丁寧に磨かれた、ともすると鏡のように陽光を跳ね返す板張りの廊下をひたひたと歩いていく。
ふと視線を右にやると、燦燦と輝く太陽と、それに照らされてどことなく生き生きしているように見える点々とした植生、何かの魚がゆらゆらと泳いでいる綺麗な池と、敷き詰められた小石が目に入った。
こまめに手入れされているというその景色の価値というものは僕にはよくわからないけれど、なんとなく心が澄み渡っていくような気持ちになるのは分かる。
僕は手を翳して、軒のすぐ脇から見える光の中心近くを覗き込んだ。
今日はやっぱり、いい天気だなあ。
おかげでこの大事な日に朝から気持ちよく起きることができたのだから、感謝しなくちゃならない。
「伸也さん?」
横合いから掛かった声に、お日様への感謝をあっさりと中断して僕は振り返った。
鈴が鳴るような可憐な声。何でも言うことを聞いてあげたくなるような。
「緊張していらっしゃいますか?」
「まあ、それは、うん……さすがに、うん」
意識を外に向けていた僕は、急にやってきた質問に思わずしどろもどろになってしまう。
彼女はそんな僕を見て、くすくすとその鈴を転がすように笑いを漏らしていた。思わず頬が熱くなる。
そんな彼女の様子を見ていたら、小さな枠に目鼻立ちが全て整って揃えられている、その可愛らしい顔がいつもにもまして白雪のように白く、軽く吊りあがった唇にいつもと違って薄い紅がひかれているのに気付いてしまって、胸まで熱くなった。
「伸也さんならば、きっとやり遂げられます。だから、そう緊張しなくても大丈夫ですよ」
麻紀ちゃんの気持ちが乗せられた、はっきりと言葉は、しかし付随するはずの重さをちっとも伴わずに、僕の心にするりと入り込んで清涼感のようなものをもたらしてくれた。
可愛らしい花をあしらった髪飾りと、それによって一層引き立つ彼女の清潔感のある艶やかな短い黒髪が、微笑む彼女に帯同するようにしてふわっと揺れた。
彼女は、山辺麻紀ちゃん。
実家はちょっと大きな家だ。『ちょっと』と言っても実はその程度は全然把握できていない。僕にはそもそもどのくらいが『ちょっと大きい』のか『すごい大きい』のかも分からない。
だから、この『ちょっと大きい』というのは麻紀ちゃんの受け売りだ。でも彼女は謙虚だから、やっぱり本当は物凄く大きいのかもしれないけど。まあともかく、僕とはまさに桁違いであるということだ。
少し身長が低めの彼女は手足がほっそりとしていて、短く切り揃えられた髪は蛍の踊りに照らされる夜の川面のように綺麗だ。笑うとすごく可愛くて、ころころと鈴を鳴らされると自分の頬が赤く染まるのが分かる。その笑顔のために僕は何でもしてあげたい。
「だけど、もう伸也さんと初めて出会ってから、随分経つんですね……」
「本当にそうだね。初めて会った時は麻紀ちゃんとこんな風になれるとは思ってなかったよ。いや、違うな、つい最近までかな」
「ふふ、そうですね。私も、つい最近まであまり考えてもみませんでした。……だって伸也さんと一緒にいるのは、私にとってごく当たり前のことでしたから」
「麻紀ちゃん……」
そんな彼女と同じ年に生まれることが出来たのは、僕の生涯で一番の幸運だったのではないかと思う。
ひょんな事で知り合った小さな頃の僕らは、同い年という事もあって一緒によく遊ぶようになった。幼馴染の僕らは、随分長い間一緒だった。そしてその長い間に、僕は彼女を待つようになり、僕は彼女に櫛を手渡したりもするようなり、僕は彼女と一緒にいる間に胸が高鳴るのが止められなくなった。
だけど、その気持ちを麻紀ちゃんに吐露することはなかった。拒絶される事が怖かったというのもあるし、そもそも格が違いすぎる。気まずくなるくらいなら、ずっと黙っておきたかった。
だからある日、もじもじとしながらやってきた麻紀ちゃんの、その隣に立っている大人の人に話を切り出された時はびっくりして顎が外れるかと思うほど驚いた。
その人曰く、麻紀がどうしても嫌だというから――だの、いつも楽しそうに話してるから――だの、決して理想的とはいえないが――だの、何だか長い上に前置きが多くて、不謹慎だとは思うけれど僕も全部は覚えていないのだけれど、要するに言われたことはこうだ。
麻紀ちゃんと結婚しないか、と。
炬燵の向こう側で、その少し日焼けした健康そうな頬をほんのり紅く染めながら、話の間中ずっともじもじと僕の様子を上目遣いに伺っていた麻紀ちゃんに、もちろん僕は一も二もなく返事をした。するわけがなかった。
お願いします! と思わず身を乗り出した僕に麻紀ちゃんは驚いたようにその瞳を広げて、その後一際優しくにっこりと微笑んだ。その隣からは、あらあら……という苦笑交じりの声が漏れ出ていて、それに気付いた僕は恥ずかしくなってしまったけれど。
「あの時の伸也さん、凄い顔をしてて……私、とても驚いちゃいました」
「そりゃあ、もう、何というか……ええと、ごめんなさい?」
「ふふ……それ、おかしいです。伸也さん、私とても嬉しかったんですよ?」
そうして僕らは、大きな大きな約束をした。けれども、まだ夫婦じゃない。いわゆる婚約者だ。
いや、もしかすると婚約者と呼べないものなのかもしれない。
麻紀ちゃんの家に婿として迎え入れられるためには、これから執り行う儀式を乗り越えなければならないのだから。
その内容は、その……十五夜の日に、いわゆる、女の人とイかせ合いっこをして、自分が射精する前にイかせること、らしい。
山辺の家では閨の中では男が積極的に主導権を握って、女を意のままに乱れさせることで子繁盛を導かなければならない仕来りがあるらしく、そのために山辺の男は皆その儀式を乗り越えなくてはならないという。
その儀式を乗り越えて、初夜を迎えることで初めて山辺の家に入ったことを認められるとか。
初めて聞いた時はとてもびっくりした。いや、びっくりなんてものじゃなかった。開いた口が塞がらないというのを実際に体験するとは思わなかった。
その辺りの事を麻紀ちゃんに聞いてみたこともあったけれど、普段の優しくて可愛い麻紀ちゃんはそんな態度をちっとも崩さずに詳細なことを語ってくれた。
他の女の人と繋がることに抵抗があるかと思っていた僕は肩透かしを喰らったと同時に、ちょっと寂しい気持ちになったけれど、よく考えると彼女は子供の頃からそんな儀式に触れていて耐性が出来ていたのかもしれない。
