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「生死を賭して」第一部 後編

結局あの後僕は、次の20分間の攻防の中で3回、その次の30分の間にさらに3回イかされてしまった。
最後の方は記憶すらほとんど残っていない。
さんざんにペニスを弄られて、泣きながら許しを請うていたような気がする。
受け身に徹しなければならなかったとはいえ、一度の授業で後輩に7回も白旗をあげさせられた。
しかも、みんなが見ている前で。
その現実が、僕の背中に重くのしかかった。
はあ……。学校、辞めたい……。

「ほんとにもう、キミって子は……」
放課後、マリオン先生の教官室に呼び出された僕は、こってりとお説教を食らっていた。
もうかれこれ30分になるだろうか。
マリオン先生は、そのまだ幼さの残る顔で真剣に僕を見つめると、キツイ言葉を投げかけてくる。
「キミはね、耐久力がなさすぎるの」
「ハイ……」
もう5回くらいそのセリフを聞いたような気がする。
一生懸命に叱ってくれるのはわかるんだけど、一生懸命すぎて空回りしてるんだよな、先生。
そんなに何回も僕の欠点を指摘しなくてもいいのに……。
僕はすっかりゲンナリとしてしまい、マリオン先生のお説教も上の空になってしまっていた。


「いい? 淫魔相手にはイったらおしまいなのよ。淫魔の責めに負けてイってしまったら、呪いをかけられて動けなくなっちゃうんだから」
「ハイ……」
「それに対抗するには、絶対にイかないように我慢すること!」
「ハイ……」
「分かってると思うけど、気を集中させることで、ある程度はエクスタシーに達するのを抑えられるんだからね」
「ハイ……」
「淫魔に呪いをかけられたら、死ぬまで精を吸い取られ続けるのよ。死にたくないんだったら、精神が壊れようが何しようが、イくのを我慢して、最後まで戦い続けるしかないの」
「ハイ……」
「そろそろキミも、自分の限界を知っておくべきなのかもしれないわね。いいわ、地獄を垣間見させてあげる」
「ハイ……って、ええっ?」
え……、地獄を見させてあげるって、どういうことだ?
「これから特訓するのよ! さあほら、ベッドに横になって。早く!」
「い、いや先生、今日はもう疲れてるから明日に……」
これ以上ひどい目にあわされたら、それこそ壊れちゃうよ。
「ゴチャゴチャ言ってないで、さっさと服を脱ぐ!」
「は、はいぃ……」
やれやれ、まずいことになったなあ。
さっきケイにやられて、もう膝がガクガクになっているのに……。


しぶしぶ服を脱いでベッドに横になると、マリオン先生もブラウスを脱ぎ、ブラをはずした。あらわになる巨乳。マリオン先生の武器はリップテクニックだけじゃない。胸を駆使した技も超一流なのだ。
「それじゃ、いくわよ。勝手にイったら、本当に地獄送りにしてあげるからね」
マリオン先生はそう言うと、僕の返事も聞かずにその豊満なバストで僕のペニスを包み込んだ。
柔らかさや弾力性、すべてにおいて完璧といえるバストが僕のペニスをゆったりと覆う。何より、オッパイのひんやりとした感触が、僕の興奮を引き立たせた。
「冷たい? でも安心して。これからたっぷりと擦ってあげるから、すぐに温かくなるよ」
マリオン先生はそう言うと、手でオッパイを両側から挟み込み、ゆっくりと上下運動を開始した。
本当にゆったりとした動きなのだが、マリオン先生の胸に包まれる心地よさに、あっという間に勃起してしまう。
ときおりペニスに唾をたらし、動きを滑らかにすると、先生は少しずつ動きを速め始めた。
「どんどん速くするよ。我慢してね」
やがてマリオン先生の唾液と僕の先走りが混ざり合って、にちゃにちゃといやらしい音が響き始める。
マリオン先生の強烈なパイズリの前に、僕は早くもイきそうになっていた。ここでイったら気持ちいいだろうけど、えらい目にあわされるだろうな……。
歯を食いしばって耐える僕を、マリオン先生はやれやれといった感じで見つめると、
「早すぎるわ」と言った。
「そ、そんなこと言ったって……」
「ま、いいわ。じゃ、ここからが快楽地獄の始まりよ」
マリオン先生はそう言うと、自慢の長い舌を伸ばし、僕の亀頭を刺激してきた。
「あぁっ!」
先生の舌技によってもたらされる快感は、ケイの比ではなかった。


