「ぼ、ぼくに何を……した」
コンクリートの床で大の字になっているレイは、まだ身体ができていない貧弱な裸体を晒していた。
冷えたコンクリートに当たっている部分には冷たい感触があるが、ほかは熱くてたまらない。下半身がその最たる主張を示している。自分の意思とは無関係に怒張しているそれは、痛いくらいに張っていた。
この場から遁走したいのだが思うように力が入らず、動けない。それでも諦めず、額に青筋を立てながら両腕を持ち上げようと気張った。
脆弱な二の腕に小さな力こぶができ、両腕が大きく痙攣する。だが、それだけだった。
「ぶは……っ!」
レイは喘鳴しながら脱力し、悔しそうに顔をしかめた。茶色い髪の毛が汗に濡れている。
「頑張るわね。そういう子って、好きよ」
「うるさい黙れ!」
レイは声の主に怒鳴り散らした。まだ声変わりが途中なため、大声を出すと裏返ってしまう。
屈辱だった。裸に剥かれただけでなく、声の主は自分を跨ぎ立ち、腕組みしている。
レイは女へ視線を合わせず、空色の瞳を横に移した。
自分が下着として愛用しているボクサーパンツ、先ほどまで穿いていたトレンチパンツ、学校の男子たちのあいだで流行している、『アルファ』というブランドのトレーナー、お気に入りのバスケットシューズが、乱雑に床へと投げ捨てられていた。
レイが拉致されている大部屋には、トイレ以外は何もない。ただ、ここが牢屋なのは理解できた。
重厚な鉄扉が何人たりとて受け付けぬと威圧感を示している。
「観念なさいな。誰も助けに来ないのだから」
多少低音だが蠱惑的な声が聞こえると、レイは憎悪を込めて声の主を睨みつけた。
「よくも父さんを殺し、母さんを淫魔化させたな。おまえを殺してやる!!」
「勇ましいのね。こちらも充分に勇ましくなっているわよ?」
淫魔ディアネイラの真紅の瞳がレイの下半身に向けられた。レイは怒りと恥辱で顔を紅潮させたものの、身動きできずに舌打ちした。
ディアネイラは漆黒のカシュクールドレスを身に纏っている。そのため白雪色の肌が燦然と際立っていた。臀部のあたりで切り揃えている白金色の髪の毛は、照明に照らされて天の川のごとく煌々と輝いている。
レイは見蕩れてはいけないと自分に言い聞かせるが、金縛りにでもあったかのように、空色の双眸が淫魔の艶肢に喰いついてしまう。
「どこを見てるのかしら? エッチねぇ」
ディアネイラに嘲弄され、レイは歯噛みした。だが少年の目は、淫魔の細身だが豊満な容姿から離せずにいた。
大きな乳房がディアネイラの腕に乗り、持ち上がっている。薄いドレスから溢れた乳肉が深い谷間を作り、扇情的にレイの脳を刺激した。
「このおかしな術を早く解けっ」
「いやよ、そんなことをしたらあなた、わたしを殺そうとするじゃない」
ディアネイラは屈託のない笑みをレイに向けた。絶対的な自信が窺える。
「ちく、しょぉ……」
このまま親の仇に搾り尽くされて殺されるのかと思うと、自分の無力さに痛憤した。
父さんはこの淫魔に殺された。母さんは淫魔化している。もう誰かを襲っているのだろうかとの思いがよぎるだけで戦慄し、悔し涙に暮れた。
「あらあら、男の子が泣いては駄目よ。これから天にも昇る思いができるのだから、もっと嬉しそうにしないと」
ディアネイラはスカートの裾を摘むと、レイを跨いだまま優雅にしゃがみ込んだ。自分の股間がレイによく見えるように大きく膝を開き、切れ長の両眼で勝ち誇った視線を向ける。
レイの瞳が紅蓮のショーツを視界に捉えた途端、噎せ返りそうになるほど濃い何かが顔にまとわりついてきた。肉眼では見えないその力は卑猥で生ぬるい感覚をしており、自分の意思に反して股間が大きく跳ね上がった。
「弱肉強食が世の理。あなたは、わたしの晩餐になってもらうわ」
ディアネイラは股下にそそり立つレイの塔を見下ろしながら微笑した。こちらも身体と同様に成長途上なため、長さも太さも大人には及ばず、包皮が亀頭の半分ほど余っていた。
