細く続く白い道。左右を見れば一面の緑。それらが流れるように後ろへと消えてゆく。
ここは、王都から東に向かう街道。商人や旅人が行き来する内に、いつしか道となっていた土面。その道を、砂埃を上げて褐色の馬が走っていた。
濃紺のチュニックに、黒のズボン。その上から、シンプルで装飾一つ無い動きを妨げぬ程度のメイル。そして腰に一振りの剣を提げたシスが、馬の手綱を握っていた。
その後ろには彼に抱きつくようにして、馬に揺られている銀髪の女性。簡素な白のローブにサークレットだけという服装が、彼女の美しさを引き立てていた。
王国から逃げ落ちる兵士と姫君。
そんなタイトルの絵画にでもなりそうな登場人物の片割れを担うその美女こそ、淫魔ハイネスである。
「ふぅん。馬って初めて乗ったけれど、思ったより気持ちが良いものね。
……それとも、シスの腕がいいのかしら?」
言いながら、ハイネスは厚い胸板に回した両手を、ぎゅっと締める。背中に受けていた柔らかな感触と静かな鼓動が強まり、
「は、はは、ハイネス。お前、な、何でわざわざ、俺の後ろに乗ってる、んだ?」
明らかに動揺した声でシスがそう問いかけた。問われた彼女は、呆れ顔で小さく溜息。
「貴方ね。いくら私が美人だからって、そろそろ慣れたらどう? こんな美味しいシチュエーション、もう二度と味わえないかもしれないわよ?」
質問の意図を明らかに外した回答。溜息をつくのは、今度はシスの番であった。
「それもそうだ……って、俺が言いたいのはそういう事じゃない。今までだって、消えたりいきなり出てきたりしてただろ。なんでお前まで、俺の後ろに乗る必要がある?」
淫魔であるハイネスが自分についてきていることは、もはやシスにとって容赦せざるをえない事であった。命の恩人であるし、引き離そうにも『マーキング』されている。たとえここで馬から投げ落としたとしても、即座に転移魔法でついてくるだろう。
だから、その点に関しては言及していない。いや、実は既に何度かしたのだが、その度にはぐらかされて、ついに諦めたのである。
しかし、彼女まで馬に乗る必要性は無いのだ。それこそ、後から魔法を使えば済む。いや、むしろそうしてくれた方が、シスにとっては精神的に非常に有難い。
だが、
「ふふ、いいじゃない。別に、邪魔をしている訳じゃないんだしね。それに――」
シスの視界の外で小悪魔的な笑みを浮かべて答えながら、彼の耳元に顔を近づける。
「こうやってからかうのが、楽しいしね?」
言いながら、ハイネスは静かに息を吹きかけた。唐突に訪れた官能的な吐息に、一瞬だけ手綱のコントロールが揺らぐ。だが見事な馬との呼吸あわせで、即座に立て直した。
「そ、そそそ、そういう事をするから嫌なんだぁーっ!」
そして、叫んだ。耳まで真っ赤にしながら、シスは心の限りに。
草原に、泣き出しそうな怒声と笑い声が響き渡っていた。
手紙の一件から二日後。シスに与えられた任務とは、こういったものであった。
『騎士団の追走を行い、消息を辿る。
彼らを発見できた場合、帰還命令を出し、即座に王都へと引き返すこと。
また、騎士団が行方不明と判断できた場合は、単独での帰還を許可する』
――要するに、消息を絶った伝令の後釜が、シスに任せられたのである。
それならば、二日も間を置かず、すぐに出るべき。そう考えたが、王宮の面々から渡された支度品を見て、無駄な時間が置かれた理由を理解していた。
魔法隊の力で強化された鎧。シスの剣の腕前も合わされば、魔物の群れ程度であれば対処が可能な特殊防護が刻まれている。下手な全身鎧よりも強固だろう。
そして、メイド達の手によって編まれた上下の着衣。中には銀糸が織り込まれ、彼自身の魔力を補助すると同時に、耐久性の向上も果たしていた。
――仮に淫魔には役立たずとも、それ以外にも障害はある。
騎士としての装備をしたまま動き回る訳にもいかない。そこまで目立てば、確実に淫魔に目をつけられるだろう。……いや、既に一部から、目をつけられてはいるが。
その為に、急遽用意された旅人風の装備の数々。確かに今のシスならば、旅の剣士と名乗ればそれで通すことができるだろう。騎士団を追う理由に関しても、淫魔討伐に義勇兵として参加をしたい、などと説明しておけば無用な疑いを受ける事も減る。
王達の心遣いに感謝をしつつ、シスは出発をした。そして王都を離れてすぐに、何やら旅のシスターのような格好をしたハイネスが馬に乗り込み、先ほどの叫び声に至る。
「――なぁ、ハイネス。淫魔って一体、何なんだ?」
それからしばらく馬を走らせ、不意にそうシスが言葉を発した。眉を顰めるハイネス。掴みどころのない彼女にしては珍しい表情をしたが、彼には見えていない。
