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背徳の薔薇 唾液の盃

「なまった身体を鍛え直したいと言っていたな」
 少年の護衛監視の任に就いているマリア=ルイゼ・フォーフェンバングは、レイが入院している病室の白壁に、背中を預けながら立っていた。
 二枚の黒翼は、堕天使と壁に挟まれる恰好となっているが、潰れもせずに、むしろ柔らかいクッションの役割を担っているようである。
 レイは病室の窓際に立って、外を眺めつつ、応えた。
「ワーズ先生がいつまでも退院させてくれないんだもん。いつもの大部屋だったら多少は走れるし、バスケットボールだってあるから運動できたけど、ここだと病室から出ることすら許されないでしょ? シドゥスと戦わなくちゃいけないんだから、体力をつけないと」
 紫色の空の下には病院の庭園が見え、何名かの淫魔の姿も確認できる。ここで走れるならそうしたいが、無断で病室から出ると、『捕り物』と呼ばれる騒ぎになってしまう。
 先日、シンディの見送りに行った際に廊下で出会った、小さな淫魔の女の子が、看護婦に寄り添われながら、体操のような運動をしている。小さいのにたいへんだと同情しつつも、表に出ているのが、羨ましく見えていた。
「シンディ・シュバイツァーが帰ってからというもの、随分と大人しくなったものだ」
「拍子抜けしてるとか?」
 レイは、ソファまで用意されている広い室内を軽く見渡したあと、ベッドへ腰掛けた。
 十人くらいならば楽に談笑できるだけの広さがあるものの、運動できるほどではない。
 スクワットや腕立て伏せなどの、移動を必要としない筋力トレーニングくらいしかできないため、かなり衰えているであろう、心肺能力の回復は図れなかった。
「手を焼いていたときは、腹立たしいばかりだったがな。では、少し鍛えてみるか?」
「え、外出していいってこと?」
「そうではない。おまえは私の膣に執着しているだろう? そろそろ挿れさせてやろうと思っていたところだ。たっぷりと、運動すればいい」
「淫魔って、ホント、そればっかりだよ……」
 悪びれるどころか真顔で直視してくる黒衣の堕天使に対し、レイは嘆息した。
 彼女は真剣なのである。
「早く退院したいのだろう?」
 シンディへの後ろめたさがあるものの、是非やりたいというのが本音だった。
 マリア=ルイゼへの挿入は、未だにお預けの状態だ。なんとかこちらが主導権を握ろうとしても、どこかで必ず逆転され、主導権を奪われる。その後は彼女の望むままとなってしまっていた。
 マリア=ルイゼが自ら誘っているのだから、これは願ったり叶ったりなのである。
 たてまえも、しっかりとあった。
 射精を我慢するのは身体的苦痛を伴う。これは、精気が溜まってくると、淫気がそれを排出しようとする反動だ。たとえ痛みに打ち勝っていけても三日ともたずに発狂し、暴れるだけ暴れたあと、やがて意識が飛ぶ。
 淫人という特異な存在になってしまったレイにとって、性の処理は、日常生活するにおいて不可欠な要素であった。
「そんなこと言ってるけどさ、ホントはマリーが発情しちゃってるんじゃないの?」
 レイは、上からの態度を示す堕天使を屈服させてやろうとして、カマをかけてみた。
 すると、マリア=ルイゼが妖しく口端を吊り上げ、含み笑いをする。
「淫魔の色情は常だ。今さら何を言う」
「あ、それもそうか」
 どうやら愚策だったようだ。これ以上は彼女の気が散ってしまうだろうと危惧した少年は、「じゃあお願いします」と、素直にマリア=ルイゼへ要求した。
「それでいい。へんに我慢などしているから、苦しみを味わうのだ」
 壁に寄りかかっていた堕天使は、姿勢を正すとレイが坐っているベッドへとやって来た。
「……え?」
