LoveRomance Saga2
「若、準備はよろしいですね?」
「うん、行こうか、ダスティン」
イマキス公国の騎士であるダスティンと僕は、伏し初めの儀式のため、城の東に馬で1時間ほどのところにある洞窟に来ていた。
昨晩、セシリアに相手をしてもらった添い伏しが、貴族の儀式なら、これから行う伏し初めは、騎士の儀式だ。すなわち、新米の騎士が、初めて淫魔と戦うことを指す。イマキスの新米騎士は、伏し初めにこの洞窟を使うのが常だった。
「アルフレッド殿下、お待ちしておりました。伏し初めの成功お祈りしております」
「緊張はなさるでしょうが、隊長が一緒なら問題ありませんよ」
洞窟の入り口で番をしていた兵士が、口ぐちに励ましてくれる。どうやら皆、ダスティンの隊の人みたいだ。
「ありがとう。行ってくるよ!」
彼らの応援を背に、僕は足を踏み出した。
「へぇ…、こんな風になってたんだ…」
洞窟の中は意外に広く、3〜4人は楽に横に並んで歩けそうだ。
最初の曲がり角を曲がって、入口の兵士が見えなくなると、不思議な光景に出くわした。入口からの光は届いていないのに、仄かに明るいのだ。
「ダスティン、何か明かりが用意してあるのかい?」
「いいえ、これは淫魔が生み出してるんです。淫魔がテリトリーとしてる所では、あいつらの分泌する成分が溜まってきますんで、空気が光っているとでもいいましょうか、その成分が発光してるんですよ。ほら、匂いを感じませんか?」
ダスティンに言われ、クンクンと匂いを嗅いでみると、洞窟の淀んだ空気には似つかわしくない、仄かに甘酸っぱいような、柑橘系の香りがした。
「でも、またなんで?」
「淫魔が人間の情念から生まれるのは、若もご存じでしょうが、そのせいかあいつ等も快感を感じる環境ってのは、人間によく似てるんですよ。この明るさも、焚火の明かりと一緒だとかで、一番興奮しやすい明るさならしいですよ」
「自分達で環境を整えてるわけだ」
さっき嗅いだ匂いも、いわれてみれば芳しい匂いと言えた。
人間と淫魔の好みが似ていることを、こうして実感させられると、彼女たちの存在が少し悲しく思えた。
全ての魔物は、人間のやり場のない強い感情を核として、その周りに雑多情念が集まった時、この世に生まれて来るとされている。中でも、若者の性衝動、行き過ぎた興奮などが、失恋や強姦など、性にまつわる強い悪感情を核として集まった場合、淫魔が生まれる。彼女たちは、こうした情念に突き動かされ、それが尽きるまで人間を襲い続ける。
これら魔物を祓うには、何らかの方法で、その核となる感情を鎮めるか、核が維持できなくなるほどのダメージを与える必要がある。淫魔が纏っている感情は、その性質上、性的刺激によって祓われる。それゆえ、現代の騎士は、性技を磨いているのだ。
こうした魔物の性質を、千年の古に発見したのが、賢者ブルミールだった。当時、世界には淫魔どころか悪魔や獣人、鬼、竜といったありとあらゆる異形が兆両跋扈していた。それらの魔物が、実は人間の飢えや肉親の死への悲しみから、生まれていることを突き止めた彼は、後の聖王ミルトにそれを訴えた。ミルトがそれを聞き入れ、当時人間の国同士でも続いていた争いを、主には調停で、時には力ずくで抑え、戦乱の世を終わらせると、世界から魔物の姿は激減していったのだ。
しかし、例外は常にある。この場合は淫魔の存在だった。争いを終わらせ、仁政を布いて人の苦しみを取り除いた名君も、恋や性の痛みまでは取り除くことができなかったのだ。それどころか、平和の世の中、人々は一層恋愛に励み、またその攻撃性を異性にぶつけ、新たな痛みを生み出し、淫魔の存在を増やしていった。
「彼女達は、救いを求めているのかもしれないね…」
