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ヤマベの最終問題【if】

※この内容を読む前にヤマベの最終問題【前】を読むことをお勧めします。
※もし誘惑に負けてしまったら……








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 おっぱいを揉むことの心地よさも、乳首を抓りながらも口に咥えるのを我慢しているもどかしさも、他の事も全部ひっくるめて、そのにちゃにちゃとした音に吸い寄せられるように向かっていく。

 それは。

「ね、伸也君……ふふ……」
「ぁ、ぅ――」

 蓮さんは何も言わずに、ただその視線だけで僕に話しかけた。熱い。見つめられてるだけで瞼の奥が蕩けそうだ。
 嬌声にかき消されてというわけではないけれど、僕には彼女が言外に何を言いたいのかが、それだけでよく分かってしまった。

 いや、気のせいかもしれない。
 そんなわけがあるか。

 僕は目の前で寝転がっている蓮さんの、腹の部分から首筋まで豊かな稜線を描くその頂点に両手をあてると、強く揉みしだいた。
 蓮さんの微笑が嬌声に掻き消えて、同時にまた僕のおちんちんがぬるぬると擦りあげられる。今度は少し角度が緩い。
 快感でとうとう足が脱力したのだろうか。
 いや、そんなはずはない。蓮さんがやったのだ。

「こんなにもう、がちがちに堅くして……伸也君の、凄いわ……ぁ、ん、擦れて濡れちゃう……ふふ」
「ぁぁあ……」

 思えば蓮さんとはそういう事をしたことがなかった。他の人とは何度かしたけれど、彼女には他の場所でされただけだ。その事実が今になって、頭の中を占めていく。だから何だというのか。
 下半身が今度はちろちろと啄ばむように舐められて、僕は思わず声を漏らした。足を器用に動かしながら、亀頭付近を嬲っているのが分かる。その淫らな肉のすだれ。
 さらにその中身の、僕の指が二本がかりで確かめたびっしりと蠢く襞、ひだ、ヒダ。
「ふふふ……さぁ、どうするの……? おっぱいをまだもみもみしていたい? それとも……」
 もし僕が仮にここでそういう風に腰を引くようにしたとしたら、蓮さんはあっさりと絡みついた両脚を力を緩めてくれるだろう。
 蓮さんは微笑を浮かべながら、僕と相対した時にそうしたように、ちろりと唇を舌で舐めた。くすくすというその声が、脳味噌を直接くすぐるかのようだった。

「……っ」

 僕はぼんやりとした頭の中で、尤も大切なイメージを思い浮かべようとした。

 けれど、瞳を閉じてみても闇の中に浮かんでくるのはひくひくと待ち侘びるようにして震える、淫らな肉壷のことばかりだ。
 くすぐるような彼女の声が、頭の中で反響して思考を極端に阻害して、いや、制限してくる。女性が放つような甘い匂いと、生々しい粘液の独特の匂いが混ざったものが鼻腔に入り込んできて頭の奥が痛いくらいに痺れていた。
 あらかじめたっぷりと手で我慢汁が塗りつけられた僕のものに執拗に肉襞が擦りつけられて、その中身をどうしても想像してしまう。
 蓮さんのたっぷりと肉がついたお尻を掴んで、その中に、僕のものを……。

 立っていた時からその細い手で扱きあげられ、おっぱいの中に誘われて、そして今ぬるぬるとしたそのナカに惹かれている。
 立ち昇る香りと、いやらしい混ざり合った蜜の匂いと、耳を閉じていても聞こえてくるかのような濃密な音と、声と。蓮さんの度重なる誘惑に、僕はもうすっかり参ってしまっていたのだった。

「ぁ、う、ぁああ……っ」

 我慢できない。
 挿れたい。
 そんな欲求が嗅覚や聴覚から感じられる色めいた何かに乗じて頭を占めていて、僕はそれしか考えられない!
 
 震える足でどうにか支えながら腰を引くと、待ち構えていたかのように蓮さんの脚が離れて、陰の入口が僕の正面に向く。
 ほとんど何の躊躇もなく、準備もなく、身体が自然と引き寄せられるようにして、僕は腰を押し進める――

「ぁ、あふ……あああ……っ、あああああっ!」

 ――その瞬間に、頭の前の方にある何かがどろりとまとめて溶け出したような錯覚をおぼえた。
 僕は耐えられず叫びだすようにして喘ぎ声を漏らしてしまう。耳の奥から響き渡ってくるその絶叫は、自分の声なのにどこか他人事のようにすら思える。

「んぁ、んっ……あらあら……挿れちゃったのね?」
「ぁひっ……う、あぁあ……っ!」

 挿入した僕のものがある程度奥に潜り込んだ途端に、じゅっぷりと粘液で濡れそぼった蓮さんの膣壁が殺到してきたのだ。
 まるでそれは、獲物が自ら取り込まれるのを大顎を開けて待っていたかのようだった。
 その膣内は激しく締め付けるようなものではないけれど、四方八方から張り付くように密着してくる細かいひだと柔らかな温かさは抗いがたくて、射精の予感を感じさせる。
 まるで彼女の鼓動と同期するように、一定の間隔でやわやわと僕のものを揉みほぐすように蠢いて、股の下の感覚が精液と一緒に溶け出してしまいそうだ。

「せっかく挿れないであげていたのに、自分から挿れちゃうんだから……ふふ、涎がこぼれてるよ?」
「あぁ、だめ、こんな、こんなのっ……!」
「ほらぁ……腰を動かさなくていいのかしら? じっとしてるとおちんちん、どろどろに溶けちゃうわよ?」

 僕の下で、両腕を横たえたままぴくりとも動かずに微笑する蓮さんの表情が目に映る。
 そんなこと言われても、とても腰を動かせる気がしない。進む事も退く事も、何も出来そうにない。
 だからこそだろう。彼女が悪戯っぽく囁きかけてくるのは。悔しいと思うような余裕すらなかった。
 下に組み敷かれた状態のまま、ほんの少しも動かない彼女の膣にあっという間に高められて、僕はこみ上げてくる熱を止める術もなく吐き出した。

「ぁ、ぁあ、ぁあああああ……っ!」

 射精る――そう思った時には、もう僕の下半身はびくんびくんと脈動を始めていて、気持ちよさで頭がふやけてしまいそうだった。
 意識が真っ白になって流れ落ちていく。
 気がつくと身体が柔らかな心地良さに包まれていて、目の前に微かな甘い匂いのする稜線が見えた。脱力した僕が蓮さんの上で抱き締められるような形になっているのだと気付いた時には、連続してこみ上げる射精衝動に堪えられなくなっていた。

「ん……っ、は、ぁ……どくどく出して……ん、心地良いわ……」
「ひぅ、あっ、やめ、ぁあっ……!」
「もっと、出してね」

 もう何が何だかわからない。
 蓮さんの匂いと感触に包まれたまま射精の最中に絡みつかれた脚で押し込まれて、無理に腰を押し付けられる。
 挿入が深くなったところで蓮さんはゆっくりと攪拌するように腰を使ってきて、蠢きだした膣内にさんざんにいたぶられる。
 ただ何もしないだけでも射精させられちゃったっていうのに、それ以上の刺激で責め立てられて、思考の最奥部が削りたてられていく。
 こんなの、耐えられない……っ!

「あっ、ぁっ、うぁあああ……」
「ふふ、気が狂っちゃいそうな顔してるね。頭の奥が痺れて、もうこんなの絶対に忘れられないよ……」

 脚と腕を回されて、ほとんど完全に磔にされた状態で押し寄せる快楽に、僕は本当に、何もかもを吐き出していた。
 僕の中身が空っぽになっていき、代わりに詰まっていく射精の快感と心地良さ。
 射精にたびに身体が無意識に震えて、そのたびに意識の中の大切な何かが溶かされ、作り変えられていくかのようだった。
 
「ん、んっ……そろそろ、止まったかな……抜いてあげるね」

 不意に腰が柔らかく温かい肉襞の中から引き抜かれると、僕の身体はあっさりと横に転がされていた。背中にさっきまでとは違う柔らかい感触が張り付いて、ぼんやりとした視界に薄暗い天井が目に入る。
 反応することはできなかった。
 もし反応することができたとしたら、引き抜く時の感触でまた悶えていたかもしれないけれど……。

「ぁ、ぅ……」

 駄目だ。
 指一本動かせない。
 喉が微かに動いて声を発することが出来るのが、信じられないくらいだった。
 瞳の中から入ってくる情報は、まるで夢を見ているかのように判然としなくて、情報はあるのに頭の中で上手く識別できなかった。
 その夢の中に、蓮さんの表情が映りこむ。彼女の表情がどんなものかよくわからなかったけれど、多分唇の端が上がっているのだから笑ってくれているんだろう。多分。

 その唇が、ゆっくりと、何かを呟いた。

 なに……?

