ハンター協会に所属しているハンター。それが俺だ。
ここは、この一帯を統べる淫魔の巣――元は人間が使っていた屋敷、そこの書斎。
目の前に居るのは、長い黒髪の淫魔が一匹だけ。気怠そうに黒檀のデスクに肘を突いて、書物をめくっている。
“北風”のベル。要塞都市シュタインを制圧し、支配下に置いている大物淫魔だ。
「一つ、いい?」
ややハスキーがかった声が、俺の耳朶をくすぐる。声からして性欲を煽る体質なのは、まさに性に特化した生物ということの証明だ。
「なんだ?」
「あなたの名前は?」
「ミューゼルだ。……てっきり、この屋敷の警備をどうかいくぐったかとか、訊かれると思ったんだがな。結構、能率的に人員を配置していただろう」
「だいたい、予想がつく。いくら組織化したといっても、わたしの部下は所詮寄せ集めだから」
感情のこもらない分析が、薄く可愛らしい唇から流れ出る。
少女を少しだけ過ぎたような容姿は、知的で冷徹な表情と相まって薄氷のような美貌を生み出している。
着ている服は質素なノースリーブのブラウスとぴっちりしたパンツ。長身の彼女にはそういうシンプルで健康的な服装が似合い、飾り気のない服を押し上げる大きめの乳房はそういう印象とギャップを生んでどうしても目を奪われる。
まずいな……こういう奴、個人的に好みだ。
「それに、詳しいことはあなたを呪縛してから質問すればいいもの。それより、今は……」
そこで初めて、桃色の唇を弧に曲げた。淫魔らしい、獲物を前にした淫猥な笑み。
「久しぶりのごちそうを味見したい。あなた、私の好み」
ああ、実にまずい。こいつとは、気も合いそうだ。
淫魔・ベルが立ち上がり、俺に近づく。すかさずその腕を取り、力尽くでブラウスのボタンを引きちぎりながら床に押し倒した。
床は長毛のカーペットなので、乱暴に突き飛ばされた彼女の体をふんわりと受け止めていた。とはいえ、淫魔にこういう性技以外の物理的衝撃は無意味だから、床が硬かろうが柔らかかろうがあまり関係ないが。
「荒々しいのね」
無感情に言った。基本的には感情の起伏が小さいタイプのようだ。
服を開いて露わになった双球は、光を跳ね返す新雪の白。仰向けであっても張りを失わないそれは、触れるまでもなく瑞々しい弾力を想像させられる。
俺は無造作な手つき――を装って、慎重に胸を鷲掴みにした。
思っていた通りの、柔らかくも張りのある感触。一揉みすれば、さらに揉みしだきたくなる。
しかし、人間の女とは比べものにならない極上の触り心地ではあるが、実戦を踏んだハンターを虜にするほどではない。
予想通り、乳に優れたタイプではないか。得意なのは口……いや、手か? それとも、特殊な淫術を……
思考しながらも、相手への集中は止めない。
乳に指をかけて力を込める。最初は痛さを感じるぐらいに強く、かと思えば圧力を緩めて撫でさすり。強弱をつけて、リズムよく捏ね回していく。
「んっ……なかなか……」
淫魔は冷たい美貌に余裕の微笑を浮かべた。
まるで効いていない様子だが、硬くしこる乳首は嘘をつかない。俺は白球の頂を爪で弾いた。びく、とほんの小さくだが全身が震える。
「ふふ。簡単な愛撫なのに、いい感じ。ハンターでも、上級の部類というところ?」
「口で言うより、実際に味わってみた方がよくわかる」
「残念。わたしは、口が得意なんだけど」
ぺろりと自身の薄い唇を舐め、首をわずかに俺へ向かって上げた。
「味わってみる?」
わざわざ相手のフィールドでやる理由は無い。
俺は誘いに乗らず、空いている左手を背中に這わせる。淫魔独特の、吸い付くような肌触りを確かめながら、触れるか触れないかの微妙なタッチで徐々に腰へと――
「っ……!?」
ざわり、と全身に鳥肌が立った。ベルの手が、俺と同様の触り方で俺の右腕を撫でただけだ。
が、なんだこの感触は……!