僕の呟きに、ダスティンは軽く目を向け、笑顔とも泣き顔ともつかない表情を浮かべただけで、答えを返すことなく先に進んでいった。
湿っぽくなってしまった空気を晴らすべく、とりとめもない会話を続けながら、いくつか分岐を超え洞窟を進んでいくと、ついに最初の淫魔に遭遇した。
といっても、透明な羽の生えた、20cmほどの大きさの、可愛らしい妖精系の淫魔だ。
パタパタ
僕たちが近付いても、気にする風も無く、3〜4匹で輪になって遊んでいる。
「あの子達は危なく無いんだったよね?」
以前、図書室で読んだ『淫魔大全』によれば、ピクシーと呼ばれる種族である、彼女達のもとになるのは、5〜6歳の子供が周りの大人に抱いたまま、忘れ去られていく初恋だったはずだ。さすがに、害はないだろう。
「たまに野宿してる旅人を擽るくらいで、実害は全くありませんね」
「へえ…、あっ?」
輪の中の一匹が、僕の肩に止まってきた。
「ああ、若の方に行きましたか。ちょっと悔しいですね」
淫魔に好かれるのは、戦いの性質上、騎士としての素質の一つだ。いい騎士は、他の人間より、淫魔に狙われる頻度が高いという。ダスティンではなく、僕の方に寄ってきてくれたので、ちょっと嬉しかった。まあ、肩の上で笑っている姿は、何も考えていないようだったけど…。
「言葉は分からないんだね」
「ええ、もっと高位の淫魔でないと、ちょっと存在があやふやすぎてダメですね」
「うーん、こうして欲しいのかい?」
ピクシーは、ニコニコ笑っているだけで、意思を示すような動作はしなかったが、見つめ合っているうち、そうするのが自然な気がしてきて、僕は彼女の頭を優しく撫でてあげた。
『……!、…ニコっ』
彼女は、一瞬驚いたような表情をした後、幸せそうな笑顔を浮かべた。
「あっ!」
次の瞬間、彼女は儚い感触だけを残して、手のひらで溶けるぼたん雪のように、静かに消えていった。
「あれ、若、今何したんですか?」
「えっ、いや、頭を撫でてあげたんだけど…。害がないのに、可哀そうなことしたかな…」
「いえ、最後に笑ってたでしょ?上手いこと核を散らせたときは、淫魔はああやって笑って消えてくんですけど、淫魔にとっても楽な終わりならしいんで、いいことなんじゃないですかね」
「そうなんだ…。え、でも、核を散らす以外に、淫魔を倒す方法があるの?」
「と言うか、普通は強引に感じさせることで、淫気を少しずつ発散させて、核を維持できなくしてやるわけですよ。で、イかせたときは一気に淫気が減るってわけです。若がやったのは、大本の欲求を満たして、核の方を先に散らしたわけです」
「ふーん」
「でも珍しいんですよ、ピクシーを倒す気もないのに、弄って昇天させちゃう人。普通、害が無いもんで、皆放っておくんですけど」
まるでロリコンの人形マニアのように言われて、少し凹む。
「あ、いや、褒めてるんですよ。『淫魔狩りはピクシーに始まって、ピクシーに終わる』ってなもんで、簡単に捕まえれるんで、指先の訓練には持ってこいなんですが、なんせ性感が未熟で、昇天させるのは、熟練の騎士でも手こずることがあるんですよ。いやぁ、若、この仕事向いてますよ」
「そ、そうかな。ははは」
そう言われると悪い気はしない。ちょっと自信をつけて先を目指す。
「なにはともあれ、伏し初め成功おめでとうございます」
「ええっ!今のが伏し初めになるの!?」
「はい、一応淫魔ですから。いやぁ、『ピクシーで伏し初めした男』、なかなかいい二つ名じゃないですか。インパクトありますよ」
そんな二つ名いらない。
「いや、外にいた奴等も、驚きますって。絶対」
妙に興奮して、僕の二つ名を定着させるための策を練り始めたダスティンを必死でなだめつつ、今度こそ先を目指した。
「そう言えばダスティン、なんとなく先に進んじゃったけど、何か目標みたいなのはあるのかな?」