ダメだ、イクッ!
観念して目をぎゅっとつぶる。
「だめよ!」
マリオン先生が僕のペニスの根元をきつく握る。
「あ、あうううぅっ」
放出されかけた精液が戻される快感に、僕は悶絶してしまう。
「だから、ここで諦めちゃダメなの。ここからが勝負なんだから。アラン君はいつもここで諦めちゃってるのよ。だから、いつまで経っても女の子に勝てないの。今日は私がいいって言うまで絶対にイっちゃだめだからね、わかった?」
「は、はい・・・」
自信はなかったが、肯くしかなかった。
それからというもの、マリオン先生のパイズリとリップテクニックによって、僕は何度も絶頂に達しそうになり、その度に寸止めされるという、生き地獄を味わわされた。
どれだけの時間が経ったのだろう。マリオン先生の言葉どおり、僕は本当に地獄を垣間見ているような心地になっていた。
頭の中を射精したいという願望がぐるんぐるんと渦巻き、何も考えられなくなって、問答無用で絶頂に達せられそうになる。けれどもあと一歩のところで、マリオン先生によって射精感を抑えられてしまう。
「キミはもっと耐えられるはずよ。自分が想像している限界を、超えたところまで我慢するの」
マリオン先生はそう言うけれど、限界を超えた我慢って、いったいどんなものだ?
限界を超えたら、精神が崩壊して廃人になっちゃうんじゃないのか?
廃人にされそうになる恐怖の前に、僕は思わず我慢するのをやめて、射精の準備を始めてしまう。
「射精の誘惑に負けたらダメよ。限界を超えるのよ!」
またしても寸止め。そうやって僕は再び現実に引き戻されるのだ。
いや、何十回と寸止めを繰り返されるうち、これが現実なのか否か、判然としなくなってしまっていた。


再びマリオン先生の責めが始まる。
「耐えるのよ。耐えて耐えて耐え抜くのよ」
うん……耐えるんだな……耐えて耐えて……。
「あと一歩よ、我慢して。この責めに耐えるのよ。ほらほらほらほらっ……」
容赦のないマリオン先生の責め。
耐えるんだ……耐えるんだ……耐えるんだ……耐えるんだ……。
朦朧とする意識の中で、マリオン先生の言葉を口の中で繰り返す。
「アラン君、がんばるのよ!」
全身がペニスと化したかのような、とてつもない快感が僕を翻弄した。濁流に飲み込まれ、なすがままに快楽の流れに身を落ちぶれさせている。
あまりの快感に、目の前にパチパチと火花が飛んでいるのが見える。これが、バトルファックによって精神崩壊へといたる道筋なのかな……。
そんなことを考えるでもなく考えているうち、快楽の濁流と自らの身体とが一体化していくような感じがしてきた。
……眼前にくわっと光る何かを感じた。
なんだろう……、とてつもなく大きく、まばゆい。
神々しいまでのその光に吸い寄せられそうになる。
僕がそれに身を任せようとした瞬間、まばゆい光は漆黒の闇に変わった。
はっと気がついた。コイツに吸い込まれたら、オシマイだ。僕の本能がそう警告を発していた。
でも、もう遅かった。僕は、暗黒の空間へと吸い込まれていった。