そして、初めて結婚の話を持ちかけられてから一年と一ヶ月。
七月も半ばの満月の日、僕はついに山辺の試練を受け、そして見事に合格して麻紀ちゃんと結ばれるためにここにきたのだ。
「……では、伸也さん」
いつもと変わらない朗らかな声を掛けてしばらくすると、左側を歩いていた麻紀ちゃんの足が止まった。
「ここ、かな?」
「はい。空いているので、立ったままこの奥へお進み下さい。もう相手の支度は出来ていると思いますから」
眩しい日が、大きな障子のその奥に差し込んでいる。
子供の頃は簡単に破けても、大人には絶対に破けない、その脆い紙一枚の向こうに僕の最大の試練が待ち受けているかと思うと少しずつ気が引き締まっていくのを感じる。
彼女の目の前を通るようにして、僕は一歩を踏み出す。
「それじゃあ、ええと、行ってくるね」
「はい、伸也さん。……麻紀は、お待ちしておりますね。あなたが私を迎えにきてくださる、その時を」
麻紀ちゃんは小首を傾げながら淑やかに微笑む。
手のひらを胸にあてながら口にしてくれた彼女らしい励ましを受けて、僕の胸のうちにある負けられないという気持ちが膨らんでいく。
僕は障子に静かに手をかけると、作り上げた身体一つ分の隙間に振り返らずに踏み込んでいく。
障子で仕切られたその空間の中に踏み込むと、足の裏に仄かな陽の光の温かみを感じると同時に、独特の枯れ草にも似た匂いが肺の中を満たしていく。それが、その空間の中が外とは一線を画したものである事を自覚させる。
後ろに麻紀ちゃんの気配を感じながら、僕はそっと後ろ手で内部と外部とを遮断した。
この空間に入った以上は、外にいる麻紀ちゃんの姿を見るようなことは許されないような気がして、僕は振り返らなかった。
さて、奥に向かってくださいと言っていたけれど。
辺りを見回してみたけれど、正面にある襖の他には小さな机が脇に置かれていたり、掛け軸が掛けられているくらいしかない殺風景な部屋だった。掛け軸には何だか乱暴な文字で「かねのないやつ よわいやつ!」と書き殴られている。どんな訓示なんだ?
とりあえず見るべきものもないようなので、僕は心地良く体重を吸収してくれる畳の上を歩きながら襖の前までくると、立ち止まってそれを眺める。
真っ白にこちらと向こうを隔てるその襖は僕が考えている以上にずっと広く大きく行く手を阻んでいるようであり、僕に向かって軽い拒絶の意思を現すとともに、覚悟を問い質しているかのように思えた。
もちろん、出来ているよ。
僕は確かめるように小さく呟きながらその場で正座すると、両手をかけ、意を決してその襖を開け放った。
薄暗い部屋の中で小さな火が二つ、部屋の対角線に置かれるようにしてちろちろと燃えているのが目に入った。
僕は外の陽の光からもう一つ奥の空間へと身体を滑り込ませると、再びこっちとあちらを、今は内と外とを遮断する。
そこで僕は初めて、部屋が思った以上に薄暗いことに気がついた。
ほんの二枚、子供が破けるほどの紙を跨いだだけだというのに、そこはすでに晴天を感じる事もかなわず、僕の知っている場所ではなくなった。
そして四方が閉切られたその闇の中で、二つだけ灯る陽炎のような火が、部屋の中央にいる真っ白な影を浮かび上がらせる。
「お待ちしておりました、楠木伸也様」
二箇所でちらちらと揺れる火の光の、陽に比べて心もとないことと言ったらそれはもう。
そんな中で発せられた言葉は、あまり広くない室内で反響して、僕は背筋を爪を立てて撫でられているような気分になった。
厳かな雰囲気の中で、ある種の怖ろしさと、それだけでは済まない何かを感じてしまう。
部屋の中央に広く敷いてあるのは、布団? ……じゃないみたいだ。似てるけど。クッションだろうか。
「私、此度の儀を務めさせていただきます、蓮と申します」
その中心に座している白襦袢をその身に纏った女性は、薄闇の中で後頭部をこちらに見せながら指を床につけている。
僅かな灯りに照らされるその真っ白な姿は、積み重ねられていく声と相俟って、僕にどこかおぼろげで危険な印象を植え付けはじめていた。
もしそのまま彼女が立ち上がって襲い掛かってきたとしたら、僕は何も抵抗できずに何処かへ連れ去られてしまっていたかもしれない。
そのくらい雰囲気に呑まれていた。
「どうぞ、宜しくお願いいたします――なんて」
……が、いきなり声色が言葉の末で跳ね上がって、僕は思わずその場でずっこけそうになった。
今までのこちらを圧倒するような雰囲気がまるで嘘のように弾け飛んでいくのが分かる。
「こんなものでいいのかしらね、挨拶なんて」
「いや、蓮さん……」
僕が呆気に取られる目の前で、床についていた指を離し、顔をあげておもむろに立ち上がった蓮さんは、悪戯っぽくこちらに向かって笑いかけてきた。
それでいいのだろうか。つられるようにして思わず僕も立ち上がる。蓮さんの笑顔を見るには、僕は少し顎を上に向けなければならなかった。
急に全身の緊張が抜けて、肩ががくんと落ちているのが自分でも良くわかる。
そんな僕の事は全く気にせずにそのまま立ち上がると、蓮さんは少し折り目がついたのか襦袢の端を引っ張っていた。
「ふふふ……まあ、まあ。そんなに堅苦しくする必要もないでしょう? お互いに、知らないわけでもないんだし」
「それはそうなんですけど……いいんでしょうか?」
「いいのよ。この場の一切は私に任されているんだからね。それにこの方が余計な力が入らなくて良いでしょう? 伸也君は」
「まあ、そうなのかもしれませんけど……」
せっかく気合を入れてきたのに何だか拍子抜けというか、がっかりというか、呆れたというか。
そんな考えが表情に出ていたのか、蓮さんはますます目を吊らせながら僕に向かって形のいい笑みを見せる。
「あ、伸也様って呼んだほうが良かったかしら?」
「からかわないでくださいよっ」
「ふふふっ」
ああ、こういう人だったなあ。
予想もしてなかった人が出てきたことに驚きながら、僕は頭の中からするすると記憶の糸を引っ張り出す。
穂積 蓮。それが彼女の名前だ。
蓮さんは僕よりいくらか年上の女性で、知り合いだ。それも、つい最近の。
――そう、彼女は試練の為に備えなければならないけれどどうすればいいのか分からなかった僕に山辺の人から紹介された使用人の一人で、その、何、練習代になってくれた女の人の一人だった。
