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「生死を賭して」第一部 前編

「はぁ……」
ため息をついた僕の右手には、先週行われた中間考査の成績表が握られていた。
(2年生194人中、191位)
この成績のおかげで、昼休みの間ずっと、担任の先生にこってりと叱られていたのだ。
「アラン君さ、もっとがんばってもらわないとな。
 2年生に上がるときだってさんざん苦労しただろう?
 もっともっと努力してもらわないと、落ちこぼれていく一方だぞ」
先生の言うとおりだった。
というか、僕が落ちこぼれたのは今に始まったことじゃない。

世界一の大国フィリオランドの防衛大学校。
僕の所属する対淫魔学科は、その名の通り、異世界から押し寄せてくる淫魔と戦うハンターの養成がその目的だ。
自らの身体を武器に人々を守る淫魔ハンターは、人々の憧れの的。英雄だ。
そのため志願者も多く、入学するには何百倍もの倍率の試験を突破しなければならない。
今は落ちこぼれの僕がそんな難関を突破できたのには、ワケがあった。


4年前のことだ。
帝都の宮殿に、一人の戦士が運び込まれた。
戦士の名はナルニアデス。フィリオランドきっての勇士である彼の任務は、辺境の地トルーファンの防衛だった。
激しい戦いが続くトルーファンの地で、彼は勇敢に戦い、そしてあるものを発見した。
それは、この世界と淫界とをつなぐゲートだった。
ナルニアデスは淫魔たちがゲートを通って人間界と淫界とを行き来するのを実際に確認すると、それを帝都に報告すべくすぐさま帰還しようとした。
しかし、敵の領域に深入りしてしまった彼は淫魔に包囲され、サキュバスたちによってさんざんに嬲られ、瀕死のダメージを負いながらもなんとか囲みを破り、命からがら帝都へたどり着いたのだった。
皇帝陛下に一部始終を報告したその夜、ナルニアデスは全身から血が噴き出して死んだという……。
だがこれで敵の根城のありかが判明した。百年間続いた淫魔との戦いを終結させる好機!
帝国は支配下の王国・公国、そして同盟諸国と連合軍を結成。皇帝陛下の号令一下、リッチモンド将軍を元帥とする大部隊を淫界へ送り込んだ。
人間界の存亡を賭けたその作戦は、しかし、失敗に終わった。
淫界へ乗り込んだ淫魔ハンターたちは、一人残らず返り討ちに遭った。
それどころか、淫魔たちは自分たちの領域を侵犯されたことにより怒り狂い、大反撃を開始したのである。


作戦の失敗により多くの精鋭を失った帝国は各地で敗戦を重ね、次々と支配下の都市を淫魔に奪われていった。
帝都の陥落も間近と思われたある日、宮殿に淫魔界からの使者が訪れた。
「若い男女を1000人ずつ、毎年生贄として提供してくれれば、淫魔たちを引き揚げさせましょう。しかも、人間界が、我々以外の悪魔族に襲われたときには、我々があなたたちを守ってあげてもよいと考えております。
これからは人間と淫魔、持ちつ持たれつでいきましょうぞ。決して悪い条件ではないと思いますが、いかが?」
使者はそのように言うだけ言ってしまうと、「返事は後日で結構」と言い残し、さっさと宮殿を去ってしまった。
「なんたる無礼! 持ちつ持たれつとは笑止千万! 実際は我々から搾取する魂胆であろう!」
「しかし、我々にはもう戦う力は残されていないのです」
「ならばあの屈辱的な条件を飲むとおっしゃるのですか? 私は戦士らしく最後まで潔く戦うべきと思います」
「それでは国が滅ぶ……」
まさに会議は踊る。しかし、もはや帝国には戦争を継続する能力は残っていなかった。そして帝国の崩壊は、人間界の崩壊をも意味していた。
皇帝陛下はその屈辱的な条件を受諾し降伏する旨の宣言書に、サインせざるを得なかった。
帝国にとって幸運だったのは、停戦後すぐに淫魔界に内紛が起こったことだった。淫魔界を統べる女王が亡くなると、その後継者争いが勃発したのだ。
そのため、淫魔たちは人間界を相手にするどころではなくなっていたのだ。
淫魔界への生け贄も一度捧げられたきり行われることはなく、その後は人間と淫魔の衝突が局所で散発的に起こる程度だった。
それから4年。雪辱に燃える帝国は、淫魔ハンターの大増員計画を実行している。