伏し初めは終わっちゃったけど…。
「洞窟の一番奥にある宝物を持って帰るのが、一応の目標なんですが、まあ大抵伏し初めじゃそこまでいけませんので、気にする必要はないですよ」
「やっぱり奥に行くほど強い淫魔が出るんだ」
「ええ、もう少し奥へ行くとインプ、さらに奥に行くとたまにサキュバスがいます。新米の場合、ほとんどはインプにイかされてギブアップ、なんとか切り抜けた場合は、サキュバスに会わなければゴール、運悪く襲われたらアウトってとこですかね。俺もインプはクリア、サキュバスには会わずじまいでした」
「そんな淫魔とやって危なくないの?」
「そのための供居ですよ。なに、一回や二回イかされたって、すぐにどうこうなるわけじゃないですから、危なくなったら、助けてあげますよ」
淫魔にイかされ続けた場合、その後の展開は3つある。一つ目は、なんとか逆転して勝利すること。二つ目は、体力が尽きて衰弱死。最悪な三つ目は、無防備な精神を淫気に当てられ続け、淫魔化してしまうことだ。
ここで厄介なのは、淫魔にイかされてしまうと、その毒とも言うべき淫気が、体内に残り続けてしまうことだ。つまり、一つ目の展開になっても、放っておくと淫魔化したり淫夢にうなされて衰弱死してしまう恐れがあるのだ。
そこで体内に溜まった淫気を、発散させる必要がでてくるのだが、淫魔を払うとき同様、それには性行為で、オーガズムに達する必要があるのだ。また、満たされない性愛が淫気の大本である以上、自慰行為によるオーガズムは、むしろ淫魔化を促進してしまう可能性があるため、治療は他人の手によってなされなければならない。セシリアが務めている衛生兵は、そのために存在しているのだ。
「やっぱり、もしイかされちゃったら、セシリアが治療するのかな…?」
「ま、まあ…、そうです…」
淫魔に搾り取られたうえに、さらにセシリアの治療を受けるのは何としても避けたかった。
はっきりとは言わないが、ダスティンの表情を見るに、彼にも思い当たるところがあるのかもしれなかった。
男二人、同じ恐怖体験に共感しつつも、歩を進めていると、急に空気が変わったのが分かった。
香りから思い浮かぶ柑橘類のイメージに、裸の女性のイメージが重なってきたのだ。
「おっ、お分かりになったようですね。淫魔の種類やレベルに応じて、場の雰囲気が変わっていきますから、実戦でもその感覚を大事にしてください。勝てそうにないほどのプレッシャーを受けたら、引き返すことも大事です」
「うん、分かったよ」
肌に絡みつく空気は、ダスティンのような騎士には、お遊びの延長のようなものでも、僕のような半人前には、十分危険を伴う実戦の香りに満ちていた。
「もしかして、あの先にいる?」
目の前の曲がり角から、淫靡な気配が漂って来たように感じ、ダスティンに確認を取る。
コクリと頷く彼の表情が、心なしか引き締まっていた。
一度深呼吸をして心を落ち着け、気合いを込め、僕は飛び出した。
その先には……、
スヤスヤ
少女が手頃な石を枕に、気持ち良さそうに眠っていた。
思わずコケそうになったが、せっかくの機会だと思い直し、よく観察することにした。
目の前で眠っている淫魔、インプは、140cmぐらいの小柄な体形で、ショートカットの頭には角、背中には蝙蝠の様な羽と長い尻尾が生えており、何かの皮でできた黒っぽいキャミソールのような服を着ていた。やや釣り上った目元から、悪魔的な印象をうける。小柄なため、胸やお尻の迫力はそれほどでもないが、その分腰回りも細いのだろう、布の上からでも起伏に富んだ体つきがうかがえる。
「若、まずは俺がお手本を見せますんで、後から付いてきてください」
「え、まさか寝込みを襲うの!?」
「夜討ち、朝駆けは兵法の基本ですよ。情けは無用、これは戦いなんです」
