子供達が狩りを楽しんでいる頃、淫界では。
「今日で三日目が終わりね。ここの子供達は全員無事……と」
前をはだけさせ溢れんばかりの胸をたぷたぷと揺らしながら、女王の侍従長にして近衛淫魔長でもあるメルローズが一つ一つ、転移魔法陣を確かめていく。
だがその表情は、あまり芳しい物ではない。
けれどその時、背中越しから彼女も息を呑む程の強大な淫気が伝わってきて、メルローズは台帳を閉じて振り返った。
「大変そうねぇ。ねえ、今年はどうかしら、メル」
雪のような白い肌とショートカットの髪型、そして丸く大きな瞳が印象的な、可憐な美少女がそこにはいた。
外見だけならば十六、七程度の小柄な女の子に見えるが、その頭上には白金の冠が輝いている。彼女こそが、この小淫界を支配する淫女王シロップその人である。
「女王さま! このような所まで足を運ばずとも、後ほど私が報告に伺いましたものを」
驚いて目を剥くメルローズの言葉を、女王は『良いのよ』とばかりに手で制した。
「大体そういうあなたも部下に任せないで、自分で確認しているじゃない。……この時期になるといつも思い出すわ。私が行った時から、もう二百年以上も経つのね」
魔法陣の6つの頂点に置かれている輝く水晶をそっと撫でながら、女王シロップは懐かしそうに呟いた。
淫魔であれば必ず幼少の頃に、10日間の人間界送りは経験している。それは淫女王であろうと例外ではない。
「ねえ。メルはあの時のこと、今でも覚えてる?」
「忘れたことなど只の一日もございません。女王さまは、イく寸前の私を抱えて人間から守って下さいました」
「全く。二人の時ぐらい、シロップって呼び捨てで良いっていつも言ってるのに……」
柔和な表情が常の彼女には珍しく、真剣な面持ちで女王を正面から見据える侍従長を見てシロップはぷぅ、と頬を膨らませて苦笑しつつ、すっと視線を外した。
「私も忘れた事はないわ、あの10日間のこと。殆どの事はす〜ぐ、私の頭から抜けていくのに、あの時の記憶だけは忘れたくても、忘れられそうにないもの」
くすくすと笑みを絶やさないシロップ。メルローズは生涯側にいる事を誓った幼馴染であり自らの主人を、複雑な表情で見つめる。その視線の先にあるのは、短く切り揃えられた髪の毛。
200年以上も前、シロップは試練から淫界に帰ってきた日に、長かった髪をばっさり切り落としてしまい、それ以来ずっと髪を伸ばすのをやめてしまった。
「それよりもどうなの? 侍・従・長、さんっ」
「あ。し、失礼しました女王さま。今年は15組90人の子供が出発していますが、3日目終了時点で無事な子供の数は……79人です」
ぼんやりと昔の事を考えていたメルローズだったが、どこかからかうように下から覗き込む女王の顔と声でハッと我に返る。
だがその報告を聞いて、シロップが渋い顔をした。
「まだ三分の一なのに、その数字は……今年は随分悪いわね。ここからが大変なのに」
「年々帰ってくる子供の数が減っています。女王さまもご存知と思いますが、去年はとうとう、三割を下回った程ですし……」
暗い表情になるメルローズに対し、シロップは殊更明るく言った。
「でもこればっかりは、私達が気にしてもどうしようもないわ。せめてここから先は、誰も欠けない事を願っていましょ。……さてと、ちょっと昼寝でもしようかしら」
ん〜、と腕を真上に突き上げて伸びをすると、女王は転移の間から出ていく。傍目からはいつもと全く変わらぬ陽気な女王の姿だが、メルローズは何故か声をかけていた。
「御髪はもう伸ばさないのですか、女王さま」
問いかけてから答えが返ってくるまで。
数秒の間があった。
「ええ。伸ばしたところで、私の髪をいっちばん褒めてくれる相手は、もういないもの。……終わったらお茶いれといてね」
そのまま女王は振り返らずに部屋を出る。声色は普段と同じだったが、シロップにとって数秒の間がどれだけ長いか、それを侍従長たる彼女は誰より良く知っていた。
「いらない事を聞いてしまったわ……。せめて濃くておいしいのを作ってさしあげないと」
自分の頭をコンと小突いてから、メルローズは子供の名前が書かれた台帳を開き、改めて水晶を確認しながら一本一本、名前の上に線を引いていく。
が、フイにその作業を止めると、怪訝な顔で入口の方に目をやった。
「ところで、そこにいるのは誰? あと一週間は、転移の間は立ち入り禁止よ」
女王さまは例外だけど、と心の中で付け加える。
あまり大きくはない淫気を敏感に感じ取ったメルローズが声をかけると、そっと扉が開き申し訳無さそうに背中を丸めて縮こまった淫魔が、顔を出した。
「あ、あの……侍従長様、すいません! そ、その、うちの娘が元気か知りたくて……」
