1960

背徳の薔薇 眠れる力

「恍魔、かあ……。淫魔の天敵らしいけど、そんなに危険な存在なの?」
 レイはキングサイズベッドの上で胡座し、アーシアの秘部へ中指を抽送しながら呟いた。
 アーシアは乳白色の肌を淡く紅潮させながら、股を開いてレイの愛撫を受け止めている。動き方が単調になると意図的に膣を締めてレイの動きを邪魔し、考えて動くよう、暗に指示していた。
「はい。恍魔は恍気という力を有する淫魔の異端にございます。恍気は淫魔にとっては致命的です。恍気を浴びると、その波動を発した者への敵対心が失われてしまうからです。……レイ様、その調子にございます。そのまま指の本数をお増やしくださいませ」
 レイは言われたとおり、人差し指を加えてアーシアの膣を掻き回した。手首を左右に捻って回転させる要領で動かすと、アーシアが腰を小さく震わせ、より愛液の粘度を高めさせる。
 この動きをするとアーシアの感度が上がりやすいため、主力の責めとして、よく行使するようになっていた。
「人間が淫気を浴びるとおかしくなるような感じと、一緒かなあ……。それだと、淫魔もヤバそうだってのは、なんとなく分かる気がするけど」
 人間は淫魔から快楽による絶頂を受けると淫気の侵入を受け、毒されてしまう。そうなると女性は多くの場合が淫魔化して淫魔と同じになり、男性は自我を保てなくなって死ぬまで精気を貪られる憂き目に遭う。男女共に快楽の虜に堕ちるのだ。
 だが自分はさらにそこからも外れ、淫気を喰らって力とする存在に成り果てた。異端中の異端なのではないかと、救いや未来など皆無なのではないかと、心に冷たい風が吹く。
 レイはかぶりを振って悲惨な現況から目を背け、今はアーシアに性的快感を与えるのに集中しようと、手首に力を込めた。性交渉によって絶望から目を背けたいのである。
「左様にございます。シドゥスという、レイ様にとって当面の目標となる恍魔は、連盟を組んでいる仲間の淫界を征服して皇帝を名乗り、次々と各地を侵略して勢力を増しております。バベット様が治める淫界も、遂に魔の手が伸びました」
「連盟……。淫界がたくさんあるってのはディアネイラから聞いてるし、ぼくらの世界でも学んでるけど。そのたくさんある淫界の中で、仲良くしてる国同士で形成してるのが、バベットの国も加盟してる淫界連盟、なのかなぁ」
「ご名答に、ございます。ああ……、レイ様。お上手になられました。アーシアは、感じております……」
 アーシアはより大きく股を開いてレイの指を導いた。紺色のワンピースは着衣したままであり、スカートを捲り上げて下半身を露出させている。時折、三枚の漆黒の翼が快感に震え、羽根が優美に揺れた。
「イクわけないと思うけど、ヤバかったら教えてね。ぼくはアーシアに死なれたら困るんだ」
「承りました」
 命令口調で話してやると、アーシアが対応を楽そうにする。レイは驕傲な態度をしなければならないのが申し訳ない気持ちであったが、彼女を困らせるよりはいいと、自分なりに考えていた。
 アーシアと同じ目線に立とうとすると、彼女は決まって受け答えに苦慮するのだ。レイは上、アーシアは下という立場を、かたくなに堅持して揺るがないのである。
 レイとしては、このむず痒い上下関係は打ち崩したかった。ただ、どうすればよいのか難しいところなので、それは少しずつ、学び気付いて修正していこうと考えている。
「アーシアはさ、シドゥスと戦って、勝てる?」
 レイは頭をアーシアの股間に近づけると、舌を出した。親指の先ほどに膨れている肉の芽を舌先で突付く。しこりを発見すると、それを中心点にして円を描いた。
 熟れた果汁に似た味が舌先に伝わる。レイは唇で肉の豆を啄ばむと、軽く吸った。
 アーシアの股間から濃い淫気が湧き上がり、レイの頭を包み込んで愛撫する。とろけるほどの甘美な感覚に、少年はうっとりと鼻息をついた。
「まず、勝てません。ディアネイラ様が現在もお相手をしてらっしゃるでしょうが、ディアネイラ様も、恍気に当てられて常軌を逸すると申しておりました」
 レイは驚愕して顔を上げると、指を動かすのは忘れずに、甘い吐息をついているアーシアを見た。
「ディアネイラですら……?」
「はい。淫魔では、恍魔には対抗できません……」
 精霊を相手に軽く一蹴してみせたディアネイラが勝てないという存在に自分が通用するとは、到底思えなかった。
