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淫魔チャイルド【1日目】


 弱肉強食。
 それは、強いものが成長していく過程で弱い者は淘汰されて消えていくという、全ての生物に共通している、世界の真理であり不可侵のルールである。
 どんな生き物であれ、この絶対法則から逃れる事はできない。
 動物の頂点に君臨し百獣の王と呼ばれる獅子でさえも、千尋の谷に我が子を投げ落とし、這い上がってきた子供だけを育てるのだ。
 例え崖下に置き去りにした子が、掠れた声で鳴いていようとも。
 置き去りにすれば死ぬと分かっていても。
 強い子孫を育てていく過程で、それは絶対に避けては通れないことなのだ。

 これから起こる出来事は、とある生き物の、そんな極ありふれた一例である――

【淫魔チャイルド】

 ここは小淫界シロップワールド。
 淫魔達が住む世界である淫界は数多く存在するが、他の淫界に対しても大きな発言力を持っている中央からは、少々離れた場所に位置している。
 今から九十年前に昇格した、淫女王シロップによって作られたこの世界は、まだ新興であり規模こそ大きくはないものの、年中暖かな陽気と淫気に包まれた、淫魔にとっては常春の楽園として知られている。
 数十年ほどは人間から侵攻なども受けていない、実にのどかな世界。
 だがそんな平和な世界でも、この日は特別な意味があった。
 どこの淫界でも当然のことだが、子供の淫魔は生まれてから9つか10になると、何人かの子供達『だけ』で、決められた期間、パーティを組んで人間界で過ごすのが決まりになっている。

   <自分で狩りができなければ、やがて一人になる時に生きていけない為>

 理由としては単純であるし、それはどこまでも事実である。
 しかし、幾ら淫魔とはいえ生まれてから年端もいかぬ子供たち。少々危険な旅どころの騒ぎではない。
『半分帰ってくれば良い方』と言われるほど、返り討ちにあい帰って来ない子は多い。
 それでも淫魔の親は皆、この過酷な試練に子供達を送り出すのだ。
 かつて自分も辿った道だから。
 絶対に必要な経験であることを、理解しているから。
 そして子供達の未来を考えるからこそ、引き止めたい気持ちを堪え、無事に元気で帰ってくることを祈って。

******

 だが親の心子知らずとは良く言ったもので。一部の例外を除き、実際に出かける子供の側の方では、危機感を抱いてる子は実に少ない。
「ねえねえリリー、ボクの服へんじゃないかなぁ?」
 とある一軒家の子供部屋では、十歳位の背丈の少女が、服をとっかえひっかえしつつ真剣に鏡の前で格闘していた。
 周囲には脱ぎ散らかしたと思われる服が大量に散らかっている。
 最終的に決めた淡い黄色の薄手のキャミソールを着て『じゃんっ』とばかりに両手を広げながら、くるんと一回転する。
「う、うん。似合うと思うなお姉ちゃん……。でも……」
「ん? でも何?」 
 リリーと呼ばれた女の子が困ったように、ちらちらと姉の方を見やる。こちらは既に白い半袖のワンピースへ、とっくに着替え済み。
『ベルもリリーも、いつまでかかってるの! 早く支度して降りてきなさーい!!』
 階段下の居間から母親の声が響き渡る。一時間近くも着替えに悩んでいれば、怒られるのも当然だった。
「あんまり遅いと、お母さん怒るよ……」
「そういう事は、もうちょっと早く言ってよリリー!」
 大慌てで妹の手を引いて下に降りると、二人の母親が仏頂面で待っていた。
「まったくもう……着替えにどれだけかけてるの。まあ、どうせベルが時間かけてたんでしょうけど」
「ねえねえお母さん、これにあうかな?」
 すっかり遠足気分のベルに、ゴンと一発げんこつをお見舞いする。
「いた!」
「ベルっ、そんなはしゃぐんじゃないの! 遊びに出かけるんじゃないんだから、少しは緊張感を持ちなさい! でも、リリーみたいに緊張しすぎるよりは、気楽な気持ちで向かう方が良いんでしょうけど……」
 どこか舞い上がっているベルを窘めつつ、姉の後ろで不安そうにするリリーを見て、母親は優しく声をかける。
「ねぇリリー。何度も言うようだけど、えっちは怖いものじゃないからね」
「う……うん……」
 小さく首を縦におずおずと振る様に、母親の不安は一層大きくなった。だが今日は出発日なのだ。母親が子供にしてあげられる事はもう、不安にさせないよう送り出す以外ない。
「戻ってきたらベルやリリーのお祝い一杯してあげるから、楽しみにして帰ってきなさいね! さ、そろそろ出かけなさい、みんな待たせると悪いわよ」
 ふっと表情を和らげ、二人の頭を慈しむように撫でながら母親は二人を送り出す。
 元気に手を振るベルと、側にくっついて何度も後を振り返るリリーを、二人の母親はその姿が見えなくなるまでじっと見つめていた。