 マリア=ルイゼはレイの正面に立つと、黒衣のスカートをたくし上げ、穿いている下着に手をかける。すると、少年を見ながら、なんの躊躇もなく脱ぎ始めた。
 下着を脱ぎ下ろすと同時にスカートも下がったため、中の様子は窺えない。中腰になりつつ膝のあたりまで下着を下ろすと、彼女は下着から右脚を抜くため、右膝を折り曲げた。
 意図的に脚を高く持ち上げているのはレイも重々承知していたものの、スカートの中が見えれば、自然と目が行ってしまう。
 上底が長く、下底の短い、台形に手入れされた青い陰毛を垣間見て、ここに挿れるのかと、独り言を呟きながら、生唾を飲み込んだ。
「そういきりたつな。それにこれからのおこないは、おまえの衰えた心肺機能を回復させるためのリハビリだ。遊びではないのだぞ」
 マリア=ルイゼの青竹色の瞳が、少年の下半身へ向けられた。
 少年が着ている貫頭衣の裾は持ち上がっている。すでに少年は昂奮状態であり、めくれる裾によって、股間の内容物を晒していた。
 マリア=ルイゼは失笑しつつ右脚を下着から抜くと、青い長髪を撫で抑えながら、姿勢を正す。
 ずり落ちた下着は、左の足首に引っ掛かるに任せた。
「初めての接合くらいは、下から迎えてやるべきか。では、ベッドを借りるぞ」
 革製のクロックスを脱いだマリア=ルイゼは、レイの横を抜け、ベッドへ上がった。
 レイは、淡々と準備を進めていく彼女をただ呆然と見送り、首を後ろに向けた。
 ベッドへ上がったマリア=ルイゼは、膝立ちの体勢で黒衣のスカートをまくると、下半身を露出させた。それから間を置かず仰向けになり、両膝を立てながら股を開いて、準備を完了させる。
「では、いつでも来るといい」
「えーと。キスとか、そういうのは、しないの?」
「したいのか?」
「あのさ、まったく意味が分からないんだけど」
 後ろ向きでいるのが辛くなったレイは、開けているベッドの下部へ上がり、胡坐した。
 少し目線を落とすとたいへんな光景が飛び込んでくるため、とにかくマリア=ルイゼの顔を見るのに集中する。
 心悸は高鳴り、全身には濃い淫気が駆け巡って、身体は火照りきっていた。淫核化した心臓の中にある、もうひとつの小淫核からも淫気が精製されている。これは勝手に、レイの若塔へと、力を集めてゆく。
「何を言っている。私に挿入し、なまった運動能力を鍛え直すのだろう?」
 怪訝にレイを見上げるマリア=ルイゼに対し、少年は茶色の髪の毛を掻いた。
「いや、だからそうなんだけどっ。マリーって、淡々としてるよね。こういうのって、流れみたいなものがあって、そうなるものなんじゃないの?」
「ではもう一度言う。これはおまえのリハビリだ」
「マリーにとっては、あくまでも仕事なんだね。でもさ、そんな事務的に、いつもぼくに肉体を開いちゃってて、いいの?」
「おまえは淫魔を勘違いしている。誰とでも簡単に交わる不貞の種族だとでも卑下したいのだろうが、私たちにとっては、性交は何よりも優先される、かけがえのない、最も重要な営みだ。おまえたち人間の感覚では理解できないのかもしれないが、それは、お互い様でもあるのだぞ。気の合った男女が同じ場所にいれば、することはひとつのはず。なんのかんのと理由をつける人間は、私から見れば、優柔不断の極みだ」
「考え方の違い……」
「それに、私はおまえとの情事に嫌悪などしていない。さあ、来るがいい。話し合うために、股を開いているのではないぞ」
「あ、ごめん。そのとおりだね」
 レイは慌てて身を寄せていった。女性にこうまでさせておいて、自分は御託を並べてとまどっている。
 何様だと、自責した。
 内心では、興が冷めたと中断されなくて助かったと、胸を撫で下ろしていた。
 口を開いて待ち構えているマリア=ルイゼの赤い花弁は、蜜で濡れ光っている。
 愛撫など必要なさそうだ。
