3025

背徳の薔薇 肉欲

「で、速攻来るんだ……」
 レイはベッドに坐ったまま大仰に肩をすぼめて嘆息し、嫌味の篭った口調で言い放った。
 少年の空色の瞳に、乳魔という種族の淫魔を統括する女王が映ったからである。
 その後ろに傍仕えている白エプロンを巻いた給仕姿のアーシアへ、なんで連れてきたんだと抗議の視線を送りながら、不機嫌面をした。
 レイは全裸である。大部屋に到着してからすぐに着ていた衣服を脱ぐはめになったのは、アーシアがディアネイラ不在でも着衣を許さなかったからだ。成長途上の身体はまだまだ脆弱であり、筋肉の付き方は未熟そのものである。
「へっへ〜。来ちゃったんだよねえ、これがまたっ。やっほー、淫人ちゃん」
 屈託のない笑みを絶やさない淫界の女王は、翠色の瞳を輝かせながら手を振った。
 レイは股間にシーツを被せもせず、恥じらいもせず、堂々とベッドに坐っている。
 負けん気からくる態度であった。
「女王なんでしょ? 多忙なんじゃないの?」
 淫界の女王はペティコートを着ている。なんなら踊ってみせろとばかりにレイは憤りつつも、なんなんだろうと、顔をしかめた。
 国を統治する立場にあるバベットは重大な責任を背負っているはずだ。さらに加えて、バベットの淫界は人間と恍魔というふたつの勢力に侵攻されているという。遊び呆けていられる時間があるとはとても思えない。寝る暇すらないはずだと思うのは当然だ。
 時計がないので正確な時間は分からないのだが、アーシアに連れられて淫界からいつもの大部屋へ戻ってきたのは、つい今しがたである。シャワーを浴びて困憊の身体にひと心地つけ、いろいろな出来事に関してアーシアから話を訊こうと考えていた矢先にバベットが来訪した。
「あの、レイ様……。僭越ながら、バベット様へのぞんざいな受け答えは……」
 アーシアは銀杯色の瞳を混濁させ、左の目尻にある小さな泣きボクロに悲愴感を漂わせながら、レイを窺うように見つめた。
 憂慮のしすぎで、今にも死にそうである。
 両手で白いエプロンを力いっぱい握り締め、全身を小刻みに震わせていた。
「あ、いいのいいの。淫人ちゃんとはお友達だから、タメ口されたほうが楽だしぃ〜」
 女王は言いながら、遠慮もなくレイの傍へと歩み寄っていった。物がほぼ何もなく、空間だけが無駄に広がっている大部屋に興味を覚えたのか、楽しげに首を巡らせている。
「誰が友達だっつーの! 認めるかっ」
 レイが悪態をつくと、アーシアの顔色がますます悪くなってゆく。レイへの諫止を思いとどまっているようであり、その表情は蒼白であった。シャギーショートに手入れしている青藤色の髪の毛が揺れているところを見ると、どうやら小刻みに震えているらしい。
「あ、解ったから……。バベットとはお友達です。ほらっ、こんなに仲がいい」
 アーシアの異変により、レイは慌ててベッドから立ち上がった。眼前にいるバベットの肩を抱くと、顔を引きつらせながらも笑みを浮かべる。
「そーそー。アーシアちゃん、楽にしなって〜」
 バベットがレイの腰に腕を廻して密着すると、レイは呻いて若塔を天井に向けさせられてしまった。
 薄藤色のペティコートを着ているバベットの乳房がレイの脇を挟み、あからさまに挑発してきたのである。
 彼女の感触は、アーシアの絶対的な柔らかさとも、ディアネイラの張りと柔らかさを両有しているものとも違い、とにかく張りが強かった。脇を押し挟んでいるふたつの果実はひしゃげているが、本来の形へ戻ろうとする張力が、レイの鼓動を無遠慮に昂めさせる。
「気が狂いそうだ……」
 レイは眩暈を覚えると、咄嗟にバベットから身を離した。
 射精感を込み上げている少年の態度を見て、バベットが楽しそうに笑う。
「やるじゃん淫人ちゃん。イカせようとしたのに耐えきられちゃったよ」
 バベットはレイから離れると、自室でくつろぐかのようにベッドへ身を放り投げた。ボブカットされた茜色の髪の毛が軽やかに舞い、ベッドに身が沈むと乳房が揺れる。彼女の胸は仰向けになっても形が崩れないほどの張りがあった。
 キングサイズベッドはシングルクッション仕様なので、バベットが自室で使用しているダブルクッションのベッドほどには身が沈まない。だが、彼女は気持ちよさげな表情を作り、レイを見上げた。
 その仕草を見送るだけでレイの脳は痺れてしまった。すぐにかぶりを振って欲望に湧く心を断ち切ろうとすると、散髪していないので伸び放題の茶色い髪の毛が揺れる。
「もう帰れよ……。さっき戻ってきたばっかなのに、なんでもうバベットが来てんだよ。このタイミングとか有り得ないだろ」
 アーシアから介抱を受けて身体のダメージは回復したとはいえ、まだ疲労感は大きく残ったままである。眠りについて意識を飛ばさないかぎり、倦怠感は収まりそうにない。バベットの相手などしたくないのだ。
「ひ〜ど〜いぃ〜。せっかく時間作って遊びに来たってゆーのにぃ。なのにすぐ帰れとかさぁ、淫人ちゃん女の子に優しくないぃ〜」
「百七十年以上生きてるくせに、何が女の子だ」
「うっわぁー、酷すぎるぅ〜」
 バベットが頬を膨らませる。不満があるとこの仕草をする癖があるようだが、少年はそんな彼女が鬱陶しくて仕方がなかった。居座る気の満々な淫女王に対し、忌避する視線を送る。
「ああ、あァ……」
 アーシアが挙動不審となり、おろおろと室内をうろつき始めた。三枚の漆黒の翼を力なくコンクリートの床に垂らし、引きずり歩いている。