「やめろ……」
「あなたが食してきた肉や魚たちも、同じ気持ちだったのではないかしら? 食物に同情なんてしないでしょう? それはわたしも同じ。だから無理な願いね」
「減らず口を……うっ」
ディアネイラの細い指がレイの肉の塔に絡みつくと、少年はそれだけで果ててしまった。
「可愛いこと」
ディアネイラはレイの塔が射精する律動の間隔に合わせ、優しくしごいてやる。下方へしごき込むと精液が勢いよく飛び上がり、上方へしごき上げると、包皮が桜色の亀頭を包み込み、さらなる発射準備を整える。白い体液が出なくなるまでディアネイラはその動きを続けた。
「もしかして、初めてかしら?」
射精が終わり、ディアネイラがレイの顔を覗くと、少年は自分の腹を汚物でまみれさせながら羞恥の表情を浮かべていた。
(へんね……)
絶頂を迎えると淫気を内側から受けて自我を保っていられなくなるはずである。程度や症状に個人差があるにせよ、なんらかの予兆は見せるものだ。だがレイは、まったく影響がないように見えた。
敵愾心剥き出しで睨んでいるのである。
「あなた、なんともないの?」
「なにが?」
受け答えも問題ないようだ。ディアネイラは面白いと思いながら、指についたレイの精液を舐め取った。
「あら、美味しい……」
ディアネイラは驚いて少年の容貌を再度覗いた。相変わらず屈辱の表情を浮かべながら、反抗的な目つきをしている。
レイの態度にも自若としているディアネイラは、少年の腹に溜まっている精液を人差し指ですくい取り、口へと運んだ。
「やはり、とても美味しいわ」
とんだ拾い物だと含み笑いしたディアネイラは、前へ倒れて四つん這いになると、レイの童顔を正面から見据えた。
長い白金色の髪の毛がレイの身体に流れ落ちると、その柔らかな刺激だけで、レイはさらなる膨張を起こした。
「あなたは高級ブランデーね」
「なら支払え。請求額は、今すぐぼくを自由にすることだ」
精液の味を吟味するなど淫魔ならではだと、レイは忌避する思いだった。気圧されたら終わりだと思い、気を張り続けるのを忘れずに、ディアネイラを睨み返した。
「せっかく入手した幻の一品をすぐに諦められるほど、わたしは寛大ではないの」
「ちょっと綺麗だからって調子に乗るなよ。必ず殺してやる」
「ええ、楽しみにしているわ。気持ちよく殺してね。それと、誉めてくれてありがとう。とても嬉しいわ」
レイはディアネイラから視線を外した。淫魔を性行為で斃すなど、自分には無理なのが分かっているからだ。
その行為自体、経験がないのである。
加えて、両親は結婚するまでは淫魔ハンターだった。そのふたりが完敗した相手が、いま自分を襲っている。
絶望的だった。
それでも殺されるでは足掻き、生きてやろうと心に決めた。
長い時間、沈黙が続いた。
そのあいだ、ディアネイラは四つん這いの姿勢を崩さずにレイを凝視し続けており、レイは彼女からの視線を避け、『アルファ』ブランドのトレーナーを見ていた。
今年の15歳の誕生日に、同級生のシンディから貰ったプレゼントだ。財閥のお嬢様なのに、アルバイトをして自分の金を稼いで、プレゼントしてくれた。そのときの感動と感謝を思い出していた。
もう、あの頃の生活には戻れなさそうだ。笑顔の絶えない家庭、友人たちとの思い出……。
何もかもが、この淫魔によって破壊された。
「質問って、許される?」
「可能な範囲でなら、どうぞ」
「その体勢、辛くない? コンクリートに膝当てっぱなしでしょ。痛いんじゃないの?」
突飛もない質問にディアネイラが噴き出した。口元に手の甲を添え、細い腹を痙攣させながら笑っている。
「あなた死の瀬戸際で、そんなことを気にしていたの? 面白い子ねえ」
そう言うと、ディアネイラは四つん這いの姿勢を解いてレイの顔の横へ移動し、足を崩しながら坐った。
