■三日目
生まれて始めてとなる、人間界での最初の狩りを無事に終えた子供達。
明けて翌朝、ベルとリリーを除く4人は既に起き出して、今日の計画を話し合っていた。
「ねーおねえちゃ〜ん、今日はどこいくのっ?」
いつも元気一杯のシュガーが、健康的な裸体を日の光に堂々と晒しながらカリンに話しかける。
だが、カリンは小さな溜息を一つついた後、これっぽっちも悩みの無さそうな妹の額を軽く小突いた。
「あのねぇ……シュガーは昨日あぶない目にあったばかりでしょう? えっちを怖がれって言うつもりはないけど『あなたはもう少し慎重さを持ちなさい』って、いつもお母さまも言ってるじゃないの」
「ん……。きのうの事おもいだしたら、じゅんって……いた! おねえちゃんいたいよ!」
頬を上気させつつ湿ってきた秘所をまさぐろうとするシュガーの頭を、カリンは無言で思いっきり殴る。
だがカリンがしつこくシュガーに言い聞かせるのも無理はない。淫魔は一度イくだけで死ぬのだ。危機感のまるで無い妹を不安に思うのも当然だろう。
だが、そんなシュガーにメルルから助け舟が入る。
「でもカリンちゃん。私はシュガーちゃんが浮かれる気も分かるなぁ。じつは私も胸がどきどき……今日はどんなおいしいせーえき飲めるかなぁって」
「……それはまあ、わたしもそうだけどね」
メルルからの助け舟にカリンも苦笑しながら頷いた。えっちや精液が嫌いな淫魔などいるはずもない。
しかも淫界で飼われている牧場の精奴隷と、生きの良い人間では味がまるで違う。
比較するならば、養殖で鮮度の落ちた魚と天然の新鮮な魚の差ぐらいに。今日の精液の味に期待してしまうのは、メルルならずとも、カリンも他の皆も全く同意見だった。
とはいえ、そんな当たり前が通じない子も中にはいる。
「あれ? ねえねえ、ベルとリリーはまだ?」
「……起きてはいる」
姉からのお叱りタイムも終わりようやく解放されたシュガーが、周りを見渡して二人ともいない事に気がついた。
すると、それまで押し黙って自分の杖や三角帽子を弄っていたリーフが、ぼそっと呟く。
「リリーちゃん、ちょっとショックだったみたいだもんね。だいじょうぶかなぁ」
メルルも不安げに、二人のいる方へと視線をやる。
「リリーのえっちの仕方はちょっと……うちのシュガーとちがう意味で心配だからね。でも、リリーの事はベルがいちばん良く分かってると思うから。もうちょっと待ってましょうよ」
ベルやリリーがいる方へ駆け出そうとするシュガーを後ろから抱きしめつつ、カリンは今日の方針を色々と考え始めるのだった。
一方、四人からほんの少しだけ離れた場所では、浮かない表情で木にもたれかかるリリーへ呼びかけるベルの姿があった。
「ほらリリー、そんな気にすることないってば!」
「お姉ちゃん別に私……なにも気にして、ないよ?」
小刻みに体をゆすったり、軽く服の袖を引っ張るベルの行動にとうとう抗えなくなったのか、リリーは体を起こすと無理矢理にでも笑ってみせる。
だがそんなリリーの台詞と態度を前にして、ベルは逆に怒った。
「すぐばれるうそボクにつかないの、リリー! きのうの人間のこと考えてたんでしょ。昔っからリリーの悪いくせだよ。人間だって、どうぶつころしてお肉たべるんだもん。それと同じっ」
妹の考えなんかお見通しだと言わんばかりに、プーッと頬を膨らませるベルを見てリリーはそっと俯いた。
淫界の他の子供と異なり、リリーは非常に淫魔らしくない子だった。無論えっちが嫌いなわけでも、精液を飲みたがらない訳もない。
淫魔にとって、えっちと精液は生きる為の手段であり、目的であり、何よりも最大の生き甲斐である。嫌いな淫魔などいるはずもない。
しかし、リリーは極端にイく事を怖がる上に、人間の命を奪うまで吸い尽くすことに強く抵抗を覚える性格なのである。
過去に前例がない訳ではないが、リリーのような性格の子供の淫魔は極めて稀だった。
「本当、リリーはやさしすぎるんだもんなぁ。えっちだけならボクよりずっと上手いのに、どーしてこうなんだろ……不安だよボク」
「あ……ぅ。お姉ちゃん、心配かけちゃってごめ……きゃうっ」
ごめんね、と言いかけたリリーの言葉を遮るように、服の脇からベルの小さな手がするっと入りこみ、リリーの小さな乳首を軽くつまみあげた。
「妹のことをボクが気にするのはとーぜんでしょ! わざわざあやまんないのっ」
恐らく恥ずかしかったのだろう。これ以上余計な事は言わせないとばかりに、ベルはリリーと唇を合わせる。
「んっ、んっ……ん……」
互いに子供と言っても、淫魔同士のキスである。唾液を絡ませ、にゅるにゅるとベルの舌がまるで独立した生き物のように、リリーの口中を満遍なく犯していく。
「ふぁ……」
リリーは抵抗する事もなく瞳をとろんとさせて、されるがままになっていた。
ボクのたいせつな妹だもん! 心配? そりゃ心配だよ決まってるじゃん!
