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(天頂五輪性豪会)

「始めぇい!」
 大きな太鼓の音が闘技場に鳴り響き、審判の手が大きく振り下ろされた。
 多くの人間が観客席で固唾を飲んで見守っているなか、円形の石舞台の上に向かい合っていた全裸の男女が弾けるように動いた。
 女は素早く間合いを詰めると、男の股間めがけて低くタックルを繰り出した。
 男は防御が間に合わず、まともにその衝撃を受けた。そのまま組み伏せられてしまうかと思いきや、その両足はしっかりと大地を踏みしめている。
 どよめきが観客席を振わせる。
 女はそれにかまわず、男のペニスを咥え込もうと唇をわずかに開いた。
 それを察した男がニヤリと笑った。それもそのはず、男のペニスは全長三十センチはあろうかという長大なものだった。その太さも尋常ではなく、子供の腕ほどはある。
 しかし、女は無理にそれを咥えこもうとせず、ペニスの先端、亀頭のさらに一部である、鈴口の部分を口に含んだ。もっともそれだけでも充分に通常の亀頭と変わりない。
 次の瞬間、余裕の笑みまで浮かべていた男が慌てた様子を見せた。そして、男は全身をがくがくと振わせ、崩れ落ちた。
 男の前でしゃがみこんでいた女が立ちあがる。
「勝者、サラ!」
 審判が大声で女の名を呼んだ。
 それに答えるようにサラは大きく口を開けると、口内に溢れんばかりにたまっている精液を観客に見せ付け、ごくりと飲み込んでみせた。
 とたん、観客席では大歓声が沸き起こる。
 予選が終わり本選の第1開戦、優勝候補と目されていたブライアンが無名の選手に敗れたのだから当然と言えよう。

 ここは、年に一回開催される天頂五輪性豪会の開場である。ここで優勝した者は時の皇帝の房中術の師として手厚く迎えられる。それを目指して世界各地から様々な性豪達が集まってくるのだ。当然、それを見物しようとやってくる観客も大勢いる。
 その観客席のそこかしこで、様々な声が漏れ聞こえてくる。
「凄いな、現皇帝師範のブライアンがあんなに簡単にやられちまうなんて」
「しかし、先っぽを咥えられただけだろう?ブライアンのやつ弱くなったんじゃないか」
「そうだよなぁ。その三十センチのペニスで去年はどんな相手のフェラテクも、アソコの技もまったく効かなかったんだもんな。慢心してたんだな」
 見物人のほとんどが同じような感想を交し合っているなか、選手入場口で試合を見ていた選手達の間にも同じような会話がなされていた。
「まさかブライアンがいきなり消えるなんて思わなかったわ」
「まったく。しかし、これで俺が優勝しやすくなった」
「あら? 私が、の間違いでしょう」
 第二試合で闘う選手が互いに牽制しあう。
「君はどう思う?」
 可愛らしいおさげの少女が不意に話しかけられて後ろを振り向くと、カンフー胴着を着た男が立っている。
 少女が首をかしげて答えた。
「普通のフェラチオじゃないっていうのはわかるんだけど……」
「それがわかるだけでもたいしたものだよ」
「あれは中国房中術で言う頂舐舌ね」
 三十歳ぐらいであろうか、突如現れたチャイナドレスに身を包んだ妖艶な女性が赤い唇を開いた。

 頂舐舌
 中国の王朝・宋。その末期には暗殺が往行した。しかし通常の方法では殺人がばれてしまうためこの技が開発された。この技を駆使されると限界をこえても強制的に射精に導かれ、最後には衰弱死してしまうという。
そのため貴人に対するフェラチオにおいて、咥えるという行為が禁止されることともなった。
 その要諦は、通常なら男根全体を咥え、愛撫するというフェラチオを、亀頭のみを咥えこみ、集中的に愛撫するというもので、これにかかるとどのような遅漏の男も一瞬で果てたという。
 舌の動きは尋常でなく、一人前になるためにはさくらんぼの茎を種がついたままで、一度に軽く二十は結ぶことができなければいけないとされた。
 なお近世において「水鉄砲は穴が小さい方がよく飛ぶということだ、このスカタン!」と言ったものがいたらしいが頂舐舌の使い手だったかどうかはさだかではない。
       民明書房刊『我が中国の闘食性は世界一 〜その暗黒史〜』