「……負けちゃったね、伸也君」
「ぁ……」

 目が覚めるような思いだった。
 そうだった。これはあくまで試練だったのだ。いや、そんな事は今の今までだってずっと分かっていたのだけれど、一体いつからなのか頭の中からすっかり抜け落ちてしまっていた。

「そんな……」
「まぁまぁ、仕方ないわ……だって、気持ちよかったんだもの。ね?」

 射精の余韻がじんわりと体中に広がり、快感で塗り潰された部分にすり替わるようにして、後悔が染み渡ってくる。
 どうしてあんな事しちゃったんだろう。負けられなかったのに、絶対に負けられなかったはずなのに――
 そんな事今更思ってもどうしようもないのだけれど、僕の中ではそんな言葉がぐるぐると回り続けていた。射精の記憶を噛み締めると、僕のものが震えるような甘美な味と一緒に、喉の奥から遡る様な、鼻に詰まるような苦味が広がった。
 そんな。これで本当に終わりなの?

「だから、次は頑張ってね?」
「……え?」

 僕は思わず、空気をまるごとそのまま吐き出しただけのような、間抜けな声を出していた。快感に潰れかけていた喉から予想外にはっきりとした声が出た事にも驚いたけど、蓮さんの言葉にはもっと驚いた。

 次?
 それって――?

 表情に出ていたのだろうか。僕が心の中で問い掛けた疑問に応えるようにして、彼女が白い歯を見せる。

「ふふ。言われてなかったかな? 山辺の試練はね、一度限りじゃないのよ」
「そ、そんな事……聞いてなかったです……」
「こんな試練が一度きりじゃあ、とっくに家が滅びてるか、試練自体がなくなってるわ。そうでしょう?」

 よく考えてみればその通りな気もするのだけど、本当に僕は聞いていなかった。まったくの初耳だ。
 緊張感をもって一回目の試練を行うためなのだろうか。

「それじゃあ……」
「ふふ、その通り。また満月の日がくれば、資格あるものは何度でも試練を受けることができるの。安心した?」
「そ、そうだったんだ……はぁ……」

 大きく安堵の溜息をつくと、蓮さんはそんな僕の様子が可笑しいのか手をあてて笑っているようだった。
 心の中に染み渡っていた後悔と緊張とが少しずつ解けて、ほっとしたような安堵が押し寄せてくる。
 だから。

「そうなのよ。だから、またおいで。ね?」

 そう言って微笑する蓮さんの、淫蕩で妖しげな光を放つ瞳に気付くことができなかった。













 確かな隙を狙って、僕の身体が足元の柔らかい感触を蹴って突進する。
 しかし彼女は慌てず騒がず受け流すと、むしろ懐に飛び込むのを容認するように両腕を広げて迫ってきていた。

「う、ぁ……ふぁあああ……っ」
「ふふ、どうしたのかなぁ……伸也君?」

 その大質量が近付いてくるのを目のあたりにすると僕の思考は一瞬濁ってしまって、易々と蓮さんの腕の中に収まってしまう。
 そのまま抱きすくめられ、後頭部から手のひらで後押しするように優しく押し付けられ、まるで自ら飛び込むようにして僕の頭は彼女の谷間の中へと着乳させられた。

「ん、んむっ……んんんっ!」
「ぎゅってされただけで、こんなにふにゃふにゃになっちゃって……」

 しっとりと汗が溜まった恍惚とする匂いがするその空間に押し込まれ、溺死させるかのように彼女は僕の頭をぐりぐりと強く押し付ける。
 呼吸が止められる。
 酸素の供給が止まり、心臓の鼓動がどろどろと弱く、淀んだものになっていく気にさせられる。
 苦しい、そう思うか思わないかのところで彼女は圧迫を緩めて、しかし拘束は緩めず、酸欠寸前の身体でおっぱいの匂いが染み付いた空気を吸うことを強要される。
 窒息と甘い空間による天国を行き来させられて、まともに頭が考えられなくなったところで、僕自身に触れるものがあった。

「あら。もう、にゅるんって滑るわ……こんなに扱きやすくさせてくれて、気持ちいいの?」
「んっ、ん、んーーっ……!」

 吸い付いてくるような感触は、蓮さんの肉つきがいいふともものそれだった。
 僕の股の間に割り込むような体勢になり、その柔らかい肉で両側から挟まれ、擦られ、おもうさま弄ばれている。

「私に抱き締められて、顔をおっぱいに埋めて、太腿で挟まれてきゅってされるだけで出しちゃいそうなの?」
「ん、ぁ、あぁあ……ひ、う……っ!」

 なんとか脱出しようとしても、抱き締める蓮さんの力が思ったよりずっと強いのか、それとも酸欠になっている僕の力がよっぽど弱いのか、密着した彼女を振り払うことなんてとても出来なかった。
 何度も呼吸を塞がれては解放され、塞がれては解放されることを執拗に繰り返されて頭の中までおっぱいの感触で埋め立てられていく。息を吸うために懸命に呑み込まなければならない彼女の空気はあまりにも淫蕩で、窒息の感覚でさえ恍惚とするようだった。
 呼吸を完全に支配されて、敏感になった全身に肌を擦りつけられ、ふとももで特に敏感な部分をしゃぶられる。
 粘液質の音が激しくなってくるのが聞こえてくると、射精間がこみ上げるまではあっという間だった。

 彼女がゆっくりと拘束を解き、身を離す。
 その全体的に緩慢な動作は、まるで僕に対してわざわざ隙を与えて、試しているかのようだった。
 そして僕は、彼女の期待に応えた。

「ふふ……もう抵抗しないんだ。気持ちよくなりたいんだね。弱いよ、伸也君……可愛いよ、伸也君……」

 揶揄するような蓮さんの言葉も、今の僕には少しも屈辱に感じられなかった。おっぱいの中でうずもれて、可愛がられている僕に何か反論が出来たのだろうか。
 ほんの少し触れるようにして指先が僕の胸元を掠めると、身体が操られたように一瞬自重を失って天井が遠のいていく。
 柔らかい布団に背中から埋まると、彼女が微笑みながら目の前で膝をついた。いつぞやのように濡れた赤い舌が唇をなめていて、僕はまた一層、気分が昂ぶるのを感じた。


 最初に蓮さんに負けたあと、僕は幾度となく試練に挑んだけれど、一度も彼女に勝つことができずにいた。
 一度膣内を味わってしまうと、あの快感が強烈に焼きついてしまって、他への抵抗が完全に疎かになっている。分かっていても、どうしようもない。たちまちその優美で妖艶な技に昂ぶらされて、どうしようもなくなる。
 僕が射精間近になると、決まって彼女はいつもまるで匂い付けをするように身体を執拗に擦り付けて、射精を誘ってくる。脚を、腰を、胸を、腕を、そして唇を。
 おっぱいに顔を埋めさせられながら、咥内にとろとろと唾液を流し込まれながら、じっくりと吐精させられて、途方もない気持ちよさと、皮一枚まで近付いた彼女の心と身体の温かさ、心地良さを味合わされる。
 そのたびに彼女と戦うための心の抵抗がどろどろに溶かされていく。近頃は相対するだけで、びりびりと甘い痺れを伴う電流が流れ出す。
 全く勝てるイメージが沸いてこない。
 触れられ、腕の中に抱かれて、おっぱいの中に閉じ込められたり、ちゅうちゅうと唇を吸われると、何も考えられなくなる。
 もうすっかり快感が僕の身体に染み付いてしまったようだった。
 少なくとも窒息寸前で遠のく意識に、恍惚とした感情をおぼえる程度には。


「さて、それじゃあ無抵抗な伸也君を可愛がってあげるね……」

 ぼうっとしていた意識が、元の世界に引き戻される。
 倒れこんだ僕の両脚の間に割り込むようにして蓮さんは膝を入れると、ゆっくりと上半身を傾むけてくる。
 身体に添えられた両手で、重量感のある膨らみを持ち上げながら。

「あ、ぅあ、あぁあ……っ」
「ん、ふ……私のおっぱいの重みを、いっぱい感じてね?」

 ずぬぬぬ……と、彼女のそのみっちりとした肉の牢獄の中へ閉じ込められてしまう。
 波打つように寄せてくる快感と、形容することが難しい幸福感がそこにある。
 たっぷりとした重量感の中に閉じ込められ、揺らされると、僕自身が波に揉まれ翻弄されて、限界に刻々と近付いていく。

「あらあら、もうぐちゅぐちゅに濡れて……震えているけれど。出ちゃいそうなの?」

 若干痛みが伴うような摩擦は、意識を翻弄されている間に僕自身の零れ落ちた粘膜によって激減していた。
 滑りが良くなったその魅惑的な脂肪の中を僕のものが押し付けられ、滑らされ、暴れさせられ、しかし蓮さんによって決して逃がされることはない。
 ふともものむにむにとした感触とは違う、そのどこまでも埋められる、埋められてしまいそうな柔らかさに今にも放ってしまいそうだった。

 我慢できない。
 そう察してしまった僕の喉が、いつも通り懇願のような合図を口にしてしまう。

「ぁ、はぁああっ……蓮さん、蓮さん……っ」
「そうそう、私の名前を一生懸命呼んでね……それじゃ、ぎゅってしてあげるからね……」

 そう呟く蓮さんはどこか遠くに感じられる。その声色の切実さに胸の中をきゅんと締め付けられるようで、僕は彼女の名前を何度も呼んでしまう。
 そんな僕に満足したのか、彼女は声を弾ませていた。