その姿を見て、またかとばかりにメルローズは大きく溜息をついた。
何度も子供を産んでる親は、ある程度の覚悟もできているのだが、初めての子供や二度目の子供などでは往々にして母親は気が気ではない。
その為こうして、子供の消息を聞きに来る親は、毎年ちょくちょくいるのである。
「あのねぇ。試練が終わるまで原則、途中経過は教えないって規則は知ってるでしょう? ましてあなたは魔女なんだから、分からないはず無いわよね」
黒いローブを着た魔女は、メルローズの言葉に俯く。
「わ、分かっていますけど……でも、でも……!」
右手に持った杖を折れそうな程にギュッと握りしめる親の仕草に、とても素直に引き下がりそうにないのを見て取ったメルローズは、頭に手をやりつつ首を横に振る。
「はぁ、全く……しょうがないわね。子供の名前を教えなさい、調べるから。ただし聞くからには覚悟はしてなさい」
尤もメルローズが子供の試練の総責任者になってから、この規則は殆ど形骸化している。一度突っぱねてなお子供の安否を知りたがる親に対しては、メルローズは話すことにしていた。
「……は……はい。メルルとリーフ、双子です。わ、私の初めての子で……!」
言われた名前を手にした名簿から見つけると、メルローズは魔法陣の一つに向かって進んでいく。
六芒星の頂点に水晶を置いて移送を行なうこの魔法陣は六芒転移と呼ばれるが、この術にはある特徴がある。
一つには淫魔の安否や健康状態が、水晶を見るだけで一目で分かること。
そしてもう一つは、決められた日数が経過するまではいかなる手段を用いても、決して帰っては来れないこと。
「メルル=ショコラと、リーフ=ショコラの双子姉妹……5番魔法陣ね。大丈夫無事よ、一緒に出かけた他の子もみんな元気だわ」
もし絶頂し滅んでしまえば、その瞬間、水晶から光は失われる。
六芒星の頂点におかれている6つの水晶玉が全て強く光り輝いているのを確認し、母親に告げると、メルルとリーフの親はポロポロと涙を零した。
「そ、そうですか、良かった……」
涙が出るって事は、まだ若い淫魔なのね――
何度も頭を下げて礼を言い、転移の間から出て行く親の後姿を見ながら、メルローズは苦笑する。
自分が最後に声を上げて泣いたのは、どのぐらい前だったろう……と。
■四日目
かくして、母親が心休まらぬ日々を送っている頃。
「…………」
朝靄の残る早朝、リーフは一人起きだしてぼんやりと景色を眺めていた。
その表情はお世辞にも、明るいとはとても言えない。三角帽子を胸の前に置いて心地よい風を感じているようにも見えるが、ポツとリーフは小さく呟いた。
「……帰りたい……帰りたいよ、お母さん……」
目を瞑り立ち尽くしたまま、くしゃくしゃになりそうなほど強くリーフは帽子を抱きしめる。
だが誰かが置き出す気配を察して、リーフは急いでローブの袖で目を擦る。
「ふぁ……。あれ、もう起きてるのリーフ? 早いわね」
欠伸を噛み殺しながらカリンが目を醒ましリーフの姿を見つけた時は、既にリーフは帽子を被り直し、ジッと目を細めるようにして地図を眺めていた。
「ん……今日の計画を考えてた」
「うーん。きのうの夜から、わたしも思ってたけど、取れる方法はいろいろあるのよね。どうしようかしら」
どうしたものかと方針を話し出す二人。カリンの目から見ても、そこにいるのはもう、無愛想で碌に表情を変えない、いつもの知的なリーフだった。
やがて少し遅れてシュガーが目を覚まし、リリーとメルルが起き出して、ラストにベルが無駄な抵抗をするという、いつものパターンを経て4日目が始まる。
「えへへ〜。きのうはおいしかったね〜♪」
ぽっこりした腹をポンポンと叩きながら幸せそうにシュガーが笑う。人間界に来ても、食う、寝る、遊ぶを力一杯満喫している妹を見て、カリンが苦笑した。
「シュガーはいつ見ても悩みがなさそう。お姉ちゃんちょっとうらやましいわ」
「なやみ? なあにおねえちゃん、それっておいしいの?」
あえて少し皮肉っぽく言ったカリンだったが、芯まで無邪気なシュガーの答えに、リーフを除く全員が吹きだした。
「シュガーちゃんはそのままでいて欲しいな、私は。とってもかわいいよ。あ、でも一番かわいいのはもちろん……リーフっ」
「姉さん、痛い」
ぎゅーっとメルルに抱きしめられ、リーフは小さく抗議の声を上げた。だがリーフも本気で嫌がりはしない。メルルにはリーフの寂しさが、明確に伝わっていたから。
「うちの妹は馬鹿な子ほどかわいいを、地でいってるけどね……」
「あ、あはは……」
膝の上にぴょんと飛び乗ったシュガーの頭を撫でながら、カリンは嘆息する。答えに困ったのか、リリーは額に大きな汗を浮かべていた。