「それは、どういう意味かしら?」
だが、それも一瞬の事。すぐに普段の余裕たっぷりな表情に戻り、胸を押し付けるようにしながらそう問い返す。
「分からない事ばっかりで聞きたい事は色々あるけど、特に気になるのはこの間の事。ええと、あの女の子……アニーから、どうして淫魔が出てきたんだ?」
シスにとって、それがもっとも不可解なことであった。その理由が、どうしても説明づかないからだ。
肉体で遥かに人間を凌駕する淫魔が、わざわざ普通の少女に憑依する。それが、淫魔の種族としての余裕からくる『手加減』ならそれでもいい。けれども、それならば宿主が達した程度で、淫魔が炙り出されるような失態をする事は無いだろう。
その理不尽からくる疑問に、ハイネスは普段の調子で答えた。
「淫魔が増える為に、そうする必要があるからよ。そうね……『種』と私達は呼んでいる魔力の結晶体を、人間に埋め込むの。それが人間の精気を吸って成長して『発芽』する。
あの可愛い子をイかせた時に出てきた淫魔の容姿。未熟だったのは覚えている?」
シスが思い返すと、魅力はともかくとして、人間の容姿で例えれば確かに未熟だったと同意する。それを受けて、ハイネスは更に言葉を続けた。
「あれが『発芽』した程度の淫魔。ま、見習いって所かしら? だから、淫らな部分が強くなっていても、まだ女の子の意志も強かった。逆に言えばたいした魔力が無いから、1回の絶頂で力が更に減って、彼女の体を追い出されちゃったのよ」
そこまで言われて、シスはなるほど、と納得したようで頷く。
「だから、大した淫魔じゃない、とか言ってたのか」
「その通り。ただ彼女の状態みたいな『発芽した種』を放置すると、じきに宿主は人間から淫魔に近づいてゆくの。そうなれば、魔法も使えるようになって、魅力もどんどん上がるのよ。
――あの子も、貴方が助けなければ、立派な淫魔になっていたかもね? ふふっ」
何が面白いのか、ハイネスは笑う。最終的にトドメを刺し、そこまでの道筋を手助けしたのは淫魔である彼女だ。その行動の意図は、どこにあるのだろう。
新たな疑問が浮かぶシスだったが、それを彼女に聞いたとしてもはぐらかされるだけだと感じていた。『敵か味方か』の問いかけから、そういう性格なのだと決めつけている。
また、お互いの立場だけで考えれば敵同士なのだ。彼女が真剣に答える義務はない。
だが出来るならば、彼女は味方であって欲しい。そうシスは願っていた。
惜しみなく押し付けてくる魅力的過ぎる肉体。最初の出会いでの愛撫。剣も魔法も通用する気がしない。何をとっても勝てる気がせず、そして、この妙な間柄も少しずつ気に入っていたからである。
「あらー? そんな風に想ってくれているなんて、感激ねぇ。ま、確かに私が敵でも味方でも、戦ったら結果は火を見るより明らかよね。お利口さんは嫌いじゃないわよ」
――後は、この心を読む所さえなければ、上手く付き合っていけると思うんだけども。
その内心の呟きに、再びハイネスはくすくすと笑っていた。
二人が向かった先は、王都から東に向かって最初にある街道沿いの街サルサミル。
王都に近い事と、街道がある事。また、東に向かえば向かうほど魔物の数が増える。それらを狩る者や、貴重な素材を売買する者。彼らが魔物から身を守る為に自然と集まり発展した、王都を除けばこの国でもかなり賑わっている部類の街である。
近衛騎士団は、単騎で動く事のできる早馬とは違う。行軍速度、野営、そして魔物との交戦を考えていけば、マメな補給は欠かす事ができない。
また、消息を絶った伝令の速度と行軍の速度を考えれば、彼らはこの街の周辺で接触をしたはず。伝令の行方や、騎士団の安否。そういった情報を集める為、シスはこの街に寄る事にしたのである。
『私はちょっと別行動。寂しいでしょうけど、また出発したら会いましょ』
ハイネスはこの街に着くや否や、投げキッスと共に人々の中に溶け込んでいった。残されたシスは馬を置く事のできる宿を見つけ出した後、情報を集める為に動き始める。
あくまで、騎士団に参加希望をする義勇兵として。時には、騎士団に獲物を奪われる事を嫌う狩人として。幾つかの顔を使い分けて、酒場、狩猟品交易所、情報屋――。
なかなかの立ち回りで情報をかき集めてゆくシス。彼のその努力の甲斐あってか、騎士団の足取りを掴むことには成功をしていた。道中で遭遇したのであろう魔物を換金して、市場で物資の補給を行っていたらしい。
とりあえず騎士団がまだ無事な可能性が出てきた事で、シスは一安心をしていた。だがそれならば、時系列的にここで出会っているはずの伝令は、どこへ消えたのだろう?