 レイは覚悟を決めて屹立する若塔に右手を添えると、その硬度に自分が驚いてしまった。
 小淫核が自分の意思とはべつに送っていた淫気によって、岩石ほどのものになっていたからである。
 頻闇の波動に包まれた岩塔は、それ自ら、濃密な淫気を発している。
「おまえ、ソコにいるんだろ」
「ん、どうした。私なら、ここにいるが?」
「あ、違うんだ。マリー、ちょっと気をつけてね。多分だけど、フルーが、僕のココにいる」
 レイは自分の岩塔を指差しすと、マリア=ルイゼは不思議そうに首を擡げ、少年の屹立する岩塔へ視線を向けた。
 音もなく湧き上がる、少年の岩塔から発せられる淫気の濃度が、とても濃い。
「フルー……?」
「うん、フレンズィー・ルード。狂淫の精霊だよ。名前長いからさ、だからマリーみたいに、あいつをフルーって、呼んでるんだ」
「それはたいへんだ。私をイかせる気かもしれない」
 マリア=ルイゼは楽しそうに破顔すると、擡げていた頭を、枕へと落とした。
「なんで喜んでんだよ。ぼくにやられたら、消えちゃうんだぞっ」
「フフ、そうだな。よい余興が増えた。が、私がおまえにやられる? 面白い、やれるものなら、やってみせろ」
 マリア=ルイゼが嘲ると、掌を返して手招きするように挑発してきた。
「目的が変わってんじゃんか。でも、いつもこうして、いろいろと付き合ってくれて、どうもありがとう、マリー」
 レイは岩塔を堕天使の膣口にあてがった。たったそれだけで、マリア=ルイゼの膣が口を開き、レイは亀頭の先端を咥え込まれてしまう。
 普通ならその刺激や、初めて彼女に挿入するという待望の思いから昂奮してもおかしくはないはずなのだが、なぜか、沈着を保っていた。
 狂淫の精霊が影響している。そう思った。
「始めるまえに忠告しておく。肺を酷使し鍛えるのが主目的だ。疲労から動きを緩め、休むような態度をとった瞬間に、私はおまえを終わらせる」
「うん、解った」
「当然ながら、射精しても終了だ。が、私は脱力した状態で、おまえを迎え続けてやる。まずは存分に、突いてこい」
「うん。それも解った。じゃあ、挿れるよ」
 レイはマリア=ルイゼの太腿を抱えると、ゆっくりと、腰を突き出していった。

「これが、マリーの、中……」
 マリア=ルイゼとひとつになったレイは、彼女の具合に感嘆とした。
 いっさい締めつけてこないのは、マリア=ルイゼが意図的に手を抜いてくれているからなのだろう。岩塔はけっこうな熱によって濡れ包まれてはいるものの、いきなり射精感を抱かせられてしまうほどではない。これならば多少は腰を振れそうだと、安堵した。
 岩塔に絡みつく肉ヒダは数が少なく思うものの、その代わり、一枚一枚が肉厚なために、存在感がとても強い。動かずとも知れるそれらが、もし窮屈に搾ってきたならば、身動きがとれなくなってしまうかもしれないと思った。
「遂に侵入を許してしまったか。おまえに弱みを握られている私は、こうして徐々に、屈服させられてゆくのだな」
「自分から誘ったくせに。てゆーか、滅茶苦茶嬉しそうにしてんじゃん。ホント、マリーって、ドMだと思う」
 互いの股間が重なるまで挿入しているのだが、彼女の最奥までは到達できなかった。これは自分の岩塔が短いのが原因なので自己嫌悪しそうになるものの、遂に彼女に納まったという、大きな達成感と充足感によって打ち消され、気にはならなかった。
「マラソンをする感覚で来ればいい。ペース配分を念頭に置くのを忘れるな」
「うん」
 まずは様子を窺うように、緩慢に腰を前後させた。
 抽送による岩塔への刺激を確かめるためだ。亀のごとき動きで、いっさい締まってこない膣を往復する。
 肉厚なヒダに擦られ淡い心地よさが伝わってくるものの、射精感はいっさいない。これならばやれるかもしれないと思ったレイは、速度を上げた。
 疲れなければ意味がないのはレイにも分かっているため、しっかりと腰を振る。
