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乳魔式ハッピーバースデイその1

「こんばんわ〜♪」

家のすぐ外の自販機でコーヒーを買ってきた貴方を迎えたのは美しいが何処となく間が抜けた
声だった。ほんの数分間しか離れていない上に、鍵もしっかりかけた筈の一人暮らしの部屋に
何故か見知らぬ女性が居る。警戒すべき状況だ。そう判断出来ていたのは頭の片隅だけで、
残りの部分は目から伝えられる情報に圧倒されていた。

その女性は貴方のパソコンのモニターから片足を引き抜いている所だった。本来なら
いくら驚いても足りない程物理的に不可能な光景の筈だが、貴方は気にしようとしても
出来なかった。彼女自身に目を奪われていたからだ。

ふわふわと波打ち艶々と光り輝く濃いピンクの髪の毛はまだいい。
どう見ても染めた様には見えないが、有り得ない事ではない。
眠そうな細いたれ目が目立つ顔も不自然ではない。
作り物の様に整っているのに温かみを訴えてくるのは驚異的だが。
薄いスカイブルーのネグリジェから覗く長い手足の染み一つ無い白い肌も現実的だ。
美肌の一言で済む。
寝巻きの上からでも分かる形の良い尻ときゅっと締まった腰も、
ここまで見事な物は見た事がないがまだ理解出来る。



だがあの胸はなんだ?ゆったりとしたネグリジェをこれでもかと持ち上げるあの胸はなんだ?



ただ単に大きいと言うだけではない。グラビア雑誌でも見た事がない程巨大で、
二つ合わせれば貴方の頭よりも大きそうだがそれだけではない。アンバランスな程に大きいのに
重力を無視して見事な形を伺わせるのも凄いが、尚もそれだけではない。表現する言葉が
みつからない何かがあの胸にはある。情欲なのか恐怖なのか期待なのか、
何なのか分からないざわめきで貴方の胸を埋め尽くす何かが。

「うふふ。気に入ってくれた?」

慌てて胸から目を離して見上げた彼女の笑顔は実に機嫌が良さそうだった。
今更ながら彼女がかなりの長身で貴方より二回り程大きい事に気付き、
形容できない胸の中のざわめきが更に強まる。そのせいか、
何か喋ろうと思って開いた口はぱくぱくと開閉するだけで何も音を出してくれなかった。

「私が誰か、聞きたいのね?ぼうや」

まるでこちらの心を読んだかの様な問いかけをされた貴方は頷いた。それが精一杯だった。



「私は乳魔よ。ぼうやがだ〜いすきな、おっぱいに特化した淫魔。ぼうやが昨夜…じゃないわね。
今日の朝早くにバースデイパイズリしてくれないかな〜ってネット掲示板に書き込んだ対象よ」



ニコニコしながらサラっと言われた台詞はとんでもない物だった。あまりにも信じ難い内容に
自然と瞬きを繰り返した貴方の顔がおかしかったのか、彼女はくすくすと短く笑った。

「そうよね、信じられないわよね。でも良かった。そういう反応をするって言う事は、
ぼうやは人間の女しか相手した事が無いのね。人間は初物が一番だから、嬉しいわ」

そのまま乳魔を名乗った彼女はおもむろに手をさっき出てきたばかりのモニターに当て、それを
何回か水面を通す様に出し入れをさせてみせた。何度繰り返してもモニターには傷一つつかない。

「ほら、これなら信じられるでしょう?タネも仕掛けもありません。
これは間違いなくぼうやのパソコンのモニターよ。
XXX社製の3年前の液晶モデルね。今だったら半額以下で新品が買えるわよねえ」

絶対に有り得ない筈の事をさも当然の様に行い、冗談を交えて説明するその様に貴方は
納得せざるを得なかった。彼女は嘘を言っていない。間違いなく人間ではない存在で、
恐らく彼女の言う通り乳魔なのだろう。

「インターネットって便利よねえ。人間の感情を電子信号で送って、
記録までしてくれるんだから。それを辿っていくだけで食べられたがっている人間を
見つけられるんだから、淫魔の必須アイテムだわ」

またくすくすと笑う彼女は巨体に似合わない程可愛らしく、状況のシュールさと
彼女の物言いのおかしさも手伝って貴方も貰い笑いをした。正確にはしようとした。
だが開いた口は笑いの形を作っても音は一切出さなかった。
怪訝に思った貴方の表情は相当読みやすかったのか、それとも本当に心を読んでいるのか、
彼女はすぐに疑問に答えてくれた。