「――あれは!」
そちらに関しては全く情報が手に入らず、途方にくれていた彼の目に飛び込んできたのは立派な馬であった。大きな馬屋に収められ、落ち着いた様子でくつろいでいる。
気になって近づき、鞍の内側を探る、そこには、騎士団への命令書が入っていた。
紛れも無い伝令の馬。それを見つけた事で本来ならば喜ぶべきなのだが、
「……ここって、娼婦宿……だよなぁ」
場所が問題であった。大きな街となれば、娼婦宿の一つや二つ、珍しい話ではない。だが、馬屋つきの物は総じて高級な部類に入る。伝令に『気の迷い』があったとしても、そうそう入れるようなものではない。ここまで大きな馬屋があれば、なおさらだ。
……もっとも、高級な品でもあれば別だが。例えば、質の良い馬なんて最高である。売って良し、乗って良し。こんな街ならば、買い手にも事欠かない。
本当に『気の迷い』で職務を放棄したのであれば、もはや笑う事はできない。だが、そんな事をするような者に、重要な伝令を任せる事などあるだろうか。
「――あらぁ、旅の剣士さん。その馬がどうかしたかしら?」
様々なことを考えていたシスは、不意にそう、気だるそうな声で呼びかけられた。
やや垂れ気味の灰色の瞳が色っぽい女性。際どいスリットで強調された胸元や、独特なけだるそうな雰囲気。場所も考慮して、即座に彼女が娼婦であるとシスは察していた。それも、間違いなくかなり高級な。
振り返った時に思わずどきっとしたが、それを表に出さず笑って答える。
「あ、はい。いい馬ですね。こんな馬に乗って旅が出来たら最高だろうなーって思ってたら、いつの間にか触っちゃってました。持ち主もいるのに、不味かったですよね」
咄嗟の事とはいえ、なかなか苦しい言い訳だとシスも感じていた。だが、娼婦はさして気にも留めていないようだった。いや、興味すら無さそうに見える。
「あぁ、別にいいんじゃないかしら。その馬の持ち主、私だもの。お客さんがお金の代わりにくれたんだけど、別に必要ないのよねぇ」
目の前の女性の言葉に、シスは内心で驚く。まさかの『気の迷い』説が大当たりなのかと。だがそれを表に出さず、情報を引き出す為に彼は頭を全力で活動させていた。
「あはは、贅沢な悩みですね。この馬だと、売ればかなりの額になりますよ。それを譲れるなんて、よっぽど身分の高い方なんでしょうね」
シスの言葉で、女性はおかしそうに笑う。ゆっくりと手を振って、
「どうでしょうねぇ。別に身分は高そうになんて見えなかったわよ。着てた服は安物だったし、どこかから盗んできたんじゃないかしら?
あ、私がこんな事を言ってたなんて、人に話しちゃだめよ? まだその人、ウチに泊まってるからねぇ。聞かれて厄介ごとなんて面倒だから」
否定しながら、子供を諭すようにそう告げてきた。全く悪びれた様子の無い彼女に、シスは苦笑いで返す。
「はは、大丈夫ですよ」
そして、こう考えていた。
――伝令を野党が襲って馬を奪った、という仮説は十中八九、成立しない。
良い馬は確かに高価な取引ができるが、管理は大変である。もしも自分が野党であり、伝令から馬を奪ったならば、まず換金に動くだろう。こんな街であれば、盗品だろうとさばける店はあるはず。享楽はその後でいい。
そして、馬の鞍も安くはない。目立たないようにしてはいるが、そこは王宮のもの。質は非常に良い。そんなものを売らないでおくなど、考えられないことだ。
もちろん、トコトン間抜けな野党であれば別だろう。だが、伝令が『何らかの理由』で入り浸っていると考えたほうが、妥当である。
そして――何らかの理由と今いえば、場所も合わせて思い当たる原因は一つしかない。
「それじゃ、俺はこれで。お客でもないのに、話し込んじゃって済みませんね」
シスは笑いながら、そう歩き出す。その横に、女性は並んだ。そして腕を絡ませ、体をぎゅっと押し付けてくる。
「可愛い剣士さんと話せたんだし、別に構わないわよ。それより寄っていったら? 私がサービスしてあげてもいいわよ? 今日はまだ、お客も入ってないしねぇ……」
艶めかしく言いながら、ハイネスに負けず劣らずの巨乳を更に押し付けてくる。その感触と軽い香水の匂いにシスは狼狽しつつ、腕を静かに振り解く。
「あは、は、はは。からかうのは、や、止めてくださいよ。
情けない話ですけど、俺、そういう冗談は苦手なんです」
だが、娼婦はそれを気にも留めていないようで、
「私はアビィ。その気になったらいらっしゃい? 一晩中、可愛がってあげるから――」
逃げようとするシスにそう、妖艶に告げてきた。
その気もなかったのに、思わずシスは振り返ってしまう。
だが、彼女は一束にまとめた金の髪を揺らしながら、宿の中へと消えていった。