あんまりベルは口が回る方ではない。けれど少し乱暴な姉のキスは言葉よりも余程、妹に自分の気持ちを伝えていた。
そうして姉の体温を感じているリリーだったが、程なくゆっくりと顔が離れる。唾液が淫靡に糸を引く中、どこか物惜しげに指を咥えるリリーを見てベルは苦笑した。
「ゆっくりでいいんだけさ。ちょっとづつ、慣れていけばいいんじゃないかって思うよ。それに、あんまりがっつくリリーってボクもちょっと想像できないし」
「……うん。そうだね」
そしてベルにつられるように、リリーも一緒になって小さく笑ったのだった。
******
「みんな、おはよーっ。待った?」
「ベルもリリーもおっそーいっ! おかげであたし、おねえちゃんにしこたま怒られてたんだから!」
何かあったのかと変に意識されたら困ると思っていた二人だが、全く普段通りなシュガーの反応でそんな空気はすぐに消えた。
代わりにカリンが、シュガーの金色に輝くツインテールを両方から引っ張る。
「にゃああああ!」
「そんなことは関係ありません。もう……ねえシュガー。あなた本当に、ほ・ん・と・う・に、なんでわたしが怒ってるか分かってる?」
「うー。ちゃんときいてたもん。あたしがかってに、おまんこでえっちしたからでしょ」
「やっぱり分かってない……」
頭を抑えながら、どこか不満げに口を尖らせつつぼやくシュガーを見て、こめかみに手をやりながらカリンは大きく首を振る。
次の瞬間、シュガーの頭上にげんこつと言う名の雷が落ちた。
「自分からすすんであぶない事をしないでって言ってるの! あなたはわたしの話のどこをちゃんときいてたのよシュガー!!」
カリンとシュガーのやりとりをみながら、ベルとリリーは見事に正反対だと顔を見合わせて苦笑いする。
「カリン。日が暮れる」
けれど延々と続きそうな説教を中断させたのは、リーフからのきつい突っ込みだった。
「あ……ごめんなさい。おほん! じゃあみんなそろった事だし、今日どうするかそろそろ決めましょうよ」
照れ隠しに大きく一つ咳払いしてから、カリンは皆に向き直る。
「うーん、そうだね……どうしよっか。なんか良い考え、みんなはある?」
しばらく考え込んでみたものの、何も思い浮かばなかったのだろう。ベルが周囲を見渡すと、シュガーがはいはーいと両手を大きくあげていた。
「……一応きいてはあげるけど。なぁにシュガー」
げんなりした顔で妹を見やりながら、それでも話だけは聞くカリン。
「きのうのにんげんをみつけた先に、おしろがあるよね! そこに行ってみんなでかたっぱしからおそえば良いとおもう!」
「はい却下。わたしがきいたシュガーがバカでした」
昨日の男をみつけた先にあるのは、この辺りを統治支配するアルマート王国の城下街である。しかしアルマートは小国だが、れっきとした王権国家。
言うまでもなく性技にも長けた軍人が大勢いる上に、ハンターギルドも当然ある。
子供の淫魔六人で殴り込みをかけた日には、太陽が真上に上る頃には全員揃って快感にのたうってあの世行きだろう。
「うーん。シュガーちゃんの考えはおいとくとして……昨日みたいに、道のかげで人間をまてば良いんじゃないかな?」
しばらくの間、事の成り行きを見守っていたメルルが口を開いた。
だがメルルの提案にリーフが眉を潜める。
「姉さん。それは……あまり良くない。あんなに襲いやすい餌なんて、普通通らない」
実に簡素でストレートな表現で、リーフは言っ切った。
だがリーフの言い分は正しい。淫魔が跋扈するこのご時世、街道を一人で歩くのは腕に自身のあるハンターか、急ぐ為に必要に迫られてか、命知らずの馬鹿だけである。
「う……それはそうかもしれないけど。じゃあリーフはなにか良い考えあるの?」
人差し指をあわせ、拗ねたように視線を落とすメルルを見やりながら、リーフは小さく息をはく。
「昨日の人間の持ち物に、この周辺の地図があった。街道を沿って東に行くと、小さな港町があるみたい。そこに行ってみると良い……かも」
全員の視線を一身に集めたせいか、説明の途中でリーフは下を向いてしまった。
「人間のつくった地図は、こまかーくいろいろ書いてるわよね、たしかに。あとは……そうね。淫界からでかけるときにもらった地図に書いてあったけど、南の山近くにほら穴があって、そこに大淫魔さまがいるみたいよ。なんかいいアドバイスとかもらえるかも」
淫界を出発した際に貰った地図と見比べながら、カリンも別の案を出す。
「3つに1つ。うーん、どれが良いのかなぁ」
「こらー、あたしの言ったのもかずにいれてよ!」
シュガーの案は論外とした上で、しばらくの間、全員で顔を付き合わせて思案する。
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<選択肢>
1、街道沿いで無防備に通る人間をまた狙う
→ 2、昨日吸い殺した人間が持ってた地図で、近場の街まで足を伸ばす
3、少し行った山間の洞窟にいる大淫魔に会いに行ってみる
死、アルマート王国城下町へ襲撃(※選択不能)
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「……まあ、わたしはリーフが言ったのが良いとおもうけどね」
「私もさんせい。私たちなら淫気もつよくないから、きっとばれないよ」
「ふふー。頭をつかわせたら、うちのリーフがいちばんだもん」
カリンやリリーが賛成し、得意げにメルルは大きく頷く。
「あまり褒められてる気がしない……」
だがリーフは渋い顔をした。人間ならともかく淫魔にとっては、一番上手く使えるのが手や足や胸や膣ではなく頭だと言われても、嬉しくはないのだろう。
「んー。でも子供ばっかり六人みんなで行ったらへんに思われないかな」
「港は出入りが激しい場所だから、見ない顔が一杯いても大丈夫。それに六人みんなで行かなくても分かれて入れば良いし、街の入口は普通一つだけじゃない」
ベルは軽く首を捻ったが、そんな危惧もリーフがすぐに払拭した。
生まれてこの方、ずっと本の虫をやってきたリーフだけあって、魔法のみならず人間の生態や生活様式といった雑学も、大体がリーフの頭には入っているのだ。
「ただ……行くなら問題が一つだけある」
そう言って、リーフはシュガーの方へ視線をうつした。
程なくリーフが何を言いたいのか理解したのか、あー、とシュガー以外の全員が頷く。
「ほえ?」
シュガーだけが、意味が分からないのか目を丸くしていた。
すっぽんぽんの全裸の格好で。
「やーだ、やだー! あたしふく着るのきらいー!」
「しょうがないでしょ、裸で行ったら淫魔だってばればれじゃない。ベル、メルル、ちょっと妹をおさえてて」
