ふと腕時計に目をやる。1月1日、午後7時30分。
眠い。恐ろしく眠い。
小学生でも眠くならないような時間だが、俺は眠い。
俺のようなフリーターにとって、年末年始は稼ぎ時以外の何物でもない。
どこもかしこも人手不足で、時給もぐんと上がる。
クリスマスも、大晦日の紅白も、元旦の初詣も全部返上して必死で働いた。
この一週間、睡眠時間は一日平均2時間だ。
彼女に豪華なプレゼントを渡すため。
――そういった理由なら救いもあるが、単に仕送りが足りないから稼がないとやっていけないだけだ。
頑張って働いてもロクな見返りもないし癒してくれる相手もいない。
何はともあれ、寝よう。考えると辛い。
俺は布団に潜り込み、そのまま意識を手放した。
ぼんやりと目が覚めてくる。まだ真っ暗だ。
起き上がって時間でも確認しようかと思ったが、何故だか体は仰向けのまま、ピクリとも動かない。
噂に名高い「金縛り」という奴だろうか。
このボロアパートならどんな霊がいてもおかしくはないが、初めての体験だった。
そういえば今日は元旦だ。つまり、今は俺が初夢を見ているはずの時刻。
初夢が金縛りとはまったくもって縁起が悪い。
しかし、なぜか部屋のカーテンが不自然に揺れているように思えるのは気のせいか。
窓はきっちり閉まっており、鍵もしっかりかかっていたはずなんだが。
初夢で幽霊にまで会うとなると、これはもう死期が近いとしか思えないのだが。
「お邪魔しまーす……ふふ」
予想に反し、カーテンをひるがえして出てきたその女は妙に実体感があった。そして、驚くほど美しかった。
艶やかな栗色の髪。顔立ちは幼さが残るものの、体つきは目に余るほど豊かだ。
些か冬には場違いな、露出度の高い扇情的な衣服がその豊かさをより強調している。
月明かりに照らし出されたその姿は、まるで淫魔か何かのようだった。
女がそのままこちらへ歩いてくる。
今になって、口だけは動かせることに気が付いた。
「誰だアンタは」
女はくすりと笑うと、こう返した。
「私はメル。淫魔だよ」
どうやら本当に淫魔だったらしい。
そんな馬鹿な話があるか、と普段なら吐き捨てる所だが、既にこれが夢であることは理解している。
「そうか、淫魔か」
きょとん、とした顔でメルが答える。
「……驚かないんだね?お兄さん。ま、いいけどさ」
意図しない反応だったのだろう。
そりゃそうだ、もし夢じゃなければ俺だって十分すぎるほど驚いているはずだ。
「ま、分かってるなら話が早いよ。早速……ね?」
そう言うなり、メルは躊躇せず衣服を脱ぎだした。その豊満な股体があらわになる。
曲線美、とでも言うのだろうか。掌では掴みきれないほどの胸、くびれた腰周り、尻から太ももにかけてまで、見事な美しいラインを描いていた。
「さてさて、どこからどう責めてあげようかな」
どこから、と言いつつも、その視線は一点に注がれている。
散々免疫の無い物を見せ付けられて、股間のモノは既に隆々と立ち、厚い布団を押し上げていた。
メルは手早く布団を引き剥がすと、まだ金縛り状態の俺の両足を開き、その足のちょうど間に腰を下ろす。
「それじゃ、いただきまーす♪」
メルが手をかざすと、溶けるように衣服が消えてしまった。
あらわになったモノを片手で掴むと、メルは舌を這わせ始めた。
メルの責めは、想像していたより遥かに巧みな、ねっとりとしたものだった。
ぴちゃぴちゃと音を立てながら、一心にペニスに舌を這わせる。
亀頭を舐め始めたかと思うと、今度は竿へ舌を伸ばし、また亀頭を舐め始める。
交互に舐められるにつれ、快感は徐々に膨れ上がっていく。
「くっ……あ…」
腰が抜けてしまいそうな快感に晒され、普段なら身をよがらせている所だろうが、金縛りでそれすらもままならない。
「ふふ、気持ちよさそうな顔……」
激しい快感に、あっという間に高められてしまった。
今度はカリ首を、輪を描くように舐め始める。
我慢汁が後から後からあふれ出し、メルの舌を汚していく。
メルはそんな事は気にも留めない様子で、責めをさらに激しくしていった。
亀頭を、棒を、カリ首を、一通り舐め尽くした頃には、既にモノは破裂しそうなほどに膨れ上がっていた。
「うっ、あ……もう……」
限界だった。頭の中には射精の欲望以外何も残っていない。
「そろそろ、我慢の限界かな?」
そう言われて、はっと気がつく。
別に我慢する必要なんてどこにも無いじゃないか。
これは夢なんだ。むしろ、抜かれまくって楽しむべきなんじゃないか?
「じゃ、これでどうかな?」
メルは、今度は指先で亀頭をこすり始めた。
血液が集まり、敏感になった亀頭に容赦ない責めが襲い掛かる。
だが、竿に一切の刺激が与えられていないため、達することができない。
「ぐぁぁっ!頼む、もうイカせてくれ!」
この一言がメルの嗜虐心を煽ったのだろうか。
メルは笑みを浮かべながら、亀頭だけを責め続けている。
限界をとうに超えた焦らせは、もはや苦しみにも近かった。
――そうだ、これが夢なら、俺の想像通りに事が進むはず。
ならば、と俺はひたすらに彼女が精を搾り取ってくれるシーンを想像した。
とにかく、この責め苦から解き放ってくれ。頼む!
