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スズと黒田(2)

 倒れている男がいる。
それを見下ろしている女がいる。
(あれは…俺?)
不思議な感覚だった。自分の精神だけが体から離れて上からみているような感じだ。
(あぁ…、夢か、見下ろしているのは、スズ…?)
後姿だけで顔はよく見えないが、キレイに染めた金髪に元気で明るそうな仕草と共に何かを喋る様子にたぶんスズだと思った。
(あいつ、夢のなかでも元気だな…)
フッと微笑む黒田、おそらく現実の寝顔でも唇の端をゆるめていることだろう。
何を言っているのか、よく聞こえないが、夢の中でスズに見下ろされている事に安心感を覚えている自分に少し驚いていた。
(まったく、俺って奴は)
軽い自嘲と共にスズの後姿に近づいていく。
だが、喋っている女の声が聞こえた瞬間、黒田の安心感は突如消え去った。
「あっれ〜、こんなものかな?ねっ黒田君?」
スズとはまるで違う、他人を嘲り倒すような口調と共に女はこちらをふりかえった。
(!!)
その瞬間、黒田の全身に寒気がはしり、一気に夢から覚めて起き上がった。
「はぁはぁはぁ…あれは帝都の頃のか…」
荒く息をはきながら、ドサリッと再び黒田はベッドに横になった。
 登校中、黒田は今朝の夢の事をボーっと考えていた。
「おっはよー、黒田」
後ろからスズが走りながら追い抜き、声をかけてきた。
今朝の夢の事もあって一瞬スズの後姿に返事を返していいのか迷ってしまう。
「?」
返事のない黒田にスズはジョギング態勢のまま足踏みしながら振り返ると
「ほら、遅刻しちゃうよ、ダッシュ!ダッシュ!!」
黒田の手を取ると、半ば強引に引きずるようにして2人は学校への道を急いで行った。
 「それにしても昨日の陽子先輩、かっこ良かったねー。」
学校に着き、少し余裕をとりもどしたスズは教室への廊下を歩きながらホェーっと昨日のお嬢様の活躍を思い出していた。
「俺に言わせれば、坂本って奴が弱いんだがな…」
冷めた調子でそう言う黒田。
「はっ何それ!?それじゃあたしの立場は?」
以前坂本に負けたスズはいらだち混じりに黒田の股間の袋を軽く叩く。
「くぅぅぅぅ!!!、ちょっ、おまえ…、それはつっこみにはキツイッて…」
「へへっー、うまいでしょ。昔はよくこれで近所の友達をいじめてたんだよねー。」
自慢げに言うスズを呆れた様子で見ながら
「そんな技術よりも、相手を逝かせるテクニックの方を向上させような。」
ぽんっぽんっとスズの頭を軽く叩きながら黒田は廊下を進んでいった。
 ざっざっざっざっざっざっざっざ!
廊下を進んでいると何やら行進の足音が聞こえてくる。
男女混合10人位のグループが1人の女子生徒を囲むようにしてこちらへ歩いてくる。
「あれは…」
とりあえず、黒田はぶつからないようにスズの肩に手を回して、一緒に廊下の端による。
前方を集団が通って行き、角をまがり見えなくなると、周りの生徒達は何事もなかったように、日常の一コマに戻った。
「この学園に来て何度か見るな。いつも中央にいる女子はまるで女王様だ。」
「まるでじゃなくて、まんま女王なのよ、あの女。マリア様ってあいつらは呼んでるし。」
スズがあまり関わり合いになりたくなさそうにつぶやく。
「あいつらは奴隷ってわけか…」
「そっ、男も女もね。奴隷の数だけならこの学園トップじゃないかなー」
やれやれと肩をすくませながら黒田は授業教室へと歩いていった。
 「あの者は確か…」
廊下を歩きながら何気なくつぶやく女王様、まるで自分の声は常に周りが聞いていて当然といった感じでつぶやく。
「はっ!、あの者は1月程前に帝都から来た黒田という1年生です。」
キビキビとした調子で答える長身の女は由梨。
「え〜っと、せせ、選抜にも選ばれて…だ、そうです。」
どこかオドオドとしながら喋るカナエ。
「声が裏返っていますわ、カナエさん。それではマリア様に失礼でしょう。」
冷静な声でたしなめるミコト、彼女達はマリアの数いる奴隷達の幹部だ。
「あはは〜、いいって!いいって!カナエはそれでいいって!」
ポニーテールの黒髪に長い脚、女子にしては長身で整った顔立ちをしている。
普段は冷たく振舞うが、こうして身内と喋っている時、彼女は驚くほど明るい表情をする。
「そしてアタシはあの転入生をほっとかないわ。彼をアタシの奴隷にするつもり。」
マリアは意思表示の言葉を口にするだけで、周りを動かすのは充分だった。
「はっ!任せてくださいマリア様!」
「これであの男を奴隷にできれば今年もマリア様は選抜に選ばれる事でしょう。」
「あの〜…、やっぱり、アタシは…」
一人ぐずぐずしているカナエを引っ張り、由梨とミコトは黒田を追っていった。
「あはは〜、本当にカナエは心配性なんだから。本当に…」
言葉尻だけは少しトーンを落とした様子でマリアは3人の後ろ姿を見送った。

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