アマゾネスの王ヒッポリュテは、その勇武と美貌で天上天下に聞こえいた。輝かんばか
りの純白の肌を血糊の紅で彩った姿は、天上の神々すらも虜にするほどだったし、またそ
の弓術といえば天空を飛ぶ鳥を過たず落とし、槍を振るえば戦士一個小隊を軽く屠るとい
った有り様であった。
しかし一方で、アマゾネスの残虐さを知らぬ者もいない。女だけで構成されるアマゾネ
スの社会では子供を作ることができないので、近隣の男をさらってきては交わって精を搾
り取り、あげく男が社会に入り込むことをおそれて殺してしまうのであった。そのアマゾ
ネスの長たるヒッポリュテがギリシア中から畏怖されるのは当然のことといえた。
あるギリシアの国に、オネロスという精悍な若者がいた。齢十七、八。武芸に秀で、ま
た女たらしの精力家として名を馳せていた。
彼の祖国はアマゾネスの本拠地テミスキュラに近いため、しばしばアマゾネスの来襲を
受け、若い男を根こそぎ奪われていた。事態を憂えた国王は、ある日オネロスを呼び出し
て、言った。
「もしアマゾネスの王ヒッポリュテを倒せば、汝の望むだけの報酬を与え、私の娘をやろ
う。また、討伐にあたっては我が国の兵士をつかわす」
オネロスは恭しく答えて、
「光栄に存じます陛下。いかなる困難をも乗り越え、ヒッポリュテを召し捕り、その証と
して彼女の腰帯を持ち帰りましょう」
かくして、オネロスは屈強なギリシア兵士とともにアマゾネス討伐の途上についたのだった。
テミスキュラ郊外の森で、オネロスの一行はアマゾネスの兵士と遭遇した。大柄な体を
した隊長格とおぼしき女が前へ歩みでて、
「貴様ら、ここをどこと心得るか。われらが王ヒッポリュテ様が治め、アルテミス女神の
守護を受けし地であるぞ。男の分際で踏みいるとは無礼千万。命が惜しくばとくとここか
ら立ち退くがよい」
後ろに控えるアマゾネスの兵士たちが弓を構えて引き絞り、オネロスたちにねらいを定
めた。オネロスは肩をすくめ、答えた。
「私はオネロス。王の命でそのヒッポリュテを討ちに来たのだ。お前たちの侵略によって、
私の国は多くの被害を受け、人命を損なった。お前たちはその暴虐の対価を支払わなけれ
ばならん」
言うが早いか、オネロスと兵士たちはアマゾネスに打ちかかった。
軍のなかでも精強を誇る兵士であるだけに、攻撃の勢いたるや激流のごとしで、女兵士
の十人やそこらあっという間に倒せると思われた。しかし、勇猛をもって知られるアマゾ
ネスは、その勢いにまったくひるむことなく、構えた弓から必殺の矢を繰り出す。鏃は兵
士たちの胸板を、まるでそれが紙切れであるかのように易々と貫き、近づくことさえかな
わず数人の兵士が屍となった。
それでも、兵士たちは動かなくなった同朋を踏み越え、勇気を奮い起こしてアマゾネス
に打ちかかる。アマゾネスは弓を捨て、腰の鉄剣を手にそれを迎え撃った。
そこからは、一方的であった。弓の攻撃で腰が引けていた兵士に対し、アマゾネスは士
気旺盛。そのうえ、アマゾネスの膂力は常人男性の数倍になるのである。瞬く間に剣を折
られ、組みふせられ、首をはねられたり、串刺しにされたり、ひどいものは片手で首をし
められくびり殺された。
オネロスは味方の兵士の惨状を見て自分の失敗を悟るとともに、同朋を失った義憤に駆
られて猛然とアマゾネスに打ちかかった。勇武の誉れ高い戦士オネロスは、昂揚するアマ
ゾネスの軍勢をものともせずに勇戦し、一人、二人とアマゾネスを屠った。
「皆のもの、退けいっ」
隊長格のアマゾネスの怒号が響く。すると、アマゾネスの戦士達はぴたりと戦いをやめ、
剣を納めた。しかし、もうオネロスの従者はほとんど生きてはいなかった。
「……オネロスよ。貴殿の勇猛に敬意を払い、私が相手をしよう」
一騎打ちの申し出を、オネロスは快諾した。これ以上戦いが長引いては、やがて体力が
尽きてしまうのは明らかだったからだ。
「はっ」
と、気合一閃、先手を打って跳躍。間合いを詰め、首もとへ突きを繰り出す。不意の攻
撃は確実に急所を捕らえたかのように見えたが、敵の俊敏さは予想以上で、易々と剣撃を
なぎ払われる。反動を利用して後退し、間合いをとった後、剣を構えなおして打ちかかる。
二合、三合。鋭く容赦ない攻撃を浴びせかけるも、隊長格のアマゾネスの防御は固く、
決定打にならない。
五合、六合。次第に劣勢になってくる。ずしりと重い剣撃を受け続けたため、手がしび
れてきた。
十数合もすると、ついに手の感触がなくなり、剣が宙を舞った。そして、刹那、重い衝
撃が走る――峰打ちだった――意識はだんだん遠のいていき、視界は闇に包まれた。
* * *