 しかし、このような出来事はここだけではなかった。
 淫女王の宮殿近くには、幾つか大きな屋敷がある。
 淫界を統率するのは女王だが、女王の側には側近として力のある淫魔が守護の任につき、淫界にて高い地位と責任を持つのが基本だ。
 その屋敷のリビングでは、真剣な表情で親子が顔を突き合わせていた。 
「良いですねカリン。メープル家の子として、恥ずかしくない振る舞いでいなさい。それと、ある程度の事はもうできるようになってるでしょうけれど、まだあなたの淫気は強くないんですから。慎重に行動しなさい」
 殺人的とも言える位の大きな胸をした美しい女性が、目の前の我が子にゆっくりと噛みしめるように語りかける。
「はい。わかりましたわ、お母さま」
 背丈も顔立ちも幼いものの、母親譲りの顔立ちに既に膨らみかけている胸、そして輝く金髪の髪をなびかせて、黒いドレスに身を包んだカリンと呼ばれた少女は静かに頷いた。
 女王の側近を昔から輩出している、名家の長女としての立ち居振る舞いを、まだ生まれて10歳のこの少女は既に身につけていた。
「ところでお母さま、シュガーはどうでした?」
「……はぁ。それがねぇ……」
 しかしながら、そんな絵にすればさぞかし美しい構図になる状況は、母親の重く深い溜息によって崩れた。
「まだ早いって何度も言ったのだけど……『お姉ちゃんといっしょに行くー! ぜったい行くー!』って聞かないのよ」
「お母さま、似てる似てる」
 さっきまでとは違い、うって変わって子供っぽい笑みを見せカリンは拍手した。
「茶化すんじゃありません。お母さんも考えたんだけど、もうシュガーも9つだもの。カリンと一緒に行った方が良いかもしれないわ。それにシュガーは、同じ年の子よりもカリンの友達の方が仲が良いみたいだし……」
 そこまで言って、言い澱むかのように一度口を閉ざす。
 だが皆まで言わないでという感じで、カリンは小さく首を縦に振った。
「お母さまの仰るとおりです。来年シュガーだけで行かせると心配ですもの。わたしと一緒に行けば側で見ていてあげられるから、安全だと思いますわ」
 そう言うが早いか、リビングのドアが勢い良くバーンと大きな音を立てて開いた。
「わーい、やったぁ! あたしもおねーちゃんといっしょだー!!」
 飛び込んで来たのは髪をツインテールに結んだ全裸の少女。
 だが落ち着いた雰囲気の母親や姉とは違い、大きなくりくりとした瞳に可愛さと愛嬌、そして溢れんばかりの元気の姿は、愛らしいの一言に尽きるだろう。
「シュガーみっともないですよ、ちゃんと服を着なさい!」
「あたし、ふく着るのきらいー。裸がいちばんすきだもーん」
 そんな抗議も何のその。姉のカリンにひっついて甘えるシュガーを見やりながら、『他の子の迷惑にならなければ良いのだけど……』と母親は一人嘆息した。