練習した女の人の中でも蓮さんとは特に多く回数をこなしていて、お互いに――たぶん、よく知っていると思う。たぶんというのは、僕はいつも一杯一杯だっただろうけど、蓮さんがそうだったかどうかまでは分からないから。
「何だか、一気に力が抜けちゃいましたよ」
「あら、それでいいのよ。余計な緊張なんてしていたら身が持たないじゃないの、いざという時の前はそれくらいで十分。――ああ、でも」
彼女はくすりと笑いを漏らしながら、最初の印象と大きく変化したその明け透けな表情から更に一回転するようにして、今度は粘つくような笑みを浮かべていた。
「そっちの方は、いつでも緊張してくれてると嬉しいけれど」
「あ、あぅ……」
蓮さんはそう言って、僕の、とある部分に向けて熱っぽい視線を向けてくる。火に照らされている彼女の濡れた瞳がじっとりとそこに張りつくと、くるくると回転するような彼女の印象の段差もあって、見られているだけなのに手でゆっくりと撫で回されているような変な気分になってくる。
てろてろと鈍く光を放つ赤い舌が口からはみ出して、蓮さん自身の唇をぺろりと舐める。
いつもは長く垂らしているのに今日は珍しく上に纏め上げた髪を軽く揺らしながら、蓮さんは自身の前に後ろに手をかけて、ゆっくりと見せ付けるように前を肌蹴ていく。
たっぷりと柔らかそうな、いや実際に凄く柔らかかった二の腕が焦らすように動いてするすると真っ白な衣装がずれて、蓮さんの色づいた肌が露になっていく。
服の上からでもはっきりと分かるほどの質量を持った膨らみが外気に晒された瞬間にぷるんと震えて、僕は唾を飲み込んでしまう。その豊かな果実の揺れが、空気の振動になって僕の頬をたたいている気がした。
「ほら、どうしたの? 伸也君も早く脱いだ脱いだ」
そのねっとりと誘惑するような視線と裏腹な蓮さんの弾んだ声に僕ははっとしたようになり、慌てて着衣を脱ぎ去りはじめた。
ほとんど完全に我を忘れていた自分が恥ずかしくなる。蓮さんの肌を見るのは初めてじゃないのに、この薄暗い試練が特別に思わせるのだろうか。それとも蓮さんは、今まで僕に本当はそういう魅せる姿をとってこなかったのだろうか。
あと一枚というところに差し掛かった時に、僕はいつの間にかすっかり勃起し始めてしまっている事に気付いてしまった。
なんということだろうか。
僕が最後の砦を剥ぐことに躊躇していると、目の前で大部分の肌をすでに晒している蓮さんがからかうような視線でこちらを見つめていた。
いつまでもそうしてるわけにもいかずに思い切って下着を脱ぎ去ると、その反動で僕の大切な部分が頼りなさげにふらふらと揺れている。
「ふふ、もう興奮しちゃった?」
完全に勃ちあがっちゃったっていうわけでは、ないと思う……。
多分。
けれど確かに僕のものは、扇情的な蓮さんの姿を見て自己主張を始めてしまっていた。どうしてこんなに節操がないんだろうかと思うんだけど、無理だ。
おぼろげに揺れて、白い紙越しのぼんやりとした火で照らし出される蓮さんの身体はひどく蠱惑的だった。見せ付けるように組まれた足の、そのむっちりとした太腿の付け根は薄闇の中ではっきりと見えず、それが寧ろ明瞭に僕の想像を掻き立てる。
そんな薄暗い妄想を振り払うようにして僕は頭を振ると、改めて蓮さんに向き直った。
落ち着こう。
蓮さんとは何度も肌を合わせた。すごく経験があるのも分かってる。平静じゃない事を見破られるのは決して彼女が特別だからじゃない。
「嬉しいけど、大丈夫かな。そんなんじゃあっさり終わっちゃうかも」
「大丈夫ですよ。絶対に蓮さんを気持ちよくしてみせます」
人差し指を頬に添えながら苦笑するようにそう言う蓮さんに、僕は明確な意思をもって、そう答えた。
麻紀ちゃんと約束したんだ、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。それに今まで蓮さんにはよく練習を付き合ってもらっていたんだ。ここで彼女に負けてしまったらそれこそ申し訳が立たない。
僕の答えを聞くと蓮さんはその苦い笑いを嬉しそうなものにすり替えて、組んでいた足をゆっくりと直立に戻していった。
「そう。それじゃあ始めようか。かかっておいで、伸也君」
降ろした両腕をそのままゆっくりと広げて、僕を迎え入れるような格好になる。
「すぐにびゅうびゅう吐き出させて、君がお嬢様の前で顔を上げられなくなるくらい、悔しくて気持ちいい思いをさせてあげるわ」
火に照らし出された陰影が、ゆらゆらと、或いはふわりと揺れる。その影の主である蓮さんの姿は薄闇だというのに僕にはとても眩しくて、そんな彼女が放った言葉をまるで予言のようだなと思った。
そんな事にはなってたまるか、とも。
僕は足元までしっかりと服を脱いでいることをもう一度確認すると、部屋の中央から広い空間に敷かれている、その柔らかい布団のようなものに足を踏み入れた。思った通り、布団とは違う。でも心地良く足の体重を軽減してくれるそれは、走ったりするのにも何の支障もない。と思う。
足元を二、三度確かめるように踏みしめながら、僕はたっぷり必要以上に時間を使って足元を確かめると、改めて蓮さんに向き直った。微笑をまるで崩してないように見えるけど、どうだろう。
蓮さんによる試練の合図は始まったけれど、別に動かなくちゃいけないわけじゃない。多分。時間はいっぱいあるって聞いたし。
その柔らかい両手を広げながら僕を待ち受ける蓮さんは狡猾な蜘蛛というよりは孔雀か、そうでなければ羽を広げた白鳥か何かを連想させる。
そしてその柔らかな印象がある美しさの中で、だからこそ余計に引きつかれるおっぱいが、時々僕を誘うようにたゆんと揺れる。
ちょっと気を抜くと、その魅惑的な自由運動を目で追ってしまいそうだった。
「ふふ、気になる?」
「え、あ、ええと、まあ」
……ちょっと追っていたみたいだった。
両手を広げた彼女の懐は、きっと印象通り柔らかいのだろう。何の準備もしないで踏み込んだら、きっとそのおっぱいと身体でむにゅむにゅと虐められてしまっていたに違いなかった。
とはいえ、このままこうしていても埒があかないのも分かっている。近付かれて抱き締められたって結果は同じだ。
落ち着いて、息を吸って、吐いて、吸って……
「……もう。寂しいわ、来てくれないのかしら――」
今っ!