そう言い置いて、足音を忍ばせてインプに近づくダスティンは、インプの体形も相まって、かなり怪しかった。幼い寝顔を見ていると、どちらが淫魔か分からない。
ガバッ
「きゃっ、なになに?」
寝ぼけ眼で、事態を把握していないインプを、ダスティンがバックポジションで押さえ込んだ。
「さあ、若、こちらへ」
ダスティンに手招きされ、僕も駆け寄る。
「ああっ、もしかしてまた騎士が来たの?こないだ来たところだから、安心してたのに。やだ、ちょっと放してよっ」
「また?」
「ええ、この洞窟は淫魔が湧きやすいんで、たまに退治しに来てるんですよ。で、新米の伏し初めは、ちょうど淫魔の数が減ってる、討伐の直後にやるんです」
なるほど。
「さあ、若、ようやく実践ですよ。まずは、俺がやってるみたいに、こいつを取り押さえてみてください」
「う、うん」
ちょっと気が引けたが、インプの腕を掴んでみる。
……掴んでみる。
……掴んで…。
掴めない。
「ダ、ダスティン?」
触れた瞬間は、確かにインプの腕の感触があるのに、指に力をいれて握った途端、いきなり感触が失せてしまうのだ。かといって、僕の腕がすり抜けるとか、インプが透けて逃げていくというのでもなく、確かに触っているのに、触れていないという不思議な現象だった。
僕は焦ってダスティンに助けを求めた。
「今若が体験なさったことこそが、俺達の様な騎士の存在理由でもあるのです。淫魔は、他の魔物と違い、暴力を一切受け付けません。だからこそ、俺達は性技で淫魔に挑むわけです」
「でも、ダスティンは今この子を押さえて…」
いや、よく見ると彼女の腕を掴んだダスティンの左手は、時折彼女の二の腕を擦り上げるような動きを見せ、胸の膨らみに添えられた右手は、指の間にキャミソールの向こうの乳首を捉え、やわやわと揉みほぐしている。
「やっ、ちょっ、こらっ!あっ、やんっ」
インプも力づくで押さえられて痛がっているというより、くすぐったくて悶えている様子だ。
どうやら淫魔にとって不快な強さでは、触ることすらできないらしい。
僕は、ダスティンのような、微妙な指捌きをする自信は無かったので、ピクシーを撫でた時の要領で、できうる限り優しく、ワンピース越しに彼女の脇腹のあたりを擦ってみた。
サワッ
今度ははっきりした感触が伝わってきた。インプの方も、触られたと実感したようだ。
「ひゃんっ、何?キミも騎士なの?」
…どうやら、僕は今までものの数に入っていなかったらしい。
「あっ、こら、いたいけなインプに二人がかりとは、ヒキョウだぞ。騎士ならジンジョーに勝負しろ!」
さすがは淫魔が身に着ける服なだけあって、彼女の着ているワンピースは、生地が薄く、その下の華奢な肢体の感触をはっきりと伝えてくる。しっとりと手になじむような感触が気持ち良くて、そのままお腹を擦っていると、インプは舌足らずな口調で一騎打ちを挑んできた。
「若、いけますか?」
「ああ、もちろん」
インプに言われるまでもなく、もとよりそのつもりだ。触り方も分かったのに、これ以上助けを求めるのは、ただの臆病者だ。
深く息をついて、呼吸を整える。
初めてのバトルファックに、否応なく高まる鼓動を、抑えるのではなく、むしろ受け入れることで、相手に集中していく。
僕の気合いを見て取ったダスティンが、ゆっくりインプから離れる。
拘束を解かれたインプが、小動物を思わせる俊敏さで跳ね起き、僕たちと間合いをとった。
「あれ?そっちのおニイさんじゃなくて、キミが相手なの?」
僕の後ろに下がったダスティンを見て、インプが意外そうな顔をする。
「ボクはその方がいいけど、キミ、大丈夫?震えてるよ?カワイイね、ボク興奮してきちゃった」
インプは幼い顔立ちに似合わない、淫猥な笑みを浮かべて無造作に近寄り、僕の肩に触れてくる。