「ぎゅうううっ……」

 そして限界寸前の僕にとどめをさすようにして、彼女の大きなおっぱいが両側から強く押し付けられ、圧迫される……!
 その柔乳の中に飲み込まれてしまっている僕のものは押し寄せる弾力を受け流すこともできず、直接その圧力が快感に変わって頭の中に叩き込まれてくる。
 もう耐えることなんて不可能だった。

「あ、ぁあああ、蓮さぁあああっ……!」
「ぁふっ……」

 あっさりと箍が弾けとんで、真っ白な欲望の塊が溜りから噴き上げていく。
 もっとも快感で背中を反らせる僕には、その様子をちらりとも視認することはできなかったけれど。

「ふふ……今日もたくさん出すんだから。私のおっぱい、汚れちゃったじゃないの……」

 射精の感覚がゆっくりと途切れて地面にへたっていると、そんな僕に見せ付けるように、彼女はその重ね合わせたおっぱいをゆっくりと開いていく。
 開かれたようとした瞬間に訪れた圧迫からの開放感でまた小さく噴き上げてしまって、まだ残っていた精液が彼女の開かれた肉蓋に張り付く。何も聞こえるはずがないのに、確かにその時、僕はべちゃりという音が鳴った気がした。
 淫蕩に笑う彼女のおっぱいは、射精の瞬間まで閉じていたせいか、べっとりと側面から下側までに僕の精液が張り付いていて……。それがどろどろと、下に向かって落ちていく。
 その様子はたまらなくえっちで、自分の欲望が彼女を汚しつくしたという事実はあまりにも強烈で、僕はそれに酔ってしまっていた。
 そう、それはあまりにも強烈な印象だった。

「君の負けだよ、伸也君。……気持ちよかったかな?」
「は、はぃ……」

 またも負けてしまったという事実を、和らげ、忘れさせてしまうほどに。

「もぉ、大丈夫? 私はいくらでも付き合ってあげるけど。そんな簡単に気持ちよくなってちゃいけないのよ?」
「ごめんなさい……」

 そう口にしてみてはいるけれど……という複雑な気持ちが僕の中にあった。
 そう言ってくれるなら、蓮さんが負けてくれればいいのに。

「ぁ……」
「何?」
「う、ううん。何でもないんだ」

 一瞬頭を掠めた身勝手な考えを、僕は頭を振って追い出した。そんなことを考えるなんて失礼だ。第一、これは試練なんだからそんなこと出来るわけがない。
 何でもない、と誤魔化した僕にそれ以上追求せず、蓮さんは張り付いた精液を指で軽く掬い取ると、僕の前でちゅぱちゅぱと舐めしゃぶる。

「そう。ん、ちゅ……ん、苦ぁい……」

 身勝手な考えとかそれ以前に何か大切なことを見落としているような気がしたけれど、精液に塗れたおっぱいをこちらに向けながらころころと笑う彼女の姿を見ると、霧のようにぼけて見失ってしまう。
 その代わりに、首をもたげてくる感情があった。
 今日は、してくれないんだろうか。

「ふふ、どろどろで……こんなに汚れちゃって、落とすのが大変そうね」

 やがて彼女の上半身が起き上がり、それに付随して精液に塗れたおっぱいが僕の身体から離れてゆく。
 何かの焦燥感のようなものに駆られて、僕はそれを追うように射精直後の気だるい気色に鞭をいれて慌てて身を起こしていた。

「どうしたの?」
「え、と……」

 小首を傾げながら疑問を呈してくる蓮さんに、僕は答えに窮していた。
 自分から正直に話すのはあまりにも恥ずかしい。けれど、そんなことに僕が悩んでいる間にも、僕の内側からむくむくと膨れ上がってくる何かに身体が張り裂けそうだった。けれど……。
 そんな風にして暫くおどおどしながら何も口にできずにいると、目の前で僕の様子を見ていた彼女がくすくすと笑い声を漏らす。その表情が、時折僕をからかうようなそれに変化していた。

「冗談よ、伸也君……」

 僕の方を見つめながらゆっくりと彼女の右足が持ち上げられて、濡れそぼった秘裂が露になる。
 脚を開かれたことで唇を開いた彼女のそこは、何かを待ち望むように蜜をとろりと溢していて……。
 その入口がひくひくと震える様子に挿入した時の感触を喚起させられてしまう。

「そんなにじっくり見つめちゃって……恥ずかしくなっちゃいそう。でも、お互い様かな。伸也君の、出したばっかりなのにもう……ふふ」
「れ、蓮さん……」
「物足りないのよね……? ふふ、またしたいのよね」

 ここしばらくは試練が終わっても、蓮さんに付き合ってもらうことが殆ど毎回のようになってしまっていた。
 薄闇の中で妖艶な肉体を弾ませる彼女を見ていると、興奮が抑えきれなくなってしまう。二度三度と咥内で、胸で膣で吐き出してしまう。
 はじめは興奮が収まらないことを悟られて、彼女に優しく誘われていたけれど、今では僕の方からお願いしてしまう事もあるくらいだった。
 行為が終わった後はあまりそんな事をしてはいけないと思うのだけど、試練の時の彼女の白い裸身を目にするだけで、そんな気持ちはどこかにいってしまう。
 ああ、蓮さん……。
 妖しく笑う彼女に向かって、手をつき、膝をつきながら、ゆっくりと身体が近付く。身体が蹉跌になって、引き寄せていくかのようだった。

「いいよ。来て……溜まったもの、私の中で吐き出していいのよ? 君がすっきりするまで、ね……は、ぁあんっ」

 その言葉にとうとう我慢できなくなってしまって、我慢する必要がなくなって、僕は彼女が言い終わらないうちにその開いた股の間に腰を進める。
 喉の奥から抜けるような声が目の前で漂う。
 吸い付くような入口に押し付けていくと一瞬柔らかい抵抗があったけれど、次の瞬間にはあっさりと抵抗は失われる。

「ぁ、ふぁ、ああっ……気持ちいい……」
「ふふ、ありがとう。ナカでたっぷり可愛がってあげるからね……じっくり追い詰めて、沢山ださせてあげる……」

 僕のものがにゅるんと吸い込まれるようにして、あっという間に中ほどまでがつぶつぶとした無数の襞に覆われる。
 濡れそぼったその突起に包囲され、八方から軽い味見のように触れられ撫でられるだけで、もう僕のものは張り詰めそうなぐらいに堅くなってしまっていた。
 もう既に出したばっかりだっていうのに。

「中でどんどん膨らんできて、先っぽから漏れ出してきてるのが分かるよ。ほら、にちゅにちゅいってる」

 そんな事を言われると余計にそれに意識を回してしまう。
 蓮さんが軽く揺らすように腰を使うと、膣の形がむにむにと変わって、その拍子に襞にじりじりと刺激されていく。
 僕は彼女に抱きつくように腕を回しながら、その緩やかに押し寄せてくる快感を噛み締めていた。

「は、ぁあああ……! 中で、蠢いて、あ、うぅ……」
「んふ。でも、よく我慢できるようになってるね。私も少し、気持ちいいよ……」

 もう何度も彼女の膣内を味わったせいか、一番最初に彼女に挿入した時と違って、ある程度は耐えられるくらい我慢できるようになっていた。
 けれども僕は、その耐久力を勝つ為に使うことはできていなかった。
 ただ快感を長く感じるためだけに使うことしか。

「あ、あぁ、そこ擦っちゃ、ぁあ……」
「もう伸也君のおちんちん、丸裸だね……大丈夫、もっと気持ちよくしてあげる」

 それを蓮さんも分かっているのか、彼女は時々腰を軽く動かしたり、膣内を緩く締め付けてくるようなことぐらいしかしてこない。
 思考を奪い反撃を封じるような激しい快感の奔流ではなく、大きな快感でありながらも、包み込み、あくまでもじっくりと昂ぶらせるような優しい刺激。
 ふと、蓮さんの瞳が目に入った。水滴を垂らしたようにほんの少し濡れたその優しげな黒い瞳は、何か僕だけでなく、遠くを見ているようにも感じられる。
 その遠くを見るような視線に、僕はきっと崩れているだろう表情だけでなく、本当に中身まで見透かされているのかもしれないと思った。
 不気味だとは思わなかった。見透かされているのかもしれない思考まで、全部預けてみても構わなかった。

「いいよ……気持ち良さそうな顔、もっと見せてね。素直に受け取っていいんだから……」

 蓮さんは優しい刺激を加えながら、あやすようにして無抵抗を促してくる。
 その言葉がまた、えもいわれず気持ちよかった。
 気持ちいい。
 苦痛もなく、責任もなく、何かに追われるようにでもなく、ただ繋がりたいがために我慢をする事ができるのは天国かと思うくらい心地が良かった。