とまあ、こういう事情があって防衛大学校の対淫魔学科の入学定員が大幅に増えたので、本来ならば不合格になるのが当然の、僕みたいな実力的に劣る人たちも、この学校に入学することができるようになった、というわけだ。
といっても、僕だって生まれ故郷じゃ無敵だったんだけど……。
故郷の人たちの期待を一身に背負い、勇み立って入学したはずだったのに……。
上には上がいるということを、痛いほど味わわされた1年間だった。
進級できたのもたぶんおナサケ。というか、それだけ人材が不足してるってことなんだろうな。
それにつけても、中間考査の(191位/194人)という数字は、見るたびに僕にため息をつかせる。
定期考査は年に4回行われ、その成績によって進級の可否が決まる。もちろん卒業後の配属にも大きく影響する。
試験は1週間にわたって行われる。期間中に同学年の生徒5人と実戦形式で対戦し、評点がつけられる。勝った負けただけではなく、それに加えて戦いの内容を評価されるのだ。
具体的には、数人の教官たちが観戦してテクニックやスキル、耐久性等を厳しくチェックする。
だから組み合わせの運悪く、強い生徒と戦ってばかりで5戦全敗なんていう結果でも、戦いぶりがよければそれなりに高い評点がつけられるし、5戦全勝でも内容が悪ければ、その分はマイナスの査定となる。
で、僕の結果はというと、順位から想像してもらえばわかると思うけど、ひとつも勝てなかった。しかも全部惨めな負け方だった。
思い起こせば初戦がまずかった。ものの10秒でイかされるという、文字通り秒殺。これで意気消沈した僕は、次の試合に向けて気持ちを立て直せないまま、バタバタと負けてしまったのだった。


さて、次の授業は……ええと、苦手のタフネス養成訓練か……。
タフネス養成訓練っていうのは、要するに異性からの性技に対して、いかに我慢して耐えるかっていう能力を養う訓練だ。
2年生以上の必修科目で、1学年下のスキルアップ訓練と合同で行うことになっている。上級生は、下級生からの責めにひたすら耐えて耐久力を養う。下級生は、上級生に胸を貸してもらって技を磨くっていうのが、この訓練の狙いだ。
イヤイヤながら道場に入ると、もうみんな集まっていた。
「遅いぞ、アラン」
僕たち2年生の男子10人のクラスの担当のダンカン先生が、僕に厳しい視線を投げかけている。
「すみません」僕は謝ると、急いで席に着いた。
「さて、それじゃ始めよっか」とマリオン先生が言った。
マリオン先生は、今日の1年生の女子10人の担当だ。一昨年養成学校を卒業してすぐに、この学校に教官として任官している。
まだ20歳を過ぎたばかりだというのに、その長い舌を駆使したテクの凄さは学校一との評判だ。もちろん専門は舌技というわけで、女子生徒にフェラテクを教える講座をいくつも持っている。今日の授業も、そのうちのひとつだ。

そうこうしているうちに、教官同士の実演が始まった。ダンカン先生のペニスを相手に、マリオン先生がフェラのテクニックを実演して見せる。
二人の周りを女生徒たちが取り囲み、熱心にマリオン先生の講義を見ているあいだ、僕達男子生徒は何もやることがないのでぼぉっとその様子を見ていることになる。
女子生徒から口元がよく見えるようにと、マリオン先生は腰まである見事な髪を頭の上で束ねている。
ときおりダンカン先生のペニスから口をはなし、テクニックを解説している。
そして解説の通りに実演して見せるたびに、ダンカン先生の足がピクピク動いたり、背中が反り返ったりする。
マリオン先生のテクには、タフネス自慢のダンカン先生もタジタジのようだ。さすがに顔には出さないようにしているものの、ダンカン先生がマリオン先生のテクに翻弄されているのが、僕達生徒の目にも見て取れた。