腕がまるで性器であるように錯覚するほど、甘い快楽が走った。思わず全身から力が抜け、仰向けにこちらを見上げている淫魔の体に倒れ込む。
「くっ――」
すぐさま間合いを開けようとする俺の後頭部を、白い手が掴み――たったそれだけで俺は目眩を覚え、隙を見せた俺に淫魔が口づけてきた。
湿った柔らかさが唇を覆い、唾液を伴いぬらつく舌が口内へと侵入。俺の舌裏をつつき、絡めながら蹂躙しようと動き回る。
っ……んのっ!
恍惚に至ろうとする意識を、意思で繋ぐ。俺の頭に触れていたベルの手首を握り、無理やり剥がした。
一方、口内でも相手の舌を己の舌で荒々しく押し退ける。ベルは俺の動きをいなそうとするが、俺は舌先で突き刺すようにしてそれを制した。
逆に向こうの口へ侵入し、舌腹の感触と淫魔特有の甘い唾液をたっぷり味わい尽くしてから、肩を押して体を離し、接吻戦を打ち切った。
「はぁっ、はぁっ……」
「は……互角、ね。でも得意だって言った通りでしょ、わたしの口」
今までの冷徹な印象を一瞬で覆す、悪戯っ子のような微笑みを浮かべる。女から少女への変化はギャップを生み、ギャップは心の防壁に隙間を作る布石となる……つまり簡単に言うと、彼女の意外な可愛い一面にときめかせる、ということだ。
しかし俺はその手に乗らない。感情を怒りへと変換させた。
「ふざっ……けやがって……」
確かに口淫は上手かったが、耐えきれなかったほどではない。
まるで口技に特化しているような言いようは、あの触れるだけで意識を飛ばされかけた手から注意を逸らせるためのブラフだったのだ。
「そういうのは、口が上手いって言うんだ!」
「言い回しをちょっと間違えたぐらいで、怒らないの」
またもや表情が一転、悪戯っ子から氷の女へと。無感情に近い顔の中に混ざるわずかな嘲笑が、正面からバカにされるよりも屈辱感を煽られる。
瞬間的に沸き立つ苛立ちを、俺は小さく呼吸して落ち着けた。適度な怒りや昂揚は有利な要素になりうるが、過ぎると冷静さが失われてしまう。
だが、気を落ち着けた刹那、見計らったタイミングで掴まれたままの右腕に甘い戦慄が走った。
「ほら、いい子いい子してあげるから」
脱力する肉体を気合で支えていると、もう一方の手で再び俺の頭に手を伸ばす。
今度は口づけのためではない。母親が幼子をあやすように、ゆっくりと撫でてきた。
「うっ……」
意に反して、筋肉から力が抜けていく。昂ぶる性欲と共に、眠気にも似た安らぎが思考に靄をかける。
歯軋りして、再び淫魔に倒れ込まないように気を入れた。
「大きな子供には、これだけでは物足りないだろうから……」
と、手の動きが変化した。相手を安心させるものから、相手の性感を引き出すものへと。
深く頭皮まで指を差し込んだかと思うと、毛根だけを刺激するよう髪の毛だけを軽く触る。
五本の指は不規則に、かつ的確に別々の行動を繰り返し、俺の集中力をばらばらにしていった。
「知っている? 頭は、凄く気持ちいいってこと」
冷えた顔で言いながら、ベルは俺の股間に膝を当ててきた。
「うあっ……」
俺もベルも、両方とも下着はおろかパンツすら脱いでいない。
それでも、頭を撫でられただけで既に硬くなっている俺の股間は敏感に反応し、頭と腕をさする手によって拡散させられた精神では我慢することが困難だった。
「自分から膝に押しつけてくるなんて……」
彼女の言う通り、俺はほとんど動きの無い淫魔の膝に、みずから肉棒をぐりぐりと押しつけていた。
「ひょっとして、こっちの方が好きなタイプ? なら、思いっきり脚で可愛がってあげようか?」
俺の、半開きの口から漏れ出た涎をぺろりと一舐めしながら、ベルは囁く。
「凄い硬くて、熱い……布越しでも伝わってくる。こういうの、本当に好きなんだ」
俺は快感に震えながらも、淫魔のパンツへと手を差し込んだ。