「伸也君。気持ちいい?」
「うん……」

 揺り籠のように、しかし淫猥な音をたてながら揺れる接合部を感じ取りながら、僕は自然とそう応えていた。

「私のこと、好き?」
「ん……」

 嫌いになれるわけがなかった。
 試練に入る前だって凄くどきどきしていたのに、こんな事をされてしまっていたら、僕はもうそう応えるしかなかった。

「ずっとこうしていたい?」
「……、うん……」

 してくれるのだろうか。
 そんなわけがないと思いながらも、快楽で溶けたようになっている心の奥底から一房の期待が芽生えてきて、言葉に詰まりながらも僕はそう応えてしまっていた。
 声自体は掠れながらも判断がはっきりとした僕の返事を聞き取ると、蓮さんはずっと僕より小さな子を見つめるように、また悪戯した男の子に苦笑するように微笑していた。

「ふふ、目の真ん中を震わせちゃって……本当に凄く気持ちが良さそうです――」

 蓮さんはその微笑を浮かべたまま、ゆっくりと顎を持ち上げていく。
 誘うような視線が僕の瞳から頭頂部を越えて、そんなところに何があるんだろうと思えるくらいの中空まで上昇して、止まった。

「――そう思われませんか?」
「ええ、そうですね。本当に、気持ち良さそうな声――」

 その瞬間、全身が引き攣ったように硬直するのがはっきりと分かった。
 この場にはあるはずがない声。
 けれども、何度も聞いたことがある声。
 味わっていた快感も心地良さも何もかも忘れて首を捻ると、何もないはずのそこには、薄闇の中でえんじ色をまとった彼女の姿があった。

「ぁ……あ、あ……っ!」
「あら。どうしたのですか? そんなに口をぱくぱくさせて」

 いつもの鈴の鳴るような可愛らしい声で、麻紀ちゃんは茫然とするしかない僕を見つめながら話かけてきていた。
 その調子があまりにも普段の彼女と変わらなくて、だけどこの場にはそぐわないもので、おかしいのは僕の方なのかと思ってしまう。
 そ、そうだ。
 僕は混乱した頭でとにかく『おかしい』原因を引き抜こうして無意識に腰を引き――

「ぁん、もう……どこへいくの?」
「あ、ぁぁああっ……!」

 ――何かの感触に、腰の後ろ側から強く押し留められた。
 気がつけば蓮さんの両脚にがっちりと抱えられて、逃げられなくなってしまっている……!

「は、離して、離してぇ、蓮さん……っ!」
「ふふ……だめ。離してあげないわ……」

 思わず視線を戻して前を向くと、今まで寝そべっていた蓮さんがいつの間にか僕の目の前に起き上がってきていた。
 僕の目に映るその瞳はさっきと同じくらい優しそうなものだったけれど、その中にどこか意地の悪いものが混じっていることに気がついた。
 唖然とする僕の脇の下に腕を差し入れられ、悠々と僕の背後で回した両手が繋がれる。完全に腕と脚とで組み付かれてしまっていた。
 僕は何とか逃げ出そうと身を捩るけれど、到底抜けられるものではなかった。

「こんな、こんなの駄目だ、離してぇ……っ!」
「そんなに抵抗しないで。麻紀様の前でいつもみたいに感じて喘いでみせて。ね?」
「あ、ぅあああっ……!」

 蓮さんがそう囁きながら、腰の動きを緩やかに再開する。
 向かい合うような体勢になったことで挿入角度が変わり、熱く蕩ける襞の中で揉み込まれて、僕は喘ぎ、脱力するしかない。
 さっきよりも腰の動きは少しだけ激しいけれど、その膣内は相変わらずゆったりとした快楽を僕に送り込んでくる。
 けれども送り込まれる、その大きく緩慢な快楽の意味合いは、今までとは決定的に違ってしまっている。

「ずいぶん長い間、試練が終わらないと不思議に思っていれば。まさかこのような事になっているとは思いもしませんでした」
「あぁあ、麻紀ちゃん、見ないで、見ない、ぁ、あああっ……!」

 組み付かれ腰を振られて喘ぐ僕の横に立つと、麻紀ちゃんは行為をただ笑顔で見守りながら、その可愛らしい鈴を鳴らす。

「違う、これは違、ぁ、あああっ……!」
「何が違うのですか?」
「ぁ、んんっ……ふぁ、あっ……!」
「はっきり言って下さらないと、分かりませんよ? そのように口をだらしなく開けてもらっても……私、困ります」

 いつもと寸分も変わらない微笑を崩さないまま、麻紀ちゃんが僕を見下ろしている。蓮さんと繋がり合って、喘ぐことしかできない僕を。
 その笑顔がひどく酷薄に感じられて、必死に何とかしようとするけれど、その気持ちは頭の中で空回りするばかりだった。

「ほら、もう無理だよ……君の、さっきからひくひくいってるもの。気持ちいいのよね?」
「ぁっ、蓮さぁ、んっ、やめて、やめてぇ……」
「駄目だよ……ほら、気持ち良くなって? 麻紀様の目の前で、私の中に精を注ぎ込んで、ぬるぬるにして?」

 催促するように彼女の中がきゅうっと軽くすぼまって、気が遠くなるような数の突起が破裂しそうな僕自身に押し寄せてくる。
 このままじゃ、射精しちゃう。
 先程までぬるま湯に漬かるように快楽に浸っていた僕は、知らないうちに既に射精寸前まで追い込まれてしまっていた。
 出してしまったら一体どうなるのだろう。
 僕は早く抜かなければいけないという焦燥感と、どうしてこんなになるまで過してしまったんだろうという後悔にかられて、喉に詰まりそうなほどだった。
 そんな事をしても、今さら遅いのに。

「気持ちいいんですよね? 伸也さん。泣いてしまいそうなほどですから……」
「あふ、ぁ、まきちゃ、ぁあああっ……! 」

 出しちゃいけないと思っているのに。こんなに必死に想っているのに。
 身体の奥から噴き上げてくる欲望が止まらない。渦巻いて、逆巻いて、今すぐにでも飛び出そうとしているようだった。
 きっと僕の姿は今、ひどいことになっているはずだ。
 それを麻紀ちゃんに、笑顔でただ見下ろされているのが切なくて。

「出していいんですよ?」

 その言葉を認識した瞬間に、僕の感情が全て弾けとんだ。

「ぁ、ぁああああああっ! 出るっ! 射精ちゃううううっ……!」

 限界に耐えることが出来なかった僕のものから、たくさんのものが流れ出していく。

「ぁ、うぁ……あぁああ……」
「ふふ……出てる、出てる……」

 麻紀ちゃんの前だっていうのに、僕の身体は膣内の奥に向けてこれまで以上の勢いで白く濁った粘液を噴き上げていた。
 二回目に加えて、射精の激しさに目の前がちかちかと点灯する。
 射精が勢いを失い痙攣が止まってくると、急速に身体の熱が引いていって、激しい喪失感に僕は襲われていた。

「いずれにしても、試練はこれで終了ですね。お疲れ様でした」

 終了の部分に僅かな力を入れて、麻紀ちゃんが平易に終わりを告げた。
 蓮さんとの接合部から、ぬるりと音がして、萎んだそれが滑り出す。気がついた時には射精が終わっていて、僕は背中から布団に倒れこんだ。
 全身から力がこそぎ取られたようでそのまま眠ってしまいそうだったけれど、麻紀ちゃんがその身を翻すのが倒れこんだ視界に入ると、僕は思わず身体を反転させていた。

「ま、待って……待って、麻紀ちゃん……っ」

 このまま麻紀ちゃんが去っていくのを放っておくと、もう二度と会えなくなる気がした。いや、きっと会えなくなるだろう。
 背中を向ける彼女に、僕は這うようにして後を追いながら、必死に手を伸ばす。
 それに応えてくれるかのように、彼女が足を止めて振り返った。そして、やはり先程と少しも変わらない笑みを浮かべながら口を開いていた。

「近寄らないで下さい」

 ……伸ばしていた手を思わず引っ込めてしまうほど、麻紀ちゃんの言葉は深く僕に突き刺さっていた。
 はっきりとした拒絶の言葉。
 彼女からそんな風に言われたことは、今まで一度だってなかったのに。

「本当に長い、長い間、ずっとお待ちしていたんですよ」

 麻紀ちゃんは、手を引っ込めてじっと見上げるしかない僕の顔を上から覗き込みながら、流れるように言葉を紡ぐ。

「私、裏切られてしまいましたね。あなたを好きだなんて、そんな事考えてた私が恥ずかしいです」
「そんなっ……」

 言葉に混じる寂しさや辛辣さの割に麻紀ちゃんの表情は相変わらず凍ったまま保ってあるかのように笑顔で、淡々とした口調だった。
 それがまた、僕の心を深く抉られるようで……。
 対抗するだけの力を持った言葉は、出てこなかった。そんなものは僕が持っているはずもなかった。
 好きだという事とは違うといいたかったけれど、身体に溺れていたのは僕自身なのだ。もっとしっかりしていれば、こんな事にはならなかったはずなのに。
 けれど、彼女を昔から好きだったという事実は今でも変わっていなくて、苦しくて、もう恥も外聞もなく這い蹲るようにして僕は彼女に許しを請っていた。