長いこと時間を掛けたせいで焦れた蓮さんがその両手を降ろした瞬間を狙って、僕は思いっきり前を向いたまま足を蹴った。
そのまま蓮さんの傍に飛び込むようにして、その特別大きなおっぱいを一息に手で掴む。
「やんっ……いきなりおっぱい掴んじゃって、もう。そんなに好きなの?」
「嫌いな人っているんですか……?」
「さあ、どうかしらね……んっ、ぁん」
すぐさま蓮さんの手が僕の背中に回されて、抱き締められるような体勢になる。それは分かっていた。でも隙を突くことができて、少しでも蓮さんが驚いてくれたならそれでも益がある。
蓮さんが練習の時にどうだったのかは分からないけど、僕が練習の時とは違うんだって事を見せなきゃならないんだ。
僕は内心息巻きながら、両手で掴んだ――というより、蓮さんのが大きくて添えるって風だけど――おっぱいを、ゆっくりと捏ね回しはじめた。
力を入れすぎないように、円運動を心がけながら、芯を溶かすようなイメージでやらかいその中に手のひらを埋めて、少しずつ指にも力を入れていく。
蓮さんの大きなおっぱいはそんな僕の指を容易くその中に埋めるような柔らかさを持っていて、同時に揉んだりつついたりすると、餅と蹴鞠を合わせたような心地良い手応えが返ってくる。
放っておくといつまでも揉みたくなるような変な気分になってくるけれど……でも、我慢だ。
おっぱいは揉むけれど、気持ちよくなるのは僕じゃない。
「ひゃ、んっ」
ちょっと気をそらしていたら、僕のお尻に生暖かいものが触れた。
背中に回していた蓮さんの両手のうち片方がゆっくり下りてきていたのだ。僕がしっかり胸を掴んでいるものだから、ぱふぱふをするのは諦めたのかもしれない。それはそれでほっとするけれど……。
「あらあら、お尻で感じちゃう? 撫でているだけなんだけれど……ふふ」
その細い指と手のひらでお尻の上から下までをゆっくりと撫で擦られてしまって、思わず声が漏れてしまう。
その手にところどころある、まめのあとも、今は独特のアクセントにしか感じられない。
「んー……」
お尻の方に気を取られていると、今度はいつの間にか蓮さんの綺麗なかんばせが上から迫ってきている! その紅い唇を僅かに窄めるようにして、僕の唇に吸い付こうとしてきているのだ。
どきりと胸の奥で高鳴る何かを感じながらも、僕はどうにかそれを避けて、すれ違い様に頬にキスしてみた。
一旦離れた蓮さんは、やんちゃな子供の面倒を見るかのような困ったような表情をしていた。けれどその息は乱れ始めていて、手を少しおっぱいに押し込むと、柔らかい弾力と一緒に彼女のくぐもったような声が返ってくる。
感じているみたいだ。確かに、こんな事をしている僕はやんちゃ……なのだろうか。
口を吸おうとしてきてるのか、また唇が落ちてくるけど、もう一度冷静に避けながら今度は逆の頬へキスをしてあげた。
その次はあご、その次は鼻の頭、その次はまた右頬……なんだか蓮さんはちょっと頑固だ。執拗にキスしようとしてくる。
「もう、キスしてくれないの? 切ないなぁ……」
僕が蓮さんと肌を重ねて得ることができたことの一つは、彼女の口吸いを受けないという選択だった。避ける事が出来るものなんだから、無理に受けることなんてないはず。
「そう言われても、困りますけど……蓮さん。切ないのって、ここのこと?」
その代わりに僕も両手のうちの一つである右手を腰の下に降ろすと、蓮さんの太腿にそっと指を這わせた。
「ひゃん、んっ」
左の手のひらで乳首を磨るようにぐりぐりしながら、僕は太腿につけた手をセトモノを触るように慎重に撫で回しながら、その付け根に思い切って触れた。
その瞬間にびくりと蓮さんの身体が震えるのが分かって、僕は安堵と、確かな手応えを感じて息をつく。
指の間で優しく入口を擦ってみると、びらびらとした肉のすだれのような感触が指に跳ね返ってくる。さすがにまだ、その……愛液は滴ってるほどではないけれど、しっとりと濡れてはいた。
「やだ……本当、随分えっちな指づかいを覚えたのね、伸也君は。いやらしいんだから」
「蓮さんの方こそ、凄くいやらしいじゃないですか。こんなにもう……お、おまんこ、濡れちゃってますよ?」
「あら、失礼しちゃうわ。……ふふ、私が何を……ぁん、してるって?」
熱に煽られたように少しとろんとしたような瞳をしながら蓮さんはそう言うと、お尻を撫で回していた手がつつっと腰回りを這うようにして、気がつけばおちんちんが握られてしまった。
蓮さんの頬に朱が差して、その朱に炙られるように崩れた表情は綺麗で、いやらしくて、いつも吸い込まれそうな気持ちになる。
でも、今はだめなんだ。
僕は蓮さんのその表情と相対しながら、どうにか撥ね退けるようと言葉を絞り出す。
「だ、だから……お、おまんこ濡れちゃって……」
「ふふふ。恥ずかしがってるような子に、私のおまんこを本当に気持ちよくできるのかな? ほら、私のおまんこきゅんきゅんしてるよ……もっと弄って?」
蓮さんは熱がこもったような息を僕の首筋に吹きかけるようにしながら、誘うように身体をくねらせてわざわざやらしい言葉を強調する。
うう……まだ慣れてないのに……恥ずかしいんだってば。
蓮さんは挑発するような事を言って柔らかく身体をくねらせながらも、僕のおちんちんに添えられた手はそこだけ別の生き物のように動き回っている。
指と指の間にきゅっと握られたまま擦られて、時々思い出したように裏の辺りが優しく爪を立ててくすぐられる。
負けちゃだめだ。ここまでせっかく上手くいってるんだから。
僕は心の中で自分を叱咤しながら、力づくにならないように注意して蓮さんの下の唇に指を滑り込ませた。お腹の下の方にある感触は、その頃にはすっかり膨れ上がってしまっていた。
「ん……はぁ、伸也君の指のカタチ、はっきり分かるよ……は、ぁ、んっ……」
「ぁあ……蓮さんの奥から、とぷって、絡み付いてきて……凄い……」
中に入りこんだ指で解すように擦ったり、混ぜるように捻ってみたりを繰り返すと、あっという間に奥から蜜のような粘液が溢れて、中身がぐちゅぐちゅになっていく。
いや、中身だけじゃない。溢れ出すその蜜は指を伝うようにして、僕の甲や手のひらまでも侵食されていくのだ。
蓮さんの近付いた身体から髪から、何か甘くて、どこか鋭い匂いが立ち込めてくる。