 兄と慕うファンがディアネイラと対峙した際、彼は悲愴な決意で自分を逃がそうとしてくれた。結局自分は現在の状況から差し伸ばされた救いの手を拒んだわけだが、淫魔ハンターの中でも大エース級の彼ですら恐れるディアネイラが相手にならないという困難は、受け入れがたいものがある。
「ぼくが勝てるとは、思えないよ」
 レイは嗟嘆し、指の動きを止めた。アーシアが強く締め付けて叱咤としたが、ふやけた指は微動だにせず、顔を青ざめさせた。
「勝てるのです。レイ様」
「……なぜ?」
「それは、レイ様が聖剣をわたくしに挿入してくださった際に、お伝え申し上げます」
 レイはだらしなく天井を向いている若塔を見下ろした。桜色に染まっている亀頭は透明の粘液に濡れ、鈴口から淫気が放出している。
「ぼくを試すのか」
「申し訳ございません……」
 アーシアは下唇を噛みながらレイを見上げた。左の目尻にある泣きボクロの効果は絶大で、彼女が悲しそうな表情を作ると、必ず感情移入させられてしまう。
「あ、ごめん。アーシアがぼくを鍛えようとしてくれてるのは、とても伝わってる。その期待には……、応えたい」
 レイは若塔に指を添えると膝行し、膣口に亀頭を当てると静止した。
 挿入のまえに、アーシアの顔を覗く。彼女の銀杯色の双眸は潤み、レイが動くのを静かに待っていた。
「ぼくは、もう決めたんだ。人間には戻りたいけど、そのまえに、アーシアを天界に帰す方法を探す。ぼくが帰るのは、そのあとだ。ディアネイラもきっと、それを望んでる。望んでないなら、ぼくが洗脳してでも協力させる」
 幼馴染のシンディが自分を救おうとしてくれているらしい。一刻も早く帰宅すべきだが、やはりアーシアだけは放っておけなかった。自分のせいでアーシアは天界へ帰るのに必要となる力を失ってしまった。四枚あった天使としての象徴である翼も、一枚失わせてしまった。自分の命よりも優先して、アーシアが天界へ戻れる方法を探したいのだ。
 シンディには申し訳ないが、今は帰れない。
 レイは覚悟の心を抱きながら、アーシアへ挿入を開始した。
 軽く腰を突き出しただけであっさりとアーシアに収まる。中は熱い。淫気の濃度も濃く、色情がレイの脳を刺激する。だが、彼女は虚脱しているためか、締め付けは緩かった。
「レイ様……」
 アーシアの銀杯色の瞳から熱い雫が頬を流れ落ちる。
 彼女が何を思っているのかは分からないが、目を細めて眉を下げている表情は、困惑しつつもどこか嬉しそうに見えた。
 レイは胸が締まる思いとなった。
「泣き言は、もう言っちゃダメだよね。甘えてばかりだ、ぼくは」
 レイは白いニーソックスを履いたアーシアの肉感的な太腿を抱えると、ゆっくりと腰を前後に振った。可能なかぎり射精を堪え、アーシアを昇らせようとする。彼女が絶頂するより先に自分が果てるのは目に見えているが、負け犬の遠吠えでもかまわない。
 淫気を解放し、感じろと念じながら腰を振る速度を僅かに上げる。若塔に淫気が収束すると、アーシアの膣内で弾けた。
「ああ、レイ様……」
 アーシアが瞳を閉じる。快感を素直に受け入れてゆくような態度であった。
 念入りに前戯をしていたために、アーシアの腹中は濡れきっている。若塔は粘膜の温水に浸かり、ほんの僅かに締め付けてくる感触は、レイを気遣う優しさで満ち溢れていた。
 若塔が出入りすると空気が漏れる音が鳴り、腰がぶつかると肉の喝采が起きる。その淫猥な音楽はレイの頭に血を昇らせた。
「太古の時代、恍魔は絶滅したはずでした。ですが、生き延びている存在が明らかとなったのです。これを放置したままでは淫界は滅びます。そこで危機感を募らせた淫界同士が連盟を組み、ディアネイラ様を招聘なさいました。バベット様がお治めするデニソン国も淫界連盟に所属なさいましたので、バベット様とご親友であらせられるディアネイラ様は連盟からの要請を快諾くださり、お腰を上げられたのでございます。やがてディアネイラ様のご活躍によって、恍魔を滅する対抗策に日の目が当たりました。その力を、レイ様は有してらっしゃいます」
「どんな力か、全然自覚がないから判らないよ」
 レイの腰振りによって、アーシアのシャギーショートに手入れされている青藤色の髪の毛が揺れ、乳房が衣服と一緒に揺れているのも見える。
 絶対的な柔らかさを有する彼女の乳房を見たいと思ったが、衣服を脱がせるタイミングが分からないという体たらくは、己の未熟を如実に現わしていた。