 そして淫界で重要な書物を纏め管理している、大図書館にも年頃の少女が居た。
「いい? 絶対に、絶対に一人で動いたりするんじゃないわよ。皆で協力して、危ないと思った時は必ず逃げなさい。誰が笑ったってお母さんは笑わないから」
 灰色のローブに黒帽子という格好から分かる通り、魔女である母親は不安を全く隠さず、目の前にいる我が子に語りかける。
 まだ裾や袖が長すぎて、丈を詰めるだけ詰めたローブに身を包んだ、真紅の髪を持つ同じ顔をした双子の姉妹へと。
「大丈夫だよ、心配しないでお母さん。私達だけじゃなくて、ベルちゃんもカリンちゃんもいるもん。ちゃんと帰ってこれるよ」
 にこにことあどけない笑みを向ける娘の手を、母親がぎゅっと握る。
 本当は自分の側から離したくない。そんな気持ちが、言葉はなくとも双子には痛々しい程に伝わってきた。
「メルル、淫具は持っていく袋に纏めておいたから使いなさい。……魔法の練習も、もう少し出来れば良かったんだけど。麻痺呪文、ちゃんと使える?」
「あはは……私は魔法はまだへたっぴだけど……でも、その分リーフが魔法は上手だよ」
 小さく舌を出して、メルルは頭を掻く。
 色々な淫具の使い方には才能を発揮したメルルだが、魔女にも関わらず魔法の腕は大して上達しなかった。
 その代わりに妹のリーフは母親の力を色濃く受け継いだのか、まだ10歳で多くの魔法を自分の物にしている……のだが。
「リーフ、分かってると思うけど……あなたは絶対に後ろにいなさい。前に出て、直接犯そうなんて考えちゃ絶対に駄目よ!」
「…………」
 幾度となく繰り返されてきた母親の念押しに、リーフは黙って頷く。
 だが心配するのも無理はない。
 リーフは別に性技が下手という訳では無いが、簡潔に言って……生まれつき全身が性感帯という特異体質なのである。
 魔術で何とか治そうと長年必死に試みたのだが、結局治す事はできなかった。
「……お母さん……もう行かないと遅刻する……」
 そしてリーフは小さく呟いた。メルルも苦笑する。ずるずると母親に引き止められている間にも時間は過ぎ、既に遅刻は確定していたからだった。
「うん。もうみんな待たせちゃってると思うし、そろそろ行かなきゃまずいよね」
「メルル、リーフ。……必ず、帰って来て」
 別れ難い様子の母を逆にあやすような感じで二人がそっと促すと、最後に母親は双子を力いっぱい抱きしめ、キスをした。
 こうして魔女の双子もまた、母親に見送られて我が家である大図書館を後にした。

******

「あ、メルルとリーフ来た! 二人ともおっはよー!」
 集合場所である城門の前にメルルとリーフが到着すると、既に他の全員が揃っていた。
 普段から元気印のベルが、ブンブンと手を振って『こっちだよ』とばかりに呼びかける。
「みんなごめーん。待ったかな?」
「ううん大丈夫だよ。私たちも、その……さっき来たばかりだし……」
 困ったように頬をかくメルルに対して、ベルの横にくっついていたリリーが、照れくさそうに小さくはにかんだ。
「おきがえに時間かかって、ベルがおこられてたんだってー!」
「ぶー、ほっといてよシュガー。ボクだけが悪いんじゃないもんっ」
 どう考えてもベルの準備が遅いのが原因で、リリーはとばっちりである。
 その時ふと、それまでずっと黙っていたリーフが口を開く。
「見送りに、来たの……?」
 普段から口数が少ないリーフの言葉に、ベル達の話が止まった。
 主語が省略されたその言葉が誰に向けられているのかに気がつくには、当の本人にも数秒かかった。
「あれ。もしかして、あたしにいってるの?」
 二度三度と目をぱちくりさせるシュガーに対し、リーフが黙って頷く。
「みおくりじゃないよーっだ! あたしも、おねえちゃんやみんなといっしょに行くんだもん! あたしがいれば『ひゃくにんりき』よっ、えっへん」
 全くない胸をそらして威張るシュガー。ちなみに結局服を着る事を嫌がったので、全裸のままだったりする。
 だがシュガーの言葉にも、リーフは特段の反応は見せず『……そう』と呟いて、小さく目を伏せただけだった。
「シュガーの面倒はわたしが見るから心配しないでね。うちの妹はほっとくと、無茶ばっかりするから……」
 カリンの言葉に、シュガー以外の全員が深く頷いた時、城門が開いた。
「あらあら。もうみんな来ていたのね?」
 城門の前で、六人揃ってわいのわいのと騒がしくしていると(約一名ほど無言な娘もいるが)溢れんばかりの大きな胸を揺らしながら、一人の淫魔が城の内側から姿を現した。
 ちなみにこの淫魔。名前をメルローズと言い、女王の腹心にして幼少の時からの親友で、現在は侍従長の位にある。
 所謂お偉いさんであるのだが、そんな事は子供たちには関係が無い。

