1935

背徳の薔薇 悲壮

「どうしたの? まだし足りないのかしら?」
 淫魔ディアネイラは、レイを監禁している大部屋の隅に設置してあるキングサイズベッドで仰臥しながら、自分の股下で坐っているレイに声をかけた。
 数度の絶頂によって荒い息を吐いているレイを見ながら、自分の体内に吐き出された精気の味を堪能し、白皙の肌は薄い紅みを帯びている。
「え? あ、ああ、うん。もっとしたい……けど、疲れてるから少し、休憩」
 レイは自分の敵意を淫魔に悟られぬよう、咄嗟に返事をした。
 自分の精気は濃いらしく、ディアネイラは精気酔いという、飲酒に近い状態になっている。酔い潰せば好機が到来するかもしれないと、少年は攻略の糸口を見出していた。
 ディアネイラは妖しく微笑んでいる。秘め事を見抜かれたかもしれないと思ったが、レイは何事もなかったように、淫気の侵入によって心臓が握り潰されるような痛みが走っている疲労困憊の身体を休めるため、大きく深呼吸を繰り返した。
 心臓の痛みが消えると同時に、淫気の流入によって淫欲が増した。絶頂すると訪れるこの感覚が辛かった。虚無感などが淫気の力を凌駕するまでは、自分でも抑えが効かない。
 火照りが限界になると総身に激痛が走るのだ。とくに睾丸は焼け落ちる幻覚に見舞われるほどである。充溢する淫気が自分の精気を毒気と認識し、強行に排泄させようと情動に駆らせるのである。
 先日も無理にやめようとして発狂し、気絶するまでディアネイラの尻を抱え続けてしまった。とにかく出し尽くす一念のみとなってしまい、ほかの感情に頓着できなくなるのである。
 深淵なる邪悪な力が自分を蝕み、破滅へと邁進させている。精根尽き果てる毎日は寿命を縮める起因になっているのは明晰だった。だが今回も、あと一度は出しておかないと寝付けそうにない。
 横たわるディアネイラの全裸が、レイを激烈に刺激するのである。
「ディアネイラはさ、まだ全然いけるの?」
「そうねえ。どちらかといえば、これからが本番、かしら」
 圧倒的な淫魔の耐久力と実力差に、レイは気が遠くなる思いがした。自分はすでに体力の限界を迎えている。攻略法によって酔い潰れてくれるかどうかの確証もない。この淫魔を斃せる日など来るのだろうかとさえ思った。
 気がかりがあるのだ。
 ディアネイラを斃せたと仮定して、その後、この忌まわしい呪いを解除する旅に出られたとしても、どうやって生きてゆけばよいのか見当もつかなかった。大まかな、生きる目標は出来上がっていたが、方法がまったく分からない。
 旅が完結するまで、自分は淫人として生きるのである。淫人である以上、性欲が暴走して自我を失った場合、その処理のために誰かを犠牲にするだろう。その数はどれほどのものとなるのだろうか。
 自分の将来を考えるたびに、恐怖と絶望で背筋に悪寒が走るのだった。
「何を思い悩んでいるのかしら?」
 はっとなったレイはディアネイラを見下ろした。彼女の表情からは、すべてお見通しだとばかりの色が窺える。
「ディアネイラをイカせる算段をしてたんだよ」
「まあ、嬉しいわ。先程は、わりとよかったわよ?」
 咄嗟の言い訳にも泰然として対応してくるディアネイラの老獪さに、やはり自分は未熟だと痛感した。
 今はディアネイラの相手をしなければならない。彼女に精気を与えると同時に、自分に渦巻く火照りを鎮火するのが最優先だった。鎮めておかないと燻りはすぐに焼ける熱さへ変わり、気が狂うほどの辛苦となって襲い掛かってくるのである。
「さあ、ひと休みできたならば、いつでもいらっしゃい」
 ディアネイラは自ら開脚すると膝裏に両腕を廻して自分の秘部がレイによく見えるようにした。自然と少年の視線は開かれた肉貝へと向けられる。
 紅潮している肉の花を見て、レイは効果がまったくなかったわけではないと知った。内側の肉ビラは充血し、膨張している。
 友人たちと卑猥な会話をしていたときや、猥褻物を見て得た知識として、これは女性が性的昂奮を得ると起こる現象だと学んでいた。基本的にディアネイラの陰唇は、なんぴとたりとて受け付けぬとばかりに固く閉じられている。だが、愛撫を続けていくうちに内側の唇が次第に大きくなっていき、やがてその唇は大きな花を咲かせる。今がその状態であった。
 包皮に隠れている肉の芽も少し大きくなっている気がした。ディアネイラに指導されてからは愛撫を長く続けるようになったが、その結果なのかもしれないと思った。
 白雪色の肌から覗く紅い妖花は、淫猥で、美しかった。
 膣口にレイが吐き出したばかりの白濁液が捻出されると、口から溢れて股間へと流れ落ちていった。粘度が高いので動きは緩慢だが、生殖器からさらに下側にある菊口が、漆黒の小さな穴を開いて待ち構えている。