だが雑談に流れそうな雰囲気を切ったのは、珍しくリーフでもカリンでもなく。
「はーい、聞いて聞いて〜! おしゃべりもいいけど、まずは今日のごはんのこと考えようよ。みんなでどこ行くか決めよっ。日中って人間がいちばん襲いやすいしさ」
「わぁすごーい、ベルがしきってるっ」
「凄くないよシュガー! これでもボクは、いちばんお姉ちゃんなんだぞ!」
たまに本人でさえ忘れそうになるが、何気にベルが最年長である。
年長として、6人のパーティーリーダー的に振舞おうと背伸びするベル……なのだが。
「ベルはどうしたら良いと思う……?」
どこか名残惜しそうに自分を離すメルルを眺めながら、リーフはベルに尋ねた。
別にリーフとしては、意地悪でいったつもりでもなんでもない。ただ純粋にベルの意見を聞こうとしただけだ。
だが唐突に意見を聞かれて、思わずベルは口篭る。
「え? あ、えっと、ボクは……う、ちょ、ちょっと待って!」
「うーん。わたしは、きのうの港町にもう一度おじゃまして、人間さがしかな。ただ、わたし達の淫気がちょっとは残ってるだろうし、ハンターが勘づいてないと良いんだけど」
「場所を変えて山奥の集落に足を伸ばしてみるのも良いと思う。同じ所で続けて獲物探しするのは、少し危ないかもしれない」
「でもみんな、今日はおなかの具合によゆうあるよね? のんびり道のうらで人間とおるの待つでも、良いんじゃないかなぁ」
だがベルが硬直してる間にも、ポンポンと次々に提案が飛ぶ。
そんなベルの側に寄って行って、シュガーはベルの肩に手をやった。
「あたしはわかってる、ちゃんとベルはがんばったよ!」
「慰めないでよシュガー! うぅ〜。ちょっと急にふられて、頭まっ白になっただけだもん……ほんとだもん……」
親友からの心温まる慰めも効果ゼロだったのか、しゃがみ込み地面にのの字を描いていじけるベルを見て、なんとかリリーがフォローしようとする。
「お姉ちゃん落ちこまないで……ほ、ほらっ。お母さんも普段から、なれない事はしないほうが良いって……あ」
「うわぁ〜ん、ボクぐれてやるー!」
だが慰めたつもりがトドメになったのか、完全に拗ねてしまい、体育座りをしてベルはクルリと後ろを向いてしまった。
「えぇと。だけど本当、どうしようかな?」
頬をかきながらメルルが話を戻す。
「はーい! あたしはこんどこそ、おしろにいくと良いとおもうー!」
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<選択肢>
1.昨日と同様に港町で人間釣り
→2.日向ぼっこしつつ、街道で獲物探し
3.山沿いにあるという猟師の集落に行ってみる
4.大淫魔の洞窟まで足を向ける
誤. アルマート王国城下町へ今日こそ進撃!(※選択不可)
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「慎重にいくなら、港町は今日は避けたい」
「私も……今日はみんなでのんびりしてたいな」
リーフの言葉に従うように、リリーも頷く。
幸い昨日の夜に全員思いっきり食べたので、極論すれば今日は食事をパスしても問題はなさそうな程だった。
「うーん、すんなり良い獲物がみつかればいいんだけど。でも、みんなの命がいちばん大事だものね。無理しないほうがいいかしら」
「べつに道でも襲えそうなにんげんが、ぜんぜん通らないってわけじゃないだろうし。ちょこっとざんねんだけど、ボクはいいよ〜」
もう立ち直ったのだろう。ぴょこっと顔を上げてベルも賛成する。
だが案の定、シュガーがはっきりと渋い顔をした。
「えー! えーえーえー。……え〜」
健康的な裸を日の光に晒しつつ、不満げにぼやくシュガーに、カリンは顔を近づける。
「なぁにシュガー? 言いたい事があるなら、はっきりお口をあけて、おおきなこえで、お姉ちゃんに言ってみて。はい」
カリンは素敵で優しげな笑顔を妹に向ける。だがいつの間にかカリンの両手は、シュガーのツインテールを握っていた。妹が馬鹿な事を言ったら容赦なく引っ張るのだろう。
「おねえちゃんのおにー! にゅあぁあああ!」
それでも敢えて抵抗するシュガーの悲鳴が、少し遅れて周囲に響く。これもある意味で、姉妹のスキンシップと呼べるのだろう。
「はぁ……みんなで動いてるってこと、シュガーもちょっとは考えて。いいシュガー? 何度でもいうけど、わたしたちはイったら死んじゃうのよ?」
引っ張っていたシュガーのおさげ髪から手を離し、両肩に手を置きながら、カリンは念を押す。
「そんなのわかってるも〜ん。でもおねえちゃん。イくのって、とっても気もちいいんだよね。いったいどんな感じなんだろ……あたしちょっと、きょうみあるなあ」
