時刻は22:00を少し回った頃合であろうか?男が一人、自宅寝室のベッドで横たわっている。
部屋は照明がつけていないので、暗い。
が、男はそんな事を気にしていないようだ。
完全な闇夜ではないのだ。街灯の光やベッド脇のランプの僅かな明かりもある。
もとより、これから男がしようと思っている事は、明かりを特別必要としていないのだ。
だが、それは一人ではできない事。
故に待ち人がくるのを待っているのだ。
男の姿はバスタオルを1枚腰に撒いたのみで、後は裸であった。
男が夜、ベッドで裸という事は、男女の夜の営みを行うつもりなのだろうか?
だから待ち人は女なのであろうか?
音を立てて寝室のドアが開き、ようやく待ち人が現れる。
予想通り待ち人は女で、その姿は裸体にバスタオル1枚を撒いただけの格好。
「お待たせ」
女が艶っぽい声で、男に声を掛けた。
この様子からすると……どうやら夜の営みが行われるのは間違いないようだ。
待ち人に気づいた男がベッドから立ち上がり、数歩歩いて女を迎える。
女も男へと歩み寄り、迎えられる。
無言で見詰め合う男女。
女が自らバスタオルに手をかけ、スルリと床へ落とす。
やはり男も同じように、バスタオルを自ら外し、スルリと床に落とす。
互いの視線が、互いの性器を凝視する。
男は女の豊満な胸と、下腹部の繁みを。
女は早くもそそり立っている、男の大きく逞しいモノを。
女が口を開く。
「準備はできているみたいね……。さぁ、今日も始めましょう。男と女の闘いを……」
男は答える。
「今日こそは、勝たせてもらうよ……」
「ふふ。今日も負かしてあげる、いつものように。私の手で、脚で、胸で、口で、悶えさせてあげる。最後は跨って……
たっぷり、搾ってあげる……」
二人は全裸で抱き合う。これは勝負を始める前の儀式のようなものだ。
互いに眼を瞑り、ゆっくりと唇を重ねていく……。
優しく押し付けあうようかのように唇同士が触れ、感触を確かめ合う。
いつもと同じ感触である事に二人は安堵する。そして、どちらからともなく互いの唇が動き出し、舌を絡め合う。
儀式は終った。
性技を駆使した、男と女の闘いが始まった……。
――女は初めから容赦をしなかった。
自らの舌を男の口内へ侵入させ、一気に貪ろうと、強引にねじ込もうとする。
男の舌が女の舌を迎え撃ち、絡み、交わりあう。舌を絡ませあう内に唾液までもが絡み合う音を奏でる。
男は女の舌の進入を辛うじて防ぐ事に成功しているかのように見える。
が、男には焦りがあった。それは、女の舌の勢いを防ぐ事しか出来ない焦りだ。
男は女の激しい舌技を受け切るのが精一杯で、反撃する事がままならない。女の舌が、右から進入を図れば急ぎ右へ、左から進入を図れば急ぎ左へと、男は舌のみで女に翻弄されていた。
このままでは女の舌が口内を蹂躙するのは時間の問題のように思われた……。
(大分押されている……マズイな)
(ふふ、キスはダメね……相変わらず。だったら――)
ここで女が勝負にでる。
自分の口内に溜まった大量の唾液を、男の口内へと流し込んだ。
男は内心で舌打ちしつつも、やむなく流し込まれた唾液を飲み干す。
――ここで男は間違った。
唾液など、溢れさせて唇から垂らさせておけばよかったのだ。現在の最優先事項は女の舌が自分の口内へ侵入する事を防ぐ事である。
だから男の喉が動いた時、男に隙が生まれた。
女はその隙を見逃さなかった。
(――なっ!?)