「いや、だからさ。そこに坐るのも勝手だけど、お尻冷えるでしょ」
「あなたは裸だわ。寒いでしょう? 温めてあげましょうか?」
「慎みまして、お断りさせていただきます。だって死んじゃうだろうし?」
「本当、面白い子」
ディアネイラはレイの頬骨に指をあてると、ゆっくりと顎までなぞった。
その刺激を受けるだけで、レイの股間は熱くなってしまう。
「お元気ね」
「若いんで」
ディアネイラが声を上げて笑った。
身体の自由が効かず何もできないのが悔しかったレイは、せめて屈伏はしないという意志を示すために強がった。だが軽く流されてしまい、淫魔の老獪さを垣間見る恰好となった。
「こうされても、余裕でいられるかしら?」
ディアネイラが白い腕を伸ばしてレイの立塔を弱く握った。
レイは大きな快楽を受けたが、射精には至らずにすんだ。一度出しているからなのかどうかは分からない。
ディアネイラがゆっくりとレイの塔をしごき始めると、レイは呻き声を発した。
軽く握って上下に動かされているだけなのに射精感が込み上がり、その心地よさは自分で欲望を処理するときの比較にならなかった。
「うぅ……」
あっという間に、レイは二度目の射精を迎えた。
ディアネイラは右の掌で少年の精をすべて受けると、真っ赤な舌を出して熱い粘液を舐めた。ひと舐めすると、今度は唇も使って掌に吸いついた。わざと音を立てて淫猥に吸い、その間、切れ長の両目で挑むようにしてレイを見る。
レイは挑戦的な視線を送ってくるディアネイラの真紅の瞳と見つめあいながら、生ぬるい感覚が全身を駆けているのを感じた。
心悸が早鐘のごとく高鳴り、ディアネイラを『女』として強烈に意識するようになっていく。その意識は情欲として植えつけられ、萎えようとしていた股間がすぐさま膨れ上がった。身体の火照りは酷くなるいっぽうだ。
「これが、淫気……」
「見事なものね。けっこうな量を浴びているはずなのに、まだ平気だなんて」
訓練を積んだ淫魔ハンターたちでも一度の絶頂で正気を失う者がほとんどだったし、対峙しただけで淫気にあてられ正気を失う者すら大勢いた。
ディアネイラはレイを凝視しながら、この少年は淫気への耐性が強めに備わっているのかもしれないと思った。
だが淫気に影響されているのは明らかで、レイはディアネイラの胸や股間を交互に眺めては苦しそうにしている。
試しにディアネイラがスカートのスリットを広げると、レイは食い入るように股を覗き見た。
レイ自身、欲望が心に渦巻いてどうしようもなかった。身動きできないので、少し手を動かせば触れる位置にいるディアネイラが、永遠に届かない存在に感じる。
ディアネイラは親の仇で危険な淫魔だと頭では分かりきっているし、自分が淫気に影響されているだろうとも分かるのだが、心の奥底から湧き上がる退廃的な感情は、ディアネイラを色香漂う魅惑的な女性として認識したいと切望していた。
「触りたい?」
「うん」
レイは即答した。峻拒せねば籠絡されると思ったが、火照った身体は獣欲を最優先し、頭より先に口が動いていた。
「素直な子ね」
ディアネイラは眼前に投げ出されているレイの細腕を取ると、自分の右胸へ導いてやった。
レイの脳裏に、自分では動けないのにどうしてディアネイラは動かせるんだろうという疑問が浮かんだが、その考えは刹那のうちに、彼女の心地よさによって掻き消えた。
ドレス越しに伝わる張りと柔らかさに、レイは股間を痙攣させた。指を動かせないのがもどかしい。
「自由には、してくれない……の?」
「そうしたら、逃げてしまうでしょう?」
「うん、触ったら帰る」
「では、駄目。その代わり、直接触らせてあげる」
ディアネイラはレイの手をドレスの中へ入れ、左胸へ押しつけるように触らせた。するとレイは下半身を大きく痙攣させ、そのまま三度目の射精を迎えた。
「もう、もったいないわねぇ」
ディアネイラは苦笑しながら、痙攣のせいで八方に飛び散る白濁液を見た。