水飴にも似たその粘液が指に手にぬるぬると絡み付いてくると、その匂いが鼻に充満していることもあって、何だか無性に手にとって舐めたくなってしまう。
だめだってば。
僕はそんな馬鹿馬鹿しい発想を打ち消すように頭を振りながら、両手の動きと、蓮さんの奇襲に意識を集中させる。
けれど、一度思いついたその卑猥な想像は、僕の胸の中に何かじんわりとした痺れを残し続けていた。
「んー、ぁん、あっ……ふふ……どうかしたの? そんなに首を振っちゃって、私何か悪いことしたかな?」
「いえ、し、してませんから……」
「してませんから、何?」
「何でもないですっ」
にやにやと心底楽しそうに笑いながら、蓮さんは僕の下腹部に巻きつく手の動きを段々と速めていく。
僕が心の中で考えてることなんて分かるはずがないと思うけれど、そんな蓮さんの様子を見ていると、ひょっとしたら全て見通されてるんじゃないかとも考えてしまう。
亀頭にぷちゅっと柔らかい感触が走ったかと思うと、ぬるぬると滑りながら先っぽの部分を刺激されて、僕は思わずのけぞった。
透明な……我慢汁が出ちゃってるのか。
それに気付いた時には、蓮さんはぬるぬるとその透明な粘液を手の中で広げて、塗りこむようにしておちんちんに擦りつけてくる。
にゅるにゅると細い手が躍って、僕のおちんちんがその中で弄ばれて、思わず腰が浮きそうになるくらい気持ちいい。
蓮さんは手元も見ていないのに。
「ぁん……ふふ、もうぬるぬるして……これ全部伸也君にぬりつけて、たっぷりしこしこしてあげるね?」
「あ、あぁ、ぅあ……はっ……」
「ふふ……ぬるぬるのべとべと、どぉ? まぁ、……ぁん、伸也君のおかげで私はぐちょぐちょだけど、ね、」
そう、気持ちいいのは仕方ない。それまでに相手を追い詰めればいいんだ。
自分を叱咤しながら、僕は今までじっくりと撫で回していた両手に力を込めて、与える快感を強めていく。
時々忘れた頃にやってくる接吻をどうにか避けながら、左手で思い切っておっぱいを揉みしだくようにしながら、陰唇を弄くっている右手の指をもう一本増やした。
危惧したよりもずっとあっさりと、にゅるんと膣内に呑み込まれてしまった二本の指で、びっしり備わったひだひだに押し付けるように刺激を加える。
時々緩急を意識して二点責めを緩めながら、ひたすら蓮さんを気持ちよくしようと、自身の快感に耐えながら責め続ける。
そうだ、蓮さんは片手落ちのまま僕のおちんちんを責めるだけ。
でも僕はぴったり張り付いたまま、その大きなおっぱいと、下の唇を責めているのだ。そして接吻は避ける。
この状態で、負けるはずがない。
「はぁ、うぅっ……あっ、あっ」
「ふふ……ぁんっ、やっ……気持ちいいよ、伸也君っ……」
負けるはずが、ないのに。
その細い指から、柔らかい手のひらが股間に熱心に絡み付いて、捻るように刺激を加えられるとどうしても声が漏れてしまう。
蓮さんから薫ってくる甘い匂いが漂い、艶かしい嬌声が上を過ぎていくと、頭の奥がぼうっとしてしまいそうになる。
気持ちいいっていう声を、たまらなさそうな声を蓮さんはあげているのに、肝心の切羽詰ったものが全然聞こえてこないのは何故なんだろう。責めても責めても手応えがないように感じられて、僕は焦りそうになる気持ちを抑えるので精一杯だった。
左手で掴んでいるおっぱいが、むにむにと心地良い感触を返してくるのが恨めしい。
「あっ、だめっ……蓮さん、そこ、ぁっ」
「はぁ、ふ……何がダメなのかなぁ、伸也君……ひょっとして、ここのこと?」
「あぁあっ!」
とうとう心の中で考えていただけの弱音が口をついて出てしまって、蓮さんはすかさずおちんちんの、段差の部分をやわやわと締め付けてきた。
あまりに気持ちよくて、僕は左手でしがみつくようにおっぱいを五本の指でしっかりと掴んでしまう。指を沈ませるようにして受け容れてくれるおっぱいが気持ちいい。
蓮さんはそのままくすくすと悪戯っぽく笑いながら、そのまま快楽を引き出すように茸の傘の裏の部分を指で擦りあげ、気持ちいい部分を抉りたてられる。
「あ、あっ……そんなっ……!」
「ふふ、もうダメなのかな? 手がお留守になってるよ。おっぱいは必死に揉んでくれて、気持ちいいけどね……?」
このままじゃ、だめだ……!
心の中で僕は叫ぶ。
けれど、それだけではどうしようもない。まだ敏感なのに、いや一生敏感なのかもしれないけど、先っぽの部分をくりくりと刺激させられて、根元の部分をくすぐられて、力が抜け落ちていくようだった。
反撃しなくちゃ。僕の二本の指は蓮さんの膣内に入ったままなんだ。思い切って指を動かすけれど、ぐちゅぐちゅと鳴る音がどこか他人事みたいに遠くに聞こえる。
それだけでは勝てなかったのに、今更責めたってどうしようもないんじゃないか。
何か、何かいい方法は……そう思う僕の目の前に、無意識に動いていた左手に揉みしだかれているものが目に入る。鞠みたいに形が変わる、その大きなおっぱいの先端、ほんのり桜色の……。
「ん……私の乳首、吸いたいのかな? 吸ってみる?」
「ぇ……」
桜色のそれが、蓮さんの提案と共に可愛らしくふるふると揺れていた。
誰のものなのかわからない喉が、ごくりと鳴った。
「ふふ、いいかもしれないわね。負けたくないんでしょう?」
「ん、んんっ……」
「私もおっぱい感じちゃうもの。知ってるでしょ? 先っぽをね……舌でぺろぺろして、ちゅーって吸われたら、悶絶しちゃうかもしれないわ……」
蓮さんの熱がこもったような、執拗な粘着質の声色が僕の耳の奥、頭の中に飛び散ってこびりつく。
おちんちんが手のひらに包まれて、くちゅくちゅと音をたてながら弄ばれる。亀頭が人差し指ではじかれて、頭の中が痺れる。痛みではなく気持ちよさに。
どうしようもない行き詰ったものを感じている僕にとっては、蓮さんのその提案がひどく魅力的なものに思えてしまっていた。
そうだ。
どうにか逆転を狙うためなら、何か手を打たなければならないんだ。きっと僕の片手でおっぱいを揉むよりは口で責めた方がいいに決まっている。
……いや、そもそも左右にあるんだから両方で責めることもできるじゃないか。
それを思いついた時、僕の心がまだ一段と高鳴った。同時に何か鋭利なものが、頭の中で引っ掛かって派手に警戒音をかき鳴らしていた。
本当にこのままでいいのか?
