「なぜレイ君に酷い仕打ちをするっ。あの子を解放しろ!」
「そうはいかない。レイ様は淫魔の未来を担う、かけがえのないお方だ。──来い、レイ様が兄と慕う男よ。神の想いが一心に注がれるキサマの輪廻は、私が瀬踏みさせてもらう」
「なんのことを言っているっ!?」
「来ないならば、こちらから参るまでだ。キサマにレイ様を渡しはしない。私の宿命は、──レイ様を人間に戻すことだと、悟ったからだ!」
「淫魔が御託を並べ、泣いているシンディさんの想いを踏みにじるな!! 俺はレイ君を救出するまで、絶対に……、死ねないっ!!」
「どお? 淫人ちゃんは」
淫女王バベット・アン・デニソンが翠色の双眸を向けた先には、診察用ベッドで四つん這いになっている患者と、診察中の女医の姿があった。
藤色のペティコートに身を包んでいるバベットは、愛嬌のある大きな目に冗談の色が垣間見えず、真剣の眼差しそのものである。
「恨事の極みだけれど、……全快です」
デニソン総合病院の院長を務めるミューティー・ワーズは、大きく溜め息をつきながら、バベットに応えた。
白衣の女医は床で立て膝をつきながら、獣の姿勢をとらされている患者の後ろへ廻り込み、患者の股間で硬直している肉の棒を、右手で握っている。
彼女は残念がる発言をした途端に浅葱色の瞳を絶望に染めると、しごく速度を上げた。
「なんで医者が、患者の回復を残念がってんだ……うぅ」
自分の主治医に抗議したレイは、夥しい快楽を与えられ、情けない呻きを漏らした。
細い指で柔和に包まれているだけでも腰から力が抜けそうなのに、愛撫される刺激が強くなり、射精感の火を灯されてしまう。このまましっかりと握り込まれたら造作なく爆発させられると思うと、身震いした。
透明の粘液は若塔の先端から湧き続けている。身体の震えによって雫が落るとベッドのシーツを汚したが、快楽やとまどいは、これだけが原因ではなかった。
「だって私のレイきゅんが帰っちゃったら、先生淋しくって、これからどうやって生きていけばいいのか……」
ミューティは、アップにしている炎緋色の髪の毛と色を合わせたカシュクールブラウスから、左胸を零れ出している。それを少年の尻に押しつけていた。
レイの尻とミューティの肉体によって挟まれた乳房は柔らかく潰れ、胸元や谷間の稜線を明確に浮き上がらせている。
「何が私の、だ。ぼくは誰のものでもないっ」
「ねえレイきゅん、骨折でもして入院を長引かせてみない? ちょっと階段から落ちてみるだけでいいの」
「ふ、ふざけん──」
レイは反駁しようとしたのだが、後ろの穴に入っている固いしこりの感触によって中断させられた。
声を上げても、すぐに呻き声へ変換されてしまう。
少年の肛門には、指や舌ではなく、乳首が挿入されているのだった。
胸を押しつける動作は緩慢なものであり、怒張しきった若塔を愛撫する動きには及ばないものの、変態行為が少年の精神を恥辱にまみれさせている。
ミューティが小刻みに上体を揺らすたびに少年の括約筋が無意識のうちに収縮し、女医
の乳首を捻じ切らんばかりに咥え込んだ。
「あん。レイきゅんの可愛いお穴が、先生のおっぱいを、たくさん吸ってる」
ミューティの実況がレイの耳に届くと、少年の顔は湯でも沸かせそうなほど赤くなった。唇を口の中へ巻き込んで歯を食い縛り、狂い死にしそうなほどの羞恥をなんとか堰き止めているものの、もはや命令を受けつけなくなっている全身は火照りきって淫気に暴れ散らされているため、決壊寸前だ。
ミューティの手淫は、女性に挿入している感覚があった。五本の指は膣ヒダのように少年を擦り、湿り気を帯びた指の腹がいらやしい。手加減されているため握力自体は弱々しいものの、指の腹で裏筋を淡く刺激されるむず痒さが肛門へと疾駆するため、道中にある海綿体まで刺激されて後ろの門が勝手に収斂を繰り返し、女医の乳首を吸い続けるかたちとなっていた。
しごき上げられると亀頭が手中に収まり、しごき下げられると顔を出す。先端から漏れる透明の粘液が女医の手に粘りつくと、数度のしごきで泡となる。