 肉の拍手が規則的に聞こえ始めると、マリア=ルイゼは満足そうに青竹色の瞳を細めた。
「そのペースで来る気か。フフ、励むものだ」
 レイはマリア=ルイゼには返答せず、彼女の白い太腿を抱き直しながら腰突く。
 まったく責めてこないばかりか手を抜かれているのだから、無様に射精して終わりたくはない。当初の目的どおり身体を鍛えるためには、体力が尽きて潰れるまでは、なんとかして射精を耐え忍ばねばならないのである。
 膣への往復が続いているうちに、マリア=ルイゼの愛液が濃くなってきた。
 粘性を高めて白く濁り始めたそれは、レイの抽送によって淫猥な音を立て始める。同時に、マリア=ルイゼの頬が、ほのかに赤みを差した。
 感じてきてくれて何よりだとレイは思ったものの、とくに動きに変化はつけず、単純に腰を前後に振るだけの運動に徹する。
 レイの胸元や背中のあたりから発熱し、やがて、汗が湧き出した。貫頭衣が濡れて着心地が悪くなってきたが、脱衣している余裕はない。互いの淫気がぶつかりあっているので、想像以上に、早く疲労が訪れているようだ。
 呼吸の感覚が狭まってきているものの、肺活量的にはまだ余裕があると計算しているレイは、頼もしげにこちらを見上げる堕天使と目を見合わせながら、腰振った。
 頻闇の淫気に包まれた岩塔の熱量は、たいへんなものである。マリア=ルイゼの膣温も徐々に上昇してきているため、レイは額からも発汗した。
 汗は頬から顎を伝い、雫となって、マリア=ルイゼの台形型をした陰毛へと降り注ぐ。
 夜露を受け、月光に妖しく輝く芝草のごとく、青い陰毛の色合いが濃いものとなった。
「ん……。さらに、固く」
 マリア=ルイゼが下唇を甘噛みしつつ、顔をしかめた。
 それでも全身を脱力させたままでいるのはさすがだとレイは感心しつつ、岩塔の先端が、硬度を増しているのを知覚した。
 亀頭が肉厚な彼女のヒダを猛然と掘り進んでいる映像が、容易に頭中へ反映されてくる。
 蹂躙されるばかりで締めつけてこない肉ヒダたちは割り開かれるばかりであり、その刺激によって次々と淫液を湧かせ、膣内を、より滑らかにしつらえていた。
 岩塔は硬度を増しながらも敏感になっているため、遂に裏筋から、射精感が点火した。
 ひと突きするたびに裏筋から淡い快感が押し上がり、岩塔全体へ快楽を撒き散らす。それらの感度は、少しずつではあるが、確実に育っていった。
 レイはこのままではマズいと思ったものの、自分を凝視するマリア=ルイゼが、看破したかのように微笑してきたため、このまま突っ走る作戦を選択した。
 下手に動きを緩めてサボるような態度を示すと、締め上げられてしまう。そうなってしまったら、強烈な存在感を有する肉ヒダたちを相手に、耐えきる自信などない。
 そこで、レイは淫気を開放する手段に出た。
 淫気を使うと疲労度がいや増す。一気に疲れを呼び込んで、そこから肺活量勝負に出ようと、短期的でも濃密となる訓練法を考えたのだった。
 さらに、どうせならば呪淫と呼ばれる力を使って鍛えてみようとも思い至り、眉間のあたりにあるはずの、呪淫を発動させるためのスイッチを探した。
 これは意識して探すと、簡単に見つかった。
 少しだけ目を瞑って眉間の奥を想像しただけで、発動するために必要となる場所が発見できたのである。
 淫気にまみれた自分の罪穢すら許容してくれるこの力は、とにもかくにも、ひじょうに目立つ。善悪光陰すべてを含め、ありとあらゆるものを包み許容する、透き通った水晶のような存在だ。
 レイは軽い感動を覚えながら、スイッチを入れるために、意識の手を伸ばした。
 レイは、呪淫を発動した。
「ん……、これは!?」
 薄目で気持ちよさそうな表情をしていたマリア=ルイゼが、目を見開く。
 病室内が真紅色の波動に染まり、すべてが赤い色彩に包まれる。