「さぁ、おいで……」
蓮さんがすぐ近くでそう囁きながら、おちんちんを握っているのとは逆の方の手で背中をゆっくりとさすってくる。
温かみのあるその手に、こそばゆさと同時に安心感のようなものを感じる。
いや、蓮さんの言う事に従うわけじゃない。あくまでこれは勝つためなんだ、そう、勝つために今は責める場所を少しでも増やすしか……。
どうにかしなければいけないのだから……。
だから、僕は――。
「あ、ひうぅうううん……っ!」
悲鳴にも似た嬌声が、小さな密室の中で反響した。蓮さんには珍しく、普段の優しくも茶目っ気なそれが裏返ったような声。
その空気の振動が、はっきりと蓮さんが快楽に流された事を何よりも明確に僕に伝えてくれて、おかげで少しは正気に戻ることができた。
顔を寄せてきていた蓮さんの顔を快楽に歪ませ、その身体をのけぞらせたのは吸い付いた僕の唇――というわけではなかった。
僕は危うくその可憐な桜色の誘引剤に捕われる憐れな虫になるところで、左手の指で蓮さんの乳首を力の限り抓ってやったのだ。
正気に戻っていたとは言い難かったから、力加減をする余裕がなくてとりあえずの出せる限りの力を出してしまった。痛がられるかと一瞬頭の片隅で思ったけれど、僕が脱力していたせいなのか、それとも元々蓮さんがこういうのも好きなのか、予想外に気持ち良かったみたいだ。
……そうだよね?
もう一度だ。
螺旋回しを戻すように乳首から一旦指を離して、今度はそのこりこりとした感触を、逆の方向に向かって捻りあげた。
「あ、ひぅっ……ぁ、らんぼぉおお……っ!」
「蓮さん、いきますっ!」
……ついまた精一杯の力でやっちゃったけど、結果は吉と出たみたいだ。蓮さんの身体はびりびりと痺れるようにして弛緩していて、おかげで僕のあれを弄る手まで止まっている。
この機会を逃がしちゃいけない。
どうすれば適切なのか分からなかったけど、僕は心より先に身体が動いていた。足を蹴り、えっちな場所を弄っていた右手を一旦抜いて腰を押し出し、蓮さんに飛び掛るようにして一気に体重を重ねる。
蓮さんの足は踏ん張ろうとしているようだったけど、すぐにぐらりと傾くと、腰の位置から尻餅を打つようにして倒れこみ、僕はその上に覆い被さるような形になった。
やったっ!
「ぁんっ、も、やっ! んっ……!」
蓮さんを下に組み敷いた体勢のまま、僕は彼女のこんもりと盛り上がった二つの弾力に両手を伸ばす。この状態から出来る事はずっと多いのだ。
乳首に手を伸ばすように見せかけて、無意識なのかそれとも意識してるのか、蓮さんの上半身が逃げるようにちょっと反ったところでたっぷりとしたおっぱい全体を強く、揉み洗いする要領で弄り倒す。
揺さぶるようにして腋の辺りとか、鎖骨とかになぞるように手を這わせていくと、それが余計におっぱいへの激しい刺激を高めるのか、蓮さんは喘ぎ声をあげながら散々に乱れはじめていた。
時折首を反らすようにしながら、口をぱっくりと開けて口中の仄暗い闇と桃色を覗かせる様子を見ると、そのたびに自分の心が不思議と満ちていくのが分かる。
このままなら、蓮さんをイかせられるかもしれない。
僕の意識が責める事に集中して無意識に身体を思わず浮かせたところで、腰に何かが絡み付いてきた。
次の瞬間には、無防備だった僕のそれに柔らかい感触が吸い付いてくる!
「ぁ、ぁん、やっ、んっ……もう、乱暴なんだから……」
「はぁ、……ぁっ!」
腰に絡み付いてきたのは、蓮さんの足だった。適度についた柔らかい感触が僕を締め上げて、そう簡単に離してくれそうにない。
僕のものに吸い付いてきたのは、蓮さんのおまんこだった。もう僕が弄くってびしょびしょになったその淫らな肉が、下腹にくっつくように押し上げられた僕の竿部分にぴったりと吸い付いてくる。
仄暗い闇の中でじっとりとした光がのぞく小さな水珠をいくつも流しながら、蓮さんはなお不敵に笑っていた。
「ふふ……おまんこ、くっつけちゃうわよ……ほらぁ」
「は、はぅぅ……、こ、こんなもので……っ!」
「や、ぁあんっ! すご、激しっ……だめ、そんな、力一杯揉んじゃだめぇっ……」
ううう……すごく気持ちいい。
押し付けられてるだけなのに、器用に足を使いながら押し付けられる蓮さんのおまんこの表面と、ぱっくり開いているであろうその内部は、僕のそれをべろべろとしゃぶるように押し寄せてくるのだ。
一生懸命おっぱいを揉んで、乳首を指で弾いたり抓ったりしながら他の部分を責めてあげると蓮さんは切羽詰まった嬌声をあげて感じてくれているのだけれど、お尻の上で踊るように動き回る的確な足の動きは弱まるどころか、寧ろますます妖しげな動きになっていってるような気がする。
「ぬるぬるして、気持ちいいかな……? ふ、ぁああんっ!」
「れ、蓮さん……あ、ぅぅっ……!」
くちゅくちゅと、何かを混ぜ合わせるような音がさっきから下半身で響いていて、それが頭の奥で離れてくれない。後から後から響いてくるいやらしい音が僕の中で蓄積されていく気がする。
音がしているのは僕の我慢汁なんだろうか、それとも蓮さんの? それとも、両方のものが交じり合って?
