「邪魔」
妹が冷ややかな表情で兄に向かって言った。
「場所とってんだよ。ブタ。どっか言ってよ。あたしテレビ見るんだから」
生意気な妹の態度にムッとする兄。
「ブタだと…?」
兄が妹をにらみつけて言うと、妹は鼻で笑う。
「あら。ブタじゃない?あたしのお兄ちゃんとは思えないわよ。なにそのお腹、ぶっさいくな顔して。あんたみたいなブタちゃん見てるだけでイライラしてくるわよ。消えて…きったない子ブタちゃん」
妹が子ブタと言ったのは、兄は高二にもなって身長が160センチしかないのである。中学のころから相撲ばかりしていたせいか、筋肉と脂肪はついたが、身長はのびなかったのである。顔もまるでイケ面とはほど遠く、親父くさい顔になってしまっている。妹は対象的で、小学のころから新体操を始め、手足が細く長く、中二の女子とは思えないほど、美しい。背もすらっと高く、去年ついに兄を追越し、今年には165センチと差をつけ始めた。男子にも人気があり、高校生や社会人との付き合いもあるようだ。
「お前なぁ……」
ぼろくそに言われた兄が顔を真っ赤にして震えている。
「なに怒ってんの?子ブタちゃん。なんか臭いよ?ブタの匂い」
妹がにやにや兄を見下ろして言う。
兄は怒りのあまり立ちがり、
「てめぇ!!!調子のりやがって!!」
妹の前まで寄り、怒鳴りつけたが、
「は?」
妹が冷ややかな目でじっと兄を見下ろしている。兄は妹の美しく、そして、とてつもなく恐ろしい表情に、目をそらしてしまった…。
「近くで見ると、ほんとにキモいね。ちっちゃいし、何しに生まれてきたの?子ブタちゃん?」
妹がまた兄を馬鹿にする。兄がその言葉に睨み返す。その瞬間。
「べちゃっ!!」
「!!?」
兄の顔になにか飛んできた。なにがおこったかわからない兄。これは…唾液だ!妹が…妹が実の兄に唾液を吐きかけたのだ!
「うれちぃ?子ブタちゃん。」
「なにを……!」
妹が舌を出してにやにや笑っている。
「はははっ。みじめね。ぶっさいくできったないお顔、こっちにむけないでくれる?ほら!ほら!」
べちゃっ べちゃっ べちゃ
何度も何度も唾を吐きかける。
「うっ!くっ!やめっ!」
兄は妹の唾攻撃に、パニックに陥ってしまった。その兄をおかしそうに笑い、唾を吐き続ける妹。
「はははっ。ぷっ!ほぉら。お顔ぐっちょぐちょ。悔しいでちゅねぇ。妹にこんなことされて。ぷっ!何もできないみたいね。ぷっ!あっ。前みえないのかな?ねぇ、お相撲さんでしょ?女の子に好き勝手やられてるよ?ぷっ!ぷっ!」
ぐちゃぐちゃになる兄をどこまでもどこまでも馬鹿にし、嘲笑った。兄は抵抗しようにも妹の唾で何も見えないのでどうしようもない。妹は兄の肩をがっちりつかんで足を踏んで逃げられないようにしている。
兄が徐々にぐったりし始めた。意気が苦しくて疲れ切ってしまったようだ。
「ほらぁ。もう終わり?倒れちゃうの?アレだけつよがってた子ブタちゃんが唾だけでやられちゃうの?ほぉんと、あんたは生きてるだけ、無駄よ。なんで子ブタちゃんのくせに、今まで人間のあたしに偉そうに口聞いてたの?あら。もう声もでないみたいね。」
妹は意識朦朧の兄の姿を完全に別の醜い、哀れな生物としか見ようとしなかった。兄はついに気絶してしまった。薄れゆく意識の中、実の妹の、美しすぎる笑顔が、恐ろしかった。
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