実演が終わると、いよいよ生徒同士による実践になる。
なるべく弱い子と当たりますように……。
「それじゃ、パートナーを作って」
マリオン先生がそう言うと、僕の周りの男子たちは我先にと相手を選び出した。
あれ、普通は下級生の方から相手を選ぶものなんだけどな……。
などと思っているうちに、男子の方では僕だけが取り残されてしまった。
といっても10対10だから、女の子の方も一人余ってるわけで、その子はというと……
「やだ、また私だけ残っちゃった」
その子は明るく言うと、男子の中で残った僕の方に顔を向けた。
160台後半のすらっとした長身。滑らかな漆黒の絹糸を束ねたかのようなさらさらの髪。制服の上からでもはっきりと自己主張するバスト。ミニのプリーツスカートから伸びる長くしなやかな脚。
その姿を見た瞬間、僕は戦慄を覚えた。その子の名前はケイ。この前の中間考査で274人の1年生の中でダントツの1位だった子だ。
彼女の強さについては、こんなエピソードがある。
4年前。先の大戦がいよいよ終末を迎えた頃のことだ。
彼女の町を二人の男性淫魔が襲った。武器をとって戦った人間の男たちは女性淫魔のエサにするために捕虜にされ、女たちはことごとく犯しつくされた。
淫魔たちが最後に狙ったのが町外れにある彼女の家だ。淫魔が彼女の家のドアを蹴破って侵入してくる。
彼女の母と三人の姉を犯し尽くした淫魔たちは、納屋に隠れていた一人の少女の姿を見つけた。少女は侵入してくる淫魔の姿を見て驚愕する。
少女の目の前に立っていたのは、淫魔界へ乗り込む作戦に従軍した淫魔ハンターの父と兄だったのだ。
淫魔とのセックスバトルに敗れた人間は、二通りの最期を迎える。文字通り枯れ果てて命を奪われるか、淫魔に心を売り渡して淫魔化するかだ。
町の英雄と称えられ勇んで出征していった父と兄が、逆に淫魔に成り果てて今にも自分に襲いかかろうとしている。あまりの恐怖と絶望に、少女の記憶はこの後しばらくの間途絶えることとなる。


翌朝、旅の尼僧がその町を訪れた。
町のあちこちに横たわる死者を弔うと、尼僧は少女の家を訪れた。少女の母と姉の冥福を祈り、最後に納屋の戸を開けたとき、尼僧は驚くべき光景を目にする。
がらんとした納屋の真ん中に枯れ果てた淫魔の死体が二つ転がり、その奥に体中を精液にまみれさせた少女が呆然と佇んでいたのである。
尼僧は井戸の水で濡らした布で彼女の身体を清めてやると、食事を与え、都の孤児院へ少女を連れて行った。少女は成長し、やがてこの学校に入った。

その少女が、いま僕の目の前に立っている。
男子たちが我先に相手を選んだのは、ケイの相手役となるのを避けようとしたからに違いない。
ケイは穏やかながらも意志の強そうな瞳をまっすぐに僕に向けると、
「よろしくお願いします」礼儀正しく頭を下げた。
彼女が頭を上げると、ふわっと甘い香りが僕の鼻腔をくすぐった。体中を電撃が走ったかのような思いがして、僕の心臓がどきんと大きく鼓動した。と同時にペニスがいきなり勃起してしまった。
ケイはそれに気づいたのか、
「大丈夫ですか? よろしくお願いしますね」クスッと笑いながら言った。
彼女を前にして、僕は完全に圧倒されてしまい、
「あ、ああ、よろしく」
上ずった声でそう答えるのが精一杯だった。