「あ、声は出せないわよ?さっき胸を見た時暗示をかけておいたの。
こうしておかないといきなり叫んで大騒ぎにされたり、心にも無い言い訳を
ぼそぼそ言って無意味に粘られたりする事があるのよ。それに…」

言葉の自由を奪われた。その事の恐ろしさを感じる暇はなかった。

彼女がゆっくりとこちらに向かって歩きだしてきたからだ。

「私は喋れて、ぼうやは喋れない。ぼうやは何もかも私にされるがまま。
そう言うのが好きなんでしょう?私も好きよ」

優しい口調と優しい声が恐ろしい言葉を紡ぎ、慈愛のにじみ出る様な視線と手が
貴方の頭を撫でる。ぞくりと震えながら見上げた彼女はとても大きく見え、
なによりも美しすぎて。貴方はゆっくりと頷いていた。

「素直で良い子。今夜は目一杯可愛がってあげるわ。貴方の誕生日だものね」

ゆっくりと細長い腕が貴方の背中を撫で、震えが強くなる。ふと胸のざわめきの正体が
ようやく分かった気がした。きっと産まれたばかりの赤ん坊が初めて母親を見た時、
こういった言葉に出来ない気持ちを抱くのだろう。もしくはヘビに睨まれたカエルが
この自分の全てが氷漬けにされた様な錯覚を感じるのかも知れない。

「長く楽しませてあげるから、じっとしていてね。少しずつ少しずつ快感に慣れさせてあげる…」

あやす様な声をかけられたのと、ネグリジェ越しの乳房が目前に迫ってきたのはほぼ同時だった。



「聞こえる?大丈夫?眠っちゃだめよ?」



労わりに満ちた暖かい声が遠くから聞こえてくる。

上も下も無い暗く狭い幸せな世界。

体の下の方が心臓の鼓動に合わせて震えだす。

「そうそう。体から力を抜いて、代わりに意識を失わない様にするのよ。うん、上手上手」

大きくて滑々の手が頭と背中を撫でてくれ、この素晴らしい世界の更に奥に連れて行ってくれる。

あまりにも満ち足りた気分で逆に薄ぼんやりとした恐怖も感じ、それが安らぎをいや増す。

足の間に何かが溜まり、熱して膨らみ、何故か分からないまま僅かな焦りを感じてしまう。

「もうすぐよ。頑張って。そうよ、気持ち良いのに逆らわないで。良い子、良い子…」

背中がポンポンと軽く叩かれ、心底安心したため息が漏れる。

酷く落ち着いているのに体の震えが止まらなくなり、手足が勝手に彼女にしがみついた。

そして股間が心地よく弾け、精液が数回に分けて噴き上がり、反射的に目が開く。

胸の谷間の中から見上げる貴方を見下ろす彼女の目はぞっとする程優しかった。



「深呼吸した方が良いわよ。ほら、息を吸って〜。吐いて〜。吸って〜。吐いて〜」

射精した為か、貴方は僅かに理性を取り戻していた。考える前に深呼吸を始めていた事に気付き、
それに愕然としても深呼吸を繰り返さずには居られない程度の理性だったが。

「どうだった?これが乳魔のおっぱいよ。気持ち良いでしょう」

貴方は返事をしようとして口を開き、喋れなくなっていた事を思い出して口を閉じた。
もっとも喋れていたとしても、一体どうやって表現すれば良いのかは分からない。
柔らかい。暖かい。滑々。張りがある。良い匂い。夢見心地の世界で感じた快楽は
言葉で表せばそういった物になるのだろうが、どれも不十分で表面的な形容詞に思えてしまう。

気がついたら貴方は無言で彼女を見詰めていた。あの夢の様な抱擁で感じさせられた
感謝、恋慕、畏怖などの諸々の感情をせめて視線で伝えたかったのだ。
それを見た彼女は実に嬉しそうに微笑んだ。やはり何か感情を読み取る力があるのだろうか?

「そんなに可愛い顔をしてくれるのならぱふぱふした甲斐があるわね。
もうしばらくこうしていて、慣れるまでじっとしていましょうか」

彼女がまた頭を撫でてくると瞼が魔法の様に閉じそうになり、慌てて目を開く。
それをまた愛撫で瞼を重くされ、必死に瞬きをする。その繰り返しがたまらなく幸せだった。
狭まる視界の端に映る光景で何時の間にかベッドに腰掛ける彼女の膝の上に
座っている事が分かったが、どうでもよかった。