伝わってくる滑らかなで柔らかい肌触り。尻肉は乳にも劣らぬ揉みごたえがあり、ずっと掴んだままでいたいよう思わせる。
「結構頑張る。けど――」
膝をぐりぐりと円運動させながら、股間への圧力を強めた。
「くあっ……」
「ほら。直接肌に触れないまま、出しなさい。ズボンの中、自分の精液でぐちょぐちょにして」
脳まで染み込んでくるような、甘く冷たい囁き。
「いっぱいいっぱい出すの。わたしの素肌が濡れるぐらい、びゅーびゅーおしっこみたいに白いの出すの」
俺の右腕を手コキのようにしごき、俺の頭を慈愛と嘲弄の動きで掻き乱す。どんどん、思考と力が消されていく。
俺は虚ろな目のまま、指を伸ばして彼女の秘肉まで辿り着いた。
クリトリス、膣、尻穴……性技とも呼べない拙い指使いで、ただ触れるだけ。
「無駄な足掻き、辛いでしょ。出したら楽になれるのに。大丈夫、ずっとわたしが飼ってあげるから。ズボンの中に射精して負けるようなハンターでも、可愛がってあげるから」
その優しい誘惑の言葉に、肉棒がびくんと跳ねた。
……どこを触れても、口調も表情も変化なしか。いや、尻をつついた時だけ、皮膚がわずか、ほんのわずかに蠢き、淫気が乱れた。
ここか……!
俺は膣から湧き出ていた愛液を自身の指に絡め、人差し指と中指の二本をアナルに遠慮無く突き込んだ。
「ふぁっ!?」
小さな嬌声と共に、俺を弄んでいた手が止まる。俺は乱暴に頭と腕を振り、力任せに淫手を払いのけた。
同時に、俺自身の膝を使って淫魔の脚を左右に開かせ、股間への刺激を止めさせると同時に大股開きにさせて俺の両足を潜り込ませる。
これで少なくとも、挿入を阻まれるのと足コキ系の技は封じることが出来た。
「ま、さか、堕ちかけていたのは、演技……!?」
彼女は息も絶え絶えに、ひび割れた氷の面で俺を見据えた。
「口は得意じゃ無いんでね」
俺は余裕の笑みを浮かべて、さらりと言ってやった。
――そう。魔手によって陥落したふりをして、相手の弱点を探るための時間を稼いでいたのだ。
ベルの膝に股間を押しつけたのも、相手のペースに乗ることで逆に油断を誘うためだ。
とはいっても、実は割とギリギリだったのだが……。
だが、ここは淫魔に『全部が俺の作戦だったんだよ』と思わせておいた方が心理的に優位に立てるので、そんな素振りを見せるわけにはいかない。
俺は二本の指を、激しく出し入れする。ピストンするたびに、淫魔は、
「はンッ! ぁあっ!」
鼻にかかった甘い声を断続的に吐き出した。
クールな女性にも無邪気な少女にも見えるこの女の痴態に、俺は思わず興奮して調子に乗りかけるが、浅く一呼吸して気を落ち着ける。
こうやって、快感に喘ぎながらも相手のペースを崩すのは、スタンダードな防御手段だ。乗せられるわけにはいかない。
「あっ、いやっ! もっと、もっとズボズボして!」
「そうがっつくなよ」
俺は淫魔の懇願とは逆に、ペースを緩めた。代わりに、腸壁に中指の腹と人差し指の爪を当て、撫でるのと引っ掻くのを同時に行う。
「やっ……あぐっ……」
引っ掻いたところを撫で、撫でた場所を引っ掻き、痛みと愛撫を交互に与える。肌からは媚薬混じりの汗が噴き出て、球となって乳房の山から滴り落ちていた。
だいぶ本気で感じているようだ。このペースを保っていけば……っと!
そろそろと、俺の股間にベルの左手が伸びている。俺は空いている自分の右手で彼女の手首を掴み、それを阻んだ。
「仕返しでもしようっていうのか?」
ずぶぶ、と二指を根元まで突き入れた。
「かはっ……!」
冷たい美貌が、若干の苦痛とそれに勝る悦楽に歪む。
――ぬるり。
粘性のある、滑らかな感触が淫魔の手首を掴んでいた手の平に感じた。
疑問に思う間もなく、淫魔は腕を巧みに捻り俺の拘束から逃れる。
まずい、奥の手か!