しかし、どんなに念じても状況は変わらなかった。
相変わらず股間は地獄のような責め苦に晒されている。
「うっ…っ、何でだよ、これが夢なら俺の思い通りに行くはずじゃないのか……!?」
「あれ、君、そんな事考えてたの?」
そう言いながらも、責めの手は休めない。
「これは夢だけど、夢じゃないの。ほら、ね」
メルは片手を無防備な胸板へと伸ばすと、乳首を抓り始めた。
電気が走るような快感と共に、感じられたのは他ならぬ、「痛み」だった。
夢じゃ、無い……?それじゃ、この状況は……
「じゃ、最初の一発、行ってみようかな。これできっと自分の立場が分かると思うよ」
メルは今まで舐めるだけだった口を大きく開くと、ペニスを深く咥え込んだ。
咥えただけで、猛烈な快感が背筋を駆け上る。
ヤバい。頭のどこかで誰かが警鐘を鳴らしている。
しかし、俺にはもう耐える術などどこにも残っていなかった。
途端、口内でメルの舌が暴れだす。
四方八方からペニスが舐めしゃぶられ、そして一気に強烈な吸い上げが襲い掛かった。
「ぐ、ああああああっ!!!」
魂までどこかへ吹き飛んでしまいそうなほどの快感と共に、口内に白濁を吐き出す。
メルは射精途中も吸い上げを弱めず、射精はさらに激しくなる。
吐き出される精液を、メルはさも美味そうにこくこくと飲み干していく。
射精は1分ほども続き、ようやく止まった頃にはひどい脱力感に襲われた。
「どうかな、感想は?気持ちよかったでしょ?」
言うまでも無かった。これほどの快感を味わったのは初めてだ。
しかし、なにか違和感がある。
脱力感や疲労感は普段の射精と変わらない。
ただ、どこか一回りほど、寒くなった気がする。体温が2,3度、一気に下がったような、そんな感覚だ。
「ほら、金縛りは解いてあげるからさ、自分の手、よーく見てみてよ」
ふっと、体に自由が戻ってきた。脱力感で手を挙げるのもおっくうだったが、暗い中目を凝らして確認する。
思わず、目を疑った。
白い。生気が感じられないほど白かったのだ。
まるで病人のような、いや、それ以上か。とても自分の手だとは信じがたい。
「淫魔の本分は夢に入って生気を吸うこと。つまりはこういうことだよ」
無邪気な顔でメルは笑う。
金縛りは解けたが、逃げようにも這うようにしか動くことができない。
服は溶かされてしまったし、メルの股体を眺めているだけでもまたモノに血が集まってくる。
「ま、もってあと射精数回ぐらいだろうね」
メルは横たわって俺の体に抱きつくと、耳元で呟く。
「君の命が尽きるまで、あと2回」
「命……!?んぐっ…」
言い終わるや否や、キスで口を塞がれる。
綺麗に全て吸収したのか、口内に精液は少しも残っておらず、代わりに甘い唾液が理性を奪っていく。
キスで蕩かせながら、その滑らかな肌を押し付けてくる。
それだけでもイってしまいそうな所だったが、それに加え、メルは後ろ手でペニスをしごき始めた。
優しく擦るような動きから、だんだんと手が加速していく。
「朝が来るまで、耐え切れたら許してあげるよ」
絶望的な条件だった。
先ほど出し切って萎えたペニスはあっという間に元の怒張を取り戻している。
ものの数秒で達してしまいそうだった。
「もう寸止めなんて要らないよね。すぐに楽にしてあげる」
手の動きがさらに急なものへと変わる。
小刻みに震えるようにカリを刺激され、我慢汁がまた噴出す。
それをローション代わりにし、激しく扱きあげる。
強烈な快感に一気に絶頂まで高められた。
「さ、濃いのちょうだい」
メルは手を止めると、鈴口に爪を立て、わずかに引っ掻いた。
その刺激が引き金となり、一気に精液がこみ上げる。
「あああああっ!!」
恐ろしいほどの快感と共に、精液が迸る。
精液は飛び散り、二人の体を白く染める――はずだった。
「あんっ、おいしいよ……」
メルは射精の瞬間にペニスを膣内に差し入れ、飲み込んでいた。
放った精液は全て膣に吸収され、生気がまた吸い取られていく。
体がより一層冷たくなった事に気づくより早く、射精後の敏感なペニスに魔性の膣が襲い掛かった。
「ぐあああぁぁっ!!」
「……これで最後だよ?いいの?」
いい訳が無い。全力で耐えようとするが、その抵抗も空しかった。
肉襞が絡みつき、ペニスが蕩かされていく。
もう、時間の問題だった。
メルは騎乗位で腰にまたがると、僅かに腰を浮かせた。
「それじゃ、とどめね」
メルはそのまま亀頭をきつく締め上げると、全体重をかけて腰を下ろした。
膣壁がペニスを一気に擦り、強烈な快感が襲う!
「うわあぁぁっ!!」
「っ……?」
朝だった。
どうやら、俺は枕を腕に抱き、もがいていたようだ。
なにやら頭に硬いものが当たっている。
ふと確認すると、頭の下には枕の代わりに、昨晩世話になったオカズ本。
そういや、処理が終わった後に枕の下に突っ込んだんだっけ。
枕の下に本を入れると、その本の夢が見れるとかいうもんな。なるほどね。
そうか、これが原因だったのか。そうか……
言うまでも無く、その日の晩もその次の晩も、俺は枕の下にその本を隠した。
同じ夢は二度と見れなかった。
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