「大分慣れてきたみたいね。じゃあ今度は直にぱふぱふしてみようか」

どの位経ったのか、ぼんやりとしていた所に囁かれた提案にどきんと胸が跳ね上がる。
直にぱふぱふ。服の上からでもこれほどまでに気持ち良いのに、直にぱふぱふ。

「とーっても気持ち良いから、どきどきしすぎない様気をつけるのよ。ほうら…」

小さくない恐怖と、巨大な期待と、隠し様の無い欲望に囚われ目を見開いた貴方を
くすくすと見下ろしながら彼女は貴方の顔を胸元から離し、片手で背中を支えながら
もう一方の手でゆっくりと撫でる様に自分のネグリジェをはだけさせた。

首筋と鎖骨が露になった所で一旦手を止め、固唾を飲んで見続ける貴方の額に
軽く口付けた彼女は間髪入れずにあっけない程すっと手を下げてまた手を止めた。
それで露出したのは谷間とそれを形作る両乳房の内側だけだったが、それで十分だった。

想像していたものより遥かに大きい乳房が描く谷間は何もかも吸い込まれそうな程深く見え、
また何回目を上下させても永遠に続いているのではないかと錯覚する程長かった。
見れば見る程大きくなっていく様に思えてきて、恐怖と欲情の板ばさみで逆に自分が
縮んでいっているのではないかとすら思えてしまう。
そしてその心境を望ましく感じるのが新たな感情の渦を生む。

「まあっ。ぼうやは私が思っていた以上におっぱいが大好きなのね。谷間を見ただけで
こんなにどきどきしていていたら、おっぱいを全部見たらとんでもない事になっちゃうわよ」

実に楽しそうに更なる衝撃を約束する彼女の声で貴方はようやく上を向く事が出来た。
そんな貴方が可愛らしくて堪らないとばかりに彼女は目尻を下げて笑い続ける。

「きっとトラウマになっちゃうわね。瞼におっぱいのイメージが焼き付いて、目を閉じさせられても
ぼうやの脳が勝手にイメージを繰り返して頭の中が全部おっぱいだけになっちゃうの。
目を開けて別の物を見てもおっぱいの幻覚から逃げられなくなっちゃう、言わばおっぱい牢獄ね」

彼女が語る未来はとてつもなく恐ろしかったが、彼女の目と声が優しすぎる為に
とてつもなく魅力的だった。語られるだけで射精していないのが不思議に思える位に。
何故こんなにも怖いのにこんなにも落ち着いているのだろう?どうせ逃げられないからだろうか?

いや、違う。

「でもその前にもう一回出しておきましょうね。さ、良い子はぱふぱふよ」

彼女の胸だからだ。他に理由なんかない。

谷間と乳肉が視界を埋めると自然にそう思えた。

やはり言葉では言い表せそうにない感触と共にあの理想郷に捕え戻され、無意識にため息が漏れる。
匂い、温もり、柔らかさ、滑らかさ、張りの良さ。服越しに感じていた快楽の全てが
はっきりと分かる程増している。
幸せ、恐れ、安堵、情欲などの感情の渦も比べ物にならない程大きくなっており、
また意識が浚われそうになってしまう。

「ダメよ、力を入れたら返っておねんねしやすくなっちゃうのよ。
ぼうっとしながら起きていればいいの。おちんちんが気持ちよくなるのを受け入れて。
私を信じて、私に任せて。ね?ぼうや」

じんわりと痺れた頭に彼女の声がそっと響いてくる。その言葉に考えずに従う。
かろうじて残っていた思考力は逆らいたいと言う気持ちが何処にも無い事を認識しただけだった。

「ぷくーっておちんちんが精液で膨れるのを感じて。それを満足するまで楽しんだら、
ぷしゃーって出しちゃいなさい」

彼女に言われるままに絶頂に導かれるのか、絶頂が近づくのを彼女に言われるままに
感じているのか?どちらなのかは分からない。
ただただ顔と心は胸に包まれて幸せに満ち、壊れ物を扱うかの様に大事に大事に
撫でてくる手が全身を震わせ、触れられてもいない股間が嬉し涙を吐き出した。

「うんうん。そうよ、ちゃんとおねんねせずに射精出来ているわね。偉い偉い」

今の貴方には絶頂の瞬間もその後の余韻も時を忘れてしまいそうな程長く感じられる。
きっと彼女が実際には短い時間を長く感じさせてくれているのだろう。相変わらず
僅かな恐怖が大いなる安らぎを引き立て、それを思慕として発散させる為にほお擦りをする。
そんな貴方を彼女は抱き続けてくれた。これ以上の幸せは考えられなかった。
某所で頂いた「誕生日を乳魔に祝ってもらう」と言うアイディアをSS化した物です。
続きます。

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