男の目が見開かれた――
進入を許した女の舌は勢いに任せ、再び絡みついてきた男の舌を一蹴。女の舌が男の歯を舐め、歯茎を舐め、上唇、下唇を問わずに縦横無尽に触手のように、別の生物のようにねっとりと、纏わりつかせる。
男は女の責めの前に、喉の奥から喘ぎ声を洩らさせられる。
「んんん……あぁぁぁ、はあぁぁ、あぁぁぁ……」
(ふふふ、勝ったわ……)
――この瞬間、キス勝負は女の勝利で終わった。
男はキス勝負に敗れた悔しさを噛み締めながら、強引に女を自分から引き剥がす。
急ぎ、次の勝負に向けて体勢を整えなければならない。女は悔しさを煽るように、勝者の笑みを自分に向けてくる。
が、気持ちを切り替え、キス勝負に敗れた事は忘れる事にした。最終的に女を絶頂に導けば、男の勝ちなのだ。
大きな勝利の前に小さな敗北など気にかけていられない――そう考える事にした。
改めて対峙する二人、互いを見る眼が勝負の優劣を物語っていた。
男は女を仇敵と見なすような眼つきだ。
一方、女が男を見る眼は、獲物を見る獣のような眼だった。
――何故?
キス勝負を始めた時、女はすでに次の行動を、男に勝利する手段を考え、男が気づかないうちに
密かに実行に移されていた。
当初ベッドから離れた所で抱き合い、唇を重ねていた二人。
いつしか男は気づかない内に、女によってベッドのすぐ脇まで追い詰められていた。
男はキスに神経を集中し過ぎたたせいで、そんな事にすら気づけなかったのだ。
女にはもう分かっている。
――男の足を軽く払ってやれば、簡単にベッドに押し倒す事ができるのだ、と。
その次は……
――跨って、少し腰を振ってやるだけでいい、と。
そうすれば……
――闘いにおける勝利を――男からたっぷりの精を、根こそぎ搾り取る事ができるのだ、と。
女はそう思うと楽しくなった。
内心で笑みを浮かべ、それを実行に移す事にした。
行動を実行に移した時、男は一体どんな声で喘ぎ、どんな顔をしてイクのだろうか?
先走る考えに少し自嘲気味の笑みを浮かべる。
(ふふふ、焦る事はないわ。すぐに分かる事なのだから。でも、少しは反撃もして欲しいわね……)
――もはやこの男は……獲物なのだ。
――予想通りに男は動揺した。突然足を払われ、倒されたのだから当然である。
しかし、ここで男は女の予想とは少し違う動きをした。自分の背中にしっかりと手を廻し、
抱きついたままベッドへ倒れたのだ。
これでは跨れない。
(――それなら!)
女は倒された驚きから立ち直る隙を与えず、再度男の唇を奪った。体を密着させ、自らの豊満な胸を男の胸にギュゥと押しつけながら口内を貪る。
唾液が絡みあうような、湿った鈍い音が二人の耳に響く。
男の表情がとろけていくのが分かる。
が、それだけは足りないと、女はそそり立った男のモノへ自分の下腹部や太ももを擦り付け、
刺激を与えて男を感じさせ、悶えさせる。
「んんー、ん、んんんー!んっ!!」
女の口で自分の口を防がれている男が、喉の奥で喘ぎ声を洩らす。
頬には細く美しい女の指が優しく宛がわれ、口元には女の唇と舌の感触が、胸板には女の豊満な胸の、尖った乳首の感触が、自身のモノには女の柔らかい肌と、ムッチリとした太ももの感触が……。
(――あふぅ……き、気持ち、い、いい)
女の、肉体を武器とした愛撫攻撃の前に、男の精神は快楽の波に攫われた……。
男に擦り付けている自分の部位に、男のモノから滲み出た液体を感じた女がほくそえむ。
男が早くも先走りを出した事に、自分が男を圧倒している事に満足した。
(さぁ、どうするの? 反撃? それとも――このまま堕ちるのかしら?)