「うぁ……ああぁぁ……」
極大な快楽と淫気の流入に、レイは言葉にならない呻きを発した。空色の瞳は血走り、唇が乾く。体力の消耗が甚大だったが、それでもなお、レイの男塔は屹立を続けた。
疲れているのだが淫欲は増すばかりで、レイの頭は混乱し、思考力が減退した。
手がディアネイラの豊満な乳房に直接触れている。掌にあるしこりは彼女の……、と想像しただけで股間が熱くなる。
「若いのだから、五回六回は平気でしょう? ブランデー君」
「ぼくの名は……レイ……だ」
「本当に驚きよ。あなた、まだ余裕あるのね」
ディアネイラは心躍る気分となった。
今まで自分が食してきた男は、記憶は曖昧だが、平均するとだいたい二度の射精で死んでしまっていた。最高射精回数は、八回のはずである。昔のことなので名前は失念したが、有名な淫魔ハンターだった気はする。そのため淫気を保つには、数をこなさねばならない面倒があった。
現在レイは三度目だ。しかもまだ自我を保っており、美味ときている。鍛えてみてモノになれば儲けものと思案したディアネイラは、レイにとって煉獄へ堕ちたも同然の宣告をした。
「フフ、あなたいいわ。決めた、飼ってあげましょう」
ディアネイラはレイの手首を両手で優しく握ると、少年の手を使って自分の左胸を揉んだ。
「うぎぃぃぃ……」
レイが野獣のような悲鳴を漏らし、濡れ汚れた塔を上下に揺すった。ディアネイラはその反応を堪能しながら、「わたしの胸はどう?」と問いかける。
「ううぅ、うぅぅ……」
声になっていないが、最高の感想を述べているのは瞭然としていた。
ディアネイラは肩を窄めてカシュクールドレスの肩紐を撓ませると、華奢な両肩を器用に動かしてドレスを剥いだ。
漆黒のドレスがはだけて真っ白な上半身が姿を現わすと、肉感的なディアネイラの上体にレイは見蕩れてしまった。
照明に照らされた細い鎖骨は、むしゃぶりつきたくなる衝動に駆らせた。
縦筋が入っている腹部は無駄肉がいっさいなく、柳腰であった。奥へと沈んでいる蕾のような小さい臍は、舌を差し込みたくなるほど官能的である。
ディアネイラが誘導しているものの、自分の手によって彼女の左胸がゆっくりと円を描いている。初めて女性の胸に触った感想は、ふっくらと甘いマシュマロだった。とても柔らかく、永遠に触れていたい思いだった。弾力も強く、沈む手を押し返そうとする力が働いているのがよく分かり、それが大きな心地よさとして手を痺れさせ、理性を砕き割る。
右の乳房に視線を移すと、動きのないこちらは円錐型を保持していた。乳輪の直径は狭いが妖美な桜色に染まり、まだ突起していない小振りな乳首が上を向いている。
レイの昂奮は頂点となり、四度目の射精をした。
「もう。だからもったいないって言っているでしょう?」
ディアネイラは呆れ笑いながらレイの腕をコンクリートの床へ置くと、射精中の塔に右手を被せて精液を受け止めた。
射精が終わってから溜めたものを見ると、量は半減していた。無理もないかと思いながら、彼の精液を口にする。
「……純度が変わっていない」
ディアネイラは舐め取った掌を眺めたあと、レイを見た。少年は、ほぼ廃人化しているように見えた。
口元から涎を垂らし、空色の瞳は色が濁って焦点が合っていない。
「これ以上は、わたしがお預け、かしらね」
ここで搾り尽くさず、レイを飼って何度も堪能したほうが都合がよいと決めているディアネイラは、物足りなさを抑え、優しい笑みをレイに向けた。
「……ら……せ……」
ディアネイラが和みかけたとき、レイの口からくぐもった重低音が響いた。
「え……なに?」
聞き間違いかと思ったディアネイラは、横髪に手を添えて右耳を出すと、少年の口へ自分の横顔を近づけた。
「てめええええええええええええ。やらせろおおおおおおおっ!!」
轟音がディアネイラの鼓膜に直撃し、彼女は小さく悲鳴をあげながら咄嗟に顔を上げた。