「レイ様は未だ覚醒前でらっしゃいますから、仕方ございません。いずれ力の開放を経験なさるでしょう。及ばずながら、わたくしも身命を賭してお手伝い申し上げます」
 揺れ続ける乳房が愛しくなったレイは、アーシアの太腿を抱いていた両腕を彼女の胸にやり、服の上から揉む。下着や服を通り越して胸の柔らかさが掌に伝わると、レイは腰を突く動きに併せて手を大きく動かした。
 アーシアが熱っぽく吐息をつき、唇を振るわせる。
「バベットも言ってたっけ。覚醒、かあ」
 アーシアの膣内が燃えるほどの熱を帯びさせた。レイの股間は熱で痺れ、何重もの襞の愛撫によって射精感を昂めさせられる。
「恍魔という新種の淫魔が誕生した昔、ほかの淫魔たちは抵抗空しく蹂躙され、支配された時代がございました。ですがやがて、恍魔に対抗できうる新種の淫魔が誕生し、恍魔を滅したと伝えられています。神話級のお伽話にございますので詳細を伝える書物は皆無に等しいのですが、ディアネイラ様はその力をご存知のお方ですので、実行なさったのでございます」
「その力がぼくにあるから、こうして攫ってきたのか……」
「いいえ、僭越ながら、レイ様はあくまでも偶然にすぎません。ディアネイラ様はレイ様を食材とするために、ここへお連れしただけにございます」
「アーシアは全部、ぼくの事情を知ってるんだね」
「はい。ディアネイラ様から窺っております」
 アーシアに締められ、レイはいつの間にか抽送をやめてしまっていたのに気付くと、腰振りを再開させた。胸の愛撫は終了してアーシアの顔の横で手をつき、腰を動かす。するとアーシアは締め付けを弱くした。レイの実力に併せて調整しているのは明らかである。
「レイ様が暴走した淫気によって生死の問題となられた際、ディアネイラ様は心臓の淫核化を試みました。失敗すればレイ様は死亡なさっていたでしょうが、幸い成功に終わり、命が繋がれたのです」
「そうだったんだ。あのときのことは、ほとんど覚えてないんだよね」
 気がついたらディアネイラの家畜となり、精気の供給源として生かされていた。絶望の毎日は今も変わらないが、アーシアが心の拠り所になってくれている分、以前よりは精神的には楽になれている。加えて、帰りを待ってくれている人のことを想えば、生き延びねばならないという責任感も湧いた。
「ディアネイラ様は、レイ様は廃人になると予想されていたようですが、レイ様はこうして、しっかりと意識を保ってらっしゃいます。あ……、そこを突いてくださいませ」
 アーシアが反応を示して一瞬だけ締め付けが強くなった場所をレイは思い返した。少し入った左側の壁。ここかなと亀頭でこすってみると、アーシアが一段と高く喘いだ。
 アーシアの快感点のようである。腰の押し引きをしながら、膣壁が亀頭でこすれるよう意識してみると、アーシアの腰が大きく跳ね上がり、滲み出る膣液の量が増える。若塔は熱い湯に浸かり、出入りするときに見え隠れする肉の棒は照明の照り返しで濡れ光っていた。
 僅かに唇を開いて吐息をついている彼女の表情を眺めていると、自然と腰にも力が入る。まだ太さが心もとない亀頭なのだが、快感点を通過するたび、巾着袋の紐が締まるように、中が窮屈になった。
「……太古の時代に淫魔を救った、男性の淫魔化が、レイ様によって完成したのでござ……あぅ。……ございます。……ディアネイラ様が、偶然が続くにも程度があると、最も驚いてらっしゃるのです」
「じゃあ、もしぼくが廃人になってたら、ただの食材として使われるだけだったの?」
「僭越ながら、左様にございます」
「ディアネイラって、何者?」
「淫魔の至宝にございます。あぁレイ様……アンっ」
 涙目のアーシアの表情を見ると、レイは心臓の内側にある小さな淫核が蠢動したのを知覚した。その力はとても濃く、大きく息を吐くと淫気が薄紫色となって空中に霧散するのが見えた。レイは好きに暴れたらいいと勝手にさせ、溜めた唾液をアーシアの唇へ落とす。
 アーシアは有難そうに口を開くと落とされた雫を飲み干した。滑らかな細喉の動きに、レイの空色の双眸が血走る。
「至宝? 淫女王と友達なんだから、ちょっとした淫魔なんだとは思ってたけど、凄い淫魔なの? ディアネイラって……」
「はい。ディアネイラ様は淫神が遣わされた、恍魔を滅ぼす手段を知る神の使徒の末裔でらっしゃいます」
「また話がでかくなった。ついていけないだろうから、それはいいか。で、……問題が発生したんだけども、告白してもいい?」