 レイは生唾を飲み込むんで見守ると、白液が漆黒の穴に捕らわれる。すると、括約筋がゆっくりと収縮してゆき、白い雫を呑んだ。呑み終えると、またゆっくりと口を開ける。白く汚れた菊門は口を開いたままにして、流れてくる粘液の残り汁を流し込んでいった。
「どうかしら。少しは昂奮してくれた?」
 ディアネイラが言うな否や、レイは堪らなくなってディアネイラの股間へ自分の身体をもっていった。
 性経験がなかった少年にはあまりにも刺激的すぎる光景であり、獣欲に翻弄されたレイは周章しながら屹立を続けている淫塔をディアネイラに挿入しようとした。
 うまくいかないので焦燥し、力任せに腰を打ちつけると、やっと自分の獣塔が挿入できた。挿入に失敗して笑われるのがいやだったので、レイは安堵の息をついた。……のだが。
「あなた、どこに挿れているの? こちらでよろしいのかしら?」
「え……、あっ!」
 レイは結合部を覗き下ろすと、狙った穴の場所はひとつ上であるのに気付いた。
 蕾だった穴が大きく開き、自分を根元まで呑み込んでいる。後ろの門は何度も口の開閉を繰り返しており、レイを奥へと連れ去ろうとしていた。
「う……。痛かったよね、ごめん間違えた……あぅ」
 狼狽しながらレイは引き抜こうとしたが、強く締めつけられて抜けなかった。
 どうりで入らなかったわけである。そもそも挿入する場所が違っていたのだ。少し落ち着いてから改めて覗いてみると、ディアネイラのふくよかな臀部に自分の太腿を差し込み、彼女の股間を持ち上げていた。挿入に失敗して無理やりに体勢を整えていた結果であった。
 レイは結合部とディアネイラの容貌を交互に見た。ディアネイラが意図的に締め付けて抜かせぬようにしたのを、少年は気付けないでいる。
「わたしはこのままでも、かまわないわよ? でもあなたがいやならば、抜けばいいわ」
 ディアネイラが括約筋を弛緩させると、レイの込みあがった射精感が多少改善された。腰を引けば抜けそうである。
「い、痛くないの?」
「ええ。問題ないわよ」
「にょ、女体の神秘だ……」
「おかしなことを言う子ねえ」
 ディアネイラは失笑した。後ろを突かれているのに、まったく頓着していない。どれほどの経験をしてきたのだろうとレイは思いながら、少しだけ腰を引いてみた。
 汚物が付着しているのではないかと、心配になったのである。
 だが、汚れはいっさいなかった。もう少し引いてみても、問題ない。
「何を確認しているのかしら? 失礼ね」
「あ、違──っ」
 何か言い繕おうとしたが弁明の余地もなく、レイはうなだれた。
「冗談よ。どうするの? このままでよいの?」
 ディアネイラが笑いながら柔和に問いかけてきたので、レイは救われる思いとなった。
「うん、このままがいい」
 レイの胸中は禁断の領域へ踏み込む興味にそそられた。腸壁は膣壁とは違った感触をしており、門の締め付けが強い。おそらくディアネイラは弛緩させていると思ったが、それでも締め付けの強さを感じていた。
 開かれている前門の秘所は自分の精液で白く濡れており、観賞しているだけで昂奮した。
 自然と、腰を振っていた。
 体勢が悪いので思うように動けないレイは、前後に腰を振るのではなく、振動させる容量で運動した。ディアネイラの腰を掴むと、さらに動きやすくなった。
「あん。お尻を穢されているわ……」
 淫魔の扇情はレイには効果的であった。鼻息を荒げて童顔をしかめ、不徳感がよりいっそうの昂奮を与える。
 レイは自分の淫塔の出入りを凝視していた。
 腰を引くと括約筋が捲れ上がりながらもレイを咥え、突き込むと奥へと埋没して姿を消す。それが苦しそうな姿に映り、常に蹂躙されているばかりの自分が、今は勝っているとさえ思えた。
 ディアネイラの膣口から高濃度の淫気が湧き上がり、レイの顔にまとわりつく。膣口は物欲しそうに開閉していた。白い粘液は前門の口が開閉を繰り返すことによって泡立ち、いやらしい音を立てている。
「うぅ……、もう駄目なのか……」
 レイは射精した。
 尻の感触を愉しみたかったので射精感を堪えようとしたのだが、耐えられずに果ててしまった。直腸へと熱い体液を放出しながら、レイは困憊となって脱力する。
 肩で息を切らせながら絶塔を抜こうとしたときであった。
 淫気の侵入によって、ある思考が一閃し、レイの疲労した上半身が硬直した。
「やっぱ、そう……だよね」
 レイはディアネイラの後穴から絶塔を抜くと胡座し、ディアネイラを見つめた。その相貌は生気を失い、青ざめている。
「どうしたの?」
 ディアネイラは精気酔いしている肉体を仰臥させたまま、開脚していた両脚を閉じた。
 疲労の色が濃いレイはもう限界である。また、突如として雰囲気を一変させたレイの態度が気にかかった。
「うん。……ぼくさ、淫人、なんだよね?」
「ええ、そうね」
 レイの空色の双眸は愁嘆の色となり、その表情は諦観したようにも見えた。
「もし帰ることができてもさ、欲情に翻弄されて自分を見失ったら、……人を襲うよね」
