三日三晩、一之介は歩いた。もちろん、傍らにはあの夜の淫魔を連れてだ。淫魔は一之
介の顔色を見ながら、おっかなびっくりあとをついてくる。先日の夜の、自信に満ちた態
度が嘘のような有り様だった。
それもそのはずである。一度、徹底的にイカされた淫魔は、魔力と精神力をすべて失っ
てしまう。それからさらに昇天させ続ければ、淫魔は動くことができなくなり、やがて衰
弱死する。一之介がそれをしなかったのは、淫魔を人質にとるためであり、淫魔たちの裏
で糸引く女忍の居場所を聞き出すためであった。そして、魔力を失った淫魔は、歯向かう
ことも、嘘をつくこともないのだった。
淫魔に問えば、忍びたちの拠点は、森の奥深くにあるのだという。そこへ向かう道中、
淫魔はときおり、一之介に乞うような目つきで、
「お腹がすきました……一之介様、どうか、一滴でもよろしいですから、お恵みを」
もちろん、淫魔の言っているのは、精液のことである。男性の精液こそが、女の淫魔の、
最大の食料であり、魔力の源であった。しかし、一之介は、そのたびに淫魔の嘆願を無視
し、森の道をひた歩きに歩くだけだった。
一之介の脳裏には、淫魔の膣の凶悪な感触が焼き付いていた。それは、一種のトラウマ
といって良かったのかもしれない。精液を与えれば、淫魔は魔力を取り戻し、自分を襲う
に違いない。そういう恐怖に取り憑かれているのだ。
道程の四分の三も歩いたころだろうか。淫魔はやつれはて、一歩も歩けないほどに衰弱
していた。といっても、魔力の残るかぎり不死身の淫魔である。女忍の里にたどり着いて
一之介が任務を完了するまでの数日間は生きているだろう。仕事が終われば殺すだけなの
だから、瀕死である方がむしろ好都合であった。哀れむ必要もない。なにせ、相手は人間
の敵であり、悪魔なのだ。
ただ一つ、一之介の心を惑わせたのは、淫魔の、自分を疑おうともしない態度だった。
いつかは憐れみをかけて、精液を与えてくれるものだと信じ切った目。殺意など微塵も感
じさせない声。そういえば、先日戦ったときも、生意気で偉そうな態度は鼻についたが、
一之介を苦しめよう、殺してやろうなどという感情は、淫魔からは感じられなかった。
なぜ、俺は淫魔と戦っているのだろう。答のでない疑問にさいなまれながら、一之介は
残りわずかとなった道を歩くのだった。
「ご飯、作りますね」
うつろな目をした淫魔が、言った。自分は極限まで空腹なのに、この淫魔は健気にも一
之介の昼飯の心配までしているのだ。胸の痛みとともにわき上がってくる、幾度も繰り返
した問を、一之介は噛みつぶした。
「ああ、頼む」
一之介の持ってきた保存食を、火打ち石やら石包丁やらで、器用に昼食を調理していく
淫魔。一之介はそれをみながら、そういえば、あの夜の汁物もやけに味が良かったな、な
どと考えた。
それから四半刻も過ぎただろうか。一之介が淫魔の料理を手早く平らげ、腹ごしらえを
すませた時だった。
「誰ぞ」
草陰に人がいる。一之介は直感で判断し、くないを投擲した。気配を読む技術はなかっ
たが、一之介は鼻がきいた。他人を色香でかどわかすような、淫魔、あるいは房中術に長
けた人間が近くにいれば、それが匂いでわかるのだった。
房中術の手練れではあっても、戦闘術は心得がある程度の一之介なので、くないの勢い
は鋭いとは言えない。それでも、至近距離であったので、人が潜んでいれば無事ではある
まい。
「手応えなし、か」
むなしく虚空を切ったくないを見て、一之介は息をついた。しかし、次の瞬間、