完全に侮られている。
でも、僕には好都合だ。淫魔の体に慣れるための、余裕ができる。
まずは、彼女の体に、常に触っていられるようにならないといけない。僕は、肩に置かれていた、インプの小さな手をとった。
「なぁに?お手手つなぎたいの?いいよ、ホラ」
すぐに指が絡んできて、しっかりと繋ぎ合わされる。それなりに力を込めても、彼女の感触が消えたりはしない。
大丈夫、いけそうだ。
「次は何したい?…んんっ」
僕は空いていた右手を彼女の頬に添えて、舌舐めずりしていた口に、唇を重ねた。
インプのひんやりした舌が唇に触れた。僕はそれを逃がさぬよう、唇で甘噛みしつつ、舌先同士を擦り合せた。
「んっ、んふふっ」
「くぁっ、…やめっ」
さい先よく見えた展開は、インプの一挙動でひっくり返されてしまった。
彼女が自由だった左手を、僕のシャツの中に入れ、乳首をカリカリと引っ掻いてきたのだ。
僕は慌てて彼女の手を引き剥がそうとしたが、掴みかかった右手に感触が伝わってこない。
しまった、どうやら力が強すぎたようだ。冷静にならないと。
「クスクスッ、敏感だね。キミ、男の子なのに、もう大きくなってきてる。なんにもできないのもカワイイけど、少しはガンバってね」
インプの言うとおり、僕の乳首は一撫でされただけで、反応を見せていた。
粟粒のような先端を、尖った爪でいじめられると、言いようのない痺れが、心地よく広がっていく。
思わず力んでしまいそうになるのを、必死に堪え、彼女の手首を掴み、シャツの中から追い出す。今度は成功だ。単純な腕力はほとんどないようだ。
お返しに、今度は僕がインプの胸に手を伸ばす。
最初に受けた印象通り、細い割に確かな手ごたえが返ってくる。揉んでいて気分がいい。
「あんっ、エッチ…。結構ダイタンなんだね。じゃあ、ボクも…」
インプは僕と違って、胸を弄られたくらいでは、攻撃を止めなかった。
頬を赤らめながらも、おっぱいを僕の愛撫に晒したまま、左手だけで器用に僕のベルトを外し始める。
いけない、2つ目のミスだ。初めての真剣勝負に舞いあがって、昨日ダスティン達に教わった、ポジショニングのことをすっかり忘れていた。
こうして背の低いインプと、立ったまま向かい合って密着してしまうと、僕の手は、彼女の最大の弱点に届かないのだ。つまり彼女は、その他の部分への、淡い性感にだけ耐えればいいのだ。逆に彼女は、上半身はもちろん、僕のペニスも自然な位置で責めることができる。
僕は自動的に不利なポジションに陥っていたのだ。いや、もしかすると、インプに上手く誘導されていたのかもしれない。
「フンフ〜ン、フフ〜ン♪」
優位を自覚したインプは、鼻歌混じりに楽しそうだ。
早くポジションを改めないと、ベルトがもうはずれそうだ。
基本にのっとるならバックポジションを目指すべきだが、左手と右手でしっかり手を繋いだままでは、動きが制限され難しい。
自分の迂闊さを呪いたくなるが、後悔は後だ。今は早く別のポジションに移らないと。
「エイッ、はずれた!」
僕が逡巡している間に、ベルトは引き抜かれてしまった。
もう躊躇っている暇はない。
僕は一瞬の閃きに身を任せ、胸を揉むのを止め、彼女を抱えて、後ろに引きこんだ。
「キャッ、なに、今度は抱っこ?ボクがこんな体形だからって、…キミ、危ないシュミの人?」
立っていると不利なのなら、とにかく腰を下ろしてしまおうと考えた結果、胡坐をかいた膝の上にインプを乗せて、横抱きにする形が出来上がった。
彼女の言葉は、小さい子をあやす光景を連想したものだろう。実際、僕も少しイケナイ気持ちになってしまう。
……硬くなってしまった。
「あーっ、ほんとに硬くしてる、…ねぇ、もしかして、こういうのスキ?」