「よーい、スタート!」
ダンカン先生の合図とともに、女子生徒たちが一斉に男子生徒の股間に顔を埋める。
僕はベッドの脇に腰を掛け目をぐっとつぶると、ケイが責めてくるのをじっと待ちうけようとした。
まずは10分間、上級生は後輩からの責めにひたすら耐えなければならない。その後10分のインターバルをおいて、今度は20分間。そしてまた10分休んで、最後は30分だ。
厳しいカリキュラムを生徒に課すこの学校では、生徒たちは短い期間で大変な成長ぶりを見せる。
春に入ってきたばかりの新入生と、1年間徹底的にしごきぬかれた2年生との間には、とても大きな実力差がある。
だから一方的に責められるだけとはいえ、10分という短い時間で年下にイかされるなどということは、まずありえない。
同学年の女子にはさんざんイかされている僕でも、下級生にやられたことは一度もない。まあ、それにはちょっとしたウラがあるんだけど……。
とにかく我慢しなくては。後輩にイかされるっていうのは、ものすごい屈辱なんだ。いくら相手がエリート中のエリートだからって、負けるわけにはいかない。
幸い、ペニスは僕の意志の力でもう柔らかくなっている。責められればすぐに勃起してしまうだろうが、いきなり勃起した状態のものを責められるよりははるかにマシだ。
だけど、いつまでたってもケイは責めてこない。まったく触れてこないのだ。
どうしたんだろう、そう思って薄目を開けると、僕の顔を妖絶に見つめるケイと目が合った。その瞬間、僕は彼女の瞳に吸い寄せられるように、彼女の視線から目をそらすことができなくなってしまった。
ケイはニイッと笑うと、口唇からわずかに舌を出し、そのふっくらとした自らの口唇をゆるりと舐めた。
舌が右から左へと動き、彼女の柔らかな口唇がつややかに濡れる。
そして僕を上目遣いで見つめると、その口唇を大きく開いて舌を出し、ペニスを下から舐め上げるように官能的に動かした。
マリオン先生にも劣らぬほどに、長く柔らかな舌の動きは、見ているだけで僕の官能を十二分に刺激した。


こんな舌で舐められたら……。
まずい、想像しちゃいけない。
けれども、想像するのをやめようとすればするほど、僕のペニスがケイの舌に弄ばれる光景を思い浮かべてしまう。
どくん、どくんと血液が流れ込み硬くなっていくペニスを、僕は黙って見ているしかなかった。
ケイはあっという間にガチガチになった僕のペニスを満足げに見つめると、僕を嘲笑うかのように上目で僕の顔をのぞきこんだ。
(何もしてないのにタッちゃったんですか?)
彼女の瞳が、そう言っているような気がした。
この授業では、責め手側は課題となるテクニックだけで相手を責めなければならない。
フェラならフェラだけ、パイズリならパイズリだけで相手を責めなければならないのだ。フェラに付随するテクニック――つまり手でタマを揉んだり棹をしごいたりすること――は許されるが、乳首を責めたり言葉責めを行ったりはできない。
しかし、彼女の瞳は生半可な言葉責め以上に、僕の心胆を悩ませた。僕が考えていることすべてを見透かすかのようなまなざしだ。
やがてケイはゆっくりと焦らすように僕のペニスに顔を寄せると、再び舌を出し、ペニスの根元にぎりぎりまで近づけ、一気に舐め上げるような動作を行った。
「あうっ!」
ペニスがビクンと反応し、思わず声が漏れてしまう。
ふふっと鼻で笑うケイ。僕は猛烈な恥ずかしさを感じ、顔を赤らめてしまった。
ケイの舌は僕のペニスに触れていなかったのだ。舌をぎりぎりまで近づけておきながら、わざとペニスには触れずに、舐める素振りだけで僕を悩殺していたのだ。
ふうっ
ケイの吐息が、ぼくの亀頭を襲った。
ビクビクビクビクッ
それだけで僕は情けなくも反応してしまう。
すでに亀頭の先端には、先走り液が今にも溢れんばかりにたまっている。