「お願い、待って……」
「そんな下女に大切な子種を流し込む事のほうが、私よりよほど重要なんですよね?」
「違う……違うよぉ……待って、麻紀ちゃん、お願い。行かないで、捨てないで……っ」
「嫌です、浅ましい。……でも、そうですね。考えあげてもいいですよ?」

 表情をぴくりとも変えない麻紀ちゃんは、本当に考えが変わったかどうかもわからなかったけれど、その言葉にはっとなったように僕は反応してしまう。
 けれども彼女から次に出てきた言葉は、僕の想像を遥かに超えたものだった。

「ただし、あなたがなれるのは私の夫じゃありません。犬です。忠実な犬。それでも構いませんか?」
「い、犬って……」
「我を忘れて気持ちよくなるような浅ましいヒトを、夫になんてできません。ですから、犬です。言う事を何でも聞いて、逆らわない犬です」
「そんな、そんなの――」
「でも、それが出来るならご褒美もあげますよ?」

 反論しようとする僕を遮るようにして、麻紀ちゃんはそう付け加えた。
 ご褒美。
 微笑む彼女のその声色は何ら含めるようなところがなくて、それがかえってその言葉自身に含まれるものを引き立たせていた。

「ええ。ご褒美です。時々気が向いたら、可愛がってあげます。そうそう、屋敷の皆にも可愛がってもらえるかもしれませんね」
「ぁ……」
「ああ、『お仕置き』でもいいですよ。私のものにしてあげます」

 微笑む彼女の昏く輝く瞳が僕を捉えたまま離さない。ついさっきまで僕に失望していたその視線で射抜かれて、ぞくぞくと、背筋を悪寒にも似た何かが走り抜けていった。
 今まで感じたことがない彼女のはっきりとした威圧感と常軌を逸した提案に、意識を奪い取られそうになってしまう。
 可愛がられる。彼女に。皆に。
 それがまともな意味だとは、もう思うことはできなかった。背後でくすくすという笑い声が漏れて、僕は身体の中にまた熱が燈るのを感じた。
 酷く屈辱的で存在し得ない選択肢が、笑顔の彼女に見つめられていると、思わず呑んでしまいそうなほど魅力的に思えてくる。

 僕の目の前で彼女の右足がゆっくりと持ち上げられ、着衣の下に入れられた手で、するすると履物が脱がされていく。
 彼女が服をゆっくりと捲りあげると、白くて可愛らしい指が並んだ綺麗な足が僕の前で露になる。
 気がつけば胸が高まり唾をごくりと飲み込んでしまっている自分がいて、そんな自分への疑問が、可愛い彼女のその素足を見ていると砂のように崩れて消えていく。

「いいなら、誓ってくださいね。でも、誓うのは愛じゃないですよ。服従です。それでも良ければ、私のモノになってくださいね……」














 さあっ、と木の板が木の板を滑る安らかで静かな音が、部屋の空気に分け入った。
 その開いた襖の奥から彼女は姿を現すと、立ったままゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
 黒髪を僅かに揺らしながら近付いてくるその姿を見て、僕は歓喜に打ち震えるようだった。

「ん……いい子にしていましたか?」

 目の前までくると、彼女は手を伸ばして僕のあごを優しくさわさわと撫でる。
 その柔らかくて思いやりのある感触が気持ちよくて目を細めていると、そんな僕を見て彼女は口を綻ばせた。そんな彼女の様子を見るのが、また嬉しい。
 僕は撫でられる感触を、そうして堪能した。

 しばし僕の顎を撫でた後に彼女は手を離すと、こうなる以前からずっと変わらない、鈴を転がすような声で彼女は僕に言葉を放つ。

「さ、寝転がってくださいね。そこですよ」

 あごを撫でる感触が名残惜しかったけれど、僕はすぐにその言葉と指先に従って仰向けに寝転がった。
 柔らかい日の光で照らされた天井が映り込む。その視界の中に、ゆっくりと彼女が入ってくる。その足が持ち上げられて、僕の身体に触れた。

「ぁ、ぅ……」

 僕の身体を跨ぐようにして立っている彼女の、その白い生地に包まれた足の裏が、身体の上をゆっくりと滑っていく。
 すべすべとした生地の感触が、触れるか触れないかの境界線をくすぐるように通過して、思わず声が漏れる。
 そんな僕の様子を彼女は笑顔で観察しながら、足を滑らせてくる。お腹から首筋の方へ、首筋から落ちて胸の方へ、そして臍の方へ。
 傍から見れば踏み躙っているようにすら見えるのかもしれなかったが、彼女は片足で実に上手くバランスを取ったまま、足を微妙に宙に浮かせて僕の身体をさすり続ける。

「は、ぅ……ん……」

 爪先の部分でくりくりと筋肉の筋を刺激され、かかとの部分が時々跡をつけるかのようにぺたぺたと降ろされる。
 そんな風に何度も往復されていると、こそばゆい感覚がだんだん気持ちよさにすり替わってきて、心の奥で火が燻りはじめているのが分かる。

「ぁ、ぅ……あぁ……」

 ただ笑顔で見下ろす彼女は僕のもどかしい気持ちを理解しているのか、首筋を撫で、臍に爪先部分を押し付けたりはするけれど、それ以上の領域には決して踏み入ってこない。
 胸の奥で段々と妖しいものがこみ上げてきて、一緒に少しずつ股の下の僕自身が身を起こしつつあった。
 切ない。
 そのまま臍の先までいって、その独特の生地の感触で触れてくれたら。首筋を這い上がって、直接足の裏を置いてくれたら……。
 そんな事を妄想していると、ふと、彼女が擦っていた右足をずらす。
 次の瞬間、彼女の身体が一瞬ふっと浮き上がり、その様子を捉えていた僕は反射的に腹筋に力を入れていた。

「――……っ!」

 身体と身体が服越しにぶつかり合い、大した音も出さずに彼女の身体が僕の上に着地する。
 腹筋に力を入れておいて良かった。もしまともに受けていたら、絶叫をあげるか悶絶するかくらいはしていたかもしれない。

「痛かったですか?」

 僕はゆるゆると首を左右に振った。
 もちろんそんなはずはなかった。いくら彼女が小柄であるとはいっても、いきなり全体重を掛けられれば痛くないはずがない。
 けれど気遣うようではなく、ただ興味があるだけなのだろう彼女の朗らかな笑みを見ていると、僕はそれしか応える方法がなかったのだ。すると、

「そうですか」

 とだけ彼女は言って、足をもぞもぞと動かした。僕の身体の上で彼女の膝下がハの字を描くように開かれる。
 と同時に、未だにじんじんと痛む身体に甘い感触が迸った。

「弄ってあげますね。あまり時間はかけられませんが」

 彼女の身体が衝立になって見ることがかなわない僕のその部分に、細いものがばらばらと絡み付いてくる。
 見下ろしてくる彼女の両腕が後ろに回されていると気付いた途端に、僕のものに人肌の温かみがじんわりと広がった。
 両手の指が幹の部分をゆっくりと撫で上げて、傘の裏に辿り付くと、そこをこちょこちょと弄られる。
 思わず浮き上がってしまった腰が、彼女の体重によって制止させられた。

「息、もう荒いですね。くすぐったいですか? 気持ちいいですか?」
「あ、ぁあう……」

 目にすることができないその場所で、彼女の白くたおやかな指が僕のものを弄っていると思うと、興奮が抑えられない。
 傘から這い上がった一本の感触に敏感な亀頭の部分に触れられて、鈴口を優しく擦られたり、くりくりとつつくように弄ったりされる。
 しばらくそうやって刺激すると、指であろうものは離れていって、また似たような、けれど確かに差異がある感触が亀頭をいじってくる。
 最初に触れたものより少し長いその指が、敏感な頭頂部に巻きつくようにしてゆっくりと撫で擦る。離れる。
 今度はまた少しそれより短い指が、柔らかい腹の部分ですりすりと撫で擦ってくる。離れる。
 今までで一番細くて短い指が、鈴口を中心として円を描くようにじっくりと刺激する。けれど先端部には触れられなくて、僕はどうにも堪えきれないような気持ちになる。
 すると入れ替わりでやってきた今までで一番太い指にぐりぐりと穿るように先の穴を刺激されて、僕はじんわりと股間に集まる射精の気配を感じていた。刺激する指の滑りが少しずつよくなっていく。

 そんな事をしている間にも片方の手に、その手のひらを押し当てるようにして根元からゆっくりと扱かれていて、たまらない気持ちだった。
 敏感な部分に指の感触を覚えこまされているようだった。触れられた部分から指の形が残るかのように、じんじんと疼きだす。

「はあはあいって……もう少し大人しくしていてくれませんか?」
「ぁ、うあ……ん、んぐっ」

 耐えられずに荒い息をつきながら彼女を見上げていると、唐突にその視界が両側から塞がれる。
 真っ白くて、じんわりと濃い匂いが染み出すように押し寄せてくるそれが彼女の足だと気付くと、自分の下腹部にさらに力が入ってしまったのが分かってしまった。