驚いたディアネイラは、酷い耳鳴りを訴える右耳を抑えながらレイを見下ろす。
「あああああアアアアアッ!!」
レイは動けないにも関らず猛り狂うため、満腔を大きく痙攣させていた。
眉間に深い皺を寄せ、これ以上開かないというほど口を開いて絶叫し、充血しきった目は今にも飛び出しそうだ。まるで憤怒の権化である。
そして、五度目の射精をしていた。
全身を大きく痙攣させているのでレイの肉塔は自由に揺れている。三度目と同じく八方に精液を飛び散らせているのだが、今度は勢いと量が今までのなかで最も多かった。
大きく飛翔したひと雫がディアネイラの左頬に当たって濡れ汚したが、彼女は泰然としたまま人差し指で拭い取り、口へと運んだ。
「随分と熱い……。それに、濃くなっている」
狂乱するレイの額や胸に多量の発汗が見られ、火照りきった身体が赤く染まった。額に何本もの青筋を立て、今にも切れてしまいそうなほどに浮き上がらせている。
「これ以上はまずいわね。いいでしょう、筆を卸してあげる」
ディアネイラはおもむろに立ち上がると、スカートをたくし上げて赤いショーツに手をかけた。豹変したレイの叫喚を聞きながら、綽然とショーツを脱ぎ下ろすと、脱ぎ終えた下着をそのまま足下へ落とす。
ディアネイラが白金色の髪の毛を掻き上げると、繊維のようにきめ細かい髪が幻想的に流れ舞った。
「ぐあああああぁぁ」
目を剥きながら、レイは六度目の射精をしていた。
消耗しきったレイは呻吟しているが、それでも自分の烈塔は主張を繰り返し、ディアネイラを襲おうと全身を激震させている。
「淫気の暴走に翻弄されるのは仕方がないわ。むしろよくやっているわよ、あなたは」
ディアネイラはレイの腰に跨ぎ立つとスカートを捲り上げ、裾を腰に結びつけた。真っ白な彼女の下半身が露わになると、下腹に生えている、楕円状に手入れされた白金色の薄い恥毛がその姿を現わした。
昂奮状態が頂点を突破して未知の領域に踏み込んでいるレイは、ディアネイラが晒した局部に食い入っている。
充血しきった両眼は、穢れなき乙女のように閉じられたままの肉の貝殻に瞳を奪われ、鼻息を荒げて腰を振ろうと躍起になっている。
ディアネイラが腰を落とそうと中腰の姿勢になったとき、レイの変化に気付くとそのまま静止した。
「がああああアアァァッ!」
突然、レイがディアネイラに噛みつこうと首を持ち上げてきた。だが距離が足りず、歯を噛み締める乾いた音だけが鳴り響く。
「嘘……。呪縛が解けるというの?」
ディアネイラは慌てて膝立ちになると、レイの眉間に右の人差し指と中指をあてた。左手を少年の弱々しい胸板に添えると、苛烈なまでに連打する鼓動が伝わってくる。
ディアネイラは真顔になると、レイに向けて多量の淫気を強制的に送り込んだ。
レイは白目を剥きながら断末魔のような雄叫びをあげ、何度も腰を跳ね上げる。
少年の身体を束縛していた魔法が解けてしまったようだ。両脚を仰け反らせ、両手で自分の頭を抱え込み、泡を噴きながら苦悶している。
腰を大きく跳ね上げるたびに、少年の暴塔がディアネイラの下腹や足の付け根、恥丘や臀部に突きあたった。挿入こそしなかったが、一度は偶然にも膣口を突いた。だがディアネイラは、かまわず淫気の注入に集中する。
これで死んだら是非もないが、高級食材を失うのは慙愧に堪えないので、やるだけやってみることにした。
ディアネイラは左手をレイの胸から離すと、肘を曲げたまま掌を天井へ向け、左腕が痙攣するほどに力を込めた。そのあいだも、右の人差し指と中指はレイの眉間に添えたままで淫気を流入させ続け、真紅の双眸はレイが苦しむ顔に変化がないかを観察した。
ディアネイラの左の掌には、肉眼でも目視可能なほどの高濃度の淫気が精製された。濃紫色のそれは形を成さずに煙のように漂っている。
「耐えきってごらんなさいな、ブランデー君」