暴れるシュガーを押し倒し、必要があれば着せるようにと母親に言われ、持ってきていた服をカリンは半ばむりやり妹に着せる。
「……う〜。ちくちくささって、やなかんじ……」
短パンに薄手の白い半袖シャツのみにも関わらず、シュガーは露骨に顔をしかめる。
なお別にシュガーに限った話ではないが、ズボンの下は何もはいてない。
「これで見かけはだいじょうぶだと思うけど……こらシュガー! ズボン引っぱっておまたにくいこませるのやめなさいっ」
若干の紆余曲折はあったものの、それから六人は草原から移動して地図を頼りに港町へと向かった。
人間の子供の足では半日近くかかる距離だが、淫魔は空腹でさえなければ疲れ知らずだ。太陽が中天を過ぎ三時を回る頃には、六人は町の手前まで辿り着いていた。
「ねえベル、なんだかピクニックみたいだね〜」
「うん。こうやって歩いてるだけなら、人間のせかいもあんまり変わらないよね」
ある程度は服を着てるのにも慣れたのか、呑気に楽しんでるベルやシュガー達を尻目に、入口の周辺をリーフやカリンは遠目で確認していた。
「思ったよりも大きくないのね。リーフ、そっちはどう?」
「北と東の二箇所に入口。だけど出入りを見てる人間は一人しかいないし、兵隊もいない。平たく言えば……ザル」
町の警備状況に対して、リーフは簡素だが辛辣な評価を下す。
だが子供達は知るべくもないが、この港町ルートインは人間同士の戦乱に度々巻き込まれ、その都度住民が避難しているため、町の設備そのものに金をかけるのをやめて久しい。
また交易の盛んな港町という特性も付加すれば、リーフにザル呼ばわりされるのも、いたしかたないのかもしれない。
「それって中であばれたりしなかったら、だいじょうぶって思って良いのかな、リーフ?」
メルルからの問いかけに、リーフは無言で頷いた。
「よーっし! じゃあいまからお昼ごはんにしゅっぱぁ……あぅ!」
いい加減突っ込み疲れたという顔をしながら、シュガーの後ろ頭をカリンが叩く。
「はぁ……まったくもう。じゃあ今から中に入るけど、ちょっと気をつけておかないとダメなことを、話しておこうと思うんだけど」
「ん? 気をつけるって、なにを?」
丸い大きな瞳をしばたかせるベルを見て、リリーがおずおずと口を開いた。
「ほら……お姉ちゃん。今からいくのって人間の町、なんだよね。人間見ておいしそうっていったり、お胸だしたり、私たちでキスしたり、あそこいじったらダメだよってことじゃないのかな」
「うん、リリーの言うとおり。おそったりするのがダメなのは当然だけど、えっちなことは全部やっちゃまずいわ。淫魔だってすぐにばれちゃうものね。あ……シュガーはわたしが近くで見てて、絶対そんなことさせないから」
そうしてカリン主導で最低限守らなければいけない点を、みんなで確認しあう。
「ぶー。ねえおねーちゃーん、それだとあたしたち何しにいくのー?」
制約ばっかりで碌に出来る事もないなら、危険を冒して町中に入るメリットが薄いと思ったのだろう。
「中からなら、外に出ていく警戒の薄い人間をずっと探しやすい。それに」
ぶんむくれるシュガーに、リーフが答える。
「あっ。リーフの言いたいこと分かった! ボクたちみたいにちっちゃい子がだいすきな、へんたい人間なら、ボクらでもかんたんに魅了できるもんね!」
得たりとばかりにベルはパチンと指を鳴らした。
そう。町の中で襲いかかる訳にはいかないが、ようするに魅了だけして自分達は外に出てしまえば良いのだ。
後は引き寄せられて町の外に出てきたのを捕まえて、みんなでおいしく食べてあげるという寸法である。
人里にいてもばれない程に淫気が薄い淫魔が、良く使う手の一つである。子供ばっかりの一行にとっては、おあつらえ向きの方法と言えるだろう。
だが、あまり繰り返すとすぐにハンターの知るところとなるので多用は禁物なのだが。
「そういうこと。あ、だけどまちがってもハンターに魅了かけないでよ。かけたくなる気持ちはわかるけど」
このカリンの念押しには、シュガーも含む全員が即座に首を縦に振った。
駆け出し相手ならともかく、ある程度の経験を積んだハンター相手に年端もいかない子淫魔が魅了したところで、自分が淫魔である事を教えるだけだ。
それは子供達にとって、どうか自分達をイかせて殺してくださいと言ってるのとなんら変わらない。
「じゃあ他に無いなら、中に入るけど」
「あ……え、えーと……リーフちゃん。入り口に人がいないなら、みんなでいっても……いいんじゃない……かな」
ベルの手を繋いだままで、不安げにリリーが言った。
リリーの台詞からは、寂しいという気持ちが言外に誰の耳にも伝わってくる。
けれど、普段あまり表情を表に出さないリーフにしては珍しく、はっきり分かるほどリリーに対して露骨に眉を潜めた。
「そんなの……意味がない」
「む。いみがない、って事はボクはないと思うけどなっ。何かあっても、みんなでいれば安心じゃないか!」
突き放すようなリーフの言葉に気を悪くしたのか、ベルが反論しようとしたのをメルルが宥めた。
「ベルちゃん、おちついて。私はリーフの言うのも分かるけど……みんな、なかよし姉妹だから。そういえば半分づつ三人だったら、どこか離れないといけないんだよね」
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<選択肢>
1、六人一緒に同じ入口から町に入る
→2、三人づつ分かれて別の入口から町に入る
3、各々の姉妹同士で、二人づつ町に入る
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「カリンとシュガーと姉さん。私とベルとリリーで、良いと思う」
恐らく事前に、どういう風に分かれるべきか考えていたのだろう。即座にリーフがそう答えた。
「へぇ。ねえリーフ、よかったら、どうしてそういう風にしたのか聞いてもいいかしら?」
興味深げにカリンが尋ねてくるのを、リーフはつまらなさそうに呟く。
「シュガーを見てられるのはカリンだけ。リリーは寂しがりだからベルと離したくない。それに姉さんと私は、少し位なら離れてても会話ができる。姉さんは何かあったら教えて、私はいざとなったらベルとリリー掴んでテレポートして逃げるから」
ぼそぼそと囁くように小さな声で、一気にリーフは言い切った。
リーフの言う通り、双子の淫魔であるメルルとリーフの間には特異な能力があった。言葉を介さなくても互いに意思の疎通が可能なのだ。
しかも数百メートル程度ならば、離れていてもテレパシーで会話もする事もできる。
「なるほどね。うん、リーフのいうのが正しいわ、わたしはそれで良いわよ」