 それを見たレイは絶望の表情を作り、バベットへ文句を言った。
「ほらぁ。アーシアがああなっちゃうと元に戻ってもらうまでたいへんだっつーのに。バベットのせいだぞ。責任取って、今すぐ帰れ」
「帰れ帰れって。人間の世界ではレディファーストって格言があるんでしょ? しかもあたしのおっぱいがいらないとは。淫人ちゃん、言うね〜」
 レイは、バベットが緊張感もなく隙だらけで脱力しているさまを見ると、大きく溜め息をつかされた。
 強烈な張力を脇で味わった感触は残ったままであり、焼け付くように熱い。衣服の奥に眠っている乳首や乳輪は、どんな形や色なのだろうという考えがよぎると、少年は困惑した。
 彼女を見ていると発情させられる。強烈な存在感を有する乳房へ自然と目が行ってしまい、心が躍り狂いそうになる。
 バベットの胸? そんなもの、本音ではいるに決まっている。自分は思春期を迎えた男である。魅力的な女性に心惹かれるのは当然だ。それを、理性で押し返しているだけである。
 そんなふうに思った。
「ったく、もう」
 レイはなるべくバベットを見ないよう努めつつ、彼女が寝そべる横で尻を落とした。
 なにやら小言でぶつくさと独り言を言いながら大部屋をうろついているアーシアを、どう説得しようかと頭を悩ませる。
 これでは話を訊けないだろうなぁと思った瞬間、レイの空色の瞳が大きく見開かれた。
 狼狽しながらバベットを見下ろすと、自分の右手が彼女の左乳房を握っていたのである。
「この手は、なぁ〜にぃ〜?」
 淫魔の女王が挑むような視線でレイを見上げ、妖しく微笑んだ。拒否の態度は皆無であり、むしろこのまま引きずり込もうとしているかのようである。
 レイは手を離そうとするものの、右手は意に反して動かない。形を保とうと手を押し返してくる胸の張りが、掌から脳髄へ管楽器のごとき衝動を伴って轟く。
 無意識のうちにバベットの女性的象徴へ手をやっていたらしい。心は混乱を極めた。
 理性では当然やめるべきだと訴えている。ただ、心の内ではそのまま揉みたいという燻りが肥大していった。これが全身の火照りを激しくし、貧弱な胸板が汗に濡れる。
 このまま雪崩をうっては身を滅ぼすだろうし、滅びを免れても淫気喰いによる地獄の痛みを味わうのは確実だ。同時に、そうなってでもバベットを味わいたいという破滅の欲心がいや増す。
「淫人ちゃん、可愛いんだぁ〜。葛藤してるぅ〜」
 バベットは透明の粘液を吐き出している少年の若塔を眺めながら、軽やかに笑った。
 バベットの挑発に悩乱し空色の瞳が濁るレイだったが、何度も肩から大きく深呼吸を繰り返し、身体の火照りの沈静化に努めた。
 そんな少年の仕草をバベットはにこやかに見守った。
 自分を助けようとしてくれている人がいる。自分の帰りを待ってくれている人がいる。無謀な戦いに身を投げようとしている人がいる。
 心を見失っては駄目だ。いっときの快楽に目を奪われて己の目的を忘れては、すべてが露と消えてしまう。
 落ち着け、レイ──
 半ば自分を洗脳するように、心に刻んだ。
「……ダメだ、帰れ」
 レイはバベットの胸から右手を離すのに成功した。本音はこのまま抱きついて楽になってしまいたい。だが、それはいけないんだと、何度も自分に言い聞かせた。
 淫核化した心臓の奥にあるもうひとつの小さな淫核が憤怒を振り撒いている。
「なんでよぉ……。アーシアちゃあああん、淫人ちゃんがあたしをシカティングファイヤーするぅ〜」
 バベットが正気を逸しているアーシアへ助けを求めると、室内をうろついていた黒翼の堕天使が脚を止め、レイを見た。
「う……」
 レイは逡巡して呻くばかりとなった。
 明らかにレイに不満を含蓄している容貌である。それをひた隠しにしているつもりだろうが、完全に顔に出ていた。唇を尖らせ、眉をへの字にし、恨めしそうに銀杯色の視線を据わらせている。
 何かを言おうとしつつ我慢し、飲み込んでいるようだ。それが凄味となってレイを硬直させた。
「ねえバベット。アーシアが切れたトコ、みたこと……ある?」
 レイは自分の隣で横になっているバベットに声をかけると、ボブカットの淫女王は即答した。
「……ないです。絶対ヤバいと思うんだ、あたし……」
 バベットが上体を起こし、レイと並んでアーシアを見守った。
 猫背のバベットを横目にし、レイは慌ててアーシアへ視線を戻す。バベットは背筋を曲げているので、胸の谷間がより強調されているのを一瞥したためだ。彼女に視線をやるのは危険である。
 揉みたい触りたい揉みたい触りたい揉みたい触りたい──
 こんな葛藤を理性で押し込むので精一杯になる。視覚効果はすべてを裁断する暴走の鎌となり、自分の覚悟など雑草のごとく、易々と刈り取るだろう。
「レイ様──」
「はい、なんでございましょうか……」
 いっさい抑揚のないアーシアの声音に、レイは意味不明の覚悟を抱いた。背筋をまっすぐに伸ばして両手を膝の上に置くと、黙して待つ。
 アーシアは凝然とレイを見つめている。レイとバベットは黙って彼女を見ている。
 異様な空気であった。
 しばらくのあいだ沈黙の時間が流れたあと、アーシアはバベットに視線を移した。思い詰めたその表情はあからさまに辛そうだが、なにやら覚悟を決めたようである。
 アーシアが動いたのだ。