顔を左の掌へ向けると、ディアネイラは宙を舞う高濃度の淫気を吸い込んだ。口いっぱいに含み終えると、頬を膨らませながらレイを見つめる。
レイは白目を剥いていたはずだが、いつの間にか空色の瞳を戻して、ディアネイラを見ていた。
「こ、ろ……して……」
(そのつもりがないから頑張っているのよ、わたしは)
ディアネイラは淫気を注入していた右の指を眉間から離すと、親指と人差し指でレイの鼻腔を摘み抑えた。間髪入れずに自分の顔を寄せてレイの口へ己が口を合わせると、一気に溜め込んだ淫気を吹き込む。
顔を下げたときに髪の毛が乱れたので、ディアネイラは左手で髪を掻き上げると、後頭部のあたりで左手の動きを止め、そのまま髪を握った。
強制的に流し込まれた淫気をレイが飲み込むと、目を大きく見開いた。
放出している気分の悪い狂気の感覚と、流入された気分の悪い卑猥な感覚が、レイの体内で衝突し、暴れまわった。その苦痛は肉体が破裂する錯覚を覚えさせるほどで、レイは重ねられているディアネイラの口を振りほどこうと首を左右に振った。しかしディアネイラはレイの動きを洞見しており、決して離れずに息を吹き込み続ける。
鼻を摘まれているので呼吸ができないレイは、吹き込まれる淫気や空気を飲み込む以外なかった。
やがて気分の悪い感覚は心臓へと集約していく。心臓は握り潰されるような痛烈な痛みを発したが、同時に、全身が虚脱して、何かの呪いから解放されるような心地よい感覚を味わった。
ディアネイラは顔を上げると大きく息をついた。汗が胸の谷間を伝わって流れ落ち、臍の歪みに捉えられて溜まる。
ディアネイラは首をかしげると、喘鳴しながらも大人しくなったレイを見下ろした。
「こんなものかしらね」
ひとまずレイの命は取り留めたようで、ディアネイラは安堵の息をついた。レイの荒塔は未だに屹立しているので、少年の太腿へ自分の尻を落とした。
汗に濡れたカシュクールドレスが気持ち悪いので、細ベルトを緩め、結わいていたスカートの裾も解くと、両腕を交差させてドレスを掴み、一気に脱ぎ上げた。
ドレスに絡む髪の毛を抜くとドレスを投げ捨て、一糸纏わぬ姿になった。再度、大きく息をついて、疲労した身体を落ち着けた。
「胸が痛い……」
レイが左胸に右手を添えながら消え入りそうなほどか細い声を発すると、ディアネイラは驚いて少年の面貌に視線を向けた。
「あなた、自我があるの? 名前は言える?」
「レイ・センデンス……」
ディアネイラは束の間、言葉を失った。
放っておいたら狂乱したまま悶死するだけだった。それを避けるにはレイが悶絶する原因となった暴走淫気を、より強力な淫気で食い潰す必要があった。そこで高濃度の淫気をレイに送り込み、一気に人体を汚染したのである。
致死量となる濃度を噴き込んだので、事切れてもなんら不思議ではなかった。運良く死を免れて廃人となれば、美味な精気は確保できると考え、行動したのである。だが少年は死を克服するばかりか廃人化もせず、意識を保っている。
「そう」
ディアネイラは満足そうにうなずいた。
レイが絶頂して淫気の侵入を受けても平然とした折、耐性があるのかもしれないと思ったが、想像以上である。これだから人間の可能性とやらは面白いと、子宮が締まる思いだった。
「胸の痛みは、じきに治まるわ。時間が経てば、わたしが送った淫気が、あなたの心臓と同化するから」
「分からない……」
「でしょうね。まあ少しずつ理解するわよ。あなたはもう、純粋な人間ではなくなったのだから」
レイの漠然とした意識では、ディアネイラの発言の意味は理解不能だった。ただ、全裸で自分に跨っている豊艶なディアネイラを求める自分がいるのは理解できた。
「挿れたい……」
レイは呟くように言葉を発すると力なく右腕を伸ばし、ディアネイラの髪の毛に触れた。一本一本が繊維のように細く繊細で、絹に頬擦りするような感触を味わった。
「やあねえ。あれだけ出して、さらには暴れて死にかけたのに? あなたはどこまで面白いのよ」
