勇者誘惑(その0.5)BADEND 蛇口勇者
「教会? 残念だったわね。ちょうどこの前神父様が魔物に殺されちゃったのよ」
うら若い宿屋の女将はさほど残念でもなさそうに、煙草を吸いながらそう答えた。
僕は戦慄し、しばらく言葉を失ってしまう。
「隣町にはあると思うけど……なにせ、ここは魔王城のある島にある数少ない人間の集落。
周囲を徘徊する魔物の強さも、大陸とは桁違いよ。
後ろの棺桶抱えてちゃ、一人での旅は危険じゃないかしら」
そう、ここは魔王城にほど近い町なのだ。
僕は仲間である戦士のジョー、僧侶のケイン、魔法使いのグエンと魔王討伐の旅をしていた。
しかし、いざ魔王城のある島に上陸した途端、
圧倒的な魔物の強さの前に、仲間達が倒れてしまったのである。
命からがら逃げ延びて、やっとたどり着いた町に、仲間達を復活させられる教会がなかった。
四人ですら敵わなかった魔物達に、僕一人で敵う訳がない。
「くそっ……どうすれば……」
「――ねえ、もしかして君は勇者様?」
宿屋の女将はそう言って、僕の顔をのぞき込んでくる。
よく見れば、まだ若く美しい女将……
……その胸元は、広く空いた襟口いっぱいに、豊満な女肉を強調していた。
絶望的な状況ながら、不謹慎にも女将の胸を凝視してしまう僕。
「あ、は、はい……でも、まだまだ未熟の身で……」
「そうねぇ。いくら大陸では活躍できたとしても、この島では通用するとは限らない。
多くの旅人がこの島で命を落としたわ」
「…………」
「でも、沈む必要はないわよ。
貴方が本当に勇者様なのだとしたら、この島でだって仲間になりたいって冒険者は大勢いるもの」
「え……?」
「つまり、新たな仲間を集えばいいのよ。
この島で鍛えられた、屈強な冒険者達を連れていけば、魔王討伐もはかどるに違いないわ」
「そ、そんなこと……!」
それはつまり、今まで旅をしてきた仲間達と別れるということ。
大陸であらゆる危機を乗り越えてきた仲間達を見捨てるだなんて……!
「わかってるでしょう? この島にいる魔物達は大陸とは訳が違うのよ。
そんな使えない奴らは放っておいて、もっと強い仲間を連れていかなきゃ」
そう言って、女将は僕の腕にしなだれかかってくる。
腕に感じる豊満な女将の乳房――そして、鼻先には女将の美しい、化粧に彩られた妖艶な笑顔があった。
「それに、この島にいる冒険者は、なぜだか女性が多いのよ。
それもとびっきりの美人ばかり……男臭い旅より刺激的になると思うわ」
女将の言うとおり、僕は今までずっと男性とパーティーを組んでいた。
旅立ちの時に女性の冒険者からも誘われたけど、女性との接し方がいまいちわからなかった僕は、
雑念を振り払う意味でもあえて男性を選んだのだ。
しかし、それに後悔がなかったかといえば嘘になる。
時折出会う女形の魔物に触れられて、心臓を高鳴らせたこともある。
魔の手から救った女性からお礼をさせてくれと言われた時、よこしまなことを考えたこともある。
確かにこの島の敵は今までとは全然違う。
苦労して仲間達を生き返らせたところで、またレベル上げをしなきゃいけないし、
その間にも魔王が世界征服を進めている。
何より、彼らは今戦闘不能になっているのだ。僕の行動を見ている訳ではない……だったら……
1・何を考えてるんだ僕は! なんとしてでも仲間を生き返らせる!
2・早く魔王を討伐するためには仕方がない。新たな仲間を集おう。
1・何を考えてるんだ僕は! なんとしてでも仲間を生き返らせる!
「いや、仲間達との絆は大切なので、なんとしてでも生き返らせます!」
僕は宿を出ると、町の人達に聞き込みをする。
すると、町の外れの教会に神父様がいることがわかった。
向かうと、神父様は怪我もなく元気で祈祷を唱えており、
聞いてみれば魔物に襲われたことなどここ最近無かった、とのこと。
宿屋の女将は、なんであんな嘘をついたのだろう?