隙を与えまいと、俺はアナル責めのペースを上げた。さらに、薬指も挿入し、狭い尻穴の中を縦横無尽に陵辱する。
「強かった……」
ベルが、独り言のように呟いた。そして、快感に震える腕で俺の体を抱きしめる。
背中に、ぬらつく感触。服を着ているはずなのに、まるで素肌に直接触れられているような……いや、まさか、
「一瞬で溶かしたのか……!?」
「察しがいい」
唇を満足げに歪めて、俺を抱く腕に力を込めた。
すると、かくん、と前触れ無しに俺の肉体は脱力する。
「は……?」
全体重を彼女に預け、俺は呆然としていた。
快楽で力が抜けたとか、そういうレベルじゃない。体がまったく反応しないのだ。
「な、にを――」
「こっちに来て真剣勝負でこれを使わされたのは、今回が初めて。あなた、永遠に可愛がってあげるから……」
余裕でも嘲りでもない、愛しさのこもった声音が耳を包む。
「……わたしは腕から手にかけて、特殊な淫液を出せる。相手の魂に直接作用し、肉体を封じる力がある」
「っ……なるほど、これが“北風”の由来ってわけか」
まるで凍りついたように、何も出来なくなってしまう。誰が名付けたか知らないが、こいつの容姿・振る舞い・能力を見事に表現したものだ。
「ミューゼル」
ただ一言、初めて呼んだ俺の名前。
それだけのことで、俺の心臓がどくんと跳ねた。間違いなく、歓喜によって。
くそっ、魂に作用するというだけあって、心理的防御にも影響しているか……!
「幸せになりなさい」
自称『口が得意』なベルの、偽り無い本心からの言葉なのだろう。そう理性ですら理解出来てしまうから、余計に身を任せたくなってしまう。
ベルは、のしかかっていた俺の体をひっくり返した。
素肌の背中に感じるのは、上等なカーペットの柔らかさ。なすがままに仰向けにされた俺は、ただ覆い被さってくるベルを見つめることしか出来ない。
「ゆっくりじっくり、溶かし尽くしてあげる……」
低い、蠱惑的な囁き。
言葉通りに、ゆったりとした手つきで俺の体――いや、服だけに触れる。すると、まるで始めからそこに何もなかったかのように、彼女の手が通り過ぎた部分の布が消失していった。
もはやこれは、溶けるというレベルでは無い。まさしく魔手だ。
こんなあり得ない存在に触れられ、動きを封じられた俺に為す術があるのか……いや、諦めるな、考えろ! 思考を止めたら、その時点ですべてが終わる!
「いい顔。絶望の中に、不屈の意志が消えていない」
嬉しそうに微笑んで、唇に触れるだけのキスをした。
「でもそれも、溶けちゃうから」
露わになった俺の胸板に、粘液で濡れた魔手をぴとりとくっつける。
「あ――?」
「声出して、いいよ」
「ああああぁぁぁぁっ!!」
硫酸で焼かれたような、熱い、熱い――快感。
剥き出しの神経に直接触れられたような、気の狂いそうな感覚が俺の脳を抉る。
激痛にも似た快楽だった。もし体の動きを封じられていなかったら、俺はのたうちまわっていたことだろう。
「ほら、ほら、ほら」
ベルは無造作に、俺の上半身を撫でまわしていく。俺のペニスは、何の刺激も与えられていないのにどくどくと先走りを流し始めた。
まだ射精に至っていないのは、ぎりぎりのところで俺が堕ちていないからだ。だが――
「ひぎゃああ! やっ、やめっ、狂う、おかしくなるぅぅ!」
それも時間の問題だろう。このままでは、狂人か廃人だ!
対策、対策を! だがどうする? 動かない、動かないのに――いや待て、魂に作用する魔手、魂、魂――魔法、魔力、体内の魔力を活性化させれば――
「ああああぁぁっ! あっ! あああぁぁっ!」
「気持ちよすぎて、辛い? なら、もっと辛くなって」
ぬらつく指が、俺の乳首を捉える。まるで針を刺されたような鋭い刺激は、しかし苦痛ではなく欲求を加速させていく。
――魔力を活性化させる条件。それは、精神を落ち着かせて、体内と体外に流れる『気』を感じ取らなければならない。
こんな、こんな一瞬でも気を抜いたらおかしくなってしまうような状態で、そんな真似が出来るはずがない……!