「……う。くやしいけど、ボクも同感……」
不測の事態が起こった際の備えまで考えられていたリーフの案に、ぐぅの音もでなかったのか、カリンに続いてベルも頷いた。
「え、えと……リーフちゃん。変なこといって、ごめんなさい……」
「別に」
しゅんとなるリリーへと、一瞬だけリーフは視線を向けてからすぐに離した。
だがメルルがそんな妹を見てプッと吹きだした。
「あのねリリーちゃん。リーフはね、本当は自分も思ってることをリリーちゃんにいわれたから、むくれたの。実はリーフって、とーってもさびしんぼさんなんだ」
「な……! 姉さん、ちが……」
ポンポンとメルルに優しく頭を撫でられたリーフは、顔を真っ赤にして叫ぼうとして、そのまま押し黙った。
口で幾ら違うと言おうとも、自分の内面はメルルには筒抜けなのだから。
「なぁんだ〜。もう、ほんとリーフったら素直じゃないなぁ。それじゃあみんな、はいろはいろっ」
『さんせーい』
苦笑してベルが皆を促すと、異議なしとばかりに全員の声が重なった。それからリーフが言った割り振りで二箇所の入口に、六人は別れて向かう。
予想通り子供達を見咎める者もなく、精々で『子供だけで外に出ると危ないぞ』と軽く注意された程度で、六人は簡単にルートインの港町に入る事ができた。
「かんたんだったね〜」
「本当本当。なんだか、なやんでたのバカみたい」
町に入る前に抱いていた心配も完全に取り越し苦労に終わり、胸を撫で下ろす六人。
しかし、見かけた人間に手当たり次第に魅了をかけて回る訳にもいかない。普通の人間相手でも、失敗する事は十分に考えられるからだ。
その為に町中を観光するフリをしつつ、魅了のかけやすい獲物を物色して回る事にした……のだが。
「へぇ。人間の町って見かけはボク達のいるとこと、あんまりかわらないんだ」
「お……お姉ちゃん……声がおっきいよ……」
「あ。ごめんリリー、ついね」
物珍しげに周囲の建物を見渡すベルをリリーが注意する。
ベルはバツが悪そうに小さく舌を出して、声のトーンを落とした。
「……あれ、ねえリーフ。あの大きなたてもの、なにか分かる?」
だが町に足を踏み入れてすぐ、通りに面した場所にメルルが大きな建物を見つけた。能天気に尋ねる姉に、リーフは軽く肘でメルルの脇腹を小突く。
「近寄らない方が良い、姉さん。あれはハンターギルド」
「わ……」
ビクッと反応しメルルは指差していた手を下ろす。
町の施設に金をかけなくなったとは言っても、港町は重要な交通の拠点である。当然ハンター協会のギルドはあるのだ。
だがそんな中でも、決定的に危機感や慎重さに欠ける子が約一名。
「わぁ、おいしそ〜♪」
「ちょっと……シュガー」
通り過ぎる男を見るたびに、右手でぽっこりした下腹部を撫でながら、シュガーは物欲しげに左手の指を咥えている有様だった。
当然、すぐにカリンがシュガーの腕を引っ張って指を咥えるのをやめさせる。
「あはは……。でもカリンちゃん、そこまで気にしなくても大丈夫かも」
お腹の空いた子供にしか見えないもん、と言ってメルルが笑う。
けれど丁度そんなシュガーの視線の先にいた、ソフトクリームを売っていた露天の男が声をかけてくる。
「お嬢ちゃん、一つどうだい? おいしいよー」
「うんっ! とってもおいしそう!」
まだ二十歳ぐらいの、精気溢れる青年の言葉についごっくんと生唾を飲み込むシュガー。
傍から見れば実に微笑ましい光景なのだが、シュガーの視線の先は言うまでもなくソフトクリーム……ではなく、青年の股間である。
この徹底的にずれまくった会話には、側にいるカリンでさえも苦笑いだった。
「カリン、目立つのも良くない。買ってすぐ離れよう」
だが笑ってばかりもいられない。
皮の小袋から大き目の銅貨を一枚取り出してカリンに手渡し、リーフはそっと囁く。ちなみこの財布、昨日の商人が持っていた代物である。
物の役に立つかと思い、放置するよりはとリーフが拾ったのだ。通貨単位や硬貨の価値が分かるのは六人の中でもリーフだけだが。
「はい、ありがと。お嬢ちゃん可愛いから、ちょっと大きめにしといたよ!」
にこやかに笑う青年とは裏腹に、シュガーは『おっきくするのはあたしの方がとくいだよ!』などと思ってたりするのだが。
そそくさとその場を離れて、広場のベンチに腰掛ける。
「ねえねえリーフ。もうちょっと買ってもよかったんじゃないかな」
「美味しかったら後で買いに行けば良い」
美味しそうに見えるのか、みんなで一個じゃ足りないんじゃないの、と言いたげのベルに対し、リーフは額に手をやりつつ、ため息混じりに呟く。
「みんなでわければいいよっ。さーって、どんな味なのかな〜。ん……ぴちゃ」
舌先を伸ばしてペニスに対してするように、ちろちろとねぶるように舐め上げるシュガーだった。だが、すぐにはっきりと顔をしかめた。
「うぇええええ……おねえちゃーん! あまったるくて、お口のなかがべとべとするよぉ。おいしくない……」
べーっと舌を出して、いやいやとシュガーは首を横に振る。ベルやメルルも興味本位で舐めてはみたものの。
「うわぁ。なに、これ」
「人間のこどもって……こんなのすきなんだ……」
そのなんとも言えない表情が、むりやり精液を飲まされた人間の反応に似てたのは皮肉な話である。淫魔と人間では味の好みが違うのだから、無理もないが。
「う、うーん……。あのお兄ちゃんにはわるいけど……たしかに、へんな味かな」
「人間のお菓子に期待する方が間違い」
そしてリリーもリーフも僅かに舐めただけで、あっさり降参する。
後に残るは、ほとんど減って無い通常よりも大きなソフトクリームが1つ。露天の青年の好意が恨めしい。
「だけど、すてちゃうわけにもいかないわよね。はぁ……しょうがないわ、いらないならシュガーかして。わたしが全部たべるから」
季節は初夏。美味しそうにアイスを食べる人の姿もちらほら見かける。
そんな中で小さな子供が「まずい!」と言ってソフトクリームを投げ捨てるのは『絶対にありえない』行動だ。
妹の好奇心の責任は自分が取るとばかりに、シュガーから渡されたソフトクリームに沈痛な面持ちで相対するカリン。
「おねーちゃん、どう?」
「……わかりきったこと聞かないで、シュガー」
眉間に皺を寄せ懸命に舐めあげるカリンだったが、途中で限界に来たのか、強引に飲むこむようにして喉奥に流し込む。
「ぁぅうううう……」
食べ終わった後のカリンはもう、完全に涙目だった。
「カリンちゃんも、そんな顔することあるんだね……だ、だいじょうぶ……?」
「……うん」
リリーが声をかけても、カリンは小さく頷くだけだった。