仲間達を復活させた後、そう疑問は抱いたものの、再び宿屋を訪ねてみれば、
なぜか宿屋の看板が無くなっていた。
あの女将が一体何だったのか?
結局わからないままに、僕らは魔王城に一番近い町へと向かったのだった……
〜勇者、誘惑(その1)決戦前夜の油断 に続く〜
2・早く魔王を討伐するためには仕方がない。新たな仲間を集おう。
「さ、酒場はどこにあるんですか?」
女将に聞くと、彼女は二マリ、と怪しい笑みを浮かべて頷いた。
「この宿屋の地下よ。私が経営しているの」
「そうだったんですか」
「じゃあ、君の後ろにある棺桶は片付けておくわね」
「あ……!」
僕の反応も待たず、女将は棺桶の紐を握ると、宿屋の奥へと運んでいってしまった。
あっけないジョー、ケイン、グエンとの別れ……しかし、新たな仲間を集うと決めた以上仕方がない。
これも、一刻も早く魔王を倒すためなんだ。きっとわかってくれるさ……。
「さて、処理は終わったわ。早速酒場へ行きましょう!」
戻ってきた女将に連れられて宿屋の階段を下りる。
そこは夜半のように薄暗く、壁に等間隔でかけられた蝋燭だけが明かりの広間だった。
点々とガラステーブルが並んでおり、その周囲にそれぞれ人が集まっているようだ。
「さて、君はどんな子が好みなのかしら……?」
隣に立っていた女将は、そう言ってメニューを渡してくる。
それは、現在酒場で仲間を集っている冒険者達の名簿だった。
しかし、普通の名簿と違って、力や使える魔法などのステータスが書かれておらず、
そのかわりに身体的特徴が事細かに書かれている。
「しょ、職業はどこに書いてあるんですか?」
「スリーサイズの横よ……ほら、小さく書いてあるでしょう?」
「えっと……遊び人、戦士、遊び人、魔法使い、遊び人……遊び人ばかりじゃないですか!」
「あら、遊び人だって、大陸の下手な戦士なんかより全然強いわよ。
この島でスパルタ式に育てられた子なんだから」
遊び人は、一定の強さに達すると賢者の悟りを開くことができる。
しかし、賢者になるには転職するための神殿に行かねばならず、
僕はワープできる魔法を覚えていないため、また船に乗って大陸に戻らなきゃならない。
早く魔王を倒すために、新たな仲間を集おうとしているのだ。
これでは本末転倒だ。
「でも勇者様」女将は自然と僕の耳に口を寄せながら囁いてくる。
「勇者といえば、剣も魔法も使える戦闘のエキスパート。
貴方が強くなれば、仲間が全員遊び人でもフォロー出来るんじゃないかしら?
それに、遊び人はまともな武器を装備できないけど、そのかわりにいろんな防具を装備できるわ。
格式張った装備しかできない職業と違って、ね……」
その通り。遊び人は戦闘スキルはないが、その反面防具を選ばないというメリットがある。
それこそ、冒険の合間に手に入れて、道具袋の奥に隠しておいた、
網タイツやハイヒール、えっちな水着だって……
「……じゃあ、遊び人を一人」
「わかったわ。選りすぐりを一人連れてきましょう……もう二人はどうする?」
「さすがに遊び人だけじゃ戦えないよ。賢者はいないようだから……仕方がない。
僧侶と戦士をお願いします」
「了解。じゃあ、そこの椅子に座って待っていてね」
女将はそう言うと、薄暗い闇の奥へと去っていった。
僕は促された通り、ガラステーブルに備え付けられた椅子に座ると、
手持ちぶさただったので周囲を見渡してみる。
広間には転々とテーブルが置かれていて、どうやらその周囲に冒険者達が立っているらしい。
暗くてよく見えないけれど、シルエットからして全員女性のようだ。
それに、誰もがいかつい兜や鎧を装備しておらず、防御力があるのかも疑問な薄着を身につけていた。
こんな軽装備でも魔物を倒せるぐらい、レベルが高いのだろうか……?