だがその直後。シュガーはさらりと、とんでもない事を言った。
淫魔と性交は切っても切れない。だから性的絶頂に興味を持つのは無理からぬ事だ。
しかし興味が度を越し、親や姉妹のいない所で自慰行為の末に、果ててしまった子供はかなりの数にのぼる。
絶頂前に自分で自制できる年齢(少なくとも、最低十五年は必要だと言われる)になってからならともかく、子供が絶頂に興味を持ちすぎるのは、自殺行為にも繋がりかねない危険を孕んでいるのだ。
「〜〜っ! シュガーっ!!」
カリンが目を剥いて怒鳴り、シュガーの頭を叩こうと手を上げたとき。
パシン
カリンの手が届くより早く、軽い音が周囲に響いた。
「…………」
髪の色にも負けないほど、顔を真っ赤に紅潮させたリーフがそこにはいた。普段の無表情ではない、怒りにも似た表情で。
「え? えっ?」
全く予想外の出来事に、カリンや叩かれた本人であるシュガーでさえ、何が起こったのか分からず呆気に取られている。
「だ、ダメだよリーフ、そんなことしちゃ!」
「あ……」
彫像のように固まっていた時間を動かしたのはメルルだった。メルルがリーフに飛びついてすぐ、まるで潮が引くようにリーフの顔からは険が消えていく。
「な……なにすんのよリーフ!!」
そして、まるでリーフと入れ替わるように、シュガーは烈火となって怒った。
姉妹だからこそできる行為というのは往々にしてある。
叩いたり殴ったりというのは、その最たる物だろう。
「ちょ、ちょっとシュガーも落ちつきなよっ。そりゃ叩いたリーフもわるいけどさ、ボクが聞いててもシュガー、相当あぶないこと言ってたぞ!」
お返しとばかりに今にも向かって行きそうなシュガーを、慌ててベルが止めに入る。
「うううううー! ベルはなせぇ! あたしもベルやメルルにたたかれたんなら、まだわかるよ! でもなんで、リーフなんかにたたかれないとダメなのよぉ!」
怒りが収まらないのか、ジタバタと暴れるようにシュガーは手足を振り回す。叩いた相手がリーフだというのが非常に良くなかった。
シュガーとリーフの二人はあまり仲が良くない。
行動派で本能的なシュガーと、冷静で理知的なリーフではお世辞にも相性が良いとは誰も思わないだろう。だがそれに加えて、自分の気持ちを全くオープンにしようとしないリーフの性格が、周囲との距離感に拍車をかけていた。
「いいかげんにしなさい、シュガー!」
だがそんな騒動も、呆気に取られていたカリンが、シュガーの頭上に思いっきりげんこつを落とした事で幕を閉じた。
「う、えっく、うわぁ〜ん……おねえちゃーん……」
とうとう涙腺が切れたのか、カリンにしがみついてシュガーは泣き出す。
だがシュガーも恐らく、頬や頭が痛いから泣いているのではない。カリン以外から手を上げられたことが余程ショックだったのだろう。
「……ねぇシュガー。お願いだから、おっかない事いわないで。お姉ちゃんしんぱいで寝られなくなっちゃうわ」
「ううぅ〜!」
ぐずるシュガーの背中を、とんとんと軽く叩きながらカリンは優しく頭を撫でる。
寝て目が覚めたら妹がどこにもいない。そんな事態を想像したら、カリンに限らず恐ろしくてとても眠れた物ではない。
シュガーが泣き止むには、それからもう少し時間がかかった。
******
思わぬ出来事から時間を取られた六人だったが、それでも時間が経てば腹は空く訳で。
若干のわだかまりが残ってはいたが『とりあえず歩きながら話そうよ』というベルの提案により、一行は街道の側まで歩を進めていた。
「ごめんねシュガーちゃん、カリンちゃん。リーフもシュガーちゃんのことが心配で、手が出ちゃったと思うんだ……」
申し訳なさそうに俯くメルルを見て、カリンは苦笑いしながら首を横に振った。
「謝らなくていいのいいの。どうせ私がなぐる所だったんだもの」
「おねえちゃんにたたかれるのと、他のだれかにたたかれるのは、ちがうもんっ」
だがシュガーの方はまだ本気で腹を立ててるのだろう。先ほどからずっと、リーフの方を碌に見ようとしていない。
そんなシュガーを横目で見つつ、カリンは肩をすくめた。
「ただ妹が怒るのも分かるから。次からはやめてくれると、嬉しいかな」
「うん。私がカリンちゃんだったら多分もっともっとおこるよ、きっと。……リーフ」
隣にいる妹へと、メルルはそっと謝るように促す。
「悪かった……ごめんシュガー」
少し言い澱むような間の後に、リーフはシュガーへと頭を下げる。
「むー。あたしもバカなこといったなぁって、おもってるから。いいよもう」
不機嫌さは丸出しだったが、それでもリーフの謝罪を受け入れたシュガーを見て、カリンは優しくシュガーの頭を撫でた。