「ん……反応してますけど。私の足、たまらないのですか?」

 ふにふにと、顔面に置かれた足の裏にわずかに力が加えられる。
 踏まれているというより、撫でられているかもしくは揉み込まれているかのようだった。目の部分が覆われ、両頬を足の部分でむにむにと挟まれる。
 柔らかくて濃い感触が一番感覚器官が集中している部分に押し付けられる。鼻の中から肺の中までが、独特の匂いでたっぷりと汚染される。満たされる。
 それはたまらなく倒錯的だったけれど、彼女の柔らかな足の感触で弄られるとそれにすら幸福感が取って代わっていく。

「ん、はぁ……ふ、あぁあ……」
「そうですね、私の足に誓いをたてたのですから。その前に服従するのは、当然のことですね」

 緩みきっていた僕の顔の上をさわさわとした感触が通り過ぎていく。彼女の両足がさらに追撃をかけてくる。
 柔らかいその感触で、顔面のあらゆる部分をやわやわと波立つように足裏で揉まれると、恥ずかしいと思う部分まで丹念に磨り潰されて消えていくかのようだった。
 その圧倒的で優しい感触は、触っている部分が例えどれほど汚くても、もう関係がなかった。

 その柔らかな感触は、正しく抱擁だった。

「どうですか? その位置からだと、良いものがちらちらと見えると思いますけど……」

 わずかに視界を開けられる。
 持ち上げられ開かれた彼女の着衣が、足の裏から繋がる細く柔らかな脚線を露にしていた。その付け根にある魅惑の地帯も。
 ほんの少し光が翳っているせいで全容が見えにくく、それが僕の気を逸らせる。
 必死に目を凝らしていると、再び目の前が白い感触で覆われてしまった。

「あ、ぁああっ……!」

 さらに下腹部で艶かしく動く彼女の手が激しさを増して、僕は思わず声をあげていた。再び腰を跳ね上げそうになってしまう。

 ぴったりと筒を作るように後ろ手が組み合わせられて、ぐちゅぐちゅと上下に扱かれる。いつの間にか溢れるほど噴き出していた潤滑液が、淫猥な音を立てて彼女に利用されていく。
 足の裏をぎゅっと押し付けられながら瞼の上を爪先の辺りで優しく揉まれ、また視界が開け、そして閉じる。
 そのたびに彼女の屈託のない笑顔と、眩しく感じてしまうくらいの脚と、その奥にある秘密の花園がちらちらと目に入って。
 興奮した頭が、僕のものと一緒に破裂するんじゃないかと思うぐらいに張り詰めてしまっていた。

「それでは、そろそろ仕舞にしましょうか」

 彼女が優しく囁きかけながら、その一方的な責めに拍車をかけてくる。
 ぬるぬるした両手が万遍なく僕のものを這い回り、亀頭の部分を二本の指でぐりぐりと刺激しながら、回転を加えて傘の裏までをも責められる。
 後ろ手だっていうのに少しも正確さを失わないその技巧に、今にも射精してしまいそうだった。
 顔の上で熱のこもった香りを撒き散らしながら、ぎゅっ、ぎゅっと踏み込まれ、足裏で抱擁されるたびに我慢の限界が押し下げられていく。

 手でさんざんに弄ばれ、足の裏で抱き締められて。彼女から一方的に快楽を与えられることがたまらなく幸せだった。

「はい、終わりですよ」

 彼女の合図と共に、僕のものがきゅっと柔らかい手の中で包まれ、柔らかい足裏が今までにないくらい強く長く踏み込まれる。
 視界が足の裏で完全に塞がれ、強烈な匂いで頭の中全部が侵略されていく。
 可愛らしい声をかけられながら脚で踏み込まれて、その幸福感で胸が一杯になった瞬間、勢いよく僕は声を漏らしていた。

「ぁ、ん、んんんんっ……!」

 僕のものは彼女の手でぎゅっと押し付けられ、その手のひらの中で暴れながら、たまらずに精を噴き出してしまう。
 思わず息を大きく吸い込んでしまって、足裏の異様な空気に噎せ返ってしまいそうだった。
 彼女は射精している間にも包み込んだ手のひらの中でゆっくりと扱きたててきて、僕は途中で引っ掛かった精液まで全て搾り出されてしまう。

 肺を満たすような匂いの元が離れて、視界が濁った真っ白なものから日の光が差した世界に戻っていく。
 やっぱりそこには、いつものように可憐な笑顔を見せる彼女の姿があった。
 蔑視するでもなく、熱っぽく見つめるでもなく、淫蕩な笑みを浮かべるでもなく、彼女はただ花のように可憐なままだった。どろどろの白濁がこびりついた両手が目に入っても、それは変わらない。
 その姿は同じ人間だと思えないくらいに、綺麗だった。
 そんな彼女に微笑みを向けられ、好き勝手に弄ばれることは、ひょっとすると物凄い幸せなことなのかもしれない。
 彼女にかかれば、倒錯や屈辱感と無縁ではいられない足の裏でさえも、抱擁されていると錯覚をおぼえてしまうほどなのだ。

「たくさん出しましたね。さて、今日は……どうしましょうか」

 彼女はそう言いながらもほとんど迷う事無く、仰向けになって倒れている僕の片手に向かって身体を伸ばす。
 体重が移動して、彼女のお尻が確かな重みを伝えてくるのが心地良かった。

「ん、ぅっ……」
「くすぐったいかもしれませんが、動いてはだめですよ」

 彼女は僕の手首に何かを巻きつけると、すぐ傍の床からはみ出るようにして存在する頑丈そうな突起にそれを結びつけた。
 それが終わると方向転換して、今度は逆の手首に。
 さらに後ろを向いて両足首までをも結びつけると、ゆっくりと着衣を払いながら立ち上がった。
 完全に大の字で拘束された状態になった僕は、それを見ているしかできない。

 できたとしても、やらなかったかもしれないけど……。

「さて、今日はこれで良いですね。窮屈かもしれませんが、頑張ってくださいね」

 それだけ言うと彼女は、それでは、と踵を返してその場から立ち去っていった。
 残された僕はといえば固まりかけた精液をこびりつかせた僕自身ごと放置され、再び彼女が来る前の静寂に包まれていた。
 簡素な服だけれど、まだ寒い時期ではないので肌寒い思いをする心配はない。

「ん……」

 誰もこない、ほとんど音のしない部屋の中でじっと待っているのは心細くはあるけれど、それほど辛くは思わなかった。
 静かな時間も、すぐに終わることになるのだから。
 とにかく少し休もうと思って、僕はゆっくりと瞼を閉じた。


 あれからどれぐらいの時が経っただろうか。
 僕はこのとても広い家の一室に囚われている。
 囚われているとはいっても出てくる食べ物は……多分普通だし、時々はちゃんとしたものを着させられて、外にも出してもらえる。
 けれど代わりに、日中に必ず一度は訪れる彼女の望んだ時に、望んだ事をしなければならないのだ。
 そしてそれが終われば彼女にいつも適当な姿で繋がれ、この家の人間達にさんざん可愛がられることになる。
 そう、可愛がられるんだ。


 うとうとしながら時間を過ごしていると、勢いよく木と木のぶつかるような音が響いてきて、意識が急に覚醒させられた。
 慌てて首を捻ってみると、部屋の入口の近くにいる誰かによって、今度は襖が勢いよく閉じられる。
 大きな音を出した張本人はくるりと身体を翻すと、倒れている僕に向かって躍動感溢れる足取りで近付いてきた。

「さぁて、一番乗り〜」

 長い髪を一房に纏めた女性……いや、少女かな?
 身長は結構あったりするのだけど、見た目よりもずっと子供っぽいような、快活で元気そうな姿に僕は少し迷ってしまう。
 そんな事を考えている間に、彼女は床で磔にされている僕の目の前まで来てしまった。

「あら、今日は寝っ転がされてるんだ。ふふ、それなら……」

 にやにやと底意地の悪い笑みを浮かべながら、ゆっくりと快活そうな彼女の脚が持ち上げられていく。
 裾が一緒に持ち上げられて、僕の目の前で誘うようにひらひらとはためく。
 中身が見えそうになって思わず首を伸ばしたその瞬間、その持ち上げられた脚が振り下ろされていた。

「ぁう、んっ……!」

 しかし、予想していたような痛みが身体を打ち付けることはなかった。
 振り下ろされた脚は僕に叩きつけられる寸前で止まり、僕のものを優しく踏み込んできたのだ。
 思わず苦痛に身構えたところに訪れた予想外にほんのりと暖かく甘い感触に、小さな喘ぎ声を漏らしてしまう。

「ふふ……足でぐりぐりされるの、好き? ものほしそうな顔してたものね」
「そんな、ぁっ……してない……ん、んんっ……!」
「あら、してたわよ。気付かなかった? 私が足を持ち上げた時、涎を溢しそうだったわよ……?」
「そんな、ことぉっ……!」

 さすがにそんな事までしてるわけがない。どう考えたって誘導じゃないか。
 けれどそうやって煽り立てられてしまうと、彼女が足を持ち上げたその時の姿を思い出してしまって、僕のものに触れる足への感覚を高めてしまう。
 僕のものがゆっくりと持ち上げられ、下腹部に踏み込むようにして押し付けられる。ざらざらとした感触が裏筋の辺りを刺激して、急速に血流が集まっていく。