 淫乱の大罪により堕天した元天使は、床に垂らしていたままの三枚の漆黒の翼を折り畳み、肩から大きく息を吸い込んだ。白エプロンごしの大きな胸がさらに膨らみ、その後、一拍おいて決死の色をたたえながらレイへ視線を戻す。
 レイの額に冷や汗が滲むと同時に、アーシアは少し高めで澄んだ地声をさらに高らかにしつつ、一気に告白した。
「バベット様と勝負なさってくださいませっ。もしこのわたくしめの嘆願が叶うのであれば、最高級淫牛のシャトーブリアンを……、焼いてさしあげますっ!」
「その勝負、乗ったあああああアアァ!! 絶対に……勝ああああつっ!!」
「ぇー……」
 レイは勢いよく立ち上がると、バベットを正面から見下ろしながら指差した。その顔は真剣そのものであり、今までバベットとの濡れ場を断固として拒絶してきた態度とは正反対である。
 空間だけが広がって何もない大部屋にいるため、楽しみ事といったら日に一度与えられる食事くらいしかない。しかもシャトーブリアンなど口にした経験がなかった。
 アーシアの迫力に気圧されて乾いていた腔内は涎によって簡単に濡れ、バベットを峻拒していた苛烈なまでの決意を溺死させた。
 そんなレイを見たバベットは呆気に取られている。
「アーシアちゃんが何をするのかと思ったら、淫人ちゃんに人参大作戦て……。切れて暴れるものと覚悟してたのに。淫人ちゃんも淫人ちゃんで、簡単に釣り上げられた挙句にいきなりやる気モード全開って、捕らわれの身としてどうなのよ……。まあ、あたしは淫人ちゃんと遊ぶために来たんだからいいけども」
 バベットはレイの屹立し続けている股間を見ると食欲同然の情欲に掻き立てられ、支離滅裂なふたりの態度はすぐ気にならなくなった。ディアネイラが高級ブランデーと称して手放さない絶品を味わえる。その高揚感から不敵に微笑み、翠色の瞳を輝かせた。

 アーシアが退室し、レイはバベットとふたりきりになると、これからまた違う女と肌を重ねるのかと緊張した。
 淫魔という異界の種族とはいえ、肉体は人間のものと同様であり、しかも与えてくる快楽は自壊するほどに膨大である。
 レイにとって三人目となる存在も淫魔であった。その彼女は、眼前で立ち尽くしている少年を楽しそうに見上げている。
 猫背の彼女を見下ろすと、胸の谷間がとても深いのを改めて垣間見た。着衣しているペティコートによって潰されているふたつの果実はたわわを極めている。
 大きさ自体はアーシアのほうがありそうだ。だが、照明に照らされて濃い陰影を作っているバベットの深い峡谷から強烈な淫気が発せられており、その存在感はアーシアのものとは比較にならなかった。
 アーシアの乳房に存在感がないのではない。実際、アーシアの胸に埋もれて酔いしれ、何度も我を失っている。最高と言える持ち物なのだ。
 それを凌駕するバベットが爆発的存在なのである。
 レイの股間は限界まで膨れ上がったまま、もう何度目になるだろうか、先走った迸りによって、桃色の亀頭は濡れきっていた。
「どぉしたのぉ〜? 好きにさせてあげるから、おいでよぉ〜」
 バベットが余裕の態度で手招きしながら、レイが来やすいよう両脚を開く。薄地のスカートから僅かに太腿とショーツが現われると、少年は釘入ってしまった。
 童顔のバベットには不釣合いな肉付きのよい脚である。部屋の明かりの照り返しによって粘つくような彩りに輝き、清廉さは欠片もない。この脚でどれだけの男たちが悶絶してきたのだろうとレイは生唾を飲み込み、心悸を高鳴らせた。
 レース編みされた純白のショーツなど、清浄への挑戦である。ボブカットされた茜色の毛髪と同色の恥毛が浮き上がり、白という清潔たる存在を妖美の概念に捻じ曲げていた。
「ディーネちゃんやアーシアちゃんに鍛えられてるだけのことはあるね〜。あたしがこうまでしてるのに正気を保ってられてるんだもん。ふっつ〜、あたしが脚開いたら、どんな男でもそれだけで狂っちゃうんだよ? 見事だよ、自信持っていいと思う」
 淫界の女王は小首をかしげながら大きな両目を細めた。
 その一挙手一投足が凄艶であり、レイの呼吸は次第に荒さを増していった。
 すごすぎる。それしか感想がない。
 いつ抱きついていってもかまわない状況を作り出されているというのに、足の裏がコンクリートの床にへばりついたかのように動かないのは、バベットの魅力に当てられて金縛りに遭い、触りにすら行けないからだ。尻込みしていると言い換えてもいい。
 彼女の翠色の瞳と見つめ合うと、おいでよと黙して訴えてくる双眸に文字どおり吸い込まれそうになって喘いだ。
 ディアネイラの艶美さとも、アーシアの優美さとも異質な雰囲気のある淫魔である。女王らしいが、そんな空気をいっさい感じさせなかった彼女に対し、ここにきて王の威厳を肌で感じ取っているのかもしれなかった。
 隠しても溢れている膨大な淫気によってバベットが一介の淫魔ではないのは理解できるし、個体の存在感と張り合えるほどの強圧的な乳房がレイの心を容赦なく掻き乱す。
 何もしていないのに射精感が込み上げていた。
「あのさぁ、いつまでもあたしの目の前で勃たせてると、しゃぶっちゃうよ?」
 レイは仰天して後ずさった。動けた事実よりも、淫魔とはいえ女性の顔に自分の股間を近付けていたのに恥じ入り、赤面した。淫魔にとってはむしろ歓迎すべき状況だろうが、自分は人間としての心をもっている。それを失うつもりは毛頭ない。ただ失礼だという思いが先立っての、咄嗟の行動であった。同時に、咥えられたらそこで終了だという思いと、それもでよいという思いが同時に交錯し、複雑な精神が不協和音を奏でた。