「どうなされましたか?」
「イキそうです……」
 アーシアが柔和に微笑んだ。
 必死に堪えていたのだが、もう無理です、ごめんなさいとばかりに、レイは情けない顔を作ってアーシアを見下ろす。
「失礼いたします」
 アーシアはレイの細い背中に手を廻して少年を抱き寄せると、お互いの肌を密着させた。それからおもむろに漆黒の翼を広げて少年を包み込み、抱擁する。
 ひしゃげた乳房の感触は着衣したままでもレイの薄い胸板を刺激し、脳天を突き抜けて破裂する。全体的に柔らかなアーシアの肉体に安らぎすら覚え、レイはアーシアの頭を両腕で抱いた。自分の顔を彼女の青藤色の髪の毛にうずめると、かぐわしい花のような香りが鼻腔をくすぐる。レイは鼻息をつきながら大きく息を吸い、香りを愉しんだ。
 つながった股間は、ふたりの絆を深めさせるかのようである。レイを絶頂させるためにアーシアは膣の締め付けを強くしてきたが、一瞬で潰さぬよう、レイが満足できるよう調整してくれているのが肌を通して伝わってくる。
 レイは、そこには癒ししか感じなかった。柔らかな羽根の心地よさを背中に受けると、負けん気の悪あがきだけは自慢できる自分は、最後の抵抗とばかりに腰を振る。
 アーシアにだって気持ちよくなってほしかった。彼女は天使だったかもしれないが、今は快楽を生き甲斐とする淫魔なのである。ならば少しでも役に立ってみせたかった。世話になりっぱなしなのは、イヤなのである。
 レイは意識を強くしながら淫気を開放すると、薄紫色の波動がふたりを包んだ。故意に淫気を操ると疲労が激増するため、すぐに額や背中に汗が滲む。だがレイは自分が果てるためだけの動きにはしたくなかったので、アーシアに感じてほしいと願う気持ちをより強めながら腰を振った。
「あふ……ん」
 アーシアが首を反らせ、快感に唇を震わせる。レイが腰を突き入れるたびに、荒くなった吐息が小刻みに漏れた。
 射精感が限界に達したレイは若塔の裏筋あたりから膨大な淫悦感を味わい、背筋に鳥肌を立てた。自然と腰を振る速度が増し、肉の合奏がけたたましく室内に響く。
「あぅ……、イクッ。──あうぁ!!」
 レイが顔をしかめると同時にアーシアが強烈に締め上げてきた。若塔全体に肉圧が加えられ、奥へと引き込まれる吸引力によってレイが果てる。
 少年は自分の体重をアーシアへ預けると、全身を痙攣させながら彼女の腹中に大量の白液を注いだ。
 アーシアは無言でレイを抱き、膣を収縮させて最後の一滴まで搾ってやる。
「もっと……アーシアに気持ちよくなってもらいたかったけ、ど。ダメだったぁ……」
 レイはアーシアの頭にしがみついたまま荒い呼吸を繰り返した。大きな疲労感は心地よくすらあった。
 淫気喰いが始まると心臓にアーシアの濃密な淫気が入ってきたが、痛みはまったくない。
「もったいのうお言葉にございます。……お疲れ様でございました」
 アーシアは困り顔になりながらも、背中を優しくさすってくれた。
 アーシアの淫気を取り込み、自分の力が濃くなってゆく。淫気喰いが終了し、荒くなった呼吸が落ち着く頃には、アーシアの頬が紅潮していた。精気酔いしているのだろう、少し虚ろげな彼女は艶やかで、美しかった。
 レイは真横にあるアーシアの顔へ向けて笑いかけると、彼女も呼応してレイに首を向け、いたわるような、柔和な微笑を浮かべる。
 堕天使の微笑みを見ながら、レイは自分に秘められているらしい力について考えてみた。
 だが自覚がないので理解のしようがない。その何かが恍魔を倒す力ということなのだろうが、実感がまるで湧かなかった。
 心臓に意識を向けてみても、射精して沈静化したとはいえ、未だに身体を火照らす淫気と、淫核化した心臓の中にある、もうひとつの小淫核に潜める狂淫の精霊の存在しか知覚できなかった。
 大まかな事情は分かったものの、細部はまるで分からない。まだまだ教えてもらわねばならない事柄が多いと感じながら、レイはアーシアと見つめ合った。
 
背徳の薔薇 眠れる力 了
第十四話です
気がつけば、この作品を掲載させていただいてから一年が経過しておりました
未だに完結できていない己の愚かさには、猛省するばかりです・・・

メッセージありがとうございました。くじけそうになるたび、皆様のメッセージを読み返して元気をいただいています

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