騎士団の情報が手に入り、伝令はどう転んでいてもアテにならないと考えていい。そうなれば、もうこの街に留まる必要はなかった。非情な判断かもしれないが、伝令を助ける事は難しいだろう。とりあえずは放置するしかない。
しかし、シスが今日中に街を出る事はできなかった。夕日が暮れ、街は既に堅牢な門を落としてしまっていたのである。仕方なく、食事を済ませて先払いしていた宿に戻る。
「ハイネスは……居ないか」
何度か会話ができないかも念じてみたが、返事は皆無。彼女なりの気遣いか、それとも無視をしているのか。何か危険にあっている……という事は無いだろう。あっても一人でどうにかできそうだ、と考えてからシスは思わず笑ってしまった。
「あとは明日の朝一番に馬を走らせて、もっと東に向かうだけだな。だいたい四日分のロスがあるから――」
ベッドに寝転び、思考を切り替えてシスは予定を組みなおしていた。
四日分のロスは大きいが、東に向かえば向かうほど、そのロスは補える。集団で動く騎士団は魔物と遭遇する事も多いだろう。だが、こちらは気ままな単騎。野宿をするにしても、気軽に動き回れる。
二つ先の街までには、追いつけるかもしれない。追いついたらすぐに戻って――。
コン、コン。
「ん?」
不意のノック。控えめな二つの音に、シスは立ち上がる。古びた木製のドアに近づき、
「何でしょう……か……?」
開いたドアの先に居た人物を見て、何度も瞬きをしてしまっていた。
「紅茶のサービスをお持ちしました……なんてねぇ。入ってもいいかしら?」
居たのは、アビィ。手には木製のトレイに、ティーポット。カップは二つ……いや、そんな持ち物なんてどうでもいいのである。
――なんで彼女が、この宿を知っているのか。
「あー、えっと……うん。えー…………どうぞ」
シスは何か上手い追い返す言い方はないかと考えたが、
『なんだあの小僧。あんな高級娼婦を買えるなら、もっといい宿に泊まれよ畜生』
と言わんばかりに階段の下から覗いて来る宿屋の男主人の表情。それに気圧され、了承してしまっていた。OKが出たアビィは、鼻歌交じりに侵入してくる。
――マズイ、非常に危険な事になってきた。
シスはハイネスに再び呼びかけてみたが、やはり返事は無い。どうでもいい時はからかってくる癖に、こういう時に音信不通だなんて、と内心で毒づく。
「あらら、やっぱり安宿ねぇ。これならウチに来れば良かったのに」
そんな心の葛藤など知らず、アビィはどこ吹く風でベッドに陣取った。そして、持参したポットから琥珀色の紅茶をカップに注ぎ、
「……あら、どうしたの? この紅茶、ウチの所の物だから割と高級品よ?
――それとも、剣士さんは淫魔とお茶を飲むのはお嫌いかしら?」
挑発的な笑みで語りながら、未だドアで立ちすくむシスに差し出してきた。それを見たシスは少し悩んだ風であったが、大きな溜息をついてから、彼女の隣に座り込む。
カップを受け取る。紅茶を嗜むという習慣が無い彼でも、そのお茶の香りは悪くなく感じられた。だが、湯気立つそれに口をつけるのは、流石にためらってしまう。
「別に毒なんて入ってないわよ? 入れる必要も無いと思うし」
それを察したのか、飄々と彼女は告げてくる。本人が言うのだから彼女も淫魔なのだろうが、ハイネスといいアビィといい、淫魔はこういうものなんだろうか。
覚悟を決めて、シスは紅茶を口にした。香りは良かったが、味はよく分からない。少なくとも、喉を潤すのであれば水で十分だとすら感じる。
「……なんでここが分かったんですか?」
げんなりとした表情で、静かにそう問いかけるシス。アビィは何故か、驚いた表情。
「貴方、自分で目印つけて歩いてるようなものよ。分からないの?」
目印、というとハイネスが行った『マーキング』しか思い当たらない。
「じゃあ、アビィさんも俺の心が読めるんですか? 参っちゃうなぁ……」
どんな意図で近づいてきたのかは分からないが、心を読まれるのは非常に厄介である。敵に回られた場合、全て筒抜けなのだから。だが、
「……? そんな事、出来ないけど。表情とか仕草である程度は分かるけどね」
彼女は『意味が分からない』と言った風に、それを一蹴した。シスは首をかしげてしまう。お互いに妙な食い違いが起こり、沈黙が部屋を包む。
「さて、と。別に私はお茶会をしに来た訳じゃないの。分かるでしょ?」
先にカップを空にしたアビィが、静寂に耐えかねてそう切り出した。シスも一気に紅茶を飲み干す。
「貴女が、あの馬の持ち主を……篭絡、したんですか?」
「そうよ。私は厄介事が嫌いなの。それがこの街を巻き込む火種になりえるなら動くわ。あの優男だろうと、可愛い剣士さんだろうと、ね」