「わぁ、でっかーい! メロンみたい!」
 シュガーが胸を一目見て素直な感想を口にした。
「もうシュガーったら……。お会いしていきなりそういう事を言わないの。まずはちゃんとあいさつしなさい」
 胸の大きさを褒めることは淫魔にとって全く非礼ではないが、しかし出会ってすぐ「でっかい胸!」と言うのは、順序的にはあまり宜しくない。
「いえいえ。いいのよ、立派な褒め言葉だもの。さて……と。みんなはもう当然知ってると思うけれど、これから何をするのか一応確認したいと思うわ。聞きたい事があったら必ず聞くようにしてね」
 尤もそんな事は日常的なのだろう。にっこりシュガーに笑いかけてから、一度言葉を区切ってメルローズは皆を見渡す。
 これから始まる冒険を前に、期待と興奮、そして不安と恐怖が微妙な配分で混ざり合ったような空気が子供達の間にある事を、彼女は敏感に感じ取った。
  
「今からここにいる皆さんを魔法で人間界に送ります。やる事はたった一つ『人間界で10日間生活してくる事』だけ。ただし、その間のご飯は全員で協力して探すようにして下さいね。……はい、じゃあ質問は?」
 非常に簡素な説明を終えると、まずひょこっとカリンから手が上がる。
「すいません、帰ってくる時はどうするんでしょうか……?」
「10日経ったら強制的に戻ってこられるようになってるわ、だから心配しなくても大丈夫よ」
 良かったら魔法陣の構造を教えるけど? との言葉にはリーフ以外の全員が即座に首を横に振った。
「メルル姉さん……」
「む、むずかしいお話聞いたら、頭いたくならない?」
 他の面々は仕方が無いにしても、卑しくも魔女の長女であるメルルまで首を横にブンブン振ったのをリーフがジト目で見る。
「こほん。そんなに難しく考える必要は無いのよ、みんなもいつかは一人で生きていくようになるでしょうから、これはその為の予行演習。あまり緊張しすぎないでね」
 話が脱線しそうになるのをメルローズがやんわりと戻した。
 が、ここで始めて彼女が柔和な笑みをやめ、真顔で子供達に向き直った。
「ただし。重々承知してると思いますが、絶対に人間の責めに飲まれないこと。わたしたち淫魔がイかされたら、どうなるかは知ってますね」
「ええと……き、きえちゃう、んですよね……」
 姉のベルの側で黙って話を聞いていたリリーが、おずおずとした小声で答える。
 その言葉に、メルローズは意外にも小さく首を横に振った。
「その答えなら半分だけしか正解じゃないわ。正しい答えを言える子はいるかしら?」
 問いかけに、黙っていたリーフが口を開く。
「私達淫魔は絶頂すると、同時に生体エネルギーでもある淫気を全て放出して絶命、消滅します。……蘇生方法の類いは存在しません」
「うん、そうね。だからくれぐれも、軽はずみな行動はしないように。けれど、だからと言って脅えすぎてもいけません。はい、理由は?」
 子供達が生まれてから今までに覚えてきたことを一つ一つ確認するように、メルローズが尋ねていく。
 これは出発前の最後の復習だと、最年長であるカリンは気がついた。
「えっと。おっかなびっくりでえっちしようとしても、上手くいかないからでーす」
 元気良く手を挙げてベルが答える。
「その通りよ。まあ、ほとんどの子は生まれつきえっちが大好きだと思うけど、一応ね。変に怖がりすぎたら出せるものも出せないから。じゃあ最後の問題。人間界に行ったら一番注意しなきゃいけないのは何かしら?」
 自分が答える前にみんなが答えてしまい、ずっと答えたくてうずうずしていたシュガーが、はいはいはーい! とぴょんぴょん飛び跳ねる。
「とってもおいしそうな、はんたーさん!」
「はいよくできました。ハンターにもピンからキリまでいるけれど、美味しそうに見えれば見えるほど凄く強いハンターの事が多いから困ったものなの。今のみんなは、食べたくなるのを我慢してちゃんと逃げなさい。はい、じゃあお姉さんからのお話はこれでおしまいっ。じゃあお城の中に入りますから、私の後をついてきて」
『はーいっ!』