壊れてしまえば楽になれるという暗黒の願望が、心の奥底から煮え滾ろうとしていた。
「女王様。このままでは、レイ・センデンスが発狂するのでは」
病室の戸口で控えていたマリア=ルイゼ・フォーフェンバングが、医師と患者のやりとりを見ながら隣にいるバベットへ声をかけると、バベットは、「いいからいいから」と、声のみで制してきた。
マリア=ルイゼはこれ以上の進言はやめ、不安そうな面持ちで状況を見守る。
「淫人ちゃん、退院できるってさ。よかったね〜」
バベットは窮地に追い込まれている少年を見ながら、楽しげに声をかけた。
レイは、まったく助けに入ろうとしないバベットとマリア=ルイゼへ震える首を向けると、恨めしそうに空色の目を濁しながら双方を睨みつける。
だがすぐさま反抗的な目つきは快楽に歪み、潤んだ。
しごかれる男子の象徴が、種液を溜め込むふたつの宝物を腹腔に収納し、発射態勢を万全にする。
これを目ざとく嗅ぎ取ったミューティが、さらに胸を押しつけてきた。
レイは乳首で腸内を抉られる汚辱から唇の震えが止まらなくなったが、それは気持ちのよさを表してもいた。
「あのさあ淫人ちゃん。イキたいんなら、べつにそのまんま気持ちよくなっちゃってもいいけど、淫気を使うの、完全に忘れてるよ〜? 受けが大好きだからそんなつもりはないってんなら、それはそれでもいいけどさ〜。ちゃ〜んと、いつでもコントロールできるようになっとこうねぇ」
高めで澄んだ声質の持ち主であるバベットが、間延びした口調で指摘してきた。
この声を聞くたびに茶化される思いになる。だが同時に、的を射ているともレイは思った。
淫気の制御を忘れてミューティのなすがままになっていた自分に気付いたのだ。
全身を駆け巡る淫気は暴走しているといってもよい。より快楽に敏感になるようレイを発情させ、身体を発汗させている。淫核化した心臓からは濃度の高い淫気が次々と精製され、快楽は至上の悦びであると、ミューティの責めを細胞レベルで縫い込んでいく。
「ワーズ先生。このままだと壊れちゃうから、母乳は注いじゃダメだよぉ〜」
「心得ております」
この期に及んでまだ何かする気だったのかと、レイは恐怖すら覚えた。ただ、その恐怖心が、レイの精神を快楽まみれにさせない防波堤となった。
身体を巡る淫気の流れは、意識せずとも感じ取れる。卑猥な潮流が血の流れを活発とし、脈拍を高めて呼吸を荒げさせていた。
それらをもたらす原因がどこにいるのかは、すぐに知れた。
淫核化した心臓の中に、もうひとつの小さな淫核がある。ここには狂気と淫乱を司る精霊、フレンズィー・ルードが封じられている。精霊の本体ともいえるものだ。この小淫核から発せられる異質の淫気がミューティの淫気と融合し、自分を累卵の危機に陥れていた。
精霊の活動を抑制できないものかと思考を巡らせてみたが、後ろに入っている固いしこりが存在感を示し、臀部を圧迫してくる柔らかな乳肉の肌触りも相俟って、霧散する。
精霊は受けられる快楽を、決して我慢しなかった。すべてを受容し、さらにより多くを得んと徹するのだ。
これがフレンズィー・ルードの本質らしい。満たされぬ淫欲が狂おしいほどの憤怒をもたらして淫らな行為を渇望し、契約という強烈なしがらみのなかで、機会さえあれば、己が存在を示威した。
「こんな状況じゃ、やっぱもう遅いか」
バベットが嘆息した。
レイは口をだらしなく開き、涎を垂らしているのを見たからである。
白衣の女医は、患者の雰囲気が変化したのを察知すると、即座に少年の股間から右手を離した。
股間から全身へ発散していた射精感を寸止めにされたレイは、長い喘ぎと共に、愛撫を中断した自分の主治医へ不満げな表情を作る。
「あん、レイきゅん可愛い。なんだか先生、とっても欲しくなっちゃったわ」
ミューティは舌を出すと、右の掌に残留する、少年の先走る泡の液を恍惚と眺めながら、舐めた。
彼女は立て膝のまま妖しく腰をくねらせる。まだ乳房はレイの尻に密着させているため、振動が少年の肛門へ伝達された。括約筋が、乳首に抉られると同時に窄まる。
快楽に揺れる海綿体が若塔の根元に触れそうになった。
