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ギロチン少女マジカル☆ギヨたん その1

 ちゅ……ちゅっ……。
 夜の路地裏に、水がピチャピチャと跳ねるような音がした。
 路地に人通りのまったくないほどの夜更け、その裏には下半身を突き出した男が恍惚とした表情でだらしなく涎を垂らしている。
「んっ、ふうっ……ちゅっ」
 男の股の間で屹立した肉棒を幼い少女が銜えていた。黒いドレスに白いフリル。黒と白のコントラストが印象的な、まだ十代の半ばにも達していないような少女だ。
 ぺたんと地面に座りこんでいる少女は、がくがくと震える男の腰に抱きついて、根本まで呑み込んだペニスにねっとりと舌を絡みつかせている。
 情熱的なわけでもなく――作業的に男の弱点を丹念に、まるで玩具でも愛でるようにカリ首の合間に滑り込ませてじゅるりと舐めていた。
「あむ……ちゅじゅっ、ぢゅ……んちゅっ」
 そのまま舌は亀頭の頭を撫でていき、尿道をマッサージしていく。少女とは別の生き物みたいに動く血のように赤い舌に、男は背筋を震わせた。
 その執拗な舌責めは幼い外観からは想像も付かない淫らさで、奉仕される男は少女の頭に手を添えて立っているのが精一杯だった。
「あ、あああ……もう駄目だっ、出――!」
 言い終わるまで男は耐える事ができず、少女の口の中で肉棒がスペルマを間欠泉みたいに噴き出した。
「んぐ……っ」
 どくんどくんっと心臓みたいに激しく脈打ちながらペニスが放出した口内から溢れ出そうなほどの白濁とした精液を、少女は嫌な顔すらせずに無表情で呑み込む。小さな喉が何度も上下に動いて、精液は胃に流れ落ちていった。
 少女は熱い吐息をついて男性器から口を離すと、肉棒に絡みついた精液を舌ですくい取る。かわいらしい真っ赤な舌が敏感になった亀頭を舐めて、男はがくがくと足を震わせると腰を抜かして路地裏にへたり込んでしまった。
 それでもむき出しになった男の陰茎は屹立としていて、少女は無言で下着を脱いで男の躯に跨ると、ドレスのスカートをたくし上げた。毛も生えていない未成熟な女性器が眼前で恥ずかしげもなく晒されて、男は顔を紅潮させた。どんなに女性として成熟した者の性器よりも、そのいやらしさと可憐さが奇妙なバランスを持った花弁のような少女のヴァギナは淫靡だったのである。
 見とれて一言も口をきけない男のペニスに向けて、少女は見せつけるかのようにして腰を下ろした。
 亀頭が入り口に触れる。
 だが、期待していた感覚は男にはやってこなかった。
 挿入されるのかと思いきや、愛液で滑ったペニスは少女の性器をなぞっただけであった。男は入れてくれ、と懇願するように少女を見上げる。
 そこには蔑むような冷たい視線があった。
 自分よりもずっと年下からの冷罵でありながら、男は既に蛇に睨まれた蛙になってしまっていた。
 男が硬直しているうちに、少女は男の下腹部の上に座った。しかし挿入はされておらず、未熟な性器で陰茎を押しつぶす。
 少女がじっと男を見て、腰を肉棒にそって動かした。ずるり、ずるり、と性器の口で射精したばかりのペニスを擦りあげると、男は女性みたいな高い嬌声をあげた。
 裏筋をなぞる女性器は蛸の吸盤のように吸い付き、そのままペニスを横笛みたいになぞるのだ。愛液でびしょびしょにされた肉棒の根本から裏筋をなぞって亀頭の筋まで。ぐちゅり、ぐりゅりと音を立てて刺激する。
 女性器によるマッサージ。少女は男のペニスを挿れるわけでもなく、寸止めして弄んでいた。だが男は異を唱えられない。裏筋を集中的に滑るヴァギナはそれだけの快楽を与えた。
 少女の腰の動きが速くなる。短いスパンで何度も何度も陰茎が摩擦し、カリを入り口でなぞってはまた筋を舐めていく少女の下半身に、男の性欲はまたもや解放のときを迎えた。
「あああ、あああ――ッ!
 どぷっ! とひねり出される精液。
 少女の白い太腿に飛び散りながら、子種は男自身の身体に降り注いだ。なにも身に着けていない下半身と服を着たままだった上半身が青臭い液体でべっとりと汚れてしまった。
 はあ、はあ、と肩で息をする男から少女は立ち上がり、またペニスに口を寄せる。どろどろと白濁にコーティングされた亀頭を銜えた。
「あがっ!?」
 稲妻のような快楽に男の腰が浮き上がる。
「も、もうやめて……」
 少女は答えることなく、男の精液を吸い上げた。

 ちゅっ、と一際大きな音を立てて亀頭を吸うと、少女は陰茎から口を離して喉を大きく上下させて口の中の白濁とした液体を呑み込んだ。
 あとに残されたのは、自分の精子で濡れた哀れな男の死体だけだった。
 少女の耳に、足音が聞こえてくる。
 新たな獲物を見つけた。
 その方向へ顔を向けて、少女は路地裏を後にする――。