「この街を巻き込むだなんて、そんな――」
食って掛かろうとしたシスを、瞳で制止する。先ほどまでの、気さくでどこか気だるそうな雰囲気は無く、彼女が本気なのだと即座に理解させられていた。
「貴方を通せばその結果、騎士団が戻るかもしれない。そして、この街は王都と東方を繋ぐ最終ラインになりうる設備もある。それは私の望む所じゃないのよ。
……それに、淫魔と人間が戦ったところで人間に勝ち目は無いの。無駄な抵抗はやめたほうが幸せよ?」
そう強く語り掛けられ、シスは少しだけ黙り込んでいた。そして、口を開く。
「アビィさんがどこまで見越しているのかは知りません。でも、負けるなら……いや、負けるにしても、最後まで抗ってから俺は敗北したい。
――俺の邪魔をするのが貴女の主義なら、俺は意地でもこの場を切り抜けます」
彼も負けていなかった。不利など承知している。それでも、人間として、騎士として戦う道を選んだ。その強い覚悟は、アビィにも伝わっていた。
「……元々、こうなると思っていたわ。最後に、名前だけ聞いておかないとね。
――貴方が自分の名前を、忘れてしまう前に」
黒のドレスを脱ぎ捨てるアビィ。一糸纏わぬ肢体は、どこに視線をやっても魅力に溢れていた。服を脱ぎながらシスはふと思う。成熟した淫魔は、皆、こうなのだろうかと。
「シスです。でも俺は、自分の名前に誇りを持ってますから。忘れたりしません」
だが、気圧される訳にはいかない。真っ直ぐに彼女を見つめ返し、彼はそう答えた。
「……そういう強い意志は、嫌いじゃないけどねぇ」
やや悲しげな微笑を返し、彼女はベッドに腰を沈める。だが、誘惑をする素振りも見せず、ただ座り込んだまま、シスの出方を伺っていた。
明らかな余裕。シスのシンボルは既に、熱く滾っている。彼女の裸体が魅力的と取るべきか、シスの経験不足によるものか。
どちらにせよ既に勝負は始まっている。最初からこれでは、彼女の余裕も当然だろう。
――大丈夫。アニーの時はやれたんだ。自分が屈する前に彼女をイかせればいい。
己をそう奮い立たせ、シスもアビィを追ってベッドに上がる。一度、ハイネスが『協力』をしてくれたおかげだろう。愛撫すべき場所、手段はおぼろげながら理解している。
「ふぅん。思ったより、落ち着いているのねぇ。でも――油断が過ぎるわよ?」
まず、どう攻めるべきか。その一瞬の躊躇は、熟練した娼婦でもあるアビィに対して、大きいアドバンテージを与えすぎていた。
一瞬の内に、ペニスへ指が絡みつく。そのまま扱き立てる事はなかったが、突然の柔らかな指の感触に体がびくりと反応し、硬直してしまう。
「んっ――」
直後、シスは唇を奪われていた。こじ開ける様に侵入してくる舌を、迎撃する。
娼婦としての技巧に加え、淫魔であるアビィの舌は長かった。ハイネスの技巧を以ってそれをシスは凌ぐ。舌同士が絡み合い、互いの唾液が混じりあう。一瞬でも気を抜けば、即座に舌は絡め取られ、口腔内はアビィによって蹂躙されるだろう。
それだけは避けなくてはならない。紙一重で踏みとどまるシス。しかし、
「――!」
防戦一方で反撃もままならないシスとは違い、アビィには余裕があった。顔を左手で引き寄せながら、右手でペニスをやわやわと握りしめてくる。不意打ちの柔らかな快楽にシスが怯んだ瞬間、アビィの全力がシスを一気に蹂躙する。
まず、舌が絡め取られた。防御手段を失った口腔粘膜は、まだ余裕のある侵入者によって、淫魔の唾液を擦り付けられる。欲情を誘発する体液が次々と流し込まれ、それでもなお止まない淫らな舌舞。
一方的にペースを握られ、呼吸もままならない。ようやく開放されたシスが深く呼吸をしようとした瞬間、
「んんっ!?」
再び、深いキスが襲い掛かった。そして再開される蹂躙。いや、今度はそれだけではない。まるで人工呼吸をするかのように、彼女は甘い吐息を次々に送り込んでくる。
淫魔の体液は、彼女らの魔力を強く帯びている。それ故に、人間が摂取すれば、それは強力な媚薬となりうる。吐息もそれは同じであり、酸欠に苦しむシスには唾液以上に効果的だった。
今度こそ本当に開放された時には、虚ろな瞳でシスは後ろからベッドに倒れこんだ。即座にアビィはペニスに顔を近づけ、髪をかきあげ一息にくわえ込む。
「はぁうっ!」
強烈な刺激で、骨抜きにされていたシスは我に返った。眼下に映るのは、金色の髪を揺らしながら、激しく頭を前後させるアビィの淫靡な瞳。
竿全体は唇と口腔粘膜に熱く包まれ、亀頭部は舌が巻き付き収縮して責め立てる。頭が上下する度に、シスは腰をびくつかせ、突き上げるような動きをとってしまう。
――す、すご――こ、これが……淫魔……!?
