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第2章 思い通りに逝けないのが性欲なんて

ある歓楽街の奥に聳え立つ洋館。そこは「時代の勝ち組」と呼ばれる男たちにとって理想郷であった。
青臭いグラビアアイドルなど比較にならない位の妖艶な美女達が自分達に奉仕する姿に
政府の高官や企業の社長達はあっという間に魅了された。
金さえ払えばスキャンダルにならない事もあり、毎日通う輩もいる程である。
だが、表向き超高級ソープであるそこはまさしく現代の淫魔の巣であった。
「妖楼館」
自分達が快楽の虜にした要人達を操り、徐々に人間界に侵食している淫魔たちの拠点のひとつである。
権力を持つ者に色香で取り入るのは古来からの常套手段───
だがそれ故に効果は絶大であった。
それに手懐けられ、骨抜きになった要人をを操り、この娼館は全世界にあらゆる方面に太いパイプを今も拡げ続けている。
                          ある報告書より意訳

Q.そんな洋館の前にあやしげな服装をした青年がいたら雇われてるそのスジの人はどうしますか?

A.追い返そうとして返り討ちにあって、ぼてくりまわされます。


あっさりと妖楼館に潜入した省吾はおぞましいまでの妖気に眩暈を覚えた。
間違いなく数十匹単位の淫魔がそこには存在し、なおかつ、異端である自分の存在を感知している。
実を言えば、省吾は淫魔ハンターではない。
純粋な戦闘によって、悪魔や怪物を倒すのがいままでの仕事だった。
魔を払う職には代わりが無いが、性交によって相手を倒す事自体、房中術を扱えても、性的な技術や経験はそれほど多くなかった省吾にとっては
今になっても、正直実感が湧かなかった。
以前ならば───数分もしないうちに暇つぶし程度に駆けつけた数匹の淫魔に吸われて死ぬのがオチだろう。
だが───
省吾が印を切り、短い詠唱を唱えた直後、暗い静寂を保っていたその空間が爆ぜた。
『元』淫魔エル・グラノシスは圧倒的なまでの力を撒き散らしながらそこに召喚された。
きわどい水着のようなコスチュームがぴっちりと体に食い込み、その熟れた肢体のラインを浮き立たせ、
しゃぶり付きたくなるすらっとした足にはテラテラと黒光りするストッキングが吸い付くように纏われている。
その身は従者に堕ちても尚、おぞましい美しさに輝いていた。
「エル。悪いが初仕事からアンタのお仲間を蹂躙してもらうぞ。」
省吾はその膨大な貯蔵庫から力を引き出し、慌てて駆けつけてきたた淫魔を魔力の突風で吹き飛ばす。
駄目押しにマシンガンのように気弾を打ち込むと、淫魔はあっという間に消滅した。
快楽以外の攻撃に高い耐性を持つ淫魔であっても、魔王レベルの魔力の塊にはひとたまりも無い。
省吾が昂揚感そのままに奥に踏み込もうとすると、背後から溜め息が漏れたような気がした。
振り返るとエルが呆れかえった表情でこちらを見ている。
「・・・何だ?」


おそらく相手をイかせたほうが効率がいいとでも思っているのだろう。
「生憎、俺は淫魔ハンターじゃないんだ。いちいち相手の得意分野につきあってられるか。」
「ああ、そう。」
エルは考え込む仕草のまま動かない。その間にも十数匹の淫魔たちがこちらに近づいてくるのがわかる。
(流石に全員相手にするわけにも行かないか・・・)
小さく舌打ちをしてエルの手を掴み、とりあえず奥に向かって走る。
エルはその間ずっと考え込んだままだ。
近くの階段を上ると、騒ぎに気がついた客やそのボディガードらしい人間がたむろしている。
(まずいな・・・)
政府の要人を怪我をさせるわけにもいかない。少なくとも引き受けた依頼書にはその条件がきっちりと書いてあった筈である。
その間を縫って確実に淫魔達はここに集まりつつあった。
ここで攻撃を仕掛けるわけにもいかない。
「全く、もう見てられないわよ」
エルは溜め息をつきながら、省吾の前に立って魔力を体に纏わせた。
「・・・何のつもりだ?」
「いいから黙ってみてなさい。」
その声色に省吾の体はぞくり、と体が震えた。
あまりにも圧倒的な光景だった。
途中出てくる淫魔はエルの一睨みで絶頂に達して消えうせ
中年の脂ぎった要人達はいわずもがな、要人のボディガードであろう強面の男たちも視線が合っただけで
手で股間を抑えた後、体を痙攣させて恍惚とした表情で崩れ落ちた。