ふぅぅぅっ
ケイの吐息に、またしてもビクビクッと震えると、先走り液がピッとはじけ飛び、彼女の頬に落ちた。
ケイはそれを人差し指ですくうと、その指を僕の目の前にかざした。
(息だけでこんなに感じちゃうの? 恥ずかしいですね)
そう言われているような気がした。
彼女はその指をゆっくりと自分の口の前に持ってくると、舌を出してチロチロっと指先を舐めた。
僕はそんな彼女の仕草から目を逸らすことができない。知らず知らずのうちに、ハアハアと大きく息を弾ませている。
(ねえ、はやく舐めてほしいですか? 気持ちよくしてほしいですか?)
そう言うかのように首をかしげる彼女。
思わず僕は、こくこくっと首を縦に振ってしまう。
(いいですよ。じゃ、せいぜいがんばって下さいね)
彼女は微笑むと、いよいよ僕のペニスに顔を近づけてきた。
まずは舌の先端で、鈴口をチロチロっと舐める。彼女に舐められるたびに、どくどくと先走り液が流れ出てきてしまう。
ケイはその溢れ出る先走りを、舌の先端を使って丁寧に亀頭全体に塗りつける。そして口唇から大きく舌を出し、亀頭をぐるぐると舐めまわす。
僕のペニスは先走りと彼女の唾液とで、ぬるぬるになってしまっている。
再びケイが鈴口を舌先でつつく。そしてあふれ出る先走り汁をねっとりと舌に絡ませると、ゆっくりとペニスから舌を遠ざけた。
ケイの舌先と僕の亀頭との間に、つつーっと先走りの糸が渡される。
(こんなに濡れちゃって、恥ずかしくないんですか?)
彼女の瞳がいたずらっぽく笑う。
僕の顔が恥辱でみるみるうちに赤く染まる。


ケイは左手で僕のペニスのカリ首のあたりをつまんで上に持ち上げると、その長い舌を棹に絡ませてきた。
最初は単純に下から上に舐め上げられる。
「んんっ!」それだけで喘がされる僕。
舌先を上下に動かしたり、円を描くように回したりしながら、ゆっくりと僕自身を舐め上げてくる。
その度に僕の口からは喘ぎ声が漏れ、ピーンと足を突っ張らせてしまう。
れろぉっ。
今度は舌全体を使って舐め上げてきた。
「はうっ!」
そんな口撃を何度か続けられると、早くも射精感の高まりを感じさせられてしまう。
(もうイきそうなんじゃないですか?)
彼女はそんな僕の状態を見透かしたかのように、タマを右手の指先でつんつんと突いてくる。
タマを刺激されて、一気に射精しそうになるのを、僕は必死でこらえなければならなかった。
時計の方に視線を送る。まだ5分以上残っている。
もうダメだ……耐えられない……。
僕はたまらず、彼女の肩をぽんぽんとたたく。
さっきも言ったように、後輩にイかされるというのは、上級生にとって大変な屈辱であり、絶対に避けなければならないことだ。
また、上下関係の厳しいこの学校では、後輩は上級生の顔に泥を塗るような行為はしてはならない、という風習がある。あくまでも先輩を立てなければならないのだ。
上級生がイかされそうになると、責め手側にサインを送る。すると下級生は責めをゆるめ、タイムアップとなるまでイかないように手加減をする。この授業には、昔からそういう慣習があるのだ。
僕が彼女の肩を叩いたのが、その合図だった。
こうすることで、なんとか表面的には先輩としての体面を保つことができるのだ。
けれども、もちろんそれが後輩に対する降伏の合図であることに変わりはない。後輩にイかされそうになった上級生ということで、それからその後輩に対してはずっと引け目を感じてしまうことになる。
僕も今まで4人の後輩にイかされそうになったことがある。今じゃ、その子達と廊下ですれ違ったときに目を合わせることもできなくなってしまった。