・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
まぶしい……。
ここは、どこだ……?
僕は壊れてしまったのか……?
「だいじょうぶ……、ねえアラン君、だいじょうぶ……?」
この声はマリオン先生……?
いや、違うか……?
やっとのことでまぶたを開く。
あ、やっぱりマリオン先生だ……。
マリオン先生の声だとわかり安心すると、再びまぶたが重い帳を下ろそうとする。
僕のまぶたが完全に下ろされ、また漆黒の闇の世界に戻ろうとする瞬間、
パンッ!!!
僕の耳の近くで大きな音が響いた。
慌てて大きく目を見開くと、瞳にいっぱいに涙を浮かべたマリオン先生が、僕を心配そうにのぞき込んでいるのが分かった。
「よかった、気がついたのね……」
わけもわからず、うなずく僕。
いや、うなずこうとしたけれど、体中の筋肉から力が抜けて、ほとんど首を動かすことができなかった。
かろうじてかすかに動く顎をいっぱいに動かし、僕はマリオン先生に笑みを返そうとする。しかし、僕に残された体力では、上と舌の唇の間にわずかな隙間を設けるのが精一杯だった。
僕の精一杯のスマイルがマリオン先生に通じたのだろうか、先生の瞳から大粒の涙がぽろぽろとこぼれ落ちた。
「アラン君、ごめんなさい!」
マリオン先生は今にも泣き出しそうな声で言うと、僕の胸に顔をうずめ、僕の身体をやさしく、そして力強く抱きしめた。
「ごめんね、アラン君! 無理させてごめんね。ごめんね、ごめんね……」
僕の胸に顔をうずめ、何度も何度も謝るマリオン先生。
マリオン先生の涙で、僕に着せられたパジャマの胸の部分はぐっしょりと濡れてしまっていた。
けれども、それは決して不快ではなかった。それはとてもあたたかで、やさしくて、慈愛に満ちた涙だった。
そうしているうちに僕はとても優しい気持ちになり、穏やかな眠りへといざなわれていった。


まぶしい……。
あれ、またさっきの……。
ゆっくりと目を開ける。
うわっ、まぶしい! 思わず目を閉じる。
まばゆい光がまぶたを通して降り注いでくるのがわかる。
やがてまぶしさに目が慣れると、僕は少しずつ目を開けた。
まぶしいわけだ。初夏の強烈な太陽光線が、僕を直撃していた。
ん……しょっと……。ゆっくりと上体を起こす。
ここは……マリオン先生の教官室か。
首を右にひねると、デスクに向かうマリオン先生の後姿が見えた。
シーツの衣擦れの音に気がついてマリオン先生が振り向く。
「あ、気がついた?」
マリオン先生は立ち上がると、ツカツカとベッドに歩み寄り、僕の顔色を伺うと、
「うんうん、エリクシール剤の注射が効いたみたいね」
と言った。なんだか事務的な口調だ。さっきの先生の涙は、何だったんだろう。おそるおそるマリオン先生の表情を確かめる。やっぱりいつもの教官としてのマリオン先生の表情だった。
「回復するまで、しばらく休んでていいわよ」
マリオン先生はそう言うと、僕に背を向けてデスクに向かってしまった。
先生の後姿を見つめる。スッと背筋を伸ばし、てきぱきとデスクワークをこなしているみたいだ。
さっきのは、やっぱり夢だったのかな……?
未だにふわふわとした気持ちを抑え込むと、僕は身体の点検を始めた。
まずは右手を持ち上げようとする。ダメだ、まったく力が入らない。ぷるぷると震えるだけで、ピクリとも動かないのだ。
精神を右手に集中させて、動け、と念ずる。すると、右手がうそみたいに軽々と持ち上がった。
右手が動いてしまうと、他の四肢を動かすのは簡単だった。
僕は自分の手足が十分に動くことを確認すると、ベッドから立ち上がった。


「先生、もう大丈夫みたいなんで、失礼します」
するとマリオン先生は上半身だけをこちらに向け、
「そう、わかったわ。特訓で教わったこと、忘れないでね」
と言った。
「はい」僕は答えると、教官室のドアノブに手をかけた。
失礼しました、と言おうとして、僕はその言葉を飲み込む。
代わりに僕はこう言った。
「先生、どうして僕みたいな落ちこぼれに特訓なんてしてくれたんですか?」
するとマリオン先生は優しく微笑んで、
「キミを見てると、学生の頃の自分を見てるような気がして放っておけなかったの。実は私も落ちこぼれだったんだよ」
「ホントですか!?」
「ホント。キミよりひどかったんだから」
「そうだったんですか……」
はっきり言って意外だった。一昨年度の卒業生の席次では、トップすら逃したものの僅差の2位につけていたマリオン先生が、最初は落ちこぼれだったなんて……。
「訓練、辛いし厳しいかもしれないけどさ、がんばろうよ。ね、一緒にがんばろ?」
「先生、僕……」
「ん、なに?」
「いえ、何でもないです。ありがとうございました!」
僕はそう言ってドアを閉めると、教官室を後にした。
マリオン先生に叱られてる間ずっと、僕は学校を辞めようと思っていた。去年1年間ずっと我慢してきたけど、もう限界だった。周りのみんなのレベルの高さについていけない。僕は完全に自信を失っていた。
でも先生に励まされて、もう少しがんばってみようと思った。