数分もしないうち淫魔の反応は激減し、残った者も逃げ出そうとしているのがわかる。
ある種、最も酷い淫魔の大量虐殺の後、あっという間に一番奥の部屋に辿り着いた。
「このまま、親玉も犯っちゃっていいわね?」
「・・・勝手にしろ。」
あれからずっとエルの後ろにくっついていた省吾の声には精彩がない。
エルの圧倒的な力に今更ながらに恐ろしくなっていた。
主人に危害を加えられないという制限はもちろんエルに植え込んであるが
自分は本当にエルをコントロールできるのか?
こんなやつが本当に俺に負けたのか?
そもそも何でこいつこんなに犯る気満々なんだ?
そんなネガティブな思考に埋まりながらも、エルの後に続く。
娼館の女主人は相手が誰であるかを知ってひれ伏し、俺に負けた事を知って態度を翻して、エルに襲い掛かった。
・・・それも数分も立たないうちにエルのテクニックに哀願の表情に変わり、恐怖の表情を浮かべたままこの世から消え去ったが・・・
主を失った館は見る見るうちに暗い気配が消え去っていく。
淫気が失せ、館に静寂を取り戻した直後、エルが崩れ落ちるように片膝をついた。
省吾は今までの光景との落差に呆然としながらも、恐る恐るエルに近づく。
「私も人の事言えた義理じゃないかもね・・・ちょっと調子に乗りすぎたかしら?」
苦しげな声でエルが呟く。


状況がつかめない省吾が問いただそうとエルの肩に手を置いた瞬間、視界が反転し、一瞬で組み伏せられる。
「体が昂ぶったまま、ね・・・収まらないの。」
エルが耳元でねっとりと囁く声に、省吾は自らの末路を悟った。
「・・・死なないでね。」
省吾の衣服が一瞬で剥ぎ取られ、押し付けられたエルの肢体に、ソレは敏感に反応し、
本人の意思を無視して硬くなり始めた。
「はやく・・・はやくぅ・・・」
焦れたエルは、アソコを押し当てて擦り上げた。
サラサラとしたストッキングの感覚に省吾は引きつるような悲鳴を上げる。
もはや完全に勃起したソレをエルは満足そうに撫でて、自らの秘唇に導いた。
ストッキングを脱ぐのが煩わしいとばかりにエルは亀頭をグリグリと強く押し当てる。
省吾は薄布一枚越しに感じる柔肉の暖かさとその先にある破滅的な快楽への期待と恐怖に身悶えする事しか出来なかった。
ぷじゅり───
限界まで引き伸ばされたストッキングが破れ、省吾のソレがエルの淫裂に飲み込まれた瞬間、
二人とも声にならない悲鳴をあげながら腰を反らせて絶頂に達した。
「・・・うふふふふふふふ───まだまだ・・・出来るでしょう、省吾・・・」
グチュリ、グチュリ───
数秒後、余韻を引きずりながらエルは体をひくつかせる省吾に囁き、腰をくねらせる。


精液と愛液のカクテルは更に彼女の体を燃え上がらせ、満たされた蜜壷が肉棒に絡みつき精を搾り取ろうとする。
快楽を貪るそれは、淫魔以外の何者でも無かった。
ぼやける視界のまま省吾は、肉棒に気の蛇を纏わせ、エルの膣に撃ち放った。
「ひぅ!!・・・もっとよ、もっと頂戴ぃ!!」
肉壁を食い破らんがごとく暴れ廻るかと思われた蛇はあっさりと消滅した。
快楽に油を注いだだけの結果に省吾は自分の失策を悟った。
肉体の属性が陽に変わったエルにとって省吾の攻撃は精を注がれたに過ぎないのだ。
その後もエルは飽く事なく省吾の精を貪り続けた。
いくら気をエルから充填し、精を作り出しても、そのたびに絶頂に引き上げられ、省吾は終わりの無い快楽地獄を味わう羽目になった。
それだけではない。許容量を超えた快楽にやがて体が悲鳴をあげ始めた。
省吾は必死になって気を操作して心臓の振動を整え、脳内麻薬を抑制し続ける。
その度に、ショック死しかねない快楽を味わい続けた。
結局、エルが満足したのは丸一日たってからだった。
ようやく正気に戻ったエルは慌てて意識の無い省吾の脈を確かめ、
ほっと安堵の溜め息をついた後、省吾を肩に担いで姿を消した。

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