「ホントに……、ひっぱたくの?」
レイは自分と向き合っている淫魔ディアネイラの発言に耳を疑い、うろたえながら一歩あとずさった。
成長途上の少年より頭半分ほど長身の彼女は、妖しい笑みを湛えながらうなずき返す。
「そう。遠慮なしに力いっぱい、わたしの頬を張ってごらんなさい」
ディアネイラは小首をかしげながら、真紅の瞳に真剣な光を乗せてレイに伝えた。
「やだよ。父さんにも、女を叩いたら駄目だって言われて育ってきたもん」
「あら。その親の仇に気を遣ってくれるとは、お優しいこと」
ディアネイラは皮肉を言うと、薄い唇の端を僅かに吊り上げた。
レイはディアネイラに嘲笑されると、苦虫を噛み潰すように童顔をしかめ、眼前に佇む淫魔の容姿を眺めた。
レイを監禁している大部屋に来るまでは掃除をしていたと言っていたので、ディアネイラは軽装だった。
藍色のベアトップは丈が短く、臍を出している。腰には同色のタイトスカートを穿いており、こちらも丈が短く、白雪色の太腿が伸びていた。
料理が趣味で掃除も普通にこなす淫魔が想像できないが、現実としてその淫魔は眼前に佇んでおり、淫魔への一般知識が粉砕されてしまいそうだった。
家庭的一面を見せるディアネイラだが親の仇である淫魔であり、いつかは斃すと誓っている。だが、いざ手を上げろと言われてみると、レイは逡巡してしまった。
「淫魔に対して敵意のある物理的な接触は効かないと、あなたも知っているでしょう? その確認をするのよ」
「んん〜……」
レイの空色の双眸は輝きを失い、濁った色を秘めた。
淫魔が人間にとって天敵となった最大の理由が、物理攻撃無効という特殊効果である。これによって人間たちは、淫魔に蹂躙されるようになった。銃も剣も効かないのである。人類存亡の危機を迎え、核攻撃を決行した悲愴な歴史すらある。だが、それすらも効かない相手だ。
淫魔を滅するには性行為で絶頂させるしかないのである。淫魔は淫魔以外の者に絶頂させられると消滅する。淫気を保つために人間たちの精気が必要なのだが、絶頂すると淫気を放出してしまい、逆に精気が毒となるのである。人間が絶頂時に淫気を浴びると危険な状態になるのと同じで、むしろ淫魔のほうが死に直接結びつくだけ危険なのだった。
その代わり物理攻撃は効かない。子供でも知っている常識である。無論、レイも知っている。自分の道徳心が、女性に手を上げるのは許されない行為だと、決断を鈍らせるのだった。そこに種族の垣根はなかった。
「大丈夫よ。わたし、痛くされるのも好きなの」
「そ、そういう問題じゃあ……」
レイは茶色の髪の毛を乱雑に掻きながら、理性と現実を交互に戦わせた。
しばらくのあいだ、レイは唸りながら考え事をした。ディアネイラは黙って待っている。
「……分かった。やってみる」
「さすがは男の子。さあ、思い切りどうぞ」
レイは右の掌を見下ろしながら、何度か握って開いてを繰り返した。
「いくよっ」
やるからには全力だと、ディアネイラの左頬を目掛けて右腕を振った。
すると、ディアネイラの頬に当たる寸前で何かの力によって右腕は弾き飛ばされてしまった。
「はい、お疲れ様。普通なら、こうなるわよね」
レイは不思議そうに右の掌とディアネイラの相貌を交互に見た。
「ホントに効かなかった……」
呆気に取られているレイに淫魔は微笑を向け、さらに話を切り出した。
「では次。修行の成果を試すわよ? 心臓に意識を向けたら、流れるイメージをもって、右肩、右腕、右手と淫気を移動させ、右手に力を収束させてごらんなさい。わたしが指示するまで、それを繰り返しおこなってね」
レイはディアネイラの手伝いをすると宣言してから、ディアネイラ指導のもと、淫気を自在に操れるようになるための修行をするようになった。今まではどんな役に立つのかも分からずに言われるままに指導を受けていたが、
「やだなあ。なんか、分かった気がする……」
「ウフフ」
いやな予感だけは当たるものである。
レイは覚悟を決めると、瞳を閉じて心臓に意識を集中した。卑猥で生ぬるい感覚が濃くなっているのが分かる。淫人となってから淫気喰いをするようになり、自分の身体は高濃度の淫気で満たされるようになっていた。
その淫気を右手まで流れるように想像しながら移動させた。右肩が火照り、次に右腕が火照る。右手が火照ると、そこで溜めるようにイメージし、さらに心臓から淫気を流し込むよう作図し、何度もその行為を繰り返していった。