「馬鹿ね、ここよ」
ばさり。という音とともに、一之介の眼前の樹木から、大きなものが落ちてきた。見れ
ば、枝にぶら下がった人間である。
「……っ。女忍……こんなところにいるとは」
忍び装束をまとったその女の出で立ちは、一之介が今まさに戦おうとしている者の、そ
れだ。一之介にとっては、完全に不意をつかれたかたちだった。
木から下り、静かに着地すると、女忍はぱっと覆面を引きはがして、
「下忍から連絡は受けているわ。そう。あなたが退魔師の……一之介ね」
「いかにも。……あなたは、南睦国の忍とお見受けするが、如何」
一之介の言葉に、女忍はなにも答えない。答える代わりに、顔と顔が触れそうになるぐ
らい近づいて、
「あら、あなた、わりとかわいい顔してるのね」
感情を押し殺した声色から、返答の真意を読むことはできなかった。ただ、至近距離に
なった女忍から漂う、なんともいえない甘い香りが、一之介の鼻腔にもたらされるだけだ。
「おまえが、女忍衆の頭か?」
重ねて、一之介は問う。女忍は、品定めするように一之介を見据えた。一之介も、負け
ずに睨み返す。
そうして落ち着いて見ると、その女忍は、そんじょそこらの淫魔よりもよほど手強そう
に見えた。忍び装束の上からもはっきりとわかる、ふくよかな胸のふくらみ。無駄なく肉
のついた腰回りはさわるのがためらわれるほど。しかしなによりも、覆面からのぞく凛々
しい風貌を飾る漆黒の瞳だ。夜闇を透かしたビードロ玉のようなそれには、美貌の姉たち
に囲まれて過ごした一之介といえど、戦慄せずにはいられなかった。
「そうね、そうとも言えるかもしれないし、違うかもしれない。もっとも、私が答える必
要も、あなたがそれを知る必要もないわ」
「どういうことだ」
「だって、あなたの任務はここで終わりなんだから」
ふっと、一之介の視界から女忍の姿が消えた。
温かい息が、一之介の耳にかかった。ぞっと背筋が引きつる。いつの間にか、女忍が一
之介の背後へ移動していたのだった。女忍のしなやかな指先が、つつつと、一之介の首筋
をなぞった。艶めかしい声とともに、熱い吐息が耳にかかった。
一之介は咄嗟に、横にいた、人質の淫魔に手を伸ばした。
「……? いない!?」
「クスクス……ここよ、坊や」
軟体動物がはい上がるような、ぞろりとした感触が、首筋を襲った。徹底的に生命力を
削り隷属させたはずの淫魔の舌だった。気づかぬうちに、淫魔は女忍の手で移動させられ
一之介の背後に回っていたのだ。
「淫魔も女の子なんだから、大切に扱ってあげなきゃだめじゃないの」
そういって、女忍は妖艶に笑った。と同時に、一之介の体を自分のほうへぐっと引き寄
せ、豊かな肢体を絡ませる。背中に、自らの乳房を押しつけ、艶めかしく上下左右へ動い
た。一之介の下半身から、ごうっと、欲望がわき上がった。
「ん、もういいわね」
そう言って、女忍は、一之介の陰茎を馴れた手つきで取り出し、おもむろに扱きはじめ
た。それも、ただの手コキではない。摩擦熱で火が出そうなぐらい強く早いのに、痛いど
ころか精液がぐんぐん集まり、瞬く間に達しそうになる。
「うわああ、あ、なな、な、なんで……」
「んふふ、気持ちいいでしょ。私の手コキは、退魔師になり立ての坊やなんかに耐えられ
るシロモノじゃないわよ」
すると、先ほどまでずっと首筋を愛撫していた淫魔が、ちょうど一之介と向かい合う方
向へ移動した。
「どうせ、昼食も夕食も食べさせてあげてないんでしょ。こんなにやつれて」
片手で一之介のモノを愛撫しながら、もう片方の手で、淫魔の顔を撫でた。