そうは思うものの、当然シルエットを見るだけで推し量ることはできない。
ただ、そのシルエットは、女性らしい曲線を描いており、まだ未成年の僕には影だけでも刺激的で……
「お待たせ〜。あら、ぼーっとしてどうしたの?」
「ひゃっ!」
突然、暗闇から女将が現れた。
僕は視線を彷徨わせながら、なんでもないです、と答えると、
女将はふ〜ん、と鼻で笑ってから、後ろを手招きする。
「この三人なんてどうかしら?」
「どうも〜、遊び人のルナマリアで〜す」
一人は、ピンク色をしたショートヘアーの活発そうな女性。
遊び人だからバニーガール風の出で立ちかと思ったけれど、
軍服のように仕立てのいい上着にミニスカート、オーバーニーソックスにブーツという、
そこまで露出度が高い訳でもない恰好だった。
でも、ミニスカートとオーバーニーソックスの間に挟まれた、太ももの白さがまぶしくて、
その少ない露出がかえって刺激的に映る。
「戦士のレムネアです。よろしくお願いします」
その隣には、露出度の高いビキニ型鎧を着た銀髪の女性が、背をただして立っていた。
口調は礼儀正しく、顔立ちも気品があるのだが、
女性らしい曲線を描く肢体をあられもなく見せつける装備に、どこを見たらいいのかわからない。
透き通るような銀髪にメタリックなビキニ型鎧、そして露わになった肌――
――フェティッシュな出で立ちに、僕の心臓は早鐘を打ち始めていた。
「僧侶のシズネです。よろしくね」
最後に現れたのは、僧侶らしいオレンジの全身タイツに聖なるポンチョを身につけた青髪の女性だった。
三人の中でも背が高く頼もしいが、背丈だけでなく体つきも発育がよく、
タイツに包まれた乳房や臀部が窮屈そうだ。
とくに乳房の大きさは、まるでスイカをしたためているようで、目を見張るものがある。
「この三人でどう? この酒場の中でも逸材を揃えてきたつもりだけど……」
女将はそう言って僕の背に手を掛けると、三人の元へ引き寄せてくる。
ミニスカートにオーバーニーソックスがまぶしい、遊び人のルナマリア。
スレンダーながらも露出度の高い、戦士のレムネア。
豊満に過ぎる体つきを全身タイツに押し詰めた、僧侶のシズネ。
三人とも顔立ちは美しく、その三人ともが僕を値踏みするように見つめてくる。
「いきなり決めろっていうのも難しい話よねぇ?」
口をぱくぱくするしかなかった僕に代わって、ルナマリアが促してくる。
「とりあえず私たちとお話ししましょうよ」
「そうですね」レムネアが頷いた。「私たちも、貴方が本当に勇者なのか、まだ信じかねていますし」
「とりあえず、お互いリラックスしましょう」シズネはほがらかに笑う。
「お酒……は無理そうだから、まずはミルクでも頼みましょうか」
こうして、僕と三人の冒険者達は、薄暗い酒場の机をかこんでお話をすることになった。
女将からミルク(他の三人はお酒を注文したようだ)を受け取ると、早速三人を観察する。
ルナマリアは、遊び人らしく快活な女性らしい。
なんてことのない会話にも、積極的に参加してくる。
対してレムネアは生真面目な性格らしく、どんな話題にも真剣に応答してきた。
シズネは二人と違ってのんびりした性格のようで、
発言することも少なく、頷きながら静かにお酒をなめている。
ただし、共通して言えることは、三人ともが絶世の美女であるということだ。
前を見れば、うっすらと頬を赤らめながら笑うルナマリアが。
ガラステーブル越しに見える太ももは、定期的に組み替えられ、
スカートの奥の暗がりへと、ついつい目が行ってしまう。
右には、真剣に僕の目を見つめてくるレムネアが。
生真面目な性格なのに、身につけている鎧がビキニ型というギャップが、僕の胸中をざわつかせる。
左には、とろんとした目で僕を眺めてくるシズネが。
ちょっと動くだけでその縁から乳房のラインが露わになってしまうのだが、
時折それを直す仕草がかわいらしい。
「じゃあ、その鎧が伝説の鎧なんだぁ」ルナマリアはお酒のおかわりを注文しながら言う。
「思ったより軽そうなのね」
「私の鎧もそうだが、下手に重いととっさの動きが鈍る」
レムネアは自らの乳房を守る鎧に手を触れた。
その下でたわむ乳房に、僕はすぐさま目をそむけてしまう。
「精霊の加護を受けていれば、鎧の作りなど問題ではない」
「でも……問題は、鎧じゃないわよねぇ」シズネは笑顔のまま、僕の目をのぞき込んできた。
「鎧なんて誰でも身につけられるもの。問題は中身……魔物との戦いに絶えられるほど、
屈強に作られているか、よ。それを確認しない限り、君みたいな坊やが勇者だなんて信じられないわ」
「ど、どうすれば信じてくれるの?」
途端、彼女たちは目配せをしてくすくす笑い出した。
そこには明らかに、相手を馬鹿にするような声音が認められた。
「ふふ……簡単なことじゃない。ねぇ?」ルナマリアはそう言うと、聖なる鎧を指さして笑った。
「それを、ここで脱ぎなさいな」
「なっ――!」
何を言ってるんだ?