オネロスは目覚めると、神殿のなかにいた。つくりの良い建築で、最奥にはアルテミス
の女神像が安置されている。なにかの香と女の体臭が混ざり合い、なんともいえぬ甘酸っ
ぱい果物のような匂いで満たされていた。
「目が覚めたか、痴者(しれもの)」
ぼんやりとした視界に、司祭のような格好をした女がいた。アマゾネスの宗教指導者な
のだろう。とっさに組みつこうとしたが、体が動かない。感覚の戻りつつある四肢からは、
締め付けられるような痛みが返ってきた。抵抗できぬよう、縄で縛られているらしい。
「ここはどこだ」
「アルテミス女神の都、テミスキュラだ」
オネロスは全てを悟った。アマゾネスにやられ、捕らえられて神殿に引き出されたのだと。
「私をどうする気だ? 殺すか」
「さあ? 全てはアルテミス女神の御心のままに。今から、貴様が助けるに値する人間で
あるかどうか、ヒッポリュテ様の御前で試す。おとなしく待っていろ」
司祭はくっくと笑い、蔑むような目線をよこした。
しばらくすると、神殿内の光が闇に取って代わられ、たいまつがたかれた。陽が沈んだのだ。
「そろそろ時節だな」
そういうと、司祭は侍女に鉦(かね)を打ち鳴らさせた。金属質な音が神殿の石壁に反
響する。
かっ、かっ、かつん。鉦の音に呼応するようにして、石造りの床を叩く軍靴の音が聞こ
える。無理矢理に首を起こして音の方向を見ると、驚いたことに、ぞっとするほど大勢の
アマゾネスの戦士達が、爪先をそろえて整列しているではないか。
「アルテミスの守護を受けし忠勇なる戦士諸君。今日の勝利に女神もお喜びである。その
証たる生贄を、今より審判の儀にかける」
両手を広げ演説する司祭に、アマゾネスの戦士達は盛大な歓声で答えた。
司祭はその様子を満足げに眺めると、ふたたび侍女に鉦を打たせた。先ほどよりもさら
に大きい音とともに、一人の女がオネロスの視界のなかに現れた。豊かに実った稲穂を思
わせる黄金色の髪に、蒼穹(そうきゅう)を凝縮したかのような碧眼。透き通った白い肌
は絹か白雪かというほどきめ細やかだ。美の女神のごときその美貌は、アマゾネスの王、
ヒッポリュテのものに違いなかった。
「ヒッポリュテ様の参内であらせられる」
司祭の声とともに、それまで騒いでいた戦士達は、水をうったように静まりかえった。
「皆の者、今宵は存分に楽しめ。この男は、われらとアルテミス女神の生贄となる。これ
も、皆の勇武のおかげだ。女神もお喜びであろうぞ」
オネロスの縄を、司祭が短刀で切り落とした。四肢を解放されたオネロスを、屈強な戦
士が押さえつける。
「汝、名を申せ」
一段高い位置から、ヒッポリュテがオネロスに言った。
「……。オネロスだ」
「そうか。では、オネロスよ。われらアマゾネスの掟を教えよう。われらはわれらの聖域
を侵した男に対しては命を奪う厳罰を持って遇する。だが、われらは勇猛な男を尊敬する
習慣も持っている。強く勇敢な男は、われらに勇者となる子をもたらすからだ」
たいまつにくべられた木が、ぱちりと音を立てて崩れた。侍女が新しい薪をくべる。
「オネロス。汝はアマゾネスの戦士を相手に一歩も退かず戦い抜いた。これは勇者の証と
して十分だ。われらの掟では、勇者には生き残りの機会を与えねばならない」
「どういうことだ」
オネロスはヒッポリュテをにらんで言った。
「簡単なことだ。われらの前に強さを示せ。むろん、武勇ではない。いくら勇敢な男とい
えど、われらに武勇をもって抗することはあたわぬ。強さとは、男としての強さだ」
「男としての……?」
ヒッポリュテはオネロスの言葉には答えず、後ろの戦士達になにごとか目配せをした。
すると、二人の戦士が歩みでて、オネロスの鎧を脱がせにかかった。ついで、下着も。や
がてオネロスは素っ裸にされ、逞しい男性器があらわになった。
「汝は五人の戦士の相手をしてもらう。ただし、もし途中で気を失ったりなどすれば、汝
が命はアルテミス女神の供物となろう。が、われら打ち勝ち、全員を満足させた暁には、
汝を解放し、さらに褒美として私の腰帯をやろう」
オネロスにとって、それは願ってもでない提案だった。もともと、武道よりもむしろ色
道の名声のほうが高いオネロスである。五人どころか十人、二十人を相手にしても全員満
足させてやる自信があった。
「アルテミスのご加護において裁断を行う。第一の戦士よ、前へ」
司祭が厳かに言う。アマゾネスたちのなかから一人が立ち上がった。その姿には、見覚
えがあった。
「戦士、アタランテ。参ります」
そう言うと、自信に満ちた足取りで、オネロスの方へ歩み寄ってくる。彼女は、先刻の
戦いでオネロスを破った、隊長格のアマゾネスであった。