 レイはひとつ息をつき、緊張が極限になりつつも、どう手合ったらよいかと黙考した。勝ち目があるとは思えないが一矢は報いたい。あの胸は危険すぎるから手を出してはいけないと理性が訴え、存分に触り吸えと欲望が仄めかす。
 理性が飛んだら終わりだと思ったその矢先であった。
 バベットが薄笑いしながらペティコートの胸元に手を添え、そのまま腹まで下げてしまったのである。
 どんな彫刻家でも再現できぬほど均整の整った乳房は、上半身とも調和をとって全身の美しさを完全なものにしており、まだ突起していないざくろ色の蕾が艶冶にレイを誘う。
「こんなの無理だ……」
 椀型の質量豊富な肉の塊がレイの空色の双眸に飛び込んでくると、たまらなくなった少年は呻いた。バベットを乱暴にベッドへ押し倒すと、頭は淫女王の乳房を愉しもうとする心で充満してゆく。
「やん、強引なんだからぁ」
 そう言いながらバベットはレイの瞳を見つめ、口の端を妖しく釣り上げた。
 レイは、バベットが横になっても形が崩れない胸を凝視しながら、僅かに残っている自分の意識を整頓した。
 万が一にでも自分が勝てれば淫界がひとつ滅亡する。淫界は創造者たる女王が消滅すると世界の保持が不可能となり、崩壊するからだ。
 そうなれば人間の滅亡を防ぐ一助になるのは確実だ。責任重大な状況に立たされた自分は、やるだけやらなければならない。
 のだが──
「すごいおっぱい……」
 レイは両膝と左手をベッドについて支えとし、バベットに覆い被さったまま右手を伸ばした。伸ばした先は、当然バベットの乳房である。彼女の左胸に軽く触れると、掌に肌の質感が伝わり、全身が激震した。
 触ったのは自分のほうなのに、吸い付かれた感触があった。まるで強烈な磁力だ。
 張った肌の奥から、まったく動じずに律動する女王の鼓動が伝わってくる。自分の高鳴りは、彼女の数倍ほどもあった。
 黄金の宝玉が腹腔へ格納されていったが、レイは気付かなかった。
「んっふふ〜。そうっしょ〜? 淫人ちゃんだけが好きにしていいんだよ? この、淫界を束ねるあたしのおっぱいをね。淫女王を好き勝手にしていいなんて機会、そうはないよ〜」
 バベットの挑発に、レイの淫欲は歓喜した。独占欲を刺激されると身体中が燃えるほどに熱くなる。敵とはいえ女王という高貴な存在を自分が好きにしていいという。その他大勢という枠にくくられる一般人でしかないレイにとっては、夢想だにできない奇跡のように思えた。
「もっと力を込めていいから、ぎゅって掴んでみなって〜」
 バベットがレイの右手首を両手で掴むと、力強く押し付けた。
 ひしゃげる乳房が元に戻ろうと、レイの掌に抵抗を加える。掌の中に隠れている小さなしこりにも小突かれると、レイの脳は溶け落ち、こめかみは殴打の衝撃を受けた。
「うぅ……。揉みたい──」
「だから、なんでもしたらいいじゃん」
 あっけらかんと淫界の女王が即答すると、レイは無遠慮な男の握力で、バベットの乳房を握るように揉んだ。
「やっ、痛い……。お願い許して……」
 口ではそう言っておいて、バベットの容貌は破顔している。だがレイの目は血走った。
 女王という存在が屈服したらどれだけ心地よいだろうか。そんな邪念がよぎったのだ。
 驕慢なもの思いに駆られたレイだったが、巨大な射精感によって即座に顔をしかめてしまった。
 ただ少し胸を触っただけなのにと、下唇を噛む。
 バベットが口の端を釣り上げると、「さあイけ」と、ぞんざいな口調で言いつけた。
「く──っ」
 レイは渾身に力を込めて射精感に対抗した。右手は痺れているものの、独立した意思をもったかのようにバベットの胸を揉み続け、張りからくる快楽を享受し続けた。目視はできないが、卑猥で生ぬるい感覚が右手を覆っている。おそらくバベットの淫気に包まれているのだろうと思った。
「耐えなくてもいいじゃん。何度もイってさぁ、何回も気持ちよくなっていいんだよ〜。飽きるまで付き合ってあげるしぃ」
 バベットが意見の正当化を謀っているのは見破ったが、その誘惑は魅力的であった。こちらが潰れるまで付き合ってくれると宣言されたのなら迷う必要はないという思いが一人歩きしだし、レイは自分を叱咤した。
 こんな状況は望んでいなかった。食欲に負けてアーシアの提案を受け入れてしまった自分は愚劣だが、いつの間にやら、自堕落を許諾する意識を抱くはめになっている。
 これが淫魔の魅了という力である。強靭な精神力を有する人間でさえ、簡単に欲情するほどの魅力が淫魔にはあるのだ。一介の学生にすぎなかった自分が、それも淫女王に対抗しようなどとは、おこがましいにも程度があったようだ。
 レイは完全にバベットに当てられていた。たしかに、バベットは可愛いと思う。翠色の瞳に見つめられると胸が高鳴るし、愛嬌豊富な表情もいいと思う。芸能人として人間界に出たら、人気者になるまでにそう多くの時間は要さないだろうとすら思った。
 そのバベットの肌に触れているのだ。平静を保てといわれても、難しい。それが淫魔であってもだ。むしろ、淫魔だからこそ、なのかもしれなかった。
 僅かな意識ですら、もう消失しようとしている。
 なにがなんでも生還しなければならない。
 それだけが頼みの綱であった。
 レイは一矢だけでも報いてみせると決めているので、燃え上がる淫情に支配されそうになりつつも、バベットを刺激しようと目論んだ。