こんな、人が集まる酒場の中で脱ぐだなんて……!
「大丈夫よ、暗いんだから近づかないと見えないって」
……言われてみれば、確かに周囲の席に座っている人のシルエットはわかっても、
服装まではわからない。
でも、だからといってそんなこと……
「魔王を早く倒したいのでしょう?」レムネアは試すような上目遣いで見つめてくる。
「そのためならそれぐらい、構わないでしょう?」
「…………」
――僕は意を決すると、鎧の留め具を外す。
伝説の剣も腰のホルダーから外すと、インナーとブリーフだけの姿になる。
そんな僕を見て、今まで黙っていたシズネが目を細めた。
「ほら、それも脱いで」
「なっ……!」
「命を預け合う仲間になるんだから、隠し事は無しで……ね?」
「っ……!」
インナーを脱ぎ……そして、ブリーフを下ろす。
「あら!」ルナマリアが驚いたように口元へと手を当てる。「勃ってるの……?」
「半勃起でしょう?」レムネアはくすくすと笑った。「違うんですか?」
「どうやらこれで限界みたいですね」シズネさんに至っては明らかに嘲笑している。
「まるでウィンナーみたい!」
慌てて股間を隠すけれど、勃ってしまったモノは元に戻せない。
多くの人、何より美女達の前で裸になる――この異常な状況に、下半身が反応してしまったのだ。
しかし、彼女たちはそんな僕の態度なんて見ちゃいなかった。
女性が男のモノを見てしまったことには何も触れず、
ただ僕のモノののサイズが小さいことを笑っているのである。
彼女たちは僕のことを、まるで男として見ちゃいないのだ。
「ないないない! あんなの入れてもわかんないって!」
「まだ未成年だということを鑑みても、平均サイズを大きく下回っていますね」
「膨張してあのサイズじゃ、しぼんだら消えてなくなっちゃうんじゃないかしら?」
「アハハ! マジウケんだけど! あれで伝説の勇者だって! あんな祖チンの遺伝子残す価値ある?」
「伝説の勇者には違いありません。子種そのものに価値はあるでしょう。が……」
「男としての価値はゼロですよね〜。あんなの毎晩押しつけられても、蚊に刺されたようなものですし」
「っ――!」
伝説の勇者として大陸ではもてはやされてきた僕にとって、今まで受けたことのない屈辱。
しかし、この酒場に僕を知る人や仲間はおらず、たった一人なのだ。
仲間を集めないといけない負い目もある以上、状況に流されるしかなかった。
「ねえ、なに隠してんの?」ルナマリアは眉根を寄せながら、強い口調で命令してくる。
「祖チンのくせに、いっちょまえに隠してんじゃねぇよ!」
「ご、ごめんなさい……」
僕は僕なりに意を決して、股間を隠していた手を取り払い……
「「「あはははははは!」」」
しかし彼女たちは、僕の決意なんて意に介さず大笑いする。
気配で、こちらに注目が集まっているのがわかる。
「あ、あの、声をもう少し小さくしてください……誰かに見られちゃうから……」
「貴方」レムネアは鼻で笑っていた。「自意識過剰なんじゃない?
