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タイトルなし 1-3

 次の日、ホリスは柔らかい宿のベッドで目を覚ました。ふと窓の外に目をやると、すで
に太陽は真南に昇っていた。全身が異常なほどに気だるい。昨晩の疲れが、まだ残ってい
るのだろう。
 下半身には、サキュバスの膣の凄まじい締めつけの感触が焼きついている。昨晩のサキ
ュバスのテクニックを思い出すと、寒気が走った。生きていることが不思議とさえ、ホリ
スには思えた。
 大きなあくびをしながら、疲労した体をほぐそうと背伸びをしていると、
「目が覚めたか」と、サキュバスの声が背後から聞こえた。
 なにかを言うべきなのだろうが、とっさに言葉が出てこなかった。戦士という立場上、
友好的な言葉を投げかけることはできないが、さりとてあれだけこてんぱんにやられた手
前、挑発的な言葉を口にするわけにもいかない。
 ホリスが言葉に詰まっていると、
「おまえの精液、なかなかいい味だったぞ」
 と、いやらしく笑いながらサキュバスは言った。

「しかし、早すぎだな。戦士としての素質はあるが、鍛錬が足らん」
 戦士、という言葉を聞いて、ホリスははっと顔を上げた。
「どうして、それを……」
「淫魔の体臭が体にこびりついている。香水を使うとか、なにか工夫が必要だな」
 そう言うと、サキュバスはホリスの横に座った。その時に、漆黒の長髪が揺れ、甘い香
りがホリスの鼻腔をくすぐった。劣情を刺激する、強烈な淫臭に思わず理性が揺らいだ。
それを見透かしたように、サキュバスはホリスを抱き寄せ、唇を重ねた。柔らかい感触と
ともに、どろりとやや粘性を帯びた唾液が流れ込んできた。舌がホリスの唇を這うように
して舐めちぎったかと思うと、やや強引に口内へと侵入してきた。驚いて、サキュバスの
舌技に応戦しようとしたが、時すでに遅く、蛇のようにうねる舌がホリスの舌を絡めとっ
てしまった。口内をあますところなくサキュバスの舌が蹂躙し、強烈な吸引で意識を奪っ
ていく。
 パサリ。乾いた音ともに、ホリスの後ろ髪がほどけた。と同時に、サキュバスはホリス
を解放した。深呼吸して、酸素を味わったのもつかの間、次の瞬間、ホリスは驚きの声を
あげた。
「あっ、やめっ、そ、それは……母さんの……っ」
 混乱して、言葉がしどろもどろになるホリス。サキュバスの手の中にあったのは、髪を
くくる黒い紐[ひも]であった。亡き母の髪で結った、形見。

「大事なものなんだ……返せっ」
 すると、サキュバスは意地の悪い笑みを浮かべて、
「返してほしいのか?」
「返せっ、返してくれっ……お願いだ……なんでも、するから」
「ふん。淫魔の前で戦士が気絶したんだ。命を取られても文句は言えないんだぞ」
 そう言うと、サキュバスはその紐を自分の髪にあてがい、束ねた。
 口惜しさにホリスは歯がみしたが、疲労に縛られた体は思うように動かない。いや、も
がく気力さえも残されてはいなかった。ただ、サキュバスをじっと見据えることしかでき
なかった。
「いい目だ、少年。もっと悔しがれ。男は、屈辱を噛みしめて、強くなるものだ」
 そして、愛しいものに対するように、ホリスの頭をかき抱いた。サキュバスの豊満な胸
のなかで、ホリスはうめくようにして言った。
「……どうして、こんなことをする。なぜ、ひと思いに殺さない……?」
 すると、サキュバスは、
「うん。なんだ。人間の世界で言う……キャッチアンドリリースというやつだ」
「キャッチアンドリリース? 魚釣りとかの……」
「そうだ。もっと強くなって、わたしを楽しませることができるようになったら、また来
い。そうしたら、これを返してやる」
 なにか言い返そうとしたホリスの口を、強引にキスで塞ぐサキュバス。また意識が霧散
し、あとはサキュバスのなすがまま。ベッドに押さえつけられ、激しくも巧みな愛撫で、
ホリスはありったけの精を搾り取られた。
 ホリスが解放されるのは、それから半刻ほど後だった。

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