「フフフ、レイ・センデンス。おまえはどこまで、自分を追い込めば気が済む。ここまでの覚悟を見せられては、すべてを、受けてやりたくなるではないか」
 マリア=ルイゼは相好を崩し、右手を伸ばして、少年の汗だくの頬を優しく撫で上げた。
 レイの疲労度は一気に上がり、呼吸が荒くなっている。それでも腰を振る速度は、緩めるどころか、さらに上げていった。
「いいぞ、それでいい。褒美に、極楽の準備だけは、しておいてやろう」
 マリア=ルイゼは、レイに抱かれていた両脚を振り解いてしまうと、少年の腰を蟹挟み、密着度をより強くした。だが、力は抜いたまま、少年の動きを従順に受け止めてやる。
 両脚を抱いて体勢が崩れてしまうのを防いでいたレイにとっては、これでは力を込めて腰を突き入れられない。が、そこで諦めるわけにもいかないので、少年はマリア=ルイゼの腰に両手をあてがった。
 両の親指に力が入ったため、薄い腹肉を深くたわませてしまうほどになった。だがマリア=ルイゼからはいっさい苦しい表情が見られない。むしろ心地よさげに顔の筋肉を弛緩させ、少年が腰突くたびに、甘い吐息を漏らしていた。
 命を吸われていく感覚がレイを襲っている。時間の経過とともに全身から力が抜けていくような感じを受けたが、それでも発動した呪淫を保ったまま、腰を振った。
 疲労度が高まって肺から痛みが発せられ、発汗はマリア=ルイゼの股間や黒衣を濡らす。
 喘鳴する少年は、射精が先か、身動きがとれなくなるのが先かの勝負となっていた。
 もちろん、後者を願って挑んでいる。
 呪淫という摩訶不思議な力は、普通の淫魔には効果がないのも、今、実感した。これは恍魔という特別な存在にだけ、絶大な影響をもたらすらしい。
 当面の目標である、淫帝を名乗るシドゥスは、恍魔だ。呪淫は、恍気とかいう、淫魔の精神を壊乱させてしまう恐ろしい能力を無力にできる力だ。ならば、大事に育てておいて、損はないはずである。

 今できること。
 やるべきこと。
 やってみるべきこと。

 人間に戻って家に帰りたいという揺るがない想いが、レイを突き動かしていた。
「ア……ッ!」
 突如、マリア=ルイゼの膣が締まってきた。
 存在感のありすぎる肉ヒダたちが活動を始め、一気に締めてくる。
 レイは強烈な締まり具合によって抽送運動を止めさせられてしまい、文字どおり、身動きできない状態になってしまった。
 膣の締まりで腰が振れなくなるなど、聞いた試しがない。
 が、体験していた。
「く──っ」
 脱力していても耐えられないほどの快楽が、マリア=ルイゼを襲ったのかもしれない。彼女が今まで自分に挿入を許さなかったのは、この威力に自分が太刀打ちできないだろうと、見破っていたからなのかもしれないと思った。
 レイはとにかく、肛門を締めるイメージで股間に力を込め、肉厚なヒダによる圧迫の障壁となるよう、イクなと命じた。
 頻闇につつまれる岩塔の先端が膨らみを増し、淫気を放出しながら衝撃に備える。
「うううううぅぅぅぅ──っ!!」
 レイは歯を食い縛った。
 大きな波浪が迫り来たり、小さな少年を押し流そうとする。少年は咄嗟に身体を倒して堕天使にしがみつき、流されまいと抵抗した。
「す、すまないっ」
 すぐさまマリア=ルイゼが膣の圧迫を緩めた。
 が、ひと足、遅かった。
 レイは、耐えきれぬほどの潮流によって、岩塔から淫壷へ、真っ白な潮騒となって押し流されてしまったのである。
「うああ、あぁぁ……」
 出すなと必死に懇願したのだが、もはや、岩塔は命令を受けつけられなくなっていた。
 ひと噴きごとに、大量の粘液がマリア=ルイゼの体内へと注がれてゆく。
 それはレイにとって、完敗を意味するものとなった。

「フルーが協力してくれてたってのに、なんてザマだ……」