     *

 ある時代、ある日の広間。
 人を焼き殺すような熱気、目を潰すほどに燦爛と輝く日輪。
 声だけで人を圧壊するような熱狂の渦の中で、
 ――ひとつの首が宙を舞った。
 断頭台が落ちたのだ。幾多の人の血を吸った忌まわしき鈍重なる刃が、また無慈悲に人の首を狩り落とした。
 だが、果たして。無慈悲だったのはギロチンなのか。それとも、刃を落とした人間だったのか。
 舞う首の金髪が光を反射する、それはまるで金粉をまき散らしているようで。その生首は、神々しい死の煌めきをまき散らしながら、広間の石畳に転げ落ちた。
 その男の生前を語るのならば、ただかつて処刑の執行人をしていたというだけで事足りる。それ以外に、なにもないような男だった。血縁などいなかったが、それはこの時代において悲劇たり得なかったろうし、なにより本人がそれを当然と受け入れていた。幸いにも食事は毎日ありつけていたし、鍛えた躯は健康そのものだった。
 処刑人という陰惨な、人からの畏怖と憎悪を買う仕事をしていながら、本人は至って素朴な男だった。たいして言葉を知らぬから、口数は少ないうえ人と親密な関係になることもなかった。劣悪な生活環境は改善しようとするが、上昇思考があったわけではない。本当に、素朴という言葉がよく似合う。
 ああ、知っている――とソレは嘆いた。
 けして、殺されていいようなものではなかった。
 こんなことで、死んでしまっていいようなものではなかった。
 命に区別はない。ひとしく同義だ。それは、ソレが一番理解していた。己の用途が故に。
 だが。その男の首が舞って、地面を転げて、その首を笑いながら蹴るものたちを見ながら、ソレは思う。
 このような愚劣極まりない行為をおこなう連中が、彼と同じ命とでも云うのか?
 ――何を、馬鹿なことを。
 ふつふつと、自分の中で燃え上がる感情が、最初なにかソレは判りかねた。やがて、自分が奴らにしてやりたい行為のことを分析して、判明した。これは憎悪だ。憤怒だ。――殺意だ。
 自分に今まで向けられていた感情を、今は晴天の広間を覆い尽くしている、蟻のような人間に注いでいた。
 民衆が、処刑された元・処刑人を罵倒していた。
 悪魔。人殺し。屑。
 犬野郎、狂人、お前なんて人の子じゃない――。
 なにを云っているのだ。その男を殺したのは、なにもここにいる別の処刑人でも、ましてや私≠セけでもない。お前らだ。お前らの総意が、彼を殺したのだ――。