「さっきのお返し、まだだったかな」
ネズミを嬲る猫の笑いで、ベルは俺のヘソに指を一本押し当てた。
なっ、まさか――
「お腹の中まで、感じて」
俺がベルの尻穴を責めた時と同様、彼女はまったく一切の躊躇もなく、濡れた白指をヘソの穴に差し込んだ。
「かっ、はっ……!」
灼熱感が腹の底から生まれ、圧迫感が内臓、心臓、喉を迫り上げていく。
たまらなく不快なはずなのに、たまらない気持ちが湧き起こる。嫌なはずなのに、もっとして欲しいと願ってしまっている。
駄目だ――もう駄目だ。もうどうしようもない。こんなことをされて、まともでいられるはずがない。
――死ぬ。
「気持ち悪い? そんなことないよね、気持ちいいよね?」
俺の体内に挿入した指を掻き回した。甘ったるい吐き気を覚えるが何も吐き出せずに、得も言われない感覚はどんどん内臓に溜まっていく。
――死んでしまう。
「どろどろに溶けていくみたいでしょ? 溶けていいから。全部、わたしが飲み干してあげる……」
優しくも、妖しい声音。
眠る前の浮遊感にも似た心地良さと、それとは真逆の人格すら消し飛ばしてしまう快楽が同時に俺を揺さぶり、彼女の言う通り快感以外のすべての感覚が曖昧になって溶け出してしまいそうだ。
ああ、もういい。ベルに何もかもを蕩かされ、飲み尽くされたい。この悦楽を永遠に味わっていたい。俺は――
――死にたくない。
まだ俺は何も成し遂げていない――消えるのが恐ろしい――好きなようにされる屈辱――
生にしがみつく未練がましさが、溶けゆく俺の心を凍らせ固めた。
「まだ堕ちない……本当に凄い……」
俺の乳首を二指でくりくりと弄ぶ。その刺激に思わず脱力した瞬間、ヘソの穴に指を出し入れして肉体を無理やり緊張させる。
二つの矛盾した感覚に悶え苦しむ俺に、ベルは唇を重ねてきた。
先ほどと違って抵抗出来ない俺の口内を、舌で好きなように蹂躙する。口蓋を撫で、俺の舌に吸い付いてしゃぶり尽くし、頬の内側を乱暴につついた。
口の中を暴れ回われ、俺は『犯されている』という心理状態を強調させられる。何もかもを淫魔の思うままにされ、もはや俺は彼女のモノであることを思い知らされる。
――だが、耐えた。
たった一つ、生への渇望に専心する。
神経に通う魔力、それを揺り動かし、魔手により縛り付けられた肉体を活性化させる。
ぴくり、と指先が動いた――ベルは、それに気づいていない。
「んちゅ……ぷはっ」
ベルは俺を口責めから解放し、顔をわずかに離した。
「ねえ、どうしてそんなに頑張るの?」
俺はそれに答えない……というより答えられない。淫手によって悶えさせられていて、まともに口がきけないのだ。
「いいの、そんなに頑張らなくても。言ったでしょ、わたしが全部包み込んであげる」
鼻先に、ちゅっと唇を当てた。
「何も考えなくてもいい。わたしにすべてを委ねればいい。それはとても――」
言葉途中で、ベルの目が見開かれた。信じられない、というように。
俺の指が再び、尻穴へと潜り込む。ただし、今度は豆ほどに小さな球体も一緒にだ。
ベルが反応する暇を与えず、俺は球体に魔力を込めた。
途端、それは膨れ上がり、ベルの直腸に適したサイズになる。
「なっ……」
「悪い、な、ベル」
球体は小刻みに振動、さらに柔らかな突起が伸びて、さっき俺が探ったベルの弱点を突き回る。
「あっ、な……!?」
「おまえの誘いは魅力的だったが、それは俺の趣味じゃない」
魔力に反応して自在に変形・稼働する淫具……それが、俺の意志通りに動いてベルを翻弄していた。
「やっ、なっ、あぁっ!?」