 城門を潜り中に入ると、煌びやかな装飾の調度品やシャンデリアなどが視界に飛び込んでくる。いつかこんな所に住んでみたいなどと、皆でわいわい喋りながら後をついて階段を降りていく。
 辿り着いた先には巨大な六芒星の魔法陣が描かれていた。六箇所の頂点には綺麗に磨き上げられた水晶が置かれている。
「……六芒転移……!」
 それを見てリーフが息を呑んだ。
「あら、名前を知ってるなんて流石に魔女の家の子ね。さ、じゃあみんな一人一つづつ水晶玉に触っていてね。動いちゃダメよ」
 言葉に従い、六人はそれぞれ六芒星の頂点にある水晶に触れる。全員が位置についたのを確認してから、メルローズは魔法陣の中央に立ち全員を眺めた。
「それではこれから転移を行います。……10日後に、また会いましょうね」
 そして、流れるように澱みなく呪文を唱え終わると同時に、子供達の姿はその場から消えていた。

******

 それからほんの数秒後。おそるおそる目を開けた時、六人が立っていたのは既にお城の地下ではなく、夜空に無数の星が瞬く広大な草原のど真ん中だった。
「わぁ……ここが人間界なんだぁ。すてきな風〜」
「わーい!!」
 両手を広げ、クルクルと草原を回りながらベルがはしゃぎ、シュガーも辺りをベルと一緒になって走り回る。
 そんな元気印の二人とは対称的に、メルルとリリーは女の子らしく月明かりで照らされた草むらの花を眺めている。
「ねえねえ、こんな花は淫界にはないよね。なんて名前なのかしら?」
「うーん。私はわからないけれど……でも明るくなったら花輪作ってみたいなぁ」
 そんな緊張感の薄めな4人に対し、渡された地図を引っ張り出して現在位置を確認するのはカリンとリーフの二人。
「…………転送場所はここ」
 リーフが地図の一点を指差し、自分達の足でも回れそうな周囲をざっと確認する。
「人間のすんでる所から、けっこう近いのね。この線は……道……かしら?」
「それは街道。街からも離れてるから、襲うには手頃かもしれない。……でも」
 一度言葉を区切った後、地図をパタンと閉じてリーフは無言で空を見上げた。今からでは暗くて探しようがないという事だろう。
 何を言いたいか理解したカリンは、近くにいたメルルとリリーを呼び寄せた後に、遠くのベルに向かって叫んだ。
「ベルー! シュガー連れてこっちに来てー!」
 ほどなくシュガーの手を引いてベルも戻ってくる。
「どったのカリン。あ、さっそく今から人間たべに行くのっ?」
 待ってましたとばかりに瞳を輝かせるベル。
「それなんだけど、夜じゃほとんど人間は見つからないし寝た方が良いかなって」
「あ。そうだね、そうしよっか」
 特に反対する理由も見当たらない。
 全ては明日からと決めると、適当な木の下で幹に寄りかかり皆で円を描いて寝る。
「おねえちゃん、あたしなんかどきどきしてねむれないー」
「シュガーは今日はしゃぎっぱなしだもの。寝ないとおっきくなれないわよ」
「あたしはおっきくならなくていいもーん、ちっちゃい方がすきな人間っていーっぱいいるしっ」
 シュガーの言葉にカリンが苦笑する。
 まあ……確かにそういう人間が多いのは否定しないが。
「でもカリンはちょっとだけど、もう胸ふくらんできてるよね。いいなぁ、ボクもおっきくなりたい……」
「わたしは少し早いだけだってお母さまも言ってたし、ベルもすぐ大きくなるわよ」
 まな板同然の胸に視線を落とすベルをカリンが励ます。だが、ぱぁっとベルの顔が明るくなった直後、横に居たリリーが小さく呟く。