ともかく僕は、ケイに降伏の合図を送った。
(ふーん、この程度なんですか?)
ケイが僕に冷たい視線を投げかける。
実際僕は、ケイの口内に咥えられてもいないのに、その舌技だけで、絶頂に達せられそうになっているのだ。これほどの恥辱はなかった。
でも、ケイに合図を送ったことで、みんなの前で惨めに射精するのを見られずにすむ。
僕が安心して大きく息をついた瞬間、とんでもない快感が僕のペニスを襲った。
ケイが艶やかに濡れたその口唇で、僕のペニスを包み込んできたのだ。
僕のペニスの形に合わせてぎゅうっと口唇をすぼめ、そのまま根元まで口唇を降ろしてくる。
そしてそのままじゅるじゅると音を立ててペニスを吸いあげながら、口唇を亀頭へ向けて這わせる。
「ちょ……ちょっと待って」
ケイは僕の言葉に耳を貸さず、その連続運動のスピードを少しずつ速めてくる。
ぽんぽん。……ぽんぽん。
何度も彼女の肩を叩く。
しかしケイは僕の合図にかまわず、どんどんそのスピードを速めてきた。明らかに僕をイかせようとしている。
こうなったら耐えるしかない。そう決意して残り時間を確認する。
残り4分14秒。
む……無理だ。そんなに長く耐えられない。
今にも射出しそうな精液を、なんとか精神を集中して押しとどめている状態なのだ。
イきたい……。イって楽になりたい……。
全身の気を集中して、射精を耐えることに専念すれば、なんとか耐えしのぐことはできるかもしれない。
実際、ある程度の刺激ならば、精神を防御に集中することにより、イかされることを防ぐことはできる。しかし、限界を超えた快感を長時間にわたって身体に与えられ続けると、精神の方が持たなくなってしまうのだ。
残り時間は……4分01秒。まだ15秒と経っていない。
も、もうダメだ。屈辱でもなんでもいい。イって楽になろう……。
僕はすべてをあきらめ、我慢するのをやめ、流れに身を任せた。
やがて何も考えられなくなり、視界が真っ白になっていく……。
あ……イクッ……


そう思った瞬間、彼女の口唇の動きがピタリと止まった。
ペニスが射精を求めてビクビクっと小刻みに震える。
その震えを優しく抱きとめるかのように、ケイの口唇がペニスを柔らかく包み込む。
やがて震えがおさまると、ケイは口唇をペニスから離した。
はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……
肩で大きく息をつき、うつろな目でケイを見つめる僕。
(私の勝ち、だね)
ケイは口元に妖絶な笑みを浮かべ、すうっと目を細めて僕を見つめる。
やられた。後輩の女子にあっという間に負かされた。それだけでなく、手玉に取られてしまったのだ。僕は彼女の視線に完全に飲み込まれ、その屈辱感に体中が熱くなった。
ケイはそんな僕の気持ちを見透かすかのようにふふっと笑うと、ペニスの先っぽにちゅっとキスをした。
「うっ……」
思わず声を上げてしまったが、その刺激はさっきまでのものに比べれば、格段に緩やかなものだった。
ケイはその後もペニスのあちこちにちゅっちゅっとキスをまぶしてくる。
少しずつ、本当に少しずつではあるけれど、射精感が遠のいていくのが実感できる。
よかった……。とにかくなんとかイかされずにすみそうだ……。


2分……。
1分…。
「残り30秒よ」
マリオン先生がそう言った頃には、半分以上ダメージを回復できていた。
「残り20秒」
ケイはタマを掌で柔らかに揉みながら、あいも変わらずペニスに口付けしている。
「残り10秒」
マリオン先生が言った瞬間、ケイの瞳にきらりと妖しい光が宿ったように見えた。
その瞬間、気が遠くなるような快感が僕を襲った。ケイが再び僕自身を咥えてきたのだ。
一番深くまで僕のペニスを咥え込むと、その長い舌をねろねろと棹に這わせ、強烈に吸いあげてくる。
その快感はすっかり安心しきった僕のペニスを射精まで導くのに、十分すぎた。
「あああああぁっ!」
あっという間に射精感が高まった。防ぎようのないその快感に、僕のペニスはなすすべもなくザーメンを吹き上げてしまった。
ずるっ……ずるずるずるずるっ……
射精した後も、ケイは僕のペニスを吸い上げてくる。
「も、もうやめてくれぇっ。おかしくなるっ」
僕の哀願に耳も貸さず、ペニスを吸い上げるケイ。
睾丸からすべての精が吸い出されるような心地がする……と思ったとき、僕の全身から力が抜け落ち、意識が弾け飛んだ。
ピピピッ……ピピピッ……ピピピッ……
時を同じくして、ストップウォッチからアラームの音がけたたましく流れる。
けれども、僕の耳にその音は届かなかった。
みんなの視線が一所に集まる。彼らの視線の先にあるのは、意識を失い無様に横たわった僕と、その僕を見下ろし勝ち誇ったように笑みを浮かべるケイの姿だった。

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