ベルは体をびくびく震わせて、俺への責めが完全に止まった。
すかさず俺は、鈍いながらも自由を取り戻した体でベルの胴を掴んで、魔手を引きはがすと共に再度押し倒す。
「ふぁっ、な、にこれっ……!?」
「まだ試作品だから名前は無いがな。使用者の思考に従って動く、対淫魔用の淫具だ」
「そんな、もので……あぁっ!」
びぐん! とベルは床の上で小さく跳ねた。全身は赤く上気し、皮膚からは明らかに興奮のための汗がにじみ出ている。
「たかが道具、と侮るなよ。こいつは、言うなればもう一人の俺みたいなもんだ」
淫具はうねり、抉るようにしてベルのアナルの中を蠢いた。
俺はベルのパンツを掴み、一気に引き下ろす。そこには、ぬめぬめと淫靡に濡れ光る女陰と、ひくついている肛門が俺を誘うように待ちかまえていた。
ペニスをズボンから抜き出す。既に先走りで濡れ光っているそれの先端を、ベルの割れ目に触れさせた。
くちゃりと湿った感触――一息に、突き入れる。
「ふぁあぁぁあぁっ!」
「ぐっ……!?」
挿入だけなら、それほどではなかった。が、奥まで到達した瞬間、俺の肉棒を捕らえて離そうとしないように急速に締まる。
「く、そっ……!」
俺は力任せに引き抜きにかかった。すると、肉棒のあらゆる箇所に肉襞が絡まりつきながら、性感を刺激する。
複雑で窮屈な動きに翻弄されないよう唇を噛んで耐え、亀頭ぎりぎりまで膣から抜き出した。
さすが名の知れた淫魔、特化した部位でなくとも、これほどの快楽を生み出すか……!
だが、怖じ気づくわけにはいかない。この流れをものにしなければ、今度こそこっちがやられる!
深呼吸をして、改めて思い切り挿入した。
今度は招き入れるように膣壁が蠢き、俺のペニスを締め上げ、舐めしゃぶる。
射精感がぐん、と近づくが、
「はぁあぁっ!」
部屋に響くのは、間違いなく演技ではないベルの嬌声。こいつもそろそろ絶頂が近い。
浅く、深く、角度を変え、動きを止め、円運動をつけ、腰を捻り、緩急を加える。
「あぁっ! くぅん!」
「はっ、くぅっ……」
俺もベルも絶頂への階段を上り続ける――そしてその到達点は近い。
くそっ、さっきの魔手による責めで俺の体力は落ちている。このペースじゃあ、先に俺の方が……。
「ミューゼルっ、ミューゼル!」
ベルは俺の腰に両足を絡めてきた。
ちっ、こっちの限界を悟られていたか!
さらに手を伸ばして俺に触れようとする。が、緩慢なその動きに捕まるより早く、俺はベルの両手首を掴み、まとめて拘束した。
「うっ……」
手の平に伝わる、ぬるつく感触。魔性の淫液はベルの腕全体を覆っているのだ。
だが、耐えられないほどではない……!
俺は逃れようとするベルの手の動きを巧みに封じながら、彼女の体に全体重をかけてのしかかった。
そして、空いている手でベルのアナルを探り、4本の指を無理やり突っ込む。
「あああぁぁぁっ!?」
あまりにもきつすぎて動かすことすら困難だが、それでも強引に指を波打たせて刺激した。さらに、余った親指で肛門の入り口を撫でる。
「ベル、イクぞっ! このままイケっ……!」
限界まで達している射精欲求をコントロール――丹田に気を集め、魔力を込める。
「あっ、あっ、あっ――」
息も絶え絶えなベル。『口の得意』な彼女の唇に自分のものを押しつけ、先ほどやられたのとは逆に彼女の口内を舌で犯し尽くす。
唇を唇で挟み、舌をピストンさせた。ペニスや指と動きをシンクロさせ、ベルの精神を嬲る。
そして――
「んっ――んんんんっっっ!!」
涙を溜めた瞳を閉じ、ベルは全身を仰け反らせて俺の腰を足で締めつけながら絶頂を迎えた。
今だ!