「ほぉ。あれをご存知ですか、只者ではないですね」
「師範!」
 嬉しそうな声をあげ、おさげの少女がチャイナドレスの女性に飛びついた。
「離れなさい、ユイ。そちらこそ、その若さで頂舐舌を知っているなんてたいしたものよ」
 カンフー胴着の男に妖しい視線を送りながら、師範と呼ばれた女性が笑う。
「いや、それほどのことでは。しかし只者ではない方の弟子が只者のはずがない。僕が初戦を突破すればそちらのユイさんと闘うことになる。僕の力をお見せしましょう」
 さわやかな風を残して、男は闘技場に向かって行った。

「それでは第三試合始め」
 まるで第一試合の再現を見ているようだった。ただし、男女逆の。
 カンフー胴着を着ていた男――すでに全裸である――が、号令と同時に猛烈な勢いで対戦相手の女性に飛びかかっていく。
 だが、似ていたのはそこまでだった。女はタックルを堪えきれず、そのまま倒されてしまう。
 その柔肌が地面につく前に、男は素早く女体を回転させ、うつぶせにして、のしかかった。
 男は間髪いれずに女めがけて、腰を打ちつけた。すでに堅くいきりたっていた剛直は寸分違わず女性の秘部を貫いた。
 そして、第一試合の再現が再び始まった。
 よほど己にヴァギナに自信があるのだろう。女はしめた、という顔をした。
 だが、次の瞬間、ブライアンと同じく、顔に焦りが浮かぶと、頬が次第に上気し始め、甘い嬌声をあげ始めた。
「はっ、あっ! し、信じられないぃ、す……凄い。あ、あっ、あ、ぐねぐねぇ、ぐねぐねがぁんっ! い、いっ、イクぅー!」
 全身を仰け反らせ、ひときわ大きな声でよがったかと思うと、女の全身から力が抜けた。
「勝者、ツァオ!」
 本日二度目の秒殺に会場が沸いた。そしてさらなるどよめきが地鳴りのようにあたりに響いた。
 愛液を滴らせながら、己のものを引き抜いたツァオ。驚くべきことに、そのペニスが関節でもあるかのように、ぐねぐねと折れ曲がり、妖しく蠢いていたのだ。

「きゃっ! ……な、なにあれっ!?」
 これまでと同じように、選手入場口で試合を見ていたユイが可愛らしい悲鳴を上げた。
「あれは駆根伸動波!」
 師が驚愕の叫びを上げたことにユイは動揺した。常に余裕の表情を崩さない師が、これほど動揺するのを見たことがなかったからだ。

 駆根伸動波
 シルクロードによって東西の交流が盛んになった頃、西洋人のペニスの大きさに驚いた房中家、坤 洞牟がなんとかしてそれに対抗することができないかと考え、考案された技である。
 ペニスが勃起するためには海綿体に血液が流れ込まなければならないが、その海綿体を自在に操り、男根を別の生き物のように操作するという秘技である。
この技を極めることによって男根が大きくなることはもちろん、上級者はまるで第三の手を得たかのように操ることができ、腰を動かすことなく女性を絶頂に導くことができたという。
 その修行は困難を極め、修行の途中で男根が右曲がりや左曲がりになってしまい、技の習得ができぬまま去っていくものが多かった。
 また、現在において、もてる男性をプレイボーイと呼ぶが、これは駆根伸動波の修行中の掛け声「棒を振れい」が「振れい棒を」「フレイボー」「プレイボー」「プレイボーイ」と転じたものであるということは言うまでもない。
                    民明書房刊『東西性交交流史』

「あれが、私の次の相手」
 ごくりと唾を飲み込むユイ。
「次の選手でませい!」
 闘場で自分を呼ぶ声に、頭をふり、気持ちを切り替える。
「まずは、目の前の相手に勝たなきゃね」
 歓声が降り注ぐ舞台に向かってユイは駆け出した

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