そんな粗末なモノ、見たところで誰もなんとも思わないわよ」
「女湯に男の子が入っても悲鳴が上がらないのと同じよ」
シズネはそう言って、僕のモノをのぞき込むと、くすっ、と頬を膨らませて笑う。
いつしか僕は、素っ裸のまま美女にかこまれ、女々しく縮こまるようになっていた。
「ミルクのおかわりお待たせ〜」
「あっ……!」
突如、闇から現れる女将。
彼女はガラス製の机ごしに僕のモノを見ると、ルナマリア達と同じように嘲笑してから、
ミルクを置いて去ってゆく。
「ほらね? 誰も、君のことを男としてなんて見ちゃいないのよ」
「そ、そんな……」
今まで積み重ねてきた勇者としての誇りが、徐々に溶けてゆくのがわかる。
僕は今、美しい女性の前で聖なる鎧を脱ぎ捨て、あろうことか勃起している変態なのだ――
――そう自覚するだけで心臓が高鳴ってゆく。
「それにしても窮屈そうね」ルナマリアはそう言って、ムッチリとした太ももを組み替える。
「可哀想だから、オナニーしてもいいわよ?」
「な、何を――っ!」
何を言ってるんだ! ――そう言いたかった。
でも、言葉が途中で詰まってしまう。
ルナマリアの唇からオナニーという言葉を聞いただけで、
大勢の女性の前でオナニーをする、自らのビジョンを思い浮かべてしまい、
僕のモノが反応してしまったからだ。
「あら、オチンチンは素直みたいね」
レムネアは、いつしか出会った当初に使っていた敬語を使わなくなっていた。
「勇者とは名ばかりの変態じゃない」
「期待してるんでしょう?」シズネは全身タイツに包まれた体を見せつけるように身を乗り出してくる。
「いいわよ、誰も何とも思わないからオナニーしちゃいなさい。私たちのことオナペットにしていいから」
そう言うと、彼女たちは僕との会話をやめて、世間話を始めた。
もはや僕はいないものとされているらしく、流行りの化粧品やファッションの話を続けている。
時折僕のほうを見ては、馬鹿にするように嘲笑を浮かべ、再び世間話に戻ってしまう。
狙っているのかそうでないのか……
……ルナマリアはミニスカートとオーバーニーソックスに包まれた脚を定期的に組み替え、
僕の目を困らせる。
レムネアは椅子の座り所を変えて、ほとんど露出された白い肌をぷるぷると震わせる。
シズネはお酒の入ったグラスを舐めながら、自然と当たる肘で、豊満な胸をひしゃげさせる。
それをただ眺めながら、僕は――いつしか股間に手を這わせていた。
「あ、出す時はこのグラスに入れてね」
そう言って、ルナマリアに空のグラスを手渡される。
僕は力なく頷いて、左手でグラスを握りながら、右手で自らのモノを擦り上げる。
「そういえばシズネ、この前変な冒険者に絡まれてたよね。何があったの?」
「ああ、あの人もこの坊やと同じ、大陸から来た人だったんです。でも仲間とはぐれたらしくて……」
「もしかしてあの気持ち悪い男のことですか? 私にも声かけてきましたが、臭かったので断りました」
「そうなのよ〜。体臭がきついけど、どうしてもって聞かなくて。
仕方なくついて行ったら、宿屋でいきなり襲ってきて……」
「マジ! どうしたの?」
「蹴り倒しました」
「自業自得ですね。それで?」
「どうしても抜きたいんだ、ってうるさいから、仕方なく替えの全身タイツ渡したんです。
そしたら目の前で、タイツ使って短小チンポ擦りだしたんですよ」
「あ〜僧侶の全身タイツが好きってフェチ、多いもんね〜。
そんな男寄ってくるとか考えると、私絶対に僧侶に転職とか無理だわ〜」
「もう気持ち悪くて。十万ゴールドでそのタイツを売って、帰ってきましたわ」
「あら、良いバイトじゃないですか」
「冗談! 着慣れたタイツが、あんな気持ち悪い男の精液まみれと考えるとおぞましいですわ」
「レムネアは? その鎧だと変なの寄ってくるんじゃないの?」
「ええ。つい先日も、町中でいきなり精液をかけられました」
「最低ですね」
「もちろん叩きのめしましたが……ボコボコにしているうちに、逆にその男が興奮してきたらしくて」
「いるいる! 私もバイトで踊り子してたら、変な男にストーカーされたりするけど、