母親の教育や生まれもあって、普段からお姉さん的に振舞っていたカリンだが、この時ばかりは完全に子供の顔になり、鼻を鳴らしながら右手で瞼を擦っていた。
泣くほど不味かったのだろう。
「ねえお姉ちゃん。もういっこ……ほんとうに買うの?」
「いらない」
不安げにリリーが尋ねると、音速の速さでベルは首を大きく横に振る。
「た、たべもの買うのはもうやめた方が良いとボクは思うんだっ! 服とか、かわいいのないかな?」
淫魔であっても女の子。折角来たのだから、観光するフリだけでなく何か見たり買ってみたいというのはあるのだろう。
だがベルの提案にまず、シュガーが大きく首を横に振った。
「ふくなんか、あたしはいらなーい!」
「まあシュガーならそう言うと思ったけど……」
にべもなく即答するシュガー。
本当は今着てる物も脱ぎたいシュガーでは、無理もない反応である。
「ベルちゃんにはわるいけど、私も服は……いらないなぁ」
「わたしも別に。淫界の服よりいいとは、とてもおもえないもの」
そしてメルルもカリンも、はっきりと難色を示す。
「う〜。リリーは?」
「えっと……私はお姉ちゃんがいくなら、いっしょにいくよ」
そう言ってリリーはベルの手をきゅっと握る。
「見るだけなら別に問題は、ないだろうけど」
ただ自分はこのローブが気に入ってるからいかない、とリーフは言った。
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<選択肢>
→1.別行動は辞めておこう
2.折角だからリリーと一緒に服を見てくる
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「目だつことは、あんまりしない方がいいとおもうな私は……」
「うん。そうだよね、ごめん」
メルルからも窘められ、ベルは少し悩んだ後にすんなり引き下がった。何があるか分からないのだから、好奇心から余計な動きをして危険を増やすのは得策ではない。
ただ少し未練深げに振り返るベルの様子を見て、付け加えるようにリーフが補足する。
「本当かどうか知らないけど、人間の服は完全に布で出来てるって聞いた事がある」
「え、布!?」
リーフの説明に、ベルは飛び上がらんほど驚いた。
淫界の衣服は全て、淫気を重ねた上で作られるオーダーメイドであり、服の性質も徐々に着ている淫魔に合うようにできている。強いていうならば、殻のような物に例えれば一番イメージに近いかもしれない。
だから淫魔がイってしまえば、仮に服を着ていたとしても一緒に消滅してしまうし、他の淫魔が着ている服を貰って着るような事も全くない。
「うわぁん……あたし考えただけでぞわぞわしそう!」
「体に異物をくっつけるってことでしょう、それ……。しんじられないわ」
シュガーもカリンも、それ以上は二の句が告げないのか、絶句していた。
「あくまで噂だけど。だからベルが行くなら、着た感想を聞きたいとは思ってた」
「じょーだんじゃないよ、そんな服ボクぜったいいらないっ!」
全力で首を横に振るベルを見て、珍しくリーフは口元を緩めて軽く笑っていた。
それから六人はしばらく町を歩いて回ったものの、興味を惹きそうなものは皆無で。
「あーあ。つまーんなーい!」
「まあ、でもこんなものでしょうね。わたしは最初から期待してなかったもの」
ぶーたれるシュガーの頭を撫でながら、カリンは既に当初の目的である獲物の物色の方に力を入れている。
「分かってはいたけど……やっぱり人間の金は役立たず。重いだけ」
リーフは、袖の中に入れた巾着袋を大儀そうに引っ張り出す。
数年程度は楽に暮らせそうなほど、財布には金貨や銀貨がぎっしり詰まっているのだが、残念ながら淫魔にとっては、おはじきにして遊ぶ程度の価値しかない。
猫に小判、豚に真珠、そして淫魔に金貨とは良く言ったものである。
「わ……リーフ本当におもいね、これ。どっかにポイって捨てちゃおうか」
「あっ」
メルルも持ってみて財布の重さに眉をしかめ、皆も頷く。だが露天の立ち並ぶ道に差しかかった時、リリーが小さく声をあげた。
「ん? どしたのリリー?」
「……きれい」
アクセサリーが所狭しと並べられた店先で、その一つをリリーは指差す。それは白く塗られた鉄芯の先に白い花飾りをあしらった、小さな髪飾りだった。
「お、それかい? お嬢ちゃん良いのに目をつけたね。1ディナール(=銀貨1枚)と言いたいとこだが……うーん、嬢ちゃん可愛いからなぁ。8ディル(=0.8銀貨分)で良いや」
「え、えっと。リーフちゃ……」
良いかな? とリリーが尋ねるより早く、リーフは銀貨を一枚押し付けていた。
露天の親父から髪飾りを受け取り店を離れると、リリーはそっと後ろ頭に飾りが来るように髪に刺す。
「人間のアクセサリー買うなんて、リリーもかわってるなぁ」
妹の変わった行動にベルが苦笑する。服ほど顕著ではないが、身を飾る物も淫界の物の方が、遥かに淫魔の間では好まれるからだ。
「うん。でもこの花が、きれいだなって。どう……かな?」
不安げにリリーはみんなの前で回ってみる。さらさらの長いリリーの黒髪の中に咲いた一輪の百合は、不思議と一際輝いて見えた。
「わぁ……似合う似合う。きれいだよ、リリーちゃん」
「これだけ似合うのって珍しいんじゃないかしら、とても自然に見えるもの」
メルルもカリンも、ちょっと驚いたように頷く。
「え、えと……ありがとう。お姉ちゃん、どう?」
照れたのか恥ずかしそうに微笑んで姉の方を見ると、ベルは目を丸くしていた。
「いや、さっきはバカにしてたけどボクも似合ってると思う。おせじじゃないよリリー!」
お姉ちゃんがお世辞言わないのは良く分かってるよ、とリリーは軽く笑った。
ぐきゅるるるるるるぅ〜
だが直後、会話の空気を破壊するような大きな腹の音がなる。
「うぅ、おなかすいたよぉ」
目尻にうっすら涙を浮かべつつ、シュガーは股をきゅっと閉じたり開いたりしていた。直接弄る訳にはいかないからだろうが、見るからに切なそうである。
「うちのシュガーは色気より食い気みたいね。さて、じゃあそろそろ行きましょうか」
苦笑いしつつ、カリンは皆を促すように十字路の左を指差した。
重い財布は、もう役目は終わったとばかりにメルルが物乞いの缶に放り込む。(日暮れ後に財布を開けて乞食が卒倒したのは言うまでもない)
「え、カリンちゃんどこに行くの?」
「おねえちゃ〜ん。あたしたちまだ、なんにもみつけてないよー」
だが行き先が分からずシュガーやリリーがきょとんとする中、ベルやカリン、そしてメルルと言ったお姉さん達は互いに軽くウインクした。
「いろいろ見てたけど、やっぱり向こうの宿のよこで話しあってる人間が楽だよね」
「あら、やっぱりベルも気がついてたのね。メルルもそう?」