眼前に立つと、彼女がひどく長身であることがわかった。男の中でも屈強なほうに分類
されるオネロスでさえ、見上げなければならないほどだった。しかも、筋骨隆々、精悍き
わまる顔立ちに、燃えるような眼光。男でもここまで戦士らしい戦士はそういないだろう。
「名はオネロスといったな。私はテミスキュラの百人隊長、アタランテだ。よろしく」
アタランテの言葉からは、捕虜だからといって侮った様子など一片も感じられない。誠
実で芯の通った人間であることがうかがわれた。
「それでは、儀式の第一を執り行う」
司祭が言うと、アタランテは鎧を脱ぎ、その裸体をさらした。豊かな腰回り、形の良い
乳房、カモシカのような脚――まあ、およそ女性に贈られるべき賞賛の言葉を、すべて身
にまとったかのごとき感があった。男性的なたくましさと、女性的な美しさ。それは、も
はや愛し憧れる対象であることを超えて、見るものに崇拝の念さえ与える肢体だった。
オネロスの腕を押さえていたアマゾネスが離れた。そして、自由を与えられた身体に、
ゆっくりとアタランテの裸体が被さってくる。
身長差のため、乳房の谷間にオネロスの顔は埋もれた。固く筋張った腹筋や腕と比べて、
そのなんと柔らかいことか。汗と女香の入り交じった生々しい匂いが鼻腔を深くえぐる。
「ふふ、武勇だけでなくて、こっちも立派なんだな」
すでに固くなった男根を、アタランテはゆっくりとさすってきた。男というものをよく
わきまえているようで、感じやすいところを的確になぞってくる。しかも、力が強いので、
快感を男根に直接擦り込まれるがごとく、強力に性感を引き出してくるのだ。
負けじとオネロスはアタランテの唇に吸い付く。オネロスは舌戦には自信があった。口
中の戦いに持ち込めば、主導権を握れるという確信があった。
「んむっ、ふんん……んむ」
双方の鼻から息が漏れ、互いの唇にかかった。桃色をした二匹の獣がとっくみあいをす
るかのように、猛烈な勢いで二人の舌は絡まり合い、ねぶりあい、愛撫しあう。最初はオ
ネロスの舌は巧みな動きでアタランテの舌を翻弄していた。しかし、そこは何人もの男を
力ずくでものにしてきた、アマゾネスの一族である。アタランテは、舌だけでなく唾液も
オネロスの口へ送り込む。だんだんと口の中にアタランテの唾液がたまるようになり、口
の端から漏れ、飲み込まなければならないようになると、それに気をとられてオネロスの
舌の動きは緩慢になっていった。そしてその隙をついて、アタランテはオネロスの舌を絡
めとり、すすり上げた!
後は、この勇猛なアマゾネスの舌のなすがままであった。数分して、猛烈な舌の攻撃か
ら解放されるころには、オネロスの意識はもうろうとしていた。
「ん……ぷはあ……。気持ちよかったか? オネロスよ」
息を荒げて舌戦の余韻にひたるオネロスを尻目に、アタランテは次の動作に移った。オ
ネロスの股間に顔をうずめ、男根をねぶりあげたのである。桃色の獰猛な獣が、今度は無
抵抗な性感帯に襲いかかる。オネロスの両足は強い膂力でがっちりと拘束されているので、
どうあがこうと逃れるどころか動くことすらままならない。
ぬらぬらと竿をなめたり、根元で輪を描くように舌をはわせる。その様子は、オネロス
の男根を狙うハイエナのように、執拗で、抜け目がない。そのいやらしい動きに誘発され
るようにして、オネロスが完全に勃起したのを確認すると、アタランテはさらに舌を下げ、
不安そうに縮こまる二つの玉へねらいを定めた。
長い舌がオネロスの睾丸をやんわり包み込む。もどかしいような、むずがゆいような快
感がぞくぞくと背筋をなであげていく。ころころと子どもがボール遊びをするかのように、
舌の上で存分に弄ぶと、今度は二ついっぺんに口に含み、あめ玉をなめるようにして口腔
で愛撫し始めた。
オネロスの男根は、辛抱たまらぬといった様子でひくひくと震えはじめた。上目遣いで
それを見やると、アタランテは睾丸を解放してさらに舌を下へと移動させた。すっかり上
がった玉の裏筋を通り、蟻の戸渡りをぺろぺろと軽く愛撫した後、舌はついに男の恥穴、
アヌスに到達した。
「うあ……や、やめ」
なにごとか言いかけたオネロスの口を封じるようにして、アタランテの舌はつんつん、
とアヌスをノックした。ぬろぬろとアヌスの周りで輪を描くように舐めながら、次第にそ
の中心へと舌を近づけていく。
「私のアヌス責めは気持ちいいぞ。覚悟しろ」
そう言うと、アタランテはすっかりふやけた恥穴に舌を挿入していった。
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