(――あぅぅ――あぅぅ――あぅぅ――)
苦しくなった男が体をくねらせ、女から逃れようと儚い抵抗を試みる。
(ふふ。逃がさないわ……逃げたければ、反撃なさい)
女は更に激しく男の口内を貪り、自身も体をくねらせるように動き、男のモノを更に擦り続ける。
女が男から唇を離す頃には、互いの唇からねっとりとした唾液の糸が引く程だった。
それ程に長い間、男は女に貪られた。
ようやく女の愛撫から開放された男は、極度の脱力感に襲われ、息も絶え絶えに戦意を喪失しているかに見える。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
(……もう……終わり?)
落胆した女は体を起こし、男の上に跨るような姿勢になり、逆手で男のモノを軽く握る。後は仕上げに腰を落として男のモノを咥え、腰を振って、止めを刺すばかりだった。
「あっけない……もう少し、楽しませてくれると思ったのに……」
男があっけなく屈した事を寂しく思う。
女はもっと闘いたかった。
もっと激しい攻防を繰り広げる、ギリギリの熱い闘いがしたかった。当然、自分が負けるとは毛程も思っていないが……。
ここで女は考えた……
男が果て、自分が勝利を得るのは、もはや疑いない。しかし、こんなにあっけなく終わらせてしまったら、肉体的にも精神的にも物足りなさ過ぎるのではないか?
だったらもう少し男をいたぶってみてはどうだろうか?もしかしたら男が反撃にでるかもしれない。そうすればまだ闘いを続けられ、満足できるかもしれない。そうでなければ止めを刺せばいいだけの事だ……と。
(ふふ。やってみる価値ありね……)
女は男をいたぶる事に決めた。
窮鼠猫を噛む、という言葉が頭に浮かぶ。男が反撃に打って出て、自分を更に楽しませてくれるという事を強く期待していた。
(さぁ、男の意地――見せなさい!!――)
女が、腰を落とした――
その時、男は顔を上気させ、息も絶え絶えのまま、空ろな眼をして脱力感に襲われていた。
ぼんやりと眺める視線の先に女が見える。
が、男は突如自身のモノが柔らかく、湿った何かに飲み込まれたのを感じた。
「――ぬあぁぁっ!?――」
自身のモノから男の脳へと刺激が伝えられ、瞬時に男の頭から靄が晴れる。
男は自分の置かれている状況を、目の当たりにした。
女が騎乗位で自分に跨り、不敵な笑みを浮かべ、高みから見下ろしている姿を――
(――しまった!いつの間に!?――)
女の口が、ゆっくりと動く……。
「さぁ、耐えるのよ。たっぷりと……可愛がってあげる」
楽しそうに、女が腰を前後に動かす。
ズチュ、ズチュ、と音を立て、男のモノが女の膣(なか)で弄ばれる。
「っんあぁ!?……あ、あ、あ、うあぁぁ……」
男は刺激に耐える。
女は男のモノを軽く締め付け、先程と変わらぬ早さで腰を動かす。
男は女の責めの前に喘ぎ声を出し、悶えているのみ。
「どうしたの?もう終わりなの?」
反撃する様子もなく、悶えるだけの男に女はもどかしさを感じる。
(つまらない……でも、この程度じゃ終わらせないわよ)
女の手が動き、男の足の上に支えとして置かれ、女が自ら大きく仰け反る。
(もっと追い詰めてあげる――)
女が更に動く。
先程の水平な腰の動きから、下から突きあげるような腰の動き――
竿が女の秘部に何度も出し入れを繰り返され、淫らにシゴかれる――
刺激が変わった――モノから精を吸い上げるような、搾られるような刺激――
新たな激しい刺激に、男の脳に快楽の波が押し寄せる――
「――!!!――」
女は表情の変化から、早くも男が1瞬だけ射精感を覚えた事を感じ取る。
「ふふふ……ダメよ」
腰の動きを止め、体を前が屈み気味にし、男の唇に指を宛がい、妖しく笑みを浮かべて囁く。
「お楽しみは、こ・れ・か・ら・よ」
男の顔が恐怖に歪んだ――
この闘いは、女が男に跨った時点で、男の敗北がほぼ確定している。しかし、女はまだ男から精を搾り取る気がない。
気の済むまでいたぶり、最後の最後に精を搾り取り、自らの快楽の糧とする為に男を生かしているに過ぎない。
遅まきながら、男は女の行動と、言動とで女の考えを察した。
状況の打開策を考える内に答えはすぐに出た。
(……アレ……しかないか)
男の眼に生気が戻った事により、女は男の考えが見抜けた。
ついに来るのだ、男の反撃が……。
(ふふふ……ヤル気ね)
男の思いつきは単純だった――
今の女は自分を無抵抗な獲物として見ている。言うなれば完全に無防備で油断しきっている。
ヤルなら今、一撃必殺の突きを食らわせて一気に持っていくしかない。奇襲攻撃による完全な短期決戦だ。
奇襲攻撃は卑怯なのかもしれない――
しかし、奇襲攻撃が有効な戦術であるからこそ、今日までその地位を確立できているのではないのか、と。
(単純だからこそ、意外と効果的で、結構イケる――はず!!)