「イッたら駄目よ、レイきゅん」
ミューティが身を引いた。
「なんで……」
これでは生殺しだと、屈辱感が横溢した。
女医の乳房にある砥粉色の乳首や乳輪は、少年の腸液によって濡れ光っていた。
ミューティの胸肌を、初めて見た。
半球型の大きな胸にある突起物は、薬指の先ほどの径を有し、小指の第一関節の半分くらいの長さがある。こんな小さなものに巨大な存在感を抱かせられていたのかと思うと、末恐ろしくすらあった。
「そんなに見詰めて。吸っていいのよ?」
犯されるのは屈辱的ではあるものの、絶頂すらさせてもらずに敗北感を抱いていたところへ、さらに追い討ちをかけられた。
レイは、四つに這う姿勢を崩してベッドへ坐ると、逃げるように女医から背を向けた。
触りたいという思いと、自分の排泄器官に収まっていたものを忌避する思いが交錯する。肛門に違和感を覚えながら、天井へ向かって伸びる若塔が恥知らずな存在のように見え、また、叶わぬ思いに手を伸ばし哀願する無様な姿にも見えた。
火照りきった身体は女体を欲していた。意識せずとも溢れ出す不可視の淫気がこの場にいる三名の淫魔へまとわりついてゆき、彼女たちをその気にさせようと使嗾する。
快楽を断ち切られた狂淫の精霊は、動かない支配者に対し、傲然と不満の意志を訴えていた。
「おっし、準備運動はこれでオッケーかな。ほんじゃ、行っといで〜」
「行くって、どこへ……」
荒ぐ呼吸を整えつつ、少年は戸口にいるバベットへ首を向けた。
視線はバベットの顔ではなく、彼女の胸に吸いついた。
圧倒的な魅力を含有する乳魔の女王の乳房は、ペティコートに包まれながら胸元が押し上げられている。この深い渓谷に心を堕とし、狂喜した記憶が蘇ってきた。
堕落が確定する乳房だと理解していても、注目せずにはいられない持ち物である。
レイは魅了されかかっていたのに気付くと慌ててかぶりを振り、彼女から目線を切った。
射精させてもらえなかった屈辱をバベットの胸で晴らしたいという思いを抑止するのは、容易ではない。裸になっているミューティの乳房よりも注目してしまう存在力に気圧され、無意識に肛門が締まった。
バベットは少年の様子を事もなげに、続きを発言した。
「もちろん、アーシアちゃんの説得に、だよ〜。マリアちゃん、淫人ちゃんの服を出してあげて」
「はっ」
バベットの軽い口調から出た突飛な言葉は、レイにとって心臓が収縮するほど重く、痛みが発せられた。そのお蔭で、我に返った。
アーシアは所用でいないとお茶を濁されるばかりで、詳細はいっさい教えてもらえなかった。入院してからずっと、逢えていないのだ。
彼女には二度、命を救われている。
一度目は狂淫の精霊に自分の身体が乗っ取られたときだ。二度目の事は覚えていない。恍魔との戦いに勝利した後、淫気中毒により狂乱した幼馴染のシンディに自分の命を捧げようと覚悟してからの記憶がないためだ。バベットからの伝聞によれば、その後、アーシアが身をもって守ってくれたらしい。
アーシアを想わぬ日などなかった。必ず天界へ還すと心に決めている、大恩人である。
「着ろ、おまえの衣服だ」
マリア=ルイゼは、ベッドへ衣服を置いた。バスケットシューズは少年の足元に置く。
「アーシアは、どこで何をっ」
レイは自分の衣服を懐かしむ間もなく興奮し、ベッドを降りて立ち上がった。屹立を続ける下半身を晒しても恥じ入る余地がないほど、バベットへ真剣な容貌を向ける。
今度は胸ではなく、女王の顔を見れた。
膝立ちのミューティが、眼前に聳えるレイの若塔に恍惚の表情を向け、今にも咥えてきそうな様相を呈した。少年のモノから放散する濃い淫気に当てられたのか、舌なめずりしながら熱っぽい吐息を漏らし、黒いタイトミニスカートの中へ右手を忍ばせている。
「アーシアちゃんは、人間界にいるよ。それも、淫人ちゃんの故郷に」
「なんだってそんなところに!?」