人外の快楽に、まだ経験の浅いシスが耐えられるはずもなかった。彼女の余裕を身を以って知ったシスの腰が、ついに堪えきれず一際高く跳ねる。
びゅっ、びゅぅっ!!
射精の快楽に痙攣するシス。アビィは平然とした様子で、喉に打ち付けられる精液を次々と飲み下してゆく。それが、当たり前のように。
「……ふう。凄いのは意気込みだけ、だったのかしらねぇ?」
ようやくペニスを開放し、彼女は見下したような表情で挑発する。湯気が立ちそうなほど赤くなり、様々な体液で淫靡に光るペニス。それを隠すように、シスは体勢を立て直した。荒い息を落ち着けながら、今度は注意深く警戒しつつ思考をめぐらせる。
――絶望的なのは、経験の差。これを打開するには、どうしたらいい?
技巧は、ハイネスの真似事でもある程度ごまかせるようだった。だが、経験の浅いシスには、策略などまだ打ち立てる事はできない。キスならキスに集中してしまい、それ以外を搦め手として攻められると、一方的に瓦解してしまう。
こんな時こそ、淫魔であるハイネスの手助けがほしい。だが、その時に気付く。
――いや、自分で何とか切り抜けないと、意味が無いんだ。
彼女と交信ができていたとしても、手助けをしてくれる保障などない。己の肉体と魂だけが頼りである。気を入れなおし、シスはアビィを真っ直ぐに見つめた。
「ふふ、いい眼――それじゃ、第二ラウンド開始かしら?」
余裕の笑みで、ゆったりと距離を詰めてくるアビィ。シスは今度は先手を取られまいと自分から間合いを詰めて、彼女を力任せに押し倒す。
「あんっ! もう……ちょっと、乱暴よ」
そう言ってはいるが、別に怒っている様子もない。むしろ、押し倒してきた彼が何を仕掛けてくるのか。それを楽しみにしている風であった。
「すいません。でも、俺がアビィさんに勝つには、多分これしかない――!」
そして、足を自分の肩にかけ、まだまだ硬く勃起している男性器を、妖しく光る膣へと正常位で一息に押し込んだ――!
シスからは半ば苦痛混じり、アビィからは嬉しそうな嬌声が同時に上がる。
――う、ううっ。熱くって、絡み付いて、どこまでも続いてるような……。
既に受け入れる体勢が整っていた彼女の膣は、逞しい侵入者を盛大に歓迎していた。媚薬効果のある粘液が絡みつき、襞はペニスを甘噛みするようにに刺激してくる。
シスは自らの判断――つまり、技巧や経験の入る余地をできる限り減らした、体力と我慢のぶつかり合いを少しばかり後悔していた。だが、愛撫勝負では絶対に勝ちはない。
「う、うごきますよっ!」
上ずった声でそう宣言し、シスは腰を激しく突き入れる。最も敏感な部位を、自ら凶悪な快楽器官に擦りつけ、何度も何度も注送する。
一突きする度にシスの脳にフラッシュが走り、抜く度に腰が震え上がった。甘く危険な快感に、自らがどんどん高められてゆくのを感じている。
「ふ、ふふっ。いい判断、よっ……」
だが、シスの受けている快感ほどでは無いものの、それでもアビィも感じていた。肌が赤く火照り始めているのが眼に見える証拠。獣のように息を荒げながら、シスは激しい動きを続け、自殺行為に近いピストンをただひたすらに、無心で続ける。
「う――あ、ああっ!」
だが、やはり無謀だったのだろうか。辛そうに呻くシスの動きが止まる。全身を震わせて、一度目よりも濃い精液を彼はアビィの膣内に放っていた。射精を感じ取った淫魔の膣は、尿道に残った精液も搾り出そうと、波打つように押し上げてくる。
「あらら、イっちゃったの? 可愛いわねぇ――」
その様子を見て、アビィは微笑む。必死でしかけた攻撃が、自爆でしかなかった。
その絶望はいかばかりのものか――と思ったのも束の間、シスが再び動き始める。今度は彼女が虚を突かれる番であった。
――まだ、まだ、まだ、まだ、まだ――まだだぁっ!