「ほら、今、お姉さんが出してあげるから、ちゃんと飲むのよ」
そう言って、女忍は一之介の亀頭に指を這わせ、目にもとまらぬ速さで摩擦した。
「おおうっ」
くぐもった声をあげ、一之介は盛大にうちはなった。それを待っていたかのように、淫
魔は一之介の陰茎に食らいつく。目を輝かせ精液をおいしそうに吸い上げる様は、ジュー
スをストローで飲む幼児のようだ。
放出が止まっても、淫魔は最後の残りカスまで吸い取ろうと、執拗に尿道口を刺激する。
その様子は、飢えた乞食さながらであり、性欲と言うよりも食欲に支配されているようだ。
空腹に突き動かされた淫魔の、必死で力強い舌技の前に、一之介の理性などひとたまりも
なかった。
陰茎を吸いちぎらんばかりの、無茶苦茶な力で淫魔が吸飲してくると、一之介はあっけ
なく二発目も放出した。
「んふ、んん……ごくっ、ごくり……ん……」
淫魔は、完全に出なくなるまですすり上げたあと、口から陰茎を出し、口元に垂れた精
液を舌でぬぐった。
「おいしい……五臓六腑にしみわたるよう……」
恍惚とした表情で、淫魔が言った。そして、愛おしそうに陰茎に頬ずりをし、亀頭に幾
度も接吻を繰り返す。そのたびに、一之介の腰が無意識にビクン、と反応した。
精液というかたちで生命力を吸い取られ、一之介の体から急速に力が抜けていく。腰が
砕け、すとんと床に倒れ込んだ。
「あらあら。腰が抜けちゃうほどよかったの?」
嘲るような目つきで、女忍が一之介を見た。そして、胸板に手をまわして、一之介の乳
首をこね回しながら、今度は淫魔の方を向き、
「まだ、『おかわり』はいっぱいあるからね」
そう言って、ぎゅっと一之介の陰茎をつかんだ。やわやわ、こすこすと、手で陰茎に刺
激をくわえつつ、一之介の顔をたぐり寄せ、唇を重ねた。
「ん……んむっ、んむっ……」
女忍の術中にはまるまいと、一之介はもがく。
「ん……うふふ……ふむん」
一之介の抵抗を見て、妖艶に笑う女忍。自らの舌で、暴れ回る一之介の舌をいなし、絡
めとろうとする。
一方の一之介も、藤一郎のもとで舌技の修行をつまされている。姉たち相手でも、接吻
で遅れをとったことはなかった。口の中で麻紐を蝶々結びにするなど朝飯前である。
「ん……うぐっ……うっ、うっ……………ふむうん」
しかし、その自信はものの数瞬で崩れ去ることになった。くるくると動き回る女忍の舌
に、一之介の舌はいいように翻弄され、気がついたときには絡めとられてしまい、無防備
になった口にどろりと唾液を流し込まれた。口の中での格闘は、一之介の完敗であった。
そうこうするうちにガチガチになった陰茎へ、下半身に取りついていた淫魔がむしゃぶ
りつく。先ほどとはうってかわって優しい愛撫だが、絶妙な力加減で一之介を追いつめて
いく。焦らすように棒に舌を絡めたかと思うと、やおら尿道口に舌先を滑り込ませる。
精液を口にして力が蘇ったためであろうか、先日の戦いに勝るとも劣らない妙技に、一
之介はうめいた。
「気持ちいい? 一之介、気持ちいいの?」
淫魔が上目遣いに言った。目を潤ませ、必死に奉仕する姿を見て、一之介の性感は急激
に高まった。尻から背筋へ、絶頂の訪れを告げるものが駆け上がる。歯を食いしばり、尻
の穴をすぼめて射精感を押さえる。
「ざまはないわね、退魔師さん。さっさとイッちゃいなさい」
嘲るような女忍の声。と同時に、溶かした片栗粉のような感触が、肛門を襲った。ぬめ
ぬめとした薬品をつけた女忍の手が、一之介の収縮した菊門をまさぐっているのだった。