 左胸を揉んでいる右手はそのままに、バベットの右胸へ顔を落とす。まるで反応せずに眠り続けるざくろ色の乳頭を眼前にすると、艶やかな存在に自分の淫気が勝手に放散させられた。負けじと口に含もうとすると、バベットが発言してきたので動きを止める。
「やっぱカッコイイと思うよ。そうやって頑張ってる男の子って大好き。イカせたかったけど、まあいいか。じゃあ、あたしを感じさせてみなよ。気持ちよくしてくれたら、淫人ちゃんの味方になってあげる」
 バベットがレイの頭を掻き抱くと、自然とレイの口に小さな突起物が含まれた。
 レイは唇に伝わるしこりの強い乳首に愕然とした。まだ勃起すらしていない小さな蕾はレイの脳裏に激烈な存在感を示し、自分の苦塔に肉体的な刺激を与えもせずに、射精感を昂ぶらせてくる。
 レイはバベットの小さな豆を咥えたまま苦悶のような喘ぎを漏らし、目を瞑った。普通、目を閉じれば黒い世界に招いてもらえるものだが、その色はざくろ色に染まっていた。
 混乱して目を開け、乳首を吸いながらバベットを見上げると、彼女は笑っていた。
 勝ち誇ったかのように。
 不意に、腔内に液体が流れ込んできた。
 レイは驚いて口を離すと、バベットの左乳首から白いものが流れていたのが見えた。驚いた拍子に流れてきた乳液は嚥下してしまい、何かされたと理解する。
 それは非情なほどに甘かった。砂糖でティーカップを埋め尽くされた紅茶でも、ここまで甘くはないのではないかと思う。
「たださ、そういう子を堕として眺めるのって、──最高なんだよね」
 レイの脳が揺れ、目が霞む。バベットが何人にも増えたように見えたので、何度もまばたきを繰り返し、焦点を合わせようとする。ただ、そうしている間に身体の火照りが火炙りのような錯覚をもたらした。
「何を……した……」
「べっつにぃ〜。ちょこっと気持ちよくなりやすい母乳を飲ませただけだよ〜」
「母乳が出るってことは、子供がいるんだ。まあ百年とか生きてるんだし、王族だったら血筋確保は最低限の仕事か」
 レイは霞む目を擦りながら言った。
 淫魔の世界は詳細には判明していない。よって人間世界での常識を口にした。バベットは意にも止めていないようである。
 違うのかと思った。
 一矢報いるという思いが次々と湧き上がってゆく。なぜかは分からないが、責任感を抱いたレイは、また左の乳首を口に含むと、強く吸いながら舌を使って舐めた。
 頭はアドレナリンが充溢して心地よい眩暈をもたらしつつも、不思議と意識は鮮明になっていった。頭中ではバベットを感じさせよという指令が大音声で狂乱の歌声を上げている。
「あ〜、いないいない。子供作っちゃったら大きくなるまで世話に翻弄されるっしょ〜。えっち三昧な生活送れなくなるのはイヤだから、今後も作る予定はないよ〜。あたしの淫界は、あたしが死んだらそれでおしまい。それでいいの。で、母乳なんだけど、乳魔って妊娠しなくても自在に作れるんだよ。効能は個人差があるから一概には言えないけど、あたしはいろいろ作れるんだ。今もちょこっと作って、淫人ちゃんに飲ませてみたんだけど、どぉ? 弾け飛べるっしょ〜」
 確かに、弾けるような心地よさがあった。胸を揉んでいた右手を離して覆い被さった姿勢を保つための支えとし、支えとしていた左手をバベットの右胸に添えると、搾ってみる。
 母乳は出なかった。だがそれは頓着する必要はない。唇を刺激する眠ったままの乳首を吸っていると、ふと子供を作るというバベットの発言に意識が止まった。
 顔を上げる代わりに両方の乳首を指でこねながら、訊ねてみた。
「淫魔が淫気を確保するには膣内吸収が最も効率的だってのは教えてもらったけどさ、中に出させたら妊娠するでしょ? そうなったらどうしてんの?」
「あっ、淫魔の秘め事に食い入ってるぅ〜。あたしから得た情報を持ち帰って、人間たちの知識として役立てるつもりだなぁ? でも淫人ちゃん可愛いから教えちゃう。作ろうと思えば簡単に作れるし、作る気がないならどうあっても妊娠しないよ。ようするに、自分の意思ひとつで好き勝手にできるってわけ。都合いい生き物っしょ〜。ほれほれ、教えてあげたんだから吸った吸った」
 バベットに促されると、レイは黙って乳首を口に含み、転がした。そろそろ射精感が限界を迎えそうだ。興奮も頂点に達している。
 快楽が本能である淫魔が妊娠ばかりしていては本末転倒だから、バベットの発言のような進化をしたのだろうかという思いが浮かんだが、それも一瞬のうちであった。
 考えたところで答えは出ないし、何より、今はバベットの乳房を愉しみたい思いが強い。
 乳首に歯を立て甘噛みし、引っ張り伸ばしてみた。乳房が持ち上がるが、下へ戻ろうとする力が強い。淫猥に音を立てながら口を離してみると、乳肉はすぐに所定の形を取り戻そうと揺れ動き、数度の振動で形を戻して静止した。
 バベットは自分の両腕で腕枕をしながら泰然とレイを見ている。
 鮮明すぎる自意識が鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていた。ただし、バベットに快楽を与えたいという考えばかりが先行し、牢固として動かない。
 それに輪をかけて己の春情がバベットの胸を欣求し、淫核化した心臓の中にある、精霊が封じられているもうひとつの小淫核が、乗算の勢いとなって欲望を付与してきた。