「まあ、いいわ。でも……」

 生地の擦れる感触が根元から這い上がり、でっぱりの部分に押し付けられる。
 そのまま裏の部分を擦るように足でなぞり、時に体重をかけて足の裏を押し付けられる。

「ぁ、ああぁっ……! あぅう……!」
「そんな事言っても、こんなに感じてるんじゃ同じ事よね? ふふっ」

 僕のものを足で踏みつけ、弄くり回しながら意地悪そうに笑う彼女の瞳に混ざった嗜虐的な光に、ぞくぞくとしてしまう。
 蔑みながらも続けられる足使いは、彼女の豊かな表情と同じようにころころと変わる。その人のものを玩具にするような責めが変化をつけるたび、僕はただ鳴くことしかできなかった。

「ほら、すーりすーり……」

 今度は僕のものを爪先でつつき、ふくらはぎの部分で噛み、足全体をなすりつけるように興奮を煽ってくる。

「はい、ぐりぐり……」
「あ、ぅああああっ……!」

 足の裏でぎゅうぎゅうと圧迫しながら、足指を伸ばして亀頭の部分を踏み躙るように刺激されて、にちゃにちゃと淫靡な音がする。
 度重なる多彩な刺激に、もう僕のものは限界寸前まで追い詰められてしまっていた。

「もう出ちゃうんでしょ。精液垂れ流しちゃうんでしょ? ほら、ねえ……」

 少し荒い息をついている彼女の瞳が爛々と輝く。
 仄かに甘く囁きながら軽く振動する彼女の足が、その言葉と一緒に僕の精液を押し上げていく。
 それが限界まで達すると見計らったかのように足が一旦離れて、もの全体を圧迫するようにぎゅっと踏みつけてくる……!

「あ、ぁあああっ……!」

 足の裏に下敷きにさせられながら僕のものは精液を噴き出して、びちゃびちゃと簡素な服と僕の身体に張り付かせていく。
 びくんびくんと暴れるようとするものを、無理矢理押さえつけられながら。
 見下してくるその視線に射抜かれながら、彼女の足に敷かれて射精させられるのは、涎がこぼれるほど気持ちよかった。

「ふふ……気持ち良さそうね。足で踏まれながらそんな顔が出来るなんて、貴方って本当に幸せものだよ……?」

 射精が終わったものからようやく彼女は足を離すと、そう言ってくすくすと笑った。

 可愛がるとは言ったけれど、どうしてわざわざこんな事をするんだろう。
 そう思わない時もないではなかったけれど、彼女達のその蔑むような、何ともいえない微笑を見ていると何も言えなくなってしまう。
 僕は結局、暇潰しの道具として扱われているか、さもなければこの行為自体が一日の憂さ晴らしと同じようなものなのだ。

 くすくす。くすくす。
 胸の裡に、何ともいえない感覚が湧き上がる。
 けれど、それと同時に何か彼女の笑みに変なものを僕は感じていた。

 その声がまるで重なったように聞こえる――そう思った時には、再び僕のものは下敷きにさせられていた。

「あ、ぁあ……っ!」
「あら、出遅れてしまいました。でも私が二番目ですよね?」
「そぉーですよっ」

 気がつけば最初に姿を現した彼女の隣に、別の女の人が立っていた。
 いや、立っているだけじゃなかった。初めに来た彼女と軽い会話を交わしながら、彼女は既に履物を脱ぎ捨てた素足で僕のものを下敷きにしてしまっている。
 ざらざらした生地の感触とは違う、確かな体温の暖かさと柔らかい感触にふにふにと弄ばれて、落ち着き始めていた僕の頭の中があっというまに桃色に染まっていく。

「それでは、私も足でしてあげる事にしましょうか……ふふ」
「だって。良かったね、嬉しい? ……って言うまでもないか。出したばかりなのに、もう硬くしてるんだものね?」

 柔和な笑顔の横で意地の悪い笑みを浮かべながら、生地の感触に包まれた彼女の足までもが、僕のものに寄り添ってくる。
 二人の足の間で挟まれるように弄ばれて、すぐに僕のものはその先端から透明な粘液をこぼしはじめていた。

「私の素足の方はいかがですか?」
「やっぱり裸足で踏まれたほうがいいかな? でも、この引っ掛かるような感触だって捨てたものじゃないわよね」

 再び硬さを取り戻した僕のものを蹂躙しながら、彼女達が尋ねてくる。そんな事を言われても。
 素足の肌の柔らかく暖かい感触と、生地に包まれた足のざらざらとした感触に挟まれて、判断なんてできるはずもなかった。
 二つの感触が両側から絡みつき、甲の部分で撫で回され、逆に足の裏で挟み込むようにしゃぶられて、頭の中が焼きついていくようだった。
 息が合った足技にたちまち高められてしまって、僕は荒い息をつきながら、裾から伸びる二人の脚と、その表情とをぼうっと眺めていることしかできなかった。

「そうそう、ぎゅーってされるのも好きよね? 私が下になるから、ぎゅーって踏んであげてよ」
「あら、そうですか? それでは、遠慮なく……」

 ふと生地に包まれている足が離れ、腰の部分にぎゅっと押し付けられる。
 まさかと思う暇もなく素足で上から大事な部分を押さえつけられ、そのまま裏筋にゆっくりと体重が加えられてくる……!

「あっ、うぁ、ああああっ……!」

 腰にあらかじめ踏み込まれた足の甲の部分に押し付けるように、素足でぐいぐいと重みを乗せて踏み込まれる。
 柔らかく微笑みを浮かべながらその晒した素足を踏み込んでくる彼女は、その笑顔に似合わず容赦がなかった。身体を前傾させながら少しずつ少しずつ、際限がないと思えるほどに踏み込む力を増していく。
 僕は思わず頭を振っていたけれど、彼女達がそれをやめる気配はなかった。甲の硬い部分にごりごりと押し付けられた部分から、じんじんと痛みが伝わってくる。

「あは、凄いぐいぐい踏まれちゃってるわね。大丈夫かな?」
「大丈夫ですよ。おちんちん、私の下でこんなに元気そうですから……」
「それもそっかぁ」

 けれど、そんな痛みもすぐに押し寄せる快感と屈辱感が凌駕して、甘い疼きに取って代わられる。
 体重をかけた素足は逃れるように暴れる僕のものを逃がすことなく、その足の裏に敷き続ける。さらに下に敷かれた足の甲が小刻みに揺らされて、そのたびに二つの足の間で僕のものが身を捻り、神経が捩れて狂いそうだった。

「やめっ……ぁ、やめて、ぇっ……あぁあっ!」

 必死に頭を振るけれど、もうそれがどういう意味での『やめて』に繋がっているのかは自分でもよく分からなかった。
 その必死さが伝わったのか、それとも単に気が変わったのか、ゆっくりと力が弱まり始める。

「……仕方ないですね。それでは、そろそろやめてあげましょうか……」

 名残惜しさの一つも感じさせずに、ぐいぐいと踏み込まれていた素足があっさりと退いていた。
 極端な前掛かりの体勢から直立に戻った彼女は、今度は体重を一切掛けずに、すりすりと竿の部分を撫で擦ってくる。

「んふふ、ごめんね。代わりにちゃんと優しくしてあげるからさっ」
「そうですね。ですから我慢しないで、私達の足を汚してくれていいんですよ」
「は、ぅ……あぁあ……」

 すぐに踏みつけ台になっていた側の足も加わって、それぞれ違う二つ分の感触に、しかし同じようにやわやわと触れられる。
 踏むというより撫でるような、その丁寧な足の使い方。
 直前までぎりぎりと力を込めていたぶられていた僕には、その落差を堪えることなんて出来なかった。

「さ、出しちゃえ」
「ふふ……」

 誘われるような足の動きにゆっくりと可愛がられると、射精してあげたくてたまらない気持ちになってくる。
 それが例え、さっきの乱暴な行為との落差のせいだったとしても、もう僕には止めることはできなかった。
 優しく撫でられる素足と生地の感触に誘い出されるようにして、僕のものからあっさりと精が漏れてしまう。

「ぁ、ああああ……ふ、ぁ……」
「ふふ、気持ちいいかな? 優しぃく押し出されてしまうのは、どう?」
「そんなに口を開いて、こぷこぷと漏らしてしまって……本当に、だらしないですね……」

 一度漏れ出してしまった精液を止めることもできずに、その心地良い吐精感に身を委ねることしかできなかった。
 爪先の部分で根元を軽くつつかれると、それに呼応するようにして竿が身体ごと震え、びゅく、びゅくっと残った精を噴き出す。

「さて。こんなに出しても元気なこれ、どうしようかなぁ……」
「そ、んな……ぁ、あああ……!」

 射精したばかりの僕のものは多少萎んではいるものの、明らかにまだまだ臨戦態勢の様相を呈していた。
 はっきり言って異常だ。いや、僕がこうなってからというもの、今に始まったことではないけれど。
 身体には射精の疲労感と、踏みつけられたことの痛みが今さらのようにこみ上げてくるのに、それ以上の耐えられない衝動が頭の前のあたりをくすぐるのだ。
 逃げ出したいという気持ちと、吐き出したいという気持ちがぶつかりあって、結局は四肢を繋がれたまま悶えるしかない。