インプはそう言って、胡坐のくぼみにはまったお尻を、そのままグリグリと押し付けてきた。彼女の軽い体重が、僕の未熟な肉茎にはちょうどいい。
だがズボンの上からなら、耐えられない刺激ではない。
僕は、さっきインプがしたように、防御を捨てて攻撃に転じた。
インプの首筋に顔をうずめて、チロチロと舐め上げ、彼女を抱きよせる手で、脇や腰骨を擽った。
「ひゃっ、くすぐったーい。いいよ、我慢くらべだね」
反対にインプの方は、お尻でペニスを苛めながら、空いている左手で僕の背中や脇腹に指を這わせてくる。
お互いに片手は繋ぎあったままだ。
責め手を欠いた者同士の、もどかしい攻防が続く。
勝負のカギは、繋ぎあったままの左手にあった。もし、このグリップを切ることができれば、僕の責め手は一気に拡大する。胸も股間も太腿も触り放題だからだ。
だが、グリップを切れなければ……。
「んんっ、なかなか、ガンバるじゃない。でも、そろそろ気持よくなってきたんじゃない?」
インプの言うとおり、ズボンの下では、先走りの汁が滲み始めていた。彼女の責めが、僕も知らなかった琴線に触れてしまったようだ。
小柄な少女の抱き心地が、こんなに心地よいものだとは…。
だが、がっちり組み合わされた指は、ちょっとやそっとでは離れない。なんとかこの状況を打開しなければ、じり貧のままだ。
いっそ押し倒してしまおうか。
いや、それだと今はインプ自身のお尻が邪魔で、手コキを避けていられる肉棒が無防備になってしまう。すでにうれし涙を流し始めている彼が、淫魔の猛威に耐えられるはずがない。
やはりこのままグリップを外すことに専念した方がよさそうだ。
堂々めぐりの思考の中、下着の中の不快指数だけが上がっていく。
亀頭部分を押しつぶされ、思わずインプの手を握りしめてしまう。
その瞬間、僕は微かな違和感を感じた。
何故、まだ手を繋いだままなんだ?
最初に僕の誘いに乗る形で、握り合わされたわけだが、インプにしてみれば手を離すべき瞬間も機会もあったはずだ。例えば、お互いに立っていた時、攻撃対象が多い分、両手を使えるメリットは彼女の方が高かったはずだ。今の体勢でも、彼女の敏捷性ならば、グリップを切った瞬間、僕が反撃する前に、間合いを取ることもできるはずだ。
今は後ろに控えているものの、ダスティンの存在がある以上、これは2対1の戦いだ。彼女にとって持久戦は望ましくないはずなのに、彼女は現状を受け入れている。
「ねえ、君の手、すべすべしてて気持ちいいね」
僕は、ある可能性にかけて、握り合った手を親指で擽りながら語りかけた。
「えっ…、きゅ、急にナニ言い出すの?」
「髪もサラサラで…、ああそうだ、君にも名前があるのかな?」
洞窟内の冷気を孕んだ髪に、指を梳きいれながら、耳元で囁き続ける。
「えと、ミナだけど……」
「可愛い名前だね。僕はアルフレッドっていうんだ」
「キ、キミ、どうしちゃったの?」
「キミ、じゃなくて、アルフレッドって呼んで欲しいな」
「あぅ…ア、アルフレッド、気持ち良すぎて、変なスイッチ入っちゃった?」
憎まれ口を叩きながらも、耳孔に吹きかけられた息に、ミナが細い肩をすくませる。僕の背中にまわされていた手は、シャツを握りしめたまま、動きを止めていた。
どうやら勘が当たったようだ。ミナはムードに弱い性質らしい。繋いだままの手は、その象徴だ。離さないのではなく、離したくなかったのだ。
僕は、図書室にあった名著、『あなたにもできる 女性の口説き方読本』の内容を思い出しながら、嵩にかかって責め立てる。
とにかく褒め、名前を口にする。
なれない行為に顔から火のでる思いだが、名前を呼ぶ度、ピクッっと震えるミナの可愛い反応を見ていると、自然と言葉が湧いてきた。
「ミナの目を見てると、吸い込まれそうだよ。ねえ、ミナ、キスしてもいいかな」