そのためにも、僕にはやらなければならないことがあった。
僕は寮に帰るとまっすぐに机に向かい、紙と封筒ににペンを走らせた。書き終えると丁寧に紙を折り、封筒に詰めた。その封筒には、「退学届」と記されている。
明日の放課後、これを持ってケイに挑戦しよう。いずれにせよ、後輩に負けた屈辱を背負ったままでは、この後の学校生活をまともに過ごすことなんてできやしないだろう。
あの屈辱的な授業の後、クラスメイトからこう聞かされた。
「ついてなかったなオマエ。相手が悪かったんだよ、気にすんなって。この2ヶ月くらいの間に、10人近く男子が学校辞めてるだろ。
アイツ、表では大人しく振舞ってるけど、裏ではかなりやりあってて、一度も負けたことがないらしい。
みんなアイツに負かされて、自信失くして辞めてったらしいんだ。これは噂だけど、夏休み明けには飛び級で2年に進級してくるらしいぜ」
これが本当なら、落ちこぼれの僕がイかされるのも仕方がないことなのかもしれない。
いや、マリオン先生との特訓を経た今だって、全然勝てる気がしない。
それでも、失なわれた名誉を取り戻すために、僕はケイと戦わなくてはならない。
彼女に勝って、先輩としての、男としてのプライドを取り戻さなくてはならないのだ。

***

次の日の放課後、僕は校門の前に立ち、ケイが出てくるのを待った。
1時間ほど経過し、下校する生徒の姿も大分まばらになった頃、ケイは現れた。
何人かの同級生の女の子と連れ立って、わいわい騒ぎながらこっちに向かってくる。
まずいな、一人じゃないのか。しかもよく見ると、みんな昨日同じ授業を受けてた子ばっかりだ。
ケイに負けた僕を、哀れそうに見つめていた彼女たちの表情を思い出して、僕の気持ちは急速に萎えていってしまう。
今彼女たちと会ったら、またバカにされるかもしれない。
日を改めようか。そう思ったとき、ケイの目はすでに僕の姿をとらえていた。


「あ、こんにちはアラン先輩。昨日はどうもありがとうございました」
昨日のことなど何でもなかったかのように、ケイはとても丁寧に言った。
逆にこちらの方が緊張してしまう。
「あ……ああ。こちらこそ」
周りの女の子たちの好奇心の矢を痛いほど感じる。
「何してるんですか? 待ち合わせ?」
「あ……いや……」
口ごもる僕の顔を、ケイが不思議そうにのぞき込む。
「まさか〜、ケイちゃんを待ってたとか?」
周りにいた女の子の一人が、小バカにしたように口を挟む。
やっぱり彼女たちにまで見下されているのか……。
その屈辱感と図星を突かれたこととで、僕はすっかり慌ててしまう。
かーっと頭に血が上り、顔が紅潮するのがわかる。
「あれ、もしかして……図星?」
その子が言った。
「え〜、ホントですか〜?」
くすくすっと女の子たちが笑う。
ケイは周りの子たちを目で制すると、僕の方に向き直って
「私のこと、待っててくれたんですか?」
ど、どうしよう……。
でも、言わなきゃ……。そのためにここで待ってたんだから。
僕はゆっくりとうなずいた。
「ふうん、そうだったんですか」
ケイはそう言うと、それまで礼儀正しく振る舞っていたのが嘘みたいに、僕を嘲笑った。
「また私にイジめられたいんですね?」
「ち、ちが……」