額に汗が滲み、疲労感を抱いた。右手は焼けるような痛みを訴えている。
「はい、もういいわよ」
ディアネイラから終了の合図を言い渡されると、レイは大きく吐息をつき、目を開けた。
右手は濃紫色の波動に包まれている。どうやら成功のようだ。
「ではもう一度、わたしを打擲なさい」
「やっぱそうか……」
レイはなるようになれとディアネイラの頬へ目掛けて右腕を振ると、濃紫色の波動が残像となって弧を描き、ディアネイラの頬へと迫った。
今度は腕が弾かれずに淫魔の頬に直撃し、高らかな音が室内に響く。
ディアネイラは打たれた衝撃で白金色の髪の毛を舞い散らせながら頽れた。
「あん。乱暴さんね」
ディアネイラはコンクリート床に尻をつきながら、左手で頬を押さえ、レイを見上げる。その表情は嬉しそうであった。
「うわあ、やっぱ入っちゃったよ。ごめんっ」
レイは自己嫌悪しながら慌てて膝をつき、ディアネイラを覗き込んだ。
「女に手を上げるなんて……。わたし、悲しいわ。泣いてしまおうかしら」
「ぎゃああ、どーしよー」
ディアネイラは笑っているのだが、レイは混乱していて状況を把握できずにいた。女性を殴ったという罪悪感が全身を支配している。
「冗談よ」
左頬に熱を感じながら、ディアネイラはレイの肩に手を添えた。レイは消沈しきっており、赤い手形の浮き出ているディアネイラの頬を撫でている。
「ほら、立ちなさいな」
ディアネイラに介添えされながら、ふたりは立ち上がった。少々、悪ふざけがすぎたようである。レイは血の気を失っていた。
「世話の焼ける子ねえ。優しいのはいいけれど、あなたの場合、女ひとり屈服させてやるという強引さも、もったほうがよいわよ?」
「大丈夫なの?」
「平気よ。痛いのも好きだと、言ったでしょう? もっと叩いてみる?」
ディアネイラはレイの手を掴んで自分の臀部へと導くと、二、三度ほど、レイの手を使って軽く叩いてみせた。
「え、遠慮しとく」
慌ててレイは自分の手を引っ込めた。ディアネイラの頬を張った動揺で淫気の収束はすでに解除されており、濃紫色の波動は消え去っている。
「もう、つまらない子ねえ」
ディアネイラは柳眉を下げたが、すぐに気を取り直した。
「まあいいでしょう。では、先程の要領をよく覚えて、暇を見つけては、淫気の精錬に努めなさいね」
「うん、分かった」
淫魔に物理攻撃を通す方法を習得させて、何をさせるのだろうかと思案してみたが、今のレイでは理解できなかった。時が来ればディアネイラから切り出してくるだろうから、あまり深く考えないようにした。場合によっては、ディアネイラとも戦えるのである。焦る必要はなかった。
「ふぅ、じゃあ寝ようかな」
レイはキングサイズベッドへ向かうと、腰を下ろしてひと息ついた。多量の淫気を放出すると大きな疲労を負うようだ。全身が気だるくなっていた。
「そうはいかないわよ。これからがわたしのお愉しみなのだから」
ディアネイラもレイのあとを追い、ベッド脇に座っている少年の正面に立った。
「えー。疲れてるし、もう明日にしてよ」
「いやよ。なら、あなたはそのまま楽にしていなさいな」
ディアネイラはレイの脚を開くと、少年の脚のあいだに自分の肉体を入れ、跪いた。
「う、……まさか」
「ウフフ」
ディアネイラがレイの若塔に細い指を絡ませると、たちまち勃起した。
「口で、するの?」
今まで、ディアネイラが口でしたことはない。その昂奮にレイの心臓は高鳴った。
「おいやかしら?」
「ううん。ドキドキする……」
ディアネイラはレイの顔を見上げたまま、妖艶に微笑した。彼女は決してレイの目から自分の瞳を逸らさず、すでに透明の液を吐き出しているレイの敏塔を上下にしごいた。
「そろそろ、ここも大人になりましょうか」
ディアネイラはレイと見つめあったまま、親指の腹をレイの鈴口にあてがった。指の腹に透明の粘液を塗ると、包皮が半分ほど被っている少年の桜色の亀頭に伸ばしてゆく。とくに包皮の縁へ丹念に塗り込んだ。
「痛むかしら?」
「……大丈夫」
痛いどころか快感に酔いしれそうだった。ディアネイラはレイを凝視したまま真っ赤な舌を出すと、包皮の縁に舌先を当て、一周させた。
熱いディアネイラの舌先が亀頭に触れると、レイは背中を反らせて快感に打ち震えた。