「ボクたちでケンカしてもしょうがないもんね。でもリーフが手をあげるのなんて、ボクはじめてみたよ。なんであんなことしたの?」
「お、お姉ちゃん……」
空気を読まずにうっかり尋ねたベルに、リリーが窘める。
微妙な間の後にリーフは呟いた。
「……ごめん、口じゃ上手く……説明できる気がしない」
「?? どゆこと?」
ぱちぱちと丸い大きな目をしばたかせるベル。
シュガーも怪訝な顔でリーフを見る。
「あ、あたしはむりにきかなくても、いいんだけどさー。だけど、なやんでるんなら言ってくれたら話ぐらいはきくよ」
友達だものね、とカリンがシュガーの言葉の後に繋げる。
言い辛そうに口篭った後、リーフはぽつぽつと話し出す。
「何だか無性に腹が立って……でもそれだけじゃない……。不安で、心配で、怖くて……どうしようもないぐらい怖くて……」
リーフの声や体は途中から震えていた。何がそれほどリーフを怖がらせているのかは、内心の分かるメルル以外には、恐らく誰も分からない。
しかしリーフが何かに脅えているのだけは、はっきりと見て取れた。だがその時。
ふわっと、包み込むように後ろからメルルがリーフを抱きしめる。
「無理にいわなくていいよ、リーフ」
メルルはそれ以上、何も言わずにリーフの頬へと愛情の篭ったキスをした。
妹が何に悩んでいるのか。どんな気持ちなのか。何故言えないのか。互いの内心が伝わるメルルには、全部分かっているのだ。
「……いつも言ってるけど、姉さん重い」
「そう? 私とリーフってほとんど重さ、かわらないよ?」
自分にべったりくっつくメルルに、リーフが抗議の声を上げる。
「体重の話じゃない。姉さんの気持ち……」
そしてそんなメルルの内心も、リーフにはやはり伝わっている。
「それはしょうがないわ。だって、私はリーフが世界でいっちばん、だいじだもん〜」
「ちょっと……自分で歩けるからっ。姉さん降ろして」
ひょこっとリーフを抱き上げると、抗議を無視してメルルは歩く。
「ねえねえカリン。メルルとリーフって、いつか結婚したりしてね」
「ありえないとは言えないわよね。リーフはともかく、メルルはぜったいその気よたぶん」
冗談交じりに外野がそんな話をしていた時だった。
「あっ。みんな……人間がきたみたい……」
リリーが街道の向こうに人影を見つける。
ベルが指差した方向には確かに、遠目からでも分かるほど銀色に輝いた髪の男が、たった一人で街道のど真ん中を堂々と足早に歩いて来るのが見えた。
「あらら、本当だわ。とおいから、はっきりとは見えないけど」
「よっぽどえっちに自信あるのかな? それとも、おばかさんなのかなぁ」
「んー。まだ小さすぎて、よくわからないわね」
カリンやメルルは遠巻きに男の姿を確認しつつ、襲いかかるかどうかを思案する。
「私は……もうちょっとだけ隠れてたほうが、いいとおもうな……」
「もーっ。リリーったらおくびょうさんなんだー」
一方で内心のわくわくを隠しきれないシュガーとは裏腹に、不安げにリリーは木陰の裏で縮こまっていた。
やがて男の姿が近く、大きくなっていく。
それは左頬に十字の傷を持つ、長身の美男子だった。軽く後ろに縛った長い髪をたなびかせつつ男は街道を進む。
「やれやれ。山岳の大淫魔退治の中途だと言うのに、協会からの緊急召集とは……。名の知れたハンターばかり大量に集めて、どうするつもりなんだか」
不機嫌そうに眉根を寄せ、男は街道を歩く。この人間の正体に真っ先に気がついたのは、やはりパーティーの知恵袋であるリーフだった。
「十字の頬傷に銀の髪……っ! 駄目すぐ逃げようみんな、あの人間は」
そう。只の一般人が、無用心に街道のど真ん中を一人で歩くのは殆どないのだ。
男はその特徴的な容姿から【銀星のセフィロス】の二つ名で知られ、これまでに数多の淫魔を消滅させ、小淫界さえ幾つも滅ぼした超一流ハンターだった。
言うまでもなく、子供六人がかかっていった所で勝ち目は絶無だろう。
けれど、子供達は相手の正体に気がつくのが遅すぎた。
「あつい、ボク……からだがあついよ……」
「だめ、だめぇ……おっぱいいじるの止められない、あ、あぅううう、んふぅ……!」
股間を擦り合わせるように足をぴったり閉じていたベルが、愛液を太ももまで滴らせながら力なく地面にへたりこむ。
そしてメルルも未発達の乳首の先が完全に立つほど、コリコリと弄り回していた。
並みの人間が強力な淫魔と出会えば、体に一切触れずとも体から発する淫気だけでガチガチに勃起して射精してしまいそうになるのは有名な話だ。
だが、それは逆の場合でも起こるのだ。