「これが話すと長いんだよねえ。とにかく、アーシアちゃんは人間界で戦ってるから、連れ戻してきてほしいわけ。淫人ちゃんが退院して例の場所に帰るには、アーシアちゃんが必要なの。ディーネちゃんは、ずぅ〜っと帰ってこれてないっしょ? あたしも今は、自分の国がたいへんだから、とっても、とお〜っても残念だけど、淫人ちゃんの面倒を看てあげられないの」
「戦ってるって……。それに、ぼくが監禁されてたあの場所は、バベットたちしか知らないってのも、まえにも言ってたよね? ぼくの知らないところで、何が起こってるんだ」
「そりゃあ、時間は生き物だもん、イロイロと起こってるに決まってるっしょ。──淫人ちゃん?」
バベットが言葉を区切り、レイを凝視してきた。愛嬌のある面持ちは変わらないものの、翠の瞳には冗談の色が皆無である。
射すくめられるほどの威圧がレイを襲い、少年は直立した。
「とんでもないうねりが来るかもしれない。あたしは最悪の状況を想定して対策を執らなくちゃいけないから、もう行かなくちゃいけないんだよね。だからもし、お互い生きてたらさ、『よく頑張ったで賞』ってことで、いっぱい気持ちよくしてあげるね〜。あーそーだった、そーでした。淫人ちゃん、あたしに挿れたかったんだったっけ? それもきっと、あとでしようね」
バベットが満面から笑みをたたえた。この屈託のない笑顔を見ると、不思議と、自信が湧き上がる。なんでもできそうな気分になってくるのだ。
少年の火照りが沈着すると、狂淫の精霊も、大幅に憤りを鎮めた。
そこで、淫気の制御が可能かどうかを試してみた。股間に収束している濃度の高い淫気を外へ放出するイメージをもつと、容易に実行される。
ミューティが少年の淫気を顔に受けると喘ぎ、スカートの中へ忍ばせている手の動きが活発になった。
「うん、頼もしい。淫人ちゃんは、それでいいんだよ。淫気の息吹を常に意識して、きっちり使っていくことを覚えよう。ほんじゃワーズ先生、マリアちゃん。あとは首尾よくね〜」
満足そうにうなずくバベットを見たレイは、一抹の不安がよぎった。
心に余裕のできた自分が、なぜ不安に駆られるのかと、疑念を抱く。
「ほんじゃね〜」
バベットはレイへ手を振った。
「バベット!」
叫んだときには、淫女王の姿が、院長の診察室から掻き消えた。
「準備いいよ」
着替え終えたレイは、空色の両目に燃え滾る輝きを示し、軽く飛び跳ねた。
飛び跳ねた挙動時に膝を折り曲げ、より高く跳ねている状況を自ら演出してみせる。
いつもより高く舞い上がれた気がした。
着地時に、バスケットシューズが床とかみ合い、レイの大好きな、イルカの鳴き声のような音色が診察室に響く。
幼馴染のシンディからプレゼントされた、『アルファ』というブランドのトレーナーへ目を落として成長途上の胸板をひと叩きし、言いようのない高鳴りを気合に置き換える。
「では行ってまいります」
マリア=ルイゼは、右腕を肩の高さまで上げると、優雅に弧を描いて腹の前へ折りながら、両膝を落として挨拶する。
「レイきゅんの心のままに、フォーフェンバングは援護をしてあげればいい。非番の子たちも総動員してあるから、こちらは気にせず、存分にやってきなさい」
「心得ました」
「なんの話?」
意味不明の会話を耳にしたレイが、マリア=ルイゼとミューティ双方へ目を向けた。
「そればかりは守秘義──」
「レイきゅんが怪我して帰ってくるようにする算段よ。そうすれば、先生また、レイきゅんの担当医になれるでしょう?」
ミューティに追いかけまわされた日々を追想したレイが逡巡し、一歩あとずさった。
アーシアに逢えるという意識が心のほとんどを占有していたため、ミューティに犯されるのはイヤだという思いも加わると、マリア=ルイゼの意味深な発言を留め置くだけの心の許容量を超過し、押し流してしまった。
間髪入れずマリア=ルイゼに左腕を取られたレイは、いきなりの感覚に驚いて、黒翼の堕天使を見た。
「レイきゅんお願い頑張って」
辛辣な声を聞いたレイは、さらなる不安を抱いた瞬間、
ミューティの診察室から姿を消した。
背徳の薔薇 うねりだす世相 了
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