 何を失ってもこの乳房だけは失いたくない、そんな気分にすら駆られた。
 レイは乳魔女王の左胸へむしゃぶりつくように顔を沈め、乱暴にざくろ色の乳首を吸った。舌を出して乳首と同色の乳輪の淵をなぞりつつ円を描き、また乳首を吸う。
 唾液によってバベットの左胸は濡れ汚れ、レイがなんらかの行動すると、そのたびに淫艶な水音がしたたった。
 無味なのだが美味という感触が舌に伝わっている。どんな山海珍味でも彼女の果実には比類しないとすら思った。ひと舐めごとに乳首の質感が鋭敏に舌を襲い、身を震わせる。
 いっこうに膨らまない乳房の先端には苛立つものの、唇に当たっている胸の張りによって一蹴されてしまった。
 気が付くと、自分は射精していた。
 負けたと思って股間を覗いてみると、それは精液ではなく、カウパー粘液だった。どうやら錯覚だったようだ。
 ただし量が尋常ではなく、バベットの腹に垂れ落ち、臍のひずみにも流れて溜まっている。
 とりあえず胸を撫で下ろす心地となったレイは、気を取り直して最高だと思っている乳房へと猛撃した。よいと思う刺激がバベットに伝われば、必ず膨らむはずなのだ。
「ちょこっと思うんだけどさ、そうまでして頑張って、その先になにがあるの? 生きて帰れる保障なんてないのにさ。えっちな気持ちになって面白おかしくしてたほうが楽っしょ」
 絶望的な発言をされたレイは顔をしかめたものの、眼前に迫り来る困難をコツコツとクリアしていくんだと決意していただけあり、喪失感は抱かずにすんだ。
 右の胸元へ舌を這わせると、そのまま胸の付け根をなぞった。頭を動かして舌が淵からずれないよう調整しつつ、谷間をなぞり、下乳を通り、腋まで到達させる。
 右胸でその動きが終了すると、今度は左胸でも同様におこなった。
「あはは、おかしなことしてるぅ」
 バベットは笑いながらもレイを支援するため、左胸を持ち上げてなぞりやすいようにしてやった。
 乳の下側に到達した途端にバベットが胸を持ち上げるのをやめたため、胸が元の形に戻ろうとして勢いよく弾み、レイの頬に直撃した。
 レイは快楽を伴う重みに呻いたものの、なんとか腋までなぞり終え、息をつく。
 唾液で照り返る両乳房を見ると、もっとという欲求が心から氾濫した。
 先端のものは、相変わらず変化がない。
「こうまでしたら、さすがのディアネイラだって少しは気持ちよさそうにするってのに、バベットはなんなんだ」
 文句を言いながらもバベットの両胸を揉む。左右に激しく揺れ動かして乳房を振動させる要領でおこなうと、その重たい感触に脳が痺れた。
「ほんじゃあ、可愛い淫人ちゃんのために、あたしらの攻略法を教えちゃおうかな〜。アーシアちゃんは感じやすい子だけど、その持久力はとんでもないことになってるわけ。だからアーシアちゃんに勝つには長時間耐えきる体力が必須だね。あたしは逆で、すぐには感じないけど、気持ちいいのに弱いの。だって気持ちいいと嬉しいから、狂っちゃうんだもん。ディーネちゃんは、どちらも両有してる感じ〜。ちゃ〜んと参考にして、あたしら淫魔に絶頂という最高の時間を与えてね」
 バベットまで死より快楽を優先させる発言をしてくる。以前、ディアネイラにも同じ発言をされた。おそらくアーシアも同様なのだろうし、淫魔全体がそうなのかもしれない。
 実の兄と慕っているファンに斃された淫魔が、死を迎えていながらも嬉しそうにしていたのが、その思いとなる根拠となった。
 だが教えられた攻略法は、なんの参考にもならなかった。
 次元が違うのである。
 アーシアと狂淫の精霊の戦いは見ている。あれの再現など自分は百分の一ほどにもできはしない。アーシアに本気で責められたら自分は刹那で果ててしまうし、つい少しまえにはディアネイラに搾られたばかりだ。
「イッたこと、ないの?」
「そんなのイキまくってるに決まってるっしょ〜。淫魔はイクためだけに生きてるような存在だもん。ほかに生き甲斐なんてないしぃ」
「矛盾してるだろ。イッたら死ぬんでしょ?」
「同族とえっちすれば死なないよ」
「だって、淫魔に男なんて──」
 発言の途中で、いるんだと知り、言葉を止めて驚いた。
 淫魔に男性は存在しないというのが人類の定説である。
 女性のみの存在である淫魔は、種の保存と繁栄のためにも他種族と交配する必要があり、人間たちがその標的になっていると考えられていたのだ。
 自分もディアネイラ、アーシア、バベットという、女性淫魔としか面識がない。バベットの淫界へ赴いた際にも、女性の淫魔しか目にしていなかった。
 これは世の中の常識が覆る。たいへんな情報を得てしまったようだ。
 驚愕の表情を浮かべているレイを、バベットは何も言わずに凝視していた。
 レイは慌ててバベットの胸を揺らす動きに、より力を込めた。いっそうに舞い踊る乳房の視覚効果が射精感を限界寸前に追い込む。
 少年は限界を迎え、女王との結合を心から希求するようになった。
「もう無理。このままじゃイっちゃうから……、挿れたい」
 右手をバベットの下半身へと滑らせた。穿いたままのスカートの中へ手を入れて股間を探り当てる。だが高貴な乳魔は両脚を硬く閉じ合わせているので手が入らなかった。
 心臓は爆発的な鼓動を繰り返しており、焦燥感が膨らんでゆく。 
「な〜ま〜い〜きぃ〜。あたし淫界で女王やってるの。満足におっぱいを扱えない子に、そんな簡単に許しが降りると思う?」
「思わない……」
 レイは悔しそうな表情となった。