「あ……でも、お姉ちゃん……うちの家系はそんなに大きくならないって、お母さんが言ってたよ。お母さんもあまり大きくないし……」
「うんそうだよねカリン。これからこれからっ、きっと大きくなるもん!」
 リリーの言葉にベルは全力で聞こえないフリをする。微笑ましさを感じる、日常の延長線のような和やかな雰囲気。
「そういえば。カリンだけは人間界にきたのって始めてじゃないんだよね?」
 その時、メルルの一言がそんな空気にそっと小さな穴を開けた。
「うん。女王様がお母さまにどこかの人間の街をせめこんで来なさいっておっしゃって。ぜーんぶ終わってから、ちょっとだけ体験させてあげるって……ね。どきどきしたよ、とっても」
 カリンは皆に、どこか懐かしげにその時の思い出を簡単に話す。
 子供に過ぎないカリンはこの時の背景など知る由もないが、とある人間の国が淫界への侵攻を考えているとの情報に、機先を制そうと送った先鋒隊が全滅したのだ。
 その為に、報復も兼ねて本来は近衛守護であるメルルやシュガーの母までが陣頭指揮に向かい、僅か三日で国ごと攻め滅ぼした事があるのだが、その際にカリンも人間を吸い殺すのを体験したという訳である。
「ぶー。おねえちゃんだけで、あたしはおるすばんだったんだよぉ!」
「シュガーは危なっかしいから、お母さまはまだ早いと思ったのよね……」
 カリンの言葉にシュガー以外の全員がうんうんと大きく頷き、ふぐのようにシュガーはプーッと頬を膨らませる。
「……あれ。リーフちゃん、もう寝ちゃったのかな……?」
 ふとその時、一人反応が全く無いリーフに気がついたリリーが声をかける。メルルを除く全員がリーフの方を見ると、リーフはゆっくりと身体を起こした。
「……まだ……起きてる」
 それだけ言って、何事もなかったかのようにまた横になるリーフ。
「あはは……リーフはあんまり喋らないから分かり辛いけど、みんなの話はいつもちゃんと聞いてるよ。リーフってば、てれやさんだから」
「……違う」
 今度は身体も起こさず、ぼそっと聞き取れるギリギリの声で答えるリーフ。
 結局、全員が寝付くまでにはもう少しばかり時間が必要だった。


<2日目>に続く

 えーと、ども……初めまして。作者の羽二重です。
 今回の【1日目】は、かつて某スレに出した冒頭部分の改版ですが……デスクトップの肥やしにしてる期間が長かったせいで、今見ると誤字脱字が多くて多くて。
 しかも表現はてきとーだわ、設定面や世界面は甘いわ、無駄な説明は多いわと、粗が山ほど見つかる見つかる。読んでて眩暈しましたよ(汗)
 とゆー訳で一念発起して大幅に手を入れましたので、スレに出した当時から15%ぐらい変わっております(どこが変わったのか比較するのはやめてね! 恥ずかしいから!!)
 まあ、一番大きな変更点は六人が生活する期間が<13日間>から<10日間>に変わった事でしょうけどw(イベント考えたら無駄な時間回しが多すぎるだろ常考……)
 
 エロ作品はド初心者な上に、普段一人称中心で書いてる事もあるため三人称はこなれない点も相当あるんじゃないかとは思いますが、一人でも多くの人に読んで貰えれば、幸いです。
 
 ああそうそう。
 私は幼女(二次限定)が大好きです、以上(笑)

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