考えちゃ駄目なのに、一旦考え出してしまうともう止まらなかった。今までの沈澱していたような快楽が噴き上げるようにして、僕と蓮さんの性器が擦れ合う姿を想像してしまう。
「蓮さんのおっぱい、ぁっ……いつもよりもいやらしくて、酷い……っ」
「酷いって、なに、よぉ、伸也君が強引にするからでしょう……あ、あぁんっ!」
それでも必死に目の前のことに集中した。おっぱいに手のひらで弧を描き、頂点にある乳首を今度は親指でぐりぐりと潰すように刺激する。
しかし、目の前の事に集中するのはそれはそれで苦難の道だった。
蓮さんのおっぱいは揉んだり弄ったりしていると、段々気分が変になってくるのだ。揺れる桜色の小さな突起はさっきよりも激しく揺れ、立っていた時に感じたあの甘い囁きが思い出されて頭の中が蝕まれていくかのようだった。彼女の乳首を直に触ったせいで、こりこりとしたその、乳房とは違う魅力的な感触を手に取ってしまったせいで余計にその欲求が強くなる。
蓮さんが顔を紅潮させながら、僕が弄ってあげるたびに耐え切れずに声を漏らすその様子に、鎖骨の間で何かがきゅんと鳴り響く。首を振る彼女の背後で、纏められた髪が汗によってきらきらと火の明りを反射しているように見えた。
「ぁふ、ぁんっ……! 私のおまんこが、伸也君のを舐めてるよ……ふふ、美味し……」
「ぁ、ふぁああ、ぁ……! そんな……ぁっ!」
そして、駄目だと思って頭でも振ると、下半身から這い上がってくるような快感が待ち受けていて、僕を苛む。
細やかな肉の襞と、整えられた陰毛の微妙な感触と、そんなはずはないのに段々大きくなっていく気がする卑猥な音とが頭の中を占めていく。
おっぱいを揉むことの心地よさも、乳首を抓りながらも口に咥えるのを我慢しているもどかしさも、他の事も全部ひっくるめて、そのにちゃにちゃとした音に吸い寄せられるように向かっていく。
それは。
「ね、伸也君……ふふ……」
「ぁ、ぅ――」
蓮さんは何も言わずに、ただその視線だけで僕に話しかけた。熱い。見つめられてるだけで瞼の奥が蕩けそうだ。
嬌声にかき消されてというわけではないけれど、僕には彼女が言外に何を言いたいのかが、それだけでよく分かってしまった。
いや、気のせいかもしれない。
そんなわけがあるか。
僕は目の前で寝転がっている蓮さんの、腹の部分から首筋まで豊かな稜線を描くその頂点に両手をあてると、強く揉みしだいた。
蓮さんの微笑が嬌声に掻き消えて、同時にまた僕のおちんちんがぬるぬると擦りあげられる。今度は少し角度が緩い。
快感でとうとう足が脱力したのだろうか。
いや、そんなはずはない。蓮さんがやったのだ。
「こんなにもう、がちがちに堅くして……伸也君の、凄いわ……ぁ、ん、擦れて濡れちゃう……ふふ」
「ぁぁあ……」
思えば蓮さんとはそういう事をしたことがなかった。他の人とは何度かしたけれど、彼女には他の場所でされただけだ。その事実が今になって、頭の中を占めていく。だから何だというのか。
下半身が今度はちろちろと啄ばむように舐められて、僕は思わず声を漏らした。足を器用に動かしながら、亀頭付近を嬲っているのが分かる。その淫らな肉のすだれ。
さらにその中身の、僕の指が二本がかりで確かめたびっしりと蠢く襞、ひだ、ヒダ。
「ふふふ……さぁ、どうするの……? おっぱいをまだもみもみしていたい? それとも……」
もし僕が仮にここでそういう風に腰を引くようにしたとしたら、蓮さんはあっさりと絡みついた両脚を力を緩めてくれるだろう。
蓮さんは微笑を浮かべながら、僕と相対した時にそうしたように、ちろりと唇を舌で舐めた。くすくすというその声が、脳味噌を直接くすぐるかのようだった。
「……っ」
僕はぼんやりとした頭の中で、尤も大切なイメージを思い浮かべた。
頭の中に僅かに残っている、溶けない氷のような冷えた部分が少しずつ頭の中に浸透していく。
真っ暗な闇が仄かに桃色めいた甘い世界のなかで、少しずつ光が点を打つようにして、像が作り上げられていく。
「いきますっ!」
それが完成するのを待つ必要はなかった。
僕は迷わず、思考の中から直接飛び出すように身体を動かして、おっぱいに乗せた両腕でもう一度、渾身の力を込めて乳首を巻き込んで磨り潰すようなイメージで、そのあまりにも卑怯な膨らみを捏ね回した。
「あ、ぇ、ちょっと……ひぁ、ん、あぁんっ!」
蓮さんにとっては予想外だったのか、それとも単純に快感に耐えられなかったのか、再び身体が弓なりに反った。
ここだ!
今までなら蓮さんが仰け反るだっただろうけど、彼女は足の力を緩めていたのだ。
僕は頭の中で指を鳴らしながら、かなり強引に両脚の膝を、僕に絡み付いている蓮さんの足の内側へと潜り込ませる。
「蓮さん、今度こそ絶対にイッてもらいますっ!」
そのまま彼女のおへその辺りに圧し掛かる様にして、僕は片方の手を素早く後ろにやった。
落ち着け。
蓮さんとは何度もしてるんだ、見えなくたって、できないはずはない。
呪文のように心の中でそんな事を唱えながら、僕は素早く手を伸ばす。その時間が現実にどのくらいだったかは分からないけれど。
「ぁ、ひぃいいい……っ! ん、ぁっ、そこは……っ!」
果たして僕の手は、いや指は狙い違わず、蓮さんの股の付け根に位置している薄皮に覆われた真珠のようなそれを掴み取っていた。
もう容赦はできないし、しているような余裕もないのだ。
額から流れ落ちてきた汗を振り払うこともせずに、僕は片手で彼女のおっぱいを責め、片方の手でしっかり摘んだ珠を、陰核をくりくりと刺激する。
「ぁっ、ぁっ、待って、ちょっと、ぁんっ!」
「いやです、待てません。蓮さん、そのままイッてくださいっ……!」
さすがの蓮さんもばったばったと身体を暴れさせるけど、この体勢では出来ることは限られているだろう。とはいえ気は抜けない。
このまま一気にイかせてしまおう。
スパートをかけるように五本の指を目一杯に広げて反則的な膨らみを手にしながら、陰核を摘んだ指を擦り合わせて刺激する。
「ぁっ、ぁっ、ぁあんっ、い、いくっ、だめ、あぁああっ!」
今まで溜まっていた快感もあるのだろう、蓮さんの喘ぎ声は僕の一動作ごとに強く高く、そして感覚が狭くなっていく。
その継ぎ目継ぎ目を探しながら、僕は彼女の最高潮を見計らって思い切り乳首と陰核とを抓り上げた。
もちろん、力の限り。……ちょっと陰核は手加減したけれど。
「あぁぁぁあああーーっ……!!」
とうとう蓮さんは臍の上にいる僕を跳ね上げるのではないかと思うほど身体を反らしながら、その口から絶叫をあげた。
やった。やったんだ!