男の眼が光った――
(――来る!!)
(――勝負!!)
――男が女の腰を手でガッチリと掴んだ。
――男は腰を浮かせるほどに強く、腰と自身のモノを突き上げる。
女は自分の目線の位置が急激に高くなったのを感じて驚く。
それ程の一撃を受けたのだ。
(――――――あぅっ!!)
まさに窮鼠猫を噛む――だった。
(こ、こんな事って!!――)
女は男による反撃を望んでいたが、これほどの威力までは想定していなかった事に舌打ちする。
しかも、男の動きは素早い上に強く、激しく、雄雄しい。まさに雄そのもの。
策士策におぼれる――
完全に女の油断が招いた結果だった。もはや男は獲物でなくなったのだ。
「――あ、あ、あああああ!――ダ、ダメェッ!!――」
男の激しさの前に、思わず女が声をあげてしまう。
ズン、ズン、ズン、と響くような刺激。騎乗位で深く繋がっていたのが災いした。
堪らずに女は姿勢を崩し、男に倒れ掛かる。
男が女の動きに合わせるかのように、倒れ掛かってきた女の背中を強く抱きしめ、女性上位で更に突き上げる。
男は必死だった――
「おおおおぉぉぉぉぉ!!」
(頼む!イってくれぇぇぇぇー!!!)
男は自らの力に望みを託し、雄叫びを上げ、本能のままに激しく自身のモノを突き上げる。何度も、何度も、何度も……。
女の声も、女と繋がっている部分から聞こえる愛液の音も、何もかもが男の耳に届かなくなる。
頭の中が真っ白になるくらいガムシャラに突きまくった。
――女も必死だった
男の様子が尋常でない事に気づき、危機感を募らせる。
(一体、――何故!?)
しかし、女に考える時間は僅かも与えられない。
男は狂ったようにモノを突き動かし、雄叫びを上げ、女に襲い掛かっているのだ。
思考どころの騒ぎではない。襲い掛かる快楽に耐えなければならないのだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁっふぅぅぅ……そ、そこは……くあぁぁぁ…あ、あ、あああああぁぁ!!!」
体が快楽に支配されそうになり、脳までもがとろけそうになる。
背中には汗が滲み、男の胸に押し付けられているとは言え、乳首がピンと勃っているのを感じる。体が、手や脚が、指の先までもが性感帯になったかのように敏感になっているのが分かる。
さっきまで男を貪っていた口はだらしなく開き、熱い吐息と、獣の如き喘ぎ声を発する事しかできない。膣(なか)には今も変わらずに男のモノが所狭しと激しく暴れ、絶えず刺激を、女には大きすぎる快楽の波を提供し続けている。
(わ、私……ま、負ける……の?)
頭に一瞬だけ弱気がよぎる。
が、すぐさま思いなおす。
(いやよ、誰が負けるものですか!耐え切ってみせる――それが私の女の意地――見てなさい、
お前の攻撃が終わったら……ただでは済ませない!!)