唾液を潤滑油にして包皮の縁に塗り込み、頭で円を描きながら、何周もする。同時に、握っている手を少しずつ下げて、ゆっくりと時間をかけながら皮を剥いていった。
少しずつ亀頭の全貌が明らかになってゆく。すでに唾液で濡れ光り、軽く痙攣していた。
レイはディアネイラと見つめあいながら射精感を堪えた。自分で包皮を剥くと痛いだけだったので放置していたが、ディアネイラによって剥かれてゆく感覚は、夥しい快楽となって押し寄せている。
淫魔は薄い唇を包皮に被せると、今度は唇によって剥き始めた。その間、熱気のある口腔では、舌が包皮の縁を周回している。
レイは、徐々にディアネイラの口へと入ってゆく自分の敏塔を見ると昂奮した。緩慢な動作で頬を窄ませている淫魔の容色が凄艶である。
柔らかな唇に咥えられる感触は新世界への船出であった。巧みに動く舌のねぶりも、口内の熱気も、すべてが狂乱するほどの悦楽を与えてくれる。そして、絶対に視線を外さないディアネイラの真紅の瞳に吸い込まれる思いであった。
「出る……」
情けない声を発しながら、レイは射精した。
ディアネイラはレイの果塔を咥えたまま、腔内へ出してくる粘液を嚥下している。細く白い喉の微動は、淫気の侵入を受けるレイの昂奮を、より増大させた。
大量の淫気を放出していたためなのか、一度目の絶頂から心臓に痛みを受けた。だがディアネイラの妖艶な表情を見ていると気にならなくなった。
「はい、大人になったわよ。同時に果ててくれるなんて、なかなかよい演出ね」
ディアネイラはレイの果塔から口を離すと、褒美とばかりに亀頭へ軽くキスをした。
「こんな形なんだ」
レイは興味津々に剥けきった自分を見た。桜色の亀頭は唾液に濡れているが白い痕跡はない。すべてディアネイラによって舐め取られていた。
余っていたはずの包皮は完全に竿へと移り、裏筋が伸びているのが見える。
試しに剥けたばかりの部分へ指を這わせてみた。
「痛っ……」
露出させたばかりの部分は、まだ敏感すぎるようだ。レイはすぐに手を引っ込めてしまった。
「初々しいこと」
ディアネイラが真っ赤な舌を出して敏感すぎる部分をひと舐めした。
「あれ、なんで? 痛くない」
「さあ、なぜでしょうね。わたしは媚薬の塊なのかしらね」
ディアネイラがレイの敏塔を咥えると、やはり痛みはなかった。彼女の唾液が鎮痛剤の役割を果たしているのかもしれない。痛みはあるのかもしれないが、それ以上の快楽によって打ち消されたかのようだった。
「うぅ。休ませてくれないのか……」
亀頭を呑み込まれたレイは呻くばかりである。
ディアネイラは頬を窄めると、汚らしくスープを啜るかのように淫猥な音を立て続け、吸った。
震える淫魔の唇がレイの剥けたばかりの部分を刺激する。
「すご……い……」
レイは快感に打ち震えると背中を丸め、口を真一文字に引き結びながら射精感を堪えた。
敏塔は吸い上げられ、ディアネイラの舌先が鈴口に侵入してくる。溶けてしまいそうな快感だった。
ディアネイラの左手がレイの陰嚢に伸びると、ボールジャグリングでも楽しむかのように器用にこね回してきた。袋の中のものが射精をしようと敏塔の根元へ運ばれてゆこうとするが、それを許さず弄ぶため、淫魔の指のあいだを通過し踊り続けた。
あと一度の射精でレイが限界になるのを知っているかのようである。
レイは果ててしまいたかったが、ディアネイラがふぐりを蹂躙しているので発射態勢に入れず、生殺しとなった。だが、もっとしてほしいという欲求もあったので、不満には思わなかった。
ディアネイラは舌全体を使用してレイの敏塔を包むと、頭を下げてきた。
奥へと呑み込まれる快感に加えて舌による愛撫がレイの脳に直撃し、全身が痺れた。
「ね……根元まで」
すべて呑み込まれてしまうと、ディアネイラの唇がレイの股間に当たる。その状態を維持したまま息をつかれると熱い吐息が敏塔にかかり、軽い痙攣を起こした。
ディアネイラは顔を円運動させながら、喉によって亀頭を締め付ける。膣とは違った圧迫感が心地よい。
レイは苦しいのではないだろうかと思ってディアネイラを覗き込んでみると、白金色の髪の毛の奥にある真紅の瞳と合った。すると彼女は含み笑いしながら切れ長の目を細めてきた。まったく問題ないようである。
ディアネイラは首を上下に動かし始めた。