 力尽きたレイはマリア=ルイゼにのしかかったまま、荒ぐ呼吸を整えつつ、落胆した。
 岩塔に移動していたと思われる淫気の塊は、小淫核に帰還したようだ。淫気喰いによってマリア=ルイゼの力を吸収し、悦に浸っているような感覚が、小淫核にある。
 勝手気ままに暴れられるかもしれないと危惧していた存在なだけに、自分に力を貸してくれたのは、驚きであった。
 射精時に力の意識を途切れさせてしまった影響から、発動していた呪淫は、完全に掻き消えていた。何事もなかったかのように、普段の色彩に戻っている。
「い、言うなっ。これは私の、落ち度だ。本当に、すまない」
 堕天使は、少年の腰を蟹挟んだままの両脚を解いた。まだレイが中に入ったままのため、開脚したかたちで、ベッドへと脚を伸ばす。
 忸怩たる思いがあるのか、彼女は眉をへの字に曲げ、口を真一文字に結んでいた。
「マリーは悪くないよ。ぼくの、力不足だ」
 己の実力がいかに浅はかなのかと思い知った。これでは淫帝と戦うにしても勝負にすらならないのではないかと、暗澹たる思いになった。
「病み上がりで呪淫まで使っておいて、よくも言う。おまえは善戦した。気にするな、私が、至らなかったのだ」
 レイが息を吐くとマリア=ルイゼの胸が黒衣越しに潰れ、息を吸い込むと、弾力豊かに押し返してくる。その感触が疲労困憊のレイを癒してくれるため、乱れた呼吸を整える作業は、楽しいものになっていた。
 そうしているうちに、マリア=ルイゼの肉体が火照りを帯びてきているのを知った。
「至らない、か。マリーってさ、いつもぼくのペースに併せようとしてくれるよね」
「犯し尽くされたいのか? そう望むなら、死なぬ程度にならば、してやってもいいが」
 不意に、萎えずに屹立を続けている若塔に、肉厚のヒダが絡みついてきた。射精直後で敏感になっているため、少年は思わず喘いでしまう。
「そーゆー意味じゃないのに……」
「フフ。さすがに、熱くなってきた。服を脱がせてもらうぞ」
「え? あ、うん」
 レイが上体を起こすと、マリア=ルイゼがすぐに声をかけてきた。
「抜かなくていい。もっとも、抜きたければ、好きにすればいいが」
 少年は彼女の真意を汲み取り、挿入を保ったまま、ベッドに坐った。
 坐る直前にマリア=ルイゼが脚を開きながら膝を立ててくれたため、ふくらはぎと太腿のあいだに三角形の隙間ができた。レイは彼女の両膝に手を添えながら、その空間へ、自分の脚をそれぞれ突っ込み、密着を保ったまま、ベッドに尻を預けた。
 マリア=ルイゼは腰のベルトを緩めると、袖を下げて両肩を出し、腕を抜く。
「うっわ。色っぽい脱ぎ方……」
 照明が細い鎖骨を照り光らせている。僅かに覗く胸元にも深い陰影を刻ませ、女体の奥深さをレイに思い知らせてきた。
 白い肌には朱が差している。
 マリア=ルイゼは背中を浮かせながら、器用に黒衣を脱いでいった。
 すべて脱ぎ終えると、黒衣はベッドの下へ落とし、裸体をレイに晒して微笑んでくる。
「おまえの精を腹で受けてしまうと、さすがに酔っ払う」
「精気酔い、とかいうやつ?」
 よくよくマリア=ルイゼを観察してみると、彼女の顔は紅潮し、エメラルドを思わせる、青と緑の中間色を有する瞳は潤んでいた。唇は艶を増し、鼻筋や額には、小粒な汗が滲んでいる。
 顔ばかりではない。乳房や腹にも汗が滲み、照明に反射して輝いていた。
 先ほどマリア=ルイゼが火照っていると感じたのは、間違いないようである。結合したままでいる股間部の熱量も増しているようで、レイ自身も汗ばんできていた。
「そうだな。はぁ、気分がいい。どうした、今なら私を好き放題できるぞ?」
 マリア=ルイゼに、軽く膣を締められた。
 これは、好きにしてくれていいという話ではなく、かかってこいという挑発であるのを、レイはよく、理解していた。