「うん。3人いるけど魅了したら、絶対かんたんに効くよ〜」
ほんの数十分ほど町を歩いただけで、いつの間にか襲う獲物をすっかり絞り込んでいる姉達に、リリーもシュガーも呆気に取られ目を丸くする。
だが、傍から見れば気楽に遊んでるように見えても、ちゃんと周囲に視線を配り会話に注意を払ったりしているのだ。
いざと言う時に妹を守れるのは自分だけだという気持ちが、本能的に的確な判断を取らせるのだろう。『お姉ちゃん』は伊達ではない。
「ハンターは近くにはいない。魅了だけだから、手早く済ませれば安全」
そしてリーフは冷静に、GOサインを出す。
「じゃあちょっと待っててね、すぐ済むから」
「ふっふっふ〜ん♪ ボクの魅力でいちころだよ」
「リリー、リーフ、ちょっとだけシュガーを見ててね」
唖然とする妹たちを尻目に、三人はさっと駆け出す。
「シュガーちゃん……分かってた?」
「ううんぜんぜんっ」
顔を見合わせるリリーとシュガーを眺めながら、リーフは大きく嘆息した。
******
ルートインの港町にある宿屋の前。
「まだ四時過ぎだし、日が暮れるまでにはアルマートまで着くさ。出発しようぜ」
「だけど馬車は出ちゃったし……今日はここで泊まった方が安全だよ」
やんちゃな少年がそのまま大きくなったような雰囲気の残る、赤髪の青年が、気弱そうな青髪の青年と口論をしていた。
「淫魔なんか出ないって! それに出たら出たで返りうちにしてやれば良いだろ、そんなわらわら何匹も出るもんじゃないし。なんだったら子供の淫魔とか出ないかね〜」
そしてもう一人、黒髪の青年がやたらと威勢の良い事を言って出発を促すという、この構図が始まってそろそろ十五分になろうとしていた。
「ジェフのロリコン……」
「うっさいな、ロリコンで何が悪い!」
「開き直っちゃったよ!?」
青髪の青年がジト目で黒髪の青年を見やる。そんなやり取りを見ながら、赤い髪の青年は大げさに肩をすくめた。
「だけどここで泊まっていったら、明日の結婚式に遅刻するぞ。呼んだ側にも失礼だし、多少無理してでも俺は行くべきだと思う」
どうやら結婚式のお呼ばれなのだろう。三人ともタキシード姿で正装している。
「そ……そりゃあ確かに、そうなんだけど命の危険とは釣りあわないよ。でも……船が着くのさえ遅れなきゃなぁ……」
「へっへーん。さてはお前怖いんだろ。淫魔って言ったって相手は女だぜ女〜? 三人がかりで押し倒せばどうとでもなるだろ……あ、ロッド。お前もしかしてまだ」
「ほっといて……」
わいのわいのと騒ぎながら、出発すべきかどうか話し合う三人。
まさか自分達の会話が淫魔に聞かれているなど、露ほども考えてはいない。
しかし無理もない。何しろここは町の中。淫魔がいるはずのない場所なのだから。
だが『淫魔の怖さを甘く見てる奴と、性経験のない童貞と、ロリコンの、いなくなっても騒がれない余所者の三人組です』などと言っているのを淫魔に聞かれては、襲ってくれと言っているに等しい。
「あ、あの、お兄さんたち……ちょっと良いですか?」
だからメルルが声をかけた時も、三人は全くの無警戒だった。
「ん? ありゃ子供だ……どうしたの?」
赤い髪の青年が話をやめて振り返った時には、ベルもカリンもすっと自然に、他の人間との距離を詰めていた。
「波止場のばしょがわからなくなっちゃって……どう行ったらいいのかな……」
心底困ったように両手をぎゅっと組んだ状態で、そっとメルルは上目遣いに男達を見上げる。ベルはカリンの手を握っておろおろし、カリンも心配そうに俯いていた。
「ああ、大丈夫大丈夫、お兄ちゃんに任せてっ。波止場までは先の角を……ああいや、紙に書いた方が早いな。鉛筆鉛筆……」
先ほど仲間にロリコン呼ばわりされていた黒髪の青年が、真っ先に嬉々として反応する。
だが中々お目にかかれないような可憐な幼女が三人。しかも町中で迷ったとくれば、助けたくなるというものだ。
「わぁ……本当にこまってたの。ありがとう、おにいちゃん……!」
これほど簡単に魅了できる獲物もいないもんだと、腹の中で思いながらメルルは淫気の篭った笑みを向けて、青年の手を取った。
「……あ、あはははは……いやぁ……このぐらい」
ひとたまりもなかった。
だらしない笑みを浮かべて、男は握られたメルルの手を幸せそうに撫でる。幼女趣味の男が、幼い淫魔からの魅了攻撃に抵抗できるはずもない。
「ちょっと、こらジェフ……何やってんだ……え?」
趣味丸出しの表情をしている友人に呆れたように、赤髪の男が肩を掴もうとした時、正面にいたベルが急に体を近づけると、つんのめったフリをして男にもたれかかる。
「えへへ〜。おにいちゃん、ハンサムでかっこいいよね……」
体を密着させた状態で、ベルは妖しい笑みを浮かべ自分の淫気を全開にした。
ほどなく、男がベルの背中やお尻をそっと撫で回し始めるのを確認して、ベルはさっと体を起こす。
素人の人間が全く無警戒に、淫魔と肌を密着させたらどうなるか。こうなるのである。
「?? ちょっと、二人とも何をぼーっと……え!?」
心ここにあらずと言った感じで立ち尽くす二人を、青い髪の青年は怪訝そうな顔で見ていたが、その時ハッと息を呑んだ。
まさかこの子たちって淫――
だが彼がそれに気がつくのは、十数秒ほど遅かった。
考えが頭を巡り叫び声が口から飛び出す前に、カリンは青年の側に寄り、すっと右手を男の股間に近づけるとズボンの上から撫で回したのだ。
「…………!!」
びくんと、男は一度大きく痙攣する。叫び声の代わりに漏れたのは熱にうかされたような吐息だった。
「おっきいおちんちん。もっと大きくしてほしい?」
だがカリンはさらにズボンの上からカリをなぞり、優しく揉む。ズボン越しでは十分にこき上げることはできないが、未経験の男が淫魔の手コキに耐えるのは土台無理な話だ。
「あ、あは……」
口元から涎が垂れてきたのを確認すると、カリンは満足げに頷いて手を離し男の側から数歩下がった。
そこにいるのは、子淫魔に心をもぎ取られた哀れな羊が三匹。
「ボクたちはこれから出かけるんだけど」
「アルマートのお城までの道をまっすぐきてくれたら」
「私たちが、いーっぱいきもちよくしてあげるよ」
それだけ言って、男達を置き去りにしたまま三人はその場を離れる。
遅いから出発は明日にしようなどという考えは、男達の頭の中には最早毛ほども残ってはいなかった。
******
魅了が済むと六人はすぐに合流し、長居は無用とばかりに、門の人間が一瞬離れた隙をついてさっさと町の外へと飛び出した。
「かんたんだったな〜。ボクびっくり」
「ベルちゃんはまだ歯ごたえあったんじゃない? 私なんか魅了するひつようあるのかなって思っちゃった」