強力なハンターと相対すると、極上の精を求める淫魔の本能が仇となり、体が勝手に反応して体が激しく疼き出してしまい、責めるどころではなくなってしまう。
だが二人はこれでも、まだマシである。
「おねーちゃん、おねーちゃん……しゅがーのおまんこ、ぐしょぐしょになっひゃった……すごいの、とってもきもちいいの……!」
口元から涎を垂らし、犬のように四つんばいになりながら、シュガーは自分の指で秘部とアナルとを交互に出し入れを始めていた。
シュガーのそれは最早、淫魔が快感の耐性を得る為や、軽い火照りを鎮める為にする自慰ではなかった。
「は、はっ、はっ……。ば、ばかシュガー、やめなさい……!」
性技に長けたカリンでさえも無事ではなかった。だが、このまま放置すればシュガーは一人で絶頂して死んでしまう。
顔を真っ赤に紅潮させ、完全に胸をはだけさせながらも、押さえ込むように妹にのしかかり、カリンはシュガーの自慰を強引にやめさせる。
「うぁああああん……せ、せつないよお……ん、んっ、ちゅぅう」
「んー、んーっ!」
だが全く治まらないのか、シュガーはカリンの口腔に舌を入れねぶり始めた。
しかしシュガーよりも悲惨な事になっている子がいた。
「…………おちんちん、欲しいよ……。リーフの奥まで一杯、いっぱい……」
リーフはローブを脱ぎ捨て、杖にまたがるように秘部とクリトリスを擦っていたが、やがて杖を地面に落とすと、フラフラとハンターの方へ歩き出す。
「!! し、しっかりしてリーフちゃん。私たちじゃ勝てないよ、しんじゃうよ……!!」
そんな中で唯一まともに意識を保てていたリリーが、慌ててリーフを捕まえる。
「いっぱいして……。リーフを、めちゃくちゃにして……」
完全に忘我状態に入ってしまったのか、綺麗な赤いリーフの瞳は完全に濁り、リリーに掴まれたことさえすぐには分からない程で。
リーフの様子は、まるで蛾が蝋燭の炎に吸い寄せられるかのようだった。その炎が自分の体を焼き焦がし、自らを滅ぼす代物であるにも関わらず。
このままでは遠からず皆が、自慰して果てるか、熱に浮かされたようにハンターの前まで出て行って犯されるかの、どちらかだろう。
『お願い、なにもしないから、そのままいなくなって!』
リーフを後ろから羽交い絞めにして口を塞ぎつつ、リーフはハンターが立ち去ってくれるのを願う。
ベルもメルルもカリンも、恐らくシュガーでさえ同じ気持ちだっただろう。快感に震えながらも必死で声を押し殺して、通り過ぎるのを待っていた。
だがその時、ハンターが子供達の隠れている木陰の方に目をやった。
「だがその前に片付けなきゃいけない奴がいるようだな。そこに隠れてる奴ら、出て来い。相手をしてやる」
それは子供達にとって、背筋の凍る死神からの言葉だった。
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<選択肢>
1.ばれてる以上、やるしかない
2.見逃して貰えるよう頼む
→3.いなくなってくれと天に祈る
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「あ、あそこがじんじんして……おさまらないよぉ」
「わたし……今いじられたら、すぐイっちゃう……」
掠れるような小声を漏らしながらベルやメルルは身悶えしているし、カリンはシュガーを、リリーはリーフを抑えるので手一杯。こんな状態では、戦えるはずもない。
尤も、よしんば動けたとしても、淫界にさえ名の轟くハンターが相手では、子供達では勝負にすらならないのは火を見るより明らかだった。
けれど非情なハンターに命乞いをしたところで、効果は全くあてにならない。
『かみさま……みんなを助けて下さい……!』
懸命にリーフの口を手で塞ぎ続け、必死で押し留めながらリリーは祈る。
だが、そんなリリーの願いも空しくハンターはフッと笑みを浮かべると、無言で道をそれ六人の方へと足を向けようとした時。
反対の茂みから何かが駆けるように飛び出してきた。
「にゃははっ♪ おにいさん、凄いおいしそう〜! こんなおいしそうな人間あたしも初めて見るよー」
「なんだ……猫又の淫魔か」
獣のように両手を地面につけ、誘うように淫液で濡れそぼったお尻と尻尾を振りながら、生まれたままの姿でハンターを誘惑する。
一見すると無防備に見えるが、膣で締め上げるのに自信があるのだろう。
愛らしい顔に手や尻尾を振る仕草、そしてゆらゆら揺れる特徴的なふわふわした猫耳。
耐性のない人間ならば一たまりもなく、磁石に吸い寄せられるように挿入し、死ぬまで射精し続けたに違いない。
「…………」
下半身を露出させ、ゆっくりとハンターは無表情で猫又淫魔へと歩み寄る。