やがて女忍は、肛門のなかに人差し指が侵入させ、関節を曲げて刺激してきた。女忍の
長い指は縦横無尽に動き回り、肛門の内部をほじくりまわして、強引に一之介の性感を引
きずり出していく。その暴力的な快楽に、一之介は思わず前へつんのめり、淫魔の頭にし
がみついた。すると淫魔は、それに答えるように、陰茎を口の中で巧みにころがしてカリ
首を愛撫する。
「あ、あ、ああっ、あ……ぐうっ、はああっ」
快楽に耐えかねて一之介は声を漏らす。その様を見る人がいれば、正気の人間の声とは
思わないだろう。気が触れているか、あるいは壊れた機械人形のような、異常な声。
男の、それも退魔師の、膨大な精液を受け魔力に充ち満ちた淫魔と、男の性感の扱いに
長けた熟練の女忍の性技。それは、一人の人間が許容できる快楽の量をはるかに超えてい
るのであった。
「あははっ、尻の穴がぴくぴく動いてるよ。ねえ、イキたいんでしょ? 精液出したいん
でしょ? ガマンしなくていいのよ。ほらほら、ほらっ」
耳元で女忍がささやく。それと呼応して、淫魔の舌の動きがさらに激しくなっていく。
首をひねりながら、唇でカリ首を摩擦する。舌は尿道口にぴったりとくっつき、あたかも
精液の通り道をつくるかのように、小刻みにふるわせて刺激している。
女忍の指が前立腺に到達し、ぷにぷにと攻撃しはじめたところで、一之介の理性は完全
に切れた。怒濤のように吹き上げる欲望を、もはやどうすることもできなかった。
だが。一之介は、思った。ここで、出してしまえば、精根尽き果て、敵の手に落ちるこ
とは確実。自分は、退魔師だ。天下のために、淫魔を祓わねばならない、退魔師だ……。
一之介は、ぎりりと自分の歯を砕かんばかりに噛みしめる。きつく締まった肛門が、女
忍の指をとらえた。性技の修行でつちかった技術は、肛門性交にも及んでいた。一之介は
自らの意志で括約筋を自由に御し、肛門の締め付けの強弱を自在に操ることができるよう
になっていたのだった。
ミシッ、と骨が砕ける音がした。女忍が、指の痛みに顔をしかめ、わずかに隙ができた。
瞬間、一之介の裏拳が女忍の顔をとらえる。ズバンッ、小気味の良い音とともに、女忍の
体がのけぞった。
「うぐっ。な、なにを」
女忍がうめき声を漏らす。その声色には、先刻まで決して現そうとしなかった感情――
動揺が含まれていた。
間髪入れず、陰茎を弄んでいた淫魔を蹴り上げる。鈍い音とともに、愛撫に没頭して無
防備だった淫魔の体が、面白いぐらい跳ね上がる。蹴りが腹部に入ったため、むせてその
場にうずくまった。胃液が淫魔の口からびちゃっ、とあふれ出ている。
「い、一之介……?」
苦しそうに、淫魔が言葉を漏らした。その目は恐怖や怯えではなく、失望の色で染まっ
ていた。
懐から小刀を取り出し、一之介は淫魔の背中に容赦なく突き刺し、素早く引き抜いた。
鮮血がほとばしり、視界が真っ赤に染まる。たしかに淫魔は、いくら血を流しても死ぬこ
とはない。しかし、血とともにその生命力と魔力を流出させ、激しく力を失う。
「かはっ……」
口から血を滴らせ、淫魔がうめいた。瞳孔が開き、全身が痙攣を繰り返している。生命
力が流出している証拠であった。
淫魔は当分の間動けないだろう。そう判断した一之介は、くるりと半回転し、女忍の方
を向いた。
体勢を立て直していない女忍に、小刀をつかんだまま飛びかかった。女忍の方は人間。
なにも性技で圧倒せずとも、心の臓をひと突きすれば、それだけで事足りる。淫魔の鮮血
で赤く光るそれを、女忍にむけて振り下ろした。