ディアネイラは朦朧としているレイを見つめながら失笑した。
レイの右手は髪の毛から太腿へと移った。目を虚ろにしながらも、滑らかな肌艶を堪能するように、ゆっくりとさすっている。
左手が乳房へと伸びようとしたのだが、不意に軌道を修正してディアネイラの細やかな二の腕に触れた。
「ウブねえ。淫魔に遠慮はいらないわよ? 四六時中、発情しているのだから……。あなたは気ままに、わたしを蹂躙していればいいのよ。それこそが、淫魔の望みだもの」
性的経験のないレイが恥じらっているのは明快だった。純粋な少年を新鮮に感じたディアネイラは、レイの左手を自分の左胸へ導いてやった。レイはただ黙って指の力を加え、豊満な乳房の弾力と柔らかさを経験した。
「あなたはわたしの家畜。でも飼う以上、面倒は看てあげる。背徳の世界へようこそ、可愛い可愛いブランデー君」
ディアネイラは膝立ちになると、両膝を一歩ずつ前に動かして少年の股間の真上へと移動し、彼の屹立し続けている若塔を握った。ゆっくりと腰を沈めてゆき、レイの先端が局部に当たったところで動きを止める。
「さあ、疲れているでしょうけれどあなたが望んだのだから、もうひと踏ん張り、突き上げてごらんなさい。それで童貞卒業よ」
ディアネイラに促されたレイは、無言のまま両手を淫魔の柳腰に添えた。鉛でも埋め込まれたかのように全身が重いので、緩慢な動作で腰を持ち上げる。
包皮が半分ほど被っている亀頭が膣内に呑まれた。中はぬるま湯の温かさがあり、レイはさらに腰を突き上げた。
半分ほど肉の塔が入ると、緩やかな締め付けを感じた。とくに窮屈さはなく、労るように優しく包んできていた。
さらに腰を上げると、淫魔の股間と自分の股間が合わさった。すべて入りきると、レイは大きく息を吐き、穏和に包まれる感覚にうっとりとした。
「女の味はいかがかしら?」
ディアネイラは自分の腰をレイの腰ごと静かに床へ落とし、レイの腰に坐った。
「不思議で、気持ちいい……。胸の痛みが消えてく」
「よかったわね。いつでも好きに果てていいのよ」
ディアネイラは動かぬまま、股間の締め付けをほんの少しだけ強めてやった。するとレイは呻き声を発し、腰に添えていた両手に力を入れた。締め付けを弱めてやると、両手に込められた力が緩くなる。その反応が面白いのでディアネイラは続行した。
ディアネイラの膣中にレイは安らぎを感じていた。柔らかく締め付ける花園は無理強いして搾り尽くしにはこず、懇篤なる抱擁で濃密な快楽を与えてくれる。湯加減も程よく、甘美な入浴は毒気が抜かれていく清爽さがあった。
「あぅ……出る」
レイの呟きにディアネイラが呼応する。締め付けを強くしながら腰を前後に振ってやると、それだけでレイは簡単に果て、七度目の射精をした。
ディアネイラは精気の吸収率が最も優れている場所で少年の精液を受け取ると、唇の端を僅かに吊り上げながらその味を満喫した。
量こそ少なかったが、膣内に染み渡るレイの風味は濃厚で格別だった。少年の命を繋ぐために極量の淫気を放出したので、倦怠している肉体には少々度が強く、精気酔いして頬が紅潮した。
「ウフフ、ご馳走様」
レイは淫気の流入を受けていた。侵入する淫気は心臓へと集まっていき、痛みが再発する。だが不思議なことに死ぬ思いをするほどではなく、全身の火照りが徐々に鎮静していった。
ディアネイラが覆い被さって頬に口付けしてくると、その心地よさに瞳を閉じた。すると、極限を超えている疲労が猛烈な睡魔へと変わってレイを襲い、急速に意識を遠ざけていった。
少年はディアネイラと繋がったまま、成長途上の貧弱な身体に抱きついているディアネイラの柔らかな感触を受けて、静かな眠りに堕ちていった。
背徳の薔薇 淫気汚染 了
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