 ――ある日、革命が起きた。
 王は殺された。女王も殺された。公開処刑であった。
 民衆は娯楽と、そして自分たちを苦しめたと想像する総ての悪徳を彼らに押しつけて、新たなる秩序の名の下に断罪し、歓喜していた。
 しかし、自分たちの生活の改善を願って蜂起したものの、生活は一向に上向くことはなく、むしろ以前より困窮していく始末だ。自分たちはいったいなんのために支配者を打倒し、無様な死をくれてやったのだろうか。この混迷たる世の中で、自分たちの幸福を願って戦ったはずなのに。
 そうした不満を抱き、追い詰められ、影響を露わにするのは、社会的が地位の低い者たちだった。
 その日は、街の広場で公開処刑がおこなわれていない日であった。どんな不平や不満も、自分たちを追い詰めたものたちの死によって一時、熱狂という水で洗い流されていたわけだが、それがないとあっては虫の居所が良くはない。
 特に。陽が地平線の彼方に消えてからかなりの時間が経つ夜更けに、頼りない街灯の明かりに照らされた路地を肩を怒らせて歩く男三人の機嫌はすこぶる悪かった。
「なんでだ……なんで、あの王も死んだっていうのに、オレたちの生活はすこぶる不調のままなんだ。こっから先は祝福された人生が待ってるんじゃなかったのかよ」
 三人の中では一番大柄な男が云った。過酷な肉体労働でもしているのか、肩幅は広く、腕の太さも少年の胴回りくらいはある。手入れもまったくされていない、単に無精で映え放題になった髭がみっともないが、誰もそれに苦言を呈すことができないほどに凶暴な猛獣を彷彿とさせる男だった。
「仕方ないですよ。王様が死んだからって、わたしどもの仕事が楽になるわけじゃないんですからね。王様が死んだら、そのまま食事がわたしたちの前に並ぶような、そんな単純な問題だったらよかったんですけどね」
 大男の言葉に、一番小柄な男が応えた。背丈は他の男性と比べると低いが、そこはやはり大男の同業者、肉体に恵まれてはいないものの筋肉だけはついていた。それで腕っ節、喧嘩が強いなんてわけではないようだと判るくらいに、その男の肩身は狭そうであったが。
「おいおい、テメェは今更全部わかってましたって面で諦観かよ。さすが自称知性派はご慧眼の持ち主なんだなぁ、ええ?」
 最後のひとり、眉が薄いせいか眼窩の骨が目立つせいで酷く乱暴者な印象を抱かせる男が、小柄な男を睨み付けた。先程からずっと眉間には皺が寄っていて、眉がなくても男が苛立っていることは誰から見ても明らかだった。
「そんなつもりで云ったのでは……」
「じゃあどういうつもりで云ったんだよ、あァ?」
「ったく、うるせぇぞ、テメエら! その顔血まみれにされたくなかったら黙ってろ!」
 大男は自分の背後で騒ぎ出すふたりを怒鳴ると、たちまち静かになる。一喝に萎縮したふたりに、大男は苛立ちを隠さぬ口調で独白した。
「オヤジはのんだくれでよぉ、オフクロは男共に股を開く売女だった。今に至っては、お前らみたいな馬鹿な奴らがオレの後ろで騒ぎたてやがる。ホントに、うまくいかねえ……。王とか、女王だとか、あのときの……そうだ、陰気な処刑人が死んだときみたいな……大笑いできる見せ物がないってのも、おかしな話だ、よ!」
 大男は足下に転がっていた石ころを蹴り飛ばした。カンッ、と耳に刺さる音を立てて石畳の上で跳ねた石ころは、誰かの足に当たって地面に落ちた。
「お?」
 大男は声をあげた。その街灯の明かりが途切れる境界線に、この中の三人の誰よりも小柄な女の子が立っていたのだ。
 奇妙な少女だった。
 黒いドレス。それも、お城に住んでいる人間が着ていそうな――ほとんど男の偏見であったが――豪奢なフリルをあしらったものを着ていたのだ。黒を基調にして、白いフリルに飾られた衣装は影絵のようなコントラストを作っている。もしかしたら、このまま歩いていては気付かずにぶつかっていたかもしれない。
 男たちのそこそこに長い人生の中で、その服装は見たことがなかった。自分たちがこの国でふつうに生活していては、お目にかかることはない。しかし、他国の人間が革命をおこした最中にある国へと足を伸ばそうなどと酔狂なことを考えるものだろうか。
 自分たちが立ち入れない場所といえば、この国ではお城しか考えられない。つまり、あの少女は――処刑されるのが怖くて、逃げ出した王族、あるいは貴族の人間なのだ。
 そうとわかると、まず大男がその髭だらけの口の端を持ち上げた。笑ったのであろうが、端から見れば獲物を前にして牙を剥いた獣にしか見えなかったし、事実大男は少女を獲物と見ていた。
 街灯の明かりが届く限界にいるため、少女の姿は曖昧にしか見えず、躯の輪郭もふわふわとした衣装のせいで判らない。けれど、その顔がとびきりの上玉であることだけは目聡く把握していた。
 成熟した女性のような情欲を抱かせる顔つきではない。躯の方も、貧相なのは脱がせなくても判る。けれども、ある程度の幼さを残した少女だけが持つ、年頃の危うさ――脱皮をしようしている蝶のような、触れては無くなってしまいそうなバランスで保たれた色香があった。
 特に、大男は少女と同じくらいの年代のときはいつも両親にこき使われて労働を強制されていた。とてもではないが、異性と懇意になる余裕などなく。娼婦を抱いても、若い肉体への憧憬が常に胸の中で燻っていた。
 だからこそ、その少女は大男にとって、即獲物と判断されたのだ。
 大男は他の男たちの倍はあるのではないかと思う歩幅であっという間に少女に近づくと、その肩を掴んだ。あと少し強く力を入れれば肩をもぎ取ってしまえるのではないかと思うくらい、少女は大男と比べると小さかった。
「こんな夜中に街を出歩くとは良い度胸じゃねえか。それとも、箱入りのお嬢さんは夜の街の礼儀もしらねえのかい?」
「兄貴ー、そんな餓鬼になにするつもりなんです? 素人娼婦潰したみたいにすぐ壊れちゃいますぜ」
「馬鹿、それがいいんだよ。それにな……何事も、新鮮さってのは大事だ」
「そいつァはまったくもって真理ってやつっスね」
 ふたりは下品に笑った。夜の街に、それが染みいって消えていく。人通りのまったくない夜だった。誰にも邪魔されることはない。もっとも、貴族の娘が乱暴されるのを止めるような者が、この国に今もいるなんてことはないだろう。
 大男と眉無しが少女の腕を掴んで、強引に路地裏へと引きずり込む。それを見て困惑気味だった小柄な男は、仕方なしにふたりの後に付いていった。
 その間、少女はずっと無表情に男の下卑た表情を見つめていた。
 初めまして、こんばんは。
 知人にここという投稿サイトを紹介され、妄想が核融合した結果、気付けばつらつらとこんなものを書いていました。
 せっかく書いてしまったのだから、人目につかないHDDで眠らせるのは惜しい……との気の迷いでこちらに投稿させていただきました。不手際があったら申し訳ありません。
 まだまだ妄想力もこの界隈の礼儀も知らぬ若輩者ですが、どうかよろしくお願いします。

 その1はそのまま2へと続きます。

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