ずっ、という鈍い音。それは、小刀が地面を突き刺した音であった。冷たい恐怖の感触
が一之介の背中を駆け抜けた。
「……?」
「そんなに死にたいなら、殺してあげようか」
冷たい声。それは、今まさに一之介が殺そうとしていた、女忍のそれだった。
また、いつの間にか背後に回り込まれていたのだった。一之介の不覚ではない。忍びの
者の身のこなしが人間離れしているという、ただそれだけである。
「考えが甘かったわね。素人が、私を刃物で殺せると思ったの?」
一之介の顔をつかみ、ねじって、無理矢理唇を奪う。女忍の表情からは、先刻までの嘲
るような雰囲気は消えてなくなっていた。
女忍の舌を迎え撃とうと、口を動かした瞬間、なま暖かい液体が流れ込んでくる。それ
は唾液ではなかった。女忍は舌をすこし入れるや否や、口を放したからだ。
苦いような甘いような、口の中をしびれさせる刺激的な味。なにかの薬品か……? 一
之介は警戒して、はき出そうとした。しかし、それが無理であることが、すぐにわかった。
その液体は、からみつくたびに、口腔や舌の感覚をうばっていき、いつの間にか一之介は
口の中の自由を奪われていたのだった。はき出そうともがけばもがくほど、しびれ、薬品
は喉を流れ落ちていく。
「うっ、ゲホッ、うはっ……ふぁ、ふぁにを……」
女忍に罵声を浴びせようと、必死に言葉を紡いだが、もれて出てくるのは意味のない音
の集まり。
「おいしい? 淫魔たちの膣液と特別な漢方を、薬師が調合したものよ。ありていに言え
ば、媚薬と言うことになるかしら」
言いながら、女忍は一之介の体に指をはわせる。性感帯をなぞるわけではない。ただ、
首筋や、胸板を、そっと触るだけだった。普段ならくすぐったくさえないぐらいの、力加
減。
「うっ、はあっ……ああん、あっ……め……ふぁめっ、やめへくれ……」
ところが、見る間に一之介の体は高ぶり、性感によって意識ももうろうとしてくる。体
の内側から火であぶられているかのように全身が火照りはじめ、涙と汗、鼻水で顔はぐち
ゃぐちゃ。薬でしびれて、閉じることのできなくなった口からは、粘性を帯びた唾液が糸
を引いてしたたり落ちている。
全身の力が抜け、一之介は床に倒れ込んだ。
「苦しい? 苦しいでしょう? でも、あの子はもっと苦しかったんだから」
そして、女忍は微笑んだ。それは、陰惨という言葉も生やさしい、凄絶さを帯びた笑み
だった。忍び装束を脱ぎながら、一之介の腰の上にのしかかる。
「未熟な退魔師の坊や。……実力の差を認めて、おとなしく帰っていれば、生きてここか
ら出られたのに」
ぎりりっ、と一之介の乳首を爪先でひねりあげる。一之介は目を剥いて、つぶれたカエ
ルのような奇声をあげた。痛みもあったが、十のうち九までが快感によるものだった。性
感という鋭利な刃物で、一之介の体は切り裂かれていく。
「この子を傷つけるというのなら、私は」
快楽でがくがくと震える足を、女忍の指がなで上げる。突然別の場所を愛撫されたので、
一之介は全身をふるわせて悶えた。
「絶対に、あなたを許さないから」
太ももを責めていた手が、一之介の陰茎を握りしめた。女忍の手の、柔らかい感触。
「あふぁ……あっ、あっ」
さわられただけで、一之介はたまらず声を張り上げた。全身の毛が逆立ち、汗がどっと
噴き出した。
「や……やめ……」
そして次の瞬間、一之介の体を電撃が貫いた。女忍が、手を動かし、陰茎を摩擦しはじ
めたのだ。手にスナップをきかせ、巧みに擦りあげ、もう片方の手で玉を包み込んで揉む。