シスはもう、何も考えていなかった。ただひたすらに、体力の続く限り、心が折れぬ限り、全身全霊で腰を振りたてる。
一度や二度の射精など、覚悟の上。三度放とうと、四度抜かれようと、五度目に命が尽きようと……自分の意地を貫き通し、そして勝つ!
「あ、んっ! お、思ったより、やるわ、ねぇっ!」
完全に余裕を見せていたのが、アビィにとって仇となっていた。騎士として鍛え抜かれたシスの肉体と力勝負をすれば、勝てるはずもない。押し倒された彼女は、このままシスの自爆攻撃を受け止め、耐え切るという選択肢しか選べなくなっていたのである。
びゅるっ! 熱い精液が、シスの意地が、アビィの敏感な部分に噛み付く。そして再び始まる注送。粘液と粘液、腰と腰がぶつかりあい、激しい水音を立て続ける。
そして――ついに、終わりが訪れた。
「ん、あぁぁ――!」
四度目の射精。それが、アビィにトドメをさしていた。シスの心を表した、沸騰したかのように熱く滾る精液が子宮口を叩き、ついに彼女は全身を快楽の絶頂で振るわせる。
その瞬間、支えを突然に失ったシスは、前のめりに倒れこんでいた。流石に萎えつつあったペニスが、腹部とベッドに挟まれぐにゃりと歪む。
――か、勝った……のか?
荒げた息をそのままに、シスは仰向けになろうと寝返りをうった。そして、
「……ふふっ、やるじゃない。まさか『私』を倒すなんてねぇ?」
あまりの驚きに、眼を見開いていた。
たった今、絶頂を迎え――消えたはずのアビィが、平然とした様子で笑っていた。しかも黒のドレスも、きちんと着込んでいる。
何が起こっているのか、シスには理解できなかった。転移魔法を使った訳でも、幻影魔法をかけられていた訳でもない。だが、目の前に確かに、彼女は立っている。
絶望と混乱。それが表情からありありと見て取れるシスに、アビィは笑いかける。
「知っているかしら? 成熟した淫魔は、特殊な能力を得るの。魔法とも淫術とも違う、特殊な技法。そして、私の能力は名づけるなら『ミラー』かしら?」
鏡、反射、コピー、写し身――そこまで連想して、シスは起き上がろうとした。だが、一度達成感を得てしまった体は、起き上がる気力を残してはいなかった。
「俺がさっきまで戦っていたのは、アビィさんのコピーだったって事なんですね?」
半ば諦めたような口調で、悔しそうにそうシスが話しかける。
「……ホント、狂わせるのは惜しいわ。その状態で、そこまで頭が回るなんてね。ただ、コピーとは言っても、完全に私と同じ能力を持っているの。
――私の持つ全魔力でなんとか生み出してるから、1回でも達すると消えちゃうけどねぇ。でも、嫌いな男を相手にする分には、とっても役に立つのよ?」
悪びれた様子もなく、くすくすと笑う。そして、動けないシスへと近づいてきた。
「さ、あとは気持ち良いだけ――早く屈しちゃいなさい?」
萎えていたペニスが優しく握り締められる。同時に、乳首へと顔を近づけてきた。空いた手で無理やり乳首を露にし、甘噛みとキスでぴりぴりとした刺激を与えてくる。時折、粘体生物のように舌が胸全体を這い回り、巧みに快感を使い分けてくる。
「は、ぐぅ……」
未経験の刺激に、ペニスがゆっくりと膨らみ始める。粘液でぬめる男性器がゆったりと扱かれると、完全に勃起するのにはそう時間がかからなかった。
そして突然の、強烈な吸引。淫らに激しい音を立て、アビィが勃起させた乳首を吸いたててくる。同時にペニスがシェイクされると、すぐに我慢の限界を迎えてしまった。
びゅっ! 明らかに量の減った精液が飛び出し、腹部に落ちる。だが、それでもねっとりとした愛撫は止まらない。
――もう体が、動かない。万事休す……なのか?
おぼろげな思考とけだるい疲労の中、シスは己の敗北を覚悟する。ここで、あの騎士のように色狂いとなり、役目も果たせずに人生を終えるのだろうか。
抗おうにも体力がない。動いたとしても、全力の彼女に勝てるとは思えない。
――ああいや、そういえば、魔力はないから万全じゃ――魔力!?