「ええ、そうなるでしょうね」
「淫魔化、させちゃうのかな」
「ほぼ、確実に」
 滂沱しているレイを見たディアネイラは、火照った上体を起こした。軽く髪の毛を撫でつけて乱れた髪を整えると、少年の丸まった背中へ手を添え、次の発言を黙って待つ。
「分かってるんだ。ただ、怖くて、憎くて、悔しいから認められなくて……。ディアネイラは仇だ。斃さないといけないんだ。……でも、淫人として生きるには……、自分の抑えが利かないときは、ディアネイラが必須だ……。ディアネイラを肉欲の捌け口に使わないといけない。親の仇に頼らないと生きられない自分が、憎い……。こんなぼくは……、死ぬべきなんだと思う──」
 人間の社会には戻れない。戻っても理性を奪われた状態では誰かを襲う。淫人は淫魔と同じなのである。人類の敵としての存在が、今の自分だった。
 明るい未来など、何もない──
「誰かを淫魔化させるのが怖いのね。ならばあなたの言うとおり、わたしを使えばいいわ。常にわたしの近くにいれば、問題は解消されるでしょう。それはわたしの望みでもあるのよ? ほかの子にあなたの精気をあげるのは、もったいないもの。……あなたを淫人にしたわたしが憎いのでしょう? ならば良心の呵責など不必要よ。自分の都合のみを優先し、わたしを肉玩具として使い捨てるつもりでいれば、それでよいのではないのかしら?」
 レイは切歯して身を震わせた。嗚咽を漏らしながら何かを言うか黙るか考えているようだった。
「どうしても耐えられないのであれば、命を絶ちなさい。でもそれは、わたしを殺してからでも遅くはないと思うわよ?」
 それだけ言うと、ディアネイラはベッドに身を沈めた。横になる際は、髪の毛を横へと流して踏まないようにしている。
「──契約だ」
 いろいろと考えては拒否していた結論。それを認めてしまったら、完全に人間たちへの裏切りとなる結論。だが、自分が前に進むには、結局これしかない。初めから分かっていたものだ。自分可愛さに逃げていただけである。
 堕ちるところまで堕ちている身だと思うと、レイは思いの内を吐き出すことに決めた。
「え?」
 レイの瞳は決断の色に染まり、真っ直ぐにディアネイラを見下ろした。その輝きに濁りがないのを見て取ったディアネイラは、柔和な笑みを湛えた。
「今後ぼくは、ディアネイラに、なるべく逆らわない」
「なるべくなの?」
 ディアネイラは噴き出した。この発想が面白いと、ディアネイラは心が和む思いとなった。
「で、条件は何?」
 ディアネイラが催促すると、レイは真顔でうなずき返した。
「ぼくは人間に戻りたい。ぼくを淫人化させておきながら、ディアネイラは元に戻す方法を知らないんでしょ? なら、人間に戻る方法を一緒に探してほしい。その代わり、ぼくに何かをやらせようと企んでるみたいだから、それを手伝う」
「いいわよ。それでは、契約成立ね」
 ディアネイラがあっさりと承諾してきたので、レイは拍子抜けした。自分は捕らわれの身であり、権利など皆無のはずだからだ。ディアネイラの考えはまったく読めなかった。分かったのは、家畜として精気を供給する以外に、自分に何かほかの仕事をさせようとしているのがはっきりとしたことだった。
「双方の事柄が解決したら、わたしを殺すのよね?」
「うん」
「純朴な子ねえ」
 ディアネイラは楽しそうに笑った。
 レイは倦怠している身体をベッドにうずめると、天井を仰ぎ見た。蛍光灯が眩しく、目を細めた。自分は騙されるだけかもしれない。それでも切り出してよかったと思った。
「ただし──」
 ディアネイラは肉体を横臥させ、レイを見つめた。レイは首だけを淫魔に向ける。
「あなたの家畜としての立場は、変えるつもりはないわ。あなたがひとりで、この部屋から出ることも許さない。完全なる自由を手にしたければ、最後にはわたしを殺してみせなさい」
「……分かった」
 レイがうなずいて応じると、ディアネイラは満足そうに微笑した。
「可愛い子」
 ディアネイラはレイの身体に寄り添うと、少年の薄っぺらな胸板を撫でた。
 レイは優しい愛撫を受けながら目を瞑り、考え事をした。
 自ら下した人生の決断は、おそらく間違っているのだろうと思った。人類と敵対する羽目になるかもしれない。そうなった場合、どうするべきか。
(ディアネイラの言うとおり、命を絶つしかない──)
 これしかなかった。

背徳の薔薇 悲壮 了
第五話です。
 ようやく物語が動き始めます。あとは一気にいくかもしれませんし、少し伸ばすかもしれません。わたしのモチベーション次第となってしまう身勝手さではありますが、ご了承ください。
 メッセージありがとうございました。なんだかメッセージをいただけると泣きそうになるほど嬉しいです。

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