が、男の攻撃はそんな女の思いを突き崩そうとしているのだ。
男のモノを通じて恐ろしい程の意思の力を感じさせられる。
――早く、早く、1分、1秒でも早く……イってしまえ、果ててしまえ、負けてしまえ、絶頂を迎えるのは気持ちがよいぞ?
勝利すら忘れさせてくれる程に……と。
その意思の力に体が屈してしまったのか、遂に女から禁忌の言葉が洩れそうになる。
この言葉を口に出してしまったら最後、心までもが負けてしまう。
が、口は自分の意思とは無関係に禁忌の言葉を紡ごうとする。
「――イ、イ、イク、ククク……ものっ!……です、かぁぁぁっ!!!――」
女は絶叫する事で、辛うじて禁忌の言葉を否定できた。
男にここまで追い詰められた悔しさのあまり、血が滲むほどに唇を噛み締め、拳を握り締める。
しかし、男から与えられる快楽との闘いはまだ続いている。
女の精神力と、強い思いだけで、肉体が快楽に支配されるのを防いでいた。
(お前なんかに、男になんかに、絶対!!――)
「――負けないぃぃぃ!!!――――」
女は部屋中に響き渡るような大声で叫び、男の腕を力ずくで振り解き、思い切り尻を突き出した――
ぶつかり合う互いの性器――
「ああああぁぁぁぁ!!」
「ぬああぁぁぁぁぁ!!」
女の意識が1瞬飛ぶ。
男は衝撃のあまり、自身に熱い込み上げを感じ、腰の動きを止めざるを得なくなった。
女に奇襲攻撃を防がれた事を悔やむ。
( くそっ!仕留め切れなかった――失敗か……)
女は男の動きが止まった事で、笑みが洩れる。
(ふ、ふ、ふふふ……やったわ、耐え切ったわ。私は負けなかった……)
追い詰められながらも、最後は力で男をねじ伏せたのだ。
女はこの充足感が、力尽きかけていたはずの体に活力を取り戻させたのを感じる。
回復した体を僅かに起こして体勢を整え、呼吸を整えてから、男の顔を両手で優しく包み込む。
「よくもやってくれたわね――今度は私の番。楽に気持ちよくなんてイカせない……ふふふ、分かってるわよね?
もう、あんな攻撃は2度とさせない。だから、あなたは終わりなの。後はおとなしく搾られなさい、可愛い声で鳴きながら……」
女は再び上体を起こして騎乗位となった。
が、何故か女は手を広げ、男を起こさせようとする。
(……?)
男には訳が分からない。自分にとどめを刺そうとしている女が何故、今更座位を望むのか?
女は騎乗位好きであるはずなのに……。
(まぁいい……こうなったら引くも地獄、進むも地獄だ。毒を喰らわば皿まで。出たとこ勝負だ)
男は考えるのを止めた。
どっちにしても、女は男をいたぶるつもりなのだ。今更その手段を気にしても仕方ない。
奇襲攻撃に失敗した時点で勝機は失われたに等しいのだ。
男に出来る事と言えば、ひたすらにチャンスを待ち、もう一度奇襲攻撃をする事くらいだった。
……諦めの境地に近い。
(後は信じるしかないか……神様とやらの存在、奇跡を――)
――男が神頼みの奇跡を願った瞬間、女が男の肩に手を置き、腰を動かし始めた。
「どう?気持ちいい?」
「―― くぅぅぅっ!!!」
さっきの仕返しとばかりに、男に腰を押し付けてくる女。
男には散々喘がされ、よがらされたのだ。同じ目に合わせないと女の気が済まない。
大きく、強く腰をグイ、グイっと押し付け、男のモノを刺激する。
「ねぇ、黙っていたら分からないじゃない?ほらほら、言ってごらんなさいよ。私の膣(なか)はとっても気持ちがいいです。
イっちゃいそうです、って」
「はぅっ、はぅっ、はぅっ、はぅっ」
男は声を出せない位に喘がされているわけだが、眼は死んでいなかった。
女の問いには激しく頭を横に振り、挑戦的な眼でもって女を挑発する。
意味合いとしてはさしずめ――誰がイクかよ!?やれるものならヤってみろ! と言った所だろうか?