「いっぱい時間かけて獲物さがししてたもの。このぐらい楽じゃないとね」
大分離れた街道沿いまで歩を進めてから、三人のお姉ちゃんは互いの健闘を讃えあうように、パチンと手をあわせ笑いあう。
「でもでも、ほんとにくるのかなぁ。目がさめちゃったりしない?」
「大丈夫。熟練のハンターでも、一度かかれば魅了は簡単には消えないから」
直接自分が相手をした訳ではないからだろう。疑心暗鬼のシュガーに、リーフは絶対来ると太鼓判を押した。
「あっ。来たみたい……」
やがて日が沈み夜の帳が降りようかという頃、人影に一番最初に気がついたリリーが声をあげる。
そこには、息も荒く目の焦点も合わず、がちがちにペニスをおっ立てた男が三人、必死に周囲を見渡していた。
「わーい! ほんとにいっぱいきたー!」
「こらシュガー、待ち……別にいいか、今日は。それよりわたしもお腹すいたものね」
服の上をまくりあげ、ぷるんと胸を揺らしながらシュガーを追いかけるカリン。
「二人で一人たべればいいよね。ほらリリー、いこいこ」
「……あ、うん」
リリーの手を引っ張ってベルも待ちきれないとばかりに突進する。食欲旺盛なのは良い事である。
友達のそんな様子を見ながら、メルルの表情も楽しげにほころんでいた。
「今日のごはんは、リーフのはだかみたら、きっといっぱいいっぱい出してくれるよ?」
「……そう。幼女趣味なの」
普段と変わらないのはリーフぐらいのものである。
「熱い、熱いよ……。ああ、やっと会えた……お願い出させて……!」
青髪の男はカリンとシュガーに合うなり、ズボンをずり下ろす。反りたったペニスの先からは精液が既にあふれていた。
自慰したのか、それとも勝手にズボンの中で射精したのか。
だが男のそんな姿を見て、シュガーやカリンの加虐心がむくむくと頭をもたげてたのだろう。
「だらしないおにいちゃんね。わたしもシュガーも淫魔なのに、我慢できないの? おちんちんミルクからになるまで出したいの?」
「出したいっていったら、いじわるしたくなるよね、おねえちゃーん」
クスクスと笑う二人を見て、男は絶望的な笑みを浮かべた。痛くないのかと思えるほど強く自分の分身を握りしめ、男はごしごしと激しくしごきあげる。
「あああそんなぁ! もう我慢できない、出る、出るうう……!」
「あはは。ねえおにいちゃん、手を動かすのやめて」
けれどその時、カリンが男の耳元で囁くと男の右手が止まった。男はカリンの魅了を受けている。カリンの言う事には逆らえない。
「だ、出させて……出させて……」
射精寸前で止められ、男は絶望的な表情でカリンに哀願する。
「ねぇ。出させて欲しいなら、もっとお願いしてみて? 何をどうして欲しいの?」
カリンに尋ねられて男はパクパクと酸欠の金魚のように口を開けながら、切なげにシュガーを見やる。
「ふふふふ、ダメ〜。いわなかったら、あたしもしてあげなーい」
だが、からかうようにシュガーも男の願いをはねつける。
魅了状態で欠片ほど残っていた男の最後の理性。
「ああああ、僕の情けないちんぽ、足や手や口や子供おまんこでごしごしこすってぇ! 全部だしたいんだ、お願いだから! お願いです! お願いします!!」
今この瞬間、それは木っ端微塵に砕け散った。
「シュガー、ちょっと今日のさいしょお姉ちゃんにちょうだい?」
胸を揉みしだきながら、男の恥も外聞もない哀願を聞いていたカリンは、ぞくぞくと身震いするように恍惚とした表情を浮かべていた。
「む〜、でも今日のえものとったのは、おねえちゃんだもんね。つぎあたしだよ?」
分かってると頷くと、カリンは男の顔の前で秘部を大きく広げてみせる。淫液がぽたぽたと男の唇に落ちると、男は狂ったようにそれを舐めた。
「そんなに挿れたいんだ。じゃあわたしの中で狂っちゃうほどだして……ね」
地面に寝そべって、おいでおいでと手招きするカリンを見て男は抱きつくように怒張をカリンの膣奥までつきいれた。
「うぁあ暖かくてぬるぬるで気持ちいい、イくぅうううううう!」
一擦りもできずに、男はカリンの膣に精液を注ぎ込む。
「おにいちゃんのが一杯……ちゅ、ん」
嬉しそうに精液を受け止めながら、カリンは男と唇をあわせる。
「おねえちゃーん。はーやーくぅ!」
「あ……ごめんねシュガー。んっ……!」
膣から抜いても、ペニスは全く萎む気配もない。待ってましたとばかりに、シュガーは口を大きくあけて奥まで咥えこんだ。
一方その頃。
「いれるのはダメだよ。ボクとリリーのおまんこの間をこすってね」
しばらくお預けを食らわせて待たせながら、ベルは全裸になりリリーと体を合わせる。当然、つるつるの秘部も。
「お姉ちゃん……恥ずかしいよぉ」
「ボクいっかいやってみたかったんだ。みちみちのおまんことおまんこの間におちんちんあわせて、こすってあげるの! でもリリーの体、あったかい」
「お、お姉ちゃんの馬鹿ぁ……あぅ、ふぅん……」
淫核が擦れ合いか細い喘ぎ声を上げるリリーを、ベルはぎゅっと抱きしめる。
「おおおおおおおおおおお!」
リリーが下でベルが上というポジションの中、男の理性は待たされ過ぎている間に完全に消えてなくなっていた。
燃えるような赤毛をたてがみのように振り、ボタボタと口からは涎、ペニスからは先走りを零しながら、獣のような彷徨をあげる。もう自分の名前さえ満足には言えないだろう。
「じゅんびおっけー! いいよ、おいでっ」
ベルの掛け声と共に、もはや獣となった男はベルとリリーの二つの秘部の間にペニスを突っ込んだ。
びゅくびゅく、どくどく、びゅ、びゅ……
上から下から柔らかい膣特有の弾力と二人の淫気が纏わりつくようにペニスを刺激するとたちまちの内に、信じられない量の精液を吐き出した。
「えへへ、出てる出てる。どうリリー?」
「お腹があっつい……うん、んっんっ……」
どうやら興奮してきたのだろう。ベルの口に舌をいれ、リリーは激しいキスをしてきた。
「んふぇ……んんん……ぷはっ! ちょっ、リリーやりすぎぃ……あぅ」
火照った体と疼くあそこを抑えながらベルが立ち上がる。
すると完全に獣と化した男は、リリーの秘部にペニスを治め乱暴に擦り上げた。
「ふぁああ、お姉ちゃんすごい……ごしごし太いのが濃いのがいっぱい……」
「おおおおおおおおお!」
リリーの膣を味わいながら、男は一擦り毎に精液を吹き上げていく。
「こ、こらぁ! ボクのいうことをききなよ、もうぬいて!」
淫魔は精液を吸収することで力が回復する。性交自体は激しいものの、絶え間なく精液が注ぎ込まれてる以上リリーの危険は全くないが、そこでベルは無理矢理リリーの膣から引っこ抜かせた。