<にゅふふ〜。弱い弱い、あたしの暖か〜い中にいっぱい出すと良いにゃあ。死ぬほど気持ちよくしてあげるよー>
「ね。まだぁ? 早く来て……」
うっとりした瞳でお尻を高くあげハンターを招く。だが彼女は気がついていなかった。
魅了されたのは相手ではなく、自分の方だという事を。
「安心しろ、すぐに入れてやるさ……こっちにな!」
ハンターはかっと目を見開くと、膣ではなく菊門に指を二本まとめて突っ込む。
「ふにぃ!? そこ違……ぁああああああ!」
責められると弱いアナルに指を刺され、何度も中でこそぐように指を曲げながら出し入れを繰り返すと、猫又淫魔から悲鳴にも似た矯正があがった。
さらに空いている左手で尻尾を掴むと、尻尾の先で秘部の先を軽く擦る。
「ふ、ふあ、あ、あ、気持ちいいよ、おしりぃいいい……」
絶え間ない責めで力が抜けてしまったのだろう。四つんばいの格好は一分と持たず崩れ、快楽に溺れる淫魔を見て、アナルから指を引き抜く。
「尻の穴を弄られて芯までぐしょぐしょとは、とんだけだものだな。さて、望みどおり前の穴にもいれてやろうか、生涯最初で最後の快感の中でイけ」
「あふ、ああああ……お、おねがい……あたしまだきえたくない、しにたくないよぉ……。た、たす、けて」
幾ら膣責めに自信があると言っても、既に絶頂寸前の今では勝負になる筈もない。
思考も蕩けそうな快感の中で、ハンターに命乞いをする猫又。
その様子を見て、男は冷笑的な笑みを浮かべた。
「そんなに消えたくないのか? ならこの質問に正直に答えろ。今までに何人の男を絞り殺してきた?」
言われて淫魔の顔が引き攣る。並みの淫魔よりも若干強い淫気を持つ、この猫又にとって、その答えは『数え切れない』だ。
正直に言った所で助けて貰えるかどうかは、もう火を見るより明らかだった。
(……ごめんなさい猫又のおねえさん……!)
木陰でリーフを抱きかかえたまま、リリーはぎゅっと目を瞑る。
ベルもメルルも、カリンやシュガーも、到底助けられるはずがない。
子供達に出来る事は、彼女が何も考えられなくなるほどの快感の中で、幸せに死ぬのを祈るだけだった。
「ひぅ……! や、やだよぉ、や……ああああ」
のしかかるように秘裂を割って、反り返るほど太い男根を差し込まれると、猫又淫魔の口から、もう命乞いの言葉は出てこなくなった。
呼吸も荒く舌を出し吐息を漏らす淫魔の膣を、何度も突く。
時にリズムを変え、膣の奥にぶつかるように強く、或いは小刻みに何度も突き入れ、男は淫魔を絶頂へと高めていく。
「にゃあああ……おまんこ、き、きもち、い……い、イく、イ……あっ、あああーっ!!」
ピンと尻尾を立たせ、最後に大きく矯正を上げると猫又淫魔は絶頂して果てた。
「あはぁ……」
口元をだらしなく開け、恍惚とした笑みを浮かべながら、体から煙を噴き上げ滅びていく淫魔。それからほんの数秒後。
そこにはもう、ゆっくりと体を起こすハンターの姿しかなかった。
「二分十八秒……思ったより遅かったか。しかしおかしい、複数の淫魔の気配がしたんだが……俺の勘が鈍ったか?」
腕時計を見て、猫又淫魔を消滅させるのにかかった時間に不満げな顔をしつつ、ハンターは首を傾げた。
『こ、こないでぇ……!』
『は、は……メルル、声だしちゃ、あふ、だ、ダメ……』
メルルやベルから殆ど声にならない悲鳴があがる。
リリーに至っては、もう声すら出なかった。次第に手の力がなくなってくるのを堪えながら、リーフを抑え続ける。
カリンもシュガーの口をキスで塞ぎながら、文字通り必死に、少しでも物音を減らそうとしていた。
その願いが通じたのだろうか。
「いかんな。探せばまだ近くにいるかもしれんが、これ以上時間を無駄にして万が一、船に乗り遅れたらまずい」
幸運な事に、ハンターは再び時計に目をやり零すと、着衣の乱れを素早く直し足早に遠ざかって行った。
そして後に残るは。
「シュガー、シュガーっ」
「ふわぁあ……お、おね、ひゃ……」
ハンターが遠ざかると共に全身の疼きも引いていったのだろう。
そっと刺激しないよう体を起こしたカリンが妹に呼びかけると、掠れたような弱々しい返事が返って来た。
「リリー、いなくなった……?」
少し遅れて、ふらつきながらベルが体を起こす。もっとも乳首は完全に勃起し、体は汗、下半身は愛液でぐっしょりだったが。
「う、うんお姉ちゃん……あっ。リーフちゃん、しっかりして……!」
「いっぱい、いっぱいしてえ……いきたい、リーフいきたいの……。おちんちん、リーフのなかでかきまわしてほしいよ……!」
だが次第に興奮が収まっていく中にあって、唯一リーフだけは、被っていた黒帽子が飛ぶほど激しく、長い髪を振り乱し完全に我を忘れていた。