「えっ、い、いいけど…んっ……」
触れるか触れないかのキスに、あえて許可を取る。
「今度はミナがしてくれるかな?」
「う、うん…」
お返しのキスも、淫魔らしからぬ優しいものだった。
ミナは完全に雰囲気に飲まれているようだ。
そろそろ決めにかかるべきかもしれない。
「ミナが可愛らしすぎて、こんなになっちゃった。わかるでしょ」
僕はいきり立った股間の固まりを、彼女の柔らかいお尻に押し付けた。甘い雰囲気が壊れる危険をはらんだ行為だが、どのみち僕の力量では、あまり長引かせても、空気が白けてしまうだろう。ならば、ミナが混乱しているうちに、行動を起こすべきだ。
「あっ……、スゴイね…アルフレッド」
成功だ。まだミナはこの雰囲気に浸っていたいようだ。
「ねえ、ミナのアソコはどうなってる?見てもいい?」
僕は繋いだままの左手を使って、彼女のキャミソールの裾をゆっくり捲っていく。彼女の右手は、素直にその動きについてくる。
ミナは、キャミソールの下には何も着けていなかった。清楚な趣の、小ぶりな女陰が目に飛び込んでくる。白さが目に眩しい無毛の恥丘の麓では、莢から飛び出た、真っ赤な秘豆が存在を主張していた。
「ミナも僕と一緒で大きくなっちゃったんだね。触ってもいいかい?」
「えっ……」
ここで初めてミナが軽い拒絶を示す。でも、それは触るなと言っているわけではない。
僕は全部分かっている、と示すように彼女に微笑みかけ、大きく回りこませた右手で、彼女の右手の甲を包み込んだ。手の温もりに安心した彼女は、握っていた僕の手を自由にしてくれた。
僕は、ミナを驚かせないよう、まずは小さな膝小僧に手を置いた。掌全体を使って、僕の手を彼女の肌に馴染ませるように、じっくりと撫で擦る。焦らず慎重に、内腿ではなく、腿の外側を優しくだ。
ミナは僕の体が作る揺り籠の中で、座り心地の良いところを探る様に、時折体を揺すっている。
「……ぅん……、アルフレッドぉ……」
絶好の場所を見つけたミナが、僕の胸に背中を預けてもたれかかってきた。後ろからミナを抱え込む、いわゆる背面座位の形だ。
僕は彼女の肌の上を滑らせながら、左手を腿の間に差し入れる。
「んんっ……、ぅくうぅ……」
僕の指が、ミナの赤い宝珠を捉えた瞬間、彼女の体がクーッと丸まっていった。
「んぅふぅ…あっ、…いい…んんっぅ」
腕の中で膝を抱えて、仔猫のように丸くなったミナを、僕は抱きかかえるようにして支えつつ、容赦なく責め続ける。彼女の背中に密着させた体の前面に、やけどしそうなほど火照った体温が伝わってくる。
指先に摘まんで揉みほぐしている淫珠が、揉むほどに凝り固まっていく。彼女がいやいやをして首を振ると、鼻先を擽る細い髪の毛から、蜜柑を思わせる、ミナの甘酸っぱい体臭が立ち上った。
陰核に振動を与えていた中指を、秘裂に沿って滑らせ、入口をぬかるませて待っていた、温かい膣洞に這いこませる。
「ああっ、ふうぅんぅ、ああぁん」
ミナの甲高い嬌声と、クチクチと鳴る水音が、洞窟に響いた。
右手に伝わる彼女の手の震えと、ミナの体温に包まれた中指に降りかかる愛液の量が、彼女の嬌態が嘘ではないことを伝えている。
勝負は決していた。
このまま責め続ければ、ミナは為すすべもなく絶頂し、消えていくだろう。だけど……。
「アルフレッ…ド?」
ある決心をした僕は、ミナから手を離し、床に横たわらせた。仰向けになって、こちらを見ている彼女の口から、不思議そうな声が漏れる。僕はミナの顔を見つめながら、ズボンを下ろした。
ミナが、僕の方へ手を伸ばしてくる。後ろで、今まで黙っていたダスティンが、短く警戒を促した。彼女の手が、僕のペニスを狙っていると思ったのだろう。だが、その手は僕の股間へは向かわず、真っ直ぐ掌に向かってきた。再び二人の手が繋ぎ合わされる。