(ふふふ。上等じゃない……)
男からのメッセージを汲み取った女は、眼を細めて冷たく光らせる。
女は少しだけ怒ったのだ。
女の手が男の肩から離れ、ゆっくりと男の首の後ろへと廻され、女と男は額と額とを付き合わせて見つめ合う。
男は悟った――本気の攻撃が来る事を……。
「や、やめろぉぉぉ……」
「イったら、許さないわよ?」
一言忠告をし、激しさを増した状態で、女の腰が再び男を搾ろうと動き出した――
女に強く抱きしめられ、女の胸が潰れるくらいに強く押し付けられ、密着される。
器用に腰の括れから下だけを動かす事により、女は男に振動のような刺激を間断なく送り込む。
男の下腹部が、女の下腹部に打ち付けられるほどに激しく。
女が激しく動けば動くほど、男の体も激しく揺らされる――
喘ぎが――吐息が――鼓動が――女の動きによって更に激しくさせられていく――
男の目が見開き、口が大きく開き、最後に天を仰ぐ――
「―― ああああああああぁぁぁっ!?で、出るぅ!?――」
男の声で、女は腰の動きをピタリと止める。
またも女が男に額をつけ、笑みを浮かべながら呟く。
「まだよ、まだイカせない」
男は女の声など聞こえていない様子で、深呼吸をして精神を落ち着けている。
女が妖しく微笑む。
男に射精感を落ち着かせる暇も与えずに、少しだけ下腹部に、秘部に力を込める。
「うふふ。これはイキそうになった、罰よ」
(―――――― !!!)
男が息を飲んで表情を強張らせ、全身を硬直させる。モノを締め付けられ、2度目の射精感を煽られたのだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁ……」
女は男の反応を楽しんでいる。
男が必死に射精を押しとどめている姿が、自分の締め付け一つで自在に操れる事が楽しいのだ。
「ふふ……もう1回」
「―― あっ、ふぅぅぅぅ!!!――」
3度目の射精感。男は俯き、全神経を自身のモノへ集中して、射精感を落ち着けようとする。
「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ」
男は呼吸をする事すら苦しそうに見える。
あまりに苦しそうな男の様子を見る内に、女は男に同情の念を抱きはじめた。
「ねぇ、苦しい?」
男に優しく口付けを施し、情けの言葉を小声で囁く。
女の言葉に男は力なく、コクンと頷く。
「く、苦しい……頼む。イカせてくれ……」
「……そう、わかったわ」
最後の仕上げは騎乗位、と女は決めている。
上から見下ろしながら、男をイカせ、屈服させる事で、征服欲を満たすのが堪らないのだ。
女がゆっくりと男の胸に手を置き、慎重に体重をかけていく。
男は自分の体に女の体重が加わるのを感じるが、支えようともせず、再び押し倒されるのを許容した。
「…………」
男の様子の何かが腑に落ちなかった……。
――男には分かっていた。
女の性格を、クセを、心理を、誰よりも詳しく。それ程に付き合いは長かった。
故にこれから自分に起こる事を正確に予測できた。
(きっともう1度、彼女は口付けをしてくる。自分を仕留める儀式として。彼女は――そういう女だ。)
男の予測通り、女の手が男の顔に触れてくる。
眼を閉じていたが、女の息を肌に感じる事で、顔と顔とが近いのを察する事ができる。
(まだだ、もう少しだ……)
男は心を落ち着け、じっと機を待つ。
「始めましょう。お前の、いいえ、あなたの終わりの始まりを……」
女の唇が触れた――
(――今だ!!)
眼をカッと見開き、女の腕と背中を強く抱きしめて拘束し、最後に残った力を自身のモノに込めて女を突きぬく。
『まさか2度も同じ手でくるまい……』 と、油断している女は自分の反撃を再び食らい、大声で喘がされ、突如押し寄せる快楽の波の前に堪らず絶頂を迎え、男の前に敗れ去る!