瞬く間に、一之介の陰茎は爆発した。白濁液が水鉄砲のように飛び出し、飛沫が地面を
汚す。もうすでに三回も出しているのにもかかわらず、その量は潤沢そのものだった。射精
と言うより、白い小便のようだった。
敏感になった一之介を、残酷にも女忍はさらに早く、激しく扱きはじめる。媚薬の力で
萎えることすら許されない。ただただ、なされるがままに感じるだけだった。しごかれる
たびに、一之介の体はまな板の上で暴れる魚のように、ばたばたと悶える。もちろん、押
さえようとしても、体は一之介の制御を受け付けなかった。一之介の体は、快楽という糸
をつけられた、女忍の操り人形だ。
射精は間断なく押し寄せてきた。その間隔は、長くなるどころか回数を追うにつれて短
くなっている。よく見ると、白濁液に血が混ざりはじめた。陰茎は真っ赤に腫れている。
十回目の射精を終えて、女忍は言った。
「あら、かわいそうに。大事なところが、こんなに痛そう……。ふふ、舐めてあげる」
一之介は、戦慄した。しかし、どうしようもなかった。
ぺろぺろと、本当に傷口を舐めるかのように、優しく丁寧に舌をはわせる。亀頭から尿
道口、裏筋まで、丹念にあますことなく舌で愛撫していく。
ふたたびガチガチに復活した陰茎を、ぱくりとおいしそうにくわえ込むと、あのドリル
のようなフェラを浴びせかける。
「う……うう……」
一之介は、あえぐのを通り越して、嗚咽を漏らした。下半身から伝わってくる、拷問の
ような痛みと、度を超した快楽。といって、口はしびれ、手もほとんど満足に動かない。
だから、反撃することもできないのだ。
と、そのとき、一之介の背後でなにかが動く音がした。
「うん……一之介?」
淫魔の声だ。と、同時に、肛門におぞましい感触が走る。薬物でぬめっているそこを、
淫魔の細い指先が、艶めかしく動き回る。
「なんで……」
涙声のようだった。泣きながら、一之介のアヌスのなかに、指を滑り込ませる。
「ただ、一之介に気持ちよくなって欲しいだけなのに」
優しい指使いで、一之介の腸内を愛撫する。前立腺まで到達したそれからもたらされる
快楽は、一之介にとどめを刺すのに十分なものだった。
「うっ、あ……はあっ、は……うううっ」
女忍の口内にぶちまけられる、白濁液。よくもまあこれだけ射精できるものだと、一之
介は他人事のように考えた。
女忍は淫魔を手招きする。淫魔に口移しで流し込まれる、一之介の精液。おいしそうに
それを飲む淫魔の顔には、くっきりと涙の跡が残っていた。
「一之介……」
立ち上がった淫魔に、一之介は見下ろされる格好となった。退魔師の矜持から、一之介
はきっと淫魔をにらみつける。
「ごめんね。私が淫魔だから、こんなことするのが嫌なんだよね」
「わかっているのなら……」
一之介の言葉を押さえつけるように、女忍が素足で顔を踏みつける。
「あんたは黙ってな」
怒気を含んだ声。女忍のものだった。もっとも、足で視界をふさがれて、表情まではわ
からなかったが。
「ねえ、まだ、満足してないよね」
淫魔の声だ。もちろん、返答することはできない。本当は、やめてくれと絶叫したかっ
たが、女忍の足がある以上、無理な話だった。
淫魔の膣に、先端が含まれる感触がした。必死でもがくが、今度は足の代わりに、女忍
の柔らかい尻が落ちてきた。酸っぱい女忍の陰部の香りと、淫魔の膣の感触に包まれて、
一之介は意識を失った。
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