僕は手を繋いだまま、ミナの左足をくぐる様にして、彼女の股の間に体を入れた。僕のしたいことを察して、ミナは右足も僕の肩に乗せてくる。ミナの花園の門が、僕の屹立した肉杭の前に、ピッタリと合わせられる。僕は、空いていたもう片方の手も、しっかりと繋ぎ合せて、腰を前に押し出した。
クチッ
湿った感触とともに、性器の粘膜が接吻をかわす。その瞬間、ミナの抱えている空虚な熱情のイメージが、僕の脳裏に浮かんだ。
僕はこの無邪気な淫魔に、悲しい業を抱いたまま消えて欲しくなかった。後ろから指で嬲られて消えていくのは、彼女には酷だ。せめて消える瞬間は、向かい合って愛し合い、心の虚を満たしていてあげたかった。
だが、挿入に及べば、勝てる保証はない。勝負の行方を不透明にする僕の行為は、騎士としては失格だ。僕も自分や誰かの命がかかっていれば、こんな愚行は犯さなかっただろう。だけど、今は後ろにダスティンがいる。僕には、自分を貫く贅沢が許されているのだ。
「はああぁん、アルフレッドォ…」
僕の分身が、ミナの狭い洞穴を、行き止まりまで一気に這い進んだ。
「うっ、くぅ」
彼女のきつさが、僕を容赦なく責め立てる。僕の肉茎を、一分の隙なく包み込んだ襞壁は、身じろぎしただけでも、弱い粘膜を舐め上げてきた。
射精衝動が一気に高まる。ピストン運動はできそうにない。
僕は、腰を振るのではなく、円を描くようにして動かした。
「ああっ、アルフレッド、いいよ、いいっ。ボクっ、ボクぅっ」
嬌声を上げるミナ同様、先端を常に擦りつけている僕も限界が近い。
しかし、指で昂らされていた分、ミナの終わりはすぐに訪れた。
「ダメッ、イく、ボク、イっちゃう!んんっ…、ああっ、消える、消えちゃうよぉ…」
肉棒を食い締める圧迫感が、徐々に薄れていく。握った手に存在感が無い。
「……あっ………」
少女は薄い吐息を残して消えていった。
僕はミナの虚を埋められたのだろうか。埋められたはずだ、そう思いたかった。
「若……」
ダスティンが、感傷に浸って跪いている僕の肩を、軽く叩いた。
「ダスティン……」
そうだ、僕はこれから騎士として、何体もの淫魔を倒していかなければならないんだ。
騎士になる者が、こんなところで膝をついていちゃいけない。
僕は立ち上がった。
「ごめんよ、教えてもらったこと、無視しちゃって…」
「いいんですよ、若。分かっていれば。今は、俺がついてますから」
「うん、ありがとう、ダスティン」
明るさを取り繕った僕の言葉に、彼は怒るでもなく、静かに応じてくれた。
ダスティンは、僕の心情が分かっているようだった。
当然だ、彼は騎士団で隊長を務めているのだから。
人間とほとんど外見の変わらない少女が、自分の腕の中で消えていくこの痛みを彼は何度も味わったのだ。それでもなお、彼は耐えてきたのだ。僕たちの平穏のために。
「若……」
大丈夫だよ、ダスティン。僕は前に進むって決めたんだ。
「その…なんて言ったらいいか……」
ダスティンは、なおも僕を気遣いながら、声をかけてくれる。なんて優しい男なんだ、君は。
「ダスティン、あのインプ……ミナは、きっと笑ってイってくれたんだよね?」
「ええ、そうですね……、若……」
まだ何か言いたげだ…。心配させないようにしないと。
「もう大丈夫、さあ、先へ進もう!」
「若……、そうですね、もう俺は何も言いません」
ダスティンがようやく先導に立つ。
僕は、彼に遅れないよう、一歩を踏み出し……気付いた。
ダスティンが言いたそうにしていたのはこれか……。
……ダスティン、君ってやつは……。
……僕はズボンを上げた。
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