そういう変態に限って、虐められて喜ぶマゾなのよね〜」
「おぞましいので、顔に小便かけてやりました」
「あら、それじゃあ喜ぶだけじゃなくて?」
「そう言われればそうかもしれませんね……
……まったく、なんでこう、たくましい男って少ないのでしょう」
「あ、この前いい男見つけたよ!」
「羨ましい、どなたですの?」
「隣町のクラブに勤めるホスト。もーちょーオシャレだしお金持ちだし、体も筋肉質で、
チンポも膨張率すごくて……一晩で10回以上イカされちゃった」
「今度みんなで行ってみませんか?」
「賛成〜!」
(ああ……まるで空気になったようだ……)
すでに三人にとって、僕はオブジェ以外の何物でもなかった。
ただ、ルナマリアの絶対領域や、レムネアの白い柔肌、シズネの窮屈そうにたわむ豊乳を眺め、
猿のようにオチンチンを擦る。
やがて――
「ううっ!」
――射精。
僕は空のグラスに、勢いよく精液を吐き出す。
「ん? イった?」
「射精だけは元気のようですね」
「え? まだ出るんですの? 溜まってたのね〜」
数十秒かけて射精を終えると、ルナマリアは精液の入ったグラスを取り上げて、中身を確認する。
「さすが未成年の精液、濃厚ね」
「腐っても勇者の精液。好事家に売れば相当のものになるでしょう」
「年寄りにはショタコンも多いですしね」
「よし……マスター!」
はいはい、と現れた女将に、僕の精液の入ったグラスを手渡す。
「カシスオレンジ、精液割りをお願い」
少々お待ちを、と言って去ってゆく女将。
僕が混乱する間もなく、カシスオレンジを注いだ精液入りグラスが運ばれてくる。
濃紺に近いカシスジュースの中に、僕の吐き出した精液が気泡のように揺らめいていた。
「じゃあ私からいただくわね」
そう言って、ルナマリアはグラスを傾けて――
――喉を鳴らしながら、僕の精液入りのカシスオレンジを飲み込む。
「んっ……固っ。喉に引っかかるわ」
「そうか。では失礼して」
レムネアはグラスを受け取ると、同じく喉を鳴らして僕の精液入りカシスオレンジを飲み下してゆく。
「うむ……濃厚な香りは童貞ならではだな」
「じゃあ最後は私ね」
シズネは笑顔でグラスを手に取ると、一気に残りの精液入りカシスオレンジを飲み干す。
「ぷはっ……あ、私、嫌いじゃないかも」
「やっぱ精液割りは生きの良い絞りたてに限るわね〜」
「じゃあ引き続きこのグラスに……え?」
三人の視線が僕に刺さる。
無意識。
無意識だったのだ。
ただ、僕は、僕自身の精液を美味しそうに飲み干す美女三人を前にして、我慢できなくて……
「――なに勝手にイッてんだよ!」
向かいの席に座るルナマリアに、突然腹を蹴りつけられる。
無様にも仰向けに倒れる僕。
三人だけでなく、酒場にいる人達全員の注目が集まる。
その中で、僕は……びゅくびゅくと、精液を中空へと吐き出していた。
「グラスに入れなきゃ店が汚れる……まったく、見境のない猿だな。何が正義の勇者だ」
「正義の勇者というより、精液ドピュー射、って感じ?」
「やだシズネ下品! あはははは!」
三人に、いや、酒場にいる人達全員に笑われながら、僕はただただ射精を続ける。
「お客さん、困ります」近づいてきた女将は不機嫌そうに僕を睨み付ける。
「床を汚して……あとで自分で舐めて掃除してくださいね」
「ふぁ、ふぁいぃ……」
もはや僕はまともな思考が出来なくなっていた。
ただ、目の前に現れる美女に促されるままに、痴態をさらけ出すことしか出来なかった……
●
――三ヶ月後。
「ふぅ、なんとか溜まったぞ」
僕は町に近い森で、比較的弱い魔物を倒しながら、コツコツとお金を貯めていた。
すでに僕は、大陸で手に入れた伝説の剣や鎧を手放し、安物の剣と鎧しか身につけていない。
いや、それどころか、薬草や毒消し草などの最低限の準備すらない。
すべて質に入れてしまったのだ。
もちろん、それにも理由がある――僕は興奮を隠せず、早足で酒場に向かう。
「あら、坊や……二週間ぶりぐらいかしら」
女将が僕を出迎えてくれる。