「ああ……出されすぎちゃって、あふれちゃう……。ん、んっ! お姉ちゃん私、もう食べすぎで、お腹いっぱい……」
秘部から溢れてきた精液を掬い取り、ねぶるように舐めあげながら、パンパンに大きくなったお腹をリリーは苦しそうに撫でる。
「けはぁ、ごはぁ、おおおごぉ……」
恐らく短い時間に出しすぎたのだろう。
男は荒い息を吐きながら膝をついて蹲るようにしたまま、地面に倒れねそべった。既に口からは人間の言葉らしき物は出てこない。
「しっぱいしたぁ……魅了したままリリーの中にいれたら止まるわけないもんな。うー、ボクのぶん、ちゃんと十分のこってればいいけど」
ポリポリと頭をかきながら、ベルは騎乗位でペニスを咥えこみゆっくり腰を降ろした。
そしてもう一人はどうなっているかと言うと。
「……変態。ロリコン。最低」
「子供におちんちんぐにぐに踏まれて、こーんなカチカチにするなんて、完全にへんたいだねおにいちゃん」
楽しげに笑うメルルと、軽蔑の眼差しを向けるリーフに踏まれながら男は痛くなりそうなほどペニスを勃起させ、身悶えていた。
「ああ、もっとなじって、もっと罵倒して、もっと踏んで……!」
「あーあ。張りあいないなぁ、このおにいちゃんって、私が魅了したときも1秒で堕ちちゃったんだよ、リーフ」
「真正のど変態……一滴残らず出して死ぬと良い」
既に男の脳裏からは耐えるという意識はなかった。だが今まさに射精しようという時に、メルルは袋から淫具を取り出し、細い糸のような物で根元をきゅっと締めた。
「あ、あ、あ……」
「出したいのに出せないのつらいよね? ……っと、リーフちょっと練習しよ。これほどいたら、おにいちゃんそれだけで、どぴゅどぴゅしちゃうから」
「……分かった」
責めている間に二人とも、秘部はすっかりぐしょぐしょになっている。
ただ為すがままに蹂躙される男を眺めつつ、ローブを捲り上げて先を口に咥えると、リーフはゆっくりとそそり立つペニスに腰を落とした。
秘裂を割って太い男根がリーフの奥まで吸い込まれていく。
「は、あ、ああああ……姉さん気持ちいいよぉ、ん、ん、んー!」
「まだいれたばかりよリーフ、もうちょっと頑張ってっ。我慢して!」
折角だから、この機会にリーフを少しでも鍛えようと思ったメルルだったが、あっという間にリーフの乳首や淫核はぴんぴんに勃起し、男根を二度ほど動かしただけでリーフはがくがくとふるえ始めた。
「あ、あふ、ふぁ……いいよぉ、いく、いく……いくの、ねえさん……!!」
身をくねらせて駆け上がっていくリーフを見て、これ以上は危険だと判断したのだろう。
メルルは小さく首を横に振ると、縛っていた糸をほどいた。
「すげぇ気持ちいい……うおおおおおおお出るぅうう!」
まるで爆発するように、リーフの膣に、男の精液が弾ける。跳ね返るほど勢い良く注ぎ込まれながらリーフは幸せそうに涎を垂らし悶えていた。
「ん、しょっと……」
「はぁ、はぁ、はぁ……」
自分では抜く事ができないのだろう。幸せそうに男と抱き合っている、小さく軽いリーフの体を、メルルが抱き上げるようにして、突き刺さったペニスを抜く。
呼吸も荒く、淫核は刺激されてすっかり大きくなっていた。
喘ぐようにメルルにしがみついていたリーフも、段々と落ち着いてきたのか、そっと体を起こした。
「……姉さん」
「気にしない気にしないリーフ。いつかなおるわよ、絶対っ。でもおいしかった?」
さらさらの髪を撫でながら慰めるメルルに、涙ぐみながらもリーフは首を縦に振る。
「じゃあ、ここからは二人でなめてあげよう? かおがべとべとになるぐらい」
リーフの訓練の時間は終わり。
ここから男にとって、射精地獄……いや、射精天国の始まりだった。男が本当に天国に行くまで、二人の顔や口中に男は精をぶっかけ続けたのである。
******
六人が食事を始めてから、ほんの数十分後。
「はー。おなかいっぱーい。ごちそうさま〜!」
「昨日すくなかったけど、これだけたくさん飲めればわたしも満足ね」
ご満悦なのか、にこにこ顔のシュガーとカリンが戻ってくると、横になりパンパンになったリリーの腹をベルがさすっていた。
「ねえねえベル、リリーどうしたの?」
「見てのとおりの食べすぎ。もともと小食なのに5かいも、なかに出されてね〜」
「おなか、きついよぉ……うぅ、お姉ちゃんごめんね」
「良いの良いの。リリーはもっといっぱい食べたほうがいいんだから。……ただ、何やってもだいじょうぶだからって、ちょっと今回の責めかたはボク、大しっぱい」
魅了した挙句に射精で呪縛まで済んでしまえば、どんなえっちもやりたい放題ではあるのだが、まさか腹が精液でたぷたぷになるまで注がれるとは思ってなかったのだろう。昨日と違いまだ獲物が若かったので、量も多かったのだが。
リリーの腹具合を慮って、ベルは短い髪の毛をうしうしとかきながら反省していた。
「でも掻き出さない方が良い。栄養になるから」
「わ! びっくりしたリーフ、いきなり後ろからこえかけないでよ」
唐突に背中から呼びかけられ驚くベルを見て、メルルが笑う。
「ごめんごめん。でもリーフも小食だよね、もっとたべてもいいのに」
「……腹八分目」
「あたしはいつでもおなかぽんぽん!」
リーフの言葉に、シュガーが張り合うようにえっへんと、ない胸を張る。もっと小さいころ食べすぎで唸っているシュガーを幾度も見ているカリンからすれば、苦笑いだが。
その時メルルはちょっとした事に気がついた。
「あ……リーフ、おはなの頭にしろいのついてるよ?」
「え。取って姉さん」
何度も何度も顔射された時についたのが残っていたのだろう。リーフがそう言うがはやいか、メルルは顔を近づけて舌でリーフの鼻の頭を舐めた。
余程予想外だったのか目をしばたかせるリーフを見て、メルルは目を細めて笑う。
「うん、きれいになった。リーフは元からきれいだけどね」
「姉さんの馬鹿……」
恥ずかしくて、赤い髪にも負けないほど顔を真っ赤にしてリーフは俯く。
「くすくす……メルルとリーフは双子じゃない。それって『わたしも同じぐらいきれいだよ』ってこと?」
「ううん。リーフは私よりもずっとずっときれいだよ。私がいちばん知ってるものっ」
余程おかしかったのか、珍しく茶化すカリンに対しそれをさらに裏返すメルル。
リーフは不機嫌そうに姉を睨むと、付き合ってられないとばかりにリリーの様子を見に行く。
しばらくして完全に辺りが闇に覆われる頃、六人はその場所を離れた。
後に残るは完全に搾り取られた三つの死体。
脱ぎ捨てられた礼服が、物悲しそうに草むらに転がっていた。
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