「わたしの復讐する相手はこの国の総ての人間=Bこの国自体がわたしの敵。――わたしは彼を殺した総意に報復する」
 広場の熱狂が少女の裡で蘇る。
 誰もが、何もかもが、処刑人の男の死を望んでいた。頭のネジがとんでいるみたいに喚き散らして、ギロチンである自分の刃が震えるほどに叫ぶ。あれは狂気の嵐だった。
 彼らは直接殺していない? なんてことをいうのか。人の死に興奮し、狂い、望んだのなら、彼らも等しく殺人者だ。少なくとも、処刑道具として産まれ、人間のエゴで人を殺し続けてきた少女はそう確信していた。
「それにあの大きな男は、あの日、彼の生首を持ち上げて石畳に叩きつけていたの。額が割れて血が流れていたわ。そんな人を見つけたら、もう殺すしかないでしょう?」
「ほうっ、では何故わざわざ男たちに快感を与えて殺したんだい? キミならもっと効率的に殺せるじゃないか。慈悲のつもりかい?」
「慈悲?」
 少女はそのとき、初めて笑った。暗い暗い、井戸の底のような笑み。
「まさか……。ギロチンは、人を楽に殺してあげるための人道的な処刑道具として作られたんだから……。あっさり首を狩っちゃったら、苦しくないでしょう?」
 そうだ。自分が処刑人を殺す道具として使われたことに唯一感謝することがあるなら、彼を苦しませずに逝かせてあげられたことだ。
「それに、快楽は……一度与えられた至福は、やがて来る絶望を引き立てるもの。わたしが彼という幸福を奪われたときのように、快感が絶望へと変わる感情の墜落――それを味わわせることなく殺すなんて、わたしにはできないわ」
 少女が口数も多く、滔々と語った内容は魔女の心を満足させた。喉を鳴らして笑った魔女は、夜闇の元で手を叩いた。
「すばらしい! それでこそ、だ。見せてもらおうじゃないか。キミの人と国ひとつを堕落させる復讐を。しかし、それならキミにも名前がいる。そうでなくては、存在としての重みが違う。人もモノも名を持つことで存在として一段強くなるのだよ」
「名前……?」
 自分の名前。そう云われても、少女は断頭台。人を殺す道具としての名前はこれだけで充分だった。けど、そうだ。少女の脳裏に引っかかっているものがある。それはいったい……、と引き出そうと悩む少女を尻目に魔女はいった。
「よし、キミの名前はギヨたんだ」
「…………はっ?」
 少女は目を丸くした。人としての躯を得てからの少女の表情では、とびきり間抜けな顔になっている。
「なんだい、そんなに私を見て。そんなに気に入ったかギヨたん。良い名前だよギヨたん。うん、我ながら素晴らしいネーミングセンスというやつだ」
「…………」
「どうした、ギヨたん。感動で声もでないのかい」
「その呼び方をやめないと真っ二つにしてやる」
 溜息をついて少女は魔女に背を向けた。
「アンナマリア」
「うん?」
「アンナマリア――そういえば彼はわたしをそう呼んでいた」
 処刑道具に聖母の名前。そうだった。寡黙な男だったけれど、彼はロマンチストだったことをアンナマリアは思い出した。
 街灯が転々と続く、どこまでも続いていきそうな真っ暗な路地をアンナマリアは歩き出した。
 名前のことを意識したら、洪水のように処刑人のことが脳裏に浮かぶ。そして、それがもう二度と手に入らないことに気付く。
 ああ、そうか。と深い闇を睨んだ。
 ここから、わたしの復讐が始まるんだ――。

 序章/了
 ここで一区切り。この引きのままに続きがあるかは不明ですが、ここまで読んでくださりありがとうございました。
 昔に比べて書く内容にエロスが足りない……というか、今回で二回目のエロイ描写だったのですが、ご満足いただけましたでしょうか。もしギロチン娘ちゃんを少しでもかわいいと思ってくださった方がいれば幸いです。
 ……書いていて気付きましたが、ギロチン娘って怒りの日のメインヒロインでしたよね。時代設定的にモロ被りですね、はい。
 それでは!

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