「主導権を握りたがるマリーを、ぼくが好きにできるの?」
「フフ。勿論だ」
「じゃあ、……してあげない」
 言うや否や、レイは即座に、若塔をマリア=ルイゼの膣から引き抜いてしまった。
 愕然とする彼女を見下ろし、少年はいたずら小僧っぷりが全開となる、したり顔を浮かべる。
「何をしている。力でねじ伏せてやってもいいのだぞ」
 言葉とは裏腹に、マリア=ルイゼが嬉しそうに瞳を細め、腰をくねらせた。
 そのまま少しずつ肉体を下へ下げてきて、レイと肌を合わせようとしてきたので、少年は当然のように、後ろへ下がってみせる。
「意地の悪い子め」
 目線を下に落としてみると、開いた陰唇から、精液を混合した愛液が湧いているのが見えた。その量は夥しく、女裂から溢れて下へ垂れ落ち、肛門のひずみに溜まっている。
 乳房の頂上にある蕾は色濃く花咲き、柑子色の乳首が、美味しそうに天井を向いていた。
「マリーには、ホントに、感謝してるんだ。今のぼくがあるのだって、ずっとマリーが面倒を看てくれてたおかげなんだし。シンディのポーチだって、何日もかけて、泥んこになりながらも、探しだしてきてくれた」
 レイは自分から、マリア=ルイゼに挿入していった。
 まるで抵抗力を感じない膣内であったが、若塔が燃えるのではと錯覚するほどに、内部の温度が高い。優しく絡みついてくるだけの肉ヒダは彼女の愛液によってとろみが増し、挿入した瞬間に、少年を濡らし尽くしてしまった。
 堕天使は待望の肉竿を迎え入れ、恍惚と少年を見上げながらも、返答する。
「おまえはほぼ治っていると勘違いしているようだが、想像している以上に、おまえは疲弊している。嘘だと思うならば、ワーズ先生に訊ねてみろ。とにかく、いま重要なのは、徹底したリハビリから、身体能力の回復と向上に、少しでも努めることだ。淫帝との戦いは、それからの話になる。レイ・センデンス、決して焦るな。役不足は痛感しているが、私がおまえの相手として指名をいただいたからには、一命を賭す」
「そうなんだ。ならぼくも、ひとつだけ言わせてもらう。細かいことは分からないけど、一命を賭すとか、そんな重いことを言うな。淫魔的に言うなら、こうなんじゃないの?」
 レイは発言を途中で止めると、唾液を溜め始めた。
 不規則に動く少年の頬の動きを見たマリア=ルイゼは、小首をかしげて少年の行動を見守る。
 レイは唾液を溜めると、下へ落とした。
 意味を悟ったマリア=ルイゼは口を開け、落とされた少年の唾液を受ける。後、意図的に喉を鳴らし、呑み干してみせた。呑んだあとは妖しく舌を出し、濡れた自分の舌を見せつけてくる。
「やりまくっとけ」
 レイは発言の続きとなる答えを述べてから、激しく抽送を開始した。
 いきなりの全力運動によってマリア=ルイゼの渓谷が形を歪め、小陰唇がめくれ上がってしまう。だが少年の突き込みを拒絶する様子は皆無で、淫猥な音階を奏でて合奏してきた。
「そのとおりだ、頼もしくなったな。これからは退院が許される日まで、このリハビリをおこなっていく」
 マリア=ルイゼは少年の身体を抱き寄せると、深く接吻しながら、少年の激情を受け止めた。
 少年が開放してきた淫気によってマリア=ルイゼの感度がさらに高まったが、絶頂してもかまわないという態度で、これらすべてを受け入れてみせ、女の魅力を発散しながらよがり、少年の気持ちを刺激する。
 レイは乳房に挟まれた頭はそのままに、乱暴に腰を振っていった。空いている両手は、当然のように乳房を揉みしだいている。
 あとは、
 男と女が、快楽に身を委ねるだけとなった。

背徳の薔薇 唾液の盃 了
第二十三話です

 第二十二話に濡れ場がないため、連続掲載させていただきました

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