――――はずだった。
見開いた男の眼が女の眼とあった。
女が笑った……声をあげて、楽しそうに。
男の手は、女に肩を押さえつけられる事でその自由を封じられ、果たすべき使命を果たせずにいる。
女を突き上げるべき自身のモノは、女が腰を浮かせた事で秘部から引き抜かれおり、突いても意味をなさない。
(――読まれて……いた!?)
男の最後の秘策、女の性格と心理を逆手に取る2度目の奇襲攻撃は、失敗どころか未遂に終わった。
この状況が信じられない男に向かって、女から呆れたような言葉が投げかけられる。
「バカね……付き合いが長いのはお互い様、でしょ?」
その通りだった……男は自分の浅はかさに呆れた。
事ここに到って、男はようやく負ける事を覚悟した。
(もはやこれまで……かな?)
「覚悟はいい?」
女が一声掛け、男を仕留めるべく、再度男のモノを咥え、腰を振りはじめる。
「――ふあああぁぁぁぁっ!!!――」
男が大声を出して悶えている。
その大声は雄叫びでもなければ気合でもない。女に搾られている事による喜びと苦しみと快楽を混ぜ合わせた声。
「もっと、もっとよ!もっと悶えて!悶えながらイクのよ!出すのよ!!」
女は騎乗位で、ダンスを踊るかのように腰をくねらせている。
腰が動く――前に、後に――左に、右に――しなやかに、淫らに――
豊満な胸が女のリズムに合わせて激しく躍る――
細く美しい指が長い髪に絡む――
狂ったように髪を振り乱し、淫らに男を責め、着実に敗北の射精へと導こうとする。
男はシーツを強く掴み、最後まで徹底抗戦を試みる。
「――ぐああああああぁぁぁぁっ――まだだっ!――」
( くふふふふ――これよ、これ!――これだから!――)
女は男が陥落しない事に喜びを覚える。
先程ではないにしろ、男と激しく闘える事が嬉しいのだ。
が、遂に男を仕留めようと、その喉元に牙を突き立てようとする。
( うふふふふ。でもこれでお終い――いい声で、鳴きなさい!――)
女が男のモノを強く締め付け、弧を描き、搾りたてながら一気に腰を浮かせていく。
「ほら、耐えられる!? あなたの大好きな技よ! ほらほらほらぁ、どうするの!? 出しちゃうの!?
いつもみたいにイっちゃうのぉぉぉぉ!?」
「―― くぅっ! 毎度毎度! 同じ技なんかでぇ!!」
男は気合のみで出掛かる精子を逆流させる――
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
「ふ、ふ、ふふふふふ。よく耐えたわね……でも、次はどうかしら?初めて見せてあげる技よ。
きっとあなた程度じゃ気持ちよすぎて、すぐに出しちゃうわよ。」
今、女は腰を浮かせたまま、浅くモノを咥えている。カリ下2〜3cm位の所で女がモノを締め付けている事になる。
「……やってみろよ」
「ふふ。言っておくけど、足掻く暇なんてないわよ?秒殺で――終わらせてあげる!!――」
女が動いた。
そのまま腰を上下に動かした。
女が激しく男のモノを浅くシゴく、自らの秘部で締め付けながら――
全ての刺激を1点に、男の亀頭下部に集中させる――
女から溢れた愛液と、男の亀頭下部が擦れあい、ジュ、ジュ、ジュ、ジュ、といやらしい音を激しく奏でる――
男のくびれが女の秘部に引っかかり、1撃1撃の刺激が男の体中に響き渡る――
男の体が重力から開放されたように軽くなる――
男はあまりの気持ちよさに、大声をあげずにはいられなくなった――
「あ、あ、あ、あああっっ!!――ぬわあああぁっっ!!――あああっっ!!――」
男の激しく悶える姿に、快楽の波が、女の体の奥から体中に行き渡る。
女の方が先に絶頂を迎えてしまうのでは、と思える程に高ぶり始めた。
そして女が喚く。