 このままでは身体的刺激すら受けられずに絶頂させられてしまう。これでは一矢報いるどころか、完全敗北にも及ばない。
 バベットは脚を閉じ合わせているのだが、股間には僅かに隙間があった。指なら入りそうなので、中指を空間へ紛れさせてみると、試みは成功した。
 下着越しに王者の谷を探る。すると、焼け付くような熱を感じ取った中指が、レイの意識から離れて勝手に動き始めてしまった。
 複雑な仕組みのはざまは両脚と同じく閉じられており、割り開こうと中指が上下に動く。その柔らかい触感にレイは興奮し、全身が紅潮した。
 彼女の凶器は胸だけではないのを知り、淫女王がいかに強大な存在なのかを思い知らされた。
「あはは。そんなにしたいんなら、挿れてもいいよ。淫人ちゃんはお友達だもん」
 バベットの矛盾した発言から自分が揶揄されていると悟ったが、むしろ了解を得られて救われた思いになった。
 魅力的な愛嬌のある女王に挿入できる。その狂喜が顔に出ないよう努めるのは、たいへんな作業だった。
「ただし、ここにね」
 バベットは、自分の純白の下着に手をかけてきたレイにはかまわず、両胸を寄せて悦楽の大峡谷を形成した。
 下乳に僅かな穴を開けてレイの苦塔をいざなう用意を整える。
 第二の挿入器官が現われると、レイは感嘆の吐息をついて、バベットの下着を下ろす手を止めた。
 胸の寄せ方にも工夫がある。膨らみもさせられなかった乳首は谷間に向けられており、刺激物として待ち構えさせたのである。
「こうゆーこと、したことあるぅ?」
「ない……」
 レイは上体を起こすと、バベットの腰の上に跨った。そのまま坐ってしまうと自分の体重で苦しくさせてしまうと、尻は持ち上げたままにした。
 敵へのいらない気遣いに、レイは気付いていない。
(死ぬかもしれない──)
 そんな予感を抱きながらも心は期待で満ち溢れ、吹き上がる額の汗を右の下腕で拭うと、ゆっくりと腰を寄せていった。
 桃色の亀頭が胸に触れる直前で動きを止め、バベットを見下ろす。彼女は「いつでもおいで〜」と、屈託のない笑みをもってレイをいざなった。
 苦塔は痙攣を大きくしており、すぐにでも絶頂しそうであった。透明の粘液を大量に噴き出しているので、先端は濡れ光っている。
「十秒耐えたら淫人ちゃんの勝ちでいいよ。あたしに勝ったら、ひとつ願い事を叶えてあげる。さ、いらっしゃ〜い」
 もうどうにでもなれとばかりに、挿入を開始した。実際にはここで得られる快楽は甚大なはずだという見込みもあった。
 バベットが作っている穴に先端が触れると、地鳴りのような衝撃が襲ってきた。レイは顔をしかめつつも、腰を突き出して挿れようとする。
 だが張りが強すぎて硬いとすら思うその部分には入らなかった。一拍おいて、さらに腰へ力を込めると、再度、突き出してみる。
 今度は亀頭全体が谷間へと消え去った。バベットは谷間を形作るだけで腕に力を込めていないのだが、中からとても窮屈に締め付けられた。
 膣内とは異なる挿入感に感動すら覚えると射精感が限界に達しそうになった。慌てて動きを止めてまだイクなと黙して訴えながら、尻の穴を締める。それでも白いものがひと雫だけ垂れてしまった。
 レイは敗北感から暗澹となった。
「耐えてるからおまけしてあげる。その代わり、挿れ終わるまでカウントなしだからね」
 より追い込まれた感があるが、負けと決められなかっただけましだと言い聞かせると、苦塔の痙攣が続いたまま膝行して距離を詰め、さらなる挿入を開始した。
 張力が強くて押し返されてしまい、中に入っていかない。このまま立ち往生していたら、今度こそ無様すぎる射精をしてしまう。
「だあああ、ちくしょー。挿れてやるっ!」
「おぉ〜、その調子ぃ〜」
 レイは裂帛の気合を入れると、バベットの乳房を掴んで支えとし、全力で腰を突き出した。
 岩盤を砕いてトンネルを貫通させる掘削機のごとくに突き入れると、亀頭が乳首の位置に到達した。豪雷の衝撃を受けたが、突き入れた腰の力強さによってすぐに通過する。ただし、乳首は次に竿へ襲い掛かった。
 そのまま苦塔の付け根がバベットの下乳と密着すると、動きが止まる。
 そのときの感覚に慄然とした。
 バベットの肉の谷間は、すべてを潰す圧縮機そのものだ。さらに、熱したフライパンに添えたバターのように、溶けてなくなってしまうと錯覚するほどの甘い触感と焼ける熱に、レイは打ち震えた。
 乳魔の膣は、胸にもあったのだ。
「じゃ、いくよ〜? はい、い〜ち──」

 レイの目に白い迸りが飛翔する。
 すかさずバベットが口を開いて収穫する。

 この光景を、時間が止まったかのように、緩やかに確認した。
 その後、レイは射精による快楽を得ようと、乳房を握る手に力を入れ、遠慮なく腰を振った。
 勝負事など微塵も意識のうちにはない。打ち壊す覚悟で腰を振れば、きちんと抽送されるのを知ると、さらに腰に力を込めた。
「痛い」とバベットから苦情が聞こえたが、レイは手の力を緩めずに握り潰したままを保持している。
 乱暴すぎる動きによって精液が飛び散るため、バベットは少年の果塔を口に咥えると頬をすぼめて吸引した。
 レイは胸の刺激だけでも気絶しそうなほどの感覚を覚えているというのに、口による刺激まで加わってしまい、射精中にも関らず、二度目の射精が起きた。
 膨大な快感が背筋を張り詰めさせ、背中を仰け反らせながら絶叫する。それでも腰の動きは止まらなかった。