淫気が拡散し、消滅しようとするベルの肉体に最後の一突き――俺は魔力を溶かした精液を解放した。
びゅくん、びゅくんと肉棒が脈打ち、白濁した液体を子宮に叩きつける。俺は我知らず絶頂の余韻で腰を振りながらも、両腕でベルの体を抱きしめた。
「ん、う……」
口の中で小さく呻くベル。消えゆく彼女の肉体は重さを失いつつあったが、数瞬後、再び俺の腕には彼女の元の重みがかかってきた。
成功か……。
俺はベルから口を離して一息ついた。
「あ、れ……?」
気を失っていたベルが目を覚ました。
霞みがかった目でぼんやり天井を見上げていたが、やがて瞳に驚愕の光が宿る。
「わたし、消えていない……?」
「代償が無いわけじゃあないがな」
「…………?」
「一番弱い場所を、一番屈辱的な言い方で俺に『責めてくれ』っておねだりしてみな」
俺が言うと、ベルは眉をひそめた。が、
「っ……!?」
目を見開き、唇をわななかせて、何かに抵抗するように体を震わせながら、それでも四つん這いになって、床に座る俺の目の前で尻穴を自ら指で開いた。
「ベ……ベルのお尻を、いっぱい可愛がって欲しいにゃあ」
「ぶっ」
「くっ……!」
「わはははははははは! 猫言葉かよ!」
俺が大爆笑すると、ベルはまったくの感情を宿さない表情と、それとは正反対に射殺さんばかりの眼光で俺を睨み付ける。
「あー……ごほん、楽にしていいぞ」
ベルはそれでも数秒ほど俺に険呑な視線をぶつけていたが、やがて諦めたように目蓋をおろした。
立ち上がって歩き出し、俺の隣に腰を落ち着ける。
「ま、今ので少しはわかったか?」
「……つまり、わたしが呪縛されたということ?」
まだ恨みがましいベルの言葉に無言で頷き、肯定してやった。
そう、淫魔が人間を呪縛するように、俺がベルを呪縛したのだ。
「……ミューゼル、あなた何者?」
「ただの人間だ」
「まさか」
「事実だ。古来より人間は知識を伝承し、新たな理を見つけ出して業とする。そうして自然を克服し、淫魔が来るまでは地上を支配する生物だった」
まだ一般化していないし制限も多いから公にはなっていないが、ある研究者によって淫魔を呪縛する技術を編み出した。
相手の絶頂直後に魔力によって変換した精液を一定量浴びせなければならないという条件の厳しさ、それ以外の制約も大きすぎるので現在のところ採用を見送られたが、いずれ研究が進めば実用化されるだろう。
俺より頭一つ身長が低いベルは、俺の顔を不思議そうに見上げていた。
「人間は、淫魔を皆殺しにしたいと思っていたけど」
「殺すためにも、絶対服従の淫魔は有用だ。それに、そうとも限らんさ」
「?」
「淫魔と共存したいと思う人間だって、居なくはない」
「考えられない。淫魔は人間の天敵なのに」
「それが、居るんだよ。例えば俺とかな」
ごく稀にだが、淫魔と人間が愛し合うことだってある。友人関係だって、無くはない。
「俺は、そういう奴らの代表だ。だからこうして、おまえみたいなレベルの高い淫魔とだってリスクの高い戦法で挑む。人間と淫魔が、堂々と一緒に居られる世界にするためにな」
「……そんな夢物語、出来ると思う?」
「さあな。とりあえずやってみて、無理だったらその時に後悔するさ」
「…………」
ベルは俺から視線を外し、甘えるように俺の腕に頭をもたれかけてきた。俺は何となく気恥ずかしくなり、彼女から目を逸らす。
「そんなことになれば、わたしはミューゼルにとって、人間で言うところの妻になれるね」
「なっ……!?」
俺が驚いてベルを見ると、俺を小馬鹿にしたような冷たい悪意と、俺の反応を喜ぶ無邪気な微笑みが混在した笑顔を浮かべていた。
「……ったく、おまえは」
「怒らない。お詫びに、ミューゼルの野望を手伝ってあげるから」
「呪縛されてる分際で何をほざいてんだか。手伝ってあげるじゃなくて、手伝わされるんだ」
「違う。手伝ってあげる、の。わたしは淫魔なんだから、人間ごときには使われない」
「屁理屈を……」
俺は苦笑し、ベルの艶やかな黒髪に手を置いた。
ベルはますます俺に身をすり寄せ、そっと呟く。
「わたしは、口が上手いから」
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