達成感に打ち震える僕の目の前で、弓なりに反らされていた蓮さんの背中が元に戻っていく。
その口元からはこぼれ落ちた涎がてらてらと光っていて、行為の最中とはまた違った意味でとろんとした瞳が僕のことを優しく見つめていた。
「ん……イッちゃった……。ふふ……気持ち良かった、よ」
「ぁ……あ、ありがとうございますっ」
蓮さんに見つめられると、僕は試練を達成したことや彼女をイかせたことによる達成感やら喜びやらで、何が何やらだった。
そう、これで僕は試練を正式に乗り越えたことになるのである。
「ありがとうついでに、ちょっとそこを退いてくれるかな……?」
「え? ……あっ!」
一人で舞い上がっている僕の下半身に視線が寄せられている。
その意味が何を表しているのかを知って、僕は慌ててその場を飛び退く。
「ご、ごめんなさい……」
「ふふ……まあ、伸也君結構軽いし、そのままでも構わないといえば構わないけれど……?」
「ぇ、あ……え?」
頭を下げている間に、身をゆっくりと起こした蓮さんの声色に、笑顔に、艶っぽいものが混じり始めていた。
ほっとしたところに再び何か、得体の知れないものでくすぐられて、僕は何が何だか分からなくて、けれども何故か一瞬どきりとしてしまう。
そんな僕の気持ちを見越したのか、それとも単純に何かの気まぐれなのか、蓮さんは次の瞬間にはただの優しそうな表情に戻っていた。
「さて。……私の試練、正式に合格おめでとう。伸也君」
「ぁ、と、ありがとう、ございますっ」
改めて正式に言われると、何か言葉にできないような感情が交じり合いながら胸を一杯に満たして、それ以上のことは言葉にし難かった。
これが感無量っていうものなんだろうか。
けれども、これだけは口にしておかなくちゃいけない。僕は頭を下げたまま、目の前の人の姿を思い描いて、今ここと心の中とで精一杯二重にお礼をした。
「本当に今までありがとうございました、蓮さん。付き合ってくれた皆さんにも、本当に」
「ふふ……どういたしまして。でも、さすがにそれは気が早いわよ? お礼は全てが済んでからの方がいいんじゃないかしら?」
「す、すみません……そうですね」
ちっ、ちっ……と指を振りながら、僕に諭すようにして蓮さんはそう口にした。
よく考えてみればそうだった。何だか蓮さんをイかせたことで、途轍もなく自分が舞い上がってしまっているみたいだった。
まだまだやることは残っているのに、こんな事じゃいけないな。
僕が蓮さんの言葉に気を引き締めていると、彼女は絶頂を迎えたばかりだというのにその場ですっくと立ち上がり、後ろ姿を見せようとしていた。
蓮さんの立ち姿は、乱れていたことなんて最初から存在しなかったかのように、わずかな乱れもなかった。ただそのいたるところに付着しているぬらぬらとした粘液と、渇いた何かが、灯りに照らされて確かな淫猥の跡を残している。
僕はそれを打ち消すようにして、今日何度目かわからないけれど、頭を振った。
「用意はしてあるから、ひとまずゆっくり休んでね。夜の本番に備えて」
「はい……」
そう。
試練はまだ、終わっていないんだから。
用意された部屋でゆっくりと休むと、しばらくは興奮したままだった身体もずいぶん落ち着いた。
この屋敷は余計な音がしない。それにあちこちに手入れが行き届いているけれど、それが訪れる人に緊張感を与えるようなものじゃない。不自然なくらい綺麗に片付いた人の匂いのしない部屋じゃなくて、適度に人の暖かさがあるのだ。不思議と落ち着く。
試練の事があるからか、姿を見せるのも年が離れた少女とか、或いは男の人ばかり。
正直に言って、これは有り難かった。試練の内容が内容だけに、もし綺麗な女の人が出てきたりしたら、きっと蓮さんの事と、これからの試練の事を思い出して気が気でなくなってしまっただろうから。
用意された本でも読みながら、時々庭を眺めて、お日様の暖かさを感じながら過ごす。そんな風にしていると、気がつけば日は完全に落ちていた。
そうして暫くすると男の人がやってきて、とうとう僕は呼ばれることになった。
ひたひたと廊下を歩きながら、屋敷の一角にある部屋へと向かう。真夜中になると満月がよく見えるそうだ。
ここで食事をするらしい。
もちろんただの食事ではない。
といっても、食事に毒が盛ってあったり、究極と至高の料理対決が行われたり、ましてや女の子が囲んできて色仕掛けをしてくるなどという事はない。というか、そんな事になったら僕は逃げたい。
内容が問題なんじゃない。食事をする相手が、一番の問題なのだ。
十五夜の日は、月が最もその力を持つ日。
その十五夜の満月の下で――下でと言っても勿論野外の方ではない――この試練を行うことが慣例であるらしい。
いわば真昼間から行っていた蓮さんとの『試練』は、第一の試練とでもいおうか、前座といおうか、要するにそういうもの。
その前座を終えたものは夜が訪れるまでゆっくりと静養し、満月の下で行う、いわば本当の『試練』の相手としばしの時間を共にしてから試練に移る。
試練を二回も行う理由が僕にはちょっとよくわからないけど、そういう決まりだと説明されたのだから仕方がない。ひょっとしたら、まぐれで勝ってしまうのをある程度防ぐためかもしれないけれど。
そういう事を確かに以前から聞いてはいた。聞いてはいたけれど、部屋を仕切る襖の前で改めて不安になっていた。
はぁ、と思わず溜息が出てしまう。……一度くらいはいいよね?
多分軽いんじゃないかと思われる前座の内容ですら、蓮さん相手に必死になって責めて勝ち取ったものなのに。
これ以上の試練なんて、一体どんな相手が出てきてしまうんだろう?
僕はせめてついさっき考えたまぐれで勝ってしまう事の防止で前座が作られたことを、つまり一の試練も二の試練もあまり相手の技量が変わらないんじゃないかという希望的観測が的中している事を祈った。
なんて後ろ向きなのかと思われるかもしれないけれど、結婚が掛かっている僕は切実である。
とはいえ、いつまでもこうしていても仕方ない。呼びに来た男の人は、僕に向かって一礼すると襖の前であっさりと踵を返してしまった。自分で覚悟を決めてくださいということらしい。
「仕方がないな……」
僕はその場にゆっくりと腰を下ろして、脚を組んで正座した。ひやりとした感触が脛から腿から全身に伝わってくる。
そっと中を窺うのも失礼だろう。僕は深呼吸をして覚悟を決めると、一気に、しかし極力音を立てないように慎重に襖を開け放った。
部屋の隅の方、簡素な机のようなものにもたれるようにして、彼女はいた。
僕の方から見ると横顔になる。
しかしその横顔からでも、はっきりとその顔の全体像を僕は想像することができた。できてしまった。
小さな顔に、整った目鼻立ち。
季節感というものを完全に無視している紅葉の髪飾りで彩られた肩まで伸びる髪は、やはり夜の川のよう。
その瞳は試練の前だというのに気だるげで、その口は中途半端に開かれたまま何を喋るでもなく空気を漂わせている。
つつじ色の着衣を纏ってはいるが、かなりだらしなく着崩れていて、中身がはみ出そうになっている。というかこれは、もしかして浴衣なのかな?
色んな意味で面食らっている僕に、その三時のお昼寝直後のような気だるげな視線が向けられる。
僕は礼儀なんてすっかり頭から抜け落ちたまま、ほとんど反射的に彼女の名前を口にしていた。
「山辺、麻耶――ちゃん?」
「ちゃんは余計だけど。そうね。久しぶりね、伸也」
彼女はやはり昔のようにぶっきらぼうにそう言うと、はみ出た胸を、纏った布を引っ張って申し訳程度に隠しはじめた。
遅いよ。
たぶんつづく
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