 腰を突くとバベットが舌を絡ませてきて亀頭を舐め取ってくる。腰を引くと吸引され、抵抗による快楽を作り出された。
 竿の部分は乳房に押し潰されつつも前後運動に余念がない。しこりの強い小さいままの乳首が、射精する粘液がより飛ぶよう肉竿をしごく。
 甚大な愉楽によって意識が飛びそうになると同時に、淫気喰いが始まった。
 二度目の射精中だったが、一度目の射精は終了しているので、周囲にある淫気を喰らいだしたのだ。
 獲物は女王の力である。
 卑猥で生ぬるい感覚が心臓へ入ってくると、疲労感を蓄えたままのレイの身体が、バベットの高密な女王の淫気を吸収して悲鳴をあげ、心臓が握り潰れされる痛みに見舞われた。
 快感を凌駕してきた痛撃で我に返ったレイは、苦悶の雄叫びを発し、仰け反らせていた背中をそのまま後ろへと倒してしまった。
 後ろにベッドはない。レイは頭からコンクリートの床に落ちた。
 鈍い音が室内に鳴り響く。
「淫人ちゃんっ」
 バベットが唇に付着しているレイの精液を手の甲で拭いつつ、ベッドから身を乗り出して覗き下ろしてきた。
 後頭部をしたたかに打ち付けてしまったので目に火花が飛んだ。ただし、心臓の痛みに比べたら天地の差だった。
 その心臓の痛みも、なんとか耐えきれそうである。耐えられない痛みならば、すでに発狂して意識がないはずだからだ。痛みを感じ続けられるのは、無事な証拠でもある。
 レイは射精中の精液を無残に飛び散らせつつも、親指と人差し指で円を作り、大丈夫というサインを弱々しくもバベットに送った。
 バベットがベッドから降りてくると、顔のすぐ横に腰を落とし、レイの頬を撫でる。
 レイは薄目を開けて女王を見上げると、大きな乳房が眼前に広がった。谷間に自分の惨めを晒した液体が、数滴ほど粘着しているのが見えた。
 淫気喰いの最中だというのに、バベットの上半身を見るとまた発情した。痛みをこらえるのに集中しているのだが、両手が勝手にバベットの胸へ伸び、到達すると同時に揉んでしまう。
 この重みがたまらない心地よさであった。
「わぉ、絶倫〜」
 レイの無事を確認したバベットは、安心したように微笑んだ。胸への愛撫は好きなようにさせてくれるので、少年は退廃的な淫情に支配される感覚を味わいつつも、やめられなかった。
「ご馳走様〜。ほんっと、ディーネちゃんが言うとおり、淫人ちゃんの精気は絶品だね〜」
 バベットは胸に付いている残りの精液を指ですくうと、音を立てながらしゃぶった。
 その仕草に淫気喰いとは異なる衝撃がレイの心臓を襲い、呻吟する。
「心臓、まだ痛む? でも勝負は淫人ちゃんの負けだよ〜。罰としてもっと味わいたいトコなんだけと、まあ可哀想だから保留にしといてあげる〜」
 バベットにウィンクされると、その色気に気圧された。黙ったまま淫気喰いが終了するのを待ちながら深呼吸を繰り返し、痛みを押し退ける作業をする。
 結局、十秒耐えたら勝ちにしてくれるという、屈辱的ではあるが破格の譲歩ですら及ばなかった。
 恥辱心を抱かずにすんでいるのは、バベットの明るい笑顔に解きほぐされるからかもしれない。もしくは、射精後でも欲情している自分が、バベットに手を伸ばして恥じ入る気持ちを蹂躙しているからかもしれない。
 魅了の力に飲まれているのかもしれないが、どうでもよかった。
 二回分の長い淫気喰いが終了すると、心臓の痛みが徐々に引いてゆく。そのあいだもレイはバベットの乳房を揉み続けた。果塔は身体の疲労など無視して当然のように屹立し、痙攣している。
「なんだろう……。もっと挟んでほしいって思ってる……。でも、これ以上は死ぬよなぁ」
 レイは横になったままバベットを見上げた。手の動きは止まらない。
「だね。んまあ、あたしとえっちしたかったら、いつでも遊びおいで。また鍛えてあげる」
 鍛えるも何も、一方的にやられただけにしか思えなかった。ただ、バベットの淫気を取り込んだ自分は、淫気の質が向上しているのを知覚した。
 堕落の力が淫核化した心臓に色濃く息づき、全身を駆け巡っている。疲れきっている身体を破滅に追い込もうと色情を否応なく昂ぶらせ、天井に向けられている果塔の硬度をいっそうに強くしていた。
 淫気を使うには今は危険すぎるのだが、増幅した力を試してみたくなった興味心に負け、少しだけ右手に淫気を集めてみた。
 親指と人差し指でバベットの左乳首を摘んだあと、心臓から指先へ淫気を集めるよう想像を強める。すると、生命が吸われていく感覚に見舞われつつも、指先が薄紫色の波動で包まれた。その力は弱々しいものの、今はこれで充分である。
 感じろと念じながらこねた。
「おぉ? 淫気の使い方を覚えたね」
 バベットの左乳首が突起した。

 アーシアは約束どおりに最高の肉料理を出してくれた。
 バベットが食事にちゃっかり同席したので文句を言いつつも、レイはアーシアの手料理を満喫した。
 疲労感が大きすぎるので少々重たい料理だったが、舌鼓をうつほどの味によって肉厚のステーキは綺麗に完食でき、食事を終えると、気絶も同然に早々と眠りについた。

背徳の薔薇 肉欲 了
第十三話です
 本年度初投稿です。時節を逸しておりますが、みなさまよろしくです

 メッセージありがとうございました。感無量です。続きを書きたいという意欲に直結しました

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