シスは気取られぬよう、そっと視線を動かす。アビィはもう、精液を搾り取る事だけに没頭しており、彼の様子など伺ってはいなかった。
そして彼は、最後の賭けに出る。ダメで元々。最後まで抗うしかないのだ。
「”我が魔力よ――”」
かすれた声で、しずかにそう呟く。アビィはまだ、気付いていない。
「”我の命に従い――”」
言葉を綴る。ベッドを中心に魔方陣が投影され、ついにアビィが気付く。目を見開き、乳首への愛撫を止め、シスにキスを迫る。魔性の唇が急激に迫り――、
「”天狼をも捕縛する、大いなる鎖となれ――『拘束』”」
だが、既に遅かった。耳鳴りのような音が響き、円形の魔方陣の淵から六本。魔力の鎖がまるで床を貫いたかのように出現し、アビィの体にまとわりつく。
「なっ……拘束魔法……!?」
慌ててそれを振りほどこうとするが、全く以って意味をなさない。金属的な音と共に全身の各部へ絡みついた鎖は、魔方陣の上へ完全に彼女を縛り付けていた。
手も足も出ないとは、まさにこの事。指先一つ満足に動かせず、アビィが苦笑い。
「ただの剣士さんかと思ったのにね。まさか、魔法も使えたなんて――」
完全にお手上げ、であった。魔法を使えた事が彼女にとっては予想外であったが、極限まで追い詰められていながら、精神力を必要とする呪文の詠唱を完遂する。それは並大抵の事ではない。
「負けを認めるわ。さ、剣で斬りなさい。私にそれを防ぐ手段はないわ」
敗北した。それなのに、どこか気分は晴れやかだった。瞳を閉じたまま、覚悟を決めたアビィは微笑を浮かべてそう告げる。
だが、いつまでも最期の時は訪れなかった。
「……あら、まぁ」
彼女が目を開けると、たった今の今まで耐え抜いていた青年は、過度の疲労からか熟睡をしていた。そして、魔力の切れた魔法陣は消え、アビィは自由を取り戻す。
「――もう。詰めのあまい子ねぇ」
彼女は笑いながら、死んだように眠るシスに近づいていった。
けだるい感覚。瞑ったままの瞳に光が差し込み、朝が来たのだと気付く。
「ん……」
目覚めたシスがゆっくりと瞼を開くと、
「――あら、目が覚めた?」
そう微笑む、全裸のアビィの姿が目の前にあった。添い寝状態である。
「う、うわわわっ!」
どたーん! 後ずさりしたシスが、ベッドから盛大に落下する。背中から落ちた自分も全裸だと気付いた所で、昨晩の事を思い出していた。
――あ、あれ。結局、どうなったんだっけ……?
魔法の詠唱が完了した所までは、意識があった。だけどその後の事は覚えていない。とりあえず自分が生きている、という事は……勝ったのだろうか?
「あらあら。昨日あんなに求め合ったのに、今更恥ずかしくもないでしょうにねぇ」
楽しそうに笑うアビィには、邪気が感じられない。いや、シスをどうにかする気があったなら、おそらく朝をマトモな精神状態で迎える事はなかっただろう。
疑問符だらけの表情に、アビィはまた笑う。
「剣士さんの勝ちよ。少なくとも、私がただの娼婦だったら負けていたもの。
――まぁ、別に種を植え付けて色狂いにしても良かったんだけどね。でも負けは負けだから、そういう見苦しい面倒はしたくなかったの」
彼女なりの矜持、という奴なのだろう。だが、シスは素直に喜ぶ事はできなかった。
「……いえ、俺の負けです。だって、最後まで立っていたのは――」
言いかけたシスの言葉を、アビィはキスで封じた。すぐに離れ、余裕の笑みを見せる。
「ま、私が無慈悲な淫魔だったら、剣士さんの負けだったわね。
――ここから先は、私のように人間に紛れて暗躍する淫魔も増えるわ。次も今回のような幸運があるとは限らないわよねぇ」
その言葉に、がっくりとうなだれるシス。確かにそうだろう。今回のような特殊能力を交えて、魔法も活用されたらもう、まぐれで勝つ事などありえないのだ。
「でも、きっと剣士さんなら大丈夫よ。その強い意志が折れない限りは、ね?」
悩むシスを尻目に、笑いかけてアビィは立ち上がった。そして、シーツを身に纏う。流石に、汚れた状態でドレスを着る訳にもいかなかったのだろう。
「さて、私はまだ静かな内に帰るわ。また、会いましょうねぇ。
……次は、もっとサービス、しちゃうからね?」
ドアから出てゆく去り際、ウインクをしてそう色っぽく彼女は笑う。
――は、はは。あれ以上『サービス』されたら、狂う前に死んじゃうんじゃないかな。
冷や汗をかきながらも、一つの大きな障害を乗り越えた事に、少なからず満足感を覚えていた。だが、そこでふと気付く。
「……そういえば、これ、どうしよう……」
精液、愛液、汗、唾液。もうどれがどれだかよく分からない位、ベッドは酷く汚れていた。宿屋の主人が怒る顔を思い浮かべて、シスは朝一番の溜息をついた。
結局、掃除をさせられる事となったシスがサルサミルを後にしたのは、高く日の登った昼過ぎの事であった。
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