1942

花勝負物語その壱

聖なるかな!聖なるかな!聖なるかな!聖なるかな!
世界は聖なるかな!魂は聖なるかな!
皮膚は聖なるかな!鼻は聖なるかな!
舌は聖なるかな!ペニスは聖なるかな!肛門は聖なるかな!
すべての物質は聖なるかな!すべての人間は聖なるかな!
すべての場所は聖なるかな!すべての日は聖なるかな!日々はすべて永遠!
人間はすべてエンジン!セラフィム天使のように神聖に燃え上がる!

      ──アレン・ギンズバーグ──『ギンズバーグ詩集』

対面座位になった裸体が蠢いた。暗がりの中で、ふたつの美しい裸体が蠢いた。少年の肌に突き刺さる女の八重歯。皮膚がへこむ。
薄暗い銀の光沢を帯びたヘマタイトを連想させる少年の瞳が、女の瞳を映す。慈愛のこもった美しい明眸である。
絡まりあう男女の四肢。熱い。女の愛液が少年の陰毛を濡らした。観客達が静かに固唾を飲んで見守る。
少年が紡錘型の桃蜜色に染まった女の乳輪を愛咬する。心地よい痛み。女の吐息が漏れた。かすかだがはっきりと少年の鼓膜は女の吐息を捕らえた。
「ああ……あ……」
静かだった。静かな戦いだ。静寂なまでの花勝負(セックスバトル)だ。一級の艶事師同士の争いに焦りは禁物である。
女が少年の腰、腎臓辺り──腎兪をゆっくりと指で揉んだ。少年が女の腰骨の上に温くなった掌を当てる。
持ちうる限りの技巧を駆使し、相手をイカせたものが花勝負で栄光を掴む。噎せ返るような熱気がふたりを包んだ。
咽喉が渇きにひりつく。愛液、カウパー、汗、唾液──少年と女の分泌液が混ざり、生々しくも淫らな匂いが観客の鼻腔をくすぐった。
それは生命の香りだ。人の本能と情欲を喚起する生命の香りだ。
ふたりの毛穴から噴き出す脂汗がシーツにこぼれ、小さなシミを作る。少年が女の胸元から首筋までゆっくりと舌を回遊させた。

女の右手の甲に唇を移し、陽池を愛撫する。唾で濡らした両手の指腹で女の臀部を繊細な指使いで円を描くように撫でまわしていく。
いわゆる三枚舌責めだ。唾液で塗れた指腹は使う者次第で舌と同様の愉悦を相手に与える。
女の経絡が開き始めた。体温が上昇し、肌がうっすらと色づく。
濡れ羽色の女の黒髪が静かに揺れた。憂いを含んだ女の美しい眉根が切なそうに歪むのを、少年は見逃さなかった。
「ああ、熱いわ……身体が火照ってしまう……」
形勢不利と悟ったのか、身体をくるりと反転させて女が体勢を変えた。あせりだ。女にあせりが生じたのだ。花勝負にあせりは禁物である。
顔色一つ変えず黙々と少年が女の右足の親指を口に含んだ。指の谷間まで、丁寧で精妙とも言える舌使いで舐める。
敵意も憎しみも感じられぬ、女を労わるような優しげな舌使いだ。それが女にとっては逆に不気味であり、恐ろしい。
ふとした拍子に相手に吸い込まれてしまいそうになるのだ。

女が少年のヴィスクドールの如く白く滑らかな尻朶の谷間に顔を埋めた。アヌス周辺をくすぐる様に舌を動かし、左手で睾丸を揉む。
少年の顔にかすかな苦悶の表情が浮かんだ。女が激しくアヌス襞を舐めしゃぶる。収斂する少年の瞼。
隆起する男根──少年の包皮が剥けて薔薇が女の目前で咲いた。一輪の佳麗な薔薇が女の目前に咲いた。薔薇の刺青だ。
薔薇の刺青に目を奪われる女──不意をついて少年が女の蟻の門渡りに舌を這わせた。
肛門や性器に触れないように、しなやかに舌を括約筋に沿って移動させる。
舌が乾く。ビーフジャーキーのように、表面がからからに乾いていく。数刻の時が流れた。法悦に翻弄され、女が随喜の涙をこぼす。
「もういい……いかせて……ッ、お願いだから……いかせて頂戴……ッ」
女の経絡がついに開かれた。白磁の肌は桜色に染まり、女の本能が少年を求める。女を横向きに寝かせた。
背後に回った少年が女の左太腿の付け根をすくい上げ、男根を挿入する。日本四十八手の一つ、浮橋である。
ピストンの強弱を絶えず変化させ、角度を変えながら少年の男根が女の秘部を穿つ。
くびれたウエストに腕を回し、少年は張りのある乳房を揉みしだいた。女の裸体が小刻みに震える。

秘部から溢れ出る濃い透明な粘液が少年の亀頭を包み、互いの五感が激しく昂ぶった。
ふたりの魂が触れ逢った刹那、女はハイレベルのオーガズムに達していた。見届け人が立ち上がる。
「この勝負、伊織の勝ちとするッ!」
こんなのどないだ?

[mente]

作品の感想を投稿、閲覧する -> [reply]