「あはははははは。言ったでしょ、気持ちいいって!? 耐えられないでしょ!? 知っているのよ、もう出しちゃうわね!? 負けちゃうわね!?――ほら、何秒保つの!? ねぇ、どうしたの!? 何とか言いなさいよ!! ほらほらほらほらぁぁぁ!!」
「――――――――――――――――――――!!!」
女が喚いてから何秒も保たなかった――
男は声を出す暇さえなかった。
射精を感じたと思った時には、すでに出していた。
女は男の射精を、膣(なか)で感じとる。
膣(なか)に、精液が満たされてくのを感じる。
「――か、感じる!来てるわ――白いのが、濃いのが、熱いのが、ドプドプと―― うふ。うふふふふ――
あなた、出したわね!? イカされたわね!? 負けたわね!? 私の○○○○に!!――」
男を仕留めた興奮の余り、何かに突き動かされるように女の手が動く。
左手は自身の豊満な胸を自ら激しく揉みしだき、右手がク○ト○スに伸び、指で擦る。
「――――――――――――――ふぁっ、あぁぁっ!!!――――――――――――――」
一際大きく女が叫び、体が大きく反り返った。
――女も、果てた。
男は女に全ての精を搾られ、注ぎ終わると同時に力尽き、ベッドへと静かに沈む。
女も男の後を追うように果てた後、ベッドへ沈む男へと体を預けるように、沈んだ……。
闘いは終わった――
女は男に体を預け、いつしか眠りについてしまったようだった。
寝顔は安らかだ。闘いに勝利したからであろうか?男の腕に抱かれているからだろうか?男にそこまでは分からない。
男は女の髪を優しく、2度3度と撫でる。女に向けられるその表情とその行為には、女への愛しさを感じさせる。
当然の事だった。
女は男の妻なのだから……。
闘いが終わりさえすれば、女は男の愛すべき妻本来の姿に戻るのだ。男は夫として、妻を愛しく思うのは当然の事だった。
妻の寝顔を見て、ふと疑問が湧いた。
(……妻は一体、どんな夢を見ているのだろうか?)
男はそれが良い夢であって欲しいと思う。
妻の夢に思いを巡らせる男の耳に、微かに妻の声が聞こえてくる。どうやら男の、夫の名を呼んでいるようだ。
(おやおや、夢の中でも自分は妻と肌を重ねているらしい)
と、内容を察する。
――何故そう思うのか?
男は、いつも笑いながら夢について語る妻の様子を思い出していた。
(あなたはね、夢の中でも私とエッチしているのよ、本当にスケベなんだから!
それも、あなたが夢に出てくる時は毎回必ずそうなの。おまけに勝負までしているし!困ったさんね?うふふ)
この時の様子を思い出したからこそ、男は妻の、夢の内容を察する事ができるのだ。
(そう言えば……夢の中での闘いは、妻の勝利以外の結末を聞いた事はなかったな……)
そんな事まで思い出して、男は苦笑してしまう。
そして思う。
(夢の中の妻は、自分と優しく肌を重ねてくれているのだろうか?)
叶うなら、そうあって欲しいと強く願う。
――何故?
男は夢の中で妻と闘っても、きっといつものように負けてしまうだろうから。
夢の中とは言え、自分があまりにも可哀想だと思うから。
だから、せめて今日の夢の中では、普通の夫婦の『 夜の営み 』を堪能して欲しかった。
今日の闘いはすでに終わっているのだから……。
男の思いと裏腹に、眠っている妻が妖しげな笑みを浮かべる。
男は渋い顔になる。
(やれやれ、やはり夢の中では自分は妻と闘い……負けたらしい)
妻の浮かべた笑みはそんな感じの笑みだ。
男はしみじみと思う。
(それにしても……夢の中でさえ、ままならないのか……)
大きなため息を1つつき、男は妻と共に眠りにつく事にした。
おしまい
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