首を上げるときには頬を窄めて吸引してくる。唇から空気が漏れる音が鳴り、なんともいやらしい響きがレイの耳を刺激した。
首を下げるときには舌による愛撫がおこなわれ、竿に熱く絡み付いてきた。そしてすべて呑み込んで股間に唇をつけると、嚥下して喉で吸引した。
「お、おいしそうに、しゃぶるね……」
レイが雀の涙ほどの声量で言うと、ディアネイラは敏塔から口を離して少年を見上げた。
「ええ、美味しいわよ。何時間でも、顎が外れるまでしていたいのが本音だもの。あなたには、もっと逞しく育ってほしいわ。もっとわたしを満たさせて……」
湧き続けている透明の粘液を亀頭に塗りたくりながら、ディアネイラは薄笑いした。
唇の周辺は唾液で濡れそぼり、口の端は泡立っている。意図的に演出しているのがレイにも伝わり、心悸が高鳴った。
何時間もされたら殺されてしまうと思ったが、この甘美な時間を永遠に味わってみたいという思いも同時に起きた。
「さあ、そろそろイカせてあげましょう。辛いのでしょう?」
「う、うん……」
ディアネイラはふぐりへのボールジャグリングを終了すると、レイの敏塔を口に含んだ。
顔を下げたときに後ろ髪が胸元へと流れたので、淫魔は横髪に手を添え、後ろへと流す。
仕草のひとつひとつがレイには蠱惑的に映り、自然とディアネイラの小顔を抱えていた。
濃密に絡み付く唇と舌がディアネイラの首振りと連動してレイを昇らせる。いっさい手を使用せず、口のみで果てさせる魂胆のようだ。
裏筋に舌が這わされるとそのまま固定して、唇を小刻みに振動させる。そのまま根元まで呑み込むと、今度は喉を痙攣させながら締め付けた。
「あぁ……」
激甚たる快楽に酔いしれたレイは、ディアネイラの喉へ打ち付けるように熱い粘液を解き放った。大きく跳ね上がる絶塔が淫魔の口腔で暴れ、ところかまわず吐き散らす。
ディアネイラは黙って少年の精液を受け止めていた。
「ぐ、ぁ──っ」
淫気喰いが始まると、レイの心臓を握り潰されるような激痛が襲う。左胸を掻き毟るようにしながら悶絶したレイは、歯軋りしながら呻吟した。
大量の淫気が流れ込んでくる。脳まで響く痛みに気が狂いそうになり、レイは荒い息をつきながら痛みを堪えた。
少年の痛がりようがいつもと違うので、ディアネイラは口に溜めていた精液を飲み込んだ。あとでレイを挑するために取っておいたのだが、様子がおかしいので中断し、レイを見上げた。
「ちょっと、大丈夫?」
射精は止まらず、ディアネイラの細高い鼻梁に飛び散った。すぐに次の律動によって、淫魔の左頬が濡れ、右頬も濡らす。だが彼女は頓着せず、黙って痛みを耐え続けているレイの頬に手を添え、優しく撫でた。
「だい、じょ……ぶ。濃いのが……一気、に、入ってきてる、みたい……」
レイは血の気を失いつつも気丈に答えた。
心臓はまだ足りないとばかりに淫気を喰らおうとし、レイは背を丸めて震えた。鼓動はドラムロールのごとく、破裂しそうなほどに叩いている。
呼吸すら辛くなってきた。レイは息を止め、ただただ、痛みを耐えた。
淫気喰いは、いつも一分ほどで終了する。それまでの辛抱だと自分に言い聞かせた。
ディアネイラはベッドへ上がってくると、レイの隣に座って心臓の裏側となる背中をさすってやった。頬を伝い落ちた精液がディアネイラの胸元を汚す。
徐々に、痛みが和らいでいった。
呼吸できるほどになると、余喘に似た息をついて、とにかく沈着に集中する。身体を後ろに倒してベッドに身を沈めると、幾分か楽になった。そのまま瞳を閉じて、痛みが通り過ぎるのを待つ。
ディアネイラは脂汗にまみれている少年の額を拭ってやると、茶色い髪の毛を撫でた。
「少々、愉しみすぎてしまったわね。苦しいでしょう?」
「罰として、明日は……、絶品ビーフシチュー、を、作ること……」
痛みが消えると、レイは喘鳴しながら薄目を開けた。
「まあ。またずけずけと、要求ばかりして」
減らず口を叩けるようなら、もう安全である。ディアネイラは微笑を返した。
「エッチな顔……」
「そうしたのは、あなたよ。昂奮するかしら?」
「うん……」
「そう。……今日はもう休みなさい。こういうのがお好きなら、また次にでもしましょう」
翌日、具だくさんのビーフシチューが出された。
背徳の薔薇 淫波動 了
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