「きゃあ……!」
そしてとうとうリリーの腕をふりほどき、リーフは指先を秘部に滑りこませようとする。
「どうしちゃったんだのさリーフ! 目をさましてよ!」
ベルが飛びつき、パチンと、両手でかなり強めにリーフの頬を叩いた。
「たたくなら……お尻やお胸たたいて……真っ赤になるぐらい叩いてよぉ……!」
「わーっ! ぼ、ボクじゃムリー! だれかリーフをとめてー!」
だが怒るどころか蕩けきった笑みさえ浮かべながら、リーフはベルを突き飛ばした。
転がり立ち木に頭をぶつけながら、ベルが悲鳴をあげる。だがその時。
「リーフ、ちょっと痛いけど……ごめんね!」
這うようにして後ろに回りこんだメルルは、次の瞬間、思いっきりリーフの長い髪の毛を力任せに引っ張ったのだ。
「――――――っ! い、痛い、痛い……!」
全身性感の特異体質であるリーフは、一度快感に呑まれてしまうと、体に対する刺激は全て強い快楽へと変わってしまう。
だが、そんな中で唯一の例外が頭……つまり髪の毛を引っ張ることだった。ここだけは、流石にリーフでも感じる事はない。
過去にも、性技の勉強中に正気を失ってしまったリーフに対して、母親がこうして目を覚まさせる所をメルルは何度も見ていたのだ。
効果はてきめんだった。
「リーフ、目をさましてリーフっ!」
「…………ね、姉さん……みんな、も」
リーフの瞳に光が戻ったのを見て、メルルは心から安堵するように大きく息をはき、妹に飛びついた。
******
それから数十分後。
全員にしきりに頭を下げるリーフの姿があった。
「みんなに物凄く迷惑をかけた……本当にごめん」
だがリーフを責めるものなど誰もいるはずもない。もしハンターが子供達を見つけていたら、間違いなく全滅していたはずである。
全員が無事であることを皆が、素直に喜び、そして安堵していた。
「いいのいいの。みんなで行動してるんだもの、それより体はもうだいじょうぶ?」
「……ん」
体調を気遣うカリンに、リーフは小さく頷いてみせる。まだ興奮状態から抜け切っていないのか顔や肌が紅潮しているものの、もう少しすれば治まるだろう。
「そうそう。それにボクだって、なーんにも出来なかったし」
頭に大きなコブを作った状態でからからとベルも笑う。シュガーは、何やら思うところがあるのか、いつになく無言で真剣に何かを考えているようだった。
だが暖かい周りの反応とは逆に、リーフの顔は浮かない。
「でも、でも……ごめん。リリーには特に……ごめん」
「あ、謝らないでリーフちゃん……しょうがないよ。ほんとう、気にしないで」
今にも泣き出しそうな程に辛そうなリーフの様子に、逆に謝られたリリーの方が申し訳なくなる程だった。
「だけど! 自分のせいで、もうちょっとで皆あのハンターに……」
「はいはいリーフ。言いたいことはわかるから、もうそこでストップ〜」
放置すればどこまででも落ち込みそうなリーフの言葉を、ベルが途中で遮った。
「ボクもリリーもメルルもシュガーもカリンも、み〜んなこどもだもん。そりゃ下手だったりへんなことしたりもするよ! だから一人でおちこんだりなやんだりなんか、やめー! 少なくともここにいる間、ボクたちはみんなで一つなんだから」
ベルの言葉に他の皆も頷く。もし一人欠ければその負担は他の全員にかかってくる。人間界にいる間、この六人は文字通り一蓮托生なのだ。
「どうしたのシュガー、おなかでも痛い?」
その時、知恵熱を出しそうなほど考えこんでいるシュガーにカリンが声をかけると、シュガーは顔を上げた。
「ん……あのね。あの猫のおねーさんがイくのみたら『あたしたちってイったら、やっぱりほんとうにしんじゃうんだ……』っておもったの」
同じ淫魔が目の前で消滅するのを目の当たりにしたことは、相当衝撃的だったのだろう。
言葉で百万遍繰り返すより、一度の現実を見ることで気がつかされる事は多い。
「ひょっとして、こわくなった?」
お灸が効きすぎたかと思ったカリンだったが、シュガーは苦笑して思いっきり首を横にふった。
「それはないよー、おねえちゃんっ。だけどさ……リーフがなんであたしをたたいたか、さっきまでのリーフみてたら……なんとなく分かったきがしたんだ」
そしてシュガーは地面に転がったままのリーフの杖を拾い上げる。
「はいこれ。だいじなものでしょ、リーフの」
「……ありがとう」
シュガーから渡された杖を受け取った時のリーフの表情は、笑い慣れてない少女が見せる、とても不器用ものだった。
<5日目へ続く>
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