「う、そ。もう先走っちゃってるんでしょ?」
く、くそっ……。悔しいけど彼女の言うとおりだった。彼女の姿を見ただけで、僕のペニスの先っぽからはすでにカウパーがあふれ、パンツに染み着いて冷たくなっていた。
「昨日は、あんなにかわいいとこ見せてくれましたもんね」
「う、うるせえよ!」
「それなのに、今日もまたかわいがられたいなんて、先輩、もしかして変態なんじゃないですか?」
変態という言葉に、キャハハッと周りの女子たちが笑う。
どこまで僕をバカにするつもりなんだコイツらは……。
もう許せない。僕は感情がほとばしるままに叫んだ。
「お前等は引っ込んでろ!」
シーンと静まり返る女の子たち。
ケイだけが、しっかりと僕を見据えている。
「僕と……、俺と勝負してくれ」
今にも擦り切れそうな勇気を振り絞って、僕はケイをまっすぐに見つめた。
ケイはふっ…と笑うと、嘲笑するかのような笑みを消して、丁寧に言った。
「アラン先輩、知らないんですか? 練習ならともかく、生徒間の私闘は校則で禁じられているんですよ」
「知ってるさ。最近男子生徒が続々と学校を辞めてる理由も知ってるし、教官たちがそれを知りながら、人材不足のせいでお前を退学処分にできないでいるってことも知ってる」
僕がそう言うと、ケイは腕を組み、顎をツンと上に向けて僕をにらみつけた。
負けずに僕もケイをにらみ返す。
「これで負けたら、俺は学校を辞める」
ポケットから退学届を取り出し、ケイに見せる。


「預かってくれ」
ケイは僕の退学届を受け取るとニイッと笑い、
「アラン先輩でちょうど10人目です」
「そうはならねーよ」
「ふふ……わかりました。もしアラン先輩が勝ったら、これはお返ししますね。ありえないと思いますけど」
ケイはそう言うと、同級生たちに謝り、先に帰ってもらうように頼んだ。
やがて女の子たちの姿が見えなくなると、ケイが言った。
「場所は私に任せてもらえます?」
「ああ、誰かに見つかるとヤバいからな」
「うふふ、本当は年下の女の子に無様に負かされるとこ、見てもらいたいんじゃないですか?」
「いくらお前みたいなエリートでも、やってる現場を押さえられたら立場がまずくなるだろって言ってんだよ」
僕の答えに、ケイはニッコリと笑った。

***

ケイに連れられて街を歩き、大通りを渡ろうとしたとき、僕たちの目の前を葬送の行列が横切った。
先頭に牧師が立ち、その後を馬車に載せられた棺が往く。棺には帝国の国旗がかけられている。きっと、殉難した戦士の遺体があの中に安置されているのだろう。
そして遺族や同僚と思われる黒ずくめの人々。誰一人として声を発せずに、しずしずと棺の後ろに付いていく。彼らの目は、何も見ていなかった。漆黒の海のように虚ろで、絶望に満ち満ちていた。


行列が通り過ぎるのを待って、僕たちは大通りを横断した。そして、曲がり角を曲がって小路へと入ったとき、ケイが神妙に言った
「アラン先輩。先輩はどうしてこの学校に入ろうと思ったんですか?」
僕が押し黙っていると、
「アラン先輩、聞いてます?」
「聞いてるよ」
それっきり黙ったまま、僕たちはそのまましばらく歩く。
けれどもやがて、自分の運命をかける相手に対して、最期に喋っておいてもいいかな、そう思えてきた。僕は歩きながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
自分の生まれ故郷がいかに貧しい村だったかを。
ただでさえ貧しい村から、何十人もの若い男女が淫魔の生け贄に捧げるため、徴発されていったことを。
「淫魔ハンターになる」と僕が言ったとき、父が先祖代々の畑を売ってまで授業料を工面してくれたことを。
村長さんをはじめ、村のみんなが入学を盛大に祝ってくれたことを。
僕が最後まで語り終えると、ケイがこう言った。
「ただの憧れじゃなかったんですね。少し見直しました。多いでしょ、有名になりたいとか、異性にもてはやされたいとか、そういう単純な理由でハンターに志願する人」
「ああ」
僕がうなずくと、ケイは立ち止まり、
「付きましたよ」と言った。
「ここか」
「ええ。今までに私が何人もの男を負かしてきたところ。そして、これからアラン先輩がそのリストに加えられるところです」


「生死を賭して」第一部 おわり
第二部へつづく

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