「それに、まだ皆様には行き渡っていませんし……」

 僕が疲労感に悩まされていると、絶望的な事案が頭の上から降ってきた。
 と共に、ぎしぎしと何かが軋むような音が頭の下から聞こえてくる。
 いや、違う。頭の下にあるものを媒介として伝わった音が、どんどん近付いてくる――

「はい、あげる」
「んぶっ、ん、んんんんっ……!」

 一瞬僕の目に新手の女性が映ったかと思うと、屈託のない笑顔を浮かべた彼女の足が顔面に置かれていた。
 吐き気がするほど濃密で、脱力するほど濃厚なその匂いに一瞬で頭の中を支配されてしまう。

「というわけだから。いっぱい出そうね?」
「まだまだやれますよね……」
「よろしくお願いしますねぇ」

 そして、いつの間にかその数を三つに増やした足が、起ちはじめた僕のものに一斉に殺到してきた。

「我慢汁と精液が混ざってどろどろで……これじゃ、すぐにぬめぬめしちゃいますねぇ」
「ふふ、そんなに頭を振ったって駄目よ? 私の足の裏の匂い、たっぷり味わってね」

 もの全体が三つの足に余すところなく包まれて、きっと今見えないほどに覆いつくされているんだろう。
 めいめいの足に好きなように扱かれ、踏まれ、擦られ、弄られ。
 三本の足に紡がせられる喘ぎ声も、目の前で捻じ伏せてくる足の裏に溶けて消えていく。強制的に蒸れた匂いを嗅がされて、再びあっという間に張り詰めてしまうまで時間は掛からなかった。

「あは、三回目なのにがっちがちぃ。ほらほら、匂いまで嗅いで幸せ?」
「辛いのか嬉しいのか、はっきりした方がらくだと思いますよ……」

 声にならない声をあげさせられながら、三人の連携によってゆうに三倍を超えるだけの快楽が引き出されていく。
 二人に優しく竿の部分を挟まれて、残りの一人が亀頭の部分を中心にして足裏でにちゃにちゃと淫猥な音を立てながら責め嬲る。
 側面を三つの足で分け合うようにしながら、一斉に下腹部めがけて力が加えられ、ぐにぐにと三方向から圧力を加えられる。
 時にはばらばらに、時には一斉に同じ動きをする足の群れはそれぞれが違う生き物だという事をはっきり意識させて、その足の伸びた先にいる三人分の見下ろす表情を思い描いてしまって身震いする。
 いや、四人か。甘く危険な劇臭が顔面に張り付いて、身体にじっくりと浸透していく。

「ふふ、もうすっかり駄目かな……? 私の足の裏の匂い、染み付かせてあげる」
「あは……ほらほら、膨らんだ先っぽ、さわさわしてあげるね」
「それでは、私はぱんぱんになっている袋の方を……」

 普段なら竦みあがるほど危険な部分が摘まれても、濃密な匂いに犯された頭の中は何一つ信号を発してこなかった。
 たっぷりと匂いを擦り付けるかのように、顔の上で足がもぞもぞと動きながら、所々でその汗ばんだものを押し付けてくる。
 視界を埋め尽くされながら顔面を踏み犯され、三人分の足に弄ばれる屈辱的な快感の中で、僕はみたび屈服の証を吐き出していた。

「はぁ、あああっ……!」
「やんっ、出たぁ……」
「ふふ……足の匂いを嗅ぎながら射精しちゃったの? おかしいの……」

 強烈な射精の感覚が僕の身体を反らさせるけれど、噴き上げた精液の行方を見る事もかなわない。
 ただ擦れ合う淫猥な粘液質の音が、一層増したように僕には思えた。
 くすくす、くすくす、くすくす、くすくす。
 足裏で視界が塞がれたまま、上の方から聞こえてくる微笑が、輪唱するようにいくつも重なっては消えていく。
 心を直接くすぐられるような不気味で淫蕩なそれに、しかし僕が意識を削いでいる時間はなかった。

「あら、今日はこんな風になってるのね……ふふ、それじゃ、よいしょ」
「やだぁ、もうぐちょぐちょじゃないの。ちょっとー、ちゃんと私にもやらせてよ」

 視界が塞がれているその間にも、次から次へと僕の身体の上に湿気と熱がこもった何かが乗せられてくる。
 柔らかいもの、少し引っ掛かるようなもの、滑りが良いもの。いくつもの変わった感触が、あるものは心地いい重みを伴って、あるものは軽く触れるように、逃げる事ができない僕の身体に乗せられる。
 もはや乗せられる場所も、未だにびくびくと震えながら、とうとう熱が収まらなくなった僕のものに限定されなくなった。

「あふ、ぁ、ん、んんんんんっ……!」
「ふふ……どうやら先客がいっぱいいるみたいだから、私はこっちを優しく踏んであげるね……」
「じゃあ、私は顔の方に足してあげようかな。じっとりとした匂い、混ぜてあげる」
「隙ありぃー」

 くすくす、くすくす、くすくす、くすくす、くすくす、くすくす、くすくす、くすくす。
 僕がその乗せられる一つ一つに悶えている間にも、輪唱は人数をさらに増して近付いてくる。
 お腹から胸の上にかけていくつもの重みを感じる。きゅっと結ばれているはずの手足にも、改めて抑え付けようとしているのだろうか、はっきりとした足の感触を感じる。
 顔の上はもう最初に乗っていたのがどれなのか分からないほど、ぎっちりと足裏が密集していた。それでいて気道だけは絶対に塞ぐことがない。
 数え切れないような芳醇な匂いが混ざり合った足裏エキスを嗅がされて、意識が遠のきそうだった。その気が狂いかねない劇臭にじゃなく、そんな匂いを嗅ぐことができる至福の時に。

 頭の裏にある皮という皮が引っくり返るような錯覚に陥る。

 一体いま、どれくらいの人数に僕は踏まれているのだろう?

 無数の足に嬲られ、踏まれ、匂いを嗅がされ、乳首まで抓られ。
 どれくらい時間が経ったのかも分からないまま、あえなく僕の我慢は決壊する。

「っ、んんっ……!!」
「あは、出た出たぁ〜」
「ふふ……でも、ちょっと薄いですね。これはすぐにもう一度出させないと……」
「それなら私、今度はそっちの方を担当してあげるっ」

 もう飛び交う声がいくつなのか、誰のものであるのか到底判別できない。
 あえなく精を放った僕のものが、射精している最中までじっくりと揉み込まれ、終えればすぐさま揉みくちゃにされていく。
 それでも僕のものは萎える事を知らず、異常なことにまたすぐに彼女達の求めに応じようと、強がるように持ち上がっていく。
 もう何もまともな事を考えられない。
 たった今感じるのは、全身を責め立てるいっそ異様と言ってもいい快楽と、射精の幸福を貪るための欲望が膨れ上がることだけ。

「あはぁ、また出た……」
「さて今何回目でしたっけ。こんなに出されるなんて、やはり真鬼様の犬は違いますね……」
「んふ、さぁこうたーいっ。次はあたしもいっぱい踏んづけてあげちゃうよっ」
「足の裏がべとべとするじゃない。そんなに涎をだらだら溢しちゃって、からからになるのは喉かおちんちんか、どっちが早いかな?」

 ほんの一瞬だけ開いた足の隙間の光から、背中を向ける女性達と、意気揚々と僕に足を乗せてくる少女の姿とがあった。
 また視界が奪われる。
 こうして僕が見えない間に、感じられない間に、交代して責め嬲っているのだろう。
 今日の僕はいっそ永遠に思えるような時間を、彼女達の様々な足の裏に包まれたまま過ごすことになる。
 そして明日がくれば、また……。

 僕はそうして、『彼女』に捨てられることがない限りは未来永劫、快楽漬けのまま過ごしていくのだろう。

「もうおちんちんがどろどろのぐっちゃぐちゃ……気持ち悪い? んーん、気持ちいいよね」
「あはは、だらしないんだお兄さん。元気なのはおちんちんだけなんだから……ほら、舌出して、足舐めようよ」
「まだまだ終わらないんだから、もっと声出して。飽きちゃうよ?」
「こんなに足で揉みくちゃにされて出すしかないなんて、すっごく変態……。ふふっ」
「私達の足を見たら発情しちゃうくらい、徹底的に教え込んであげないとねっ」


 しかしそれを忌諱するような事は、もう堕落した僕にはとてもできないのだ。

 あしたも、あさっても、しあさっても。

 わすれられることがないきもちよさを、魂ごと身体に刻み付けられるのだ。

 せいがつきるまで、えいえんに。





        おわり
し あ わ せ
糞ゲーだっ!

この一人称と内容はちょっと難しくて、難産でしかも上手く出来ているかわかりませんが、楽しんで頂ければ幸いです。
お目汚し失礼しました。

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