しかし、初めて入った時のように、すんなり入れては貰えない。
「はい、一万ゴールドね」
そう、あの酒場に入るには本来一万ゴールドもの大金が必要だったのだ。
初回に入れたのは、あくまで初回限定のサービスだったらしい。
そして僕は、そんな女将の術中にまんまとはまってしまったのである。
「ど、どうぞ、これを……」
僕は命からがら魔物を倒し、なんとか集めたなけなしの一万ゴールドを、惜しげもなく女将に渡す。
「うわ、汚い……今度から銀行で換金してから来てね」
「ごめんなさい! だから、早く……!」
「仕方ないわね。ほら、おいで……」
そして女将に連れられてきたのは……酒場の中央に作られた、円形のステージの上だった。
その周囲には、レムネアとシズネ、そしてルナマリアが立っている。
「あら、蛇口勇者君。また来たのね?」
「ちょうどいい。今日はショタコンの好事家が集まる日だからな」
「しっかり仕事してくださいね。失敗したら、酒場に入るためのお金を倍にしますわよ?」
「が、頑張ります!」
やがてイベントが始まる。
今日のイベントは「アルコール・精液割りサービス」だった。
「あら、こんなかわいい子の精液でお酒を楽しめるなんて……運がいいわ」
開始と同時に現れたのは、化粧の濃い三十代ぐらいのオバサンだった。
飽食らしい太めの体を、無理矢理ボディコンに押し込んだ、肉感的な女性。
しかし、その女性にチンポを握られるだけで、僕の脳内はピンク色に染まってしまう。
「ふぁああああああああああ!」
「あら、この蛇口、もう大きくなったわ。それにしてもこのサイズ……フフッ」
「短小でしょう? 私たちもこのサイズには笑っちゃって……」
「い〜え。私は男臭いモノより、これぐらいかわいいサイズのほうが好みよ。
何より、こんなオバサンの手ですぐに感じてくれるなんて、嬉しいわ」
「この子は感じやすいのです。
初めて会った時も、勝手にオナニーをはじめて、連続で射精するぐらい早漏だったのですよ」
「早漏? ふふ、いよいよ私の好みだわ。
私は男児趣味だから、飼っている男の子達は全員、無理矢理オチンチンのサイズを小さく矯正して、
すぐイっちゃうように調教しているのよ。ま、声変わりしたらポイ捨てだけどね。
とんでもない早漏に育っちゃうから、貰い手も少なくて困っちゃうわ」
「そういえば、この子は大陸では勇者として、もてはやされていたんですって。
一応伝説の勇者しか使えない魔法なんかも使えるみたいですよ」
「ホントに? ねえ女将さん……この子、売ってもらえないかしら?」
「私たちにとっても、この子はお客さんの一人ですから、個人交渉でお願いします」
「じゃ、私のハンドテクで虜にしちゃおうかしら……」
「ひぎゃああああああああああああああああっ!」
――射精。
しかし、オバサンの手コキは止まらない。
「や、と、止めて……!」
「グラスの半分まで精液を出すまで、止めてあ・げ・な・い!」
「そ、そんにゃああああああああああ!」
射精、射精、また射精……
地獄のような天国の中で、僕は与えられる快楽に従順になってゆく……
「そういえば、また大陸から強い冒険者が来るって噂よ」
ルナマリアは女将と酒を交わしながら言う。
女将は邪悪に笑って答える。
「あら、じゃあまた手籠にしないとね……魔王を倒されたりしたら、こんな辺鄙な島に人が来なくなって、
お店を畳まざるをえないもの。そんなのゴメンだわ」
「マスターも悪ねぇ……普段は好事家向けの高級酒場のくせに、冒険者が来た時だけ宿屋に鞍替えして、
そのことごとくを性欲に溺れさせちゃうんだもの……私には真似できないわ」
「魔王を倒すのが人間の総意って訳じゃない――ただそれだけのことよ」
こうして、今夜も男の嬌声が地下の酒場に響き渡る。
追い出された男は、その快楽を再び味わうために財産を手放し、
なけなしのお金を手に酒場のドアをノックする……。
この営みは、魔王が倒されるその日まで止むことはないのだった。
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